投稿日 2015年9月11日(金)06時00分 投稿者 柴田孔明
2015年9月10日午後、JAXAの内之浦宇宙空間観測所にて観測ロケットS−520−30号機の報道公開と概要説明が行われました。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授 観測ロケット グループ長 石井信明
宇宙科学研究所 学際科学研究系 教授 稲富裕光
実験の目的:地球やその他太陽系天体の材料となった微粒子が作られる初期状態の再現
実験主任:稲富裕光 教授(JAXA)
研究代表者:木村勇気准教授(北海道大)
参加研究機関:北海道大学、東京大学、東海大学、JAXA
打ち上げ日時:2015年9月11日 20時00分〜20時30分(JST)
打ち上げ予備期間:2015年9月12日〜2015年10月31日
打ち上げ条件:ロケットの保安や飛行に影響を与えない天候時であること。日没後の打ち上げであること。
・実験について
「宇宙ダストの核生成過程の解明」
意義:星間物質進化のスタート地点である、晩期型巨星で生成するダストの核生成過程が解明される。ダスト形成を伴う様々な天体現象の観測のデータと組み合わせて恒星風の化学組成や密度、温度環境など、様々な物理・化学パラメータを厳密に決定できるようになり、当該分野に革新的な寄与を与えられる。また、宇宙ダストの核生成理論に対する実証実験ができ、宇宙における物質進化の理解において、最初のマイルストーンとしての役割を担う。
・2012年12月17日16時00分(JST)に実施されたS−520−28号機の実験
目的:単原子物質を用いて核生成の素過程を解明し、宇宙における鉄の存在形態を理解する。
成果:核生成時の鉄原子同士の付着確率は、続いて起こる成長時の値よりも4桁小さいことを明らかにした。これは従来の考えでは相容れなかった、遅い核生成そして続くダストの急速成長が両立できることを示す結果であり、全く新しいダスト生成モデルが提案できた。
核生成の素過程の一端を解明した成果により、ICCGにおけるSchieber賞受賞につながった。
・今回のS−520−30号機の実験。
目的:地球を含めた太陽系天体の材料の初期状態を知る。
実験装置:二波長干渉計による核生成環境の計測に加えて、最近開発した「浮遊ダスト赤外スペクトルその場測定装置」を小型化して搭載することで、天体周辺に浮いているダストのスペクトルを再現する。酸化物系ダストは、金属に比べて蒸気圧が非常に高いために蒸気化が難しい。今回、蒸気源を工夫することで蒸気化技術を確立する。
・次号機以降の将来計画
目的:星間物質の主要成分のひとつである炭素質物質の生成に必須のデータを取得し、その進化史を明らかにする。
波及効果:2020年代に、「はやぶさ2」が回収する炭素を含んだ小惑星試料や、次世代赤外線天文衛星SPICAなどによる観測データの解釈の根拠となる実測データを取得できる。
(※炭素質物質は更に高い温度が必要)
・さらに将来…
実験装置の動作検証とキーとなる制御パラメータを見定めた上で、ISSや無人実験衛星による実験に移行する。
・S−520−30号機の実験について
「酸化物系宇宙ダストの核生成過程の解明」
天体より放出されたガスから最初に核生成する物質は、その後のダスト(微粒子)から天体に至る進化に大きな影響を与えるため、その物質の同定と生成条件の理解は宇宙の物質循環を知る上で根幹となる。最も有力なのがアルミナだが、地上では確定出来ていない。
そこで本実験では、ロケットの弾道飛行による微小重力環境を利用して、アルミやシリカを蒸発させ、その後に酸化物粒子が生成、成長する過程を直接測定することで、その生成条件を理解し最初に核生成する物質の同定を目指す。
(※地上では重力や対流による影響で測定が困難)
・二波長干渉計を用いた実験:アルミナとシリカそれぞれの核生成の起こり易さを求め、アルミナとシリカの核生成効率を検証する。
・浮遊ダスト赤外スペクトルその場測定装置を用いた実験:アルミナが核生成して更に大きな粒子へと成長する過程において赤外スペクトル測定を行い、天体のスペクトル観測でのみ現れる13μmピークがアルミナに由来するか否かを明らかにする。
・天文学へのインパクト
アルミナに由来することが明らかになると、初めて宇宙ダストの生成・成長過程を同定し、物質進化のストーリーを記述できるようになり、次世代赤外線天文衛星SPICAによる宇宙史の中での物質進化の解明に生かすことができる。
・「浮遊ダスト赤外スペクトルその場測定装置」を用いた測定は世界初の試み。
(※この装置は赤外線を使い、できた粒子の成分や、分子と粒子の構造を明らかにできる)
・質疑応答、その他
石井・S−520−30号機は、全長8.5m、打ち上げ時重量2.3トン、到達予定高度300km。発射角(仰角)は80度。ただし当日の風で数度変わる。
稲富・夜打ち(20時)の理由は、光を使った測定のため、外からの光を嫌う。強い光を避けるため20時に設定している。(※上空ではノーズコーンを切り離している)
稲富・核ができるというのは、理科の実験で石灰の中に息を吹き入れると白く濁る。これは炭酸カルシウムの小さな粒ができて、それがある程度大きくなって光を散乱して白く見えるようになるため。どんどん息を吹き込むと核が出来やすくなって、ついには粒ができる。核は小さい時はなかなか大きくなろうとしないが、ある程度まとまってくると大きくなった方が居心地が良くなる。宇宙の場合、核ができる条件くらいに冷えてくると粒が出てくる。材料工学の難題で、結晶ができる前の段階で結晶になるかアモルファスになるかの境目がある。
数原子単位のオーダー。顕微鏡で見えないものを見ることへのチャレンジである。
NHK・打ち上がってどれくらいで実験が行われるか。
石井・無重量状態は6分、打ち上げの前後を含め9分の飛行を予定。
NHK・微小重量状態を作り出すことで酸化物を蒸発させることはどういった意味か。
稲富・宇宙で微粒子が出来る様子を見るために対流など余計な要素は外したい。宇宙空間のように浮いてじっとしていてほしい。
NHK・酸化物の粒子とは何か。
稲富・アルミの酸化物がアルミナ、シリコンの酸化物がシリカ。温度が上がって蒸発した後の、酸化物同士のくっつき具合で、何が支配しているのかを調べる。小さい時はなかなかくっつかない。しかしある程度大きくなると、もっと大きい方が得になるという所があり、それが核が出来る瞬間。
NHK・この実験により将来どういった事に繋がっていくのか。
稲富・太陽系ができる元の宇宙ダストができるメカニズムを明らかにする。天文学の観測データと比較検討し、それが正しいのか、それとも物理的パラメータが判らなかったのかを直接得ることが出来る。将来的に生命の元と考えられる有機物がどこで出来たのか、ダスト表面が触媒的に作用したのかを調べる。水についても考えている。ナノサイズの研究と天文学の融合・タイアップの実験。
・二波長干渉計について詳しくお聞きしたい。
稲富・ガスは光を通すが、核が出来て大きくなると煙ってわかる。この温度と濃度のデータが必要。しかしヒーターのところの温度と、離れたところの温度が違う。ミクロで違うところをリアルタイムで画像で見なければならない。そこでは二波長干渉計が良い。
干渉計は光を2つに分けてまた合わせると、同じ距離ならそのままだが、途中で片方に何か変化すると、光の波が交わったときに弱めたり強まったりする。
このパターン(縞)をとることで、その場所の温度と濃度がわかる。これを緑と赤の二つの光で調べると、時間と場所毎に計算で求められる。これまで液体では例があるが、ガスでは初めてである。ただし、解析には時間がかかるので、今回(打ち上げ後会見)は速報として絵のみの公開となる。
毎日新聞・加熱ヒーターに巻いてあるのは、アルミナとシリカが別々か。
稲富・ひとつのチャンバーにひとつの物質。密閉容器は3つ。干渉計がアルミナとシリカ、もう一つはアルミナである。測定装置はそれぞれについている。
毎日新聞・材料は星なのか。
稲富・そうである。スペクトル観測で測定される典型的な例のピーク。ただし地上ではアルミナのピークをとった例が無い。従前は臭化カリウムを使うが、元来のところとずれたピークが出る。
読売新聞・シリカはアルミナ起源の証明のための比較なのか、それともシリカも候補なのか。
稲富・それぞれがガスからできる際の大事な物質。どちらが先に出来たのかが判っていない。どちらが先かを知るための実験である。宇宙ダストにはシリカとアルミナは大抵入っている。
朝日新聞・加熱ヒータの温度はどれくらいになるか。
稲富・二千度超になります。それでも溶けない材料で作られています。
1分の実験を3回で計3分、残り3分でデータを送信する。
・その他、機体公開されたKS台地での説明より。
・頭胴部(実験機器等を格納)は窒素で乾燥させている。いつも行っているが、今回は機体移動時にもボンベを繋いだまま行った。また、テスト時は窒素の抜けを防止するため、養生テープが貼ってある。
・ロケットのスピンを安定させるため、ランチャへの留め金を対称位置にも装着してある。
・この留め金は上下二つあるが、ランチャのレールはそれぞれ別にしてあり、発射時に同時に外れるようになっている。これはレールから外れたときの姿勢の乱れを防ぐため。
・実験時にスピンを止めるため、サイドジェットとヨーヨーデスピナも装着されている。
・ノーズコーンは空力加熱されていて実験に影響するため、上空で分離する。
・新ランチャは前回の結果を受けて僅かに改修してあるが、目で見てわかる変化は殆ど無い。
(※ロケットをとめる位置がほんの少し変わった。クリアランス確保のため)
・今年はアブの発生が多いので苦労した。
(※質疑応答時にも何匹かのアブが飛び回っていた)
・打ち上げ当日は夕方から準備を行う予定なので、一般見学時にはロケットの作業は見られないかもしれない。
(※9月9日は夕方からの電波テストのため、16時頃からロケットをセットする作業が見られた。また、同10日も13時頃からロケットをセットしている様子が見られた。なお、打ち上げ当日の昼間も施設内見学が可能だが、KS台地とM台地など一部施設には入れない。また見学終了時刻も15時半に繰り上がっている)
・一般の見学は宮原のロケット見学場を使います。
以上です。
|