投稿日 2018年10月16日(火)02時32分 投稿者 渡部韻
10月11日、JAXA東京事務所にて小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会が行われました。(なお一部敬称を省略させていただきます)
◆登壇者
JAXA宇宙科学研究所 「はやぶさ2」プロジェクトチーム
研究総主幹
久保田孝
プロジェクトマネージャ
津田雄一
ミッションマネージャ
吉川真
◆MASCOT分離運用について(吉川)
・9/30から10/4にかけて分離運用を行い、10/3にMASCOTの分離に成功した。
・MASCOTは約17時間動作し、「はやぶさ2」を経由して送られた4つの搭載機器のデータはフランスとドイツで現在解析中。
9/28:MASCOTプロマネ・Tra-Mi Ho氏より分離同意書を受領
10/2:降下開始
10/3:日本時間10:57:20分離
10/4:日本時間04:30、MASCOTプロマネよりミッション終了宣言受領。探査機は引き続きホバリングを続けながらデータ送信および小惑星を観測
・データは全てドイツ側に提供済み
・MASCOTはホップしたことも確認済み
・10/12にMASCOT記者会見開催予定(日本時間17:30)
・ケルン・DLRで約40名がMASCOT運用に携わった。CNESもトゥールーズで5名ほどが運用サポート。
・DSNはレベル2(アンテナが冗長、手厚い人員配置)と上位のサポート体制で運用
・取得されたデータは既に「はやぶさ2」チームの手元にも届けられ、タッチダウン運用の参考情報として使用される
◆タッチダウンに向けたリハーサルとタッチダウンの方針(津田)
○新しいスケジュール
・当初10月後半の着陸を想定していたが、リュウグウの状況がわかってきたことと、「はやぶさ2」の実力についてもう少し知る必要があることから一度立ち止まることにした。
・「はやぶさ2」の運用は順調で、6回の降下運用も1回中止したが、中止した降下運用(リハーサル1)も上手くいかなかった部分を克服した上でMINERVA運用、MASCOT運用を行っているので、全体としては計画通り進んでいるが、考える時間を確保したいので合運用の期間を利用して計画を精査していく。
10月14〜15日:リハーサル2回目だが1回目と同じことを行う(TD1-R1-A)
10月24〜25日:タッチダウンを予定していたがリハーサル3回目を行う(TD1-R3)
11下旬〜12月:合運用(「はやぶさ2」と通信出来ない状態)
2019年1月以降:1回目のタッチダウン
○これまでの経緯
・これまでの降下運用はそれぞれ大きな目的を設定しつつ、着陸に向けてどう技術を磨いていくかを埋め込んだ計画を立ててきた。
BOX-C運用:20kmを維持するのと同じ技術
中高度運用:着陸に必要な誘導航法方式(GCP-NAV)を使用
重力降下運用:積極的には制御をかけず(重力降下で)低高度へ降りられるか
TD1-R1:GCP-NAVで低高度を目指すがリュウグウ表面の暗さを見誤り600mで降下中断
MINERVA-II1分離運用:LIDAR等を見直して高度55mまで降下
MSCOT分離運用:高度51mまで降下
・このようにローバ分離や重力計測などの裏で、小惑星の表面に肉薄するための誘導航法技術を磨いてきた
・もともと「はやぶさ2」の降下方式はリュウグウの赤道上空に精度良く降りられる方式だが、MINERVA-II1やMASCOTを赤道上に降ろしてしまうと自分自身のタッチダウン先が無くなってしまうので、降下軌道を高度約1〜2kmのところで曲げて(両者を)緯度の高いところに降ろした。
・「はやぶさ2」が当初守備範囲にしていた緯度プラスマイナス30°の全域にわたり高度約50mまでは10m程度と高い精度で誘導出来ることが確認出来たが、着陸する為には50mから下でどれだけこの精度を維持出来るか(悪くなるのか)見極めたい。この為にはリハーサルを積む必要がある。
・小惑星表面に近付いてみると意外とスベスベしているのでは、という期待も無くは無かったが、観測を繰り返した結果リュウグウ表面全域にわたって凸凹であることがわかった。現在は50cm程度以上のボルダーはカウント出来ている。
・当初は100m四方の領域に対して50mの着陸精度で降りられると考えていたが、これでは歯が立たないことが判明した。100m四方に渡って平坦な場所は存在しないが、ある程度の広さで平坦な場所は存在するので、そこに着陸出来る精度を実現しなくてはならない。
・着陸の可能性に関してはL07、L08、M04が相対的に良いことはわかっているので、この中でどこなら降りられるか、この2ヶ月間検討してきた。
・検討に際しては探査機だけでなく3機のローバーのデータも役立てて総力戦で行おうとしている。タッチダウンに向けて300名近くいる科学者のチームも含めて解析をすすめている。MASCOTの観測結果に関しても着陸に役立つデータはいち早くもらっている。
・ローバの観測結果を解析した結果、小惑星の表面は砂の上に石があるのではなく、地面そのものが岩のかたまり。大小様々な岩の集合で出来ている。このような場所にタッチダウンしなくてはならない。
◆着陸に際しての良い材料
・50mまでは当初の想定よりも良い精度で誘導出来たのでフルに生かしたい
・小惑星の温度環境は技術的に想定した最悪のケースよりも大分低い。
・リュウグウはこれから太陽に近付くが、熱の制約で当初5月ぐらいまでと思われた観測期間も恐らく6月末まで行えるのではないか。このように出来た猶予も用いて着陸の着実な成功に結びつけたい。
◆着陸に際して足りないもの
・50mより低い高度までの航法誘導精度。リハーサルでは25mまで降りてみる
・LRFの特性。高度30mまで降りないと使えないのでリハーサルで確認
・ターゲットマーカーのトラッキング特性。当初の予定では本番で初めて使う予定だったが、状況が許せば5個あるターゲットマーカーのうちの1つをTD1-R3で落としてみて、小惑星表面が背景に映っている状態でターゲットマーカーを認識できるかテストする。
・幸運にも状況が許せばピンポイントタッチダウン技術を使うことも検討
TD1-R1-A:誘導精度の確認、LRF特性の把握。LRFは計測のみ
TD1-R3:誘導精度の確認と、LRFの計測データを制御への取り込み、TD1-R1-Aの結果次第で可能であればターゲットマーカーも投入
・タッチダウン候補地点はL08-B。降下リハーサルによって得られたより高解像度な画像により、着陸に適しているかどうかを確認。MINERVA-II1分離運用時に高度約1.9kmから撮影した画像を見る限り有望だが、当初想定していなかった20mという精度で降下可能かどうか、今までの実績と2回のリハーサルで確認していきたい。
◆今後の予定について(久保田)
10/14-15:リハーサル2回目(15日夜に最低高度到達、16日にホームポジション復帰)
10/23:御茶ノ水で記者説明会
10/24-25:リハーサル3回目(24日に降下開始、25日正午頃に最低高度到達)
11/8:御茶ノ水で記者説明会
◆読売:帰還までの全体のスケジュールに影響は
・帰還スケジュールは変えない。滞在期間中のスケジュールを組み替える。(津田)
◆読売:リハーサル後すぐに準備すれば合期間(11月下旬〜12月中旬)までに1回タッチダウン出来るのでは
・長考する期間が必要。リハーサルがうまくいったとして、そのまま同じようにやれば着陸出来るわけではない。リハーサルの結果を評価して本番に臨みたいので、もしかしたら必要であれば2019年に入って更にリハーサルを行う可能性もある。(津田)
◆読売:現在の10m精度を維持すれば着陸候補地点の20mの円の中に降りられるのか
・50mよりも下は小惑星の地表面の形状に強く左右される。一つ一つの凹凸にレーザー高度計で測りながら降りていくので、スムーズに降りられるかどうかは実際にやってみないとわからない。今得られている10m精度がどれだけ「悪くなってしまうか」を見極めなくてはならない。
・LRFも低高度に行かないと特性がわからない。
・ターゲットマーカーも落としてみないと評価出来ない。
・こういった、わからないところを全て潰してから本番に臨みたい(津田)
◆読売:TD1-R1-Aで降りる高度は
・岩の凸凹次第でプラスマイナス5m程度あるかもしれないが、およそ25m。(津田)
◆時事通信:L-08Bが選ばれた理由
・(配付資料18ページ)70cmのサンプラーホーン、その上に広げた太陽電池パドルといった形状のものがどこにもぶつからずに降下出来るか、その危険度を評価した結果(青が安全、赤が危険)一番安全とみられるのが(A,B,C,D...とあった中で)L08-B。(津田)
◆NHK:当初の予想との一番の違い
・一様に凹凸の激しい地形。(イトカワも含めて)凸凹な小惑星であってもどこかしら平坦な場所があると思っていたが、リュウグウには平坦な場所が一つもない。(津田)
◆NHK:ピンポイントタッチダウンではなくてもいけるという期待はあるか
・ピンポイントタッチダウンは当初から技術的に挑戦したいと思っていたものだが、それしか方法がないかよく考えたい。ピンポイントタッチダウンは一つの案ではあるが、リハーサルの結果によっては「『はやぶさ2』はこういう探査機で、リュウグウはこういう所だから、こういう(今まで考えてこなかった)着陸方式もあるのではないか」という可能性もある。(津田)
◆NHK:インパクターの使用は検討しなかったのか
・インパクターで平らにするのは奥の手としてあるかもしれないが、MINERVAやMASCOTの観測結果から何かをぶつけて平らに出来る地形とは思えない。
◆NHK:リハーサルでターゲットマーカーを使ってしまう影響は
・リハーサルで使うのは1つ。着陸の回数を減らすと決めたわけではないが、サンプルを1回取ってくるのが「はやぶさ2」の最低限の使命だと考えている。(津田)
◆荒船:長考の時間にどのような解析を行うのか
・TD1-R3を終えて、どれだけの精度で降りられたか、どれだけ想定通り機能したか評価したい。評価が期待通り、または期待以上であれば年明けすぐに着陸に挑みたい。一方で小惑星の地形そのものについても情報が集まりつつある状態で、ローバーチームからも解析が進んでいるが、それらも含めて最終的な方針を年末までにまとめたい。(津田)
◆荒船:ローバーのどのようなデータが参考になるのか
・リュウグウはどこでもほぼ一様らしいので、現時点では画像からL-08Bがどれだけ凸凹しているか、どれだけ固そうか…といったことを類推している。
・MINERVA-II1やMASCOT分離時のバウンド状況からは小惑星表面の力学的な情報も得られると期待している。(津田)
◆荒船:着陸候補地のボルダーの大きさはどのくらいまで見えているのか
・解像度の3倍として、5-60cmぐらい。(津田)
◆荒船:着陸候補を100mから20mに絞る難易度
・難しくなっていることは確かだが不可能な範囲ではない。既に実力が把握されていることと、ピンポイントタッチダウンという技術もあるので、精度をあげるにはどこがポイントか、どこを潰していくけばいいのか考えていく。(津田)
◆NVS:現在のMINERVAは状況は。健在か。
・健在。2台とも通信出来ていて時々データを送ってきているので更なる情報が得られればと期待している。MASCOT運用で中断したが、その後も画像は届いている。(久保田)
◆NVS:合運用時はホームポジションからどのくらい離れるのか
・100-200kmほど離れる。(津田)
◆NVS:ホームポジションなど遠距離からの科学的観測は一通り済んでいるのか
・1年半に渡る、終わりのない観測が続いている。ここは計画通り以上に進んでいて、当初の予想よりもたくさんの情報が得られている。(津田)
◆共同通信:ピンポイントタッチダウンは当初インパクター使用時に用いる予定だったのか
・その通り。制約上はターゲットマーカーの数の問題。ピンポイントタッチダウンか普通の着陸かで燃料の消費が変わるわけではない。(津田)
◆共同通信:まんべんなく凹凸なリュウグウは特殊なのか
・そもそも1km以下の小惑星に探査機が接近したのはイトカワとリュウグウだけなので、これだけで特殊とは言えない。大きな小惑星と比較すると特殊だが、小さな小惑星としてはベンヌと比較して特殊か特殊じゃ無いかは言えるのでは。(吉川)
◆共同通信:立ち止まることについての気持ち
・全く新しい世界を探査するので何もかもが計画通りに行くとは全く思っていなかった。いよいよリュウグウが牙を剥いてきたと思っている。チーム全体でどのようにこれに立ち向かうか意気が上がっている。(津田)
◆日経:地表が固そうだが、サンプラーホーンで弾丸は発射するのか
・「はやぶさ」「はやぶさ2」方式のサンプリングは硬さに対してロバスト、守備範囲が広い。石であろうが砂であろうがサンプリング出来る。ただしあまりに凹凸が激しいと収量が減りそう。(津田)
◆日経:普通のタッチダウンとピンポイントタッチダウンの違いについて。ターゲットマーカーの数を増やすと精度が上がるのか
・ピンポイントタッチダウンの狙いはそこではない。
・通常のタッチダウン方式では探査機が低高度に降りる→ターゲットマーカーを落とす→ターゲットマーカーを目指して降下する。
・ピンポイントタッチダウンでは、まずターゲットマーカーを落とす→探査機は上昇してターゲットマーカーと本来の目的地のズレを確認する→ターゲットマーカーからの相対位置へ向けて降下する。
・ターゲットマーカーが狙った位置より随分離れた位置に堕ちた場合は、2個目3個目を橋渡し的に使って本来の目的地へ落としていく。(津田)
◆日経:来年末辺りにも着陸のチャンスはありそうだが、着陸を行うのは6月末までなのか
・太陽距離の観点だけで言えば来年11〜12月は着陸しようと思えば出来るような小惑星環境になるが、帰る準備もあるので、最初からそこを使うことは考えず、6月末までにやりきる。(津田)
◆毎日:何点かからサンプル採取して地域の差を見る予定だったが、1箇所に絞る可能性もあるのか
・サイエンスメンバーとよく議論していきたいが。地域性があまりないので1回で十分ではという意見もあるが、選択肢は広く残しておきたい。(津田)
◆ニッポン放送:仮に当初の予定通りタッチダウンを行った場合のリスクと、タッチダウン自体を断念する可能性
・何もせずに着陸を決行していたら、確率的にたまたまL-08Bのエリアに辿り着くことが出来ていたらサンプルをとれたかもしれないが、サンプラーホーンよりも前に太陽電池パドルなど探査機に何らかの損傷を受けていたかもしれない。広い凸凹を検知していたら上昇するプログラムを用いれば損傷は防げるがサンプリング出来ない可能性の方が高い。
・サンプリングを断念する可能性はミッションの成り立ちからして想定してない。手ぶらで帰るわけにはいかないので何らかの方法で挑戦したい。(津田)
◆その他
・リュウグウ表面の岩の高さ情報がわかりにくいが、60×60cm四方の岩の高さが60cmということは考えにくいのでその半分ぐらいだとしても70cmあるサンプラーホーンに対して十分マージンを確保出来る。L-08Bに関して50cmまでの岩は見えているので降りられるだろう。50cmがグレーゾーン。(久保田)
・50mより下に降りる際に横方向の速度成分があるとズレてしまう。またLRFで地形の傾斜を見るが、傾斜に対して傾きを変える際にズレてしまう。近付くと重力の影響も受ける。(久保田)
・50m以下で精度が良くなる可能性もあるが、信頼性を高くする為には最悪ケースを考えている。(久保田)
・LRFが本当に取れるかどうか、その高度を確認するのがリハーサルの大きな目的。またLRFは横を見ているので大きな岩を検出すると近く見え、小さな岩は離れて見える。LRFのデータが変動するので、我々の考えている降下シーケンスで上手く対応出来るか、LRFの計測結果を制御に取り入れる3回目のリハーサルで確認してみないとわからない。(久保田)
・ピンポイントタッチダウンではターゲットマーカーを落とした後で一度上昇してから再度降下するので、通常のタッチダウンに比べて若干燃料を使う。どの程度上昇するかは色々な案があり、一旦ホームポジションに戻って地上で時間をかけてオフセット量を決めてから再度降下する案もある。ターゲットマーカーの追跡は機上で計算させるが、ターゲットマーカーのオフセット量は地上で(人間が)決める。(久保田)
・3回目のリハーサルでターゲットマーカーを落とした場合、撮った写真から周囲の岩の状況もわかるので、通常のタッチダウンか、ピンポイントタッチダウンを用いるか判断出来る。出来ればノミナルのシーケンスで行いたいが、50m以下の高度で精度が良くなければピンポイントタッチダウンに切り替える。(久保田)
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