投稿日 2014年11月5日(水)18時36分 投稿者 渡部韻
11月5日、東京大学で超小型深宇宙探査機「PROCYON(PRoximate Object Close flYby with Optical Navigation)」ミッション概要の説明会および機体公開が行われました。登壇者は東京大学の船瀬龍准教授(写真)、ISASの川勝康弘准教授です。
世界初の「50kg級の超小型探査機での深宇宙探査」実現を目指したPROCYONは、「はやぶさ2」の相乗り衛星として11月30日に種子島より打ち上げられ、1年間地球近傍で太陽を回った後地球スイングバイで地球近傍の小惑星へと向かい、小惑星のフライバイ観測を行う中で「GaN(窒化ガリウム)高効率X帯アンプ等の小型・軽量な深宇宙通信システム」「深宇宙で探査機の軌道を高精度で決定するVLBI航法」「小惑星の近接・高速フライバイ中の高分解能観測」といった深宇宙探査技術を実証予定です。
PROCYONは東京大学、北海道大学、東京理科大学、明星大学、立教大学、ISAS他が開発した搭載機器を東京大学がとりまとめる形で開発が進められ、特にISASはこれまでの深宇宙探査機開発の経験を元にコンポーネント開発だけでなく打ち上げ後の運用等も支援しています。開発期間は2013年9月の相乗り打ち上げ決定から約1年と非常に短期間でしたが、東京大学発のほどよしプロジェクトの成果および設備を最大限に利用することで機器開発期間を最大限に圧縮しました。
推進系にはほどよし衛星用に開発されたイオンスラスタ(軌道制御用、低加速度&高比推力)と機体各部に設けられたコールドガスジェット(軌道制御用、高加速度)、リアクションホイールアンローディング(姿勢制御用)を組み合わせた統合推進系を採用しています。コールドガスジェットはイオンスラスタ用のキセノンを(圧を下げる前に)分岐して使用しています。
PROCYONの目標天体は太陽からの距離(太陽電池の発生電力および温度に密接に関係)や安定した通信の確保を考慮して地球から1.5天文単位までの小惑星が対象です。現在10個ほど候補にあがっていますが、最終的に決定するのは、打ち上げから一ヶ月ほど経ってから運転を始めるイオンエンジンの性能評価後になります。またミッション期間は最短で1年半(1年後に地球スイングバイ+小惑星まで半年)、対象天体によっては2年半(もう1年太陽を回ってから地球スイングバイを実施+小惑星まで半年)が想定されています。
小惑星のフライバイ観測では、従来STARDUSTなど大型探査機によるフライバイ観測では天体への衝突の可能性やダストの影響等を考慮して高度200km程度(空間分解能15m程度)からの観測でしたが、PROCYONでは天体表面から数十キロの超近接・高速フライバイ撮影を目指しています。フライバイ撮影に用いる望遠鏡では光学系に小惑星を追尾する駆動ミラーを組み込むことで分解能の向上が図られています。
また理学ミッションでは、アポロ16号以来42年ぶりとなるジオコロナ(地球高高度に広がる水素大気の発光現象)の全球撮像を行うことで、ジオコロナの分布および地球スイングバイまでの1年間(場合によっては2年間)の変化を捉えることが期待されています。
なおPROCYONはこの後筑波で他の相乗り衛星2機と共にインテグレートされた後、種子島へと運ばれます。
|