投稿日 2018年7月25日(水)23時41分 投稿者 柴田孔明
2018年7月23日午後より、三菱重工業株式会社飛島工場にて、H-IIBロケット7号機のコア機体の報道公開と概要説明が行われました。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
三菱重工業株式会社 執行役員フェロー 防衛・宇宙セグメント 技師長 H-IIA/H-IIBロケット打上執行責任者 二村 幸基
三菱重工業株式会社 執行役員フェロー 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 H-IIA/H-IIBロケットプロジェクトマネージャ 徳永 建
・H-IIBロケット7号機概要説明・二村 (※説明及び配付資料より抜粋)
昨日も今日も名古屋の異常な暑さの中、お越しくださいましてありがとうございます。今日は恐らく日本一くらいになってしまうのではないかと思います。
お手元にH-IIBロケット7号機についてということで配付されておりますので、それに基づいて説明をさせていただきます。
・H-IIBロケットにより宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機(HTV7)を所定の軌道に投入する。
ミッション終了後、ロケット第2段について、南太平洋上へ制御落下を行う。
(※HTV:H-II Transfer Vehicle)
・打ち上げ予定時期:2018年9月11日
・打ち上げ予備期間:2018年9月12日〜2018年10月31日
・基本コンフィギュレーション
・HTV用フェアリング(5S-H型 :直径5メートル・シングル搭載・HTV用)
・第2段エンジン(LE-5B-2):1基
・第1段エンジン(LE-7A):2基
・固体ロケットブースタ:4基
・第2射点を使用。
・特記事項
・MHIの打ち上げ輸送サービスで4機目のH-IIB打ち上げ。(※4,5,6,7号機)
・H-IIAロケットに適用済みのコストダウン項目を適用。
例)部品の統一(2段ヘリウムレギュレータをH-IIAと同型に変更)
※従来、2段階で必要な圧力に落としていたものを、1段階で必要な圧力に落とすという、構造としてはシンプルなレギュレータに変更。
・ロケット再突入データ取得システムを搭載。
※ロケット第2段が大気圏に再突入する際の空力加熱データ等を計測するためにJAXAが開発したシステム。
・主要シーケンスから抜粋。
※H-IIBロケット2号機以降は同じ飛行経路とシーケンスになっている。
※リフトオフ後15分11秒後、高度287 kmで「こうのとり」7号機を分離予定。
※2段ロケットはリフトオフ後1時間39分5秒で第2段エンジンの2回目の始動を行い、減速の後に南太平洋上に制御落下を行う。なお、再着火時に機体はエンジンが前を向いている。
※第2段の制御落下はH-IIBロケット2号機より継続運用中。全号機、計画した水域への落下成功。
・今後の予定
・コア機体は工場での機能試験を終了し、出荷準備作業中。
・2018年7月25日に飛島工場より出荷し、同年7月27日に宇宙センターに搬入予定。
※固体ロケットブースタ(SRB-A)は工場での作業を完了のうえ射場へ搬入済み。
コア機体起立後にコア機体に結合予定。
※衛星フェアリングは、射場へ搬入済み。
・その他、三菱重工「種子島宇宙教室2018」について
全国から小学5、6年生を招いて「種子島宇宙教室」を開催中。
(※2014年〜、年1回開催、公募制)
今年は2018年9月10日〜12日に計20名を招待予定。
締め切り日は2018年8月1日。詳細は以下を参照。
https://www.mhi.com/jp/news/story/1807135955.html
https://www.mhi.com/jp/csr/news/story/others_180713.html
・質疑応答
・7号機の製造期間、費用など公開できる範囲で。
二村・正確な数字はなかなか申し上げにくい。材料手配から打ち上げるところまで概ね3年弱と思っていただければ。3年の内訳の中には当然ですが部品の加工ですとか、材料確保から部品の組み立て、さらには今日のような形に仕上げるための組み立て艤装といった話、さらに宇宙センターに持っていって概ね40日くらいかけて打ち上げまで持っていく。そういったものを込み込みで3年弱と思っていただけれは。費用については契約上の守秘義務があり、大変申し訳ありませんがお答えできません。
・米国では民間のスペースXなどが活発になってきているが、開発競争という意味ではどういった危機感を抱いているか、あるいは歓迎しているか。
二村・お話にありましたスペースXですとか、ブルーオリジンなど米国の民間で打ち上げ輸送ビジネスをやっている会社、ここに限らずヨーロッパではアリアンスペースやロシアにもあります。そういったロケットという手段を使って宇宙空間に物資を運ぶ、あるいは衛星を運ぶビジネスという意味では同じフィールドで戦っておりますので、我々としてはグローバルな意味ではCompetitorsにあたるという風に思っています。これは言い古された言い方になりますけども、H-IIA/H-IIBはスペースXといったような価格破壊的なところで市場に出て来た業者からすると、残念ながら割高な輸送手段になっていることは否めませんので、国も含めて我々としては輸送手段のコストを下げるということについては非常に大きな課題だと思っておりますので、このH-IIBは能力も高くて非常にいいロケットでありますけども、さらにコストを下げるという必要性は非常に高いと思っていますので、今日のスコープからずれますけども、次のシリーズとしてH3というロケットの開発をまさにやっている最中でありまして、これをもってグローバルな戦いができるようにしていこうとやっている途中であります。
日経新聞・費用面でH-IIAのコスト削減の工夫をH-IIBにも反映したとあるが、どの程度なのか。
二村・初号機から7号機に至る中で相対的にどれくらいという質問だと思うが、大変申し訳ないのですが、H-IIBそのものは我々が技術移転を受けて民間ビジネスとして使い始めたのが4号機からになります。1号機から3号機までの最終的な打ち上げコストは我々としては把握していないというのが正直なところになります。4号機から7号機ですと、基本的にH-IIBだけで安くしていることは殆ど無くて、H-IIAで採用したコストダウンの手法や物をH-IIBにも適用しているということになります。相対的にどれくらいかは正直把握できておりません。特記事項のH-IIAで適用済みのコストダウン項目をH-IIBにも適用し、2段レギュレータを安くしたことについて、単純にここだけで言いますと、規模感ではざっと軽自動車並というお答えしか持ち合わせていないというのが正直なところになります。
日経新聞・H3に向けて開発が佳境を迎えていると思うが、H-IIBの開発と製造のノウハウの面で、H3にはどういった形で生かされていくのか。H3に向けてのH-IIBの意義。
二村・H-IIBだけでなくH-IIAも含めて、我々の持っているヘリテージというか、そういった財産を次にどう繋ぐかという話だと思いますが、宇宙ロケットに関して言いますと、突然新しいものをつくるということはあまり無くて、これまで培ってきた技術的なノウハウ、あるいは打ち上げを繰り返すことによって得られたデータですとかそれに基づいた知見ですね、こういったものをベースに次なるものを開発するというのは当然なことでありまして、そのあたりについては継続性が大事という風に思っています。ただ、大きくコストを下げることについては、技術革新というのが避けて通れないというか非常に重要になりますので、例えば材料の使い方ひとつをとってみても、これまで培ってきた材料の特性を把握した上で、例えば今回思い切って曲げ方や削り方などを変えるといったものが、我々の過去の知見の上で成り立つという見通しがあればそれを採用することで大きくステップアップできるという風に思っております。これもスコープが外れますけども、H3に関して言いますと、当然世の中は3Dプリンタですとか新しいものが出て来ている訳で、そういった新しい生産技術といったものについて積極的に取り込みながら、先ほど言ったように材料特性については、全く知らないものを使う訳にはいきませんから、抱き合わせで次のステップに行くということになると思っています。
日経新聞・次世代に向けて射場の大型化などの改善はグローバルな競争での課題として議論されていると思うが、打ち上げ輸送業者サイドとして望むべき競争力のある射場はどういったものか。
二村・なかなかお答えしにくい質問。我々としては多方面にご要請をさせていただいているが、今ここで詳らかにするのは差し控えたいと思っています。ただ古くから我々が言わせていただいている中のひとつに、H-IIAであれH3であれ、衛星の輸送手段として宇宙センターの間近のところまで航空機で輸送ができないのは我々としてマイナスポイントで、他国のロケットは比較的射場の近くまで航空機でもって衛星を運べる。そういった利便性については残念ながら劣る面がある。これは自治体等と話をさせていただきながら各方面にご要請させていただいている。つまり国内だけで戦うなら問題無いが、グローバルで戦うならば当然お客様はベンチマークをする訳で、不利な点と有利な点をそれぞれ持ち合わせている訳で、我々としてスタートとして日本が不利だと思っている点については、いろんな方面にご協力要請させていただくこともあれば、我々として手をかけていく部分もある。具体例については差し控えさせていただきます。
共同通信・今後コストを下げるのが課題としいう話だが、どんな風に削ればコストを下げられるか。
二村・いろんなところで同じ事を言をさせていただいているが、今のH-IIA/Bロケットに関して言いますと、既に開発を終えたものを技術移転と言う形で使わせていただいているのが実態です。従いましてこのロケットの様々なところを勝手に改善とか変えてしまうことができない。従ってこのH-IIA/Bというシリーズにおいて、コストを下げるために地道には努力をしているが、ダイナミックというか大幅にコストを下げるには至れないと思います。そういう意味で、日本の基幹ロケットとしてコストをダイナミックに下げるという意味では、大きな開発を伴わないと実現できないということで、次のシリーズの開発が立ち上がっていると認識しています。
共同通信・オンタイムの打ち上げ率が高いが、世界を見渡して一番というくらい高いか。
二村・オンタイム打ち上げ率という言葉を我々は定義づけているが、これは我々民間企業が勝手に作っている訳ではなく文科省さんが出している。天候や天変地異などそういったことでの延期はカウントしない、例えば機体の異常とか、設備系の異常でもともと予定していた日に打てなかった場合はオンタイムでなかったとなります。逆に天候等による遅延を除いて予定通り打てたものはオンタイム打ち上げができたと定義づけています。その定義で他の国と比較すると、あくまで三菱重工調べではありますけれども、我々はトップクラスにあると認識しています。
共同通信・JAXAのメディアキットによると(HTV7は)実験ラックが過去最多・最重量とある。重い物を打ち上げるとすると、それだけコストがかかるのか。
二村・コストの範囲によるが、H-IIBロケットを打ち上げるサイドから言うと、HTVに何を積もうがあまり大きく変わらない。積み込む物はHTVが担保しているもので、ロケット側は関与しない。
共同通信・重さはこれまでとあまり変わらないのか。
二村・H-IIBロケットでHTVを打ち上げる時に関して言いますと、運ぶ側の衛星とロケット側の能力との綱引きで、それをインターフェース条件といいます。H-IIBで「こうのとり」というものを運ぶ時は、「こうのとり」本体+運ぶ物の総重量を16.5トンまでと切っておりまして、それを基本的には相手側に守っていただいて、我々のH-IIBロケットで打ち上げることになっています。もちろん多少の数字の増減は調整の範囲でコントロールできますが、基本的にはそこで切っています。「こうのとり」本体+運ぶ物の総重量16.5トンを超えない限り特に問題無い。
東京とびもの学会・ロケット再突入データ取得システムだが、第2段が再突入する際の空力加熱等のデータを計測ということですけども、今後のロケット開発のデータ取得目的で取り付けられるものか。
二村・おっしゃる通りです。このデータがどんな使われ方をするか、いろいろな捕まえ方があるが、いちばん簡単なのは、我々が物を大気圏に再突入させる、今回特に2段を大気に突入させる、単純に言うと壊して燃やして無害化してゴミを宇宙空間に残さないためのもの。これで得られるデータが、空気層の濃いところに突っ込んでいったときにどういった動圧というか圧力を受けて壊れていくのかとか、あるいは空力加熱といって空気のあるところに物があるスピードで入っていくと非常に加熱されるということで、熱の上昇のあり方ですとか、そういったことのデータはなかなかとる機会が無い。今後デブリ化させないために、大気圏に物を落として宇宙空間にゴミを残さないということを積極的に進めるために、そういった基礎データをしっかりとっていきたい。繰り返しになるが今後の開発に役立つものと思っています。
東京とびもの学会・第2段を落とすのはこれまでもあったのか、それとも今回が特殊なのか。
二村・H-IIBの2段は組閣的軌道が低いところにいることもあって、少し減速するだけで大気に落とせる。宇宙空間に2段を残してしまわないということで、H-IIBはそれを積極的にやろうということで2号機から継続してやっている。H-IIAに関しては残念ながらやっていません。
以上です。
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