投稿日 2018年1月28日(日)21時36分 投稿者 柴田孔明
高性能小型レーダ衛星(ASNARO-2)を搭載したイプシロンロケット3号機は、2018年1月18日6時06分11秒(JST)に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられ、予定通り衛星を分離しました。このあと内之浦宇宙空間観測所の記者会見室で、打ち上げ経過記者会見が開催されています。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・打ち上げ経過記者会見第1部・登壇者
文部科学省 大臣政務官 新妻 秀規
経済産業省 大臣政務官 平木 大作
日本電気株式会社 執行役員 近藤 邦夫
宇宙航空研究開発機構 理事長 奥村 直樹
・打ち上げ結果報告(奥村)
本日、6時6分11秒、計画通りに高性能小型レーダ衛星ASNARO-2を搭載いたしましたイプシロン3号機を打ち上げ、所定の軌道への投入に成功いたしましたことを初めにご報告させていただきます。今回搭載いたしましたASNARO-2はイプシロンロケットとしましては初めてのお客様からの受託衛星でありまして、日本電気株式会社殿が開発し、軌道投入後に同社が運用を実施される予定の衛星でございます。私どもといたしましては無事に顧客ニーズに応えることが出来、正直なところ大変安堵しております。これまでのイプシロンロケットの開発におきましては、この小型衛星の打ち上げ需要の拡大を視野に、打ち上げ能力の向上及び搭載可能な衛星サイズの拡大等を目指して運用体制、設備、機体に関する打ち上げ全体の改革に取り組んでまいったところでございます。今回の3号機では、低衝撃型衛星分離機構及びPostBoostStage、私どもがPBSと呼ぶ小型の液体推進系の技術実証も併せて今回の衛星で行い、このふたつ共、私どもの目標を達成いたしました。ご案内のように地球観測衛星にみられるように太陽同期軌道に投入する衛星需要は大変多ございまして、ここに投入するには軌道精度を上げる必要がございます。そういった意味で今回PBSを用いることによって所定の軌道に正確に打ち上げる事ができたということで、私どものひとつの大きな目的を達成することができました。また、衛星に対するロケット側からの負荷を減らすために低衝撃型の衛星分離機構を開発してまいりましたけども、今回初めてきちんと衛星分離ができたということが実証出来、この技術開発においても目的を達成することができた訳でございます。今後も我が国の基幹ロケットという位置づけをされていますイプシロンロケットと現在開発中のH3ロケットとのシナジー開発を進めて、小型衛星市場におけるイプシロンロケットの国際競争力の強化を目指してまいりたいと考えています。最後になりますが、鹿児島県肝付町のみなさまをはじめ、関係機関のみなさま方の大変温かいご支援をいただき、今回の打ち上げが出来たわけでございます。心より感謝を申し上げたいと考えてございます。
・登壇者挨拶(文部科学省大臣政務官・新妻)
イプシロンロケットの3号機の打ち上げが成功いたしまして、搭載していました高性能小型レーダ衛星ASNARO-2について所定の軌道に投入されたことを心から喜ばしく思っております。ロケットの打ち上げにご尽力ご支援いただいた関係者の方々にこの場を借りて厚く御礼を申し上げます。配付させていただきました林文部科学大臣の談話にもありますように、平成25年の1号機、そして平成28年の2号機に続きまして、今回小型衛星の打ち上げ需要に対応し、さらに高度化を進めた3号機、具体的にはさきほどJAXAの奥村理事長からありました低衝撃の分離機構、またはPBSなどの高度化を進めた3号機の打ち上げを成功させたことは、我が国が有するロケット技術の着実な発展を示すものと考えています。文科省としては今後とも、イプシロンロケットをはじめとするロケット技術のさらなる信頼性の向上や高度化に取り組んでまいります。
・登壇者挨拶(経済産業省大臣政務官・平木)
本日打ち上げられました地球観測レーダ衛星ASNARO-2の開発担当省庁の立場としてご挨拶申し上げたいと思います。まず最初に、最終的な作動状況に関しましては本日夕刻まで待つ必要がございますが、現時点で衛星からの信号を受信できたことを大変喜ばしく思っております。経済産業省では我が国の宇宙機器産業の競争力強化及び宇宙利用産業の拡大に向けまして、短納期・高性能そして小型かつ低価格な地球観測衛星を開発する事業としてASNAROプロジェクトを推進してまいりました。2014年に打ち上げられ現在も稼動中でございます地球観測用光学衛星ASNARO-1に、今回打ち上げられたASNARO-2が加わることで、光学衛星、レーダ衛星の2機体制が整うことができました。これによりまして民間事業者による衛星運用、画像販売ビジネスが一層進展をするとともに、新興国を中心にたとえばインフラ輸出につながることを期待をしております。宇宙産業は近年、技術革新や新規参入事業者の増加などを背景にいたしまして、宇宙由来の様々なデータの質と量が飛躍的に向上するなど、大きな変化のただ中にあります。今や宇宙由来のデータはビッグデータの一部としてコネクテッドインダストリーズのひとつの基盤インフラとして位置づけられ、様々な地上データと組み合わせることによりまして、例えば農業やインフラ管理、金融等様々な分野の課題に対してソリューション提供をしていくことが期待されています。特に地球観測衛星の分野におきましては、画像単体を販売するビジネスモデルから、画像から抽出されました情報を活用したソリューション提供を行うビジネスモデルにシフトしつつある訳でありまして、今回の打ち上げが、この流れを加速させていくことを期待をしております。最後になりますが宇宙産業のますますの発展を祈念いたしまして私からの挨拶とさせていただきます。
・登壇者挨拶(NEC執行役員・近藤)
高性能小型レーダ衛星ASNARO-2は経済産業省様の助成事業としてNECが主体となり事業を進めてまいりましたので、今回の打ち上げ成功の知らせを受けて、まずは順調なスタートが切れたと安堵しているところでございます。これまでの事業期間中、経済産業省様、宇宙航空研究開発機構様をはじめ、多くの方々のご指導ご支援ご協力の下で、この日を迎えることが出来ました。あらためまして心より御礼を申し上げます。この打ち上げをもってNECは衛星の製造から利用サービスにわたりバリューチェーンを構築するという、新たな事業展開の第一歩を踏み出しました。これをもって将来に対する期待が大きく膨らんでおります。このASNARO-2でございますが、本年の9月を目処に画像販売を開始する計画でございます。社内関係者一同、さらに気を引き締めて準備にあたってまいります。今後この事業を通して日本、そして世界の安心安全そして効率化などにさらに更に貢献してまいりたいと思います。ぜひともよろしくお願い致します。引き続き皆様方のご指導ご支援を賜りたく、よろしくお願い致します。
・配付資料より、内閣府特命担当大臣(宇宙政策)談話
『イプシロンロケット3号機により、ASNARO-2の打ち上げが成功しました。
イプシロンロケットは、我が国独自の固体燃料ロケット技術を継承し、即応性などの優れた能力を有する基幹ロケットであり、今般の打ち上げが成功したことは、我が国輸送システムの自立性確保の観点から意義深いものです。
またASNARO-2について、その取得する衛星データが広く国内外で活用され、我が国の宇宙産業の振興につながっていくことを期待しています。
内閣府特命担当大臣(宇宙政策)として、今後も引き続き宇宙基本計画を着実に推進してまいります。平成30年1月18日内閣府特命担当大臣(宇宙政策) 松山 政司』
・配付資料より、文部科学大臣談話
『本日、イプシロンロケット3号機の打上げに成功し、搭載していた高性能小型レーダ衛星(ASNARO-2)が、所定の軌道に投入されたことを確認いたしました。
イプシロンロケットについては、平成25年9月の1号機、平成28年12月の2号機に引き続き、小型衛星の打上げ需要に対応し更に高度化を進めた3号機においても打上げが成功したことを、大変喜ばしく思っております。
今後とも、イプシロンロケットの更なる信頼性の向上や高度化に取り組むとともに、我が国の基幹ロケットにより、宇宙輸送の自律性や高信頼性を確保し、国民生活の向上や国際貢献、人類の夢の実現等に資する取組を進めてまいります。平成30年1月18日 文部科学大臣 林 芳正』
・質疑応答
NHK・イプシロンは初号機、2号機、3号機と実証を重ねてきたが、打ち上げ成功の所感をお聞かせ願いたい。併せて4号機以降のイプシロンの将来像や展望をお聞きしたい。
奥村・私事で恐縮ですが、私がJAXA理事に就任して初号機から経験させていただいております。この3号に至るまで各号それぞれミッションが違い、新たな技術実証を加えたりして、かなり野心的に開発を進めているロケットでありまして、そのためもあるのですが、未経験の困難に直面して打ち上げ延期が起こったりということもあって、かなり気を遣ったロケットでございまして、まだ3号までの実績しかございませんが、ぜひ困難の経験を生かして、将来は安定的にさらに伸ばしていきたい。そういう意味では安堵感と同時に将来のこのロケットの安定的な打ち上げの、ある種の確信が私にも芽生えてきたなと、そんな感じを今のところ持っております。そういう意味で来年度(2018年度)は革新的衛星技術実証の1号機をイプシロンで打ち上げる計画で進めてございますし、その後も具体的に科学衛星の大型小型の研究ミッションにもイプシロンを適用してまいりたい。また社内の需要と同時に、このロケットをぜひH-IIAのように民間事業のスタイルに将来持っていくことがやはり重要ではないかということで、こういった事業にご関心のある企業の方々とも意見交換をさせていただいているところでございます。
NHK・H-IIAと比較してイプシロンをどう位置づけしていきたいのか。
奥村・ロケットは運ぶ道具ですので、運ぶ物によって運ぶ道具を最適なものを持っていくというのは常識だと思います。そういう意味で特に最近のマーケットで見ますと、小型衛星を打ち上げるニーズが非常に高まってきていますので、ぜひそこのマーケットをイプシロンで捕獲していくということが極めて重要ではないかと、またそれに適合する能力をもっているのではないかと考えていますので、そういう方面に主に注力してまいりたいと考えています。
日本経済新聞・H-IIAのように民間事業に持っていきたいとのことだが、具体的にどのような企業とどういう協議をされているのか。また新興国への輸出の話で、今後実際の受注をどうとっていくのか。
奥村・具体的に既に決まっていることとしては、現在イプシロンはJAXAが主体となった開発ロケットでございますけども、これにつきましては民間事業者のIAさんの方に製造・運用委託をするところまで決めております。そういう意味で主体的に特定の事業者に設計製造から運用までお願いするということで、ひとつの道筋を作っているかなと考えています。その先につきましては、まださまざまなところと検討しているという段階ですので、今日の段階ではお話は控えさせていただきたいと思っています。やはりこれは早く事業として確立すると同時に、外国も含めて特定の顧客を捕捉できる可能性が上がる訳です。いつまでも研究開発機関が打ち上げをするというのは、民間事業者から見ると必ずしも自然な姿ではないととられる事もありますので、そういった意味で外国の民間事業者の需要を捕捉する意味でも、日本の打ち上げについてもH-IIAのように民間事業者に担っていただくのが私はよろしいのではないかと、そういう両面で努力しているところでごさいます。
南日本新聞・今回はPBSと低衝撃型衛星分離機構のチャレンジがあったが、それが成功した意味と、今後の開発と受注に与える影響と展望の総括をいただきたい。
奥村・先ほども触れましたが、PBSにつきましては、固体ロケットで高精度な軌道投入が要求される、まあ地球観測衛星ですね、これは非常にニーズの多い衛星の使い方でございます。そこへの市場対応ができる技術を獲得した、そういう理解でございます。従って先ほども触れましたマーケット開発にとっては有力な実証成果であると考えてございます。もうひとつの低衝撃の方も、衛星を設計製造するメーカーさんにとってみると、今までの世界の水準で比較しますと衝撃度は半分以下になっておりますので、たとえばそれを前提に衛星を設計製造していただけるようになれば、衛星を設計製造するメーカーさん側にもメリットが出てくる訳でして、これもマーケット開拓のひとつの武器になるのではないかと考えています。そういう意味では二つともマーケット開拓をする上で有力な実証成果ではないかと私は考えてございます。
南日本新聞・それが実際の受注に直結するのか、それともさらに越えないといけない課題があるのか。
奥村・受注できるかは発注側に聞かないといけないほど難しい様々な要件がございます。私どもが基本的にお客様のニーズであります、正確に打ち上げるとかオンタイムで打ち上げるとか、衛星に対する負荷が小さいとか、そういった事をひとつひとつ積み上げる中で、お客様とお話をする機会が増えてきますので、個々のお客様との対話する中で、更なるお客様の個別ニーズがどういうものなのかということをしていく中でマーケット開拓ができていくものだと私は思っているので、二つができたからいきなりマーケットが広がるとか、そこまで申し上げる実績はございません。
産経新聞・昨年の宇宙政策委員会で取りまとめた宇宙産業ビジョンでの衛星データビジネスを育てていく必要があるとのことで、今回のASNAROプロジェクトは象徴的だが、ASNAROプロジェクト以外でどのようにこういったデータビジネスを育てていくアイディアをお持ちなのか、見解を含めてお聞きしたい。
平木・ASNAROプロジェクトにつきましてはご指摘の通りでございまして、昨年5月に策定されました宇宙産業ビジョン2030の中で、宇宙データの利用拡大というところを明確に位置づけて重要なテーマにさせていただきました。ご質問は他の分野でという事でしたが、基本的に経済産業省としても特に力を入れておりますのが、データを介して様々な人ですとか機械・産業を、国境をこえて繋いで、そのことによって新たな付加価値を生み出してゆく、いわゆるコネクテッドインダストリーズというものを打ち出させていただいていますけども、このコネクテッドインダストリーズの中にまさに今回のASNAROのプロジェクトを含めて位置づけられるだろうと思っています。データを使ったビジネスというと、ともするとコンシューマ側のデータを握っているところに主導権を握られているとよく論じられる訳ですが、たとえば日本の中には産業機械が多数稼働している訳でして、こういったところのリアルデータ、これを使いながらどうやって新しい付加価値を生み出していくのかですとか、日本にしかないデータがたくさんありますので、こういうものを活用する中で新しいビジネスを作っていきたい。個々の工場で何が稼働しているとか、そういった個々のデータを使うのは限界がありますので、今回のASNAROで打ち上げていただいた画像のデータやレーダのデータ、こういったものと地上で得られる日本にある固有のデータ、こういったものをうまく組み合わせながら、ちょっとすぐには結びつかない農業の分野ですとかインフラのメンテですとか、あるいは金融ですとか、こういったところに複合的にデータを組み合わせることによって、これから市場を開拓していきたいと思っています。これはNECさんとか民間の事業者の皆さんにも担っていただきながら、官民力を合わせて一丸で取り組んでいきたいと思っています。
産経新聞・今回のASNAROはNECを経済産業省が支援するプロジェクトだが、衛星データを活用するビジネスの裾野を広げるということはNEC以外の企業も政府がバックアップすることが考えられるが、そういったところは今どのような状況か。
平木・今NECさん以外とどうこうしている事は無い訳ですが、同時に技術面からアプローチをするだけでなく、データをうまく組み合わせることによってこんな形のビジネス展開ができるという、マーケットをどう開拓するかというところに関しましては、民間の事業者の皆さん、たとえば新興のICT企業ですとかそういった皆さんと意見交換しながら、日本に眠っているデータ、あるいは今宇宙空間のデータというのは日本がひとつアドバンテージとして持っているところだと思いますけども、こういったところをうまく活用して、市場をどうやって作れるかということに関しては、今大企業だけではなくてベンチャーの皆さん、ICT企業の皆さん、こういったところと連携をさせていただきながら一緒になって議論しているところです。
・打ち上げ経過記者会見・第2部・登壇者
宇宙航空研究開発機構 イプシロンロケットプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 井元 隆行
日本電気株式会社 社会基盤ビジネスユニット 主席主幹 安達 昌紀
・質疑応答
時事通信・無事に打ち上がって、現在の心境をお聞かせ願いたい。
井元・正直に言いますと、かなりほっとしています。イプシロンとしては初めての受託衛星で非常に重要なASNARO-2を打ち上げるということと、強化型イプシロンロケットの飛行実証、二つのことを同時に実施すると言う事で、かなりプレッシャーはありましたけども、打ち上げを無事成功することができてほっとしています。
NVS・ASNARO-2に別の愛称をつける予定はあるか。
安達・いまのところは無いです。ASNARO-1もそのまま飛んでいますので。
NVS・ASNAROの由来は何か。何かのアルファベットの組み合わせか。
安達・読んで字のごとく「あすなろの木」からのイメージで、英語の略号は経産省のHPに載っていますAdvancedから始まる一連のものでありますけども、基本的にはこれから大きく事業を育てるための最初の貴重な一歩という願いを込めて「ASNARO」という名前をつけさせていただきます。
(※ASNARO:Advanced Satellite with New system Architecture for Observation)
NHK・打ち上がった後に、空に見えたのは「ロケット雲」と呼んでいいのか。いつもの打ち上げと違って綺麗に見えていたが。
井元・すみません、私は実は見ていません。
安達・私は見ていたが、噴煙が綺麗に見えた。たぶんですが朝日が昇る時間なので、上空では日が当たる状況になって噴煙がいろいろ綺麗に見えたのかなと推察します。
産経新聞・今のお気持ちはいかがか。
安達・衛星が分離された後の電波が正常に受かりまして、また予定通りのシーケンスが進んでいることが確認されましたので、まずは第一関門を突破できたという非常にほっとした心境でございます。最終的な目的に達するためにはまだまだハードルはありますけども、まず一歩を確実に踏み出せた。それと1日延期にはなりましたが、予想通り荒れた天気に昨日はなりましたし、逆に本日は2段の着火まで見えるような、最後の最後まで綺麗な夜空に飛んでいくような、完璧な打ち上げをしていただきまして、衛星も無事だということで、大変ほっとしているというのが正直な感想でございます。
産経新聞・今後のNECの事業展開をお聞かせいただきたい。
安達・通常の衛星プラス、データ利用に展開していく一歩というところを目指していくという話を先日させていただきました。従いましていつもの衛星打ち上げよりもハードルや関門がたくさんあると認識しております。当然、こういう関門はクリアしていくものだと肝に銘じて、心上ずることなく一歩一歩確実にその関門をクリアしていきたいと考えています。
南日本新聞・ASNARO-2の今後のスケジュール表にある、クリティカルフェーズ運用や定常運用などの言葉を解説していただきたい。
安達・クリティカルフェーズ運用は、打ち上げ後13時間くらいまで、人が24時間張り付いていながら慎重に進める運用を意味しています。今、太陽電池パドルが開きまして、スラスタによる三軸制御が行われています。このあとホイールを回転させて、本来のホイールによる三軸制御というものに移っていって、太陽指向を離れて慣性空間を指向するまでが大まかなクリティカルフェーズの内容です。その間に既に成功していますが、SAR(※合成開口レーダー)のアンテナを展開してミッション運用の準備をするというところまでが、まずクリティカルフェーズ運用です。そのあと初期運用というものが入りまして、こちらは所定の機能性能が軌道上で発揮されている事をひとつひとつ試験をして、ノミナルに移って良いね、という確認をするフェーズになります。そしてこのあとこの衛星の場合は、SARの観測衛星ですので、撮られた画像が正しいものなのかどうか、正しいものにするにはどう校正すればいいのかという、キャリブレーションの運用を行います。そしてそのあと最終的に定常運用ということで、NSOCを使った様々なデータ販売に資するような運用を開始する、そういう順番になっています。
南日本新聞・自治体や研究機関からのオーダーを受けて撮影し画像販売するモデルと伺っているが、既にオーダーは入っているのか。
安達・具体的にはこの内容を見ていただきながら、あるいは撮れた画像ですとか、確認された性能を様々なところに認知していただきながら、ひとつひとつ具体的な案件をいただくことになろうかと思います。
南日本新聞・PBSは予定通り燃焼できたようだが、低衝撃型衛星分離機構も予定通りだったのか。
井元・PBSはロケットが自分で計算した軌道投入精度がありまして、それを見ると正に狙ったところにどんぴしゃりに行っている。PBSはきちんと作動したことが確認できました。低衝撃型衛星分離機構も衛星分離のところできちんと開いていますので、開く必要の無いところではきちんと衛星を留めて、開くべきところで開いたという観点で機能が実証されたと考えています。
南日本新聞・今回で強化型としては一区切りになると話があったが、これからのコスト削減に向けた意気込みをお聞きしたい。
井元・今、強化型の3号機が飛行実証したが、これが即いろんなところにビジネスが拡大するのは甘い考えと私は思っています。もっと厳しい現実をきちんと見なければならないと思っています。H-IIAの例でもそうなのですが、やはり打ち上げ実績を着実に積み上げることが非常に重要だと思っておりますので、まず次の4号機の打ち上げをきちんと成功させる、これを次のステップと考えています。さらにそれだけでは駄目で、コスト低減、コストだけで無くいろんな競争力を持った、より競争力を持ったロケットにするという気持ちで今研究開発をやっていますので、それが実現すれば、さらにいろんな世界が広げられるような構想にしたいと思っていますので、ご期待いただければと思います。
KKB・3号機の成功の意義と今後の展望を伺いたい。
井元・3号機でPBSの機能がきちんと作動、PBSだけでなくフライトソフトウェアもそうなのですが、PBSがきちんと作動して物凄く軌道投入精度が良いロケットになったと考えています。いろんな所で使ってもらえると非常に良いと考えております。あと低衝撃型衛星分離機構で衛星に対する優しい環境といいますか、これが試験機、2号機、3号機と連綿とやってきた我々の活動、試験機と2号機は音と振動を低減させる、3号機では衝撃を低減させるということで、衛星に対する負荷を軽減させるという当初の目的を達成したかなと思っています。これで技術的に見て、衛星搭載環境という観点では世界トップレベルになったのではないかと思っていますので、こういった面を4号機5号機でも当然続けて行くということと、さらに違うパラメータ、違う意味でもっと使いやすいロケット、もっと競争力のあるロケットといったものに繋げていきたいと考えています。
読売新聞・コスト削減で30億円という目標は、当初より技術開発の項目が増えているが、今も維持しているか。コスト削減で実績の積み上げ以外で、どういったもののハードルが高いか。
井元・まず30億の点ですが、目標として掲げているところでして、このH3とのシナジー効果を発揮する研究開発、ここのミッション要求というものを今作っているところです。このミッション要求というのは、いろんな技術的な機能性能要求があるのですけども、その中のひとつにコストの要求があります。それはニーズ調査・需要調査そういったものの中で、どこを狙っていくべきなのかというような研究をやっているところです。ひとつの大きな数字ではあると思うのですが、そこにとらわれなくて、本当に適切な目標はどこなのかといったところを考えている。
読売新聞・将来的には30億を目指しているのか。
井元・30億がひとつの目処ではあります。目標値をそれにするか、それ以外にするか、いま検討しているところです。
朝日新聞・固体燃料ロケットでコストを減らせる伸び代があるのは、製造ではどういった部分になるのか。
井元・正直言いますと、全ての面において減らす必要があると思っています。どこがという事ではなくて、満遍なく全般的に落とす必要があると考えています。
ニッポン放送・今後についてまだまだ厳しいとの話があったが、イプシロンロケットが4年あまりで3機ということで、当初は森田さんの初号機の頃は産みの苦しみもあったと認識しているが、3号機まで来たという面での感慨がありましたらお聞かせ願います。
井元・最初、MVロケットが停止するということで、次のロケットを考えようと、何も無かった状況から森田さんと私と、あと数人で始めたのがこのイプシロンロケットになります。最初の頃はなかなか開発に進めなかった。開発に移行したとたん、3年で開発するという非常に厳しいスケジュールの中で開発したのがイプシロンロケット試験機になります。その後強化型も2年ちょっとで開発しまして、2号機は基本形態の飛行実証、3号機はオプション形態の飛行実証ということで、強化型の開発も一区切りつけられるのではないかと考えています。本当に2006年にMVが運用停止してから12年も経っているのですが、長い間というか後ろの方はあっという間だったのですけど、ここまでよく来たなと。あと4号機から実用ロケットとして活躍してくれることを、また期待しております。
NVS・内之浦から上がるロケットは代々性能計算書があったと思うが、今回はあるか。
井元・今回は無いです。
(※以前から性能計算書の表紙には、お酒の瓶のラベルを元にしたパロディが描かれていた)
NHK・4号機は、これまでの3機を糧に、どのように取り組むのか。
井元・4号機は、3号機と同じく太陽同期軌道になります。なおかつそれにプラスして、キューブサット3つを含めまして全部で7つの衛星を搭載して打ち上げ、それらを異なる軌道に投入するということになります。ということで、またより一層、3号機で飛行実証したPBSの活躍範囲が広がるということを考えております。低衝撃型衛星分離機構も200kg級衛星に搭載しますので、そこでもまた活躍してくれると考えています。
以上です。
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