投稿日 2020年1月13日(月)00時57分 投稿者 柴田孔明
観測ロケットS-310-45号機が2020年1月9日17時00分(JST)に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。同日20時より、内之浦宇宙空間観測所の計器センター記者会見室で報道向けに実験結果の報告が行われました。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
JAXA宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授 観測ロケット実験グループ グループ長 羽生 宏人
JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 助教 福島 洋介
JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 助教 三田 信
・打ち上げ結果について(発表文)
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2020年(令和2年)1月9日(木)、「高精度ペイロード部姿勢制御技術(慣性プラットフォーム)」と「ロケットから離れた位置のその場観測技術(小型プローブバス技術)」の実証実験を目的とした観測ロケットS-310-45号機を内之浦宇宙空間観測所から打ち上げました。
ロケットは正常に飛翔し、内之浦南東海上に落下致しました。
・ロケットの飛翔結果(羽生)
S-310-45号機は本日17時00分00秒に発射致しました。発射上下角は75.5度、最高到達高度は131 kmで、打ち上げ178秒後になりました。着水時刻は発射後352秒という事になっています。
本日の打ち上げ時の天候は晴れ、南西の風2.0m/秒、気温12.9度Cでした。
本日正常に、かつ安全に実行できました。関係機関の皆様には、ご協力頂きましてありがとうございました。
・高精度ペイロード部姿勢制御技術(慣性プラットフォーム)の結果について(福島)
UMSはロケット本体の姿勢制御を行うのではなくて、ペイロードの部分だけをロケットに対して姿勢制御を行って、結果的にロケット全体に姿勢制御を行わなくてもペイロード部だけが姿勢制御を行われたかのように見せかけるための追加の装置を表しています。
目標として、非常に貧弱に見える慣性プラットフォームをミニチュアにしたものがロケットの加速度や振動に耐えるのかといったことと、その振動に耐えるために厳重にロックしたものが宇宙に行ったあとに外れるのかという事をひとつの試験目標にしています。
・UMSの結果(速報)
・打ち上げ後にロンチロック解除ができたか→YES
(※テレメトリと画像で確認)
・ロックを解除された慣性プラットフォームが所定の動きを実現できたか→YES
(※データ等で確認)
・どの程度実現できたか→概ね(詳細はこれから)
・このあとの解析作業
・畳み込まれた「詳細データ」を取り出す。
・圧縮データの展開、データからのノイズ等の除去。
・より詳細な「慣性プラットフォーム」の実現度合いを確認する
・機上でのデータ処理(画像計測による動き)結果の確認
・地上計算機でより詳細なデータ処理を行い、機上と比較
・小型プローブバス技術の結果について(三田)
・分離したプローブが撮影した画像(※地球と宇宙空間)
・機体に設置された伸展型全方位カメラによる撮影(※ロケットと地球と宇宙空間)
※ロンチロックが機能して打ち上げの振動に耐え、打ち上げ後にロンチロックが解除されないと写真が撮れないため解除がされ、データを地上に送っているということで、やるべきことは出来ている。
・質疑応答
読売新聞・観測ロケットの使い道を増やすための実証実験を2種類されたが、総括して実験結果はどういうものだったか、今後この結果がどんな風に活かしていけるのか。
羽生・観測ロケットの運用の観点も含めてお話させていただくと、小ぶりなロケットを実験に使っていくということで、比較的短期間で準備をしてこういう実験をやっていくということで、やはり観測ロケットは非常に使い勝手の良い宇宙実験機器だとあらためて認識した次第であります。今回搭載した大きく2種類の実験ですけども、幅広く様々な部品が世の中にあるものを選んで使ってみるといったことや、将来的に天文研究あるいは宇宙科学研究に必要なプラットフォーム的な機器を今回我々は自前で、研究者が自ら設計選択して搭載している。部品に対する好奇心もありますから、存分に知恵を使った機器開発ができた。それに必用なデータもとることができた。ということで、次に繋がる非常に良い結果が得られたという風に考えています。
NHK・予定していた機器の動作は正常に行われて、打ち上げは成功したということか。
羽生・はいそうです。
NHK・今年最初の打ち上げ、S-310に関しては4年ぶりの打ち上げということで、延期などもあったが打ち上げ全体を振り返っての感想。
羽生・準備は昨年暮れからこちら内之浦で進めてきてまして、工程は全て計画通り進めてきました。さすがに天候にはかなわないが、それ以外のことについては特段問題は無かったというのは、我々実行側として良い成果だったと考えています。昨日の天候は皆様も様々な観点で、これは難しかろうと思われたと思うのですけども、ああいった気象判断も含めて的確に計画に反映して、皆様への通知も含めて着実に着実に行うことができて、そして実行させていただいたことに関しましては良かったと思っていますし、また関係機関の皆様のご協力もあって実行できたことに関しての感謝もございます。大変良い仕事ができたという風に思っています。
NHK・今回得られたデータをどのように活かすのか。
羽生・発射の様子をご覧になっていたかと思うが、非常に初速の大きいロケットでして、加速も大きく、搭載機器への負担というのはやはり大きいものがあります。そういった中で今回の設計によって出来たものが、事前の設計確認などの評価が妥当であったことを飛翔結果と照らし合わせることにより確認できる。ミニチュアサイズと説明があった通り、今後もう少し大きくするとか機能を増やすことに対して、基本的な結果が得られているということが、今回の実験結果としての大きな成果であると認識しています。
南日本新聞・最高131 kmが到達点ということだが、(S-310は)140 kmから150 kmの能力があると思うが推力に問題は無かったのか。着水は直線距離で何キロ先か。
羽生・発射及び飛翔に関しては特段問題はありませんでした。最高到達点が予測より少し低めに出ているところに関しましては、今回のS-310-45号機の発射装置は前回と異なって新しく我々が運用を始めたもので、S-520とSS-520については使ってきているがS-310に関しては今回初めて運用させていただいています。この際、ロケットと発射装置を結合する金属部品のサイズが少し大きくなっているところがあり、いわゆる一般的に言うところの空気抵抗が少し大きいことがひとつ考えられるところかなと思っている。その飛翔経路と気象条件の関係については今回の結果を受けて少し検討したいという風に考えています。ただ飛翔中・落下中に関する安全上のところについては全く問題は無く、計画上の落下円の中にしっかり落下させていて、予想と一致するあたりに入っているので、ロケットとしては全く問題無い。水平距離は確認して後ほど回答致します。(※後述)
毎日新聞・UMSの結果で、打ち上げ後にロンチロック解除とあるが、どういう方法で解除するのか。
福島・脚が6本あり、小さく折りたたんでいる。なるべく小さく膨らまないように、1本のワイヤで引っ張り込んで動かないような仕組みになっている。宇宙に行ったらカッターでワイヤを切って6本の脚がバラバラに自由に動けるようにする。それぞれの脚を想定通りに動かすと、いろんな姿勢ができて慣性プラットフォームと言われている技術が適用できる。
毎日新聞・ワイヤを切る時間や高度は決まっているのか。
福島・打ち上げ何秒後に切るようにとコンピュータで決めている。
毎日新聞・予定通りだったのか。
福島・そうです。
毎日新聞・6本の脚を制御するということか。
福島・そうです。6本の脚をそれぞれ伸ばしたり膝を曲げたりということをすると、上のステージがいろんな方向を向くことができる。回転についてはまた別にステージの上に回るものがあって、それでぐるぐる回せる。かなり複雑な動きをしますので、それぞれ6本の脚が厳密に操作しないと精度が出ないが、今回は小さくして、なおかつ今回はミリ単位・0.1度単位で上のステージが位置を決められるということを立証できたと考えています。
毎日新聞・2個のプローブは、(ロケット)本体の振動とかノイズの影響を受けずにデータを収集して、ロケット本体を通じて地上に送って成功したということか。
三田・そうです。もともと電気的に繋がれていないので、電力の供給から通信まで全部無線で行うようになっています。最近の携帯電話の充電に使われているような、非接触の充電システムでして、ロケット側と線を繋がなくても受け取れる。通信も無線でできるので、物理的にも電気的にも分離されたものになっています。
毎日新聞・そのデータはより正確なデータとなるのか。
三田・今回の場合は実証実験でしたので、高感度のセンサは積んでいない。将来的には感度が高くてノイズに弱いような観測には重要な技術だと思っています。
鹿児島テレビ・S-310ロケットはどれくらいのスピードで上がるのか。
羽生・そういった数字で評価したことが無くて、今正しい数字は言えません。
鹿児島テレビ・この観測ロケットは何回連続して成功しているか。
羽生・このS-310は45機が全てうまくいっているはずです。
KYT・姿勢制御技術と、その場観測技術の実証実験は、全体的に成功と言えるが、一方で見えてきた課題はあるか。
福島・UMSに関して、今回は原理的な検証で、そういうものが出来るのかという事に関して、具体的に実施して数値を得ることを目的に掲げています。まだ詳細なデータは読み切れていないので半分くらいしか言えないが、うまくいっている。課題としては今はミニチュアでうまくいっているが、だんだん大きくしていくことを考えています。310から520にして直径がアップしたらどうなるのか。今回作った機構がどこまで耐えられるのかは別の話になってきます。関節やモーターといった設定が310では妥当だったが、それを実際に使うところでは、その設定が正しいかどうか、スケールを大きくしていったときにまた課題が出る可能性がある。どこまでも大きくできるはずなので、観測ロケットでないところまでいったら、今回使った機構は脚が6本あって膝が曲がる仕組みで、普通は棒が伸び縮みする機構を使うのが普通で、今回それが入らなかったので膝が曲がる仕組みにしたが、それがやっぱり棒の方がいいのか、そういったことを考えていくことが必要になる。そのままスケールアップしてうまくいくかというと、やはり実験をこなさないといけないと思っています。机上の空論からちゃんとした議論に持っていける話になったなと考えています。
三田・プローブに関して、今回は第一歩ということで、ロンチロックをして、なおかつ解除して、通信をしてデータをとるということを主眼においていましたので、制御というものが全く入っていない。そのため撮りたいところを撮ることができない状況が今の大きな課題であると思っています。将来的に決めたところを見たいとなった場合には、これに制御装置をつけて決められた方向を向くようにしたいと考えています。
NHK・落下したプローブは回収しないのか。
三田・これは回収しません。
NHK・レーザーで電力を送る実験は今回どうなったか。
三田・やっているが太陽光も入ってきているので、レーザーで発電しているのか太陽の光で発電しているのか分離する必用がある。レーザーは一定の間隔で点滅しているので、その点滅のタイミングと電力のタイミングが合っているか、あるいは姿勢によって太陽がこっちから来ているなどいろいろ検討して、実際に発電しているかを見なくてはならないので、クイックには出せない状況です。
NHK・将来的にはどういった利用が考えられるか。
三田・たくさんの衛星やプローブを並べて、それぞれに電力を供給しながらデータをとるようなことだが、なかなか難しい技術なのでちょっと先になるのではと考えています。
NHK・一般の見学も多かった。先日、肝付町は発射場をいかに活用して活性化するかという団体を作られたが、今後観測ロケットの活用の幅が広がるというか、打ち上げ機会を増やしたいとか、そういう思いはあるか。
羽生・皆さんに関心をもっていただけて大変嬉しく思っている。こういった地域の皆さんにもいろいろ貢献したいという思いがあります。また私自身がJAXAの前の宇宙科学研究所時代から、ここで育てていただいたようなものなので、もっともっと活用して、打ち上げ機会を増やして、皆さんにも楽しんでいただきたいと思っています。今年から来年に向けて準備を進めるのですけども、ますます活気が出るように、今回の結果を踏まえて幅広く実験をやっていきたいという風に考えています。実際今回のオペレーションをいろいろやっていく中で、JAXAの職員も別の部署から研修の形で入って、どういう風なことをやっているのかなどいろいろ見てもらう活動を含めて私達は取り組んでみましたので、今後そういった人材がまた新たな企画を立てて、有用な技術開発に繋がるような実験を実施する流れになってくると大変いいのかなと思っているところです。
南日本新聞・プローブのデータはパソコン等で表示できるものか。写真なのか動画なのか。
三田・簡単なデータに関してはほぼリアルタイムで地上で受けています。画像はいちどバラバラにして地上に送っているので組み立てる必要があるので時間がかかる。観測ロケットは送れるデータ量が少ないので動画はちょっと無理なので、画像を細切れにして、なるべく小さな容量で送るようにしています。なので動画を撮っていなくて、画像と物理的なセンサのデータを送っています。
南日本新聞・将来的にロケットから(プローブを)切り離して月や惑星などの映像を地上でリアルタイムに観測できるという理解で良いか。
三田・そういうことができたらいいなと思っています。
※水平距離について。
羽生・さきほど質問のあった水平距離は134 kmです。
※ぶら下がりにて。
・過去に姿勢制御をしつつ観測を行ったのはS-520-19号機(1995年)とのこと。
以上です。
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