投稿日 2019年6月15日(土)22時16分 投稿者 柴田孔明
2019年4月11日と翌12日に、秋田県の田代試験場にてH3ロケット用第1段圧肉タンクステージ燃焼試験プレス公開と概要説明が行われました。
(※敬称を省略させていただきます。また一部内容も省略させていただきます)
(※諸事情で掲載が遅れました)
・登壇者
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙輸送技術部門 H3ロケットプロジェクトチーム/プロジェクトマネージャ 岡田 匡史
三菱重工業株式会社(MHI)宇宙事業部 プロジェクトマネージャ 奈良 登喜雄
・H3ロケットの開発状況について(岡田)
田代試験場は開発のメッカということで、三菱重工さんが地元との関係も育まれながら大事に保有されている試験場です。JAXAも時々試験をさせていただき、私も時々お邪魔しておりますけども、麓からここまで来るときに大体車酔いをします。
H3ロケットは大きく3種類の形態に分かれていまして、代表的なものでH3−30Sで、1段エンジンが3基で固体ロケットブースターが無い形態です。H3−22Lは固体ブースターが2基に、1段エンジンが2基、H3−24Lが固体ブースターが4基で1段エンジンが2基です。かなりモジュール化されたロケットでして、極端に言いますと種子島で固体ブースターを2本にするか4本にするか選べるくらいのモジュール設計がされています。特徴的なのは非常に大きなペイロードを搭載できるフェアリングを持っている、そして1段エンジンが新型で、今日詳しく説明する時間が無いのですが、例えば電動バルブを使ってオール電化で制御をするとか、そういった能力を持っていて、今のH2Aロケットの第1段エンジンLE−7Aエンジンの1.4倍の推力が出るエンジンを開発中です。これらを搭載して、H3−30S、いちばんシンプルな機体で、車での車両本体価格にあたるものでH2Aロケットの半額の50億円程度を目指すということで、コストも設計から絡めて開発を続けている。固体ロケットブースターに関しては今のH2Aロケットと見た目は変わらないが、全く新しく設計しておりまして、その表れとして固体ロケットブースターからコア機体に力を伝達する装置、そこは分離するのですけど、H2AやH2Bでは非常に複雑な装置をつけている。それがH3ロケットではどこでくっついているか見えないくらいの接続の仕方で、非常にシンプルな結合と分離機構に持っていくことができました。
開発計画は2019年の当初ということで、開発に着手した2014年からかなりの時間が経っています。山登りならば七合目を過ぎて、山の頂が見え始めている頃です。ロケットの開発というのは、全体の総合システム、ロケット本体そして発射台の設備ですとかロケットを追尾する装備、それら全体を開発しています。ロケットの中にはロケットエンジンや構造系や電気系、そして固体ブースターがあります。各系がそれぞれ設計をして、それを試作して、試験をして、大体七合目といいますと、それぞれの設計を大体終わりまして、設計の検証も進んできていて、いよいよシステムとしてまとめ上げていく段階に入っています。そのひとつの表れが今日皆さんにご覧いただくBFT(厚肉タンクステージ燃焼試験)です。BFTというのはロケットエンジンだけではなくて、例えばロケットエンジンに燃料を供給する配管であるとか、飛んでいくときロケットの向きを変えるためにエンジンに首振り機構(ジンバル)がついているのですが、そういったものも装備して燃焼中に作動させる。そういった個々に開発してきたものをまとめ上げる段階に来ています。そうなってくると試験規模もどんどん大きくなり、当然難易度も上がってくる。今日、現場をご覧いただくと判るのですが、かなり大がかりな試験設備で、ロケット開発の仕上げに向けて1つずつ進めているところです。
・H3ロケット厚肉タンクステージ燃焼試験概要(奈良)
試験目的はH3ロケットの実機を模擬した厚肉タンクと1段のLE−9エンジンを組み合わせて、燃焼試験を行うことにより、推進系の機能・性能データを取得する、そのデータに基づいて設計に資する、ということを行うための試験ということです。期間としては今年の1月下旬から燃焼試験を始めまして、全体の計画としては8月下旬まで予定しています。場所はここ田代試験場です。試験回数は全体で8回を予定していますが、前半シリーズと後半シリーズに分けて、前半4回、後半4回の予定です。データの取得状況や今後の詳細な計画に合わせて回数の見直しをこれから考えていくことになります。
今回の試験はエンジンを支える構造とエンジンは実機相当のものを用意しますが、タンクは厚肉タンクという実機ではない治具としてのタンクを使って確認します。エンジンや配管などは実機を模擬する形で用意していますけども、タンク自体は実機とは違うもので燃焼試験をします。推進系のシステム、配管等・バルブ等の推進系システムとエンジンを組み合わせて性能確認をするという試験でございます。
明日の試験は前半の4回目で、約40秒の燃焼時間を予定しており、100%のフルスロットルから、推力を2/3くらいまで下げて燃焼し、そのあと停止します。
・質疑応答
読売新聞・スケジュールで、来年度の打ち上げ試験は第3Qの最後になっているが、そうすると12月くらいなのか。
岡田・恐らくこのチャート(配付資料)を見てそういった質問を頂くと思っていましたが、まだ決まっていない。試験の様子を見ながら、関係者の皆様と調整しながら決めることで、12月とは決めていません。ただ2020年度の3月31日に設定する訳にもいかないので、そこはお約束を守れる範囲内で設定したいと思います。
読売新聞・それは第3Qになるのか。
岡田・それも決まっていない。(2020年度の)後半にはなる。オリンピックよりは後。
読売新聞・H3−30Sで約50億円を目指すとあるが、H3−22Lや同24Lはどれくらいを目指すのか。
岡田・ミッション要求で定義はしているが国際競争力との関係でお話しづらいところです。国際競争力の面で見て対応できる価格設定になると思っております。
読売新聞・価格はファルコン9を意識したものか。
岡田・ファルコン9もそうですし、2020年というのは世界中のロケットの新型バージョンが台頭してきますし、競争というとギスギスするのですが、うまく協調しながら対応できるようなものにしていかなければならない。例えばアリアン6、ファルコン9、ヴァルカン、ニューグレン、そういったサイズは違うがいろいろなロケットが出て来ますので、それらを見ながら三菱さんが価格設定をされていくと思っています。
読売新聞・資料にH3−30Sは太陽同期軌道とあるが、静止トランスファ軌道に打ち上げるレベルではないということか。
岡田・打ち上げは出来るが最適化では太陽同期軌道。軌道によってロケットに得意不得意がある。太陽同期軌道には3トン、静止トランスファ軌道には2トンくらい。
読売新聞・H3は最初からMHIさんが入っている。最初から民間に入ってもらうのはどういう理由か。今回のH3のビジネスモデルで、こういった点でコストを下げたというところ。
岡田・例えば今運用中のH2Aは、JAXAが開発したものを三菱さんに技術移転して輸送サービスに使っていただいている。JAXAだけでは作れないので三菱さんも一緒にやっているということです。H3の場合は初めからこのロケットをどう使うかを政府に議論していただいて、政府の重要なミッションにも応えて、それを支える形で競争力のあるロケットということをセットで考えて、初めからこういうロケットにする、しかもそれを20年運用する、最初にそのコンセプトを作った訳です。そうすると運用しやすいロケットにする必要がある。運用しやすいロケットは運用する人が開発するのがいちばん。従って、開発して運用するところを1つにして、そこを最初から選ばせていただいた。ですから三菱さんには使いやすいロケットを作ってくださいという、こういう話です。
奈良・コストを下げていかないと競争に勝てない。開発の当初からコストを下げるようなことをしております。どういったところかというと、構成をシンプルにしていくことと、高価な材料をなるべく安い材料に変えるということを行っています。具体的に葉、例えば電子部品で、今まで宇宙専用で耐放射線の高い部品を開発していたが、民生で使われているものを適用して、その中でも耐性の強いものを選んで部品のコストを下げています。また大物のアルミの鍛造材は素材そのものが高価になりますので、安い板材を溶接で繋ぎあわせて適用したりとか、そういった工夫している。それから組み立て作業でも、構造としてはリベット打ちというかファスナーで止める構造を多くとっているところもあるが、そういった所を自動で穴開けできる機械を導入して、人手から自動で作業できるような設備を使ってコストを下げるということをしております。それから機能試験や点検だとか、これからやっていくのですが自動化を進めて、なるべく人手を下げてコストを下げていくということを今取り組んでいるところです。
読売新聞・LE−9も副燃焼器をもたないのでコストが下がっているが。
奈良・燃焼システムにシンプルなものを選んで安くすることも狙っていますし、信頼性も上げることを狙って開発しています。
岡田・3Dプリンタを使ったようなチャレンジ的なところもあるが、良いデータがとれている。
共同通信・今回の試験と、これまでの種子島の試験との違い。LE−9を2基組み合わせるところか、タンクと組み合わせるところか、どこが新しいのか。
奈良・種子島ではエンジンだけの燃焼試験で性能を確認している。今回は1段の機体は実機ではないが、そこに適用する配管、液体酸素と液体水素をエンジンに送る配管とバルブ類は機体につくものを使っている。エンジンに推進薬を供給する部分は種子島では確認できていない。ここで初めて確認できる。
共同通信・スペースXの繰り返し使えるロケットで低価格化というのが印象に残っているが、(H3は)どのあたりで受注を伸ばし、どこを売りにしていくのか。
奈良・市場価格というのはスペースXなりで下げるものが出て来て、なるべくその価格帯に見合うような形でサービスを提供できるようにシステムを作らなくてはいけなくて、いま努力をしているところ。価格だけの勝負よりは、やはり信頼性。今、衛星のオペレータの方達にも信頼していただけるのも、H2A/Bの打ち上げの実績がございまして、しかもオンタイムで打ち上げるという所で、日本の基幹ロケットとしての価値を見出していただいているので、H3も価格だけではなく他の価値についても期待していただければ、ある程度の競争もできるのではないかと考えています。
松浦・BFTでは、タンクの高さは合わせるのか。
奈良・高さというよりラインの長さを合わせる。
松浦・種子島で行われるCFT(実機型タンクステージ燃焼試験)の規模はどれくらいか。秒時はどれくらいか。
岡田・秒時はまだ決めていない。CFTは何を確認するかによるので、長ければいい訳ではない。射点で長い時間燃やすのは、ロケットの打ち上げとは全く違う話で、それなりにリスクがある。折り合いがつく秒時で確認ができるかを考えないといけない。
松浦・順番としてはCFTをやってからGTV(地上総合試験)か。
岡田・そこもまだ。
松浦・アビオニクスに冗長系を入れると聞いたが、どういう考え方のものか。
岡田・冗長系は結構トレードオフした。自動車の部品を使ってコストを下げているが全体としての信頼性はH2Aと同等かそれ以上という中で、どういう風に折り合いをつけるか、いろんなパターンの冗長系を考えた結果です。
松浦・有人ならツーフェイルオペラティブだが、そのレベルか。
岡田・ワンフェイルオペラティブです。
松浦・当初H2Aではロケットの速度にCPUの計算が追いつかないと聞いていた。
岡田・そうなんですか?。スピードよりやはり信頼性だと思います。H3では少なくとも全体をおさえて、どういう信頼性が必用かというところから冗長系のコンセプトを決めました。
東京とびもの学会・後半の3基目エンジンは、今回のものに追加するのか。
奈良・今回の供試体にエンジンを追加する。配置が違うのでエンジンを取り付け直すことが必要になるが、今回の供試体にエンジン3基をつけて燃焼試験を行う。
大塚・4回目ということで前半最後だが、過去3回の結果について。予測通りで問題が無かったのか、いろいろあったのか。
奈良・1回目はいろんなことが初めてなので苦労したが、これはまだ着火させるだけの試験で、なんとかうまくいった。そのあと40秒くらいの試験を2回目と3回目で行い、予定した確認事項は確認できたという評価をしている。2回目ではスロットルというエンジンの推力を2/3くらいに下げる燃焼状態の確認をしておりますし、3回目では推力方向制御作動というエンジンをジンバリングという、アクチュエーターで少し角度をつけて向きを変える動作の確認もとれた。大体予定していた確認項目の確認が、必用なデータがとれたとう評価をしております。
大塚・2回目でスロットル、3回目でジンバリングを行っているが今回は何を増やすのか
奈良・スロットルをするときにタンク圧もフライトを模擬する。2回目ではそこまでやっていなかった。
大塚・後半のスケジュールも同じような感じか。
奈良・これから詳細に検討します。
大塚・この前のBFTはH2Bだと思うが、そこから推力が3基だと2倍くらいになるが改修はどんなことをやったか。
岡田・推力2倍ということは設備に対する負荷も増える。主に噴煙の処理系。水の噴射をしてエンジンの噴煙を吸収したりする、そのあたりを全面的に改修しました。水の量を増やして、そこに耐えられる設計をしました。
大塚・スタンド側はやったのか。
岡田・大きくは手を入れていない。またこのエンジンはオール電化エンジンで、かなり高電圧の電源を供給して制御するので、その電源系や計測系を改修しました。
秋田魁新報・H3ロケットは、どんなものに使われることを想定しているか。
岡田・国のミッションやJAXAのミッションに第一に対応していく。それは地球観測であったり災害監視であったり、そして宇宙科学であったり、探査、そういったものですね。加えて商業ミッションということで言いますと、通信であるとか放送、それから宇宙ステーションへの物資輸送にも使う予定です。今のロケットと使い道が変わる訳ではない。
秋田魁新報・H3の「3」は「III」ではないのか。
岡田・そうです。縦三本「III」ではない。
秋田魁新報・H2Aの約半額との話だが、タンクとエンジンではどんなコスト減がされているのか。
岡田・そこだけ切り出しては難しい。押し並べて半額くらいのイメージで狙っている。
秋田魁新報・実機とタンクが違うというのは。
奈良・実機では5.2メートルのタンクだが、今回は実際のものとは違うタンクを用意して試験をする。実物よりも小さく、容量もずっと少ない
秋田魁新報・タンクがつくところが、これまでのエンジンだけとは違うところか。
奈良・タンクは実物ではないが、配管やエンジンを支える構造物、バルブは実機を模擬している。そういうものを組み合わせた試験は、エンジン単体の試験ではまだ出来ていなくて、ここで初めて確認できる。
秋田魁新報・酸素の重さは何トンくらいか。
岡田・酸素は水の1.14倍の重さなので、30トンの1.14倍くらい。あとでちゃんとお答えします。
秋田魁新報・着火という話だが、どこに着火するのか。
岡田・エンジンに着火します。
秋田魁新報・このエンジンがH3では2機と3基で切り替える型があるということか。
岡田・そうです。
NVS・LE−7AとLE−9を比べたとき、クラスタ化のしやすさはどうか。
岡田・H2Bの経験があるので2基形態はある程度想像がつきます。ただ新しいエンジンですし、エンジンが繋がるエンジン部の構造が違う。また電動で動かすジンバル部も新しい。そういう意味では2基形態である程度想像できるが、取り組みとしてはかなり緊張感がある。
NVS・推力の合わせこみといったところはどうか。
岡田・そこはあまり、想像の範囲。推力1.4倍なので想定外のことが起きないとも限らない。結果的にはだいたい良いデータがとれている。
NHK・今までの燃焼試験との違いで、今までもエンジンは垂直方向に設置していたのか。
岡田・そうですね。種子島での燃焼試験は、3階建ての建物の2階にエンジンを据え付けています。
NHK・CFTではさらに本番に近い状態になるのか。
岡田・CFTはロケットの発射台にロケットを立てて、そこで燃焼試験をさせて、飛んで行かないように縛り付けておく。実際には固体ロケットブースターがダミーのおもりになっているので、飛んではいかない。固体ブースターが無い(LE−9が)3基形態でやる場合には、下手すると飛んで行ってしまうので、そこは飛ばないようにしなければならない。
NHK・BFTはこれまでと違い本番に近い試験ということか。
岡田・エンジン単体、今回のBFT、来年度の種子島のCFTの3段階で本番に近づく。
※この説明会のあと試験設備とエンジン部が報道陣に公開され、翌日14時に燃焼試験が行われました。
・燃焼試験後の説明会(2019年4月12日)
岡田・無事試験が終わりまして、終わった瞬間の印象としてはデータがうまくとれたかなということで、私から申し上げたいことは今日の夜中の1時くらいから作業が始まっていて、私の出勤は4時だったのですが、三菱重工さんのエンジニアの方とかオペレーションされる方がずっとかかりきりで準備をして下さって本当に大変だったと思います。まだ試験は中で続いていまして、予備的なデータ取りの試験ですが、全ての試験のデータをこれからまとめていただいて、その結果を評価して、このシリーズが無事終えられたかを判断したいと思っております。
奈良・今日の試験の結果を簡単に説明致します。今日、燃焼試験を成功裏にすることが出来て、燃焼秒時としては約44秒とほぼ計画通りでした。試験内容は昨日説明した通りですが、停止の仕方としては液体酸素が無くなったことを検知して停止ということです。100%の推力からスロットルダウンさせた状態も予定通りすることができまして、あとは推力方向制御作動(ジンバル)も予定通り出来た。計画した試験項目は全て計画通り行われたことを確認しております。詳細なデータにつきましてはこれから確認して評価することになっております。内容としては成功したのではないかと認識しております。
準備段階の状況を申し上げると、かなり順調に作業が進んでいて、ちょっと早めに始められるのではないかということで、今日みなさんに早く来ていただいたりしたのですが、途中ちょっと確認するがあったので、当初の計画通り14時の燃焼開始となりました。時間通り出来たということで、そこも評価できるのではないかと考えております。
以上です。
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