宇宙作家クラブ
トップページ 活動報告ニュース掲示板 会員ニュース メンバーリスト 推薦図書

No.2226 :H-IIAロケット40号機打ち上げ前プレスブリーフィング ●添付画像ファイル
投稿日 2018年10月27日(土)23時24分 投稿者 柴田孔明

 2018年10月27日14時(JST)より種子島宇宙センター竹崎展望台の記者会見室にて、H-IIAロケット40号機の打ち上げ前プレスブリーフィングが行われました。
 (※一部敬称を省略させていただきます。また外国語の箇所については簡略化させていただきます。また聞き取りが正確でない可能性があります)

・登壇者
宇宙航空研究開発機構 GOSAT−2 プロジェクトマネージャ 平林 毅
ムハンマド・ビン・ラーシド宇宙センター KhalifaSat プロジェクトマネージャ アーメル・アル・サイエグ
ムハンマド・ビン・ラーシド宇宙センター KhalifaSat ロンチマネージャ アブダラ・ ハルムール
宇宙航空研究開発機構 射場技術開発ユニット 技術領域主幹 西平 慎太郎
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 MILSET長 鈴木 啓司

・打ち上げ日時について(発表資料より)
 三菱重工業株式会社及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)及び観測衛星「ハリーファサット(KhalifaSat)」を搭載したH-IIAロケット40号機の打ち上げについて、下記のとおり決定しましたのでお知らせいたします。

 ・予定日:2018年10月29日(月)
 ・時刻:13時08分00秒(JST)
 ・予定時間帯:13時08分00秒〜13時20分00秒
 ・予備期間:2018年10月30日〜2018年11月30日

・ロケットについて
 ・H-IIAロケット202型
 ・直径4mデュアル衛星フェアリング(4/4D-LC型)
 ・目的:温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」及び観測衛星「KhalifaSat」を所定の軌道に投入する。
 ・軌道は太陽同期準回帰軌道。高度約600 km。
 ・打ち上げ能力の余剰を利用して小型副衛星4基に対して軌道投入の機会を提供する。
  ・東北大学(DIWATA-2B)、九州工業大学(地球低軌道環境観測衛星「てんこう」)、静岡大学(Stars-AO)、愛知工科大学(AUTcube2)。

・ロケットの打ち上げ準備状況
 ・H-IIAロケット40号機は飛島工場を9月21日に出荷後、射場作業を開始。
 ・以下の射場整備作業を良好に実施。
  ・機能点検(〜10月14日)
   機体の各機器が正常に動作することを確認。
  ・カウントダウン・リハーサル(10月16日)
   関係要員に対し打ち上げ当日の対応手順を周知徹底するために、打ち上げ時の作業を模擬・
  ・温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」、観測衛星「KhalifaSat」とロケット機体の結合作業(10月20日)
  ・ロケット機体の最終的な機能点検(〜10月21日)
  ※前号機(H-IIBロケット7号機)で不適合のあったベントリリーフバルブの交換作業を40号機に対して実施しており、良好に完了している。

 ・発射整備作業を実施中(10月25日〜)
 ・機体移動は2018年10月28日23時00分に予定。

・気象状況について
 ・機体移動から打ち上げまで、曇りないし晴れの予報で問題無い。

・「いぶき2号」の準備状況(平林)
 ・いぶき2号を種子島宇宙センターに搬入、射場搬入後試験(8月20日〜)
 ・推進薬充填作業(9月27日)
 ・衛星/PAF結合、衛星/フェアリング結合(10月12日、14日)
 ・フェアリング移動、ロケット搭載(10月20日)

・「いぶき2号」の今後の予定
 ・X-11時間:衛星電源をON(外部電源)
 ・X-16分:衛星内部電源(バッテリ)に切りかえ
 ・X-0(13:08):打ち上げ
 ・打ち上げ後約30分まで:ロケット/衛星分離、太陽電池パドル展開、太陽指向姿勢の確立。
 ・打ち上げ後約1日:地球指向姿勢を確立し、クリティカル運用期間を終了。
 ・順次バス機器の機能確認を実施しつつ、打ち上げから約1週間後に、雲・エアロゾルセンサの初観測を実施予定。
 ・温室効果ガス観測センサについては、脱ガスを行った後、打ち上げから約1ヶ月後に、初観測を実施予定。

・KhalifaSatについて
 ・GSD Resolution: 0.7 m
 ・Download Rate: 320 Mbps
 ・Storage Capacity: 512 Gbits
 ・Pointing & Geo-location : < 100 m PE (3σ)
Accuracy       < 70 m GE (3σ)
 ・Mass: <330 kg
 ・Lifetime: > 5 years

 ・9月13日に日本へ、9月16日に種子島宇宙センターへ搬入。
 機体に問題は無く、打ち上げ準備は整っている。


・質疑応答
産経新聞・バルブ交換をしたとのことだが、それ以外での変更や不具合などはあったか。
鈴木・40号機に対しての設計変更はございません。不具合・不適合に関しても発生しておらず順調に進めてきている。

産経新聞・H-IIB F7でのバルブ不適合について。
鈴木・原因究明を詳しく進め、なぜ不適合が発生したかの原因、原因が発生した工程の絞り込みを完了しています。それを完了した上で、今回新たに持ち込んだバルブに関しても追加の点検を実施しまして、不適合の再発が無いことを確認した上で機体に組み込んでいます。

産経新聞・どういった原因だったのか。
鈴木・前回の推測の範囲でと申し上げたものが正しい推測であったことが確認できた。バルブの製造段階での最終段階に近い工程で、構成部品を変形させる条件の組み合わせがあったと考えております。

鹿児島テレビ・数ある世界のロケットの中でH-IIAを選ばれた理由と、期待すること。
アーメル・理由はいろいろなプロセスと交渉により合意を取り付けた。期待値を満たし成功の可能性が最も高い。協力してやっている。よいパートナーシップ。継続的に学びがある。MHIを選定して良かった。(※簡略化しています)

NHK・前回は気象とバルブの件で延期が重なったが、今回はバルブも交換し気象も問題無いとのことだが、今回の気象と打ち上げ体制の評価と意気込み。
鈴木・今回天候に恵まれ、ここ数日良い天気が続いています。作業に関しましても、確実な作業を積み上げておりまして、今後の作業に不安となる要因は無い。順調で予定通りの日に打ち上げられるように進んで非常に嬉しく思っております。意気込みとしましては、今号機もこれまでの1機1機の打ち上げと変わらずに、ひとつひとつの作業を確実に実施していくこと、それから冷静に判断を行っていくこと、これをこれまでの号機と同じように積み重ねることによって、今号機も打ち上げ成功に繋げたいと考えております。

NHK・「いぶき2号」の運用はいつから始まるか。また開発費はいくらか。
平林・打ち上げた後、機器の点検を約2.5ヶ月行う。その後定常的な観測に移行する計画で進めていきたいと考えています。開発費は、JAXA担当の部分、国立環境研の担当部分、開発および5年間の運用を含めてトータルで440億円です。

NHK・今回5つの小型副衛星を搭載するが、この5つは多いのか。
鈴木・今回は4基の搭載です。多いか少ないか、H-IIAが有しております小型衛星搭載のキャパシティの中で選定しており、特に規定を超えるものではないと認識している。
・過去7回行って最大7基。

読売新聞・小型副衛星は計画では5つではなかったか。
西平・当初5つだったが、実際に搭載するのは4つとなっている。

読売新聞・1つ減った経緯は何か。
・大阪工業大学が開発していたPROITERES2号機が非搭載になっています。これは約束された期日までに開発が終了しなかったため受け取ることができなかった。
 
NHK・過去の小型副衛星はH-IIAで7回なのか。
西平・全てH-IIAに搭載しております。

産経新聞・UAEの目指す宇宙開発の展望で、今回のKhalifaSatがどのような重みを持つか。日本の種子島の印象。
アーメル・一言では難しい。UAE開発メインミッション。このミッションの成功、長い歴史の成功、12年前に始まって現実となる。沢山のミッションが続く。最も良いところ。(※簡略化しています)


以上です。


No.2225 :小惑星探査機「はやぶさ2」記者説明会 (10/11) ●添付画像ファイル
投稿日 2018年10月16日(火)02時32分 投稿者 渡部韻


10月11日、JAXA東京事務所にて小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会が行われました。(なお一部敬称を省略させていただきます)

◆登壇者
JAXA宇宙科学研究所 「はやぶさ2」プロジェクトチーム

研究総主幹
久保田孝
プロジェクトマネージャ
津田雄一
ミッションマネージャ
吉川真

◆MASCOT分離運用について(吉川)
・9/30から10/4にかけて分離運用を行い、10/3にMASCOTの分離に成功した。
・MASCOTは約17時間動作し、「はやぶさ2」を経由して送られた4つの搭載機器のデータはフランスとドイツで現在解析中。

9/28:MASCOTプロマネ・Tra-Mi Ho氏より分離同意書を受領
10/2:降下開始
10/3:日本時間10:57:20分離
10/4:日本時間04:30、MASCOTプロマネよりミッション終了宣言受領。探査機は引き続きホバリングを続けながらデータ送信および小惑星を観測

・データは全てドイツ側に提供済み
・MASCOTはホップしたことも確認済み
・10/12にMASCOT記者会見開催予定(日本時間17:30)
・ケルン・DLRで約40名がMASCOT運用に携わった。CNESもトゥールーズで5名ほどが運用サポート。
・DSNはレベル2(アンテナが冗長、手厚い人員配置)と上位のサポート体制で運用
・取得されたデータは既に「はやぶさ2」チームの手元にも届けられ、タッチダウン運用の参考情報として使用される

◆タッチダウンに向けたリハーサルとタッチダウンの方針(津田)

○新しいスケジュール

・当初10月後半の着陸を想定していたが、リュウグウの状況がわかってきたことと、「はやぶさ2」の実力についてもう少し知る必要があることから一度立ち止まることにした。
・「はやぶさ2」の運用は順調で、6回の降下運用も1回中止したが、中止した降下運用(リハーサル1)も上手くいかなかった部分を克服した上でMINERVA運用、MASCOT運用を行っているので、全体としては計画通り進んでいるが、考える時間を確保したいので合運用の期間を利用して計画を精査していく。

10月14〜15日:リハーサル2回目だが1回目と同じことを行う(TD1-R1-A)
10月24〜25日:タッチダウンを予定していたがリハーサル3回目を行う(TD1-R3)
11下旬〜12月:合運用(「はやぶさ2」と通信出来ない状態)
2019年1月以降:1回目のタッチダウン

○これまでの経緯

・これまでの降下運用はそれぞれ大きな目的を設定しつつ、着陸に向けてどう技術を磨いていくかを埋め込んだ計画を立ててきた。

BOX-C運用:20kmを維持するのと同じ技術
中高度運用:着陸に必要な誘導航法方式(GCP-NAV)を使用
重力降下運用:積極的には制御をかけず(重力降下で)低高度へ降りられるか
TD1-R1:GCP-NAVで低高度を目指すがリュウグウ表面の暗さを見誤り600mで降下中断
MINERVA-II1分離運用:LIDAR等を見直して高度55mまで降下
MSCOT分離運用:高度51mまで降下

・このようにローバ分離や重力計測などの裏で、小惑星の表面に肉薄するための誘導航法技術を磨いてきた

・もともと「はやぶさ2」の降下方式はリュウグウの赤道上空に精度良く降りられる方式だが、MINERVA-II1やMASCOTを赤道上に降ろしてしまうと自分自身のタッチダウン先が無くなってしまうので、降下軌道を高度約1〜2kmのところで曲げて(両者を)緯度の高いところに降ろした。
・「はやぶさ2」が当初守備範囲にしていた緯度プラスマイナス30°の全域にわたり高度約50mまでは10m程度と高い精度で誘導出来ることが確認出来たが、着陸する為には50mから下でどれだけこの精度を維持出来るか(悪くなるのか)見極めたい。この為にはリハーサルを積む必要がある。
・小惑星表面に近付いてみると意外とスベスベしているのでは、という期待も無くは無かったが、観測を繰り返した結果リュウグウ表面全域にわたって凸凹であることがわかった。現在は50cm程度以上のボルダーはカウント出来ている。
・当初は100m四方の領域に対して50mの着陸精度で降りられると考えていたが、これでは歯が立たないことが判明した。100m四方に渡って平坦な場所は存在しないが、ある程度の広さで平坦な場所は存在するので、そこに着陸出来る精度を実現しなくてはならない。
・着陸の可能性に関してはL07、L08、M04が相対的に良いことはわかっているので、この中でどこなら降りられるか、この2ヶ月間検討してきた。
・検討に際しては探査機だけでなく3機のローバーのデータも役立てて総力戦で行おうとしている。タッチダウンに向けて300名近くいる科学者のチームも含めて解析をすすめている。MASCOTの観測結果に関しても着陸に役立つデータはいち早くもらっている。
・ローバの観測結果を解析した結果、小惑星の表面は砂の上に石があるのではなく、地面そのものが岩のかたまり。大小様々な岩の集合で出来ている。このような場所にタッチダウンしなくてはならない。

◆着陸に際しての良い材料
・50mまでは当初の想定よりも良い精度で誘導出来たのでフルに生かしたい
・小惑星の温度環境は技術的に想定した最悪のケースよりも大分低い。
・リュウグウはこれから太陽に近付くが、熱の制約で当初5月ぐらいまでと思われた観測期間も恐らく6月末まで行えるのではないか。このように出来た猶予も用いて着陸の着実な成功に結びつけたい。

◆着陸に際して足りないもの
・50mより低い高度までの航法誘導精度。リハーサルでは25mまで降りてみる
・LRFの特性。高度30mまで降りないと使えないのでリハーサルで確認
・ターゲットマーカーのトラッキング特性。当初の予定では本番で初めて使う予定だったが、状況が許せば5個あるターゲットマーカーのうちの1つをTD1-R3で落としてみて、小惑星表面が背景に映っている状態でターゲットマーカーを認識できるかテストする。
・幸運にも状況が許せばピンポイントタッチダウン技術を使うことも検討

TD1-R1-A:誘導精度の確認、LRF特性の把握。LRFは計測のみ
TD1-R3:誘導精度の確認と、LRFの計測データを制御への取り込み、TD1-R1-Aの結果次第で可能であればターゲットマーカーも投入

・タッチダウン候補地点はL08-B。降下リハーサルによって得られたより高解像度な画像により、着陸に適しているかどうかを確認。MINERVA-II1分離運用時に高度約1.9kmから撮影した画像を見る限り有望だが、当初想定していなかった20mという精度で降下可能かどうか、今までの実績と2回のリハーサルで確認していきたい。

◆今後の予定について(久保田)

10/14-15:リハーサル2回目(15日夜に最低高度到達、16日にホームポジション復帰)
10/23:御茶ノ水で記者説明会
10/24-25:リハーサル3回目(24日に降下開始、25日正午頃に最低高度到達)
11/8:御茶ノ水で記者説明会

◆読売:帰還までの全体のスケジュールに影響は
・帰還スケジュールは変えない。滞在期間中のスケジュールを組み替える。(津田)

◆読売:リハーサル後すぐに準備すれば合期間(11月下旬〜12月中旬)までに1回タッチダウン出来るのでは
・長考する期間が必要。リハーサルがうまくいったとして、そのまま同じようにやれば着陸出来るわけではない。リハーサルの結果を評価して本番に臨みたいので、もしかしたら必要であれば2019年に入って更にリハーサルを行う可能性もある。(津田)

◆読売:現在の10m精度を維持すれば着陸候補地点の20mの円の中に降りられるのか
・50mよりも下は小惑星の地表面の形状に強く左右される。一つ一つの凹凸にレーザー高度計で測りながら降りていくので、スムーズに降りられるかどうかは実際にやってみないとわからない。今得られている10m精度がどれだけ「悪くなってしまうか」を見極めなくてはならない。
・LRFも低高度に行かないと特性がわからない。
・ターゲットマーカーも落としてみないと評価出来ない。
・こういった、わからないところを全て潰してから本番に臨みたい(津田)

◆読売:TD1-R1-Aで降りる高度は
・岩の凸凹次第でプラスマイナス5m程度あるかもしれないが、およそ25m。(津田)

◆時事通信:L-08Bが選ばれた理由
・(配付資料18ページ)70cmのサンプラーホーン、その上に広げた太陽電池パドルといった形状のものがどこにもぶつからずに降下出来るか、その危険度を評価した結果(青が安全、赤が危険)一番安全とみられるのが(A,B,C,D...とあった中で)L08-B。(津田)

◆NHK:当初の予想との一番の違い
・一様に凹凸の激しい地形。(イトカワも含めて)凸凹な小惑星であってもどこかしら平坦な場所があると思っていたが、リュウグウには平坦な場所が一つもない。(津田)

◆NHK:ピンポイントタッチダウンではなくてもいけるという期待はあるか
・ピンポイントタッチダウンは当初から技術的に挑戦したいと思っていたものだが、それしか方法がないかよく考えたい。ピンポイントタッチダウンは一つの案ではあるが、リハーサルの結果によっては「『はやぶさ2』はこういう探査機で、リュウグウはこういう所だから、こういう(今まで考えてこなかった)着陸方式もあるのではないか」という可能性もある。(津田)

◆NHK:インパクターの使用は検討しなかったのか
・インパクターで平らにするのは奥の手としてあるかもしれないが、MINERVAやMASCOTの観測結果から何かをぶつけて平らに出来る地形とは思えない。

◆NHK:リハーサルでターゲットマーカーを使ってしまう影響は
・リハーサルで使うのは1つ。着陸の回数を減らすと決めたわけではないが、サンプルを1回取ってくるのが「はやぶさ2」の最低限の使命だと考えている。(津田)

◆荒船:長考の時間にどのような解析を行うのか
・TD1-R3を終えて、どれだけの精度で降りられたか、どれだけ想定通り機能したか評価したい。評価が期待通り、または期待以上であれば年明けすぐに着陸に挑みたい。一方で小惑星の地形そのものについても情報が集まりつつある状態で、ローバーチームからも解析が進んでいるが、それらも含めて最終的な方針を年末までにまとめたい。(津田)

◆荒船:ローバーのどのようなデータが参考になるのか
・リュウグウはどこでもほぼ一様らしいので、現時点では画像からL-08Bがどれだけ凸凹しているか、どれだけ固そうか…といったことを類推している。
・MINERVA-II1やMASCOT分離時のバウンド状況からは小惑星表面の力学的な情報も得られると期待している。(津田)

◆荒船:着陸候補地のボルダーの大きさはどのくらいまで見えているのか
・解像度の3倍として、5-60cmぐらい。(津田)

◆荒船:着陸候補を100mから20mに絞る難易度
・難しくなっていることは確かだが不可能な範囲ではない。既に実力が把握されていることと、ピンポイントタッチダウンという技術もあるので、精度をあげるにはどこがポイントか、どこを潰していくけばいいのか考えていく。(津田)

◆NVS:現在のMINERVAは状況は。健在か。
・健在。2台とも通信出来ていて時々データを送ってきているので更なる情報が得られればと期待している。MASCOT運用で中断したが、その後も画像は届いている。(久保田)

◆NVS:合運用時はホームポジションからどのくらい離れるのか
・100-200kmほど離れる。(津田)

◆NVS:ホームポジションなど遠距離からの科学的観測は一通り済んでいるのか
・1年半に渡る、終わりのない観測が続いている。ここは計画通り以上に進んでいて、当初の予想よりもたくさんの情報が得られている。(津田)

◆共同通信:ピンポイントタッチダウンは当初インパクター使用時に用いる予定だったのか
・その通り。制約上はターゲットマーカーの数の問題。ピンポイントタッチダウンか普通の着陸かで燃料の消費が変わるわけではない。(津田)

◆共同通信:まんべんなく凹凸なリュウグウは特殊なのか
・そもそも1km以下の小惑星に探査機が接近したのはイトカワとリュウグウだけなので、これだけで特殊とは言えない。大きな小惑星と比較すると特殊だが、小さな小惑星としてはベンヌと比較して特殊か特殊じゃ無いかは言えるのでは。(吉川)

◆共同通信:立ち止まることについての気持ち
・全く新しい世界を探査するので何もかもが計画通りに行くとは全く思っていなかった。いよいよリュウグウが牙を剥いてきたと思っている。チーム全体でどのようにこれに立ち向かうか意気が上がっている。(津田)

◆日経:地表が固そうだが、サンプラーホーンで弾丸は発射するのか
・「はやぶさ」「はやぶさ2」方式のサンプリングは硬さに対してロバスト、守備範囲が広い。石であろうが砂であろうがサンプリング出来る。ただしあまりに凹凸が激しいと収量が減りそう。(津田)

◆日経:普通のタッチダウンとピンポイントタッチダウンの違いについて。ターゲットマーカーの数を増やすと精度が上がるのか
・ピンポイントタッチダウンの狙いはそこではない。
・通常のタッチダウン方式では探査機が低高度に降りる→ターゲットマーカーを落とす→ターゲットマーカーを目指して降下する。
・ピンポイントタッチダウンでは、まずターゲットマーカーを落とす→探査機は上昇してターゲットマーカーと本来の目的地のズレを確認する→ターゲットマーカーからの相対位置へ向けて降下する。
・ターゲットマーカーが狙った位置より随分離れた位置に堕ちた場合は、2個目3個目を橋渡し的に使って本来の目的地へ落としていく。(津田)

◆日経:来年末辺りにも着陸のチャンスはありそうだが、着陸を行うのは6月末までなのか
・太陽距離の観点だけで言えば来年11〜12月は着陸しようと思えば出来るような小惑星環境になるが、帰る準備もあるので、最初からそこを使うことは考えず、6月末までにやりきる。(津田)

◆毎日:何点かからサンプル採取して地域の差を見る予定だったが、1箇所に絞る可能性もあるのか
・サイエンスメンバーとよく議論していきたいが。地域性があまりないので1回で十分ではという意見もあるが、選択肢は広く残しておきたい。(津田)

◆ニッポン放送:仮に当初の予定通りタッチダウンを行った場合のリスクと、タッチダウン自体を断念する可能性
・何もせずに着陸を決行していたら、確率的にたまたまL-08Bのエリアに辿り着くことが出来ていたらサンプルをとれたかもしれないが、サンプラーホーンよりも前に太陽電池パドルなど探査機に何らかの損傷を受けていたかもしれない。広い凸凹を検知していたら上昇するプログラムを用いれば損傷は防げるがサンプリング出来ない可能性の方が高い。
・サンプリングを断念する可能性はミッションの成り立ちからして想定してない。手ぶらで帰るわけにはいかないので何らかの方法で挑戦したい。(津田)

◆その他
・リュウグウ表面の岩の高さ情報がわかりにくいが、60×60cm四方の岩の高さが60cmということは考えにくいのでその半分ぐらいだとしても70cmあるサンプラーホーンに対して十分マージンを確保出来る。L-08Bに関して50cmまでの岩は見えているので降りられるだろう。50cmがグレーゾーン。(久保田)
・50mより下に降りる際に横方向の速度成分があるとズレてしまう。またLRFで地形の傾斜を見るが、傾斜に対して傾きを変える際にズレてしまう。近付くと重力の影響も受ける。(久保田)
・50m以下で精度が良くなる可能性もあるが、信頼性を高くする為には最悪ケースを考えている。(久保田)
・LRFが本当に取れるかどうか、その高度を確認するのがリハーサルの大きな目的。またLRFは横を見ているので大きな岩を検出すると近く見え、小さな岩は離れて見える。LRFのデータが変動するので、我々の考えている降下シーケンスで上手く対応出来るか、LRFの計測結果を制御に取り入れる3回目のリハーサルで確認してみないとわからない。(久保田)
・ピンポイントタッチダウンではターゲットマーカーを落とした後で一度上昇してから再度降下するので、通常のタッチダウンに比べて若干燃料を使う。どの程度上昇するかは色々な案があり、一旦ホームポジションに戻って地上で時間をかけてオフセット量を決めてから再度降下する案もある。ターゲットマーカーの追跡は機上で計算させるが、ターゲットマーカーのオフセット量は地上で(人間が)決める。(久保田)
・3回目のリハーサルでターゲットマーカーを落とした場合、撮った写真から周囲の岩の状況もわかるので、通常のタッチダウンか、ピンポイントタッチダウンを用いるか判断出来る。出来ればノミナルのシーケンスで行いたいが、50m以下の高度で精度が良くなければピンポイントタッチダウンに切り替える。(久保田)


No.2224 :小惑星探査機「はやぶさ 2 」搭載小型着陸機 MASCOT の分離運用に関する記者説明会 ●添付画像ファイル
投稿日 2018年10月16日(火)02時29分 投稿者 渡部韻

10月3日、JAXA宇宙科学研究所にて小惑星探査機「はやぶさ 2 」搭載小型着陸機 MASCOT の分離運用に関する記者説明会が行われました。(なお一部敬称を省略させていただきます)

◆登壇者
JAXA宇宙科学研究所 「はやぶさ2」プロジェクトチーム

プロジェクトマネージャ
津田雄一
MASCOT担当
岡田達郎
ミッションマネージャ
吉川真


○MASCOT分離前説明(10時15分、吉川)

9/30・10/1探査機降下の準備
10/2昼降下開始
10/3 11時MASCOT分離
10/3 16時探査機は3kmで停止・ホバリング

◆読売新聞:鉱物の組成を調べる分光顕微鏡の仕組みは
・MASCOTの底面に付いていて、「はやぶさ2」のNIRS3のように近赤外線でスペクトルを取る分光計の顕微鏡型で、表面に接して、表面を拡大して観測して鉱物組成を調べる。(吉川)

◆読売新聞:MASCOTの調べる鉱物組成は我々にどのようなものをもたらすのか
・色々なスケールで表面を調べるのが「はやぶさ2」の特徴で、探査機はリモートセンシング、上空から小惑星全体のスケールで物質の分布を調べる。サンプルは電子顕微鏡で物質がわかる。MASCOTはその中間、スケール的にはマイクロとミクロの中間。サンプルは大きくても数ミリだが、もう少し大きい数センチレベルの測定はMASCOTレベルで行う。(吉川)

◆NHK:分光顕微鏡はどういったものを調べられるのか。水分は調べられるのか
・直接水をを調べる訳では無いが、水分が含まれていればNIRS3同様3µで吸収されるはず。(吉川)


◆NHK:重力は調べるのか
・リュウグウの重力は主に「はやぶさ2」が接近したり離れたりする際の速度を正確に調べることで計る。MASCOTはバウンド時の加速度で計ることも出来なくもないが難しいのでは。(吉川)

◆毎日新聞:MASCOTにJAXA、「はやぶさ2」プロジェクトチームとして期待することは
・表面でのサイエンス観測に期待。写真の方はMINERVA-II1で撮影出来たが、科学として使えるデータを小惑星表面から取得出来るのはサイエンス的に価値がある。(吉川)

◆共同通信:MASCOTは1回だけバウンド出来るが移動距離は
・錘の回し方によって飛べる距離は設定出来る。最初は数十メートル移動を考えていたが現在は数メートルを考えている。これは1回ホップしてからバウンドして静定するまでに時間がかかりバッテリがもったいないこと、またリモートセンシングの結果で周辺の組成が一様だということがわかったので、無理して遠くに移動するより近くに移動して更にデータをとることにした。(吉川)

◆共同通信:昼夜観測する為にバッテリを採用したのか
・夜もデータを取りたいこと、また温度が高いとMicroOmegaが良いデータを取れないので夜動かしたいことからバッテリを採用した。(吉川)

◆NHK:磁力計の目的は
・小惑星に磁場はないと思うが、仮に微量でも磁場があった場合、小惑星の遷移、成り立ちを知る上で非常に参考になるのであえて載せたのだと思う。磁場があるということは表面の物質が一度別の天体で溶けて固まって、それがリュウグウに来たと推測される。リュウグウ上で溶けて固まったとは思えないので、元の天体の情報が磁場から分かる。(吉川)

◆林:分光顕微鏡は下に接していないと観測出来ないのか
・出来ないのでMobilityを回転させて向きを変える。もし表面の凹凸にはまってしまった場合はホップさせてしまえばいい。MicroOmegaで観測出来るかどうかは自律でわかるので、出来ない場合は姿勢を変える。(吉川)

◆林:ドイツ・フランスと協力してMSCOTを搭載する経緯と意味合い
・「はやぶさ2」を提案する以前、「はやぶさ」を打上げる前に「はやぶさ」後のミッションとして検討していた「はやぶさ Mk.II」まで遡る。「はやぶさMk.Ii」は「はやぶさ」とはかなり異なりよりアドバンスなミッションを行おうとしていた。割と大きな100kgクラスの着陸機を載せようと考えて、着陸機が進んでいるヨーロッパと議論を始めた。
・Mk.IIは「マルコ・ポーロ」という名前に変わりESAに提案されたが却下され、また「はやぶさ2」も「はやぶさ」より進んだことをやらなければ予算を取れないという事情からヨーロッパと話した結果、1/10サイズ・10kgの着陸機を積むことになった。(吉川)

◆林:日本の小惑星探索機が海外の着陸機を載せられる実力をもったということか
・ヨーロッパが「はやぶさ2」を信頼してくれた。また、もし仮に我々が同じような着陸機を作ろうとすると予算が膨れ上がってしまうので、ESAと協力することで一つの探査機でもより進んだミッションが出来るというメリットがあった。ヨーロッパにとっては、自分が作った着陸機を「はやぶさ2」が持っていってくれるメリットがある。(吉川)

◆日経:MASCOTで有機物や水分の存在が確認される可能性は
・分光顕微鏡では具体的な有機物が何かを調べるのは難しくて、せいぜい水分を含んだ鉱物があるかどうかがわかる程度。(その後の訂正で有機物もカバーしているそうです)(吉川)

◆荒船:小天体への着陸はフィラエに次いで2番目か
・小惑星・彗星への着陸は2番目、科学観測は初めて。(吉川)

◆荒船:MASCOTの移動が1回なのは電池の都合なのか
・着陸後観測してデータを送っても、もう1度分の時間が残るので、移動して観測してデータの数を増やすのが目的だと思う。(吉川)

◆NVS:MINERVA-II1を踏まえてMASCOTチームにフィードバックしたのか
・MASCOTチームは降下・着陸してから静定するまでの時間を気にしていた。MINERVA-II1の1時間半はMASCOTチームにとっても想定内だった。(吉川)

◆NVS:バッテリは15時間だが地上からコマンドを送ることはないのか
・姿勢がおかしければ自律で修正する。(吉川)(吉川)

◆共同通信:組成を調べるのはデータを降ろしてからなのか
・MASCOTは電池が残っている16時間の間に探査機へデータを送る。探査機はなるべく早く地上へデータを送るが、これには数日かかる。(吉川)

◆共同通信:分離運用の手順はMINERVA-II1と異なるのか
・分離はほぼ一緒。分離時にMINERVA-II1では水平方向のマヌーバで分離速度をキャンセルしていたが、MASCOTはゆっくりと分離されるので水平方向のマヌーバは無い。ただ分離後の上昇は(一気にホームポジションまで戻るのでは無く)3kmでホバリングする。(吉川)

◆渡部:分離後にONC-TでMASCOTを捜索するのか
・分離後の姿勢スキャンでMINERVA-II1同様ONC-T/ONC-WでMASCOTを捜索する。MINERVA-II1では1日ぐらいで画像が手元に届いたが(MINERVA-II1)は小さいので判別に時間がかかった。(吉川)

◆秋山:MicroOmegaに対してNIRSのチームはどこに期待しているか。またフィラエの実績を踏まえて欧州チームはどこに期待しているのか
・MicroOmegaとNIRSのデータはかなり似ているはずなので、マクロとミクロで比較できる。小惑星と彗星のデータの違いをチームがどう考えているかはわからないが、サイエンス的な議論には使えると思う。(吉川)


○MASCOT分離を確認(13時、吉川)

・分離が行われたのは日本時間10:58、高度51m(速報値では10:57)
・分離を確認出来たのは日本時間11:17
・探査機は正常でホバリング高度に向けて上昇中
・MASCOTからテレメは届いていて、我々を経由してヨーロッパ側に送られている

◆NHK:MINERVA-II1に続いて分離に成功したが、改めて今の気持ちは
・MINERVA-II1はJAXAのものだったがMASCOTはヨーロッパのものなので、是が非でもリュウグウに届けないと国際問題になってしまうので、分離が成功したことは本当にホッとしている。(吉川)

◆共同通信:分離高度は予定では56mだが誤差範囲か
・数メートル低いが問題無い。(吉川)

◆共同通信:MINERVA-II1とMASCOTの違い
・MINERVA-II1は表面の写真を撮るのがメイン。MASCOTも写真は撮るが、分光顕微鏡や磁場、赤外線による(小惑星表面の)熱の流れを観測出来る。(吉川)

◆荒船:MASCOTの観測結果からリュウグウの成り立ちがわかるのか
・一番期待しているのはリュウグウの進化の過程。大きな目的は惑星の形成過程に遡る。イトカワは有機物のない岩石だけのS型小惑星、今回はC型。こういったいくつかの天体の起源を調べていくと最終的に地球という惑星の起源に辿り着くと考えられる。今回はリュウグウの表面を調べることでリュウグウの形成過程を調べる際に非常に役立つ。(吉川)

◆荒船:MASCOTのデータが「はやぶさ2」の探査に影響を与えるのか
・「はやぶさ2」がこれからやる大きなことはタッチダウン。MASCOTが降りた場所にタッチダウンする訳では無いが、表面の様子がわかってくるとタッチダウンをする時の一つの参考になる。(吉川)

◆NHK:15時からの記者会見で今の質疑応答以外にわかることは
・吉川以外にMASCOTリエゾンの岡田が参加するので、MASCOTについての詳しい技術的な内容には答えられる。MASCOTの現状は17時のドイツの会見を待たないとわからない。(吉川)

◆NHK:リュウグウへの着陸に向けてMINERVA-II1、MASCOTと順調にステップを踏んできた今の気持ちは
・一番気にしているのはタッチダウン。(リュウグウ表面は)ボルダーが多く平らな広い場所が無い。ボルダーの少ない領域は面積が狭く、うまく探査機を誘導するには高い誘導精度が必要だが、MINERVA-II1やMASCOTで探査機の誘導精度が大分わかってきた。どのような誘導をすればこのごく限られた狭い領域に正確に降りることが出来るか検討中だが(MINERVA-II1やMSCOTの分離運用は)良い経験になった。(吉川)

◆NVS:はやぶさ2の通信から得られた内容は
・はやぶさ2が切り離したというテレメ情報、MASCOTから電波が届いていることは確認している。(吉川)

◆林:MASCOTの電池の寿命は切り離した直後から16時間なのか。
・MASCOTのスイッチを入れるのは分離とほぼ同時なので切り離してから16時間。(吉川)
◆林:着陸したと判断する仕組み
・MASCOTそのものにセンサがあり、着地したかどうかわかる仕組み。(吉川)

◆林:着陸したかどうかは「はやぶさ2」管制室チームでもわかるのか
・日本はMASCOTのデータを中継するだけで確認は全て欧州側(恐らくケルンの管制室)で行う。来日しているMASCOTチームは2人で残りは全て本国。2人は通信が確保出来ていることを確認している。(吉川)

◆林:着陸の時間がわかる時間はいつ頃か
・MASCOTの降下速度はMINERVA-II1同様3cm/sなので30分程度で着地しているはずなので、恐らくそれほど時間もかからずに着陸の時間はわかるはずだが、ドイツ側の発表を待つしか無い。(吉川)

・着陸したかどうかはすぐにわかるが、サイエンスのデータは16時間のうちに取っても探査機から地上に降ろすのは一週間ぐらいかかるかもしれない。
・ホバリング中にはMASCOTのデータ送受信だけでなく撮影もする。
・論文が出るまで発表されないようなサイエンスデータも、プロジェクト内のサイエンス関係者が見たいと言えば見せてくれる。日本側の未発表データもドイツ側に見せている。
・MASCOT搭載機器が観測出来る時間帯は16時間全てだが、機器によって使う電力が違ったりするのでお互いにシェアしながら観測している可能性がある。
・MicroOmegaは温度が高いと良いデータが取れないので夜に観測している。
・観測データが取れていること、データを探査機に送られていることを確認したら自律でホップする。


○MASCOTの分離運用に関する記者説明(15時)

最初に津田プロマネへの質疑応答

◆共同通信:これからの運用に向けての意気込みと嬉しさ
・MINERVA-II1、MASCOTと難しい運用を二つクリア出来たことは「はやぶさ2」運用チームにとっては更に大きな自信になったと思う。エンジニアリング的に1回実施したことを成功と呼ぶのは必ずしも確実とは言えない状況だが、2回連続して成功したというところで「はやぶさ2」運用チームの実力としても十分成功と呼べるのではないか。
・「はやぶさ2」自体としては目の前のMASCOT運用を全て完了させることが第一だが、その後は「はやぶさ2」本体の着陸に向けて確実に運用を進めていきたい。(津田)

◆読売新聞:欧州の着陸機を届ける(国際協力としての)重い責任があったのでは
・宇宙探査で大きなことをやろうとすると、一つの国では出来ないくらいチャレンジングなことをやることになるが、「はやぶさ2」はそれが出来た一例になったと思う。今回はドイツ、フランスがMASCOTという着陸機を開発したが、グループとしては8年以上技術的なやりとりやしてきて、開発や試験、運用などを積み重ねてきた。技術文化なども全然違う中でお互いを理解しながら、最後は一つのプロジェクトとしてまとまって運用出来たことが成功につながった。(津田)

◆読売新聞:リハーサルは中断したが分離運用では50mまで近付けたことで降りることには慣熟してきたが、一方でMINERVA-II1が送ってきた画像を見るとボルダーが多いという疑念がある。その辺り、どこまでプラスに評価出来て、どこからが難しいと感じているか
・着陸させる技術において、MINERVA-II1は北半球、MASCOTは南半球に降ろしたことで、、我々が小惑星で狙おうとしていた全領域にアクセス出来るということが技術的に確認出来た。一方アクセス出来る場所に真っ平らな場所があるかというと無い。着陸に向けては今日も低高度での観測を続けているので、それらのデータも踏まえて着陸に臨みたい。(津田)

◆読売:降りることとタッチダウンではハードルが違うのか
・接近についての確証は十分持てたが、タッチするとなると表面の凹凸に対して探査機がどう応答するか、本当に正しい場所に降りられないと探査機を危険な状態に陥れてしまいかねないという、更に1段高い技術的ハードルがある。(津田)

◆タッチダウンリハーサルでターゲットマーカーを落とすのか
・リハーサルでいきなりは落とさない。高度20-30mに探査機を正しく導く試験。(津田)
◆落とすターゲットマーカーの数を増やす予定はあるのか
・元々「はやぶさ2」はクレーターに着陸する技術としてピンポイントタッチダウンという機能を持っているが、これをいきなり使う予定はない。(津田)

◆大塚:タッチダウンに向けて誘導の精度が重要になると思うが、今回の降下の精度はどうだったか。前回のMINERVA-II1の分離運用を受けて変更した点などはあるのか
・誘導の精度は(速報的なので精査が必要だが)MINERVA-II1が10mだったのに対して今回のMASCOT運用も同様の精度だった。MINERVA-II1からの改善点は特にない。タッチダウンリハーサルは更に低高度に行くのでまた変わってくる。(津田)

◆毎日:DLRまたはCNESからメッセージは
・まだ来ていない(津田)
・サイエンスのチームでは何人かからおめでとう、と言われた(吉川)
・今回はMASCOTチームからのGO/NOGOもあったので、最後にMASCOTチームからGOが来た際

◆毎日:Twitterで分離の際に「Good Luck, MASCOT」と声をかけたとあったが
・分離直前のGO/NOGO判断の際にMASCOTチームにも最後の意思確認をしたが、長年一緒にやってきたチームに対して、このチームだからここまでやてこれた、という意識を共有したかった。(津田)

◆荒船:国際ミッションとして何か普段と違いがあったか
・責任は重く感じていた。意思疎通は十分取れていて技術的な心配も無かったが、現在開催中の国際会議でも速報が出されると聞いていたのでいつもよりもプレッシャーは感じていた。技術的な緊張はいつもと変わらない。(津田)

◆荒船:今後のスケジュールは
・今のところ変えていないが次回の記者説明会で話せる。(津田)


MASCOTの概要説明(岡田)

・ドイツとフランスが中心になって開発
・通信機部分は日本と連携して開発
・観測装置はドイツ・フランスの大学も協力
・工学的な目的が主体のMINERVA-II1に対して、科学観測を主眼に開発
・箱形の理由は製造上の理由と、探査機から抜け出しやすい形状
・CFRPのフレームはネジを使わない一体成形で、それ自体が緩衝材として働く
・CCOM通信機は日本側が提供したものでMINERVA-II1と共通
・探査機側の通信機はスペースの都合でMINERVA-IIと共用
・Mobilityは回転するレバーの先に錘が付いていて、この錘の回転で生じるトルクの反動で移動・回転する
・各面に設置された太陽電池とLED&検出器でどの面が接しているか判断する
・目的地の上空60mで分離シーケンスに入る
・地面に衝突したMASCOTはバウンド後静定、Mobilityで姿勢を正す
・バッテリは16時間分あるので2日間は観測を続けられる
・降下後の観測とデータ送信を終えるとホッピングで別の地点に移動して観測
・飛ぼうと思えばかなり遠くまで飛べるが、ホッピング後の静定に時間がかかってしまうと肝心の観測が出来ないので、それほど遠くまでは飛ばさない
・2日目の観測およびデータ送信後、バッテリの残りがあれば3日目も観測
・MASCOTの降下地点は、MASCOTがバウンドして「はやぶさ2」のタッチダウンサイトに入らないこと、バウンドした時の安全性、4つの観測機器に最も問題の無いことを考慮してMA-9に決まった
・分離時にMASCOTが確実に分離されたか、また正しく降下しているか確認する為に、まず「はやぶさ2」のONC-W2(横向き)で撮像、次にONC-W1(下向き)で撮像、その後上昇する探査機のONC-TとONC-W1でバウンド中および静定後のMASCOTを撮像
・分離後はMASCOTとの通信を確実にする為、探査機は高度3kmでホバリング


質疑応答

◆NHK:現時点の「はやぶさ2」の状況は
現時点ではホバリングへ向かう途中。高度3kmまで上昇するのに要する時間は3.5〜4時間・。静定(ホバリング)しようとすると上昇のスラストを断続的に行う必要がある。(岡田)
・おおむね高度3km付近まで上昇して、その高度を保持する運用なので、厳密に何時からホバリングを開始したという訳ではないが、予定では16時から予定高度をキープしている。(吉川)

◆?:MASCOTの「その場観測」の優位性は
・サンプルリターンでは弾丸で表面の状態を崩してしまい、地球に戻ってくる間にもカプセルがシェイクされたりして崩れてしまう。つまり元の表面状態が保たれない。MASCOTは表面状態をそのままで観測出来る。(サンプルリターンは)物質が変化するわけではないが物理的な状態はかなり変わる可能性があるので、その場で観測することは重要。(岡田)

◆読売:分光顕微鏡の仕組みについて。水があるかどう調べるのか
・水といっても氷の状態であるのではないので、OH基が存在するかどうかを波長で見る。
◆読売:リモートセンシングの結果では水分が少なかったが、そういった観測とは違う結果が出ることもあるのか
・リモートセンシングで調べる場合フットプリントが非常に広いが、MicroOmegaは数ミリの領域を数十µレベルで表面の粒子を見られるので、平均としてはあまり水が無い状態であっても、粒子単位では見つけられるかもしれない。

◆読売:(狭い領域しか観測しないので)見えたとしても全体を表すとは限らないのか
・あくまでも観測したところだけの結果。(岡田)

◆読売:含水意外の鉱物特性はどんなものが調べられるのか
・吸収バンドを見えるもの。たとえば含水鉱物にも色々な種類がある。有機物も水とは別の波長で特徴的な吸収を示すものもある。種類までは特定するのは難しいが、ある/ない、多い/少ないはわかる。観測には太陽の光の反射を見る。(岡田)

◆日経:はやぶさ2タッチダウンよりも前に有機物の存在がわかる可能性は
・ある。ただしリモートセンシングの結果ではあまり大量には無さそうなので、キャリブレーションに時間がかかる。データを降ろすのに早くても1週間、そこから分析するので早ければ数週間。年内には発表する予定。(岡田)

◆大塚:MINERVA-II1の写真などを見ると表面はかなり凸凹しているが、MicroOmegaは表面からどのぐらい離れていても観測出来るのか
・焦点距離はかなり近くないと観測出来ない。MASCOT底面に出っ張ったMicroOmegaの先端が表面に接していないとダメ。MASCOTには数センチ移動するモードもあるので、一回観測してダメならホッピング…という訳では無く、ちょこっと動いて観測することも可能。(岡田)

◆大塚:ジャンプして立ってしまった場合、一軸だと姿勢変更がなかなか難しいのでは
・レバーは一軸ではなくちょっと偏心しているので、一方向ではなくそれ以外の方向にも回転することを期待している。(岡田)

◆大塚:NIRS3とMicroOmegaが観測する波長は同じか
・NIRS3よりも長い、0.99〜3.65µ。水の吸収は2.7µ。有機物は3.2〜3.4µぐらい。
・有機物はNIRSではカバーしていないがMicroOmegaではカバーしている。(岡田)

◆荒船:岡田さんの役割は
・元々サイエンス側なのでMASCOT搭載観測機器の検討から始まり、開発、探査機との技術的なインターフェース作成、実運用に即したテレメトリ・コマンドの設計、地上試験、打上げ後のチェックアウト、実運用ではコマンドを打って着陸機の状態を確認している。
・もともと宇宙研の運用経験があるので、観測機器を使ってどのようなことをやるかが本来の仕事だが、インターフェース面の方が圧倒的に長く対応している。(岡田)

◆荒船:磁気のほとんどない小惑星ランダーに磁力計を載せた意義
・未知の小惑星なので基本的な観測項目には意味があり、磁場も重要な観測項目。またこの磁力計は搭載実績が豊富であり、また太陽風など繊細な磁場の変化も検知出来るので、たとえば分離から着陸、静定までのMASCOT自体の運動もわかる。(岡田)

◆荒船:MASCOT分離時点での感想、今後に期待すること
・リモートセンシングの結果、期待を裏切る小惑星だった。表面に降りても期待を裏切る結果だった。カメラについてはMINERVA-II1の写真があるのである程度予測出来るが、顕微鏡や磁力計が想定していない結果を出すと面白い。

◆秋山:MicroOmegaの観測サイズと熱放射計が計る「熱慣性」のサイエンス的目的
・イメージキューブとは縦横(空間)×波長。MicroOmegaの場合は画角3mmに対して照射する光の波長を0.99μから3.65μまで320ステップで変化させて観測する。
・熱慣性とは温度の変わりにくさ。同じ岩でも空隙が多い場合と稠密な場合とでは科学的な特性は一緒でも物理的な特性は違う。空隙が多いと熱しやすく冷めやすい=熱慣性が小さい。稠密なものは熱しにくく冷めにくい=熱慣性が大きい。この熱の伝わりの違いを観測すれば実際に割ったりしなくても物理的な状態がわかる。(岡田)

◆秋山:岩の物理特性を調べてわかることは
・転がっている岩が稠密なら、かつてその岩が出来た天体で稠密な岩が出来るような変性作用が起きたことになる。岩に隙間がいっぱいあれば、そのような変成作用が起きなかったことを意味する。表面に転がっている石から昔の状態がわかる。(岡田)

◆林:MASCOTの欧州ならではな部分は
・日本でこれだけの観測装置を用意することは出来ない。これは様々な小型軽量な観測装置を作ってきた過去があるので、非常に短い期間に小型軽量なものを用意出来た。
・ロゼッタの着陸機・フィラエで使用されたバッテリー、CPUなどと共通のもの、またはそのアップグレード版がMASCOTで使用されている。経験者も豊富で、MASCOTの立ち上げをやったのはフィラエの担当者たち。フィラエ運用中は一度抜けたが今は戻ってきて運用等に携わっている。MSACOTのバウンドのシミュレーションもフィラエ担当者たちによるもの。(岡田)

◆林:短期間での開発における課題は
・10kgしかない中で必要な科学観測を実現しなくてはならなかったことが非常に難しかった。着陸機の重量の30%を観測装置が占めているのは割合として非常に大きい。着陸機本体の軽量化をすすめざるをえなかった。

◆林:先ほどの「期待を裏切った」の意味は。何を期待しているのか。
・地上観測では点にしか見えなかった小惑星が、想像していた球体ではなくライトシェイプだった。
・もっとはっきり見えると思っていた水の吸収がよく見えなかった。
・我々は(隕石ぐらいしか)比較対象をもたないので「〜隕石に近い」といった比較をせざるを得ないが、それらとは全く違う、見たこともない物質・有機物だと面白いと思う。
◆日経:通信機はJAXAが開発したものなのか
・MINERVA-II1と同じものでJAXAが開発。(岡田)

◆日経:「はやぶさ2」の電波が強かったのでMINERVA-II1が電波の出力を上げなかったという予想外の事態が発生したが、MASCOTでは解消されたのか
・通信内容は確認していないが、回線上はデータは取れている。(岡田)

◆とびもの学会:側面にあるMASCAMなどは剥き出しなのか
・剥き出しになっている。当初はカメラの視野のみ確保する設計だったが途中からこの形に変更された。開口しているといっても内側のエレキは保護されている。観測機器(カメラと熱放射計)との干渉を考慮して中途半端に保護するよりはこの形の方が良いと彼らは判断した。(岡田)

◆NVS:分離時の「はやぶさ2」側マヌーバ等のMINERVA-II1との違い
・MASCOTは5cm/sで放出されるので探査機側でマヌーバを行う必要はない。(岡田)

◆NVS:MASCOT通信中はMINERVA-II1と通信出来ないのか
・複数同時に通信することも可能だが、MASCOT運用時はMSACOTのみで使っている。(岡田)

◆NVS:分離後に通信が途切れる期間はあるのか
・ONC-Tでのスキャン時にリンクが途切れる。(岡田)

◆その他

・MASCOTは姿勢を確認してから観測するのではなく観測してみてダメなら姿勢を変える
・MicroOmegaはイメージキューブ作成に1回あたり15分かかるが、これは冷凍機を起動→撮像→元の状態に戻る時間なので、冷やした状態で何枚か撮ることは可能。また視野が3mm角程度しか無いので、本体をわずかに(1センチ程度)動かして何枚か撮影する。
・磁力計と熱放射系は常に観測している。カメラとMicroOmegaは電力の関係で同時には観測しない。
・MASCOTのバッテリは一次電池なので「はやぶさ2」機上で充電は出来ないが、MASCOT搭載機器をチェックする為の電力は「はやぶさ2」から供給を受けている。
・機上のMASCOTは探査機から伸びたピンをMASCOT内で掴む形で固定している。分離時はこのピンをNEAで焼き切るT

※なお、MASCOTは予定されていた観測を全て終え、「はやぶさ2」で最後の信号を受信したのは分離から17時間後の日本時間10月4日4:04でした。


No.2223 :打ち上げの軌跡 ●添付画像ファイル
投稿日 2018年10月9日(火)02時35分 投稿者 柴田孔明

H-IIBロケット7号機の軌跡


No.2222 :第2部登壇者 ●添付画像ファイル
投稿日 2018年10月9日(火)02時31分 投稿者 柴田孔明

記者会見第2部登壇者


No.2221 :H-IIBロケット7号機の打ち上げ経過記者会見 ●添付画像ファイル
投稿日 2018年10月9日(火)02時30分 投稿者 柴田孔明

 H-IIBロケット7号機は2018年9月23日2時52分27秒(JST)に打ち上げられ、搭載していた宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機を所定の軌道に投入しています。同日4時30分頃から、打ち上げ後の記者会見が竹崎展望台の記者会見室で開催されました。
(※一部敬称を省略させていただきます。また肩書については、会見時のものです)

・登壇者
文部科学省 研究開発局長 佐伯 浩治
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 理事長 山川 宏
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部長 渥美 正博

・打ち上げ結果について(渥美)
 三菱重工業株式会社及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構は、種子島宇宙センターから平成30年9月23日午前2時52分27秒(※日本標準時)に、宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機を搭載したH-IIBロケット7号機を打ち上げました。
 ロケットは計画通りに飛行し、打ち上げから約14分59秒後に「こうのとり」7号機を正常に分離、所定の軌道に投入したことを確認致しました。
 ロケット打ち上げ時の天候は快晴、西の風0.7m/s、気温は24度Cでありました。
 こうのとり7号機が軌道上での初期機能確認を無事終了し、国際宇宙ステーションへの貨物の輸送を成功裏に完遂されることを心より願っています。
 今回の打ち上げでは、悪天候により5日、並びに2段液体酸素タンクに取り付けたバルブのトラブルで7日、合計12日の遅れでの打ち上げで、皆様にご心配をおかけしましたが、本日無事打ち上げる事ができまして、非常に安堵しております。あらためまして関係各所のご協力に感謝致します。
 本日の打ち上げでH-IIBロケットは通算7機中7機の成功、成功率は100%です。H-IIAと合わせますと、通算46機中45機の成功、成功率97.8%。またH-IIAとH-IIBの40機連続での打ち上げ成功となります。当社は、今回のトラブルもございますし、より一層確実な打ち上げを提供できるように、さらに心を引き締めて細心の注意と最大限の努力を傾注してまいります。
 今回の打ち上げに際しまして、多くの方々にご協力ご支援頂きましたことを、あらためまして御礼を申し上げます。今後とも連続成功に向けて頑張っていきたいと思いますので、引き続き御支援を賜りたいと思います。
 
・打ち上げ結果について(山川)
 ただ今三菱重工業株式会社から、H-IIBロケット7号機による国際宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機の打ち上げ成功に係るご報告がございましたが、私からは今回の打ち上げにあたり、JAXAの役割であります安全管理業務を達成したことをご報告致します。この打ち上げは地元の皆様をはじめとして、関係機関のご支援ご協力のもとに成し得たものでございます。本打ち上げに関してご支援ご協力をいただきました皆様に対してあらためて御礼を申し上げます。今後とも確実な打ち上げが出来るよう誠心誠意取り組んでまいります。
 今回「こうのとり」7号機では、6号機に引き続きまして搭載する、日本製リチウムイオン電池を使用した新型のISSバッテリ、米国航空宇宙局NASA及び欧州宇宙機関ESAの実験ラックといったISS運用に欠かせない物資や、「きぼう」から船外に放出する3基の超小型衛星など、過去最重量の貨物6.2トンを輸送します。「こうのとり」7号機はこのあと9月27日に国際宇宙ステーションに到着し、ロボットアームによる把持が27日20時54分頃、そして国際宇宙ステーションへの結合完了が28日午前5時10分頃の予定であります。確実に輸送ミッションを成功させ物資を届けてまいりたいと思います。この物資輸送に加え、未来に繋がる国際的にも意義の高い技術を実験する機会としても「こうのとり」の価値が広がっております。我が国独自のISSからのサンプル回収技術の実証実験を行う、小型回収カプセルを今回初めて搭載しております。関係機関と協力し、今回の技術実証を成功させるよう努力してまいります。

・会見者挨拶・佐伯
 林文部科学省の談話にありますが、今回の打ち上げ成功によりましてH-IIBロケットは7機連続、H-IIA・イプシロンを含めました基幹ロケットといたしましては43機連続での成功となっておりまして、我が国のロケット技術の着実な発展と信頼性の向上を示すものでございます。私どもとしても大変喜ばしく思っております。今回のロケット打ち上げを成功に導かれました三菱重工業、JAXAを始めとする関係者の皆様のご尽力に敬意を表しますとともに、ご協力ご支援をいただいた多くの皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
 「こうのとり」7号機では国際宇宙ステーションISSへの確実な物資補給に加えまして、先ほど山川理事長から話がありました、ISSからのサンプル回収といったミッションも予定されています。今後「こうのとり」7号機が順調に運用され所期の目的を達成されることを期待しております。
 文部科学省といたしましても今後「こうのとり」7号機がこれら重要なミッションを達成できますよう、引き続き関係機関とともに尽力してまいります。
 また基幹ロケットのさらなる安全性信頼性の向上や、次期基幹ロケットであるH3ロケットの開発にも着実に取り組んでまいりますので、引き続きご支援を賜りますようよろしくお願いいたします。

参考・文部科学大臣談話
 『本日、H-IIBロケット7号機の打ち上げに成功し、搭載していた宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機が所定の軌道に投入されたことを確認いたしました。
 今回の打上げ成功により、H-IIBロケットは7機連続、我が国の基幹ロケットとしては43機連続での打上げ成功となり、着実に信頼性を向上させていることを、私も喜ばしく思っております。
 今後、「こうのとり」7号機が、国際宇宙ステーションの確実な物資補給や、その後に続く実験サンプルの回収といった重要なミッションを達成できるよう、文部科学省としても関係機関とともに引き続き尽力してまいります。 平成30年9月23日 文部科学大臣 林 芳正』

参考・内閣府特命担当大臣(宇宙政策)談話
 『本日、H-IIBロケット7号機により、宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機の打上げが成功したとの連絡を受けました。
 国際宇宙ステーションの運用の根幹を支える物品等の輸送を担う我が国の「こうのとり」は、今回で7回連続の打上げが成功したことに示されるように、国際宇宙ステーション計画の中でもその高い信頼性が国際的に評価されており、今後とも、国際宇宙ステーションの運用に大きく貢献することを期待します。
 内閣府特命担当大臣(宇宙政策)として、国際宇宙ステーションの取組も含め、今後も引き続き宇宙基本計画を着実に推進してまいります。 平成30年9月23日 内閣府特命担当大臣(宇宙政策) 松山 政司』

・質疑応答
朝日新聞・これまで三菱重工はオンタイム打ち上げを誇ってきたが、今回のバルブの異常によって率を下げる結果になったが、この受け止めと、今後のH-IIA/Bの打ち上げへの影響についてお尋ねします。
渥美・今回のバルブの不適合に関しましては、二つのレベルで判断しておりまして、まず何といいましてもトッププライオリティといたしましては打ち上げを成功させることでございます。その意味で、前回のバルブの異常検知をした点、それから躊躇無く中断の判断をしたことは、まず適正であったという風に判断しております。一番問題になりますのは、打ち上げ日のその前に異常を見つけ出せなかったことになる訳ですが、これにつきましては、今のプロセスの中にまだ改善すべき事項が残っているという事だと捉えておりまして、これを丁寧に調査して対策を打つということが、後続のロケットの信頼性を上げることに繋がる事だという風に判断しております。オンタイムに関する色々な評価につきましては、お客様にとって重要なのはまず成功すること、その次にオンタイムの数字というものが出てまいりますけども、併せて同時にお客様として一番注意されることは、トラブルが起こったときに、トラブルの中身をいかに適正に理解して、それをクリアして直ちにリカバリできるかどうか、という力もあわせて評価をされる中身だという風に認識しております。数字上の話が下がったということと、お客様の信用を数字上で失ったということは、今回のものについては、お客様の評価を最終的に待つところでございます。速やかに報告する形で、これからも信頼の向上に努めていきたいと考えております。

NHK・今回バルブもあったが、天候でも3回延期があったと思うが、天候の判断が年々難しくなってきているのか。そこの受け止めと、今後の改善点について。
渥美・天候につきましては、ここのところ経験したことがないぐらい前線が停滞しているだとか、グアムに台風が近づくとか、今回も割と近いところに前線がいますので、その意味では経験したことがない。何らかの手といいましても、天候で駄目なところは駄目ということがありますので、このあたりは気象の中身を読んでいくということに尽きるのかなと現時点で考えております。

日本経済新聞・ロケットは一発勝負で試験飛行ができないという難しさがあって、今回不幸中の幸いということで直前に不具合を発見できたが、あらためて今回の7号機の打ち上げで学ぶべきところはどういうことがあったか。これを次のロケットにどういった形で繋げたいか。
渥美・まずロケットの当日に行う機能点検で、確認できるところは全て確認して飛ばすという事がいちばん重要なプロセスになりますけど、その意味ではその部分はきちんと機能していると判断しております。これは打ち上げ当日の判断の仕方として適性であったということでございます。その前までに、射場にトラブルを持ち込まないにするという面で、やはり改善すべき点があるんだということをあらためて認識致しました。この点はまだ調査中でございますけども、この調査をきちんとやりきっていくということが、現状のプロセスよりもさらに信頼性の高いプロセスに変えることになりますので、そこを真摯に進めていきたいと考えております。

南日本新聞・こうのとりは7機全て成功で、世界で運用している補給機で唯一失敗していないが、それについての所感をお聞きしたい。
山川・こうのとり連続7回打ち上げ成功で、まだISSには到達していませんけども、それを成功させていきたいと考えています。こうのとりに関しては連続成功で失敗が無いということ、特に大型の重量物を輸送できるという意味でも唯一の輸送船であるという観点がありますので、引き続きJAXAとしても能力を維持していきたいと考えております。

南日本新聞・こうのとりは9号機まで計画されている。次はHTV−Xに移行していくと思うが、成功してきた実績をどう生かしていくのか。
山川・引き続きこうのとりとH-IIBを成功させていきたい。次の世代のHTV−Xに関しては基本設計を行っているところです。特に搭載容積ですとか、あるいは全体のコストですとか、さらに良くしていく方向性で設計をしているところであります。これまでの信頼性を維持することももちろん力を注いでいきたいと考えておりますし、同時に運用の観点からこうのとりで蓄積してきたものをHTV−Xにも反映させていきたいと考えております。


・打ち上げ経過記者会見第2部

・登壇者
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 有人宇宙技術部門 HTV技術センター 技術領域主幹 田邊 宏太
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 第一宇宙技術部門 鹿児島宇宙センター所長 打上安全管理責任者 藤田 猛
三菱重工業株式会社 執行役員フェロー 防衛・宇宙セグメント 技師長 打上執行責任者 二村 幸基

・質疑応答
読売新聞・今回12日打ち上げが延期されたが、小型回収カプセルの実証実験が事前説明のあった11月実施から変更されることはないか。
田邊・結合が27日に行われ、一連の係留中のミッションが順調にいけば、回収カプセルのミッションも11月頃で変更はないと、今のところ考えております。

南日本新聞・成功が伝わったとき、握手と笑顔とガッツポーズをしてらっしゃったが、そのときのお気持ち。
田邊・この打ち上げが成功したということで、凄くほっとしている。同時に打ち上げに関わられた皆さんに対して感謝申し上げます。ただ「こうのとり」としてはここからが本番。ロケットからは分離されましたけれども、分離されたときにミッションの成功に向けてのバトンを受け取ったと考えていますので、この大事なバトンを確実に次に繋げるということで、まずはいまこの瞬間も筑波の方で運用をやっていますけども、27日夜のISS到着に向けてまずは集中したいと思っています。係留後も一連の大事なミッション、ISSバッテリだとか、超小型衛星などいろんなミッションが目白押しですので、そういうものを確実にこなしていきたいと思います。

南日本新聞・10月29日のH-IIA40号機の打ち上げには影響は無いのか。
二村・現在のところ影響はないと思っています。

南日本新聞・今回、天候で何回か延びた。氷結層が1.8kmの規定を下回っても延ばしたのが複数回あったと思うが、いつにも増して慎重な打ち上げ執行をなさったという印象を持ったが、その辺りも含めて今回の打ち上げを振り返っていかがでしたでしょうか。
二村・気象の判断につきましては氷結層のみならず風とかいろんな要素がございますので、それを総合的に判断したということでございます。最初の延期に関しましては大型台風がグアムを直撃したということもありまして、運用ができないということもあって延ばさせていただいた。基本的には前線の活動をどう読むかが重要なポイントでして、JAXAからも気象データを適切に提示をいただいておりまして、その中で最もリスクが少ない日を選びたいということで検討した結果でございます。

朝日新聞・今回のトラブルの原因が突き止められるか、突き止められないとしても、次の打ち上げ期間は変わらないのか。
二村・直接的原因というのは部品の変形という問題だった。これに関しては既に後続号機用に準備しておりますバルブを、追加スクリーニングをやるということで作業を進めておりまして、最終的に直接的原因に結びついた原因が明確にならない限りは、今回と同様にバルブの交換も考えておりますが、それも含めても打ち上げ日はキープできるかなと思っています。

朝日新聞・それは後続機のものを40号機に入れるということか。
二村・現在もう40号機にはバルブがついておりますが、今回の原因がわかっていない場合については、後続号機用に既に作っているバルブを追加スクリーニングしたものをこちらに持ち込んで、こちらで機体の中で交換するということになります。

朝日新聞・異常が無くても原因がわからなければ交換するのか。
二村・可能性はあります。

朝日新聞・それは思案段階であって、まだ交換するか判らないのか。
二村・原因をまだ調査中でございますので、その原因が早期にわからないようであれば、我々としては交換する方が早いと判断する時期が来ると思っています。日程的には、どこまで待てるかということは検討中であります。

朝日新聞・具体的にどのようなプロセスを踏んで原因究明をするのか。またどのような形で説明するのか。
二村・まずバルブに関して言いますと、これまで設定されたプロセスを正しく踏んできて、物としてちゃんと出来たものを取り付けていた、これは工程的に確立してきたものです。ただし今回起きた事象については、そのプロセス中のどこに問題があるのか、あるいは可能性がどこにあるのか、というようなことをまだ追及中でございますので、それがある程度はっきりしたところで、必要に応じて皆さんにご報告するようになろうかと思います。

日本経済新聞・15日の打ち上げ直前にバルブ異常が発見され、0.1ミリの変形が影響した。素人からするとこの0.1ミリの変形がロケットの打ち上げに影響するのか、というところも驚きだが、あらためてロケットの打ち上げを確実にやることの難しさについて、どのように受け止めているのか。
二村・ロケットは飛ばして初めて仕事をする道具と考えております。飛ばす前までに正常であることを確認しきって打つことが我々の使命だと思っています。もともとロケットというものは限界的に余裕が無い設計をしておりますので、そういった意味で難しい設計をしておりますけども、その中で機能的なもので不適合を起こせば、搭載しているお客様に大変なご迷惑をおかけするという意味では、我々としてはさらに改善することでより良い、あるいはより信頼度の高いものを提供できるようにしていかなければならないという思いが、今回さらに強くなりました。もともと簡単な世界ではないと思っているが、あらためてそれを認識したということでございます。

日本経済新聞・1つの部品が致命的な失敗に繋がりかねない中で、H-IIAで100万点、H-IIBで125万点の部品点数がある。渥美さんから、より信頼性の高いプロセスを築きたいという言葉があったが、一方で検査や設計を充実していくと、コストも上昇する懸念も残る。次の基幹ロケットであるH3は、コスト競争力をいかに高めるかが課題で、このあたりのコストと信頼性をどのように両立していきたいのか。
二村・なかなか難しい。我々としてはコストをいかに下げるかということと、信頼をいかに確保するかは永遠のテーマになっているのはおっしゃった通りであります。我々としてはいわゆる無駄な作業、重複するような作業をいかに削減するかという事には取り組んでまいりましたけれども、簡略化して省略する道は一切選んできておりませんので、このあたりはこだわり続ける必要があると思っています。あとはそれの手法として、いかに安くできるようにするか、それは道具立てでありますとか、あるいは同時に行うとか、そういった工夫でコストを下げる、それの合わせ技で進めていく必要があると思っています。

日本経済新聞・スペースXでは、内製ですとか汎用品を取り込んで、サプライヤーに任せず自社内で完結してコストを下げる手法が成功している話もあるが、そういった仕組みとか手法をMHIとして積極的に取り入れる考えはあるか。
二村・そこについては特にコメントできる状況に無い。当然我々としてはベンチマークもしながら、我々としていちばんいい手法を探していくことになると思います。

共同通信・取り替えたバルブについてX線での検査をしたとのことだが、打ち上げ前の検査で普段に無い追加の調査はしたのか。
二村・交換、今回対象となったバルブは、交換をいたしまして、その後は通常の点検を行っております。交換部位の漏れ点検はもちろんしておりますけども、それ以外のバルブの機能点検は通常の点検を行っております。

共同通信・バルブの追加スクリーニングというのは具体的にどのような調査をするのか。
二村・トラブルを起こしたバルブに関しては、工場内においてリリーフ圧力をまずは確認した上でX線CTをとって内部の形状変化が無いことを確認して今回持ち込んでおります。万が一、次の号機のバルブを交換する場合には、ほぼ同じプロセスを経ると思っています。

NVS・今回、延期が長引いたが、HTVのレイトアクセスの品は点検したり交換したりとかがメンテナンスとしてあったのか。
田邊・交換というのは無かった。ただし温度条件を少し低めに設定したりという工夫はした。

NVS・現状の「こうのとり」のステータスはどうなっているか。
田邊・「こうのとり」はロケットから分離された後すぐにデータ中継衛星との通信を確立して、地上でモニタできる状態になりました。その後3時50分くらいに三軸確立といいまして、それぞれ所定の向きに整えるところまで終了しています。現時点で引き続き運用していますけども、推進系のチェックアウトとかいろんな機能点検をして、日本時間の10時半くらいに1回目の大きめのマヌーバで高度を上げる計画になっております。

NVS・バルブを交換したあとの第2段酸素タンク圧は、完全にノミナルで打ち上げられたのか。
二村・おっしゃるとおりです。

共同通信・延期のとき重大な課題を抱えたとおっしゃっていたと思うが、1週間の延期で打ち上げられたことの受け止めや所感。
二村・機体の不適合で打ち上げを延ばしたことも含め、HTVの皆様には大変ご心配をおかけして、なおかつ絶大なるご協力をいただいておりまして、我々のスケジュールの変更に対して柔軟にご対応いただいたことにまずは感謝を申し上げたいと思っています。一週間でリトライできたのは、まずは直接的な原因を発見して、それに対して手を打って、その機体を作り上げることをやってくる訳ですけども、これに関して我々も総力をあげてやったということで、その意味では満足しております。ただ、また新たな課題がひとつ見つかったなという気持ちもございますので、それについては今後の活動に反映していきたいと思っています。

NHK・バルブ変形があって原因は調査中とのことだが、見立てや可能性があれば。
二村・そこは予断を入れないようにして、可能性のあるところは全部潰していきたいと思っております。特に推定など個人的な考え方を反映させることはございません。

NHK・試験で過大な圧力をかけたことなどが考えられるのか。
二村・可能性として否定はいたしませんけども、それ以外の可能性も全て潰さないと真の原因を突き止めたことにはなりませんので、あらゆる可能性を排除しないということで取り組んでいくつもりです。

NHK・今回、H-IIA/Bとしては延期回数が過去最も多い。受け止めと意気込み。
二村・予定した日に打ち上げられなかったことについて、私としては残念な気持ちはございますけども、遅延そのものの日数ですとか、リカバーした期間ですとか、やはりお乗りいただくお客様の評価を待つのが本来の姿だと思っております。今後そういったこともお伺いしながら次に進めていきたいと思ってます。
藤田・とにかく無事打ち上げを成功させることを第1優先にされて、適切な判断をされたと考えています。今回起きたような事も含めて、これからますます信頼性を向上させて、H-IIA/BそれからH3へと繋げていくように私どもも努力していきたいと思っております。

NHK・JAXAで天候判断をなさっているが、そこはやはり難しさがあったのか。
藤田・今回、前線が長らく停滞するとか、グアムに強烈な台風が発生したりとか、少なくとも私の記憶では経験の無いような状況でもありましたので、天気の判断というのは三菱重工さんと協議しながら進めておりますけども、難しいところはあったかなと思っています。

以上です。


No.2220 :MINERVA-II1の状況およびMACOT分離運用について ●添付画像ファイル
投稿日 2018年10月2日(火)04時14分 投稿者 渡部韻

9月27日、JAXA東京事務所にて小惑星探査機「はやぶさ2」の定例記者説明会が行われました。(なお一部敬称を省略させていただきます)

写真はMINERVA-II1搭載機器の電力使用状況等を調べる為の試験機で、円筒上面に見えるのはアンテナ、側面に見える開口部は広角カメラの設置箇所です。穴の上下に見える金属部分(上側はカプトンテープが貼られています)は充電用の接点で、ローバーをケースに収めるとローバー放出機構(バネで押される板)の両側に見える小さな接点と接触します。


◆登壇者

JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」プロジェクトチーム
ミッションマネージャ
吉川 真

MINERVA-II1担当
吉光 徹雄

ドイツ航空宇宙センター(DLR)
MASCOTシステムエンジニア
佐々木 要



◆MINERVA-II1の状況について(吉光)

・ローバーは19日夜から最終チェックが行われた
・分離2時間前にスイッチオンされた
・分離は臼田局から行われ、概ね1Sol(Solar Day、小惑星の自転周期で地球時間の約7.6時間)毎にマドリッド、ゴールドストーンなどの海外局へ切り替えられた。翌日の日中また臼田へ戻る24時間運用を実施。

◆Sol.1(臼田パス)
・小惑星の正午ぐらいに分離したので夜まで2時間弱。
・このパスでローバーの電波は確認出来たがテレメトリは得られなかった。ローバの電波がローパワーからハイパワーに切り替わらなかった為だが、これは中継を行う「はやぶさ2」の電波が強かったので(「はやぶさ2」が)近くにいるとローバが判断してしまった為だと推測される。コマンドを送って対処。

◆Sol.4(臼田パス)
・1Aが自律モードで動作しに切り替わりハイパワーに切り替えてテレメトリを送信。順次送られてきた画像から小惑星表面を移動していることがわかった。
・1Bもハイパワーに切り替わったがテレメトリは最初の一回しか取れなかった。このテレメトリから小惑星表面に留まっていることがわかった。

◆Sol.5
・1A、1Bともデータは取れなかった

◆Sol.6
・この頃になると運用担当者以外はいなくなり、ミネルバ側は1名で対応。
・1Aのデータが取れた。
・1Bのデータは取れなかったので、もう一工夫した

◆Sol.7〜9
・日曜はどこの局でも運用していなかったが、月曜に確認したところ両機とも動作していた。

◆Sol.10
・1Bのデータを取得出来たのは(27日現在)このパスが最後。

◆Sol.16〜17以降
・MASCOTの運用が始まり、MASCOTとの通信の為に「はやぶさ2」側の中継器をローパワーに切り替えた為、1A、1Bともリンクは得られていない。

◆Sol.20(本日)
1A Sol.16までのデータを得ている
1B データを得たのはSol.10が最後だが電波が出ていることは確認している。

◆1A分離直後の写真について
・画像がブレている理由はローバーが高速回転しているからではなく、自動露出なので暗い部分が多いと露光時間が長くなる為。

◆ローバーの一日
・1Aの挙動から、一度ホップすると15分ぐらいで表面に戻り何度かバウンドして45〜60分程で静定することがわかった。
・朝、電力が十分に確保されて搭載コンピュータ等が立ち上がると通信機もオンになり、中継器からの指令でハイパワーモードに切り替えられたら自律モードに移行しホップする。
・リンクが1時間程度で終わる場合は1度だけホップしておしまい。2時間程度保てる場合は静止して同じ所で観測。

◆分離地点を北半球側に定めた理由
・打上げ後の無重力実験で分離速度(20cm/s)が大きいことが判明、そのままではリュウグウの脱出速度を越えてしまう恐れがあったので、赤道から少し離れた北半球側に分離地点を定めることで、探査機の移動速度で分離速度をキャンセルすることにした。

◆ローバーの現在地
・ローバーの撮影した画像と小惑星の3Dモデルを照らし合わせて現在地、移動先を推測。

◆MASCOT分離運用について(佐々木)

・MASCOTはDLRとCNESが共同開発した「その場観測」を目的とする着陸機
・質量10kg以下、サイズも0.275 x 0.290 x 0.195mとコンパクト。
・広角カメラ(MASCAM)と熱放射系(MARA)は機体右前方の地表面を観測。
・分光顕微鏡(MicroOmega)は機体真下を向いているので、着陸機が小惑星表面上に正しい姿勢で静止することが重要
・他に磁力計(MASMAG)も搭載。これらの科学機器は機体右側に搭載。
・機体左側にはバスシステムを搭載。電源は充電が出来ないリチウム一次電池でノミナル運用時間は約16時間程度(約2自転分)を想定。
・MASCOTの自律的な運用や温度環境等によってどれだけ効率良くバッテリー電力を使えるかどうか変わってくるので最終的な運用時間はノミナルから前後するものと考えている。
・通信機はMINERVA-IIと同等のものを2基。アンテナは上面と底面に一つずつ。
・Mobilityユニットはモーターで回転させた錘付きアームのモーメントでMASCOTをホップさせる
・GNCは各面に搭載されたセンサで近傍の対象物を使って姿勢検知。

◆MASCOTの運用
・降下およびバウンド後、観測に適した姿勢でない場合はMobilityで姿勢変更
・観測に適した姿勢になったところで小惑星上観測
・小惑星が夜の期間は「はやぶさ2」と通信出来ないので、観測は継続するがデータはMASCOT内に蓄積
・朝が来たら再びホップして観測

◆MASCOTの運用(吉川)
・準備運用は9/30からスタート、分離は10/2正午頃
・20kmから40cm/sで降下
・5kmで10cm/sに減速
・60mでぐんと下げて3cm/sに減速
・分離は日本時間10/3の11時頃
・探査機は分離後さらに1分間降下を続けた後、上昇
・探査機はMINERVA-II1の時と異なり、3kmで約1日間ホバリングしてMASCOTのデータを受け取る
・MASCOT運用後ホームポジションに戻る。

※以下、質疑応答

◆共同通信:1Bも順調に動いているのか
・1Bから電波は出ているがローパワーのままで探査機に向けてテレメトリを出す状態にはない。ローバーの搭載コンピュータは動作している。(吉光)
・Sol.10の臼田からの運用でリンクは取れていたが、最後にバッテリの電圧が急に下がったので影領域に入ったのではないか。Sol.2、Sol.3と同じ状況なので復旧が期待出来る。(吉光)

◆読売新聞:温度は計れたのか
・キャリブレーションが必要だが、一番最初に取れた温度は速報値で65度。TIRの観測でも中緯度では同じくらいの温度。取得した温度はもっと低い値もある。(吉光)

◆読売新聞:2機ともホップした意義
・ローバーが表面で動いたことは非常に喜ばしいが、これは打上げから含めた宇宙探査との中では最後の一部分。大勢の方々、主に分離運用に携わってくださった方には感謝している。(吉光)
・Solという単位は他の天体に降りないと使えない。「はやぶさ」「はやぶさ2」も近くまで来たが天体に降りていないので時間の感覚は地球基準。日本でようやくこの「Sol」という言葉を自ら使えるようになったのは感極まる(吉光)

◆読売新聞:ミネルバに点数をつけるとしたら
・完璧ではないので99点(吉光)

◆日本テレビ:イトカワに比べて相当デコボコしているが「はやぶさ」に比べてどの程度難しくなりそうか
・イトカワもデコボコしているところは(リュウグウ同様)岩がゴロゴロしていたが、イトカワでは平らな場所があった。リュウグウには広い平らな場所がない。MINERVA-II1分離時のONC-Tの写真を見ても岩がゴロゴロしている。(吉川)
・イトカワよりは難しいがタッチダウン候補地は岩が少ない場所もありそうなので、詳しく調べて安全に着陸出来るような方策を見つけたい。(吉川)

◆時事通信:1Aの方がうまくいっているようだが、放熱構造の違いなども影響あるのか
・あまり考えられない。1Aも1BもCPUの温度は朝-10〜-20度から始まり、終わる時には20〜30度ぐらい。(吉光)

◆時事通信:3kmから撮影したタッチダウン候補地を見てわかったこと
・まだちゃんと調べていないが、それほど大きな岩はないのではないか。(吉光)
・5kmより少し接近したおかげで表面の様子が少し分かった。大きな岩がない領域もいくつかあるので、そこに着陸の障害になりそうなボルダー等が無いかどうか詳細な検討を進めている段階。ここなら安全という結論は出ていない。(吉川)

◆時事通信:MINERVA-II1の写真では砂利ばかりだが、ここで微粒子を採取できるのか
・岩塊(ボルダー)の大きさが50cm以上だと探査機本体にぶつかるので危惧している。それより小さければ砂だろうが砂利だろうが岩だろうがタッチダウンできる。(吉川)
・破砕してどの程度サンプルの収量があるかは表面の様子によって違ってくるが、地上での砂利なども対象にした実験を踏まえると、タッチダウン出来ればある程度のサンプルは取れるのではないか。(吉川)


◆ニッポン放送:「面白い画像が撮れた」と仰っていたが、どの辺りが面白いのか
・サイエンスではなく見立てのコメントだが、12Pや13Pの画像を見ると、砂が無く、ある程度の大きさの岩ばかりなのが面白い。10P(ホップ中)の写真は純粋に感動した。リュウグウの形を見た時も感動したがこちらの写真の方が大きい。(吉川)

◆上坂:MINERVA-II1のが撮影した写真の画角と露出は
・画角は対角125度。10Pの写真の露出時間は1秒以内(X=6000)だが相当長い。(吉光)
・シャッタースピードは不明だが、カメラは積分球でキャリブレーションしていて、露出量もわかっているので(シャッタースピードを)求めることは可能。(吉光)

◆荒船:MASCOTの電源オンのタイミングと姿勢の正し方
・バッテリーのスイッチオンは探査機降下中に行う。探査機からの電源をオフにした時点でバッテリーに切り替わる。(佐々木)
・姿勢変更を行うMobilityはEBOXと科学機器の間にあり、錘付きのアームを回転させてモーメントでMASCOTを動かす。(佐々木)

◆荒船:どういうきっかけでホップさせるのか
・ホップは2日目の昼を予定。1日目昼夜のデータ送信が完了した時点でホップする。(佐々木)

◆荒船:MASCOT運用時に「はやぶさ2」がホバリングする理由は
・MASCOTと探査機の距離が近ければ通信が安定する為。(吉川)

◆荒船:MINERVAのホップを1日1回にした理由は
・ホップと同時期に太陽光の当たり方で通信が切れる。また宇宙空間で回転中に発電するよりも静止している方が発電も通信も安定する。(吉光)

◆NVS:MASCOTの広角カメラと分光顕微鏡は日照が必要か
・昼夜どちらでも使える。分光顕微鏡は温度が高いと支障があるので夜の運用を計画している。(佐々木)

◆毎日新聞:MINERVA-II1はそれぞれ何回ホップしているか
・1Aはデータのリンクが取れている回数を数えればわかるので9回ホップ。1回で10〜20mの範囲を動いていると思われるが、ランダムホップなので戻っている可能性もある。どこまで離れたかは撮影した画像から求める予定。(吉光)
・1Bは4回ホップ。(吉光)

◆毎日新聞:最低/最高温度は
・精査していないが65度より高い温度も低い温度もある。(吉光)

◆毎日新聞:1Bのホップ直前の写真からわかる岩の大きさは
・数メートルということはない。10cm以下。(吉光)

◆毎日新聞:もっと細かい砂があると思った理由、大きな岩があることから言えること
・強い根拠は無いが、リュウグウ全体を見るとクレーターが沢山ある。クレーターがあるということは恐らく天体がぶつかっていて、天体がぶつかっていればたくさん砂が生まれているのではと直感的に感じた。だが写真を見ると砂利や石ころしかばかりで砂がない。(吉川)

◆毎日新聞:MINERVA-II1の名前は決まったのか
・二案あるまだ秘密。1A/1Bの小惑星表面での挙動から付けようと思う。(吉光)



No.2219 :「はやぶさ2」搭載ローバー・MINERVA-II1分離運用 ●添付画像ファイル
投稿日 2018年9月24日(月)19時25分 投稿者 渡部韻

9月21日、JAXA相模原キャンパスで「はやぶさ2」搭載ローバー「MINERVA-II1A」と「MINERVA-II1B」分離運用の記者説明会が行われました。(なお一部敬称を省略させていただきます)

写真はMINERVA-II1を格納しているケース部分(分離後も「はやぶさ2」に残る)とMINERVA-II1のダミーモデル(直径18cm)で、これはブレーメン・ZARMの落下塔での試験に用いられたものです。ケース下方に見える金属部分は蝶番に当たる箇所で、MINERVA-II1を覆っていたカバーはここを軸に回転した後、ケースから外れます。ケース内に見える金属板はバネの力でMINERVA-II1を押し出します。押してみた感触はバックスプリング式キーボードの押し返す力よりも若干強めぐらいの印象でした。


◆登壇者

JAXA宇宙科学研究所「はやぶさ2」プロジェクトチーム
スポークスパーソン
久保田 孝

ミッションマネージャ
吉川 真

プロジェクトマネージャ
津田 雄一


◆概要説明

13:06 分離コマンド実行。LIDARの結果では高度55m
13:25 分離確認
・はやぶさ2上昇を確認
・MINERVA-II1A/Bとは通信出来ている
・自律モードに切り替わっている
・MINERVA-II1A/Bのフォトダイオードが光を捉えたことを確認
・MINERVA-II1A/Bのジャイロも回転している=降下している
13:35 PMがミネルバ分離成功を宣言

○降下開始

「はやぶさ2」は高度20kmのホームポジションからリュウグウの赤道上を40cm/sで降下、高度5kmの地点で10cm/sに減速し、MINERVA-II1の投下対象である北半球のN-6を目指して緯度方向へ移動しながら更に降下を続けます。

先日のリハーサルでは「はやぶさ2」が高度600mまで降下するまでにLIDAR(レーザー高度計)が十分なS/N比を得られれば遠距離用から近距離用に切り替える予定でしたが、切り替える前にリミットの600mに達した為アボートしました。そこで今回は150mまでに切り替える形で感度調整等を行い、300mで近距離用に切り替わったことが確認されています。

○MINERVA-II1分離

MINERVA-II1A/B両機は二枚貝のように開く円筒形のカバー付きケースに収められ、カバーとケースはワイヤで拘束されています。分離コマンドが来るとケースとカバーを拘束するワイヤがカットされ、カバーは十分に開ききると蝶番部分から外れて斜め下方へ落下、MINERVA-II1A/B両機はケース内のバネで探査機横方向へ押し出されます。

この際にMINERVA-II1を押し出す力は20cm/sで、これは地上観測でリュウグウの脱出速度が4-50cm/sと推定された為(これより速いと宇宙空間へ飛んでいってしまう)その半分以下に抑えられています。この押し出す力はより小さい方が好ましいのですが、バネの押し出す力に加えて、ケースの拘束を解いた際、薄くて軽いケース自身の変形がバネ的に働いてしまい速度が大きくなってしまうとのこと。

そこで今回の運用では赤道から離れた場所にMINERVA-II1の降下地点が選ばれ、高緯度方向(極方向)へ移動する「はやぶさ2」から逆方向へMINERVA-II1を放出することで、この横へ押し出す力をキャンセルさせています。これによりMINERVA-II1はほぼ真下に向けて15分ほどかけてゆっくり降下・着地したと思われます。

なお「はやぶさ」では高度30mでMINERVAを分離しましたが、「はやぶさ2」では55mで分離しています。これはイトカワに比べてリュウグウは重力が大きいこと、また分離高度が低ければ(降下地点への)精度は高まるものの、探査機への負担が大きいので安全をみて5〜60mを選んだとのことです。

MINERVA-II1分離後の「はやぶさ2」は衝突を避ける為さらに60秒移動(横に12m、高さ2m)後、降下中のMINERVA-II1に噴射プルームの影響が及ばない距離まで離れたところでスラスタを吹いて上昇します。この際の振動が通信に影響しないようアンテナをLGAに切り替えた関係で「はやぶさ2」やMINERVA-II1の状態確認に若干時間を要しました。

○MINERVA-II1の機器構成

MINERVA-II1が2機構成の理由は、まず「はやぶさ」はMINERVAが1台でチャンスも一回に限られたこと、そして地上観測でリュウグウの自転軸が立っているか寝ているか不明だったことが挙げられます。もし自転軸が立っていれば昼と夜がやってくるが、寝ている場合はずっと昼間が続く可能性がありました。

MINERVA-II1は80度になるとスリープモードに入りますが、MINERVA-II1自身の搭載機器の発熱も合わせると昼間は短時間で高温になり、昼が続く場合は活動時間が短くなってしまいます。そこでMINERVA-II1B(ちなみに久保田先生によるとMINERVAという名前は火星の女神からとったので、MINERVA-II1A/Bは姉妹でMINERVA-II1Bは「妹」にあたるそうです)は太陽電池の一部を外して放熱機構を設けました(円筒の端面に扇型の銀色の部分があるのがMINERVA-II1B)。この放熱機構搭載による重量増でMINERVA-II1Bは搭載カメラを1個減らしています。

MINERVA-II1A/Bの設計は基本的に先代MINERVAを踏襲していますが、先代では10kbpsだった通信速度がMINERVA-II1A/Bでは32kbpsになっています。搭載機器は光センサ、加速度計、温度計、ジャイロの他に、MINERVA-II1Aは円筒側面の前と後ろに広角カメラが1個ずつと、前方広角カメラの横にステレオカメラが2個の計4個、MINERVA-II1Bでは前方にステレオカメラ2個と後方に広角カメラ1個の計3個のカメラが搭載されています。また直流モータが1個搭載され、この回転トルクで小惑星上を「ホップ」します。


◆津田

MINERVA-II1は昨日から降下運用を開始し予定通り低高度まで降下しました。本日、日本時間13:06、対地高度55mまで降下してMINERVA-II1A/Bを正常に分離しました。探査機はその後約1分降下を続けてMINERVA-II1A/Bとの距離を離した後、予定通り所定のシーケンスに従って上昇を開始して、現在はホームポジションと呼ばれる高度20kmに向けて上昇中です。探査機は現在正常に動作していて、全てのMINERVA-II1A/Bを分離するシーケンスは正常に動作したと確認出来た。

探査機は20kmの地点から40cm/sで降りて、高度5kmから10cm/sに速度を落として精密に降下するモードに入り、LIDARで計測しながら高度60mを検出したところで探査機は自動シーケンスに入った。その140秒後、高度約55mでMINERVA-II1A/Bを分離しました。

この後探査機は上昇するが、いきなり上昇するとMINERVA-II1A/Bにスラスタのプルームがかかるので、60秒ほど待ってから距離が離れたところで上昇を開始。ここまでは非常に想定通り、狙ったところにきちんと探査機を誘導することが出来た。

MINERVA-II1A/Bは分離後しばらく通信がとれていること、分離後の動作が正常であったことまで確認出来ているが、リュウグウは7.6時間で1自転しているので通信がすぐ出来なくなる。リュウグウが1自転して探査機からMINERVA-II1A/Bが見えるようになり、かつ日なたになるとまた通信出来るようになる見込み。

◆吉川

特に付け加えることはないが、MINERVA-II1の分離が無事できたということはミッションにとって非常に大きなステップになったと思う。MINERVA-II1からどのようなデータが取れるか、これは今後の確認事項なのでまだ手放しで喜べる状態ではないが、とりあえず「はやぶさ」初号機ではMINERVAは分離出来たがイトカワから離れてしまった、という経験があるので、今回は少なくともそういうことは無さそうだということで、まずは一つのステップを踏んだと思っている。

◆久保田

MINERVA-II1のその後の状況でわかったことを一つだけお伝えすると、分離後通信は出来ていて、その後「はやぶさ2」探査機が上昇してジェットを吹いて上昇するときにアンテナを切り替えて一時通信をやめた時はデータが来ないが、その後「はやぶさ2」が通信を再開した際にMINERVA-II1も通信を再開したことを確認している。

その後、電圧等を見ていると電圧が急に落ちてきて、これが夜を迎えた時刻と同じタイミングだったので、推定だが小惑星表面に降りていて自転で夜を迎えたのではないかと期待している。これは状況証拠なので設置したと断言は出来ないが、そういう現象と捉えると辻褄があうということまでは確認している。残念ながらデータは探査機に蓄えられていて降ろす状況ではないが、ホームポジションに向かって安定になったところにデータが来るということで、残念ながら今日はデータをこれ以上お見せできないが、そういうことまでは確認している。

(以下質疑応答)

◆NHK:初代MINERVAでは失敗したが、MINERVA-II1の分離成功について
(津田)「はやぶさ」1号機で起きたことは十分研究した上で、少なくともそれと同じことが起きないような十分な計画をもって今回臨んだ。降下は何度かやっていて1回はタッチダウンリハーサルでアボートなどもあったが、そういうところも含めてチームメンバーの経験値も上がっている。経験が熟練していることと十分に練られた計画で臨めたことが「はやぶさ」1のの経験がすごく生きたと思う。その計画通りにやれて、小さな逸脱も全部克服して、最終的にMINERVA-II1を所定のところに分離出来た、予定通り行って、予定通りホームポジションに戻る軌道にのったということは我々にとって着陸に向けての大きな自信になった。

◆NHK:来月の着陸に対する手応えは
(津田)アボートではLIDARが小惑星表面に送った信号が帰ってこないのが原因だった。これはLIDARの感度を高めることで、暗いリュウグウであっても正しく計測できるように今回設定を見直した。それが想定通り動いた。この間には探査機が高度20kmにいる状態でLIDARのテストを追加でやったり、リュウグウの性質を検討した上で設定変更を行ったことが功を奏したと思う。着陸に向けてLIDARに関する心配は無くなった。これは今回の運用で得られた大きな副産物だと思う。

着陸については接地するが、ここではMINERVA運用でもやったことのない領域に入るので、まだまだリュウグウの表面はどうなっているのか、探査機は正しく動くのか等、MINERVAの運用も反映して最良の計画にしていきたい。

◆NHK:着陸地点の画像はまだ上がっていないのか
(津田)楽しみにしているが我々も見ていない。MINERVA-II1がシャッターを切ったという情報までは得ているが、実際の画像を地球に降ろすのはこれからなので我々も楽しみにしている。

◆産経新聞:MINERVA-II1が着地したとみられる、という表現か
(久保田)推定とまでは言えないけれども「着地した可能性があるので、それを期待している」

◆読売新聞:はやぶさ2探査全体をみた場合に、どういう段階まで来たと言えるか
(津田)技術的には我々にとっては非常に大きな一歩だったと思う。着陸というのが最終目標の大きな柱の一つだが、それに向けてという意味では、そのスレスレである55mまで探査機を降ろすことが出来た。ここは我々にとって非常に大きな自信になっている。事前に想定したことが3億km先で正しく予定通り動いたということで、少なくともそこまで持っていくことが出来た。ここから先は小惑星の表面にタッチしないとわからない領域のみになったので、そこに注力出来るという意味では、我々、技術的には大きなハードルを一つ越えたと思う。

◆読売新聞:改めてタッチダウンへの意気込みを
(津田)前回MINERVAの担当者が我々が意気込んでもしょうがないと申し上げましたが、今は冷静に、今回得られたデータを分析して次に生かしていきたい。ただ、半分は意気込みすぎないというところもあり、リュウグウは表面が非常にデコボコしている。最後にタッチする部分が残されているが、そこに以前難しいハードルが依然として残っている状態で、ここをどう克服するかは、これから少しずつ情報を増やしていきながら、あるいは熟練度を増やしていきながらやっていかなければいけないと思う。これからMASCOT運用やタッチダウンのリハーサル運用もあるが、そこで更に熟練度を上げて着陸運用に臨みたい。
◆読売新聞:先代MINERVAも含めた今の心境は
(久保田)初号機「はやぶさ」から関わって、先代MINERVA開発にも関わり、その時は残念ながら降りられなかったが、今回は起こったことを真摯に受け止め、どうすればいいか考え直し、今度は2機搭載したり、探査機自身が考えて降ろし、更に分離速度が脱出してしまうというのが良くなかったので、今回は探査機側にも無理をさせて、逆にキャンセルする方向にも動いてくれた。たまたまかもしれないが、赤道付近よりちょっと離れたところに降ろそうとするとどうしても動かなくてはならなかったのと、同時に速度をもたせて逆に降ろすという二重のことをうまくやって、これは「はやぶさ2」チームが色々と考えた上になるべく燃料を温存しながらMINERVA-II1を成功させるということを考えついたことは非常に素晴らしいことで、今回は多分降りていると思っているが、あとはデータを待ちたい。いいチャンスが2回来たな、是非これを生かしたいと思っている。

◆日刊工業新聞:正常な姿勢で着地したか。最速でデータはいつ降りるのか
(久保田)分離する時にはバネで押し出して飛ばすので、どうしても重心きれいに押し出すことは難しく、回転しながら飛び出した。これはジャイロやフォトダイオードのデータで確認している。どういう風に着地したかは「神のみぞ知る」だが、どんな姿勢でも通信は出来るのでその辺は心配ない。

一方、夜を迎えて朝方に通信が再開する予定だが、降りた地点がボルダーと呼ばれる岩がたくさんある場所なので、多少暗いところに入っていると充電に時間がかかったりするので、これをクリア出来ないか担当者は考えている。姿勢はわからないが、多分CGで見せたようにちょっと横に寝ているのではないか。いまはちょうど夜なのでお休みして、朝になって元気に活動してくれるように祈っている。どんな姿勢でも通信出来るようになっている。アンテナも2個ついていて、自動的に切り替えて通信出来る方を選ぶセレクション機能を持っている。上に向いているのか、下を向いているのか、あるいは斜めかも含めて通信出来る状態にあるので、電力が復帰すれば通信出来るようになる。

写真は二種類あり、分離した際に「はやぶさ2」が撮影したものとMINERVA-II1が撮影した表面の画像があるが、これは探査機の安全を考えて、まずは姿勢と十分に離れて安全な位置、すなわち重力の影響のないところでデータ再生に入るので、今日中は難しくて明日以降になる。

◆ニッポン放送:地表スレスレまで降ろしたことは大きな自信につながったと言っていたが、そこにどのような細心の注意と高いハードルがあったのか
(津田)低高度に行くということは探査機と小惑星表面との距離は小さくなるが、一方で地球と探査機の距離は3億kmあるので、地上から探査機の様子を知って「危ないから逃げろ」といった指示が出来なくなる。その領域は探査機が全て自動で機能することになる。

低高度では前回あったLIDARのようになんらかでも計測の誤り、計算のズレがあると、たった一つのことで探査機の中のコンピュータが誤った計算をして、たとえば地表に対して加速するような速度をもってしまうとか、ぶつかってしまうことが容易に起きる。そういうことが無いように探査機の自律機能に任せるが、その設定自身は我々が行うので、そこに誤りが無いように何重にもチェックをかけると共に、それがもし破られた場合でも次の防御があるように何重ものプロテクションをかける。そういった部分が想定通りに動いたということが我々の自信になっている。

リュウグウはデコボコしているので読み切れないところがどうしてもある。読み切れないところは我々技術陣の想定と、サイエンスチームの「リュウグウはどういう性質だから、こういうことがあり得る」「こういうことはあり得ない」といったやりとりをしながら探査機の細かい設定のチューニングをしていく。これらが今回はうまく動いた。ここまで来るのに何十人もの科学者、技術者と共に話し合いながら1個1個の設定を見てきたので、それが功を奏したというのが非常に自信になりました。

◆ニッポン放送:ある意味神頼みの部分は
(津田)技術者としては出来るだけそういったことが無いように心がけて「神頼みの部分はありません」と言い切りたいところだが、未知の領域に踏み込むという所では、最後は想定・想像がどうしても入る。その部分は我々の想定を信じる、という意味では「我々自身を神頼みする」「我々自身の考えてきたことに自信をもって臨む」ということろが出てきてしまう。これが探査の難しいところであり面白いところ

◆ニッポン放送:分離を確信した瞬間の心境。
(津田)これは嬉しかった。「はやぶさ」1号機分離の瞬間を経験していて、あの時何が起きたかも経験している。あの時の悔しさを現場で感じ取った者として、10年以上経ってこの場にもう一度居合わせて、正しく分離出来た、想定通り分離できたのは、それだけでも純粋に嬉しかった。

◆毎日新聞:電圧の変化が確認出来たということは、その瞬間までMINERVAは生きていたということになると思うので、心配していた着地した際の電位差のトラブルは無かったということか
(久保田)先ほど「期待している」と言ったのは、一つはそういう放電も心配していたので、プツッと切れるのではなく、しばらく通信してからなったので、詳細はデータを見ないとわからないが、指摘の通り放電で何かしらあって電圧が下がった可能性も無くは無いが、放電はすぐに起きるものなので、着地は出来たものと希望と期待をしている。

◆毎日新聞:ここまで着実に帆を進めてこられた秘訣は
(津田)まだ秘訣というほどやりきっていないのでおこがましいが、まだまだ沢山やることはあると思う。ひとつ躓きがあったが、そこはうまく、すぐに原因特定してこのMINERVAに自信を持って臨むことが出来た。「はやぶさ」でも次のリトライまでに相当短時間で挑んだが、「はやぶさ2」では計画的にやっている。チームワークが非常に良いので、皆で一つの方向に向かって、すぐに現状を共有して、その上で解決しようと、個々の専門性で解決に向かって一丸となってやってこれているというのが大きい。結果として今日のMINERVAの運用にはかなり冷静な、安心した状態で臨むことが出来た。なので焦らず計画的にやれている源はチームワークかな、と思う。

◆毎日新聞:リハーサル前に着地点を決めた際、100×100mの範囲内で狙っていくことがタッチダウンには必要だと言っていたが、今日やってみて100なのか、それとももう少し絞り込めそうな熟練度が期待出来そうなのか
(津田)今日の運用は着陸より難しい誘導をしている。着陸候補地点は赤道域に近いところが多いが、今回は北半球側(N-6)に降ろすことにしていたので誘導制御的には少し難しい。その状態でやったが精度良く最終目標地点に探査機を導けたと思う。ここも我々の自信になった。精査してみないと何メートルとは言えないがが、少なくとも100m四方の内側には入れる感触を得ている。

◆毎日新聞:より精度をあげられるか
(津田)今回近いところから見た感じでも非常にデコボコしているので、出来るだけ精度はあげたい。

◆日本経済新聞:(電圧が下がったのは)MINERVA-II1A/B同時なのか。両方とも確実にN-6へ到達したのか
(津田)N6に持って行くのは探査機の役目なので、その部分はうまくいっている。ただN-6の表面は非常にデコボコしていて、MINERVAのバウンドは地形の影響をすごく受けるので、デコボコを細かく再現しない限り読み切れない。我々の最良のリュウグウ形状モデルではこのN-6のどこかに(MINERVAが)いると思う。
(久保田)電圧が下降したのはAもBも同じ

◆荒船:探査機とローバーから送られてくるデータに不審な点は無いか
(津田)無い。

◆荒船:誘導精度を高める方法は
(津田)一つはリュウグウの形状を知ること。探査機の動きはリュウグウの重力の影響を受けるが、一方、探査機の高度はLIDARで計るのでリュウグウの表面の形状を正しく知っていない限り、探査機が受ける重力を正しく計算出来ない。なのでその形状をより詳細に知るにはやはり近接画像をよく見ていくことが重要。

もう一つ、探査機が完全に自律になるのは高度500mより下の領域で、そこまでいかに我々が地上から探査機に指示を出して予定通りのところに持って行けるかが我々のやらなきゃいけないこと、地上側の人間の腕の見せ所。そこで上手く持っていけば結果として探査機が完全自律になった際に最終地点へ自分自身を正確に導くことになるので、完全自律になる手前まで我々が探査機に指示を出して送っていく、ここの練度を上げていかなくてはならないと思っている。

◆荒船:次のMASCOTに対しては
(津田)MINERVAの運用の結果をこれからダウンリンクしてよく精査してみたいと思うが、今日の感想では自信の持てる結果だった。

MINERVAが北半球なのに対してMASCOTは南半球に降ろすつもりで、MINERVAが赤道から140m離れた地点に導いたが、MSCOTはもう少し南、200mほど南にオフセットした位置に持っていくので、もう少しだけ難しくなるが、今日やったことをきちんと踏まえれば十分出来る範囲だと思う。

◆荒船:タッチダウン2回目のリハーサルに向けては
(津田)リハーサルの手前まではMINERVAとMASCOTでやったことと同じ実力が出せるかに注力する。MSACOT自身の運用は非常に重要なのでそれが主目的だが、着陸に向けてという意味ではMINERVAと同じ事がきちんともう一回力を発揮できるかと言うことだと思う。

リハーサルではLIDARでも測れない近距離を計る為の距離センサー・LRFを初めて使うが、これが正しく動くかはそこで初めて見ることになる。それに向けた準備がリハーサルでは重要。

◆朝日新聞:電圧が低下したのはいつ頃か
(久保田)アンテナ切り替えの間は見られなかったが、分離してから1時間〜1時間半で電圧が下がったので、予想していたのと大体同じ時間。15〜30分ほどでファーストコンタクトして、その後何度バウンドしたかはわからないが、その後電力的には落ちてきて夜を迎えただろう。

◆朝日新聞:フォトダイオードで安定した位置にあるかどうかわかったか
(久保田)分離直後に太陽があたり、フォトダイオードが光を検出しているというデータがあり、回転しているので多少バラついていた。それが静定すれば接地と思われるが(データは間欠的なので)実際にデータレコーダを再生してみないと、ずっと同じ値なのか何とも言えない。もしかするとホップで動いている可能性もあり、それがタイミングもあるのでMINERVA自身がジャンプしてしまう可能性もあるのでQLを見ているだけでは何とも言えない。

◆毎日新聞:通信を再開出来るのは何時頃か
(久保田)時刻はリュウグウの自転で決まり、予想では19時以降にリュウグウが朝を迎える。降りたところが暗い所だと太陽電池が光を受けて立ち上がるまでに時間がかかる可能性もある。

◆毎日新聞:1A/Bに名前を与えるかどうか
(久保田)確証が早く欲しいが、着地しているか、写真が撮れると決定的、移動したあとの写真がもう一枚撮れると移動の証拠になるので、そこを早く取りたいとは思うが、早くデータを降ろして欲しいと思う一方、探査機の安全確保第一なので楽しみはもう少し待とうと担当者と離している。ちゃんと着地したら名前を付けたいと思っている。

◆秋山:55mまで降下後上昇したが、これはインパクタ投下時の運用と共通の部分があるのか
(津田)クレーター運用の時に使うのと同じ仕組み。クレータを作る時、横に逃げて、それから下に行って…ということをやるが、そのうちの最初の一歩と同じ事を今回やったと言える。今回はMINERVA自身が非常に速い速度で飛び出るので、これを打ち消す為に探査機自身が打ち消し速度を横方向に持たせてから分離して、これによりMINERVA自身は重力だけですーっと落ちていくような速度で落ちていったが、かわりに探査機自身は横方向に大きな速度を持っているので、分離後もう一度それを止めた上で上昇するという今までとは少し違う複雑な運用をしたことになるが、これが出来たことは安心になっている。

クレータを作った後の運用は、これを更に何段階も組み合わせてシーケンスを組み立てるということになる。

◆NHK:ホームポジションに戻った後の具体的なスケジュール
(久保田)探査機がホームポジションへ移動するのは明日の午後ぐらい。そこで20kmの時の古い写真から降ろしていくので、分離のデータを降ろせるのは明日中もしくは明後日。写真が撮れていれば決定的な証拠だが、宇宙空間で止まっていることは難しいので、フォトダイオードが同じ値を示し続ければ着地。ジャイロや加速度データなども全て揃うとMINERVAがこの間静定していた、この間ジャンプしていたといったデータも取れるようになる。

ボルダーは非常にデコボコしているので、もしかすると影のところもあるかもしれない。その場合充電に時間がかかるので、現在想定している19時以降にデータが取れなかった場合は、どういうことが起きているのか推定しながら考えていきたい。データが取れた場合は一旦「はやぶさ2」に溜まるので順番待ちのデータになる。

◆大塚:小惑星表面の観測も大きな目的の一つだが、L08はどのくらいの高度からの画像が得られたのか
(津田)数百メートルからONC-Tで撮れた。今までで一番高い解像度で得られた。分解能は100mで10m四方が見えて解像度は1cm。細かすぎるぐらい見える。10m四方では狭すぎるので十数センチの解像度で撮影する。

◆大塚:分離後の待機時にどの程度降下したのか
(津田)分離後の降下速度が3cm/sなので、1分間の待機時に更に2m弱降りている。55mなら53m。

◆林:降下地点は非常にデコボコだったが、このデコボコが今後MINERVA-II1に与える影響は
(久保田)車輪型のロボットと違い、重力が非常に小さいので斜面に降りてもホップは出来る。大きなコブがあっても乗り越えることが出来るがぶつかる可能性がある。ぶつかっても壊れる衝撃ではないので色々なところに動けるが、ぶつかると太陽電池の劣化が気になる。

真昼間なら上から太陽があたっているが、横から当たる朝夕に影の領域に入ると電力が確保出来ないのでお休みする。真昼間が一番いい状況だが、一方MINERVA-II1自身は温度に敏感で、自身もコンピュータが動くと発熱し、小惑星表面も温度が高い。なるべく低いところを選んだが、例えば60〜70度ある時に自分で発熱すると温度はどんどん上がる。そういった熱の出入りを無くすようにMLIで中を覆っているが、80度を超えると機器に良くないので、80度以上になると自分で電源オフにしてスリープするので真昼間には活動出来ない。なのでイトカワの時よりも活動時間は短い。

◆林:世界で初めてローバを小惑星表面に降ろしたことについてのコメント
(津田)「はやぶさ2」の半分は技術を見せていくミッションなので、リュウグウのことを知ると共に、技術で良い成功を皆さんに見せて行ければと思っている。

◆林:津田さん自身がMINERVAに期待していることは
(津田)まず画像が楽しみ。リュウグウの地表から宇宙を見上げた景色を見てみたい。これは技術者というよりは人間として興味がある。技術者としては表面で活動出来る橋頭堡を「はやぶさ2」で作りたい。

◆林:ご発言からチームが成長しているように感じたが、津田さんがチームワークを高める為に工夫している点は
(津田)まずチームの中でいつも皆で考えることを心がけている。もちろん担当者がいて専門もあるが、皆で同じ課題をそれぞれの立場から一緒の場所で考える。これを繰り返すと自分の専門でない所でも意見が出てきたり、とんでもないアイデアがとんでもない所から出てきたりする。そういうことを繰り返していくとチームとして「あれはこういう風にやろうね」という風になる。チームの中は出来るだけフラットに意見を戦わせて、皆で一つのゴールを、いつも目の前に見えるように頑張っていこうと心がけている。

◆林:吉川先生か久保田先生から見て、津田先生のPMぶりが川口先生とは違う個性は
(吉川)全く違う。川口先生は本当に凄くてなんでも知っている、川口先生の言うことに従っていけば上手くいくだろうというカリスマ的な感じ。津田PMの場合は一緒になってみんなでミッションを作りあげていこうという雰囲気を強く出しているので多くの人がまとまって、非常に良いチームワークになっている。
(久保田)やり方は違うけれども統率力、リーダーシップ力は川口先生も津田先生も同じくらい凄い。メーカーの方や大学の研究者を含めて色々な人がいるのをうまく束ねて一つの目標に向かわせる力は両者とも持っていると思う。

◆NVS:次回MASCOTは分離後一次電池で15時間運用するが、今回の運用を経てどのような感触を得ているのか
(津田)その意味では(長時間運用がない)MINERVA運用を先に行った。MINERVAは分離したら太陽電池で動くのでタイムリミットは厳しくないのでこのような場で(運用直後に)説明しているが、MASCOTの場合は電池切れ前に全てをやりきらなくてはならないので、分離後も15〜24時間ぐらいクリティカル運用が続く。今日MINERVA運用はここまでうまくいったので、運用チームもここまではこのように出来るという経験を得た。MACOTではもう一つ加えて次のステップまで進める自信を得られたと思う。

◆NVS:リアルタイムで公開されている航法カメラではN-6のボルダーが多い方に降りたように見えたが、MINERVA-II1の運用者・開発者の一員として見た時に大きい岩塊のある方に降りていったことに関してどのように考えているか
(久保田)どこに降ろすか選んだ際に一番重要だったのは、なるべく温度が低いところ。暑いと活動時間が少ないので、どこにでもボルダーがもあるのでむしろ北側の温度が低いところを選んだ。ある意味チャレンジ。影が出てくるということは承知の上で、全くの平坦なところよりも、崖とか色んなところがある写真が撮れたら凄いんじゃないかと思った。チャレンジングではあるが温度の低めなところを選んだというのが正直なところ。どんな映像が撮れるのか、できれば「はやぶさ2」が写っていると更に嬉しいが何らかの写真が撮れればな、と期待しているし願っている。

◆喜多:模型で再現していただけないか

狙った場所(N6)は大きなクレーターのあるところ。
(津田)探査機はパドルを小惑星と逆向き、太陽に向けて降りていくが、小惑星が自転しているのでタイミングを合わせる必要がある。
最初距離が20kmのところから40cm/sで降りていく。5kmのところからは10cm/sに落としてゆっくりと直線的に赤道上を降りていき、最終的に北の方向へまわる。
(吉川)MINERVA-II1は探査機の横から放出されるが、探査機は上(緯度方向)に移動しながら飛んでいるので(横方向の速度成分が相殺されて)MINERVA-II1はゆっくり下(地表)へ降りていく。そのままでは探査機が好ましくない方向へ行ってしまうので分離後すぐブレーキをかけて上昇する。
北半球で分離することには意味があって、もしこれを南半球でやってしまうとMINERVA-II1の(探査機に)付いている場所の都合上(探査機が)赤道のリッジにあたってしまう。MASCOTは逆なので南半球に降ろす。
(久保田)北方向に移動するのを、MINERVA-II1の分離速度をキャンセルすることにうまく使ったやり方。

◆喜多:SCI運用時は極方向に逃げる
(津田)SCI運用時は経度方向に逃げる。

◆松浦:「はやぶさ」ではほとんどジャムセッションのような運用を行っていて(「はやぶさ2」では)なんとかして「8時間3交代でチームを組みたい」と言っていたが、今回はどのようなシフトを組んで運用にあたったのか。
(津田)ポジションによるが多くのメンバーは8時間交代。ポジションによっては12時間交代もあるが徹夜ということはない。(横の久保田さんに「MINERVAは徹夜していないですよね?」と尋ねる)

◆松浦:「はやぶさ」でインタビューした際には「余りにも忙しくて覚えていない」という答えが結構返ってきたが今回は大丈夫そうか
(津田)忙しすぎて記憶が飛ぶようなことはない。

◆司会:他になければ以上とします。(開場から拍手)


No.2218 :H-IIBロケット7号機の打ち上げ ●添付画像ファイル
投稿日 2018年9月23日(日)06時31分 投稿者 柴田孔明

H-IIBロケット7号機は、2018年9月23日2時52分27秒(JST)に打ち上げられ、無事に宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機を所定の軌道に分離しました。


No.2217 :第3回判断もGO
投稿日 2018年9月23日(日)01時49分 投稿者 柴田孔明

H-IIBロケット7号機、第3回Go/NoGo判断会議の結果は「Go」です。
最終(X−60分)作業開始可と判断されました。

No.2216 :第2回判断はGO
投稿日 2018年9月22日(土)16時30分 投稿者 柴田孔明

2018/09/22 16:17頃にH-IIBロケット7号機の第2回Go/NoGo判断会議結果はGO、ターミナルカウントダウン作業開始可と判断されたと連絡がありました。

No.2215 :H-IIBロケット7号機の機体移動 ●添付画像ファイル
投稿日 2018年9月22日(土)11時41分 投稿者 柴田孔明

H-IIBロケット7号機の機体移動が2018年09月22日 10:33から11:04(JST)にかけて行われました。


No.2214 :判断会議の結果はGO! (2018/09/22の発表分)
投稿日 2018年9月22日(土)09時06分 投稿者 柴田孔明

H-IIBロケット7号機の第1回Go/NoGo判断会議の結果はGOです。
機体移動作業開始可と判断されました。

No.2213 :打ち上げ前プレスブリーフィング ●添付画像ファイル
投稿日 2018年9月21日(金)23時38分 投稿者 柴田孔明

 2018年9月21日14時より種子島宇宙センターの竹崎観望台記者会見室にて、H-IIBロケット7号機の打ち上げ前プレスブリーフィングが行われました。

(※一部敬称を省略させていただきます)

・写真はJAXA発表の資料に掲載されている2段液体酸素ベントリリーフバルブ。

・登壇者
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 第一宇宙技術部門 鹿児島宇宙センター射場技術開発ユニット 技術領域主幹 西平 慎太郎
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 MILSET長 鈴木 啓司

・打ち上げ時刻について(※プレスリリースより)
 三菱重工業株式会社及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機(HTV7)を搭載したH-IIBロケット7号機(H-IIB・F7)の打ち上げについて、下記のとおり決定しましたのでお知らせいたします。

 打ち上げ日: 平成30年9月23日(日)
 打ち上げ時刻: 2時52分27秒(日本標準時)
 打ち上げ予備期間: 平成30年9月24日(月)〜平成30年10月31日(水)(※)
 (※)打ち上げ予備期間中の打上げ日及び時刻については、国際宇宙ステーションの運用に係る国際調整により決定する。


・ロケットの準備状況について
 ・9月15日のカウントダウン作業において実施した、2段推進系機能試験において、2段液体酸素ベントリリーフバルブの作動圧力低下が発生した。そのまま飛行させると飛行中に2段液体酸素タンク圧力を保持できない可能性があったため、9月15日の打ち上げを中止した。

 ・打ち上げ中止後、以下の作業を実施。
  ・推進薬を排出し、機体をVABに移動。
  ・当該バルブを取り外し、工場へ返送して原因の調査を実施。
  (※再現性の確認、分解点検など)
  ・良好な機能が確認できているバルブを機体に取り付け。(〜9月18日)

 ・発射整備作業を再開し、現在実施中。(9月20日〜)

 ・2段液体酸素ベントリリーフバルブ(OVRV)の作動圧力低下の原因。
  ・バルブ内構成部品のひとつの変形が原因と判明。
  (※変形の原因については調査中)

 ・2段液体酸素ベントリリーフバルブの外観について
  ・大きさが約40センチ、重さは5キロくらい。
  (※写真参照)

 ・機体移動の時刻について
  2018年9月22日午前10時30分頃(JST)

 ・天候について
 先に予定していた9月22日は、発雷と氷結層を含む雲の発生が予想され9月23日に延期。
 9月23日については特に制約になるものは無し。
 
・質疑応答
KTS・今回の打ち上げの意気込み。
鈴木・頻回は天候の影響もあり、また前回の打ち上げの時に不適合があったということで、打ち上げを延期させていただいております。これに関しましては、お客様をはじめ多くの皆様にご迷惑をおかけしているということで非常に残念に思っております。従いまして次の打ち上げに向けては必ず成功させたいという思いを、正直申し上げて強く思っておりますけども、我々の最も大切なところは、慌てて打ち上げることではなくて、必ず成功させるというところが重要と認識しておりますので、普段の打ち上げと同じように、平常心で、慌てず、冷静に作業して、判断してまいりたいと思っています。

共同通信・バルブの変形はどこで生じたのか。どういった部品か。良品バルブと交換したとあるが、今回問題になった圧力に関する試験をやっているのか。
鈴木・内部に入っている数センチくらいの、バネのような役割をする部品でございます。調圧値を決める部品。いくつの圧力になった時にリリーフするかを決めるために取り付けている。それの一部に変形が見つかった。変形の大きさは0.1ミリレベルで微かなものではあるが、それによって調圧値が変わってしまった。分解点検をして、その部品の単体の特性を調べて確認している。

共同通信・変形の過程はどこまで突き止めているか。
鈴木・工場でこのバルブを極低温に冷却した状態で機能点検したが、そのときは良好に作動したことが確認できている。そのあとの工程のどこかで変形が生じたと考えている。詳細については、いろいろな可能性を踏まえて分析・調査しているところで、ここでお答えする段階に至っておりません。

共同通信・良品のバルブはどのように確認したか。
鈴木・良品と判断した根拠は、後続号機用のバルブを用いまして、それをX線検査しまして同じような変形が無いことをまず確認しました。その上で、工場でもういちど極低温に冷やして、規定通りの圧力で作動することを確認した上で、あらためて宇宙センターに持ってきて機体に取り付けた。

共同通信・次号機とはH-IIAやH-IIB用のものか。
鈴木・その通りです。
(※H-IIA40号機は出荷段階のため、別の機体から)

朝日新聞・0.1ミリレベルの変形が起こる可能性はどういうものがあるか。工場では正常で、こちらに持ってきたら変わったというのは、どれくらいの時間が経っているか。前回の予定日から1週間と速いが、なぜこんなに速くできたか。
鈴木・変形が生じた可能性は、現時点で具体的なネタを持っていない。その後の全ての工程を洗いざらい調査している。工場で検査してからの時間は後ほど確認して回答します。一週間という短い期間でできたのは、バルブを分解してそれぞれの部品を確認したところで変形があることが早期に判りましたので、こちらが本当の原因であることを確認する作業、他の部分に問題が無いかというところを並行して実施致しました。結果として一週間で作業できたと思っています。

朝日新聞・変形の原因は、まだわかっていないということか。
鈴木・そうです。

南日本新聞・良品の検査はX線検査と、工場で規定の圧力で作動することを確認したとのことだが、通常の機能点検の中には入っていないのか。
鈴木・X線検査に関しては入っておりません。機能点検については入っております。持ってくる直前に実施して、規定の圧力で作動することを確認してから持ってきた。

南日本新聞・どこで変形が起きたか判らないと、また同じ変形が起きないか。
鈴木・起きる可能性は無いと考えている。機能点検をやってから、その後の工程を注意深く、全てのデータをとりながら進めています。その期間に実施される作業を完全に把握できる。全ての作業を詳細に確認しながら進める。

南日本新聞・チェックのタイミングや項目を増やすのか。
鈴木・ひとつひとつのデータをリアルタイムで確認しながらということになります。

南日本新聞・このバルブ固有のトラブルなのか。
鈴木・変形を与えたところがどういったところだったかの調査を進めています。詳細はその調査を待ってという判断となるかと思います。

南日本新聞・40号機のバルブは変える必用はないのか。
鈴木・搭載されているバルブが本当の大丈夫か評価検討は必要と考えている。現在並行して進めている。必要に応じて、良品と確認したバルブと交換することも視野に入れている。

南日本新聞・イメージとしてバネが伸びたのか。
鈴木・伸びたり緩んだりというものではない。複雑な形をした部品。部分的な変形が見られた。

南日本新聞・調圧値の一部か。
鈴木・調圧値をコントロールするための部品のひとつ。

NHK・バルブは安全弁と言い方ができるか。H-IIAも含めて初めて異常が見つかったが、今後の管理や生産に関して方針を変えるなどがあるか。
鈴木・安全弁かはイエスです。このバルブは二つ機能があり、ベントリリーフバルブという名前で、ベントは液体酸素タンクのガスを排気するために使う。リリーフは安全弁としてタンクの圧力が想定より上がりすぎた時に圧力を抜く。安全弁という理解で正しいです。今回の原因調査を一部進めているところもございますので、真因をしっかりつかまえた上で、必要に応じて水平展開をかけて、他の部品に対しても同じような事での不適合が発生しないようにしっかり対策していきたいと思っています。

朝日新聞・原因がわからないのに、同じ事象は起きないとおっしゃった根拠は何か。
鈴木・バルブの全ての製造工程を完全に把握することは非常に困難。不具合の出たバルブは、製造してから暫く期間が経っている中でいろんな作業あった。それに対し今回のバルブは、射場に持ち込む直前の状態で正しく作動することを確認。このバルブをも用いる全ての工程のデータをくまなく見て、異常が発生していないことを常時監視することで再発はしないと考えている。

朝日新聞・(新しい方は)組み立ててからそんなに時間が経っていないからということか。工程が確認できているからということか。
鈴木・その通りです。

朝日新聞・不適合の原因の特定する方法はどうやるのか。
鈴木・このバルブの機能が正常であることを確認した後の全ての工程を洗い出して、それらの記録、作業の実績などを洗い出して、どういう作業がどういうタイミングで行われたかを詳細に調査をして可能性を潰していく、確かめていく。

朝日新聞・製造してからロケットに搭載するまでは把握しているのか。期間とあったが、ずっと置かれていても工程は把握しているはず。
鈴木・その通りです。時間のファクター、経年劣化ではないと判断している。ただ作業の内容あるいは実行したデータには何から何まで全て記録されている訳ではない。データに残っていないような変形を与える要因がなかったかを調査していくことになります。

朝日新聞・次のH-IIAへの影響はどうか。
鈴木・40号に搭載したバルブの機能が健全であるかの調査は現在実施している。

朝日新聞・原因がわかっていなくても打ち上げるということか。
鈴木・H-IIBの7号機同様に健全であることを確認したバルブを搭載して、全ての詳細データをコントロールすることで打ち上げる事は可能と考えている。

日経新聞・工場に持ち帰って0.1ミリの変形を確認したとあるが、非常に小さい変形だが、その確認方法。
鈴木・X線検査で外観上の変形があることを目視で確認し、バルブを分解して部品を取り出して詳細に計測し、変形を確認した。

日経新聞・極低温では機能点検できて、そのあとの工程で変形したとのことだが、点検は全ての工程が終わったあとの実施ではないか。発生のプロセスを丁寧に。
鈴木・低温での機能点検は確かに製品を組み上げた後に実施しておりますけども、この低温の点検をするための仕掛けをこのバルブに施しておりますので、それを解除する作業とか、解除した後の漏洩点検の過程、輸送、組立、ロケットに組み付けた後の工程を含めて今後詳細に確認していくことでございます。

日経新聞・製造後に機能点検したときは正常で、そのあとどこかで変形したのか。
鈴木・そうです。

日経新聞・製造後の問題なのか。
鈴木・そうです。どこまでを製造というかだが、機能点検をした後の全ての工程です。

南日本新聞・常時監視とはどういうものか。何回か計測するという意味か。
鈴木・今回に関しては組み付けたあとの点検は、実際に推進薬を入れた状態での点検になる。特に何かの点検をしてデータを監視することはありません。けれども、取り扱いも含めて慎重に何事も起こっていないことを確認しながら作業を進めていく。

南日本新聞・何事も起こっていないとを確認するとはどういうことか。
鈴木・機能点検後の漏洩点検の中で異常がないかは詳細なデータを確認しながら実施しています。低温での作動試験をするための仕掛けを元に戻してから漏洩点検をする。その漏洩点検の工程を詳細に確認している。

南日本新聞・問題のバルブでも漏洩点検をしているのか。
鈴木・その通りです。漏洩点検ではわからず、機能点検でないと引っかからない。漏洩点検で変形を与える物の動きがないかとか、作業の進め方がないか確認している。
 (※機能点検で取り付けた計測関連の機器を外した後、それらの場所から漏洩していないか確認している。漏洩点検では機能点検の項目はわからない)

南日本新聞・変形した部品の素材は何か。
鈴木・技術情報なのでご容赦願います。

以上です。


No.2212 :H-IIBロケット7号機の打ち上げ日時
投稿日 2018年9月21日(金)15時10分 投稿者 柴田孔明

H-IIBロケット7号機の打ち上げ日時について詳しい時刻が発表されました。

打ち上げ日 : 2018年9月23日(日)
打ち上げ時刻 : 2時52分27秒(日本標準時)