投稿日 2022年8月14日(日)01時50分 投稿者 柴田孔明
観測ロケットS−520−32号機は2022年8月11日23時20分に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。打ち上げ後の翌12日午前1時半より記者会見室が行われています。
(※一部敬称を省略させていただきます。また一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました)
・登壇者
JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授 阿部 琢美
奈良工業高等専門学校 電気工学科 准教授 芦原 佑樹
JAXA宇宙科学研究所 学際科学研究系 准教授 観測ロケット実験グループ グループ長 羽生 宏人
・観測ロケットS−520−32号機打ち上げ結果について(発表文より)
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2022年8月11日(木)、「電離圏擾乱発生時の電子密度鉛直・水平構造観測」を目的とした観測ロケットS−520−32号機を内之浦宇宙空間観測所から打ち上げました。
ロケットは正常に飛翔し、内之浦南東海上に落下しました。
GNSSをはじめとする搭載観測機器は予定通りに動作し、データを取得しました。今後、詳細な解析を実施し、電離圏電子密度の空間構造に関する研究を行う予定です。
打上げ時刻:23時20分00秒
発射上下角:75.0度
最高到達高度:279km(打上げ268秒後)
着水時刻:打上げ522秒後
なお、打上げ時の天候は晴れ、北北西の風1m/秒、気温28度Cでした。
これをもちまして、観測ロケットS−520−32号機実験は終了となります。
今回の観測ロケットS−520−32号機打上げ実施にご協力頂きました関係各方面に、深甚の謝意を表します。
・実験結果についての報告(阿部)
大変長らくお待たせしましたS−520−32号機ですけども、おかげさまで無事打ち上げることができました。関係の皆様にお礼申し上げたいと思います。
ロケットの飛翔は正常で、予想通りの内之浦南東海上に落下いたしました。それからGNSSをはじめとするロケットに搭載した観測機器は予定通り動作しデータを取得しました。いずれも詳細な解析をしないと物理的な意味がわからないものですので、今すぐ皆さんにお見せすることはできないですけども、今後詳細な解析を実施して電子密度擾乱に関する研究を行いたいと思っています。
飛翔のあらましですけども、発射の上下角は75.0度、最高到達高度は279km、これは打ち上げ268秒後に到達いたしました。着水は打ち上げ522秒後ということであります。打ち上げ時の天候は晴れ、北北西の風1m/秒、気温28度Cでありました。打ち上げ結果については以上となります。
・実験結果速報について(芦原)
・観測条件の判断について。
今回のロケットは科学観測が目的でして、MS−TID(※中規模伝搬性電離圏擾乱)と呼ばれる電離圏の波状構造を観測するのが目的になります。それを地上からモニターして、条件が揃っていることを確認してから打ち上げるのですが、地上から見えるなら既に観測できているのではないかという話になるが、ロケットで見たいのは鉛直・水平構造です。まずは地上観測でMS−TIDが発生しているかどうかを確認するのが打ち上げの前提条件となっておりました。資料の図は23時20分のリアルタイムTECと呼ばれる画像となります。これは日本全国に展開されている国土地理院の電子基準点で得られたGNSSの結果を海上・港湾・航空技術研究所電子航法研究所の方で5分遅れくらいの準リアルタイムで解析をされるシステムを構築されています。それをモニターした結果になります。図では14時20分ですがUTCですので日本時間で23時20分です。およそ5分後に解析が出て来たものですが、波状構造が少し崩れているところもありますが、北東方向からの波状構造が見て取れます。鹿児島周辺をクローズアップしたものでは、少し筋がはっきりしないところもありますが青いところと、赤と黄色のところが見て取れます。打ち上げ条件の判断としてはこれを確認した上で打ち上げたというのが本日の状況になります。
・観測結果について
詳細な観測機器の結果については、この後詳細解析をしてということになるのですが、お見せできるものとしてVAS−Iという名前の観測機器の撮像結果です。これはロケットの絶対姿勢を計測することを目的としております。原理としては赤外線のセンサを積んでいまして、地球の地平線を捉えてその角度からロケットの絶対角を計測するような観測機器になっています。詳細解析という意味ではこれの地平線の角度を詳しく解析してはじめて意味が出る物ですが、こういうものが得られたということで画像をお示しさせていただいています。下側の白いところが地球になり、黒い方が宇宙空間ということで、ひとつの例としてこのようなものが得られています。
・打ち上げについて(羽生)
当初7月打ち上げということで準備していましたが、最初の時点では搭載機器の方で確認すべき事象が生じましたので、いったん打ち上げを中止させていただきました。その後8月になりまして修正も確認できたということで、打ち上げに向けて機体の準備は問題無いと判断いたしましたので、まずは8月8日を狙いました。ところがこのような現象がなかなか良い状況にならなかったということで、ウインドウのギリギリまで粘ったのですがいったん中断して延期をするという判断をさせていただきました。結果的に良い条件で打ち上げが出来たということですし、今の芦原先生の話のようにサイエンスデータもしっかりとれているということで、万事うまくいったのかなと思っています。
・質疑応答
読売新聞・着水した場所はどれくらいの沖なのか。
阿部・打ち上げ方位角が115度ですので、真東よりも20度南寄りの方向になります。落下地点までの距離が493kmですので500km弱のところです。
読売新聞・今回得られたデータを詳細に解析すると擾乱現象の発生メカニズムの解析ができるという理解でよいか。
芦原・解析に近づくということです。解析できるかはやってみないと判りません。そのためのデータを取得するのが第1ステップで、そのための最初のデータが今回得られたというのが現時点です。
南日本新聞・今回は予定通りに動作してデータが取得できたということで、打ち上げは成功ということで良いか。
阿部・その通りです。
南日本新聞・事前に電子密度など各種データを取得するという説明があったが、具体的に本日取得したデータはどういったものか。
芦原・7月の報道発表資料にありましたロケット搭載観測機器のデータになります。全電子数観測器GNSSにより電子密度(トモグラフィ)のデータ、2周波ビーコン送信機DBBにより電子密度(トモグラフィ)のデータ、電場計測器EFDで電場のその場観測、インピーダンスプローブNEIによる電子密度のその場観測、画像姿勢計測器:VAS−V/I及びMASによるロケット姿勢の計測を行っております。
南日本新聞・全て取得できたのか。
芦原・はい。
南日本新聞・鉛直・水平方向の異なる高度でデータを取得するとのことだが、具体的に何キロくらいか。
阿部・電子密度をいろんな方法で観測している。何々プローブと呼ばれる測定器は、その場で観測する測定器で、ロケットの位置での電子密度となります。それに対して全電子数観測機とかビーコン送信機は電波の通り道にある電子がわかる。遠隔測定と言っても良い。2通りの観測方法があることをお伝えしておきたい。質問のどういった高度範囲のデータがとれたかという事に関しましては、もともと電離圏のプラズマは高度70キロから増えてくる。電離圏の上の方は千キロくらいまでの高度がある。その中で頂点高度は279キロと言いましたが、フライトを通して電子密度は測定していますので、上限は279キロですので約280キロとなります。下限は電波による観測の方は下からずっと追っておりますので、差分というか引き算をすると狭い空間で電子数がどれくらい増えたかがわかる。こちらの方はかなり低い高度から情報が得られる。具体的に何キロからかは詳しく解析しないとわからないが、100キロ程度の高度からデータが得られるかなと、これは私の想像も入っていますけども、そのように考えています。ですから概ね100キロから280キロまでというのが現在言える高度範囲となります。
南日本新聞・高度の違いや水平方向の違いによって電子密度が違うのと判明したのか。
阿部・これは詳しく見ないと判らない。まだパソコンの画面上で見ているだけですので、詳しく解析してみないと、構造にどういう分布をしているか、水平方向に違いはあるかというのは判らない。
南日本新聞・これまでも電離圏における擾乱現象の解明を進めてきていると思いますが、今回の打ち上げで何合目くらいまで来ているのか。まだまだ続くのか。
阿部・そういう質問をいただくが、なかなか答えるのが難しい。何故難しいかというと、サイエンスではよく言われることですが、新しいことが判ると倍くらいわからないことが出てくる。7合目まで行ったと思ったら、その先はもっと長かったとかそういうことがありえる。我々は常に100%と思ってやる訳ですが、行ってみたらまだ先は長かったということはあります。ただもう一つ付け加えておきたいのは、同じ電離圏プラズマの研究であってもいろんなアプローチの方法がある。今回は電子密度の構造・分布に着目しましたが、もう少しそこで何が起こっているかを研究する分野もありますし、同じ電離圏でもいろんなアプローチがあるし研究テーマもありますということはお伝えしておきたい。
芦原・今回は我々これでベストだろうということで観測機器を準備しています。そのために多くの研究機関、GNSSは奈良高専、DBBは京都大学、EFDは富山県立大学、NEIは東北大学、VAS−V/I、MASは東海大学、日本の多くの研究機関の先生方にご協力いただきまして、このような実験を実施したというのがベストだと思ってやっておりますが、それが何合目かと言われると、その先はまだ長いかもしれないです。
NVS・今回は電子密度の測定とのことだが、画像の撮像とどう関係するのか。
芦原・電子密度の生成メカニズムですが、そこには電場、電界の方向というのが非常に重要であろうと予想して、まず電場の計測器というものを入れております。電場の計測器といいますのはロケットからプローブが4方向に伸びます。ただロケット自体は回転もしますしコーニングもします。ですので電場の絶対方向を決めるためには電場の観測機器だけでは不十分で、ロケットの絶対姿勢をできるだけ正確に知る必用があります。そういうところで今回VASと呼ばれる姿勢を決めるための新しい観測器になります。他にもMASという月のセンサでも姿勢を計測するということで、姿勢を計測するための機械もいくつか積んでおりまして、その中のひとつをご紹介させていただいたことになります。
NVS・電子密度の波状構造はF層という高いところだったが、打ち上げの条件にしたのE層はあまり関係無かったのか。
芦原・我々の仮説というかシミュレーション実験で出ているものがひとつあって、E領域での電子密度の不規則構造・スポラディックEのようなものがE層にマッピングされて、F領域のMS−TIDの種みたいなものがあって、それを促進しているのではないかというのがシミュレーション実験から判っているのが我々の実験のモチベーションになります。そういう意味では関係しているかもしれないので調べたというところになります。
NVS・すると今回の打ち上げ条件はE層とF層の両方に出ていることだったのか。
芦原・そうです。先ほどの図はMS−TIDの状態だけ見ていますが、E領域の監視もしています。
NVS・7月に延期になったときの不具合の内容を詳しくお願いしたい。
羽生・搭載機器は我々の拠点である相模原でいろいろ試験をやってくるが、そこで取得したデータと若干不一致になる部分がありましたのでそこは確認が必要だということで、点検をする必用が生じたので延期をした。どれがとは、なかなか申し上げにくい。打ち上げシステムで全体なので、射場システムとの組合せも含めてチェックをしている。全体で打ち上げに適切な状態になっていると確認することをやっていますので、そことの関係であらためて点検をしたことになります。
NVS・相模原と内之浦のランチャ上での通信状態が不一致だったということか。
羽生・想定と少し違う要素があり、単一データをしっかりとるという観点では気にする必用があったので、そのためにあらためて点検し直しました。
NVS・電波で飛んでくる信号か。
羽生・信号をとる装置が多いので、それに対して必用な点検を行った。
NVS・送受信機の点検か。
羽生・そうです。
NHK・今回の解析は具体的にどれくらいで終わる予定なのか。
芦原・観測機器によっても違うと思うが、初期データとしては1〜2ヶ月くらいのオーダーで出てくると思います。ただそこから突き合わせて、また再解析とかそういう作業になるので、それがいつまでというのはお答えしにくい。
以上です。
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