投稿日 2014年8月18日(月)01時41分 投稿者 柴田孔明
2014年8月17日19時10分00秒(JST)に内之浦宇宙空間観測所から観測ロケットS−520−29号機が打ち上げられました。打上げ後の記者発表は、同日22時35分から行われています。
・登壇者
石井 信明 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授 観測ロケット実験室長
阿部 琢美 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授
・石井
なかなか打上げ条件と観測条件が整わず延期が続いていたが、本日S−520−29号機を打上げることができた。ロケットの飛行と観測は正常である。
・発表文より 観測ロケットS-520-29号機 打上げ結果について(阿部)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、平成26年8月17日(日)、「スポラディックE層(※1)空間構造の立体観測」を目的とした観測ロケットS-520-29号機を内之浦宇宙空間観測所から打上げ、実験は成功しました。
ロケットの飛翔並びに搭載した実験装置の動作は正常に行われ、内之浦南東海上に落下しました。
・ロケット飛翔結果
ロケット機種・号機:S−520−29
打上げ時刻(日本標準時):19時10分00秒
発射上下角:80度
観測開始(ノーズコーン開頭)時刻:打上げ55秒後
小型姿勢制御装置による制御開始:打上げ61秒後
最高到達高度:243km(打上249秒後)
着水時刻:打上げ553秒後
今回の実験では、ロケットに搭載したプラズマ測定用プローブ(※2)が、ノーズコーン開頭後に測定を開始し、上昇時には高度97kmに、下降時には高度100kmにスポラディックE層が存在していたことを観測しました。この間、紫外線イメージャが紫外領域の発光を観測しました。また、ロケットに搭載した電波受信機も上昇・下降時を通じて地上からの電波を受信し、電離圏下部に電子密度の高い層が存在していたことを確認しました。
今後、取得された観測データに基づいて、スポラディックE層の空間構造に関する詳細な解析が実施されます。
なお、光学カメラによるロケット追跡が、発射後80秒まで行われました。
本日の天候は曇り、南東の風0.5m/秒、気温26度Cでした。
今回の観測ロケットS−520−29号機打上げ実施にご協力頂きました関係各方面に、深甚の謝意を表します。
これをもちまして、平成26年度第一次観測ロケット実験は終了となります。関係各方面のご協力に感謝いたします。
(※補足)
(※1)スポラディックE層:地上からの高度が70km〜130kmのE層内に出現する、プラズマ密度構造が局所的に高密度になっている領域。今回の実験は、この領域を立体的に観測することでその空間構造及びプラズマ密度変動の生成メカニズムを解明することを目的としている。
(※2)プローブ:プラズマを測定するための電極。
・質疑応答
・南日本新聞:実験は3種類共に取得できたのか。また、スポラディックE層の立体的な構造が、今回の観測でどれくらいわかってくるかをお聞きしたい。
・阿部:今回は3つの異なる手法でスポラディックE層を観測したが、おかげさまで光と電波とプローブの3つがそれぞれが無事に観測できた。発表文は「観測した」という表現にとどめているが、速報レベルで確認したのみであり、科学者は確実なことを言いたいため、現時点ではこの程度である。
3つの観測手段でスポラディックE層を立体的に観測することが目的。プローブはロケットの軌道に沿った変化が見える。電波を使うとロケットの軌道よりもさらに遠い空間が見える。紫外線を使うと水平方向の分布がわかる。ロケットの姿勢、カメラの向き、観測対象以外の光の分離など、いろいろなデータを組み合わせることでスポラディックE層の空間構造がわかるようになる。
・石井:カメラで紫外線を写すのだが、姿勢制御装置でロケットを鉛直に立ててドーナツ状の画像が取得できる。そしてどこにロケットがいて、どちらを向いていたかのデータで光の分布がわかり、画像が二次元に展開できる。条件を満たして撮れたので、幾何学的に密度分布が得られると期待している。
・水平方向でどの程度見えたか。(カメラ)
・阿部:直径150kmのリング状の画像。ただしロケットの直下半径30kmは見えない。ドーナツ状の画像になる。
・毎日新聞:3回延期になったが、スポラディックE層が弱かったのは、電子密度なのか、それとも大きさのどちらであったのか。
・阿部・電子密度の濃さである。これは情報通信研究機構(NICT)のデータを使った。8月8日は台風の影響で、同11日はスポラディックE層が十分に発達しておらず、同14日もスポラディックE層の電子密度の濃さが十分ではなかったため延期した。
・ぶら下がりにて。
1.スポラディックE層をロケットが通過した時刻は、上昇時が打上げ69秒、下降時が同約400秒。ただしこれは速報値である。
2.新型ランチャは正常に機能した。
3.新型ランチャは現在、仮のカバーで守られているが、いずれ丈夫なものに変更していきたい。これは以前、ミュー台地にあったL.Sランチャを覆っていたカバーのような構造になる予定とのこと。ただし、今年度と来年度では難しい。
(※台風11号が接近した際に、現状のカバーは風で飛ばされる危険があり、これが外されてランチャが剥き出しの状態になっていた)
4.ロケットを新型ランチャに運ぶ台車も新型である。
以上です。
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