投稿日 2021年10月24日(日)02時17分 投稿者 柴田孔明
2021年10月23日午後より準天頂衛星初号機後継機「QZS−1R」/H−IIAロケット44号機の打ち上げ前プレスブリーフィングが開催されました。今回も新型コロナウイルス感染拡大防止のためリモートで行われています。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室 企画官 前田 剛
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 MILSET長 鈴木 啓司
・H-IIAロケット44号機による準天頂衛星初号機後継機の打上げ延期について(発表文)
三菱重工業株式会社は、種子島宇宙センターから準天頂衛星初号機後継機を搭載したH-IIAロケット44号機の打上げを2021年10月25日に予定しておりましたが、天候の悪化が予想されることから、下記のとおり変更いたします。
打上げ日 : 2021年10月26日(火)
打上げ予定時間帯 : 11時00分〜12時00分(日本標準時)(※1)
打上げ予備期間 : 2021年10月27日(水)〜2021年11月30日(火)
(※1) 予備期間中の打上げ予定時間帯は打上げ日毎に設定する。
なお、10月26日の打上げの可否については、明日以降の天候状況を踏まえ、再度判断してまいります。
・ロケットの準備状況について(鈴木)
・H-IIAロケット44号機は飛島工場を8月18日に出荷後、射場作業を開始。
・以下の射場整備作業を良好に実施。
・機能点検(〜10月9日) 機体の各機器が正常に作動することを確認
・カウントダウン・リハーサル(10月12日) 関係要員に対し打上げ当日の対応手順を周知徹底するために、打上げ時の作業を模擬。
・準天頂衛星初号機後継機とロケット機体の結合作業(〜10月16日)
・ロケット機体の最終的な機能点検(〜10月18日)
・発射整備作業を実施中(10月21日〜)。
・10月23日天候悪化の予想により打上げを延期。
・H−IIAロケット44号機:202型4Sフェアリング
・VABから射点への機体移動は10月25日20時頃を予定。
・衛星分離は打ち上げ後28分11秒を計画している。
・気象状況(鈴木)
・現在日本付近は高気圧が張り出していて、射場は概ね晴れ。このあと高気圧が移動し、次第に高気圧の周辺部に入り、天気は次第に下り坂になる予報。
・当初の打ち上げ予定だった10月25日の11時から12時は気圧の谷が通過する影響で雲が広がり雨の降りやすい天気になると予報されている。打ち上げ時間帯に制約を満足できない見込みが強く、延期する判断をしている。10月26日以降に関しては次第に回復傾向となり、10月26日の11時から12時の時間帯に関しては現在の所、打ち上げ制約条件を満足できる気象条件となる可能性が高いと考えており、打ち上げを26日にする判断を致しております。
・衛星の準備状況について(前田)
・準天頂衛星システム開発の道のり
・2010年9月:「みちびき」初号機打ち上げ。現在運用12年目。
・2017年:2、3、4号機の打ち上げに成功し、4機体制整備。
・2018年11月1日:準天頂衛星システム(みちびき)が正式にサービスを開始。
・2021年10月26日:初号機後継機を打上げ予定。
・2023年度を目途として持続測位可能な7機体制での運用を開始予定。
・準天頂衛星システムの役割
1.衛星測位サービス(GPSの補完)
→衛星数増加による測位精度の向上
(上空視界の限られた都市部や山間部を中心に改善が図られる)
2.測位補強サービス(GPSの補強) ※専用受信機が必用
→衛星測位の精度向上(電子基準点を活用してセンチメートル級精度を実現)
3.メッセージサービス ※専用受信機が必用
→災害・危機管理通報
→衛星安否確認サービス(3号機機能)
・準天頂衛星システムの軌道(4機体制)
・準天頂衛星システムの軌道は、「準天頂軌道(3機)」と「静止軌道(1機)」の2種類。
・「静止軌道」は赤道面上にあり、高度約36,000kmの円軌道で、地球の自転と同期して約24時間で1周する軌道。そのため、衛星は地上からは静止したように見える。
・「準天頂軌道」は、静止軌道に対して軌道面を40〜50度傾けた楕円軌道で、静止軌道と同様に地球の自転と同期して約24時間で1周する軌道。東経135度近傍を中心とした8の字を描き、日本の真上に長く滞在するという特徴を有する。
・準天頂衛星初号機後継機について
・搭載アンテナ
・L帯平面アンテナ:L1-C/A、L1-C/B、L1C、L2C、L5、L6信号用
・L1Sアンテナ:L1S信号用
・L5Sアンテナ:L5S信号用
(※今号機からL1−C/Bを追加。L1−C/AコードをBOC(Binary Offset Carrier)変調して送信する信号。また2号機以降からL5S信号を追加しており、初号機はこれが無い)
・軌道:準天頂軌道
・発生電力(太陽電池パドル):6.3kW(2枚構成2翼)
(※初号機は5.3kW (3枚構成2翼))
・ドライ質量:1550kg (※初号機は1800kg)
・打ち上げ質量:4000kg (※初号機は4000kg)
・準天頂衛星初号機後継機打上げ準備状況
・9月12日:種子島宇宙センター搬入。
・9月13日〜10月7日:機能確認、燃料充填作業等。
・10月10日:衛星分離部結合。
・10月12日:フェアリング結合。
・10月16日:ロケットへの搭載。
・今後の予定
・10月26日:打上げ
〜約10日:準天頂軌道到達。
〜約2ヶ月:衛星搭載機器機能確認完了。
〜約3ヶ月:QZSS End to End確認。
〜約4ヶ月:測位チューニング。様々なパラメータの最終確認。
・2022年3月〜:サービス開始。
・質疑応答
MBC・週間気象情報では25日と26日のどちらも雨が降りやすい天気となっているが、違いは何か。
鈴木・今回の場合は雲の発生状況がいちばん大きな違いになります。25日は低いところから上空まで厚い雲に覆われる予報になっていますが、26日についてはそれが次第に薄くなってくる予報になっています。
MBC・25日は氷結層の発生があるのか。
鈴木・はい、ございます。氷結層の条件に関しては、25日は制約条件を満足できない見通しとなっています。
NHK・確認だが天候に関しては氷結層が25日に発生するためということか。これは今日の何時の天候判断か。
鈴木・氷結層かという質問にはYesです。14時半から開催した天候判断会議の結果でございます。
NHK・打ち上げ日が変わってもシーケンスは変わらないのか。また打ち上げ時刻はずれていくのか。
鈴木・シーケンスに関しては変わりません。打ち上げ時刻に関しては少しずつずれてまいります。
NHK・どれくらいずれるのか。
前田・1日あたり4分ずつ早くなっていきます。
読売新聞・制約条件としては氷結層の発生が予測されることが理由だが、その他に制約条件を満たしていないものはあるか。
鈴木・気象状況自体が不安定で他にも注視すべき条件がありますが、現時点で具体的に満足しないものに関しては氷結層であると考えて結構です。
読売新聞・次の判断の時期と、報道関係者への通知日時はいつ頃になるか。
鈴木・10月24日は14時半に判断会議を開催することを予定しています。ここでの結果を速やかにお知らせする計画となっています。
読売新聞・目安として本日くらいになるのか。
鈴木・そうです。
(※この日は15時50分頃に延期等の資料が配付された)
JSTサイエンスポータル・今回の初号機後継機は2号機と4号機をベースに開発し、仕様などは同じと見ていいのか。新規開発の要素は盛り込まれているか。
前田・2号機4号機とほぼ同じ設計となります。細かいところは多少違いがありますがサービスを利用していただくには同じと理解していただいて結構です。1つだけ判りやすい違いは、メインとなるアンテナが3号機と同じ平面アンテナを搭載しています。
(※2号機と4号機はヘリカルアンテナ)
JSTサイエンスポータル・3号機と同じ次の静止衛星は何号機になるのか。
前田・現在、5、6、7号機を開発中でして、今の予定ですと5号機が準天頂軌道、6号機が静止軌道、7号機が静止軌道に近い準静止軌道となります。(7号機は)若干の軌道傾斜角を持った軌道となります。
JSTサイエンスポータル・7機体制の中で静止衛星は何機になるか。
前田・7号機を静止衛星に近いとご理解していただいてかまわないと思いますが、そうしますと3号機、6号機、7号機の3機が静止軌道の衛星となります。
日本経済新聞・この後継機は何号機と呼ぶのか。今回の打ち上げはこの後継機1つのみか。
前田・今回は初号機後継機と表現させていただいておりまして、それ以外の表現は特に採用しておりません。今回の打ち上げは初号機後継機ひとつとなります。
フリーランス鳥嶋・今号機で平面アンテナに変わったことのメリットと理由は何か。
前田・技術的理由というよりも衛星システム全体の効率化を図っている形となります。一例として形状が若干シンプルになっています。軽量化と理解していただいて良いと思います。機能と性能につきましては特に大きな差異はございません。
フリーランス鳥嶋・今号機からこれまでなかったBinary Offset Carrier変調(L1−C/B)を追加しているが、具体的にどのようなもので、これまでとどこが違うのか。利用するにあたってのメリットは何か。
前田・技術的な細かい話になるが、採用した理由につきましては測位衛星が使用している電波の帯域がL帯という限られた帯域を使っておりますので、GPSと同じ帯域を使っております。そのため干渉レベルを少しでも低減する工夫をしてBOC変調というような電波の変調方式を採用しております。周波数干渉を避けるためと理解していただければと思います。受信するためにはこの変調方式に対応していただく必用があります。現在、受信機メーカーの皆様と技術的な調整を並行して進めているところです。受信機に大きな負担は無い変調方式だと我々は考えております。サービスの性能面では特段の変更はございません。周波数の干渉を避ける技術とご理解ください。
フリーランス鳥嶋・周波数の干渉という点では以前からあったと思われるが、今号機で初めて搭載した理由は何か。
前田・正確な経緯は今記憶しておりませんが、ここ数年ではなく、随分前からGPSを運用しているアメリカ等と議論しておりまして、とある時期で一定の調整が固まりましたので、その結果を反映したということになります。そのため5号機以降でもこの新しい変調方式を継続して採用する計画となっております。
NHK・発射管制棟(ブロックハウス)はH3からLCCに変えていくことになっているが、今回は既存のブロックハウスに作業する方がいるということか。
鈴木・その通りです。H−IIAではブロックハウスを継続します。
NHK・今回の後継機がサービス開始したあと、1号機は運用を続けるのか、それとも後継機の運用開始後にストップするのか。
前田・今年度末までの作業が完了した時点で交代をする形で初号機はサービスを中断させていただいて、待機衛星という扱いになります。軌道上での運用は継続させていただく予定です。
東京とびもの学会・イプシロンロケットと打ち上げの順番が入れ替わったが、共用の可搬レーダー以外に入れ替わった理由はあるか。
鈴木・順番が入れ替わった理由はスケジュールの関係でございまして、みちびき初号機後継機を打ち上げる約束がございましたので、こちらを先に打ち上げさせていただく事になりました。
東京とびもの学会・H3用の運搬装置(ドーリー)がH−IIAにも使える設計とのことだが、今回も含めてH−IIAで使う予定はあるか。
鈴木・H3用に整備した運搬台車を今回のH−IIA用にも使用します。そのため従来のドーリーではなく新しいドーリーを使ってVABからLP1へH−IIAを移動します。
東京とびもの学会・H3の本格的な運用が始まった場合、旧ドーリーは退役するのか。あるいは予備機として残すのか。
砂坂・基本的に新ドーリーで今後は運用をやっていく。これが軌道に乗れば古い方は退役を考えています。
(※JAXA 宇宙輸送技術部門鹿児島宇宙センター射場技術開発ユニット ユニット長 砂坂 義則)
東京とびもの学会・古い方は前回の運用で退役となるのか。
砂坂・何回やってからというのはこれから評価してからになりますが、いずれは退役する予定になっています。
東京とびもの学会・今回の打ち上げでH3用と共用するものは他にあるか。
砂坂・JAXAで安全管理を担っておりますが、安全管理を行うロケットの追尾系、データ処理を行う部分、そういったものについては共用している部分が多くて、H3でも今後使っていくものが多数ございます。
以上です。
|