投稿日 2018年2月2日(金)22時30分 投稿者 柴田孔明
2018年2月2日、内之浦宇宙空間観測所にてSS-520 5号機の報道向け機体公開と概要説明が行われました。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
JAXA 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授 SS-520 5号機プロジェクトマネージャ 羽生 宏人
(以下、概要説明と配付資料等から抜粋)
・SS-520 5号機の実験について
・実施日:2018年2月3日
・実施時刻:14時03分(JST)
・実施時間帯:14時03分〜14時13分(JST)
・予備期間:2018年2月4日〜2018年2月12日
(※当初の予定では2017年12月28日だったが、搭載部品の不具合により延期されていた)
・SS-520 5号機のフライトシーケンス
・打ち上げ後67秒:ノーズコーン分離
・同68秒:1段モータ分離 (スピンアップ)
・同70.5秒:ラムライン制御開始
・同147秒:ラムライン制御部分離
・同180秒:2段モータ点火
・同235秒:2段モータ分離
・同238秒:3段モータ点火
・同450秒:衛星分離
・SS-520 5号機の諸元
・全長: 9.54 m
・直径: 0.52 m(代表径)
・全備重量: 2.6 ton
・燃料、段構成: 固体燃料3段式
・打ち上げ能力: 低軌道に4 kg以上(地球表面からの高度が2000 km以下の軌道)
・打ち上げ場所: 内之浦宇宙空間観測所
・打ち上げ方式: ランチャ滑走方式(吊り下げ式)
※S-520 5号機は技術実証目的の打ち上げのため、シリーズ化の予定はない。
・打ち上げ時の気象制約条件について
・風について
1.発射時において制限風速以下であること。
※制限風速:15 m/s(最大瞬間風速)
2.地上から高層までの風データを元に算出したフェアリング、第1段機体、ラムライン制御部の落下点が、落下予想区域内であること。
・雨について
1.発射時において、降雨・降氷がないこと。
・雷について
・発射前及び飛行中において機体が空中放電(雷)を受けないこと
1.射点を中心として半径10 km以内に雷雲のないこと。
2.飛行経路から20 km以内に発雷が検知された場合には、検知後30分間は発射を行わないこと。ただし、発射時に飛行経路から20 km内に雷雲、積雲雲等がない場合はこの限りではない。
3.飛行経路が雷雲や積乱雲、氷結層を含み厚さが1.8 km以上の雲を通過する場合には発射を行わないこと。
・SS-520 5号機実験の目的
・SS-520 5号機実験は、SS-520 4号機での実験失敗の原因対策を施し、当初の目的である超小型衛星打ち上げ機に係る技術実証の再実験として行う。
・ロケットはJAXAが観測ロケット技術をもとに改修、超小型衛星(TRICOM-1R)は東京大学が開発。
・本実験は経済産業省 平成27年度宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業(民生品を活用した宇宙機器の軌道上実証)の採択を受けて実施。
・SS-520 4号機で発生した不具合の対策
・ダクト引き出し孔部でのハーネス保護(引出孔部のハーネス振動防止)。
・ケーブルダクト本体の耐環境性向上。
・28V電源系電源喪失の防止。
・SS-520 5号機の射場整備作業において判明した搭載部品一部の不具合と対策
・2017年12月より実施していた内之浦での射場作業において、第2段の姿勢コントロール装置(ラムライン制御部)窒素タンク圧力センサの数値の異常が判明した。
・12月25日より射場作業を中断し、機体の一部を工場に持ち帰って不具合原因の調査を実施。
・圧力センサの故障が原因と特定した。
・予備品に対して改めてスクリーニングを実施し、部品交換の処置を行った。
・超小型衛星TRICOM−1Rについて。
(※基本的にTRICOM-1と同じだが、即時観測ミッションが追加されている)
・衛星開発:東京大学
・衛星の重量:約 3 kg
・寸法:116 mm×116 mm×346 mm(アンテナ格納時)
・投入予定軌道:地球との近地点約180 km×遠地点約1,500 kmの楕円軌道
・投入予定軌道傾斜角:約31度
・姿勢制御:磁気センサ・磁気トルカによる回転抑制
・バスを除く搭載機器:
・Store and Forwardミッション機器
・地球撮像用カメラ
・ミッション
1.Store and Forwardミッション:地球を周回しながら地上端末から送信されたデータを収集し、地上局の指示でデータを転送する。
2.地球撮像ミッション:メインカメラ1台とサブカメラ5台を搭載し、初期運用時や地球指向制御が不安定な状態でも撮影を行う。
3.即時観測ミッション(今回追加):ロケットの打ち上げ・分離後、地上と通信ができる前に、衛星は自律的に地上の観測を行う。地上との最初の通信可能タイミングで、観測データをダウンリンクする。
・質疑応答
読売新聞・大型ロケットと比較して費用はどれくらい抑えられているのか。
羽生・規模としては、およそ5億円規模で実施されている。ひとつ桁が小さい感覚です。
読売新聞・ミニロケットで超小型衛星を打ち上げるメリットは何か。また、この打ち上げ技術を今後どうしていくか。
羽生・小さい規模をやっていくと実行規模が小さくなることで、費用を抑えることであれば、その先の打ち上げ頻度を増やすなど、チャンスを増やすことに繋がっていくことが期待されます。こういった宇宙を使っていくことについて、より機会を増やしていきたいという思いがあります。今回、こういった技術実証を行うということで、単に小さくすれば安くなるかというと、必ずしもそれは言い切れないと思います。それに適用する周辺技術ですとか搭載技術というものを民生品と呼ばれる入手しやすい、あるいは産業に幅広く適用されているものを利用していくことの組み合わせで、より打ち上げ費用ですとか衛星の開発費用ですとかそういったものを抑えることで、より宇宙を利用しやすくしてゆく。今はこういった民生部品を使うことの知見は沢山無いと思いますので、今回の実験を通じて、そういった知見を蓄えてゆく。そして今回実験をすることによって、さまざま設計に反映した考え方、こういったものが発展的に生かせていければ、この分野としても将来様々な方向で使われていくのではないか、という事を期待して実行するものであります。
東京とびもの学会・今回のロケット実験をシリーズ化する予定はないとのことだが、大学からオファーがあれば拒否するものではないということか。
羽生・ぜひやっていきたいと思いますけども、まずこれをしっかり成功させないと次が続かないと思います。まず目前に打ち上げをひかえているこれを成功させたいと思います。そこで得られた成果が、何らかの形で公表できる範囲で公表した結果、そういった要望なりご意見があればまた検討することがあるかもしれない。今はシリーズ化の予定は無いということです。
産経新聞・4号機の不具合の原因で、推定とか可能性とあるが特定は難しいのか。対策はやり尽くしたということでいいのか。成功の自信の程を伺いたい。
羽生・推定と申し上げているのは現物を確認した訳ではないというところがありますので、取得された情報とか物作りの過程の理解に基づいて絞り込まれた推定原因であるということです。もちろん実験に使ったものを回収できて見ることができたら特定できたと思うが、そういった事はできなかったので、こういった事象が起きるのはこういった部位でしかないということで、おおよそここが濃厚だと考えているが、特定できたという状況ではなかったと思います。ですが、直面した事象から非常に濃厚だったと思います。そういった不具合の原因とされるいくつかの部位については、しっかり見直しを行って、それ以外でも開発の過程でもう少し工夫しておく必要があると思われる部位についても見直しを図るなどして、せっかくもう一度やらせていただくので、最後までもう一度見直しを行って、設計としてはより良いものになっていると思います。そういった意味で今回、昨年の実験がうまくいかなかった後に、その推定原因を抽出して、そういった事が起きない設計はどうあるべきかしっかり検討しました。それに基づいて、さまざまな試験をやってきました。その中でひとつひとつ確認をして慎重に前進をしてきたと思っていまして、今日いろいろリハーサルをやってきていますけども機体・地上系共に異常はないと思っていますので、今出来上がっているロケットについては、しっかりしたものが出来ていると考えています。
産経新聞・昨年、民生品は原因ではないということだったが、今もその認識であるのか。
羽生・その通りです。
鹿児島テレビ・ちょうど1年前だが、この1年間はどんな気持ちで準備を進められたか。
羽生・非常に悔しい思いをした訳です。しっかり物を作ってきたと思いながら実験に臨んだのですが、思いがけない結果になってしまった。もう一度実験ができるという機会がいただけたということもありましたので、より慎重に、より確実にということで、もちろん設計面、あるいは試作試験、そういったものをひとつひとつ積み重ねて物を作ってきた。もちろんその悔しさはずっと持ち続けてきたが、そういった経験も大いに生かして、より着実に、より慎重にということで今日を迎えていると思います。
フリーランス大塚・いろいろな対策で重量が増えていると思うが、それはどこかで軽量して相殺したのか、あるいは能力を上げたのか。
羽生・大きく物が増えた訳ではありません。多少、たとえば2段横の電線に熱対策などで強化している部分がありますので、そういった部分の質量は増えています。しかしロケットとしては、対策した部位がそのまま打ち上げ能力を減らすという訳ではありませんので、増えた部分と元々持っていたマージンといったもので相殺することで、能力としては落とすことなく十分な対策ができる。こういった小型・超小型のロケットを考える上ではとても大事なところと考えています。
フリー大塚・前回は朝8時半の打ち上げだったが、今回は14時3分になった。打ち上げ時刻を決めた理由は何か。
羽生・搭載機器の中で、たとえば太陽の方向を検知する装置が搭載されていたり、第3段付近に通信衛星とやりとりをする機器を搭載していたり、そういったものの条件を組み立てて、その日の時刻というのが決まってまいりまして、さらに季節柄、より良い天気、風条件を選ぶということで、打ち上げ時刻というものが変わってきます。今回はそういった様々な要求を包絡する適切な時間を選定するということで、前回と違う時刻になっています。
以上です。
|