投稿日 2022年10月23日(日)18時15分 投稿者 柴田孔明
2022年10月18日に開催された文部科学省調査・安全小委員会・イプシロン6号機打上げに関する第2回会合と、その後に行われた報道向けフォローアップブリーフィングです。
文部科学省開催の会合は前半の公開部分のみで、後半の非公開部分は含まれていません。
・イプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況(資料より抜粋)
※今回の報告はフライトデータ(事実)に基づく原因究明で、製造・検査に基づく原因究明は実施中だが報告に含まれていない。
・概要
・2022年10月12日9時50分43秒(日本標準時)に、イプシロンロケット6号機打上げ。
・2/3段分離可否判断の時点で目標姿勢からずれ、地球を周回する軌道に投入できないと判断し、9時57分11秒にロケットに指令破壊信号を送出し、打上げに失敗。
・現在、山川理事長を長とする対策本部を設置し、原因究明を進めている。
・飛行状況
・イプシロンロケット6号機の打上げ後、1段モータ燃焼、フェアリング分離、1/2段分離、2段モータ燃焼は正常であり、飛行経路はノミナル経路に対して正常範囲内にあった。
・2/3段分離可否判断(※1)の時点で目標姿勢からずれ、地球を周回する軌道に投入できないと判断し、リフトオフから388秒後に飛行中断に至った。
(※1):イプシロンロケットの第3段燃焼中はスピンにより機体姿勢の安定を確保している。そのため、2/3段分離前に第3段が軌道投入可能かどうかの判定(2/3段分離可否判断)を行っている。非であれば飛行を止め、可であれば飛行を継続する。
・態発生後、速やかに関係省庁等へ飛行中断の連絡を行うとともに、指令破壊による破片の落下予測域を航空局・海上保安庁に通報し安全の確保に努めた。航空局及び海上保安庁では電子的な警報手段により国際的な周知を図っており、同警報が発信されていたことは航空局及び海上保安庁に確認済。なお、指令破壊後の破片は、予め計画された第2段落下予想区域内に落下したと解析している。
・機体状況
・1段モータ燃焼中のTVC制御およびSMSJによる姿勢制御は正常に行われ、2段モータ燃焼中のTVC制御も正常。2段燃焼終了後、RCSによる制御のみになった際に3軸全ての姿勢角誤差がRCS制御終了まで拡大し続けた。
・2系統あるRCSの1系統(+Y側)の下流配管圧力がタンク圧力まで上昇せず、RCSとして機能しなかった。
・RCS制御終了/スピンモータ点火時点(リフトオフ後370秒)で目標姿勢とのずれ量は約21度であった。その後スピンモータは計画通り正常に燃焼し、前述の目標姿勢とのずれ量は維持されたままスピン安定姿勢となった。
※初号機から5号機までのずれ量は0.1〜0.5度という実績がある。
・2段RCS系統概略
・射場では安全確保のために推進薬をパイロ弁(推薬遮断弁)で遮断しており、打ち上げ後151.5秒後に誘導制御計算機からの信号(点火信号系統は冗長構成)でパイロ弁を開にしてスラスタ直近まで推進薬を送り、スラスタを開閉することで姿勢を制御する。
・誘導制御計算機からの信号により推薬弁を開閉させ、触媒反応による燃焼により推力を発生させる。
・2段RCS圧力データ
・本来であれば、X+151.5秒、X+152.5秒に送出されたパイロ弁点火信号のどちらかの信号によりパイロ弁が開動作し、タンク側からパイロ弁下流配管にヒドラジンが流入することにより、下流配管圧力がタンク圧力まで上昇するのが正しい動作となる。
・6号機では、2つのRCSの内、片方の-Y軸側は上記圧力挙動を示しているが、もう片方の+Y軸側はPSDB2からのパイロ弁点火信号送出後も下流配管圧力がタンク圧力まで上昇していない。つまりスラスタまで推進薬が供給されていない。
・2段燃焼終了後姿勢異常に対してFTA(Fault Tree Analysis)を実施し、飛行中に取得したフライトデータのみに基づいて要因の絞り込みを行った。
結果として、2段RCSの片方が機能していない(片方の+Y軸側の下流配管圧力がタンク圧力まで上昇してない)ことが原因であると特定した。
・+Y側モジュールの下流配管圧力がPSDBからのパイロ弁点火信号送出後もタンク圧力まで上昇していない事象についてFTAを展開し、フライトデータに基づき、「PSDBスイッチ下流〜パイロ弁までの系統異常」、「パイロ弁の開動作不良」、「推進薬供給配管の閉塞」の3要因に絞り込んだ。
・パイロ弁点火信号系統
・PSDB2A/2Bの点火コマンドがONになっているため、OBC〜PSDB2A/2Bの点火指令系統は正しく作動した。
・-Y軸の下流配管圧力がタンク圧力まで上昇したことから、PSDB2A〜-Y軸パイロ弁の系統は正しく作動した。
・上記以外の系統の作動はフライトデータ上は判別できない。
・パイロ弁の概要
・パイロ弁は、飛行前は推進薬を遮断し、飛行中に火工品(イニシエータ 、ブースター)の点火により流路を開通させるバルブ。
・イニシエータは冗長構成であり 、2つのうち1つが点火すれば流路は開通する。
・パイロ弁の動作原理
1.イニシエータに点火(時差で2つ点火)。
2.ブースターに点火(ここから1つ)。
3.ラムを下方へ押し出す。
4.配管の仕切り板をラムが打ちぬく。
5.流路が開通する。
・今後の進め方
・フライ トデータ を基に2段燃焼終了後姿勢異常に対する要因分析を行った結果、+Y側(2系統の内の1系統)の2段RCS(ガスジェット装置)が機能しなかったことが判明した。
(姿勢異常の原因箇所として特定)
・2段RCS(ガスジェット装置)が機能しなかった要因として、+Y側のRCSの下流配管圧力がタンク圧力まで上昇していなかった。これまでの原因究明の結果、その上昇のきっかけとなるパイロ弁点火信号(信号は発信されたことを確認)送出後に以下の3つの要因の可能性が否定できない状況。
・PSDBスイッチ〜パイロ弁までの系統異常
・パイロ弁の開動作不良
・推進薬供給配管の閉塞
・引き続き、フライトデータ の詳細な分析と製造・検査データの確認を進め、更なる原因究明、是正対策/水平展開の検討を進めていく。
・参考
・H3の1段CFT(1段実機型タンクと1段エンジン(LE-9)を組み合せた地上燃焼試験)は上記の事象とは直接関係しないため計画通り11月に実施予定。
・イプシロンSロケット適用に向けて開発中の冗長複合航法システム(RINS)の飛行実証については当初よりリフトオフから2段スピンアップ前までのフライトデータを用いて評価する計画であり、評価に必要なフライトデータを良好に取得した。今後詳細データ評価を実施する。
・名称について
・OBC(On Board Computer):誘導制御計算機
・HIU2(Hardware Interface Unit 2):第2段ハードウェアインタフェース装置
・PSDB2(Power and Sequence Distribution Box 2):第2段電力シーケンス分配器
・TVC:Thrust Vector Control:ノズルを可動させることでモータを制御する推力偏向制御システム。1段および2段燃焼時のピッチ軸とヨー軸の制御に使用する。
・SMSJ:Solid Motor Side Jet:1段モータ後部にとりつけられた固体推進薬を用いた補助推進系であり、1/2段分離までの3軸制御の機能を有する。ただし、1段燃焼中はロール制御のみを実施する。
・RCS:Reaction Control System:2段モータに搭載される1液式ガスジェット装置であり、1/2段分離からスピンモータ点火までの3軸制御の機能を有する。ただし、2段モータ燃焼中はロール制御のみを実施する。
・スピンモータ:固体推進薬を用いた補助推進系であり、2/3段分離前にロール軸にスピンを与え、ジャイロ効果によって姿勢の安定性(スピン安定)を確保するために使用する。
・以下からフォローアップブリーフィング。
・質疑応答
・時事通信・原因の可能性として3点が挙げられていて、RSCの燃料を開く信号が伝わっていない可能性と、パイロ弁が開かなかった可能性と、パイロ弁の下の配管が詰まっていた可能性ということか。
・おっしゃった通りですが、パイロ弁の下流だけでなくタンクから圧力計までの配管が閉塞した可能性も否定できない。
時事通信・H3への影響で、資料ではCFTへの影響は無いとのことだが、H3ロケットそのものについてはどう見ているか。
・パイロ弁がひとつの要因(の可能性)として出されているが、H3でも同型のパイロ弁を使っていることが確認できている。CFTは進められると報告したが、CFTは1段の燃焼試験を行うのが主目的になっていて、そこにはまずは影響が無いので、そちらを進めると我々は考えています。
時事通信・H3にも同様のパイロ弁が使われているので影響を精査しなければならないが、CFTには影響は無いということか。
・はい、その通りです。
NHK・H3やイプシロンSへの影響は、まだ調べているのが現状か。
・はい。今、水平展開としてそちらへの影響も調べている状況です。H3は大型の開発試験であるCFTがございますので、そこまではしっかり進めていこうと考えています。イプシロンSはもう少し打ち上げが先ですので、時間はあると思っています。そういう時間を使いながら対策等の水平展開はしていく所存でございます。
NHK・H3のパイロ弁も同型とのことだが、RCSも同じなのか。
・2段の姿勢制御としてRSCは同じものを使っています。ただしメーカーを含めて違いまして、形なども違います。その中で使っている部品としてパイロ弁は同型だと判っている。
NHK・H3では、それ以外にも同型の部品を使っている可能性はあるか。
・RCSのそこ以外には今のところありません。
NHK・管を通っているヒドラジンは燃料なのか。
・ヒドラジンという推進薬になっています。パイロ弁を通ってスラスターに繋がっています。スラスターの中に触媒がありまして、そこにヒドラジンを通しますと触媒反応でガスを発生して、それを噴射することで姿勢を制御するという装置になっています。
NHK・ガスの元となる燃料と呼んで差し支えないか。
・問題無いと思います。
NHK・ガス噴射用のスイッチで川上と川下と二つに分けて説明されていたが、スイッチの異常の可能性があるというのはそういう理解でいいのか。(?)
・系統図でタンクにヒドラジンが入っていると思って下さい。その下にパイロ弁があります。ヒドラジンという推進薬は毒性があるということで、射場での取り扱い上、パイロ弁で完全に封鎖している状況になります。その下はパイロ弁が開くまではガスだけが入っている状況になります。パイロ弁が開くとタンクのヒドラジンがスラスタのところまで行きまして、実際の制御信号は8個のスラスタに姿勢に応じて切り替える信号を出すとそれが開いて噴射することになります。元弁が開いていないとしていただくといいかなと思います。
NHK・スイッチ下流からパイロ弁までの系統異常というのは、上流のタンクからパイロ弁までに情報を送るスイッチの部分という理解で良いか。(?)
・系統異常ですが系統図にOBC、HIU2、PSDB2A/Bがありますが、これがパイロ弁に信号を送るアビオニクス機器です。PSDB2AとPSDB2Bは冗長になっているが、その装置の中のスイッチがきちんと反応したのはフライトデータで確認しています。そこからパイロ弁に延びているが、ここは電気信号を送って作動したかで確認するので、ここの配線をどうやって確認するかが系統異常となります。ちなみにパイロ弁は閉の動作はなくて開けるだけです。
NHK・RCSが異常のあった場所と特定できているが、その要因として3つに絞られていて、これからそれを詳しく調べていくということか。
・その通りです。
共同通信・RCSでの姿勢異常というのは、地上でリアルタイムで検知できるのか。異常があった場合に地上で対応できるのか。
・地上でスラスタのバルブにコマンドがちゃんと出ているかはテレメータでモニタしています。今回我々が異常と感じたのは姿勢がずれていっている。そこで検知しています。RCSのスラスタが開くが、それだけで善し悪しは判断できない。その結果として出てくる姿勢が少し発散気味になっているというところで確認した。
共同通信・有識者から姿勢異常のままスピンモータに火を点けるのは危険との指摘もあったが、姿勢がおかしいという段階で次の段階に行かないという選択肢はあったのか。短時間だと難しいのか。
・姿勢がずれていても、今回はきちんとスピンモータは噴射して軸を保って回転しています。そこはシーケンス上は自動的にスピンモータを点火するようになってますので、異常を検知して止める機能は現在はございません。今回判断に使っているのは、スピンモータでスピンをかけて、そのスピンの安定性といったものが正常であることを確認して、分離して点火に行かすところで止めるかどうかを判断できるという仕組みをとっています。そこで姿勢がずれているのは判っていたが、その状態で3段モータを分離して燃焼させて、その後シミュレーションをして実際に衛星を軌道に投入できるかという判定をして、それがNGだということで指令破壊コマンドを送ったということになっています。そういった意味で3段に火を点けなければ安全に止められるという仕立てになっていますので、姿勢異常だけですぐに止める必用は無いと思っています。
読売新聞・もし弁に異常があると判った場合、H3の開発にはどのような影響が生じるか。
・まだこの時点ではあまり具体的なことは申し上げられない。どういった原因かいろいろなものを考えていくことになります。それによってどういう水平展開をしなければいけないかが決まっていきますので、申し訳ないのですが本日はそこはあまりお伝えできないと思っています。
読売新聞・同様のRCSは今後開発するイプシロンSや、今の主力ロケットのH2Aにも使われているか。
・イプシロンSは開発段階でございます。RCSは踏襲していくことで考えて設計を進めておりましたので、水平展開があればもしかしたら設計変更ということもあるかと思っています。時間があるので反映は考えていきたいと思っています。H3は同型と話をさせていただいたが、H2Aは使っていないことが確認できている状況です。
共同通信・RCSが機能しなかった要因を3つに絞ったが、モニタリングデータが無いので絞りきれなかったのだと思うが、今後これをどうやって絞っていくのか。
・並行していろいろ進めておりますが、RCSの可能性がある部分の製造・検査、射場でどういう手順で組み付けたかといった各種のデータを並行して洗っているところでございます。そういう中から要因になりそうなものがないかを究明していく作業を進めているところでございます。
共同通信・スピンモータの傾きの件で、21度というのは過去と比較してかなり傾いているので、これ以上飛行を続けられないというものになるのか。21度の誤差が出た段階で駄目だということか。
・説明が難しいが、21度というのは大きいと感じられると思います。ただそれが10度だったらどうかといった事例の計算はあまりしていない。実際には管制の方でその角度で3段が燃焼して燃焼終了し、それを軌道解析したときに、軌道に入れるのか入れないのかを解析していくことで見極めをしようとしております。ですので単純に角度がどうだからという判断だけでは、もしかしたら軌道に乗る可能性が残る物を破壊してしまうことにも繋がりますので、姿勢の角度だけでは判断していないということになります。
共同通信・点火時点での角度にはこれまでとった標準データがあると思うが、これを超えると異常という基準データは無いということか。
・判断基準として角度が何度といったものは無いです。
共同通信・スピンモータの点火はシーケンスで自動とのことだが、こういった事象があると点火しないといったチェックポイントはあるか。
・スピンモータの点火そのものは自動のシーケンスに組み込まれておりますので、止めるものは今はございません。
フリーランス大塚・火工品のイニシエータとブースターは、どういった流れで動作しているのか。
・電気を流して、その熱で最初に発火させます。その役割を持つのがイニシエータの部分になります。このパイロ弁は右と左に斜めに二つついていて冗長になっております。時間差をもって電気を流して、どちらが点いても下に伝わるようになっています。そのイニシエータのエネルギーをブースターというところで増幅したようなイメージを持っていただければと思いますが、ラムというものを下に動かす十分なガスを出すための発火をするという2段階の火薬の構成になっています。固体ロケットの点火そのものも同じような形で、最初に電気で点火するところと、そのあとブースター的に点火するところといった多段階の点火方式になっているという意味では、同じような方式になっています。
フリーランス大塚・ブースターの方を冗長化していないのは何か理由があるのか。信頼性が問題無いということなのか。
・おっしゃる通りイニシエータまでが冗長になっている作りになっています。今おっしゃった点も含めてどうだったのかと原因究明の中で突き詰めたいと思っています。
フリーランス大塚・この辺りで使われている部品や部材のフライト実績はどれくらいあるか。イプシロンだけなのか、あるいは海外も含めて幅広く使われているのか。
・まさしくそこの調査をかけているところです。今日は一般論で申し訳ないが、いろいろな宇宙機で使われているという意味では、実績がかなりあるのではないかと我々は考えています。
毎日新聞・H3で使っているRCSが同じ型ということだが、コアステージの第2段で使う予定ということか。
・コアの第2段の下辺りに実装されています。
・補足・パイロ弁は同じ型だが、RCS自体のメーカーは違う。
毎日新聞・今回の姿勢のずれは打ち上げ後どれくらいから発生し始めたと言えるか。
・300秒辺り。(資料は)5号機と6号機の比較だが、300秒の前くらいに2段の燃焼が終了しますとモーターのTVCによるピッチとヨーに対する制御力が無くなりますので、RCSでその辺も引き継ぐ形になります。その300秒の辺で少し乱れが生じているのが見て取れると思います。時間が経つとこれが収束誤差ゼロのラインに近づくのが5号機になるが、6号機の方はピッチで見ますと310〜320秒から右肩上がりで収束しない形になっている。何秒からという明確な時間は無いですが、5号機と比較すると収束しないまま発散してしまっている状況です。
毎日新聞・パイロ弁が開いていた可能性は残されているか。
・可能性を否定できない中の3つ目、閉塞というものを考えますと、パイロ弁の下流が詰まっていれば圧力が立たないことが考えられますので、その可能性はゼロでは無い。
毎日新聞・タンクの圧力はリアルタイムでモニターできていたのか。それともその後の解析で判ったのか。
・テレメータの情報としてはリアルタイムで地上に降りているので見ております。
毎日新聞・すると早い段階でRCSがおかしいとなっていたのか。
・下の配管についている圧力計が立たないという意味ではリアルタイムで見ていました。
TBS・イプシロンロケットの第2段に燃料を供給する2系統のうち1系統がうまく働かないので姿勢がずれたという理解で良いか。
・第2段の姿勢を制御する部分と置き換えてください。
TBS・姿勢を制御する部分に燃料を供給する2系統のうち1系統がうまく働かなかったということか。
・はい。
TBS・それがRCSと呼ばれるガスジェット装置か。
・はい。
TBS・何故うまくいかなかったかは3つの可能性があるということか。
・はい。
TBS・3つの可能性についてあらためて教えて下さい。
・一つ目の系統異常は誘導制御系であるOBCから信号が出て、最終的にはPSDB2からパイロ弁の火工品に対して点火電力を出力します。このPSDB2からパイロ弁までの間の配線等を含む系統に異常があると信号が届かないということで、これが要因として残っている。それからパイロ弁に信号は行ったが何らかの異常があって開かないと、上から下に燃料が供給されないという意味で、このパイロ弁単体が二つ目としてございます。それからタンクからの配管が何らかの要因で詰まっていたという状況にあると、パイロ弁が開いたとしても詰まっていて燃料が供給されない。そういう3つを絞り込んできている状況でございます。
NHK・資料にRCSのスラスタは8基あると書かれているが、資料の図では#1〜#6とあり、これは6方向ということなのか、それとも8基8方向で制御しているのか。
・右側に#2が2個、左側に#5が2個で、8個のスラスタを使っていますが#2のペアと#5のペアは一緒に吹くので表記上2個ずつになっている。8個のスラスタがあるという意味ではそれが正解です。
NHK・噴出の方向としては何方向にガスを噴射するのか。
・ピッチは機体を上に上げるか下に上げるかという意味で、#1と#6を同時に吹くと頭が上がりピッチを上げる姿勢制御になります。逆に下にある#3と#4を吹くと頭が下に向く。右に向けるときは#2を二つ吹く。#5を二つ吹くと左を向く。これがピッチとヨーの制御。機体を軸に沿って回すロールは、#1と#4を吹くと右に回り、これがロールのプラス側に回すもので、#3と#6を同時に吹くと左に回り、これがマイナス側となります。この3軸の制御をしているということになります。
NHK・8個あるが1つだけ動かすのではなく複数組み合わせて3軸方向の制御をするのか。
・そうです。
NHK・(資料の図より)リフトオフから370秒後に21度のずれとのことだが、2・3段の分離手前(指令破壊の段階)でもおよそ20度のずれのままと読み取れるがそれで良いか。
・(グラフの線が)多少波打っていますが、だいたい中心なところは21度くらいということで間違いありません。
NHK・3σの0.91度はその範囲に収まっているということか。
・はいそうです。
フリーランス秋山・2012年のISAS資料によると姿勢制御のガスジェット装置はMVロケットの3段に搭載されていたものを取り扱いやすくしたものと記述があるが、イプシロンロケット6号機のRCSもMVロケットから継承したものか。また製造・検査データに基づく原因究明の中でもまた説明をいただけるか。また今後、本日のような委員会傍聴、ブリーフィング等はどのようになるのか。
・基本的にイプシロンはMVからの資産をかなり継承するということで最初の開発をしておりまして、おっしゃるような技術をそのまま使ってきています。そういった意味で、その辺からの設計あるいは製造の状態といったものも総合的に調査することになります。
・委員会に関しては今後の開催方式も恐らく本日と同じように公開と非公開が組み合わさった議論になると思います。基本的に今回と同じようにこうした形で行うようにしたいと考えています。
株式会社アラフネ計画・打ち上げの失敗から1週間程度でここまで原因が狭められたのはスピード感があるが、当事者としてはどのような感想を持っているのか。
・我々の方でも迅速に原因究明を進めなければいけないという中で、フライトデータの解析はかなりのパワーをかけてここまで進めてきています。並行して製造検査データの調査を始めておりますけども、そういう意味ではかなり全力を尽くしてここまでやってきているというところでございます。
株式会社アラフネ計画・解析が早いのは構造的にイプシロンはH2Aよりも部品点数的に少ないといったことはあるのか。
・ロケットは大きくても小さくても制御とかの方式を含めて基本は似たようなところがございます。そういった意味でイプシロンが少し単純だということはなくて、今回起きた事象がフライトデータでここまで追い込めるということは、あまりロケットに依存しないと思っています。差が出るとすると液体と固体の差で、主に推進系と言われる部分で差が出るかもしれない。あとはテレメータで実際にとっている数とか、そういう所もトラブルシュートの時間にかなり影響してきます。小型だからということではあまり無いと考えています。
株式会社アラフネ計画・フライトデータの解析にかなりパワーを使ったとあるが、具体的にどれくらいなのか。具体的に何人か。
・何人かという数字は持ち合わせていません。この土日もメーカーさんも含めてかなり動いてここまで到達している。
株式会社アラフネ計画・指令破壊の信号を出すまでシミュレーションして軌道投入ができるか確認するとおっしゃっていたが、凄く短い時間の中で出来るもののか。どれくらいの時間でやっているのか。
・なかなか示せない所だが、基本は計算機で自動的に計算して、その判定結果をもとに判断をしたという形になっています。2・3段分離までの短い時間の中で、かなりの計算を回しているという意味では、随分短い時間での判断をしているが、確実に判断できるような手立てをとっている。
株式会社アラフネ計画・管制室で異常を検知してから破壊指令まではどれくらいか。
・その点は容赦願います。
宇宙作家クラブ・2段燃焼中のRCSのロール制御は冗長とおっしゃっていたが、これは+Yと−Yの2系統を指しているのか。
・2段燃焼中のピッチとヨーの制御についてはTVCでかなり大きな力で制御ができています。ロールは#1と#4、あるいは#3と#6のセットで吹く形になりますけども、もし片系が吹かなくてもピッチ・ヨーがTVCできちんと制御されていますので、一つのスラスタがロール方向に吹くことで、力は弱いので外乱が大きいと制御しきれなくなるが、その辺は1個で制御できた。
宇宙作家クラブ・冗長というのは+Yと−Yで考えていいのか。
・2個を吹いてロールを制御するということで冗長という言い方をしました。ロールを制御するのにRCSだけのフェーズになるとバランス悪くなってくるが、2段のモーター燃焼フェーズについてはピッチとヨーがTVCの方でしっかり制御できているので、ロールは1個だけ吹いてもなんとか制御ができるという意味で、2個セットで吹くのが正だが、1個が吹かなかった今回の事象でも回せたという意味での冗長です。
読売新聞・今回の打ち上げ前の整備に関して、大半をIHIがやっていたと思うが、RCSはどの程度チェックするのか。今回の原因と考えられる事象について点検ではどの程度まで確認をするのか。
・今回IHIエアロスペースさんにかなり入ってもらったが、もともとRCSの組み立てを含めた点検はIHIエアロスペースでやっていましたので基本的にそこの対応の仕方は変わっておりません。点検は簡単に言うと、電気の配線をして配線通りにコマンドがちゃんと伝わるかどうかといった点検をしております。ヒドラジンが入ってしまったものは開けたり閉めたりはできなくなっていますので、そこは点検をしないでそのまま使う。大まかにはそういった形になっています。
読売新聞・何か物が詰まったのは点検しても判らなかったが、事前の点検でチェックしていた他の二つの項目に関しては、開閉がうまくいくかについては見ていただろうということか。
・予断を持ってあまり細かいところはお伝えできませんが、電気は接続というのがありますので、それに応じて点検したデータを洗っています。その中で何か特異性がないか確認することになると思います。パイロ弁については購入した元が製品保証して、それを受け入れてということで、火工品は作動させての点検はできませんので、そこは製品の元の保証をどう確認していくかになると思います。配管については基本的に工場でヒドラジンを充填する過程でチェックをして持ってくるという意味では、射場ではなく工場での点検でどうかといった確認を洗い出して特異性がなかったかを原因究明としてやっていくことになると考えています。
読売新聞・落下予定区域の水深はどれぐらいか。
・そこは確認をしていません。
読売新聞・今後の原因究明の状況次第で引き上げに挑戦する可能性はあるか。
・捨ててはいないが、かなり難しいと思っています。
産経新聞・イプシロンSの打ち上げに関して来年度とされていたが、原因究明まではスケジュールが未定になっているのか、来年度のままなのか。
・現時点では来年度の打ち上げを予定していることに変わりは無い。
産経新聞・いつまでに原因の特定の目処をつけたいと考えているか。
・そこについても原因究明の結果、そして対策をどう打ってくるかという所でございますので、今のところスケジュールに関しては予断をもってお答えするのは難しいところです。
JSTサイエンスポータル・要因のひとつである配管の閉塞はどうして起こったのか。どういった可能性があるのか。
・その点はまだあまり絞り込んで話をしていないのが現状です。配管とかですので、コンタミと呼ばれるゴミみたいなものとか、氷結したとか、いろんな可能性を洗い出して、それが過程で作り込まれていないかとか、今後の原因究明の中でやっていくことになります。幅広く可能性を探っていきたいと思っています。
共同通信・姿勢のずれの21度はどちらを向いているのか。下を向いているのか。
・即答できないので確認します。
※最後に回答あり。
共同通信・詰まった可能性のある配管は細いのか。
・今そのデータを持ち合わせていません。サイズに関しては機微情報なので回答は差し控えさせていただきます。
共同通信・圧力が上昇していないとは、タンク部の圧力と配管の圧力が一緒になっていないという理解で良いか。
・(図で)タンクでヒドラジンと窒素ガスが黒い線で模式的に仕切られています。ゴムみたいなもので仕切るが、推進薬を工場で入れた後、窒素ガスでタンクを加圧し、2MPaくらいになっています。ここについた圧力計の値がタンク圧力と呼ばれるものです。パイロ弁の下にも圧力計があり、これが配管の圧力を測っている圧力計になります。パイロ弁が開くと下の圧力計に上のタンクと同じものがかかるということで、下流配管圧力がタンク圧力までどんと立ち上がる仕組みです。
共同通信・+Y側は全く変化が無かったということか。
・そうです。
共同通信・今回示された3つの可能性について、国内外で同様の事例はあるか。
・その点も実績を含めて調査を進めているところです。本日時点では不具合情報も含めて持ち合わせておりませんので、次回以降に明らかにしていきたいと思います。
時事通信・同系のRCSはイプシロンの初号機から使われていると思うが、過去の飛行データ等でこういった事には至らなかったが不具合があったということは、判っている範囲では無かったということか
・その点も予断無く調べていくことになると思います。微妙なデータが出ていなかったか、過去号機の全てを洗って比較をして原因究明の一助にしたいと思っています。その調査は今後とお考えいただければと思います。
時事通信・ヒドラジンと窒素ガスは工場で充填するとのことだが、工場で充填するのはイプシロンからだったのか。時間を置くことで悪い方向に向かう可能性は、ヒドラジンの特性から考えにくいのか。
・そこも検討の要素にはなると思います。充填後の寿命というのも、もともと規定されている範囲内で運用していますので、充填して時間が経ったからという短絡的なものは無いと考えていますが、その辺も要因のひとつとして捨てずに究明を進めていくことになると思います。
時事通信・パイロ弁が使われているということでH3ロケットの開発に関しては、向こうでも調べるということになっているのか。
・はい。既に三菱重工さんとの話も始めておりまして、その辺は連携して原因究明をしてくということに体制を整えています。
毎日新聞・RCSが作動しなかった要因のうち系統異常はパイロ弁への点火信号が通らなかったということだと思うが、系統異常は噛み砕いてどういう風な異常なのか。電気回路の異常と考えて良いのか。
・回路というとPSDBの中というイメージになるかもしれませんが、PSDBの中にスイッチがあって、その動作まではデータで確認されています。そこの出口から配線を繋いでパイロ弁までの系統全体ということになります。
毎日新聞・電気系統ということか。
・はい。
毎日新聞・6号機に使われているRCSは5号機までと全く同じ設計・製造ラインなのか。
・はい。そこは全く変更していません。
NHK・電気系統の部分で、スイッチの異常と言うと違うということか。スイッチの先の線も含めてスイッチと呼ぶのか。
・スイッチと表現いたしましたのは、回路の中身は公開できないのでPSDBとしか書いてございませんが、通常は電力を遮断していて、信号が来たときにスイッチを入れて電気を流すという、単純に言えばそういう機構になっています。スイッチというのはPSDBの箱の中の一部分のことを言っています。その先は配線がずっと繋がっているというイメージで捉えていただければと思います。
NHK・弁を開けるスイッチの異常とするとニュアンスが違うのか。
・スイッチの作動までは確認ができているので、スイッチという言い方は違うと思います。
NHK・スイッチ以外で判りやすい言葉はあるか。
・点火機器からパイロ弁までの電気系統という言い方が判りやすいかと思います。
NHK・弁を開ける電気系統の異常ということか。
・そうですね。
(※共同通信・姿勢のずれの21度はどちらを向いているのか)
・目標姿勢に対して右下を向いていたということです。
共同通信・目標姿勢に対して進行方向の右下を向いていたということか。
・そうです。
以上です。
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