投稿日 2021年9月30日(木)00時20分 投稿者 柴田孔明
2021年9月29日午後、イプシロンロケット5号機による革新的衛星技術実証2号機の打ち上げ前ブリーフィングがリモートで開催されています。なお打ち上げの現地取材は感染症対策のため鹿児島在住の記者に限られ、宇宙作家クラブはリモートでの取材のみとなります。また一般見学も肝付町の町民で申し込んだ方のみとなっています。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
JAXAイプシロンロケットプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 井元 隆行
JAXA革新的衛星技術実証グループ長 金子 豊
・打ち上げ日時について
打ち上げ日時 :2021年10月1日(金) 午前9時51分21秒(日本標準時)
打ち上げ時間帯 :9時51分21秒〜9時55分16秒(日本標準時)
打ち上げ予備期間 :2021年10月2日(土)〜2021年11月30日(火)
・イプシロンロケット5号機の準備状況について
6月5日:格段モータ射場搬入
〜7月18日:格段作業
全段作業
〜8月31日:複数衛星結合
9月8日:1段射座据付、1段/2段結合
9月9日:頭胴部結合
〜9月15日:全段点検
9月23日:Y−0リハーサル
10月1日:打ち上げ予定
9基の衛星を太陽同期軌道に投入する。
基本的に4号機と同じで、衛星の搭載数が違う。
軌道高度は地表面から560km(4号機は同500km)
本日(9月29日)の段階で準備は順調。
・搭載される衛星について
9基の衛星、14の実証テーマを搭載。(前回4号機は衛星7基)
(※9基で「革新的衛星技術実証プログラムの2号機」となる)
1.小型実証衛星2号機(RAISE−2)
マルチコア・省電力ボードコンピュータ ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
クローズドループ式干渉型光ファイバジャイロ 多摩川精機株式会社
CubeSat用国産小型スタートラッカ 株式会社天の技
3DプリンタX帯アンテナ 三菱電機株式会社
軽量・無電力型高機能熱制御デバイス 東北大学
冗長MEMS IMU 宇宙航空研究開発機構
2.可変形状姿勢制御実証衛星ひばり(HIBARI) 東京工業大学
3.複数波長赤外線観測超小型衛星 Z−Sat 三菱重工株式会社
4.デブリ捕獲システム超小型実証衛星 DRUMS 川崎重工業株式会社
5.多目的宇宙環境利用実験衛星 TeikyoSat−4 帝京大学
6.宇宙塵探査実証衛星 ASTERISC 千葉工業大学
7.速報実証衛星 ARICA 青山学院大学
8.高機能OBC実証衛星 NanoDragon 明星電気株式会社
9.木星電波観測技術実証衛星 KOSEN−1 高知工業高等専門学校
(※分離は1→5→6→(近地点高度下げ)→3→4→2→9、7→8)
・質疑応答
共同通信・台風による影響はあるか。シーケンス上で打ち上げ成功と言えるのは1時間11分後のNanoDragon分離をもってで良いか。
井元・影響はありません。これまでも無く、これからも無い予定です。成功についてはその通りで、全ての衛星分離をもって成功と判断します。
NVS・何らかの理由で延期になった場合、打ち上げ時刻は1日あたりどれくらいずれるか。
井本・打ち上げ日がずれてもこの時間帯は変更ありません。
NHK・ロケットの打ち上げ費用はいくらか。衛星の分離時刻がリアルタイムで判るのか。9基の実証に関する所感と、宇宙実証の狙い、目指すところは何か。
井元・費用は安全管理や消費税など全部ひっくるめて58億になります。衛星分離は今回は北米局を準備しており、リアルタイムで確認する予定になっています。
金子・9基を打ち上げるということで、ようやくスタート地点に立ったということで、安堵とともにしっかりミッションを成功させなければいけないという気持ちでいっぱいです。このプログラムの狙いは、今回特にソニーさんなど今まで宇宙で開発したことがない企業が多く、そういったところが今回実証して、宇宙の裾野を広げることが2号機で実現して、日本の宇宙産業の競争力を高めていきたいと思っています。
MBC・高専で開発した衛星が搭載されるが、若い学生の作り上げた衛星が実際に宇宙で実証ができるということで、今回の機会をどういう風にとらえているか。
井元・これまで企業の方々や大学の衛星だったが、今回高専の方々の手による衛星、これは非常に期待しています。我々は宇宙への敷居を下げるということをある意味でキャッチフレーズとして進めてきたが、まさに高専の方々よって衛星が作られるのは画期的。そこにチャレンジしていただくこと自体が非常にありがたいですし、その成果を期待しています。どんな成果が出ようとも、そのチャレンジ精神はすばらしい。
金子・もともと革新プログラムは人材育成を大きな目的にしておりますので、今回は高専の生徒がひとつの衛星を作り上げたということで、非常にチャレンジングでありながら、こういった機会を我々が提供することができて良かったと思っています。もっともっと若い人にこういった機会を提供して、将来宇宙開発に携わる人をどんどん育てていきたい。そうすることによって日本の宇宙開発が活発化するのではないか、その第一歩ではないかと思っています。
毎日新聞・イプシロンSの初号機打ち上げは2023年で良いか。今回は58億円とのことだが、イプシロンSはそれより大幅に安くなるか。6号機とイプシロンSの関係はどうなっているか。
井元・6号機は2022年度に打ち上げます。イプシロンSの初号機は実質7号機で2023年度の打ち上げを計画しております。イプシロンSは国際競争力を向上させるという観点で、今の強化型を適用した5号機からいろんな観点で進化させることを考えています。価格についてもそのひとつとなります。価格についても国際競争力を持つべく、IHIエアロスペース社に打ち上げ輸送サービス化する前提で開発している。そちらの力も借りて価格も下げることを考えています。
共同通信・資料の5号機の構造で100キロ級が2基、50キロ級が3基とあるが、今回は50kg級が4基載る。余裕があれば標準より増やせるということか。
井元・100kg級が2つ、50kg級が3つ、3Uサイズのキューブサットが3つという形になっている。今回、100kg級2つのところに100kg級と50kg級が1つずつという形になります。キューブサットの3Uの所に2Uと1Uの2つが入っています。そういった事で全部で9個という形になっています。ミッションの選定の関係で今の衛星の構成になっている。
共同通信・超小型衛星が4つで50kgなのか。
井元・上に搭載するRAISE−2が100kg級でいちばん大きい衛星になります。TeikyoSat−4(50kg級)をその横に搭載します。残りの50kg級は横向きに3つ搭載する形になっています。
共同通信・50kg級を(設計では3基のところを)4基搭載というのは余裕があるからではないか。
井元・違います。100kg級の衛星を搭載できるところに50kg級をひとつ載せるということです。
共同通信・コンポーネントとは装置とか機器という理解で良いか。
金子・機器ということです。
NVS・ランチャ旋回の時間は3時間前ちょうどの6時51分21秒に行うのか。
井元・時間が決まっている訳ではありません。大体そのくらいの目安で旋回するということになります。
NVS・3時間前より早く旋回する可能性もあるのか。
井元・そうです、可能性はゼロではありません。
JSTサイエンスポータル・革新的衛星技術実証の状況で、テーマ自体は通年で公募していて、今回は14のテーマだが、どのくらいの相談や公募があって、そのうちのどれくらいが搭載されて宇宙で実証が実現したのか。どれくらいの割合なのか。
金子・今回の2号機は33件の中から14テーマを選定しています。1号機の時も同じような割合になっています。
JSTサイエンスポータル・技術実証なので成功の確度よりチャレンジか、その辺りの選定基準はどうなっているか。
金子・基本的には革新的プログラムの目的に合っているかどうか。例えば産業化に資するものであるか。人材育成もあるが、目的に合っているかの視点がひとつあります。もうひとつは地上の試験である程度判るものではないかということで、絶対に軌道に持っていかないと判らないものを重点に置いて今回も選んでおります。もうひとつは、短いスケジュールで開発するので、チャレンジングなものとはちょっと離れるかもしれないが、技術的に最初から駄目なものは遠慮してもらい、短い時間でも成立性のあるものを選んでおります。大きくはこの3つの視点を基準として選んでおります。
フリーランス秋山・(主衛星の)分離機構が4号機の低衝撃型衛星分離機構から今回はLightbandに変更されているがその理由は何か。こういった調整の経験を重ねていって複数衛星搭載の機能が将来の競争力にどう繋がっていくのか。
井元・4号機の小型実証衛星1号機は200kg級であり直径が大きめで、今回のRAISE−2よりも大きめになりまして、低衝撃型衛星分離機構は600kg級の衛星を分離する能力があります。直径も1m弱ある。その関係で小型実証衛星1号機には最適な大きさ。一方で小型実証衛星2号機は100kg級になりますので直径が少し小さくなり、その関係で米国製のLightbandを使用いたしました。6号機も同じような形になると考えています。将来、国産で新たな研究が進んでいるようですので、いろんな中のものから選定可能となると考えています。信頼性が確保された上でコストも安いものを選ぶなど、いろんな選択肢があると思います。Lightbandを使っておりますがこれだけではなく、ヨーロッパのものや日本で研究しているものなど幅広いものの中から今後選定していくことになるのではないかと考えています。
(※今回の主衛星の分離機構にはPlanetary Systems Corporation社製Lightband(R) 18.25inchタイプが使われている)
フリーランス秋山・将来、選べることがロケットの自由度や魅力になっていくのか。
井元・魅力というより普通のやり方です。どの衛星やロケットでも電気的・機械的インターフェイスが適合するものであれば自由度があるのが一般的です。
東京とびもの学会・革新的衛星技術実証2号機の範囲は、衛星だけを射すのか、分離機構も含むのか。
金子・基本的には衛星のみが革新的衛星技術実証2号機と考えています。分離機構はロケットの一部です。
東京とびもの学会・分離機構が複雑な形をしているということか。
井元・分離機構そのものは複雑ではなくLightbandなどシンプルな形だが、それを搭載する構造を工夫したということです。
NVS・打ち上げ時刻が秒単位で、ウインドウも3分55秒とシビアになっている要因は何か。
井元・ロケット側が衛星側の要求を満足すべく飛行解析を実施致します。いろんなバラツキを考えた上で解析するが、その解析の結果、衛星側が要求する軌道に入れるためにこの時間を設定しているところです。
金子・衛星の要求としては、打ち上げ投入軌道についてLSTと言っているが太陽地方時の9時30〜9時40分の間に入れてくださいという要求をしています。高度などの誤差も含めますと、ある程度の誤差で最悪値と考えて、その軌道が変化していくが、それが他の地球観測衛星の通信と干渉しないようにということで、LSTを9時30分〜9時40分という要求をしています。
NVS・それは全ての衛星か、それとも主衛星に限るのか。
金子・基本的には主衛星を中心に考えています。
MBC・台風の影響について、今回近いようだが強風域にかからなければ大丈夫なのか。どういった判断なのか。
井元・打ち上げの主な制約条件から、風と雨と雲、雷、高層風、こういった射点近傍の予報をもとに抵触する可能性があるかを解析し、今回の風と雨について予報では殆ど無い。高層風が多少気になるが、予想していだたいた風をもとに解析して、基本的に大丈夫という確信をもちましたので、それが大きく変更されることが無ければ安泰だと考えています。
MBC・強風域にかかるような事があれば影響するか。
井元・ランチャを旋回するときに整備塔の扉を開けての高所作業になります。この関係で最大瞬間風速が15m/s以上になると作業ができませんので、それが一番大きな制約になります。
以上です。
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