投稿日 2014年3月28日(金)22時04分 投稿者 柴田孔明
2014年3月28日午後13時より、種子島宇宙センターで「だいち2号(ALOS−2)」の報道公開と概要説明会が行われました。なお、2014年5月24日にH-IIAロケット24号機で打ち上げられる予定です。
(※敬称を一部略させていただきます)
・登壇者
宇宙航空研究開発機構 ALOS−2 プロジェクトマネージャ
鈴木 新一
三菱電機株式会社 鎌倉製作所 宇宙システム第一部 ALOS−2プロジェクト部長
針生 健一
・「だいち2号」のミッション 鈴木新一
キーメッセージ:『大地にも、精密検査が必要だ』
前号機「だいち」は2006年から2011年まで運用された衛星で、東日本大震災の観測後しばらくして運用を終えた。前号機は光学とレーダーを搭載していたが、2号機はレーダーを搭載している。
搭載するLバンド合成開口レーダは「ふよう1号」の分解能18m、「だいち」の同10mから、「だいち2号」では同3mに高性能化している。
Lバンドレーダは波長が長く(24cmくらい)、雲や雨、葉、枝を通過して幹、物体、地表面で反射する。
(※波長が中間のCバンドは雲と雨を通過して葉や枝で反射し、より波長が短いXバンド以上は雲と雨で減衰し、葉で反射する)
→日本のように、森林で覆われた地面が動いた場合の観測には、Lバンドが適している。
・「だいち」から「だいち2号」への改良点
→広い観測幅はそのままに、10mの分解能を3mに向上。また、感度も向上している。
→新しくスポットライトモードが加わり、1m(進行方向)×3mが可能。
(※地上の狙ったポイントを観測し続けるモード)
→「だいち」ではリクエストを受けてから観測まで最長5日かかっていたが、「だいち2号」では最短で観測1時間前のリクエストに応えられる。
→日本付近なら概ね12時間以内、アジア域であれば概ね24時間以内に観測ができる。
→観測後1時間程度で画像を提供できる。
「だいち2号」のミッション、暮らしの安全の確保
→地震・火山・津波・水害等の状況把握、人命救助、復旧活動に貢献。
(内閣府、国土交通省、自治体など)
→地震などで地殻変動が生じた場合は、変動量を約2センチの精度で計測できる。
(国土地理院、気象庁など)
→冬にはオホーツク海の流氷の判別に用いられ、船舶の安全航行に役立つ。前号機より観測頻度が上がり、ほぼ毎日観測ができる。
(海上保安庁)
・地球規模の環境問題の解決
→全球の森林を観測して、1992年からの変化を継続して把握。
・社会・経済への貢献
→水稲作付面積の把握(農林水産省)
→資源探査(※海底油田の可能性のあるオイルのわき出しを検出するなど)
・ALOS−2衛星システムの概要
・運用軌道
太陽同期準回帰軌道(14日回帰)、高度682km
通過時刻 12:00(正午)@赤道上(降交軌道)
・設計寿命
5年(目標7年)
・打上:2014年5月25日、H-IIAロケット
・質量:約2トン
・パドル:2翼パネル
・ミッションデータ伝送:直接伝送及びデータ中継衛星経由
・合成開口レーダ周波数:Lバンド(1.2Ghz帯)
・観測性能
スポットライト:分解能1〜3m、観測幅25km
高分解能:分解能3/6/10m、観測幅50/50/70km
広域観測:分解能100/60m、観測幅350/490km
・技術実証ミッションとして、小型赤外カメラ(CIRC)、船舶自動識別(AIS)信号受信機(SPAISE2)を搭載。
・「だいち2号」を支える技術について 針生健一
高分解能、広域観測、高画質/高機能といったユーザーニーズに対して、自由かつ俊敏に電波の向きを変える機能、広域(50km)かつ高分解能(1m/3m)の両立、広域な多偏波観測、差分干渉機能が必要とされる。
・2次元ビーム走査フェーズドアレーアンテナ技術
→大型(3m×10m)展開フェーズドアレーアンテナを実現。
(高密度機器や高出力低消費電力機器による実現)
→10センチ角のアンテナを約1000個搭載。
→1〜2cm程度の薄さのモジュールなど。
小型軽量化、高密度実装技術、窒化ガリウム素子の採用
(※報道公開時はロケットに収納するために1/5に折り畳んであった)
・マルチビーム技術
(広域・高分解能を同時に達成)
・高性能データ圧縮技術
(膨大なデータを圧縮する技術の開発)
・コンパクトポラリメトリ技術
(広域かつ多偏波観測を同時達成)
・インタフェロメトリ・微小変化抽出技術
(災害前後の地殻変動の把握)
・開発におけるブレークスルー
→観測時間の増加:
地球を一周する100分の間に50分の観測時間を実現。過去の開発の知見や電力収支の詳細解析により、これまでにない長時間観測を実現。この種の衛星では画期的である。
→高分解能高画質の実現:
PALSAR−2(Lバンド合成開口レーダ)の高分解能高画質化のためには、1つ1つのアンテナから高出力の電波を出すと共に、それによる発熱を抑える必要がある。窒化ガリウム素子を用いた高出力低消費電力増幅器の開発により実現した。
→大型アンテナの実証実験:
通常、宇宙用アンテナの電波特性評価には電波暗室で試験するが、3m×10mのPALSAR−2を直接試験するには数十メートルの距離を稼げる部屋が必要。近傍界測定法という手法により、数メートルの距離で精度良く、宇宙空間での特性を模擬した評価が実現した。
→高速データ伝送の実現:
ALOS−2はこれまでにない沢山の観測データを取得する。これをより迅速に地上に送る手段として、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)方式を選択。地上局との噛み合わせ試験、調整により実現し、将来は現状の800Mbpsから倍の1.6Gbps伝送の可能性も見えてきた。
質疑応答
毎日新聞・基本的だが、PALSARー2を広げた場合のサイズを知りたい。また、開発費用はいくらか。
鈴木・太陽電池パドルの両翼は16.5m、レーダーは縦10m、衛星の高さは背のアンテナ込みで4.7m(運用時の姿勢で、ロケット格納時の姿勢ではない)。
開発費は打ち上げ費用込みで374億円。
鹿児島テレビ・分解能3mはどんなものか。性能は海外衛星との比較ではどうか。
鈴木・3m四方の物体を見分けられる。スポットライトで縦方向だけ1mにできる。この場合は縦と横で鮮明さが異なる。
レーダの周波数には大まかにLバンド、Cバンド、Xバンドの3つがある。Xバンドは1mの分解能まである。Cバンドは3mの分解能、Lバンドは日本だけで、だいち2の3mの分解能は世界最高レベルである。
共同通信・前号と同じく極軌道に打ち上げるのか。前号から設計寿命が延びた理由は何か。
鈴木・今号も極軌道だが、前号より高度を下げている(697km→628km)。通過時間もずれた。回帰(同じ所に戻ってくるまでの日数)も短くなった。レーダーが左右に、しかも遠くまで見られるようになった。14日で同じところに戻ってくる軌道なら、同じ場所を一日に二回観測できる。
寿命については、前号が3年だった。いろいろな部品の耐性を高め、信頼度を高める必要があり、冗長化を組み合わせて信頼度を上げた。地上での試験・検証もやって10年くらいなら持ちそうとなった。
NHK・ユーザーニーズとはどんなものがあったのか。
鈴木・災害観測のニーズが大きい。例としてあげたのは津波の冠水で、10m分解能だと境界が判らなかった。火口の中の様子なども、スポットライトなら噴火の予兆なども鮮明に捉えられる。Lバンドぎりぎりの性能を持っている。
国土地理院や気象庁などは自力で解析できる能力がある。自治体などは衛星データから判別するのは難しい。先に国土交通省で解析するなどのルートがある。
不明・日本は地震などの災害が多いということでLバンドを使ったが、この3mの分解能が世界最高となるのか。
鈴木・Lバントは、宇宙で使える周波数の幅が決まっている。国際的に85Mhzの幅(1215Mhz〜1300Mhz)となる。これをフルに使っているのでLバンドでは世界最高となる。
不明・観測時間の増加はどういったもので実現したのか。
針生・過去の開発の積み重ねと、電力収支の詳細な検討で最適にした。ただし前号機も長かったので、世界初ではない。他の衛星はCバンドなどは30分程度、他は数分など短い。
不明・窒化ガリウムの使用は初めてなのか。
針生・Lバンドレーダでは初めて。地上の民間利用はあるが、宇宙では初めて。
従来のガリウムヒ素の素子はRFパワーが出ず熱が出る。窒化ガリウムがそれが良い。ここ10年の新技術。宇宙環境で予定の寿命が達成できる信頼性を確保し搭載できた。
以上です。
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