投稿日 2014年8月1日(金)01時24分 投稿者 渡部韻
2014年7月30日午後、三菱重工業株式会社 名古屋航空宇宙システム製作所 飛島工場にてH-IIAロケット25号機のコア機体が報道関係者に公開されました。コア機体とは第1段及び第2段を合わせた名称で1/2段間部を含むものです。
(※敬称を一部略させていただきます)
・登壇者
三菱重工業株式会社 宇宙事業部 H-IIA/H-IIBロケット打上執行責任者
二村 幸基
三菱重工業株式会社 宇宙事業部 H-IIA/H-IIBロケットプロジェクトマネージャ
秋山 勝彦
■計画概要
◆目的
静止気象衛星ひまわり8号を所定の軌道に投入する
◆コンフィギュレーション
H-IIA202型【コア機体+固体ロケットブースタ(SRB-A)2本】
直径4mシングル衛星フェアリング(4S型)
◆打上げ時期/打上予備期間
(調整中)
◆特記事項
機能集約による搭載機器の削減(コストダウン活動)を実施
→SRB-A分離等を監視する為の機載カメラの映像を、従来はカメラ毎に処理していたものを1画面に合成してから処理することで画像圧縮伝送装置を削減した
◆搭載衛星
静止気象衛星ひまわり8号
◆飛行経路概要
静止気象衛星ひまわり8号を所定の静止遷移軌道に投入する
■スケジュール
・コア機体は飛島工場での作業を完了し、出荷準備作業中。8月1日に射場へ向け出荷予定。
・固体ロケットブースタは射場へ搬入済みであり、コア機体起立後にコア機体に結合予定。
・衛星フェアリングは搬入済み。
・打上げに向け、8月3日より種子島宇宙センターで、コア機体起立以降の射場作業開始予定。
■機体公開後の質疑応答(要約)
NHK:打ち上げ時期は
二村:10月頃を目処に現在調整中
朝日新聞:特記事項に搭載機器を削減してコストカットとあるが具体的には
二村:非常に微々たる金額ではある。数百万程度のコストダウン。重さは数キロ。二段目に積んだ重さは打ち上げ能力に一対一で効いてくるので、衛星側を数キロ重く出来る。
重量を軽減するのはロケット側にとって永遠の課題。(今回のように)塊で減らせるものはその中で技術をクローズ出来るので比較的やりやすい。
WSJ:ロケット一機あたりの製造にかかる期間と延べ人数、また同時に何機作れるのか。拡張の予定は?
二村:材料の手配も考えると2.5〜3年、部品の手配が終われば組み立てには1年もかからない。延べ人数に関してはデータを持ち合わせていないこの工場で作れるのは年間最大4〜5機。現在年間4機程度の打ち上げなので生産能力は足りている。(増える見込みは?)増やしたい、とは思っている。
日刊工業新聞:H-IIAの部品点数と削減した搭載機器の数
二村:締め付け用のネジ等も全て含めて公称100万点。25号機で削減したハコ(搭載機器)は3点。
名古屋テレビ:総部品点数100万点のうち、どのぐらいが国産の部品なのか
二村:正確な数字は持ち合わせていないが90数パーセントが国産。
ケーブルテレビ可児:慣性飛行の目的と、ひまわりを分離する高度は
二村:分離高度は263km(計画値)。二段再着火前の慣性飛行の目的は、加速する必要性が無い期間はエンジンを止めて燃料諸費を抑えている。また衛星をどの分離点でどれだけの速度方向にどういうスピードを与えなければいけないか決まっているので(インターフェース条件)、その数値に到達するようにエンジンを再着火させている。
NVS:14号機以来の静止衛星だが、その後の機体改良に伴い静止衛星の打ち上げ方に変更はあるのか。また今回は相乗り衛星が無いが検討はあったのか
二村:種子島から打ち上げた衛星を静止遷移軌道に入れる際、従来は軌道面に対して28.5度傾いていたが今回は22.4度。これは従来よりも衛星側が軽かった関係でロケット側に燃料を多く積めた為。このおかげで衛星側が(軌道面に入る際に)消費する燃料が少なくて済む。相乗りはJAXA産業連携室が募集している。
NVS:静止衛星軌道は商業衛星打ち上げに需要があると思うが、それに向けて衛星分離後に何かテストを行う予定は
二村:今回はない。
NHK:ひまわり8号で気象予報がどのように変わるか
二村:気象庁のホームページに記載されているのでそちらを参考にして欲しい。
朝日:全体のコストは?今年度打ち上げを予定している機数は?
二村:コストは答えられない。我々も諸外国のロケットのコストを知りたい。どこの国も本当のコストは一切わからない。今年度は後続号機の調整中なので4機「程度」と考えている。
NHK:この機体の一番の売りと、次の号機を作る上での課題は
二村:機体だけでなく打ち上げ場まで含めたシステム全体で考えた場合、アリアン等に比べて緯度が高い位置に射点があるのは不利。ロケット単体で考えると予め定めた打ち上げ日時に6機連続で成功している点が(カスタマーに)評価されているので伸ばしていきたい。
ただ諸外国に比べると打ち上げ機数は小さい。打ち上げ実績という点で秀でている訳ではないので、6号機のような失敗を二度とおこさないことで(カスタマーの)信頼を得ていくしかない。(H-IIAの)次の号機になるか、その次の号機になるかわからないが、搭載電子機器の削減は考えている。
NHK:モノがいいので予定打ち上げ日時を守ることが出来ていると思うが、それを支えているものは
二村:H-IIA開発が終わった当初はバルブ類のトラブルによる打ち上げ延期が割とあったが最近はロケット側搭載機器のトラブルで打ち上げを延ばすことは皆無になった。これは設計手法だけでない。設計し終わったものの信頼度を上げることは本来難しいが、何かトラブルにつながりそうな事前兆候を極力早い時期に徹底的にあぶり出している。これを2σ(にしぐま)管理と呼んでいる。
既に号機が24機(H-IIBもあわせると28機)重なったことで搭載機器の機能試験によるデータも大分集まった。これを統計処理することで、毎回の試験で取得したデータが過去のトレンドに対して若干でも変な変化を起こしていないか徹底的に評価し、少しでも外れた場合は徹底的に外れた原因を追求し(たとえば材料の組成が違っていた等)先に手を打っている。これを続けてきたことで最近は打ち上げの段階において搭載部品・機能品でトラブルを起こすことが無くなった。
読売新聞:今回202型が採用された理由と、今後も202型が主力なのか
二村:静止遷移軌道に入れる能力が(ざっといえば)202が4トン、204が6トン、H-IIBが8トンなので、輸送する衛星重量と投入軌道でロケットを選ぶことになる。衛星が大型化に移行する傾向と(地球観測衛星など)軽くなっていく傾向があるが、まだ明確な市場のトレンドとしては見えていない。なので当面は202型でさばいていけたら、と考えている。
ケーブルテレビ可児:メイドインジャパン、メイドバイMHIという日本人ぽさが現れている点は
二村:これがいいかどうかは別として三菱も含めて各メーカー共に作り方が丁寧。機体の仕上がりについても「我々のロケット」という意識があるからだと思うが、傷があれば治したり、塗装をきれいに仕上げようとしたり…といった細やかな思い入れみたいな部分が日本のロケットなのかもしれない。
以上です。
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