投稿日 2018年1月8日(月)20時58分 投稿者 柴田孔明
気候変動観測衛星「しきさい」と超低高度衛星技術試験機「つばめ」を搭載したH-IIAロケット37号機が2017年12月23日10時26分22秒に種子島宇宙センターから打ち上げられ、衛星は所定の軌道に投入されました。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・打ち上げ経過記者会見・第1部 登壇者
文部科学省 事務次官 戸谷 一夫
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 理事長 奥村 直樹
三菱重工業株式会社 執行役員 宇宙・防衛セグメント長 阿部 直彦
・側面列席者
文部科学省 研究開発局 宇宙開発利用課長 谷 広太
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 参事官 倉 秀和
・打ち上げ結果報告(阿部)
三菱重工業株式会社および宇宙航空研究開発機構は、種子島宇宙センターから平成29年12月23日10時26分22秒に、気候変動観測衛星「しきさい」ならびに超低高度衛星技術試験機「つばめ」を搭載したH-IIAロケット37号機を打ち上げました。
ロケットは計画通り飛行し、打ち上げ後16分13秒に「しきさい」を、約1時間47分59秒に「つばめ」を正常に分離した事を確認しました。
ロケット打ち上げ時の天候は晴れ、北北西の風2.8m/s、気温14.8度Cでした。
「しきさい」ならびに「つばめ」が軌道上での初期機能確認を無事終了し、所期の目的を成功裏に完遂されることを心より願っております。
本日の打ち上げ成功でH-IIAは通算37機中36機の成功、成功率は97.3%になりました。H-IIBと合わせると通算43機中42機の成功、成功率97.7%です。またH-IIA/H-II/B、37機連続の打ち上げ成功となりました。
今年は1月24日の32号機の打ち上げ以降、年間最多の6機の打ち上げとなりましたが、全ての衛星を無事所定の軌道に投入することが出来、大変安堵しています。
このあとも引き続き短いインターバルで打ち上げが続きます。引き続き皆様に安定的な打ち上げを提供できるよう、さらに心を引き締め、細心の注意と最大限の努力を傾注して参ります。
今回の打ち上げに際し、多くの方々にご協力ご支援頂きました。あらためて関係者の皆様に心よりお礼を申し上げるとともに、引き続きご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。
・打ち上げ結果報告(奥村)
ただいま三菱重工様からH-IIA37号機による気候変動観測衛星「しきさい」及び超低高度衛星技術試験機「つばめ」の打ち上げ成功に係るご報告がございました。私どもJAXAは今回の打ち上げにあたっても私どものつとめであります、打ち上げ安全管理業務を達成したことをご報告させていただきます。
今回の打ち上げは私どもJAXAの衛星でございまして、まずはじめに相乗り機会拡大での対応という事で、我々としては初めて搭載した2つの衛星をそれぞれ異なる高度の軌道へ投入するという技術実証を行ったわけでございます。これまで開発してまいりました基幹ロケット高度化プロジェクトの技術を今回もあらためて実現できたという事であり、更に幅広い打ち上げニーズに対応できる技術が確立できたのではないかと考えてございます。
また今回の人工衛星「しきさい」はメーカーとして日本電気さんに設計製造を担当していただいたものでございますが、大気中の塵・エアロゾルあるいは植生などの様々なデータを取得して、地球温暖化予測等の精度向上に貢献するという目的のものでございます。もうひとつの衛星「つばめ」、これにつきましては三菱電機さんにプライムメーカーとして設計製造をご協力いただきました。この超低高度の衛星の運用も今回私どもも初めての経験になるということでございます。
以上のように私どもの2つの衛星を、それぞれ初期運用を確実に実施し、所期の目的を達成できるように職員共々頑張ってまいりたいと思っております。
最後になりますが今回の基幹ロケットの打ち上げは、私がJAXAの理事長に就任してちょうど20機目にあたります。基幹ロケット20機目ということで、私自身、思い出に残る打ち上げになったかなと思っています。この間、毎回地元の皆様のご理解ご協力、及び関係機関の皆様方のご協力を得られたことに、あらためてこの場をお借りして御礼申し上げたいと思っております。さらに現在H3の開発を行っております。こういった実績をふまえてH3の確実な立ち上げに向けて業務に邁進してまいりたいと考えております。
・登壇者挨拶(戸谷)
松山大臣の談話と三菱重工の阿部さんからもありました通り、今回の打ち上げ成功によりましてH-IIA/Bロケット、さらに私どもの立場で申し上げますと基幹ロケットとしてのイプシロンロケット、これの成功も含めて考えますと45機中44機、イプシロンロケットが2回成功していることになりますので、それを合わせますと成功率97.8%ということで、我が国が有するロケット技術の基盤、これが宇宙開発・宇宙活動の基盤になる訳ですけども、それについて着実に発展していること、あるいは信頼性が向上していること、このことについて大変喜ばしく思っております。また打ち上げに際しましてご尽力ご支援いただいた関係者の方々にこの場を借りて厚くお礼申し上げたいと思います。
今回のミッションにつきましては文部科学省としても進めております地球環境変動研究、これをさらに前進するための非常に重要な手段としての成果が期待されているということでございますし、それから「つばめ」につきましても従来必ずしも活用されていなかった超低高度軌道の技術実証、非常に宇宙活動の幅を広げるチャレンジングなものをやっている。今回はさらにダブルランチで異なる軌道のところにちゃんとやっていることでの高度な打ち上げ技術の実証ということで、大変私どもといたしましても着目をしておりますし、文部科学省としてはそういった科学技術の基盤の強化、それを通じて宇宙に繋がっている、宇宙活動の基盤を支えていると、そういった役割をあらためて今回認識をいたしましたし、今後とも進めてまいりたいと思っております。
※文部科学大臣談話(配付資料より)
『本日、H-IIAロケット37号機の打上げに成功し、搭載していた気候変動観測衛星「しきさい」及び超低高度衛星技術試験機「つばめ」が、それぞれ高度の異なる所定の軌道に投入されたことを確認いたしました。
今回の打上げにより、H-IIAロケットやイプシロンロケット等の基幹ロケットとして39機連続で成功したことは、我が国のロケット技術や信頼性が着実に向上している証であり、私としても大変喜ばしく思っております。
「しきさい」は、19種類の様々な波長を用いて、地球上の雲、チリ等のエアロゾル、植生等の観測をすることで、地球環境変化の監視や温暖化予測の改善へ貢献します。また、「つばめ」は、利用実績の少ない高度300 km以下の超低高度軌道を継続的に飛行する技術を実証することで、新たな衛星利用を開拓します。
文部科学省としては、「しきさい」「つばめ」の両衛星が所期の目的を達成できるよう、関係機関とともに引き続き努力してまいります。また、基幹ロケットの安全性・信頼性の向上に引き続き取り組むとともに、次世代の基幹ロケットであるH3ロケットの開発にも着実に取り組んでまいります。平成29年12月23日 文部科学大臣 林 芳正』
※内閣府特命担当大臣(宇宙政策)談話(※配付資料より)
『本日、我が国のH-IIAロケット37号機により、気候変動観測衛星「しきさい」及び超低高度衛星技術試験機「つばめ」の打ち上げが成功しました。
「しきさい」の衛星データの国際共有等、国際社会との連携を通じた地球規模課題の解決や国民生活の向上への貢献など、新たな利用サービスの創造・発展が図られると期待しております。
また、超低高度での「つばめ」の軌道維持・軌道変換技術実証が、衛星製造コストの低減化につながり、我が国の宇宙産業の国際競争力に結びつくと考えております。
宇宙政策を担当する内閣府特命担当大臣として、宇宙開発利用の拡大に向けて、引き続き宇宙基本計画を推進してまいります。2017年(平成29年)12月23日 内閣府特命担当大臣(宇宙政策) 松山 政司』
・質疑応答
NHK・日本の基幹ロケットとして初めて異なる軌道に投入し成功したところで、所感をお伺いしたいのと、今後の展望と、どのように打ち上げ需要に繋げていくのか。
阿部・今回、異なる軌道に衛星を投入したことで、機体にもいろいろ変更がございました。それについて打ち上げ前にいろいろと心配するところもあったのですが、無事に上げられて非常に安堵しています。今後、これまでH-IIAの打ち上げ能力に余剰があっても対応できなかった顧客を取り込んでいけますので、ビジネスの幅としては広がっていくと理解しています。
読売新聞・今年6機目の成功と、かなり短期間での着実な打ち上げが軌道に乗ってきたと思うが、これの意義と今後の展望をお聞かせ願いたい。
阿部・今年の最初に6機あるということで、私どもが乗り切れるかという思いはあったのですが、関係者の方々、さらに地元の方々のご協力ご支援、さらに私も含めた関連する会社のスタッフの皆様方のご尽力によって、今日無事に6機を打ち上げる事が出来、非常に感慨深いものを持っています。今後の展開、ビジネスへの貢献では、機数として6機打ち上げられるということと、それから打ち上げの間隔という意味で、顧客のニーズに対してフレキシブルに対応できるという面で、顧客を広げていくことができると認識しております。
奥村・打ち上げ間隔の短縮は、実は地道な努力の積み重ねが結果に結びついているという理解をしています。大変意義が大きいことですので、これで満足すること無く、さらに短縮できるように今後とも創意工夫を重ねてまいりたいと考えております。
日経新聞・今回の相乗りは、世界の営業の現場ではどの程度必須の技術なのか。
阿部・ロケットはアナログ的に打ち上げ能力を変えることが出来ない。ある一定の、固定の打ち上げ能力になります。3トンの打ち上げ能力があって2トンの衛星を上げるとなると残り1トンで、その1トンをどううまく使うかによって提案できる区画が変わってきます。デュアルで打ち上げることによって価格は質量比で下がっていく。そのいちばんいい例がアリアンスペースのアリアンは、基本的にデュアルで打ち上げて価格を下げている。従って我々もある程度それについていくと考えています。
日経新聞・インターバルの件で、今年は最短記録を更新したが、将来的にはどの程度まで行って欲しいのか。
奥村・どこを当面の目標にするかについては重工さんの営業活動とも絡んでくる話ですけども、かなり極限的な努力をしてここまで来ている。もう一歩踏み出すときに、仮に大幅な短縮が必要になればそれなりの費用もかかりましょうし、具体的な検討に入っておりません。もう少しニーズの見えてきた段階で将来の打ち上げ期間短縮を具体的に検討したいと思っています。
産経新聞・「しきさい」のような衛星には設計寿命があり、継続的に観測するには次の代、次の代とやっていくことが大事だと関係の方からよく伺うのですが、しきさいなど必ずしも次の代が約束されていないと伺っています。地球環境を見つめることの継続の大切さと衛星の将来計画の兼ね合いのところで思いをお聞かせ願いたい。
戸谷・日本の宇宙開発については宇宙政策委員会の中で基本計画に沿って推進していることになっていて、その中でも地球観測の位置づけの中でどこまでやるかだと思うのですね。ただ地球観測のところについては衛星の種類がいくつかあって、例えばALOSといったものはシリーズとして取り組んでいるということもありますし、それから温室効果ガスの関係はむしろ環境省さんの方が一生懸命やっていただいているということもある中で、文部科学省として今後GCOMといったものをどうするかというのが大きな課題としてあるのですが、ただこれも単に地球観測ということだけでなく、漁業とかいろんなところに応用の可能性がある。現実にも漁業者への情報提供といったところで大変期待されている。そういったいろんな役割を開拓していく中で、出来るだけ多くの方に支えられて、こういう衛星をできるだけシリーズ化してやっていく。研究のみならず産業あるいは漁業に幅広く利用できるような形でできるだけ展開してゆくと、我々としては考えたいと思っています。
奥村・今、お話のあった通りだと思います。地球観測衛星も、たとえばGOSAT、GOSAT2も環境問題という中でかなり大きな役割を果たしつつあると皆さん方が認識しつつあると思います。そういう意味で今回の「しきさい」も政策的なインパクトがあるような成果を出すことによって、さらに政策に応えられるスペックを考えてゆくという風になれば、私は当然その方面の方のご理解ご支援が得られると期待しております。我々はそれを目指さないといけないと考えております。
共同通信・今回のような異なる軌道にのせる相乗り衛星の、具体的な計画は今後あるか。
奥村・今回は異なる軌道というよりも、異なる高度への軌道投入をしたのですけども、これは余剰能力がどれくらい出るかということによって検討の対象が生まれてくるという性格もございますので、今日の時点で次の衛星は相乗りでという事例はありません。ただし今回の実績をふまえて、やはり常にそういうことを検討対象として取り上げていくべきだなと、あらためて強く感じたところでございます。
共同通信・アリアンがデュアルで価格を下げているという話があって三菱重工さんもそれにある程度ついていく話があったが、価格はどれくらい下がるのか、どれくらいを目指すのか。
阿部・デュアルの考え方ですが、ロケットを作る費用、それから打ち上げ費用というのは、デュアルかどうかではそれほど大きな差はありません。従って例えば2トンと1トンの衛星でシェアすることになりますと、2トンの衛星はもともとのロケット1本の2/3の価格になり、1トンの衛星は1/3になる。それが出来なければ2トンの衛星は1本のロケットで上げざるを得ないが、それが2/3や1/3になることでユーザーサイドから見ると非常に大きなメリットがある打ち上げになります。
南日本新聞・顧客のニーズに幅広く対応ということだが、実際に考えているニーズは、今回の「つばめ」のような小型のものなのか、それとも超小型なのか、具体的な狙いはあるか。
阿部・今、具体的な案件があるという訳ではございませんが、一般的な話をさせていただくと、必ずしも低軌道の衛星2つではなく、静止軌道と低軌道というものもあるでしょうし、まさに今回のように低軌道で大きく高度が違う2つの衛星を組み合わせる形態もございます。もう片方が静止軌道という形態もありますし、両方が民間の商業衛星ということもある。少なくとも今まで出来なかったことがひとつ出来るようになることによって、カバーできる顧客が多くなることはビジネスチャンスが広がると理解しています。
・打ち上げ経過記者会見・第2部
・登壇者
宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 GCOMプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 杢野 正明
日本電気株式会社 宇宙システム事業部 GCOM-Cプロジェクトマネージャ 平尾 昭博
宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 SLATSプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 佐々木 雅範
三菱電機株式会社 衛星情報システム部 小型衛星システム課 SLATSプロジェクト部長 功刀 信
宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門鹿児島宇宙センター長 打上安全管理責任者 藤田 猛
宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門宇宙輸送系基盤開発ユニット 技術領域主幹 布施 竜吾
三菱重工株式会社 執行役員フェロー 防衛・宇宙セグメント 技師長 H-IIA/H-IIBロケット打上執行責任者 二村 幸基
・質疑応答
NHK・打ち上げ成功をしたところの所感。本格運用まではまだいろいろあると思うが、どういう風に取り組んでいくのか。また、地球観測や超低高度での観測でどのようにやっていきたいか
杢野・私はGCOMプロジェクトに10年前に参加しまして、5年前にGCOM−W「しずく」の打ち上げを経験しております。そして今回「しきさい」を打ち上げたという事で、無事に分離も終え、衛星を軌道投入できたということで非常に感無量と思っています。これからクリティカルな運用、それから初期段階の運用というのがありますので、それをしっかりこなして観測データを出して、それで気候変動の監視ですとか、あるいは温暖化の予測といった事に貢献していきたいと考えています。
佐々木・まずは高度化機能を用いまして打ち上げをしていただいたロケットの関係の方々に御礼申し上げたいと思っています。SLATS「つばめ」につきましては、これまでに無い新たな低い軌道を飛行するという事でございますので、これまでの衛星で経験しないようないろんな事象、空気抵抗の変化とか原子状酸素の影響ですとか、これまでの想定範囲内なのかどうかをこれから経験することになりますので、そういった事実をしっかりとらえて、これからの運用を行っていきたいと思っています。通常の衛星ですと、いちど軌道に投入したあと同じ軌道をずっと飛行する訳ですが、どんどん軌道が変わっていきますので、そういったところを気を抜かずしっかりやっていきたいと思っております。
NHK・高度化について、静止軌道と低軌道などいろんな衛星ニーズにフレキシブルに対応できるという話があったが、今回のような低軌道で高度を下げる以外に、技術的にどんな運用が可能になるか。
布施・今回の相乗り機会開発の中で我々として得た技術というのは、2段エンジンを作動させてからある程度慣性を飛行させた後に次の着火を行う、また更にもう一度3回目の着火を行う、こういう技術を獲得しています。その慣性飛行の時間をどれだけとるかであるとか、あるいは2回目・3回目の作動の時にどの程度エンジンを作動させるかといった事によって、非常に多種多岐にわたる軌道が作れます。もちろんエンジンの性能上の限界ですとか、あるいは燃料の能力的な制約もあるので限界はあるわけですけど、それをうまく組み合わせることによって、今まで成し得なかったような軌道を作ることが出来るようになったと考えています。ですので、余剰能力があるというものをどう使うかであるとか、2つの衛星をどういうふうに組み合わせてうまく軌道に投入するかといったところが色々な可能性が出てくると捉えています。
NHK・今回は減速だったが、逆にもっと遠くという事も可能か。
布施・はい、おっしゃる通りです。今回は「しきさい」「つばめ」という衛星を異なるふたつの軌道に入れるときに、たまたま最初に高い高度に入れた上で、あとで低いところに行くという運用をした訳ですが、当然ながら逆もあり得る訳でして、最初に低い軌道に入れたところから高い軌道に持っていくという事も技術的に可能です。
南日本新聞・余剰能力を生かしての相乗りだが、最大に使えば2トンと2トンという相乗りは可能か。また、既に相乗りを実用化している他の国々との差別化はどう図られるか。
布施・今回の相乗り機会拡大開発の中でのいろいろな検討の中で、おおまかに2トンと2トンの2つを組み合わせたときに、どういう軌道だったら打ち上げられるかという検討もしています。地球周回あたりまでであれば、それくらいのポテンシャルは持っているとご理解いただけばと思います。
二村・今回獲得したのは打ち上げ方(バリエーション)のひとつと受け止めているが、2トンと2トンの組み合わせとは別に、大きな主衛星の他に低軌道に入れる小さな主衛星といったものを組み合わせて打ち上げるなど提案の幅が広がってまいりますので、我々としてはこれまでH-IIAに乗りづらかったお客様達に、そういった組み合わせでのご提案ができる。そういった事を我々の売りのひとつに加えて、ビジネスを広げていきたいと思っています。
共同通信・異なる高度に入れるため機体の方に変更があって打ち上げ前に心配もあったが無事に上げられて安堵しているとの話があったが、具体的にどんな変更が必要になって、どのあたりが技術的に難しかったのか。また、事前の検討で特に運用で難しいと課題になっていたのはどのあたりか。
二村・我々のような機体の設計製造を行い、さらに運用をするという仕事をしている会社側からしますと、通常打ち上げているH-IIAとは高度化という部分で一部機能が異なるために、バルブを追加するとか当然製造の中で反映をしていかなければなりませんので、要するに同じ機体を作り続けるのとは少し違うという面がございますので、それを工程の中にいかに盛り込んでいくか、あるいは製造の現場に混乱を与えないようにするかといったことは、比較的気を遣って実施してまいりました。ただ今回打ち上げている機体の多くは既に29号機で実績を積んだものがございましたので、現場も含めて大きな混乱もなくこれらを反映できたと思っています。
布施・まず今回の相乗り機会拡大の中で技術的にどういったところが新しいかがポイントですが、まずベースとなる技術といたしましては29号機の打ち上げの時に、高度化のプロジェクトで獲得した技術というのがございます。それを最大限活用した上で今回の開発を行っているが、ポイントとしては2つありまして、ひとつは今回のように地球に比較的近い軌道の中で完全に違う軌道に持っていくためには2回の減速もしくは加速、降りてくるときは減速で、遠くに行く場合は加速になるのですが、この操作を2回やる必要があります。2回目の燃焼の時には推力を60%に絞った状態での燃焼を行っています。3回目にはアイドルモードといいまして微小な推力を行っています。この2つを使う事によって地球近傍での比較的近い距離であるものの違う軌道にもっていくための加速ないしは減速を実現することがひとつのテーマになります。もうひとつは、そういった燃焼の間々でしばらく慣性飛行、何もしない状態で、エンジンを作動させないでしばらく飛行する状態があるのですけども、その中でも例えば熱的な問題が無いかどうかであるとか、あるいは液体の推進薬を適切にマネージメントしながら次の燃焼にもっていくとか、そういった事を今回は2回入れております。前回29号機のときには1度だったものを、トータル時間では短いですが2度行うところが新しいポイントになります。開発の中でいくつか課題はあったが、いちばん難しかった点は今回相乗りをさせていただいた「つばめ」の方の軌道を、従来の軌道投入精度並にもっていくためのところの工夫が課題としてありました。最終的にはそこをソフトウェア上の改修を行うことによって短時間の燃焼でも、ほぼ従来並の軌道精度を達成するような技術を導入しております。
時事通信・海外では違う軌道面という例はあるか。
布施・液体水素・液体酸素ではない比較的扱いが容易な燃料を使ったものであればいくつかの例がございます。正確に把握していないが液体水素・液体酸素でも事例がございます。
ニッポン放送・年間最多の6機打ち上げということで、年の暮れですのでこの1年間を振り返っての感想を伺いたい。ヘリウムタンクの不具合もあったが、打ち上げ機会の増加と準備期間の短縮で苦心したこと、あるいは苦労したことを端的にあらわすエピソードはあるか。
二村・今年という断面で見ますと今回の打ち上げで6機になりまして、H-IIA/H-IIBのシリーズですと最多になります。我々としてもほぼ2ヶ月ピッチで打ち上げて来た訳ですけども、これは過去に経験のない事でございまして、当然生産設備のキャパですとかそういった面からいきますと、当初はかなり厳しい工程を組んでなんとか作り上げていかないと6機の打ち上げはなかなか難しいと正直思っておりましたけれども、我々の現場の工夫ですとかもあり、また射場側も打ち上げ間隔を短縮するための様々な追加もJAXAさんにやっていただき、こういった両輪を回すことで6機の打ち上げを達成したと思っておりまして、ある意味日本でも年間6機の打ち上げができるということを示すことが出来た事については非常に安堵しておりますし、また喜んでいるところであります。打ち上げ間隔が短くなったことでの苦労は、当然生産機数がそれにあわせて増える訳でして、それぞれの工程がどうしても噛み合わなくなってくる部分がある。ヘリウムの漏れは正にそういった工程の中で、通常の工程とは違う工程を組まざるを得ないような部品の遅れが生じたというような事があって、初めてのこともあり少し苦労した点はございましたけれども、逆に35号機のああいった事があったことによって、製造の中でどうしても一部組み替えなければいけない時に、どういったリスクマネジメントをすればいいのかということを、実例で我々が実感できたし、さらに仕組みの方にフィードバックできたという事で、その後続号機を予定通り打ち上げることが出来たと思っております。
日刊工業新聞社・高度化によって、ロケットの打ち上げ費用がどれくらい上がるのか。
二村・価格差は契約上の問題もあり数値的に差し控えさせていただく。
日刊工業新聞・異なる軌道に二個の衛星を投入したが、この数を増やせるか。
布施・先の会見で異なる高度の軌道という言い方をさせていただいているが、ポイントはひとつの衛星の軌道に、全く重ならない別の軌道の衛星、今回の例では大きな円が「しきさい」の軌道で、内側の小さな軌道を「つばめ」が回る、こういう2つの軌道に持っていこうとすると、必然的に1回目のエンジンの燃焼(第2段エンジン)が必要になって、次の二つ目の軌道にもっていくためには、今回のシーケンスでいいますと2回目の燃焼と3回目の燃焼のセットで初めて実現しているところがございます。更に異なる高度となりますとこれが5回とかになってくるのですが、さすがに今のままでは実現するのは難しいだろうと考えています。将来的な意味でいきますと、より着火回数を増やしていくような努力であるとか、ロングコーストに耐えられるような設計ができればいいが、今のH-IIAロケットでやっていけるかというよりは、もっと将来的なロングスパンでのテーマになってくるのではないかと考えています。
NVS・成功おめでとうございます。GCOM−Cはいつ頃からファーストライトをして、初期観測として何をやるのか。
杢野・今はクリティカルフェーズの最中ですけども、初画像については一ヶ月以内にしたいと考えています。どこを撮るかは衛星の状態にもよるので正確には決めていません。
NVS・最初のバンドは決まっているか。
杢野・観測するといろいろな波長でとれますので、その中から選んでということになる。現時点では決めていない。
産経新聞・異なる高度に打ち上げる前例はあるのか。H-IIAロケット3号機との違い。
布施・別の燃料を含めると世界では実例がございます。H-IIAを含め日本では初。3号機は最初の衛星を地球に近い低軌道に向けて分離して、第2衛星をGTOの方に飛ばして分離をする運用をしています。分離した衛星の軌道が重ならない高度というのが今回の軌道になっています。3号機は低軌道の衛星と、GTOに向けた衛星は近地点は同じところを通る軌道になっていますので、部分的に同じ高度になっています。完全に異なる高度が今回の例になっています。また、降りてくるパターンは初。
日経新聞・神戸製鋼の問題では36号機ではギリギリの対応をされたと思うが、今回はどういう対応をされたか。結果としてどんな事が出て来て、今後発注先を変えることはあるのか。
二村・先号機は比較的打ち上げに近い時期で、我々としては実際の素材をどういった所で使っていて、その特性のどこの部分をどの範囲で使っているのかというのは我々が把握しているところでございまして、報告された中身に関して言いますと我々の作っているH-IIAロケットH-IIBロケットとしては、影響の無い範囲であったとの認定と確認をして打ち上げております。今おっしゃった会社の件につきましては今号機も同じ評価で推移しております。今後の調達先については、まだこれからの事項でございまして、特に何も決まっているものはございません。調達先は複数いろいろ考えることはできると思っていますが、その時その時でベストな方法を考えることはあり得るが、だからといってたちまち変更するかについては結論が出ている訳ではありません。
日経新聞・その後、いろんな会社の不正が出ているがロケットに影響はあるか。
二村・当該物品がございましたが、同じようにしっかり評価し、我々が使用している領域において問題は無いと評価して、もちろんお客様にも説明して納得いただいた上で打ち上げを行っております。
産経新聞・「つばめ」のような超低高度を利用する試みや実例は海外などであるのか。
佐々木・過去2009年に打ち上げられたヨーロッパ宇宙機関の超低高度衛星がございます。GOCEという名前の衛星でございます。これは重力場を観測する衛星で、イオンエンジンを用いて200km台の超低高度を飛行したものでございます。確か4〜5年運用したものでございます。それ以外に電気推進を用いて超低高度を飛行した衛星は無いとの認識でございます。
SLATSについては地球観測という事で、地表面の観測、それから原子状酸素の観測を行う衛星という事で違っているものでございます。GOCEという衛星ですが開発費として400億〜500億円を用いていますが、SLATSは30億円程度の開発費ということで、大幅なコスト低減を図って超低高度技術を獲得するところが違いでございます。違いとしてはGOCEは重力場を観測するということで、高精度の加速度計を有している。加速度の変化で重力場を計るミッションでございますので、そこが大きな違いとなります。
産経新聞・低コストにできたのは、どういったところにミソがあるのか。
佐々木・小型衛星にしたことと、機能をミッションに特化して必要最低限にしたのが大きなところでございます。
以上です。
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