投稿日 2000年10月16日(月)13時11分 投稿者 江藤 巌
宇宙開発事業団(NASDA)は、運輸省と気象庁に対して運輸多目的衛星(MTSAT)の打ち上げ費用支払いを求めて、東京地裁に民事調停を申し立てたことが明らかになった。
MTSATは、昨年11月打ち上げのH-2-8に搭載されていたが、ロケット第1段の故障で軌道に乗ることなく失われていた。
ロケットの打ち上げ費用は約140億円で、運輸省はMTSAT打ち上げ費用として約100億円を負担することになっていた(残りの約40億円はNASDAの上級官庁の科学技術庁が負担)。
すでにそのうち65億円は分割して支払われているが、残りの35億円については、打ち上げが失敗したことを理由に、運輸省がNASDAへの支払いを拒否している。
このためNASDAが運輸省を相手取って民事調停を申し立てたものである。
このような場合については、打ち上げ契約では明記されていない。
私見ではあるが、これは国際慣習上からは運輸省が残額を支払うべきであろう。
打ち上げが失敗したのに費用を払うのが釈然としないのは感覚として分かるが、本来ロケットの打ち上げというものは失敗のリスクを予想しつつ契約するもので、リスクの分は打ち上げ保険でカバーするのが筋である。
ちなみに打ち上げ保険の料率は、カバーする金額の十数%。すなわちロケットの打ち上げは、8〜9回に付き1回は失敗するのが当然と言うのが国際相場なのである。
もともとは打ち上げが失敗したケースについて、事前に契約に明記しておかなかったのがいけない。
打ち上げがロケット側の技術的理由で遅延した場合、打ち上げたがロケットの問題で軌道に乗らなかった場合、軌道にはなんとか乗ったが使い物にならない場合、計画軌道に乗るために余分な推進剤を消費して軌道寿命が短くなってしまった場合など、想定されるあらゆる場合についてどちらが費用を負担することになるのか、事前に詳細かつ明確に取り決めを行っておかなければほんとうはいけないのである。
官庁と特殊法人と言う関係からか、それを怠ったために、政府所管の特殊法人が官庁を訴えるという珍妙な事態に立ち至ったのである。
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