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No.2490 :超小型探査機OMOTENASHIの運用状況にかかる記者説明会
投稿日 2022年11月20日(日)21時49分 投稿者 柴田孔明

 2022年11月18日午後より超小型探査機OMOTENASHIの運用状況についての記者説明会がリモートで開催されました。
 超小型探査機OMOTENASHIはNASAのアルテミス計画初号機(Artemis I)にて2022年11月16日1:47(EST)に打ち上げられましたが、この説明会の時点では通信が安定しない状態となっています。
(※一部敬称を省略させていただきます。また回線の関係で一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました)

・登壇者
JAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 教授 橋本 樹明
JAXA 宇宙科学研究所 宇宙科学広報・普及主幹/宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授 藤本 正樹

・OMOTENASHI探査機の運用状況について(橋本)

 ・この度はいろいろお騒がせして申し訳ございません。また沢山の励ましのお言葉をいただきまして、チーム一同大変励みになっております。

 ・第1可視時の探査機電源オン時の自動シーケンス(計画)
 SLSロケット搭載状態では探査機の電源はオフで、ロケットから分離されるとスイッチが入り、以下の動作が自動で行われる。
  ・コマンド受信機オン。
  ・搭載計算機オン。
  ・Xバンド送信機オン。
  ・姿勢制御装置オン。
   1.探査機の回転が小さい場合
   →太陽捕捉制御(リアクションホイールで太陽電池面を太陽方向に向ける制御)開始。
   (※リアクションホイールは非常に小型のため、制御能力に限界があり、探査機が大きく回転している場合は起動しない)
   2.探査機の回転が大きい場合
   →レートダンプ制御(ガスジェット推進装置を起動して回転を停める制御)開始。
    回転数が規定値以内に入ったら制御を終了し、太陽捕捉制御を起動する。
  ・放射線モニタオン。計測開始。

  ※探査機が軌道上でオフになった場合にも、探査機電源が再度規定値電圧以上になれば、以上のシーケンスが自動的に実行される。

 ・第1可視(DSNマドリード局)の実際の状況
  ・可視予定時間になってもテレメトリが正常にロックしなかった。DSN局からは電波強度が弱く、探査機が速く回転しているため、受信しづらいとの連絡あり。
  ・送信機をローパワーからハイパワーモードにするコマンドを送信したところ、テレメトリがロックした。テレメトリを確認すると、太陽電池(+Y面)が太陽とほぼ反対側を向く姿勢になっており、探査機がY軸回りに約80度/秒で回転していた。制御モードは太陽捕捉モードになっていた。
  ・この状態ではリアクションホイールが動作せず、従って太陽捕捉制御が途中で停まっていた。姿勢制御を行うためには、ガスジェット装置で探査機の回転数を規定値まで落とす必要があったためそれをいちど開始した。
  ・しかしバッテリー電圧がかなり低下しており、通常の手順で回転数を落とす操作ではバッテリが間に合わないことが予想されたため、回転軸方向を変えて少しでも太陽電池に太陽をあてることを考えた。その後、バッテリー電圧低下により送信機がオフとなったので、この操作を行うコマンドが有効であったのかどうかは現時点で判明していない。

 ・第1可視時の探査機電源オン時の自動シーケンス(計画と実績の対比)
  ・SLSロケット搭載状態では探査機の電源はオフで、ロケットから分離されるとスイッチが入り、以下の動作が自動で行われる。
   ・コマンド受信機オン: →コマンドは受け付けられており確認できた。
   ・搭載計算機オン: →テレメトリデータから確認できた。
   ・Xバンド送信機オン: →電波が受信できたことから確認できた。
   ・姿勢制御装置オン: →テレメトリデータから確認できた。
    1.探査機の回転が小さい場合
     太陽捕捉制御(リアクションホイールで太陽電池面を太陽方向に向ける制御)開始。
    2.探査機の回転が大きい場合(こちらが実行されていたと思われる)
     レートダンプ制御(ガスジェット推進装置を起動して回転を停める制御)開始。
     回転数が規定値以内に入ったら制御を終了し、太陽捕捉制御を起動する。
     →テレメトリデータから、一度レートダンプ制御が起動したことは確認できたが、回転数が大きな状態で太陽捕捉制御モードになっていた。
   ・放射線モニタオン。計測開始: →テレメトリデータから確認できた。

 ・第2可視以降の対応
  ・探査機は太陽光が太陽電池に当たり電源がオンとなると、自動的に搭載計算機、受信機、姿勢制御装置、Xバンド送信機などがオンとなり起動する。探査機の回転数が大きいときには、レートダンプモードが起動し、ガスジェットを噴射して回転数を落とすようなプログラムになっている。
  ・特にXバンド送信機、ガスジェット装置の消費電力が大きいため、バッテリー充電が進み探査機の電源がオンになると、すぐにまたオフとなってしまう。これを繰り返すことが予想された。
 そのため、現在、送信機オフとガスジェット装置を使用しない制御モードへ移行するコマンドを打ち続けて、バッテリー充電を効率的に行うようにしている。
  ・送信機オフの場合、探査機の充電状態等がわからないため、定期的に短時間送信機をオンにして、電波が送信されるかどうかを確認している。
  ・電波の受信が確認された場合、太陽指向を目指すが、姿勢を変更する方法としてはガスジェット装置の他、リアクションホイールをマニュアル駆動する方法も検討している。

 ・今後の予定
 ・計画との対比
   ・17日 22:30〜 DV1(月衝突軌道投入): → 予定していた時刻に実施できなかった。
   ・19日 DV1終了時刻に依存 TCM(軌道微修正)
   ・20日 精密軌道決定
   ・21日 23:55±1時間程度 DV2(着陸減速)

  ・今後の対応
   ・太陽捕捉が完了し、復帰できた場合、DV1を実施し月着陸を目指す。
   ・DV1が出来ない場合でも、DV2のみで月着陸を実施する方策を検討中。
  ・以上のシナリオ毎に軌道検討を行うことで月面へのアクセスを諦めていない。

・質疑応答
NHK・現在の月着陸の成功確率は何パーセントで、それがいつ頃になるのか。ロケットからの分離時刻はいつか。
橋本・着陸の成功確率はいろんな考え方があって非常に難しい。ノミナルの計画の場合はいろんな誤差要因を計算しながらモンテカルロシミュレーションを通して60%程度という値を出していた。現在のようなオフノミナルの状況になりますと確率が何パーセントとは申し上げられない状況です。時刻については月に行く速度は決まっているので、プラマイ1時間か、プラマイ2時間になるかもしれない程度で、それほど大きく変わることはないと考えています。ロケットからの分離時刻は、NASAから公式なものは提供されていないので正確なことは申し上げられないが、予定時刻は19時31分(JST)です。

NHK・成功確率を数値化できないとのことだが、表現としてどれくらいなのか。
橋本・客観的に考えれば厳しいのは確かです。極めて厳しいかどうかは主観が入る。我々としては絶対出来ると信じて運用しています。

時事通信・現在、送信機の電源を切ってちょっとずつでも充電ということをされていると思うが、度々送信機の電源を入れてテレメトリを取得していて、充電の値は上がってきているのか。これから先はガスジェットは使わずにリアクションホイールでなんとか回転を止めることを考えているのか。太陽を補足するためのタイムリミットはどのくらいと見ているか。
橋本・第一可視のマドリード局以後は電波が受信できていないのでわからない。想定でこうやった方が充電の効率が上がるだろうということで今の運用をしているところです。いつまでにというのは、今言えることは月面着陸予定時刻よりも数時間前までに回復していないと、月着陸のコマンドの用意とかシーケンスに数時間かかりますので、そういう状況です。姿勢制御は最終的にはスピンを落とさないといけないのでガスジェットを使わないといけないが、充電量が小さい状態でガスジェットをいきなり起動するとそこでまた落ちてしまう。まずはガスジェットを使うかもしれないが、リアクションホイールを使って姿勢を乱して太陽方向に回るようにできれば、その状態で充電してからガスジェットを使って完全に回転を止めるということをしたいと考えています。

時事通信・送信機を時々ONにしてデータを取得しようとしているのかと思ったが、今のところ電源が入るほど充電が進んでいないので、どれくらい充電されているのかわからないということか。
橋本・そうです。節電のために送信機をOFFにする運用を続けているが、それを続けていると、ちゃんと充電できて電波が出ているにもかかわらずOFFにしているので電波が受からないということかもしれないので、念のために定期的に送信機をONにするコマンドも送ってみていることもしているが、残念ながら現時点では電波の受信は得られていません。

時事通信・これまで得られたテレメトリで分離されたときの最初の回転数が想定したものより大きすぎたとか、回転数が規定値以内に入ったら太陽捕捉モードになるとのことだが、いったんは制御内に入っていたとか、データで追える部分はあったのか。
橋本・データレコーダーで記録されたデータは再生する時間がなくて可視時間が終わってしまったので、可視はあったが電波が受信される前に起こったことについては残念ながらデータがありません。電波が初めて降りてきたときのデータからは、ガスジェットの積算噴射秒数が残っていたのでそれから逆算すると、想定されていた中でちょっと大き目の分離外乱量に相当するくらいガスジェットを吹いているように思います。ですが何故こんな大きなスピンになっているかはわからないところです。

共同通信・回転量が多いとのことだが、当初想定していた上限がどれくらいで、どれくらい上回っているのか。基本的には分離される時の影響で速くなったのか。
橋本・分離時の外乱はNASAとのやりとりで最大で10度/秒の外乱は最大であると想定されていました。しかし現在は80度/秒くらいで回っている。一方でガスジェットの噴射秒数を見ますと10度/秒の回転があったときに落とす噴射量が記録されています。ですので状況がわからないところです。今後原因究明はやっていかなければならないが、今は当面の運用に集中していますので、原因究明はそこまでであまり調べていないところです。

共同通信・80度/秒は最大なのか、それともたまたまそのデータが出ただけでそれ以上の回転になっている可能性もあるのか。
橋本・見えていたときだけのデータしか無いので、なんとも言えない。見えている間にも若干は変動しているようなことはありましたが、概ねこれが続くのではないか。一瞬というデータではないので、概ねこれくらいで回転しているというのは変わらないのではないかと思います。

NewsPicks・最悪の場合、充電がうまくいかなかったり、通信が回復しない状態になった場合、どうなってしまうのか。
橋本・全部想定になりますが、一般に宇宙空間の物体は回転していると角運動量保存の法則が成り立つので、回転軸方向が変わらず回転をし続けるというのがあり得ます。最後に送ったコマンドで姿勢が動いていれば話は別だが、動いていない場合はそのままになります。そうすると現在太陽の反対側を向いて回転しているので、このままでいきますと数ヶ月後には逆に太陽を向いて回転することになりますので常に発電がキープできる状態になると考えていて、その状態でバッテリ充電ができれば復帰オペレーションはできると考えております。一方でそれを考えると暫く運用出来ないということになってしまいますので、我々としては最後に送ったコマンドが効いていて、姿勢運動が乱れて太陽方向を向いて着陸に間に合うことを最後まで期待して運用を続けるところであります。

NewsPicks・現在は21日頃までの着陸を目指しているが、もしそれが叶わなかったとしても数ヶ月後に充電ができるタイミングがある。そこから運用を立て直して、もういちど月への着陸に挑戦することが可能ということか。
橋本・その状態になりますと、残念ながら月には戻れなくて惑星間の軌道に行ってしまいますので、そういう状態で復帰したときは月着陸実験はできないことになります。ただ今回は超小型で月に着陸するためにはいろんな技術が必用で、沢山の技術を開発して、いろんな試験をして打ち上げているところですので、それらをできれば軌道上でいろんな試験なり観測なりをしたいと個人的には希望がありますが、先のことについては関係各所との調整も必用ですので、現時点ではとにかく月着陸を目指すというところです。

毎日新聞・回転を変えようとしているコマンドは具体的にどういったものか。探査機がロケットから分離された方向は、月に向かっているのではなく、何らかの軌道修正をしないと月には向かわないところで回転しているのか。
橋本・月に向かう軌道という表現をしていますが、もともとSLSロケットがオライオン宇宙船を分離した後、宇宙のゴミにならないようにロケットの上段は月を通過して惑星間の邪魔にならない軌道に投入されています。そこからOMOTENASHIも分離されていますので、何もしなければ月を通過してそのまま惑星間に行って、太陽を周回する軌道に入ってしまうということになります。月に着陸する場合には、DV1という軌道修正が本来ならば必用です。DV1で月にぶつかる軌道に入れてからDV2をすることを考えていました。本来それができるのが一番良いが、どうしてもDV1が間に合わない場合は、最後の手段としてDV2を適切な方向に向けて行うと、月に到達することはできます。ただし本来ならば速度をぴったりゼロにして着陸しようとしていたが、軌道上でDV2を斜めに噴射して強引に合わせる場合には残りの速度がかなり大きくなってしまうという難点があるが不可能では無いと考えています。
 今送っているコマンドは、まずは探査機の充電状態がどうなっているか、あるいは充電を進めることが目的ですので、今は姿勢を変えるコマンドは送っていません。姿勢を変えようとしたのはマドリード局でまだバッテリ電圧がある状態のときに送ったということです。今やっているのは、もし起動したときにすぐに電力を使う機器をONにしないで温存して、充電をなるべく効率的に進めるというコマンドと、今復帰しているのかどうかを試すために送信機を短時間ONして調べてみるもの、これだけです。

毎日新聞・マドリード局であげた姿勢に関与するコマンドは何か。
橋本・ガスジェットをスピン軸と直交方向に噴射して、スピン軸方向を変えようとしました。

毎日新聞・それの効果が出ているかは今のところ判らないのか。
橋本・はい。

読売新聞・小型の難しさ、今回復旧がなかなか難しい。太陽電池が+Yに1面だけにしかついていないのは軽量化のため1面だけになったのか。リアクションホイールだけでやろうとしたが小型ということで制御能力が低いので、いろんな手段を切り替えるという複雑なオペレーションになるとか、今回こういったトラブルになってしまうところの背景として、やはり小型というところの難しさがあるのか。
橋本・全くその通りです。超小型で実現するということで、通常の衛星とは随分違う技術を投入しています。我々としてはそれであっても想定した範囲であれば絶対に出来ると信じているところです。太陽電池については、計画の最初の頃は、全面は固体モーターを点火するところや分離するところ(±Z面)には貼ることができないが、他の面にはぐるりと貼ろうかと考えていました。しかしこの探査機分離装置のサイズが決まっていて、どうしても太陽電池一枚も入れる隙間が無かったというところです。OMOTENASHIは真ん中に大きな固体ロケットが入りますので、とてもその余裕は無かった。リアクションホイールの能力についても、まさに小型であるので、大きなリアクションホイールは搭載できないのでここはどうしようもない。リアクションホイールのサイズとしては、通常の姿勢制御をするのに十分なサイズのものを用意していて、初期の外乱に対してはガスジェットで対応することを考えていました。

読売新聞・以前の説明会で、DV1は燃料削減のためなるべく減速量を少なくすると説明があったが、今後DV1をかなり大きくやったり、DV1ができなくてDV2だけにするというときに、これまでの姿勢制御をしている中でDV1のための燃料は十分なのか。
橋本・姿勢制御のために使ったガスジェットはDV1と比べると非常に小さく、そこには影響ないと考えています。DV1は月に近づけば近づくほど制御量が大きくなってしまうので、あまり遅れるとDV1はできないということになります。今のところ、明日と明後日くらいまでなら可能かもしれないが、詳細は検討中です。それ以上遅れるとDV1の制御量が非常に大きくなってしまうので、燃料が足りなくなってしまうことになります。その場合はDV2の一発でやるしかないと考えています。

読売新聞・当初の計画だとDV1の終了が遅くても明日午前1時となっていたと思うが、これに関しては変わらないのか。
橋本・従来はなるべく精密に制御しようとしていましたので、精度を犠牲にすれば引っ張ることはできる。まずはDV1をその時間までに終わらせて、そのあと精密に軌道を決めて、そのあと補正のデルタV(TCM)というのをやる予定も入れていましたので、精度を多少犠牲にすればTCMが終わる辺りまで引っ張ることができると考えています。

読売新聞・20日の4時45分頃まではDV1のチャンスがありそうと理解して良いか。
橋本・そこまで正確に軌道計画が出来ている訳ではないので、何時何分という程には精密には申し上げられないが、その程度の時間までにはできると考えています。

フリーランス大塚・DV1が間に合わないときはDV2のみとのことだが、当初の予定ではDV1で衝突軌道に乗せてから激突するちょっと前くらいに点火するとのことだが、今回の場合はもっと遠いタイミングで月通過の軌道から減速の方に働かせて、月への落下の方に曲げて、あとは自由落下のような状態になるということか。
橋本・その通りです。重力を打ち消す方向は固体ロケット一発しかないのでできないことになりますので、なるべく軌道高度が低いところでぴたっと止まるような軌道に入れるようにDV2を行って、最後は自由落下させるということになります。

フリーランス大塚・もともとの計画だと回転させてなるべく垂直のような形でスピンさせて、下のクラッシャブル材で衝撃を和らげるという感じだが、その場合だと斜めとか横になるのか。側面から落ちることになるのか。
橋本・そういうことになってしまいます。当初は水平に進入して速度を止めて自由落下させることを考えていたので、それに近いことになります。

フリーランス大塚・エアバッグは展開する予定で、ガスで膨らませないという話だったが、今から展開とか膨らませることは出来るのか。
橋本・それはもうできません。膨らませないことにしたので配管等を省略してしまったので、そこができない。確かに衝撃吸収という面では非常に不利な状況になってしまいます。

フリーランス大塚・膨らんではいないが展開しているので多少の効果はあるのか。
橋本・Surface Probeの部分自体は非常に高い衝撃に耐えるように作っているので、期待して良いかわからないが、月の砂の衝撃吸収もありますので駄目ということはないと認識していますが、もともと想定していないことですので、できると保証しているものではありません。

フリーランス大塚・レゴリスなどでふんわりしている所なら耐えられるかもという見通しか。
橋本・そうです。

フリーランス大塚・(月を)通過したときでも数ヶ月後にまた発電して通信が可能になる見込みとのことだが、もともと月面としか通信距離を考えていなかったと思うが、どのくらい離れても通信が可能なのか。
橋本・それはまだ検討中です。数百万キロは大丈夫だとは昨晩確認している。

NHK・DV2だけの場合、以前の説明では時速180kmまで落として着陸とのことだったが、DV2で軌道制御も行ったあとの自由落下だとどれくらいの速度になるのか。
橋本・そこはまだ計算していないところです。当初考えていたものより大きな速度にはなってしまいます。

NHK・通信できていないが、表現として「行方不明になっている」というのが正しいのか、そうではないのか。どこを飛行しているかある程度判っていて、単に電波が受からないだけか。
橋本・軌道外乱をあまり与えていないので、同時に分離したEQUULEUS探査機の軌道が正確にわかっていますので、そちらの軌道から十分にアンテナのビーム内に入る軌道は判っているという風に考えています。

NHK・週末の土日にいろいろオペレーションがあると思うが、どうなったかの説明をやっていただけるとありがたいと思います。
JAXA広報・状況を踏まえて適切なタイミングで連絡したいと思います。

共同通信・DV2のみで自由落下となった場合に、セミハードランディングを目指していたが自由落下はその範囲に収まるのか。その場合は衝撃が大きくなるので、本体が耐えられる衝撃に収まるのか。
橋本・まだそこまで精密には計算していません。ただ着地速度が速くなるので、人により主観はあると思うがハードランディングになろうかと思います。ただハードランディングでも耐えられるだけの衝撃吸収能力はSurface Probeがある程度持っていると考えていて、あとは着地衝撃がどれくらいになるかは、月面の状態がどうかで大きく違います。我々が今まで60%の成功と言っていたのは、75m/s以内で衝突する確率を計算して着陸成功確率と言っていたので、それより速い速度でぶつかったからといって失敗するという訳ではなくて、かなり速くても月面が岩とかでなければSurface Probeは耐えられると考えています。定量的にはまだ検討が追いついていないところです。

宇宙作家クラブ松浦・(ロケットからの)分離から立ち上げのときが着陸以外では最もクリティカルだと思うが、設計の段階でどこまで最悪の状態を想定していたか。80度/秒の回転で、しかも裏返しというのは、信じられないくらい悪い条件だと思うが、設計時にここまで想定していたのか。
橋本・想定していません。インターフェイスも10度/秒以内とのことでしたので、10度/秒で設計していました。

宇宙作家クラブ松浦・可能性としては分離側の問題が考えられるが、もうひとつ言いづらいが配線がひっくり返っていて、回転を止めようとして噴射したらば回転が増してしまった可能性も考えられなくもないのではないか。現状ではどういう風に考えて分析しているのか。
橋本・まだ原因究明は本格的にやっておりませんので何とも言えない。ご指摘いただいたようなことも、可能性は全部否定してはいけないので、あらゆる可能性は考えなければいけない。ただマドリード局で1回はレートダンプモードが起動しました。間に合わないと思って途中でやめたが、そのときの履歴からは設計通りのレートで徐々に落ちていましたので、そこの部分には間違いは無いと思っていますが、設計上プログラムは間違っていなくても、例えば放射線によるビットエラーで変な動作をしたかもしれないとか言い出すと、いろいろと可能性はありますので、現時点ではあらゆる可能性を考えております。

宇宙作家クラブ松浦・回復しなかった場合、月スイングバイをして飛んでいってしまうが、スイングバイが誤差要因になる。どこかの段階で軌道決定をやらなければならないが、その限界は今の段階でいつ頃になるのか。
橋本・それは非常に重要なパラメータなので、それを軌道グループに計算してもらっている。非常に難しく、どこまで誤差要因を仮定するかで難しいということで、昨日の段階ではスイングバイの高度が結構高いのであまりないと言われていたが、今再計算をさせてほしいと言われていて、現時点ではいつまでというのはなかなか言えないですが、スイングバイしたらすぐに見失ってしまう程ではないと考えています。

NHK・Y軸方向に80度回転というのを何かで可視化してほしい。
橋本・(OMOTENASHIのペーパーモデルで説明)太陽電池が太陽の方を向いていないといけないが、現状はひっくり返って(太陽電池を裏側にしたまま)ぐるぐる回っているところです。一周しても太陽は全然見えないというところです。マドリード局でのパスでやろうとしていたのは、この回転を少しでもこっち(太陽電池の向きが太陽側)になるようにしようとした。現状では残念ながら(裏返ったまま)Y軸まわりに回っているというところです。

NHK・マドリード局で送ったコマンドでガスジェットが機能したかどうかは確認できていないということか。
橋本・はい。

NHK・太陽の方向をチラ見するような回転になっているかどうかは判らなくて、次の受信でそうなっているかどうか確認できたらいいなということで送信をONにしたりOFFにしたりしているということか。
橋本・そうです。

NHK・その運用を続けていて、DV2の期限が21日の着陸の数時間前ということだが、どこで着陸を断念する判断をする予定なのか。
橋本・詳細はまだ検討しているところ。運用の準備の時間がどうしても必要になる。計画では最後のゴールドストーン(運用局)で点火だが、マドリード局のパスでDV2シーケンスをアップロードしなければいけないので、シーケンスではなく点火だけになると随分と簡略化はされるが、あまり変わらないので、20時のマドリード局のパスか、最悪22時5分のゴールドストーンパスでも間に合うかもしれない。どういうコマンドになるかにもよるので、そこは検討中です。

NHK・20日22時40分終了のマドリードか22日0時36分終了のゴールドストーンということか。
橋本・(21日)22時から22時5分のマドリード局か、(21日)22時5分から0時36分までのゴールドストーン局ですね。今回はマドリードとゴールドストーンが重なるような割り当てになっています。
(※日時は日本時間)

NHK・ここで最終判断をするのか。
橋本・そうです。

時事通信・過去のガスジェットの履歴を見ると毎秒10度に相当する修正量を吹いていたということだが、これは最大値であって分離された時の状況がもっと大きかったことは否定できないということか。
橋本・これはあくまで制御した量なので、ほぼ10度/秒の分だけガスを噴射して落とそうとしただろうということは判っています。何故落ちていなかったのかは、その前の回転数が高かったのか、それとも落とすロジックがうまくいかなかったのか、あるいは落とした後で何かが起こったのかはまだ正確に不具合検討をしている訳ではありませんので、わからないというところです。

時事通信・いちど太陽捕捉モードになっているということは、実際の機体の回転数を見てそういうモードにするということになっているのか。仮にそのモードになった場合にはガスジェットは自動的に止まるような仕組みになっているのか。誤検知でそうなっていてガスジェットが止まらないでスピンアップするようなことがあるのか。止める仕組みはどうなっているのか。
橋本・判りやすいように探査機の回転数としてお話していますが、技術的に正確に言いますと角運動量を検出するジャイロが姿勢制御装置にあって、回転数を検出してそれで角運動量を計算しています。角運動量がある一定以内に入ったらガスジェットの制御は停止するアルゴリズムになっていますので、テレメトリをそのまま信じればガスジェットは10度/秒くらいを落とすような量だけ吹いていますし、それからいちどガスジェットの制御は停止して太陽捕捉モードに入っていましたので、それが誤検知かもしれないが、搭載計算機としては、回転数は収まったのでリアクションホイールを使った制御モードに移行したという風に見えます。ただマドリード局で見た時にはスピンが非常に速くて、リアクションホイールによる制御は動かない状態でした。どうしてそういう矛盾になったのかを今考えようとしています。

共同通信・基本的ですが秒間10度とか80度とあるが、1秒間で1回転して元の位置に戻るのは360度なのか。
橋本・その通りです。秒間10度というと36秒で1回転しているということです。

NHK・太陽電池パネルが片面にしかついていないのは隙間が無いとのことだが、どこに隙間が無くて貼り付けられなかったのか。
橋本・(OMOTENASHIのペーパーモデルで説明)ロケットから分離する分離装置はNASAが指定した装置になっていて、幅や高さが全部決められていて、このペーパーモデルではただの直方体だが、溝のサイズが厳密に1ミリ単位で決まっています。太陽電池を貼るとすると横の面(横の溝の部分の両側)に貼りたかったが、いろんな装置を詰めていくと太陽電池を貼る場所が無い。太陽電池を貼るといっても接着してしまうと分解がやりにくくなるので、ネジをつけないといけないとなると太陽電池を外さないといけないなど複雑なことがあって、他の面には貼ることができなかったというところです。

NewsPicks・今後月への着陸をチャレンジするか断念するかが21日か22日にかけてとのことだが、判断の時点で広報という形で知らせてもらえるのか。
JAXA広報・これから運用を行うので、その状況に応じてお知らせしたいと思います。

産経新聞・EQUULEUSが正確な軌道を飛んでいるということで、OMOTENASHIも正確に飛んでいると何故言えるのか。
橋本・ロケットから分離された軌道があって、その軌道が判れば、分離された探査機は皆ほぼ同じ軌道を飛んでおります。そこから探査機は軌道を変えるオペレーションをすると軌道が変わっていく。EQUULEUSは今は軌道を変えていますので違うのですが、軌道を制御する前の軌道を伝搬していきますと今のOMOTENASHIの軌道になる。最初同じロケットから分離されていますので、そういう軌道になります。

産経新聞・マドリード局で受信したデータでは想定内の軌道だったということか。
橋本・それは今調査している。受信データが切れ切れなので、そのデータを使って軌道を計算することができていないが、同じロケットから分離されたので同じだと想定しています。

毎日新聞・OMOTENASHIがスピン状態にあって、太陽電池パネルが背面になっているというデータが降りてきたときに、どのような感想をお持ちになったか。
橋本・私は姿勢制御が専門ですので、その状態がいかに厳しい状態かはひと目見た瞬間に判りました。回転数が大きいので、すごく姿勢は変えづらい、なおかつ太陽とほぼ反対を向いているということで、非常に難しいということは判りました。ただバッテリの残り時間も考えて、出来うるベストなことは何かということでマドリード局で出来るだけのことはしたのですが、その結果が出ているかどうかがまだわからない状況で、出ていると想定していろんな運用でベストを尽くそうとしています。

毎日新聞・姿勢が乱れたという情報を見て、(小惑星探査機)「はやぶさ」の通信途絶を思い出したが、過去の経験などから参考になることや頭をよぎったことはあるか。
橋本・私は「はやぶさ」も担当していたので経験しているが、「はやぶさ」の時は回転方向が全くわからない、姿勢が完全に乱れた状態で消えて受信ができなくなった。回転方向が全くわからないという事だったので、回転方向を全部考えて1年以内には受信できるだろうという計算をした。今回は回転軸が判っている一方で、「はやぶさ」は1年も気長に受信しようと考えていたが、我々は出来れば月面着陸までに回復させたいので、そこが随分と違う状況かなと思っています。

ライター林・現在故障機器は無いと思われるというツイートがあったが、ハウスキーピングが満足に出来ない状況で何故そう言えるのか。また充電できない状況や高速で回転している今の状況で機器への影響は考えられるのか。
橋本・原因がわからない以上、なんとも言えないですが、マドリード可視で見た限りにおいては姿勢制御装置も想定しているモードになっていますし、ガスジェットについても回転速度と噴射量の辻褄は合っていないが、噴射モードとしては正常に動作しているようですし、レートダンプ制御も可視中に1回起動してそれも想定通りに全部動いていましたので、搭載機器でここが壊れているというような所は発見されていないというのが正しい表現かと思います。発電が長時間できない状態が続いていると思われますので、その影響というのは若干あろうかと思いますが、それについてはどういう状態になっているか全く判っていないので、現状では評価できないというところです。

ライター林・若干の影響とはたとえばどんなことが考えられるか。
橋本・もともとこの探査機は太陽電池が太陽を向くように想定して作っていて、初期の段階とか軌道制御をかけるときには任意の姿勢にしなければいけないので、1時間程度くらいはどの方面から当たってもいいようにしていますが、何日も裏側から当たり続けた場合に温度がどうなるかはよく判っていません。それによっては影響がある機器があるかもしれないと考えていますが、具体的にどの機器がどうなるかは現時点ではデータが無いこともあって言えないところです。

毎日新聞・SLS分離時のトラブルの影響も考えられると思うが、EQUULEUSのデータから何か影響が出ていることはあるか。
橋本・EQUULEUSチームに分離時の外乱がどれくらいあったかというのは聞いております。EQUULEUSは正常に動いていますので、分離時にどれくらいのレートがあったかのデータも残っていて、それは言われていた通りの10度/秒くらいの分離外乱があったと聞いています。かなり最大に近かったが、特に問題は無い。想定の範囲内でしたので問題は無いと聞いています。

・ひとこと
橋本・非常に想定外の状況になってしまいまして、プロジェクトチームとしても大変残念な状況になっていますが、皆様方から沢山のご支援の声をいただきまして、大変ありがとうございます。これからもチームとしては、まずは月着陸を目指せるように万全の準備をして、出来ることを全てやるということで、やってまいりたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

以上です。

No.2489 :イプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況その3
投稿日 2022年11月17日(木)01時18分 投稿者 柴田孔明

 文部科学省調査・安全小委員会にてイプシロン6号機打上げに関する第4回会合が行われ、この後に記者向けのブリーフィングが行われました。
 なお委員会は前半の公開部分のみで、後半の非公開部分は含まれていません。
 ※前回と重複する部分など一部を省略いたします。またリモート開催のため、回線状況等により一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました

・イプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況(資料より抜粋)

・前回までの発生事象の整理
 ・1段モータ燃焼中のTVC制御およびSMSJによる姿勢制御は正常に行われ、2段モータ燃焼中のTVC制御も正常。その後RCSによる制御のみになった際に3軸全ての姿勢角誤差がRCS制御終了まで拡大し続けた(2段燃焼終了後姿勢異常)。
 ・2系統のRCSのうち1系統(+Y軸側)のパイロ弁の下流配管圧力の値が、パイロ弁に点火信号を送出した後にタンク圧力まで上昇しなかった。結果、RCSとして機能しなかった。
 ・FTA(FaultTreeAnalysis)に示す原因の可能性が否定できなかった3つの推定要因のうち、「PSDBスイッチ下流〜パイロ弁までの系統異常」は要因ではないと識別した。

・原因究明状況
 ・前回報告時点で可能性が否定できない2つの推定要因に対して、絞込みを行うために以下に示す製造・検査データの確認および追加検証を行い、詳細な要因分析を進めている。
  ・パイロ弁の開動作不良
  ・推進薬供給配管の閉塞

 ・確認している製造・検査データ
  ・図面、製品仕様、製造工程、製造記録、検査記録、試験データ、写真記録、作業者・検査員ヒアリング、不具合情報、等

 ・参考:正常に動作した−Y軸側イニシエータ2式のうち1式は射場点検要求に適合しない事象が発生したため、別ロット品に交換している。

 ・「パイロ弁の開動作不良」について(前回から更新された部分から抜粋)
   ・イニシエータ作動不良
    ・保管不良:射場における保管温湿度はパイロ弁供給業者の図面およびイニシエータ供給業者文書の仕様範囲内。保管期間はイニシエータ供給業者文書の仕様範囲内。工場保管環境を確認中。
    ・射場における点検不良:射場での導通絶縁点検要求はパイロ弁供給業者の図面の仕様範囲内。パイロ弁供給業者の図面の仕様とイニシエータ供給業者の点検規格に差異があり、そこのところの根拠を確認中。

   ・PCA作動不良
・保管不良:射場における保管温湿度はパイロ弁供給業者の図面の仕様範囲内。湿度要求に関して根拠を確認中。保管期間はパイロ弁供給業者の示す同型式品の作動実績内。工場保管環境を確認中。

   ・バルブ本体(ラム、仕切り板)作動不良
 ・保管不良:射場における保管温湿度はパイロ弁供給業者の図面の仕様範囲内。根拠を確認中。保管期間に関する仕様を確認中。工場保管環境を確認中。
    ・PCA・バルブ本体組付不良:PCA射場搬入から使用前まで保護具を外しておらず、Oリングは射場搬入時の状態を維持。

 ・「推進薬供給配管の閉塞」について
   ・ダイヤフラムによる閉塞
    ・ダイヤフラムが正常であるケース:推進薬タンク容量24Lに対して推進薬量約9Lの充填状態において、ダイアフラムがフライト中の加速度等により変形し、推進薬タンクの液ポートに近接して閉塞させる可能性があるか調査中。
    ・ダイヤフラムが異常であるケース:ダイアフラムの脱落または液側からガス側への推進薬漏洩により、ダイアフラムが推進薬タンクの液ポートに変形・近接して閉塞させる可能性があるか調査中。ダイアフラムに関連する製造・検査データを調査中。

   ・フライトデータによる評価
    ・フライトデータではパイロ弁点火信号送出時に+Y軸側の下流配管圧力が、本来ならばタンク圧力まで等しくなるまで上がるがそこまで上がらず、1分解能分だけ上昇している。
    ・上記が実事象の場合かつダイアフラムが液ポートに近接していた場合、パイロ弁開動作時にダイアフラムが液ポートに引き込まれて閉塞するとともに推進薬がわずかにパイロ弁下流に流れ込む、あるいはパイロ弁下流の容積を押し込むことにより、フライトデータと整合する可能性がある。
    (※パイロ弁の開動作不良の場合においてもフライトデータと整合するか検討中)

   ・「ダイアフラムが正常のケース」について、推進薬搭載時のダイアフラム形状を確認するための試験を実施した結果、1G環境下ではダイアフラムが液ポートから離れていることを確認した。
    ・フライト中の加速度等により、ダイアフラムが液ポートに近接する可能性があるか調査中。

   ・「ダイヤフラムが異常のケース」は、ダイアフラム固定リング溶接部の健全性について、溶接に関する検査記録を確認中。ダイアフラム組付部寸法と耐圧試験について検査記録を確認中。その他は良好。

   ・参考
    ・各段組立ではノズルを上方に向けて組立を実施→推進薬充填以降のRCSは同じ向きで作業を実施
    ・2段を1段に結合する前に上下を反転(RCSも反転)

・H3、H−IIAロケットへの水平展開
 ・前提条件
  ・これまでのFTA評価により当該事象が発生した2つの要因について、更なる絞り込みを行った結果、いずれも部品・コンポーネントにかかる事象として識別。
  ・「パイロ弁の開動作不良」:パイロ弁の製造・保管不良の可能性
  ・「推進薬供給配管の閉塞」:タンク・ダイアフラムの製造不良、ダイアフラム変形の閉塞事象の可能性
  ・当該識別を踏まえ、H3ロケット及びH−IIAロケットについて、上記ステータスを水平展開し、可能性が否定できないすべての要因について影響評価を行った上で対処していく方針として検討を行った。
  ・H3ロケットおよびH−IIAロケットのRCSそれぞれについてイプシロンロケット2段RCSを構成するシステムとの共通性の識別、およびイプシロンロケット6号機のFTAを踏まえた影響評価の対象項目を整理した。

 ・評価結果概要
  ・H3ロケット水平展開
   ・「推進薬供給配管の閉塞」の要因にかかわるダイアフラムについて、推進薬充填後やパイロ弁開時にダイアフラムが推進薬タンクの液ポートに近接しないため、ダイアフラムによる液ポート閉塞の可能性は無いと評価。
 また、推進薬のリークやダイアフラムの破損、脱落が発生しないよう管理し、製造異常も確実にスクリーニングできるプロセスをとっていることから、フライトに異常を持ち込むリスクは無く、H3ロケットに関する懸念は排除されると評価。
   ・一方、「パイロ弁の開動作不良」および「推進薬供給配管の閉塞(パイロ弁内)」の要因にかかわるパイロ弁については、H3ロケットとイプシロンロケットと製品としては異なるものの製造元と作動原理が同じである。そのため、懸念を排除できない可能性を踏まえ、H-IIAロケットのパイロ弁と交換する方針。
   (一部技術評価を継続中の部分があるが、H3ロケットへの適用可能な見通し)

  ・H−IIAロケット水平展開
   ・「推進薬供給配管の閉塞」の要因にかかわるダイアフラムについて、H−IIAロケットとH3ロケットは設計仕様、検査手順等が同じであり、H3ロケットの評価と同様にH−IIAロケットに関する懸念は排除されると評価。
   ・「パイロ弁の開動作不良」および「推進薬供給配管の閉塞(パイロ弁内)」の要因にかかわるパイロ弁は、仕組みが異なり、製造異常も確実にスクリーニングできるプロセスとなっていることから、H−IIAロケットに関する懸念は排除されると評価。

・H3ロケット第2段RCSの設計変更
 ・H−IIAロケットと同じパイロ弁への交換に際し、以下の設計変更を実施する。
  1.パイロ弁、取付部品、および上下流配管の変更
  2.パイロ弁点火信号発出方法をH−IIAに合わせる(同時に信号送出)
 ・一部技術評価を継続および最終的な試験(機械的環境への耐性)による確認を行う予定であるが、パイロ弁交換による設計変更の範囲は限られておりロケットシステム全体への影響はなく、H−IIAパイロ弁をH3ロケットへ適用可能な見通し。

・H3ロケットへの評価概要
 ・影響評価の方針
  ・H3ロケットで評価対象とする部品の概要を以下に示す。
   ・H−IIAパイロ弁
    ・H−IIAパイロ弁は冗長構成の火工品(パワーカートリッジ:PC)を装着し、PC着火で発生する高温高圧ガスで、パイロ弁内の摺動部が移動することで、流路を開通させる機構。
     (イプシロンのパイロ弁と設計仕様が異なる)
    ・H−II初号機から現在のH−IIAまで同一設計でありフライト実績は100式以上。
     (H−II/H−IIA/H−IIBロケット1機あたり2式搭載)

   ・H−IIAパイロ弁用火工品(PC)
    ・火薬を電気着火し高温高圧ガスを発生させる。イプシロンの「イニシエータ」+「ブースター」の機能に相当。(イプシロンの火工品と設計仕様が異なる)
    ・H−IIAパイロ弁と同様にH−II初号機から現在のH−IIAまで同一設計でありパイロ弁の開実績は100回以上。
     (パイロ弁1式に対し2個のPCを装着する冗長構成)

   ・タンク(ダイアフラム含む)
    ・推進薬タンクは俵形(H−IIA球形タンクに長胴部を追加したもの)でダイアフラム方式。赤道部で円周を固定したダイアフラム(ゴム製の膜)を界面に、推進薬を加圧ガスによって押し出して推進薬を供給する。(イプシロンのタンク(ダイアフラム含む)と設計仕様が異なる)なお、H3では加圧ガスはヘリウムを使用する。
    ・タンクの直径、ガス/液ポート形状、ダイアフラムシール部はH−IIAと同一。
    ・ダイアフラムの材料はH−IIAと同一。サイズのみ異なる。

・今後の進め方
 ・結果サマリ
  ・イプシロン原因究明
   ・2段RCS機能しなかった要因として可能性が否定できない「パイロ弁の開動作不良」および「推進薬供給配管の閉塞」2つの推定要因について、更なる要因の絞り込みを行った結果、いずれも部品・コンポーネントにかかる事象として識別しています。完全には潰しきれていないが、ここまで追い込んできたと考えています。

 ・原因究明事項のH3ロケット、H−IIAロケット水平展開
  ・H3ロケットでは、H−IIAロケットで実績のある、仕組みの異なるパイロ弁に交換することでH3ロケットに関する懸念は排除されると評価しています。
  ・H−IIAロケットの水平展開を行った結果、H−IIAロケットはいずれの要因についても懸念は排除されると評価致しました。

 ・今後の予定
  ・視野が狭くならないように俯瞰的な視点を確保しつつ、追加の検証を含め、原因特定に向けた分析等を引き続き行い、後継ロケット等に対策を反映していく予定です。


・以下から記者向けのフォローアップブリーフィング。
・質疑応答
時事通信・JAXAとしてはH3はパイロ弁を交換する方向で動くのか。どのくらいの変更の規模になるのか。スケジュールに影響を与えない程度なのか。
・今日の報告で大体の内容を確認いただき、JAXAとしてはパイロ弁を交換する対策を進めたいと思っています。若干まだ解析試験を残していますが、それを確実に確認するということで、年度内と言っているH3の打ち上げに対応できると考えています。改修の規模ですが、パイロ弁とその周りの配管、それから電気系の変更という範囲ということで、設計変更の範囲は軽微と考えています。念のための試験を確実に実施すれば、我々としてはいけると思っています。

時事通信・充填量がタンクの容量に比べて少ないが、イプシロンの1号機から5号機までも同様の充填量だったのか。
・1号機から5号機まで同じ充填量になっています。タンクを他のヘリテージをそのまま活用するということで選んでおりまして、実際に使う量は充填している量で済むが、タンクが少し大きいものをそのまま使っているのが経緯になります。

時事通信・原因の絞り込みで弁の開動作不良とダイヤフラムの閉塞が残っているが、ダイヤフラムの閉塞はひとつの可能性として考えてみたというレベルなのか、それともありうると考えているのか。
・いろいろな可能性を探っている中のひとつ。今日は水を使った1G環境下での試験結果を報告させていただきました。基本的にはダイヤフラムが変形によってポートのごく近くのところに来ないと、シナリオとして考えているところが説明できないと考えています。今後に向けて加速度環境下でどうか、無重力環境下でどうか、そういった解析や試験も含めてやった上で、可能性があるのか無いのかを引き続き調査していく方向で考えています。

読売新聞・2つの原因の絞り込み調査が終わっていない段階で、H3の弁をH−IIAのものに変えると決断した理由は、H3の打ち上げを確実に年度内に打ち上げるためと認識して良いか。
・当然、原因究明の絞り込みをしっかりやった上で進める、これは大原則ということで我々はいま対応しております。一方でH3の方も早くデビューさせるということで、年度内の打ち上げを目標に、CFT試験も実施したところまで来ています。そういった意味で2つの要因にある程度追い込んできたという中で、なるべくこちらの件を間に合わせる方向に持っていきたいということで、今日時点でまだイプシロンの可能性が潰し切れていないという中で、懸念を払拭できるような方向性の変更を行うということで対応していきたいというのが、我々の考え方になっています。

読売新聞・資料の「−Y軸側イニシエータ2式のうち1式は射場点検要求に適合しない事象が発生したため、別ロット品に交換」とあるが、これが意味するところを詳しく。
・前回も質問があって、4号機から6号機は同一ロットという回答をしたと思います。その答えは作動しなかった+Y軸側を念頭に置いて答えたということもありまして、補足をしなければならないということで参考として入れました。同じロットのイニシエータで今回の6号機も点検をして打ち上げに臨むということで進めていたが、1式が導通絶縁の点検をする中で少し規格を外れたという事象が発生いたしました。この事象が出たので、別ロットで持っている部品をあてて今回飛ばしたということになっています。

読売新聞・資料でパイロ弁業者とイニシエータ業者が違う会社に見えるがそうなのか。
・はい、違う会社です。

読売新聞・両方の業者から協力は得られているのか。
・今そこを鋭意詰めているところです。協力してやっていただいている状況です。

読売新聞・H3ではH−IIAの弁から変えた理由としてコストとか総合的な判断とされたとのことだが、端的にはコストを重視して変えたということか。
・いや、コストだけでは無く、全体のサブシステム設計の中で、これが一番いいだろうという判断をして決めたところなので、コストだけという形ではありません。

NHK・確認だが、イプシロンで残っている要因が二つあって、ダイヤフラムかパイロ弁の閉塞となっていて配管そのものではなくなってきていると受け止めたが、ダイヤフラムもパイロ弁内の閉塞も配管の閉塞という理解で良いか。
・閉塞ということに対してはイエスです。配管等については製造データを確認し、配管に異常があったことは排除できてきた。今はダイヤフラムの閉塞とパイロ弁が全体的に調査中ですので、製造記録の確認を追い込んでいる状況です。

NHK・ダイヤフラムによる閉塞とは、ダイヤフラムによって配管の入口を塞ぐことか。
・ダイヤフラムは液とガスを隔てているもの。ゴム製で変形をするが、下側にある液の側の入口近くにダイヤフラムが変形して吸い込まれて塞ぐと、ひとつの要因になるということで、それが本当に起きるかといったところを解析、あるいは試験で確認をしているということでごさいます。

NHK・H3のパイロ弁はひとつか。
・パイロ弁はひとつです。

NHK・パイロ弁を変更してもロケットシステム全体への影響は無いとのことだが、噛み砕くとどういうことを指しているか。
・パイロ弁の質量はそんなに大きくない。RCSの中の配管を含めた変更の度合いは数百グラムの変更になります。ここが例えば何十キロも違うという設計変更の場合は、振動とかそういったものがシステムに及ぼす影響を確認しなければならない。数百グラムくらいの差なら、RCSの中で特異的な振動が無いかなどを確認すれば良くて、ロケット全体が振れてしまうなどの影響は及ぼさないだろうと考えています。

NHK・今回の設計変更で物理的に物を変えなければならないのは一つ目(パイロ弁、取付部品、および上下流配管)だけか。二つ目(パイロ弁点火信号送出方法)はシステム改修みたいなものか。
・答えはイエスです。パイロ弁そのものは物を変更する。付随する前後の配管と剛体にとめるためのブラケットの形を変える。この辺はハード的に変えるものになります。電気の方は今のイプシロンで使って来たパイロ弁は時間差をつけて発火させる方式で、H3もそれを使おうとVCON2A/VCON2Bで時間差をつけて出力する設計でここまで来ていました。これをH−IIAのパイロ弁は同時に着火する方式に変わりますので、そこのパラメータをいじるだけで電気系の設計は完了するというところです。

NHK・これをひっくるめて今回のパイロ弁交換に伴う影響は限定的という理解で良いか。
・そうです。範囲は限られているという言葉で本日は説明していただいております。

NHK・影響はシステム全体には及ばない、限定的と言うと言い過ぎか。
・大きくは間違っていないと思います。

NHK・交換をしたあと試験をする予定とあるが、どれくらいの期間を見込んでいるか。試験の公開予定はあるか。
・1ヶ月以内に振動を確認する試験をやります。工場側の小さい試験のため公開する予定はございません。

NHK・(試験は)射場ではないということか。
・工場側でやる試験です。開発品で確認し、実機品は別に作って、推薬を充填して射場に持ってきて搭載します。フライトするものとは別に供試体を仕立てると理解していただければと思います。

NHK・1ヶ月以内に試験するものは試験用に作る物ということか。
・そうです。

NHK・今年度中に打ち上げるということについて一言いただきたい。
・いちばん課題であったH3のLE−9の最終的な大きな試験であるCFTを無事に実施させていただきました。データの詳細評価を今実施中で、その詳細評価の結果によって、打ち上げ時期そのものがいつできるか見極めていくところですが、試験そのものがうまくいったということで、かなり大きなハードルはなんとか越えられたかなと考えております。一方、こういう小さい設計変更もありますというところを全て潰して、1号機は確実に打ち上げるという判断をしていきたいと考えています。

NHK・水平展開で今後どういう対策を徹底して1号機の確実な打ち上げに繋げていきたいかという点をもう一度詳しくお願いします。
・イプシロンの方の原因究明がかなり追い込んできたと考えておりまして、その中で二つの懸念が残っているが、これをある程度払拭できる対策として設計変更に臨んだというところです。これによって懸念を払拭して、この問題についてはクリアするという方向で、あとは全体のCFT試験の結果等を踏まえて打ち上げの設定に臨むという流れで我々としては対応していきたいと思っています。

南日本新聞・イプシロンロケット6号機の失敗原因の調査について、いつ頃までにというスパンがあれば教えて欲しい。
・本日時点で、まだここまでとはなかなか言えない。残った要因の絞り込みの調査もかなり細かいところに入ってきていると思っています。なるべく早く原因の特定に至ることを目指して取り組むというところは、我々は姿勢を変えずに行きたいと思っておりますけども、いつまでというのはちょっと本日はご了承いただきたいなと思っています。

南日本新聞・H3のパイロ弁の交換だが、あくまで1号機だけに限った話か、それとも2号機以降についてもH−IIAのパイロ弁を使用するのか。
・まだそこは完全には決めていないところです。この方策でパイロ弁の調達も含めて行ければこのまま行く形もありますし、イプシロンの原因調査が進んでパイロ弁に全く問題が無いと出れば戻すこともあるかもしれない。2号機以降は今後の検討という形で我々は考えています。

南日本新聞・パイロ弁の変更が決まっているのは現時点では1号機だけということか。
・そうです。まずは1号機をなんとか仕留めるということで、設計変更をとったというところでございます。

フリーランス大塚・パイロ弁で、−Y側のイニシエータのひとつだけ別ロットに交換ということなので、+Y側の2個と−Y側の1個の計3個が同一ロットで、交換した1個だけ別ロットということか。
・はい、その理解です。

フリーランス大塚・別ロットにした理由は何か。同一ロット品がもう無かったのか。
・ロットとして調達する場合、調達のやり方はいろいろあるが、4(号機)から6(号機)までの使用分をまとめて調達していました。これが同じロットで手元にあった。それを6号機にも使うつもりだった。今回射場の点検で事象が出ましたので、急遽新しいものを調達したということでロットが変わったという事になります。

フリーランス大塚・同一ロットが残っていたら調べることができると思っていたが、そうすると残っていないのでその調査はできないのか。
・その点もいま検討しています。今後の絞り込みの中でそういうことも考えたいと思います。

フリーランス大塚・射場には残っていなくてもメーカーに残っているということか。
・不具合になったそのものがありますので、これが同一ロットです。これをどう見ていくかがひとつあるかなと思っています。

フリーランス大塚・発生した事象というのは、前回は火薬の湿度という懸念があったが、それではなく導通で抵抗値が大きいとか小さいとか電気的な話なのか。
・測定値が規格をちょっと外れたというところで、原因を含めてよく判らないので交換したという形になっています。

フリーランス大塚・ダイヤフラムのアクリルタンクでの試験で、最初ダイヤフラムの面が水平になっていると思ったが垂直になっている。その理由は何か。
・こういう機体への取り付け方をすると、このタンクの配置がいちばん配管等の艤装上、配管を短く出来るとか、質量的に最も良いという形でこの方向が選ばれた。イプシロンはこうだが、斜めに艤装しているものもありまして、機体の中での最適な配置ということで決まっているということです。

フリーランス大塚・資料の写真で斜めになっているのは、水が重力で下に偏っているということか。
・そうです。

宇宙作家クラブ松浦・タンクはヘリテージとのことだが、H−IIAのタンクが既にあったということか。
・宇宙研の他の衛星のヘリテージと理解しています。

宇宙作家クラブ松浦・必用な推進剤に対してタンクが大きい。なぜ小さくする変更をしなかったのか。タンクを小さくすると軽くなり、高圧ガス側も小さくなる。すると強度が上がってさらに軽くなると思うが、なぜ大きいままだったのか。
・まだプロジェクトと確実に会話ができていないが、タンクを変えると開発費がかかってきますので、当時の判断としてそこに力を入れるよりも他に力を入れたということかなと考えています。全て最適に変えられるならそうだが、イプシロンはMVからの空白を埋めるためになるべく早めに上げるということで試験機1号機を上げた経緯もございまして、その中で手をつけるべきところと、つけなくてもいいところ、それを取捨選択したのかなと考えています。

宇宙作家クラブ松浦・20気圧がかかるタンクだが、日本の法規的にはどの規制か。
・高圧ガス取締法になります。通常高圧ガスの適合は耐圧の4倍が世の中の一般のタンクだが、宇宙用はそこを低くしても良い。安全上のいろいろな対策をとれば低くしても良いという中で選ばれているものです。他の宇宙機・ロケット・衛星で全て同じような考え方のものになっています。

共同通信・H3のパイロ弁をH−IIAのものに交換する件で、供試体を使った試験をするとのことだが、ここで言う供試体とはどういうものか。実機にかなり近いものか。
・EMタンクという形で試験に使ってきたタンクと、配管は今回に合わせて作っていくことになります。パイロ弁も残品を使うという意味では、極力試験の有効性という意味でも、実機とほぼ同じものを仕立てて試験をするということになります。

共同通信・(H3の)1号機の打ち上げをするとなったとき、実績のあるパイロ弁に変えて、基本的には初めて使う形になるのか。
・H3そのものが初めてで、もともとの設計も初めて。H−IIのパイロ弁ということで100基くらい実績のあるものに一部分だけ交換するという観点では、同等の設計レベルにまで追い込むことが出来ているかなと思っています。

フリーランス秋山・資料の水平展開で「推進薬のリークやダイアフラムの破損、脱落が発生しないよう管理し、製造異常も確実にスクリーニングできるプロセスとなっている」とあるが、スクリーニングできるプロセスというのがイメージできないので詳しく教えて欲しい。
・内部構造を説明しないとなかなか難しい。ダイヤフラムというゴムを金属の球体の内側に結合することになります。ゴムを押さえてシールさせる押さえ方になります。押さえ方が製造ノウハウにかかるので示せないが、そこの押さえ方のコントロールを、寸法の確認といったところを開発の中でかなり追い込んでいて、それをきちっとした製造プロセスに落とし込んでいるというプロセスが確立していることがひとつ。それから溶接してタンクと仕上げた後に、ガスポート側、あるいは液側から、両方から加圧をして気密の確認をする。ゴムを抑え込んで設置してあり、ゴムなので圧力をかけると引っ張られリークパスが出来てしまう可能性があります。そのため圧をしっかりかけて確認すれば、その辺がきっちり仕上がっているかどうかが判る。その圧力値とかも開発の中でかなり試してきておりまして、そういった意味で良品をしっかりと選ぶことが出来るということを示した言葉です。

フリーランス秋山・製造の段階でプロセスの記録をきちっとするということと、出来上がったものの検査方法として無害なガスを通すなどして変な方に膨らんだり漏れていたりしないことが判るということか。
・溶接すると中は見えないので、漏れが無いかをしっかり確認するのが保証になっています。

以上です。

No.2488 :試験結果記者説明会
投稿日 2022年11月11日(金)23時22分 投稿者 柴田孔明

 2022年11月7日午後にH3ロケット試験機1号機実機型タンクステージ燃焼試験が行われ、翌日午前に試験結果記者説明会がリモートで開催されました。
(※一部敬称を省略させていただきます。また回線の関係で一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました)

・登壇者
JAXA宇宙輸送技術部門 H3プロジェクトマネージャ 岡田 匡史
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 H3プロジェクトマネージャー 新津 真行

・H3ロケット試験機1号機1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)の結果について

 ・計画と実績の比較
  ・特別検証用データ取得のための計測装置関連の追加作業等(+9時間)
   ・推進薬充填作業開始後に、計測装置(移動発射台(ML)の中に設置)の電源が投入されていない状態にあることを確認した。このため、電源投入を行うために追加作業を実施しました。
    ・ロケット/MLに接近するための安全化処置:作業者接近の前作業として、推進薬タンクに充填済みの燃料の排液する、あるいは安全なガスへの置き換え作業を行った。
    ・作業者が行き、計測装置のチェック、電源投入などを行った。
    ・計測装置が正常に動作することを確認。
    ・推進薬 再充填作業を行った。
  ・その他、充填作業等の進捗にあわせた作業スケジュールの見直し
    ・計測装置の電源投入に要した時間が6時間程。
    ・全体の作業のスケジュール見直しで3時間くらい。
 ・燃焼試験後の特別検証作業項目の選定
  ・液ガス(液体水素・液体酸素・ヘリウム・窒素)の残量に応じて優先度の高い特別検証を実施。
  ・必要なデータを取得した。

 ・CFT時の天候。
  天候に恵まれ、極低温点検のときは自然との闘いが凄かったが、今回は非常に穏やかな天候の中で試験をすることができた。天候判断などは順調に行いながら進めた。
  ・機体移動時(11月6日19時00分時点)
  天気:晴れ、気温:20.4度C、降雨:なし、風向風速:北東4.0m/s
  ・LE-9エンジン着火時(11月7日16時30分時点)
  天気:曇り、気温:21.7度C、降雨:なし、風向・風速:北北西2.2m/s

 ・CFTでの主な検証項目と結果概要
  ・計画していた主要検証項目を良好に終了し、必要なデータ取得。技術評価の上試験終了を判断。今後取得したデータの詳細評価を実施していく。
   ・準備の機能:良好にデータを取得
    ・VABから射点への移動、電気ケーブルや配管の接続
    ・推進薬などの充填風解析と飛行プログラムへの反映
    ・カウントダウンの機能:結果良好
     エンジン(LE-9)着火:
      着火時間 2022年11月7日16時30分(JST)※
      燃焼時間 25秒(計画値:25秒)
      (※エンジンのスタート時刻は16時30分より少し前)
   ・飛行中の機能:良好にデータを取得
    ・エンジン燃焼、推進系機能、推力方向制御機能。
    ・射点(エンジン燃焼状態)でのロケットと追尾局との通信。
    ・エンジン燃焼中の振動・音響の確認
    (※現段階で全てのデータの中身を確認できている訳ではない)

 ・今回の1段タンクステージ燃焼試験実施にあたりご協力いただきました関係各方面に、深く感謝いたします。本当にありがとうございました。また、2日間にわたり、試験時間が9時間変わってしまったにもかかわらず多くの方に見守っていただきました。本当にありがとうございました。
 我々も試験直後はほっとしまして、私がおりましたRCC、打ち上げの作業を実施しているLCCそれぞれの中で拍手が起きまして、皆で握手をしました。誰もが恐らく少し脱力した感覚と、無事終わって良かったなという安堵の気持ちがあったと思います。またその傍らで特別検証で何をするかをエンジニアがホワイトボードに早速まとめ始めまして、本当にロケットのエンジニアのパワフルな技術に向かって行く姿を今回も垣間見ました。
 ・H3ロケット開発は、最終段階の大きな試験をひとつ乗り越えることができたと思います。データの評価には時間がかかるが、その評価をしっかりした上で、もし必用なことがあればそれを講じまして、引き続き総力を挙げてH3ロケット試験機1号機打上げに向け取り組んでいきたいと思います。本当にありがとうございました。

・質疑応答
東京とびもの学会・2020年10月頃に煙道の上に消音設備(屋根)を設置したが、それでどれくらい軽減できるのか。結果が出たら公開してもらえるか。
岡田・音響のデータにつきましてはまだ出力していない状態で、これから出力して細かな解析を行うところです。その結果については、もしかしたら学会やシンポジウムなどで説明する機会があると思うが、個別にそれを行う予定はなっていないです。我々としても非常に関心の高い、ロケットの音響環境を抑えるためのひとつの方法として、我々が推測した現象がこれなのか、対策がとれているのかということも含めてデータを解析するのが楽しみであります。
新津・防音版という言い方をしていると思います。射点でエンジンが煙道を通して排気されるときに、いろんなところに開口しているところがあって、そういう所から音が回り込んでくることが、開発段階でJAXAさんが行ったスケールモデルの燃焼試験でわかっていたので、そこの所の主要な音源ということで対策をとった。今回、機体周りと外部を含めて音響データを取得していますが、とこの部分からどれくらいの音かという切り分けはできないが、トータルとして我々が想定した音響レベルに低減できるとの観点での確認ができると考えています。

KYT・カウントダウンシーケンスの「X」の意味。
岡田・Xの意味は打ち上げる瞬間の時間をX時刻と言っている。そこに至るマイナスの時間が分であったり秒であったり紛らわしいが、基本は秒で表すことが多くて、分のときは「分」とつけます。Xの意味は昔からの使い方で、意味は私は判らない。Xは時間に対するカウントの尺度。日にちでいうとYとかLと言います。

KYT・X=0のときの意味。
岡田・リフトオフのタイミングです。

KYT・なぜ25秒に定めたのか。
岡田・25秒ですが、ロケットは本当は地上で燃焼するものではないですし、地上設備も普段はロケットを固定して使うものではない。基本ここにはあまり負担をかけないようにするのが前提だと思います。その上で必用なデータをとるためにどのぐらいの時間が必用になるか。具体的にはエンジンの性能であったり、例えば推進系の機能の確認というとタンクの加圧を自動的に制御しながらデータをとりますが、そういったものに十分かということと、推力方向制御機能を燃焼中に動作させるので、それらが十分なデータがとれるかという観点で25秒をセットしました。

KYT・データを十分に取得するため、かつ設備に負担をかけないためということか。
岡田・はい。

読売新聞・今の時点で結果が良好と言えるところ。何がうまくいって、何がこれからなのか。
岡田・カウントダウンに結果良好と書いているが、良好にデータを取得ということもあわせて、特に差を付けた訳ではない。全般的にデータがしっかりとれたということと、そのデータを見る限りにおいてそこは良好、つまり想定していたようなデータが出力されていることを確認しています。推進系や制御系であるとか電気系であるとか、そういう系としてそれが良好であったかで言いますと、試験が終わって2時間後くらいのクイックでデータをレビューした結果として、一言で言うと全般的に良好でした。昨日得られたデータを見る限りは、何か大きく手を打たないといけないというものは出て来ていないが、それは例えばエンジニアはここだけはどうしても見ておきたいというところは詳細に見る、あとは全般にざっと見るくらいのレベルの確認なので、まだこれからひとつひとつをつぶさに見ていったときに何か気付きが出て来る可能性はあります。
新津・例えば推進薬がきちんと充填できて燃焼することが出来たという意味では良好ですが、例えば推進薬の充填というのは、ある程度自動化というかノミナル状態でこういうシーケンスでこういう風にやっていくというのが自動化タスクで定義されていて、その通りに進めば技術者は見ているだけでいいが、ところどころそういう風にならないところがある。そういうところは個別に状況を見て判断したり、場合によっては一部手動に切り替えたり、そういうことをやっています。全般に良好という言い方にはなるが、事細かに見ていくと、いろいろなところでまだ改善したり詰めていくところが残っている状況だと思っています。

読売新聞・「最終段階の大きな試験を乗り越えることができた」とあり、気が早いが概ね成功と受け止めてしまうがどうか。
岡田・難しいです。やはりデータを全て見ないことにはなかなか成功という気持ちにはなれない。少し緊張していない話し方になってしまっているのは、昨日無事に試験が終わったからだと思います。乗り越えるという事については、ある程度我々が想定していた状態でシステムが動作したところまでは確かに言えますので、そこは乗り越えたと思います。なにか出てくる可能性はあると思ってましたので。あとはしっかりとデータを見た上で、成功というところまで言えれば、次の打ち上げ段階に移行できるのではないかと思います。

東京とびもの学会・昨夜23時か24時頃、段間部の辺りからいつもより勢いよく排出していたが、これがいわゆる排液作業だったのか。
新津・基本的には排液関係だと思います。ベントだけでなく、下の方に残ったものを予冷系統から何百リッターも抜くところがあるので、段間部辺りから抜いているので、それをご覧になったのかもしれません。いずれにしても排液関係のオペレーションのことだと思います。

東京とびもの学会・タンクに残った推進剤は全て大気中に放出するのではなく回収するのか。
新津・はい。大気中に全部放出する訳ではありません。

宇宙広報団体TELSTAR・竹崎側からロケットを見た際、段間部上部から第1段にかけて側面に黒いケーブルが伸びていたが、これはデータ取得用のものか。その場合、どのようなデータを取得するためのものか。
岡田・今回のCFTで技術データをとる特別な配線です。
新津・特別計測で、振動であったり音響、加速度、温度、圧力、歪みといったデータをとっています。数はそんなに多くないが、ロケットの中のモニタするカメラを設置しているので、その画像をとるためケーブル等で取得しています。

NVS・測定機器の電源を入れるために推進剤を抜いたが、どれくらい入れた後にどれくらいを抜いたのか。
岡田・2段と1段、水素と酸素を分けて言いますと、まず酸素は抜いていない。水素は2段はそれなりに入っていました。1段はあまり入っていなかった。水素は全量を抜いています。

フリーランス秋山・計測装置の追加作業で、電源が投入されていないというところを詳しく。特別検証用ということは実際の打ち上げでは使用しないのか。使用しないということは、CFTと打ち上げで手順が変わる項目がどれくらいあるのか。
岡田・ロケット本体は打ち上げで使うロケットそのものです。そこには飛んでいくための計測装置がついている。それはそれとしてデータをとっていますが、そこに追加する形でいろいろな種類のデータをもっととりたいということから、後付けでつけている。後付けなので機体の外にケーブルがあると先ほどありましたが、そこもアルミのテープでくっつけるなど、そういう仕立てです。データを計測するためや電源を供給するための装置を別途で発射台の中に置いてあります。今回はこの発射台の中の電源が投入されていなかった。それは打ち上げの時にはアルミのテープを剥がして計測器を外して、地上に置いている機器類を全部取り外して店じまいする。もともとあった計測類だけが本体に残る。

フリーランス秋山・CFTから打ち上げで変わる手順がどれくらいあるか。
岡田・まず機体の仕様が一部変わります。固体ロケットブースターが今回ついていないのでそれをつけるとか、火工品はついているが安全な状態にしてあるとか、フェアリングの中には今回ALOS3が搭載されていないのでフェアリングを取り外して人工衛星を搭載した状態でロケットに取り付ける。こういった仕様の違いによる手順の違いが一番大きいと思います。
新津・仕様の違いになりますが、機体支持装置(ホールドダウン機構)は、今回は地上試験で機体を支えるために留めている部分がありますが、そういうところも地上試験の専用仕様となっている。その周りの装置も今回特有となると思います。
岡田・あとは本当に打ち上げと同じような手順で今回行っています。特にロケット周りですね。随分と練習になりました。

フリーランス秋山・今回はALOS3が搭載されていないが、フェアリングの中で衛星が無いぶんの質量などの変化で実際と違うのか。ダミーがあるのか。
新津・衛星は数トンの重さがあり、それが無いことによって振動の出方とかは変わります。今回の試験でも全てフライトの状態でデータがとれる訳ではなく、物によっては今の試験の形態に即したデータをとって、その上でフライトの時との形態の違いを考慮した上で最終的な評価を行うなど、そういうアプローチを考えています。
岡田・新津さんはその辺りのプロフェッショナルですので答えてもらいました。

KTS・試験が終わったときの様子をもう一度お願いします。
岡田・アドリブだったので同じ事は話しづらいです(笑)。今回最も緊張して臨んだのが、エンジンの着火と25秒間の燃焼、そこに至るカウントダウンシーケンスなのですが、それが25秒の燃焼を終えて無事にエンジンが停止したとき、私はRCCにおりまして、ロケットのエンジニアはLCCに居たが、それぞれで拍手が沸き起こりました。それぞれで握手しました。RCCはエンジンが止まったところでそういう状態だったが、LCCはエンジンが止まってから全系のシーケンスが停止するまで少し時間があるので、その分だけ遅れてその状態になりました。その時は誰もが脱力したり、無事に終わったとほっとした気持ちになったと思う。その傍らでロケットのエンジニア達は、特別検証試験を残った燃料とヘリウムでどうやってやろうかというのをホワイトボードに書き始めて、そのエンジニアのパワーみたいなものを感じました。ですから引き続き最終段階の大きな試験を乗り越えたと言えると思うが、打ち上げに向けて一歩一歩進んでいきたいと思っています。

産経新聞・今回のCFTの検証が終わるのが2週間後とのことだが、結果を受けてあらためてスケジュールの変更は無いのか。
岡田・今の段階だとなんとも申し上げられない。試験が終わって2時間後のデータしか見ていないので、その範囲では我々の想定を大きく超えるデータは出て来ていないのは事実です。これから数日後にはもう少し詳しいデータ、最終的にはフルセットで2週間後くらいには全てのデータを確認することができるので、その段階に応じて何をすべきか、それにはどれくらいの時間がかかるかというのを弾き出すことになると思います。あわせて丁度機体が(射点からVABに)返送されたと思うので、これからクローズアウトというエンジンの最終の状態を解除していろいろな点検に入るので、見物を見てそれらに対して何か必用なことがないか確認していきます。その結果をあわせて見通しを立てたいと思います。

産経新聞・検証結果がまとまった際に公表やブリーフィングの予定はあるか。
岡田・ブリーフィングの予定は今は無いが、個別に問い合わせをいただいた際にはその都度お答えすることになると思います。

MBC・CFTについて事前の説明では1回で終わらないかもしれないとのことだったが、(資料の)技術評価の上で試験終了を判断ということは2回目のCFTは行わないということか。
岡田・この意味は、今回の試験が終了したという判断です。従ってタンクから推進薬などを抜いて、機体を戻すというころまでやって、ここでいったん区切りをつけるということでご説明しました。ですので、なかなか確定的なことはまだ言えないなと自分でも思っていまして、これからデータをくまなく見て、もし必用であればもう一回そのデータをとるための何らかの試験がいるかもしれない。ここはこれからデータを見ながら考えていきたいと思います。今回の試験を1回区切って、その試験は終了できたということでここに書かせていただきました。

MBC・打ち上げの目処はデータ次第ということか。
岡田・そうですね。試験データとしてはこれから大量に見ることになり分析もしますので、それらの結果を受けて打ち上げの時期は判断したいと思います。

MBC・今年度という計画は変わらないか。
岡田・はい、変わっていないです。

KYT・握手して喜んだのは試験が終わったからか、それともほっとしたとか喜びによるものか。
岡田・これは難しいですね。試験が終わってほっとしたという両方です。

KYT・試験が終わって喜んだという話をもういちどお願いします。
岡田・先ほどと申し上げることが変わるかもしれませんが、今回の試験は非常に大規模な試験で、エンジンとロケット本体を組み合せ、その上で打ち上げ用の地上設備と組み合わせ、さらに追尾局の全部を繋ぎ合わせて臨んだ、非常に大規模な試験です。ですからそこにエンジンの燃焼という要素が加わると打ち上げと全く同じくらいの緊張感に包まれながら作業者は作業を進行していた。唯一違うのは、ある時間に打ち上げなければならないという所は、もしかしたら何かあれば少しそのシーケンスを止めて様子を見られるという意味では、だいぶ余裕がある試験ではあったのですが、それにしてもその試験が終わったところで緊張感が一気に解き放たれて、無事に終わったという安心感の中でおのずと拍手が沸き起こりました。それはRCCの方でもそうですし、発射管制のLCCも同じでした。それぞれがそれぞれの部屋の中で喜び合ったということになります。ただしその直後にも発射管制室のエンジニア達は次に何の試験をするのかという議論を始めているという、非常にタフな状態を垣間見ました。

NHK・今の段階で検証のどれくらいがとれていて、これからの検証の数日後と2週間のデータでどれくらいの割合で見られるようになるか。
岡田・難しい。圧力とか温度とかそういったデータの中で、いくつか最も代表的なデータは昨日のうちに見えていると思います。それに付随するような圧力とか温度は、これから細かなデータを見ていきます。そして最も時間がかかるのは周波数の高いデータというか、音とか振動とか歪みとか、そういう非常に膨大な容量のあるデータはまだ全く見られていない状態です。
新津・全く見れていないのは音と振動で、比率としては全体の2割くらいに相当すると思います。その他8割はクイックルックではデータは見ていますが、例えば温度とか圧力のデータであっても、ある一定の幅に入っていたところまでは確認できているが、機体とか各フェーズに応じた挙動をちゃんとしているか、状態が変わったときにそれに応じた応答が出ているか。そういった変化が我々の設計の想定と合っているかというところも含めて細かく見ていく作業はまだ出来ていませんので、その辺りをこれから2週間かけてしっかり見ていくことになると考えています。

NHK・計測器の電源が入っていなかったところで、手動で行うものか。
岡田・手動です。通常の打ち上げ手順とは違う中でそれが行われているので、なかなか複雑なオペレーションであったのは事実です。そういう中で今回電源が入っていなかったということです。

読売新聞・特別検証項目は燃料を使って燃焼試験とは別の検証とあるが、燃料を使うとはどういうことになるか。
岡田・これは昨日の試験の結果として、こういうことをしましたというものです。特別検証というのは、例えば燃料が充填された状態でないと取れないようなデータについて、この機会なので出来るだけそういったデータを取ろう。それには例えば条件を変えてデータを取るとか、手順を少し変えてデータを取ってみることを、時間と燃料の残量を見ながら、あとはエンジニアやオペレータの体力の様子を見ながら、残り時間でどれだけのことをやるか。やりたいことは沢山あるが、その中でぜひこの機会にやりたいということを、上から優先度をつけてやったという意味です。
新津・多くは推進薬を充填するというところで、対象にしている推進薬が極低温の流体になりますので、温度が上がってしまったり圧があたったりとか、扱い方をちょっと変えるといろいろ状態が変わってしまうので、そのあたりの条件をいろいろ変えながら、最終的にリフトオフの段階で、エンジンに対して必用な温度、必用な圧力の条件の推進薬をどうしたら供給できるかといったところを、ノミナルの手順だけでなく、うまくいかないときにこういうバックアップの手順のトライをやって、いろんな技術データを取得したというものになります。推進薬も加圧のためのヘリウムガスも使いますので、その辺りの残量を見ながらどの試験をどういう順番でやるかといったところをよく考えてやったということになります。

読売新聞・いったん燃料を抜いたことでできなかった検証はあるか。
岡田・結果的には、やりたいことはほぼ出来たと思います。もともと全てやるつもりというよりは、この機会にやった方が良いというものを全部リストアップして、時間などが許す限りでやろうと思っていたので、全部出来たか出来ないかという判断ではないが、必用なデータはとれたと思っています。ただ時間(リソース)が減った中でこなしたのは事実です。

南日本新聞社・電源が入っていなかった理由は人為的なものか。
岡田・投入されていなかったという事実まではわかっているので、ようやく試験が終わりましたので、これからその辺りの内容についてよく確かめて、必要があれば今後の作業に活かしていきたいと思っています。

南日本新聞・イプシロンロケット6号機の失敗もあり、仮に今回が人為的なミスだという話になれば厳しい目が向けられることになるかと思うが、こういった問題を受けてマニュアルの見直しとか担当職員レベルで改善をしていきたいということがあれば教えて下さい。
岡田・イプシロンのことでは皆様に非常にご心配をおかけしているが、それとは切り離して今回のことを申し上げると、我々の基本動作として何かこういう課題があれば、それを次に活かすためには、どうしたらいいのかを常に回しながらロケット開発を進めているので、その一環として今回の件についても、またそれ以外にも、この一連の作業を通じて見えてきたものがいくつかありますので、それは既に次はどうしようというという検討のサイクルに入っています。ですから今回の電源投入の件についても、その中で一緒に考えていきたいと思っています。

南日本新聞・出て来た課題等はしっかり共有して打ち上げ本番を迎えたいということか。
岡田・はい、ロケットのエンジニアの基本動作としてしっかりやっていきたいと思います。

共同通信・今回のCFTでデータが問題無いとなった場合、全く違う種類の実機を使った試験はあるか。それとも次は打ち上げになるのか。
岡田・もしこの試験が再試験の無い、意図通りの試験結果だとしたら、次にエンジンに着火するのは打ち上げの時です。実機を使った試験はもう無いです。

JSTサイエンスポータル・CFTを終えた時点での開発の苦労や思いなどを聞かせてください。
岡田・打ち上げが終わったときには思いの丈を述べたいと思いますが、まだその途中段階としてお話しします。このロケットの開発に着手させていただいてから8年くらい経っています。最初にどういうロケットにするのかの議論から、そのコンセプトが決まったらそれぞれの要素に分解して、それぞれの要素を開発して、それを積み上げて検証している段階にある。最後になればなるほど何かあったときの手戻りが膨大なものになる。そういう意味では大規模な試験というのは、非常に手戻りの大きい試験と言えるし、また後ろの時間が差し迫った中での試験にもなる。ひとつ山を越えつつあるのは非常に大きい事だなと思っています。一方でその大きな流れとは別に、ロケットエンジンは手強いという当初予測し警戒していた通りになって非常に苦労した面があって、開発の全体の流れと、どうしても解決しなければならない、たったひとつの技術的課題に難航するというバランスをとりながら、なんとかここまで辿り着けたというところは、プロジェクト関係の仲間と、それを周りで理解してくださっている方々のおかげだと思ってます。そこは非常に感謝しているところです。ですので、これから打ち上げに向かってまたもうひと頑張りするところ、同じ気持ちで向かって行きたいと思っています。
新津・私もこのプロジェクトは岡田さんと同じ、立ち上げの2014年から関わってきています。ロケットの形をどうするかから始まって、ずっと積み上げてここまで来ている。やっぱり打ち上げというのは、ひとつの技術のミスも許されない本当に厳しい物だと思っています。コンポーネントの開発から始まって、組み上げて、全体システムに近づけば近づくほど、全体の挙動の中で、ひとつがうまくいかなくてトータルの機能が果たせないようなリスクというか可能性が出てきます。そういった観点で、今回のCFTも結果としてはとりあえず燃焼が終わっているが、本当に見逃しが無いのか、我々が思っていない事態が潜んでいないのか、そういったところを最後まできっちり詰めないと打ち上げの成功には至らないと思っています。ここで気を緩めること無く、今回の試験結果を含めて、本当に中身をしっかり確認した上で万全の体制で打ち上げに臨めるように、引き続き関係する皆さんと一緒に頑張っていきたいと考えています。

以上です。

No.2487 :CFTの様子 ●添付画像ファイル
投稿日 2022年11月7日(月)15時58分 投稿者 柴田孔明

 2022年11月07日16時30分よりH3ロケット試験機1号機の1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)が行われ、概ね計画通り行われています。
 写真は竹崎展望台プレススタンドより撮影。


No.2486 :再変更
投稿日 2022年11月7日(月)14時12分 投稿者 柴田孔明

連絡があり「H3ロケット試験機1号機の1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)について、着火予定時刻が16:30に変更されました。」とのことです。

(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、1時間ほどずれがあります)

No.2485 :CFTの補足情報
投稿日 2022年11月7日(月)12時34分 投稿者 柴田孔明

 今回のCFTで発生した事象の時系列ですが、夜2時頃に音響と振動センサのデータがとれないことが判明。ただし他の項目の確認もあるため、燃料の充填はそのまま続行。朝6時半頃の判断会議でいったん止める判断を行って、そのあと午前7時過ぎに報道にも連絡が入りました。問題の箇所は午前中にも電源の再投入が行われ、そのあとは試験の手順に従い準備が続けられています。(2022/11/07 12:00頃の囲み取材より)

No.2484 :現在の状況について ●添付画像ファイル
投稿日 2022年11月7日(月)11時15分 投稿者 柴田孔明

 2022年11月7日11時45分頃(JST)に連絡がありました。
 「H3ロケット試験機1号機の1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)について、変更後のスケジュールに合わせて試験準備作業を実施しています。」とのことです。

 なお問題が出た音響・振動センサの部分ですが、MLに設置してある機器の電源が入っていなかったとのことです。
 スイッチは人力で操作するものですが、何故入っていなかったのかは調査中です。
 現在、このスイッチをONにして、センサ付近を叩いて信号が来ていることを確認し、液酸/液水の注入を再開しています。 (2022/11/07 12:00頃の囲み取材より)

 (※写真は8時頃のものです。調整か排出かは不明です)


No.2483 :追加情報2
投稿日 2022年11月7日(月)08時42分 投稿者 柴田孔明

データ取得のための設備において確認すべき事象について説明がありました。試験ではロケットエンジンの音響や振動を計測するのですが、そのデータが来ていないとのことです。確認などのためロケットに人が近づく必用があり、そのため16時への延長となりました。ロケット本体ではなく地上施設側の問題です。とりあえず本日は20時頃までは可能とのことです。(2022/11/07 09:30頃の囲み取材より)
(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、1時間ほどずれがあります)

No.2482 :追加情報
投稿日 2022年11月7日(月)08時06分 投稿者 柴田孔明

燃焼試験の時間が変更された理由は、「データ取得のための設備において確認すべき事象が発生したため」とのことです。(※2022/11/07 09:02頃発表)
(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、1時間ほどずれがあります)

No.2481 :当初の試験予定時刻のH3ロケット ●添付画像ファイル
投稿日 2022年11月7日(月)06時47分 投稿者 柴田孔明

2022年11月7日 7:30頃のH3ロケット。
(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、1時間ほどずれがあります)


No.2480 :時間変更
投稿日 2022年11月7日(月)06時12分 投稿者 柴田孔明

H3ロケットのCFTですが、ロケット系で確認すべき事象が発生したため、X時刻を16時00分に変更となりました。(※2022/11/07 7:10JST)
(※上記の投稿時間はサーバー内時間のため、1時間ほどずれがあります)

No.2479 :到着 ●添付画像ファイル
投稿日 2022年11月6日(日)21時02分 投稿者 柴田孔明

第2射点に着いたH3ロケット試験機1号機


No.2478 :H3ロケットの機体移動 ●添付画像ファイル
投稿日 2022年11月6日(日)21時01分 投稿者 柴田孔明

2022年11月06日 18:30(JST)頃よりH3ロケット試験機1号機実機型タンクステージ燃焼試験に向けての機体移動が行われました。写真はVABを出たところ。


No.2477 :H3ロケット試験機1号機実機型タンクステージ燃焼試験の概要記者説明会
投稿日 2022年11月6日(日)01時00分 投稿者 柴田孔明

 2022年11月5日午後に、H3ロケット試験機1号機実機型タンクステージ燃焼試験の試験概要記者説明会がリモートで開催されました。
(※一部敬称を省略させていただきます。また回線の関係で一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました)

・登壇者
JAXA宇宙輸送技術部門 H3プロジェクトマネージャ 岡田 匡史
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 H3プロジェクトマネージャー 新津 真行

・H3ロケット試験機1号機1段実機型タンクステージ燃焼試験について(岡田)
 (※以下は解説と資料より抜粋)

 ・2020年5月にLE−9エンジンの技術の壁が立ちはだかりまして、以来かなりの時間をかけていただきましてこの壁を乗り越えてきました。LE−9の累積の燃焼時間も1万秒を超えて、1号機に向けてのエンジンの仕上がりは見えてきたという風に考えています。従いまして、明日から打ち上げに向けた最終段階の試験であります実機型タンクステージ燃焼試験に入りたいと思います。

 ・第1段推進系(※1)の機能・性能を確認すること(この際、LE−9エンジンを燃焼)。
  (※1)推進系:推進薬タンクとLE−9エンジン、およびそれらを接続する配管やバルブ等から構成されるシステム。

 ・また、極低温点検(2021年3月に実施)と同様、機体と設備を組み合わせ全系の打上げまでの一連の作業を通じ、極低温点検からの反映事項を含む機能確認を行うとともに作業性や手順を確認すること。
 整備組立棟から射点にロケット/発射台を移動し、電気ケーブルや液体推進薬を充填するための配管を接続
 ・ロケットに液体推進薬を充填し、極低温状態で機体の機能が健全に動作することを確認。
 ・併せて、機体と追尾局のアンテナとの電波リンクにより、機体の状態をモニタ。
 ・打上げのリハーサルとして、カウントダウンを実施。

  ・補足・1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)
   ・CFT(Captive Firing Test):ロケット機体を発射台に固縛した状態で行う燃焼試験。
   ・第2段については、2020年7-8月にMHI田代試験場にて実施(計3回)。
   ・これまでも、H-II、H-IIA、H-IIBの開発において実施。

 ・CFTの仕様
  ・フェアリング:フライト用(ショート)
  ・衛星:なし
  ・第2段エンジン(LE-5B-3):フライト用
  ・コア機体:フライト用
  ・固体ロケットブースタ(SRB-3):なし
  ・第1段エンジン(LE-9):フライト用
  ・火工品:あり(未結線)
  ・移動発射台(ML5):ロケットと固定
  ※試験機1号機の打ち上げ時の仕様はH3−22S(LE−9×2、SRB−3×2、フェアリング・ショート)

 ・CFTでの主な検証項目
  ・準備の機能。
   ・VABから射点への移動、電気ケーブルや配管の接続。
   ・推進薬などの充填。
   ・風解析と飛行プログラムへの反映。
  ・カウントダウンの機能
   ・エンジン(LE−9)着火。
  ・飛行中の機能。
   ・エンジン燃焼、推進系機能、推力方向制御機能。
   ・射点(エンジン燃焼状態)でのロケットと追尾局との通信。
   ・エンジン燃焼中の振動・音響の確認。
  ・試験結果を技術評価し、試験が終了できることを確認。
   (例:取得されたデータを評価し、反映内容が明確であり、再試験が不要であること)

 ・CFTのスケジュール(抜粋)(※日時はJST)
  ・1日目(※2022年11月6日予定)
   ・作業開始GO/NOGO判断(14:45)
   ・機体移動開始前判断(17:45)
   ・機体移動(18:30)
   ・警戒区域内立入禁止(22:30〜翌19:00)※状況により変更の可能性あり。
    ※警戒区域は第2射点から半径約2.1km。
  ・2日目(※2022年11月7日予定)
   ・推進薬充填開始GO/NOGO判断(0:15)
   ・ターミナルカウントダウン(1回目)X-60分作業開始GO/NOGO判断(6:30)
   ・最終GO/NOGO判断(X−10分頃)
   ・X−0(7:30)
    ※エンジンスタートはX−6.3、エンジン停止はX+18.7。燃焼時間は25秒。
   ・特別検証試験(〜14:00)
  ・3日目(※2022年11月8日予定)
   ・機体移動(2:30)※VABへの返送

 ・天候について
  極低温点検のときは本当に天気が悩ましくて技術と自然との戦いを痛感したが、今回はそれほどではなく、比較的穏やかな天気です。ただし明日の夜から明後日にかけて丁度気圧の弱い谷が通り過ぎるということで、大きな雨にはならないと予測されているようですが、いったん天気は悪い側に向かって、また回復していくという予想を受けています。

・質疑応答
NHK・CFTへの意気込み。
岡田・9月1日(前回の会見)には、ようやくスタート地点に立てたという思いだったが、この試験をクリアすると次は打ち上げに臨める状態になる。今まで燃焼試験に関わりが深かったが、これほど大規模な試験は私もあまり経験が無くて、非常に多くの方に同じ目標に向かってもらっているというその迫力を感じていまして、少し圧倒されながら、同じ目標を向いている関係者と一団となって明日の試験、一発で仕留めたいと思っているところです。

読売新聞・CFTの検証項目で、25秒の燃焼試験が終わった段階で、うまくいったと判断できるところと、その後データを解析しないとうまくいったと判断できないところがあると思うが、我々に説明があるまでに試験を見て判る成功はどの点か。
岡田・まず、ほぼリアルタイムで得られるデータがある。それは試験とほぼ同時にデータを見られる。あと試験が終わってから見られる状態になるデータがある。非常にデータ量が多いような、例えば音響とか振動のデータはかなり処理に時間がかかります。ですのでデータとしては2段階くらいで評価していくことになります。
新津・25秒燃えたということが確認できれば、それはその時点でひとつの成果ではありますが、我々としては設計の予測に対して実際のデータがどうであったかを細かく見て、我々の思っていない事象が起きていないことをしっかり確認する必要があります。そのレベルの確認にはしばらく時間がかかると考えています。

読売新聞・リアルタイムで見ていて燃焼が25秒終了したらほぼ成功と捉えて良いか。
岡田・成功か失敗かはなかなか難しい。無事終了したことがイメージには近い。

読売新聞・無事に終わっても再試験が必要になる可能性はゼロではないのか。
岡田・ゼロではない。細かく見ていくと、ここはやはりというところが後で出てくる可能性がある。終わった直後にすぱっとお答えできづらいところです。これはロケットエンジンの燃焼試験でも同じですが、いつも終わった日にどうでしたかと聞かれてモゴモゴしているのは、まずデータが十分見られていないからです。それと同じです。それと試験時間が25秒と言いましたけれども、例えば20秒で何かの理由で止まったとして、それで不十分かどうかは技術判断をしていくところで、25秒が必ずしもということではないと考えています。

NVS・予定通りいかない場合、今回の試験は何時までか。
岡田・目安としてはその日の夜。だいたい19時とか20時を目安にしています。

NVS・何か確認が必要な場合、それくらい後ろに延びる可能性がありえるということか。
岡田・ありえます。慎重に進めながら判断していきます。

時事通信・神田・ターボポンプ改修を終えてのCFTだが、改修を受けて特別に何か見なければいけない項目はあるか。
岡田・無いです。ターボポンプは完成したものとして扱っておりまして、特には無いです。改修したからというよりは、一般的な確認の項目として大事なのはロケットの機体とエンジンとのインターフェイスの部分です。特にターボポンプは燃料としてはいちばん機体に近い側の装置なので、そういう意味では機体とのインターフェイスの確認は一般的な意味としてはいたします。

時事通信・イプシロンの失敗をどういう風に見ているか。
岡田・まだイプシロンの原因究明が進んでいる中で、我々ももちろん連携して取り組んでいるところなので、何か新しい情報が出次第、それをH3としてはどうかというのを都度確認しているところでして、まだそこは進行中のところなので、それに応じていろんなアクションをとっているところです。

南日本新聞社・今後のスケジュールで、9月の説明の段階ではCFT終了後に見極める予定とのことだったが、この辺りの考え方は現時点で変更はあるか。
岡田・大きくは変わらないです。CFTは我々にとって初めての試験で、どういう結果が出るかまだ予想がつかない部分がある。必用な手を打たないといけないところは打つ。それに対しては期間がどれくらいかかるかというところを見極めて、打ち上げの目標を決めていくという流れです。いつ判るかというと、結果によると思っています。

南日本新聞社・9月の段階では年度内の打ち上げを目指すと説明があったが、この考え方は変わっていないか。
岡田・変わっていません。

東京とびもの学会・今回の試験にあたってのJAXAと三菱重工の役割分担について。
岡田・一言では難しい。射場作業を通じて三菱重工さんのMILSETという部隊のエキスパートの方々の凄さを感じています。1号機はJAXAが開発している中での打ち上げですので、これは責任の所在はJAXAにあるが、だからといって今までH-IIAで経験とスキルを蓄積されてきた三菱重工さんが全く違う働きをするというのではおかしなことになってしまうので、そこは三菱重工さんの経験をそのまま活かしながらJAXAが責任をとれる形にするということにしています。具体的には普通の打ち上げ作業の流れにJAXAが(?)したような状態で、三菱重工さんはちょっとやりづらいのではないかと思うこともあるが、そこはやはり我々が責任を持って打ち上げに臨むという意味で必用な体制だと思っています。三菱重工さんも打ち上げ体制があって、その体制と我々の体制のどことどこがリンクして作業を進めていくかは明確に定義してやっているところです。

東京とびもの学会・明確に定義とあったが、具体的な例があれば。
新津・もともと我々はH-IIAの打ち上げ運用をやるMILSETという体制がございまして、その中で実際のオペレーション、技術判断、最終の打ち上げ判断に至るまで全て社内の体制として持っています。今回は開発機体の試験ということで、JAXAさんが全体を取りまとめられるということで、我々の組織・体制の中で、通常は打ち上げ執行責任者にあたる人間が統括責任者という形になりまして、そこがJAXAさんの取りまとめの方と連携する。そこの下の層においても、それぞれ当社のカウンターにJAXAさんの担当がいらっしゃって、相互に連携をとりながら作業を進めるというような分担になっています。

東京とびもの学会・現場で機体を組み立てる部分は三菱重工さんが担当するのか。
新津・そこは当社三菱重工が担当しています。

東京とびもの学会・するとMILSETさんが持っている体制にJAXAが発注者として乗ってするのか。
新津・その通りです。

東京とびもの学会・MILSETの組織図は見せていただけるか。
新津・検討して出せるレベルで提供したいと思います。
※別途回答分:詳細に関する開示は控えさせていただきます。なお参考ではございますが、今回もH-IIA打上げ時と同等の体制を組んで、JAXAと連携して対応しております。(※但し一部役職名は異なります)

読売新聞・CFTと同時並行でATも進めるとのことだったが、ホームページでは2回くらいの結果が出ているので、残りのはATはあと2回か。
岡田・おっしゃっているのはATではなくQTだと思います。QTは別のエンジンを使って寿命の確認などを行っています。まだ2回目までしかお知らせしていませんが、昨日3回目の試験が終わりまして、データをくまなく評価しているところです。QTとしては残すところあと1回になりました。200秒から250秒くらいの試験をこれまで3回行ってきています。
 (※QT:認定燃焼試験、AT:領収燃焼試験)

読売新聞・ということはLE−9の最終試験という言い方はしない方がいいか。
岡田・明後日のCFTはフライト用のエンジンを燃焼させる。それとは別に開発用のエンジンが別の試験スタンドに置いてある。並行して進めています。明後日に燃焼試験をするエンジンに関しては、フライト用のエンジンなので、そのエンジンを次に火を点けるのは打ち上げの時です。発射台の上にあるエンジンは開発が完了したとみなしてCFTに臨むものです。

読売新聞・CFTが成功すればエンジンはほぼ完成ということか。
岡田・エンジンというよりもロケットが完成するということになります。

NVS・今回のCFTの燃焼時間は25秒だが、過去の大型ロケットのCFTは実時間の燃焼時間だと記憶している。今回25秒になっている理由は何か。
岡田・必用なデータを何秒でとれるかという議論が大事。フル秒時はいつだったかわかりませんが、知る限りではH2ロケットが100秒くらいの燃焼試験をしていたと思う。どれだけのデータが燃焼試験をしなくても予測できて、どういうデータがどうしても燃焼試験をして確認したいかのせめぎ合いだと思う。必要以上に燃焼させても機体に負担をかけるだけですし、大体が地上で燃焼させるということはそもそもロケットの使い方ではありません。地上にもそれなりのダメージがあり、機体にも飛行中とは違う燃焼のさせ方になるということもありますので、やはり必用最低限かつ十分な試験時間を議論した結果、25秒という数字が出て来たと私は思っています。
新津・フライト品なので負荷をかけすぎないことと、必用なデータをとるための必用な秒時という観点から検討した結果25秒と判断をしているものです。

NVS・推薬は本番と同量をタンクに注入し、燃焼だけが25秒なのか。
新津・そうです。

NHK・具体的な検証項目の数を教えて欲しい。
岡田・数え方が難しい。センサの数なのか、確認する項目なのか、括り方もいろいろある。
新津・センサの数でいうと数百チャンネルくらい。検証項目はどういう数え方をするかだが、ある程度括った項目数として数十くらいの感覚で捉えてもらえればと思います。

NHK・検証を終えるスケジュールはどれくらいか。
岡田・難しいが、まずは当日のクイックレビュー、数日後に次のレビュー、全部のデータをしっかり吟味する最終的なレビューの3段階くらい。3段階目は何週間というオーダーになります。2週間くらいかなと思っています。どの段階で何を判断するかはそれとは別で、全部出きらないと何も判断しないのかというと、そこもどういうデータが出て来たかによるので、データが出て来たタイミングと内容によってこれから先のことを判断していく。

宇宙作家クラブ・CFTの機体にRINSは搭載されているか。またCFTでもRINSの動作試験をするのか。
岡田・はい、他のデータと同じく取得します。

宇宙作家クラブ・移動発射台(ML5)でホールドダウン機構というものが導入されているが、どのような仕組みのもので、どのような時に使われるのか。また今回のCFTでも使われるのか。
新津・ホールドダウン機構は名前の通り機体を飛ばないように支持しておく。今回の試験ではフライトコンフィギュレーションではなくて、飛び上がろうとする可能性のある機体を支えるために使う。H3にはいろいろなバリエーションがあるが、30形態という固体ロケットの無いバージョンで、エンジン3機が正常に立ち上がったことを確認するまで機体を地上に止めておくために使います。このときホールドダウンというのは火工品を用いて開放しますが、今回は火工品は使わずにそこの部分は試験専用の装置で、完全に地上に固定した状態で使用するものになります。

フリーランス大塚・ML5と機体を固定する理由は何か。ブースタが無ければ普通は飛び上がらないはずだが、推進剤の量が少なくて軽くて浮き上がる可能性があるのか、あるいは倒れやすくなるので念のためということなのか。
新津・後者になります。重量と推力を比べると、若干重量の方が重たい状態だが、やはり試験ということで万が一の転倒等に備えるという意味もございますので、機体をホールドダウンするということにしています。

東京とびもの学会・X−240以降は自動カウントダウンシーケンスに入るが、異常を検知した場合は人の手で止めるのか。
新津・一部はイエスだが、人の手だけではなくて自動監視をしている部分がありますので、人と装置の監視を組み合わせて安全な状態で試験を進めるようにしています。

東京とびもの学会・エンジンスタートがX−6.3秒だが、X−0でロケットが射点を離れる想定でこの数字になっているのか。
新津。はい、そうです。

東京とびもの学会・H-IIAのLE−7AはX−3秒なので、それだけ時間がかかるのか。
新津・3秒よりもう少し長かった記憶がある。LE−9はエキスパンダーブリードサイクルということで、立ち上がりは少しマイルドです。それに比べてLE−7Aエンジンは2段燃焼サイクルでプリバーナーを使い一気に立ち上げる。そういった立ち上がりの違いを加味して、かつ立ち上がって地上で燃焼させていると、その分推進薬が勿体ないので出来るだけ早く打ち上げるということも含めてバランスをとって決めた数字です。

東京とびもの学会・エンジンの着火方法は外部のトーチで着火するのか、あるいはイグナイターのようなものが中にあるのか。
新津・後者です。ロケットエンジンはだいたいこれ。点火器というものを中に仕込んでいます。

東京とびもの学会・点火器の装着場所はどこか。
新津・メイン燃焼室のど真ん中に差し込んであります。

読売新聞・今回JAXAとMHIは何人体制で行われているのか。
岡田・数えそびれていました。出張者の規模では、種子島の外から20人くらい来ています。種子島のセンターの職員もそれくらいの規模感だと思います。30〜40人というところ。
新津・200人くらいです。
岡田・(三菱重工は)組み立てから運用などいろいろ大勢いらっしゃいます。

読売新聞・打ち上げ体制とは違うと思うが、リハーサルを兼ねて共通なものはあるか。
岡田・おととい終わりまして、どういうリハーサルだったかというと、午後の半日をかけてLCCという打ち上げの管制をするところ、RCCといって総合指令のような場所、これらを総合してX−60分くらいから模擬的なカウントダウンをしまして、あるところで打ち上げを見合わせる手順の確認、そのあと直前に緊急停止がかかる確認、リサイクルと呼んでいる作業をあるところまで戻して続行する確認、最後は打ち上げが無事行われるところまで通しで行う確認。3種類くらいの確認を半日間でやりました。発射管制室のLCCというところとRCCを結んで、それぞれの役割を三菱さんとJAXAで合同でやってきています。

読売新聞・今回のCFTでは一緒にやるという訳ではないということか。
岡田・一緒にやります。

読売新聞・するとおととい行ったものはCFTの一環だったのか。
岡田・そうです。ボタンを押さず手順書を読みながら進めます。タイマーなどは動くが、大きな装置が動くものではない中で手順を流していたのが今回の試験に向けてのリハーサルです。

読売新聞・そうではなく、打ち上げ本番に向けたリハーサル的な意味合いで、今回ある程度共通の人員でやっているのか。
岡田・回答を間違えました。それ自体が今回の試験の目的でして、「打上げのリハーサルとして、カウントダウンを実施」というのがその意味合いを持っています。この試験は殆ど打ち上げと同じような状態で行うと思っていただいて結構です。

TELSTAR・H-IIA等の打ち上げを行う際は半径3km規制だが、今回2.1km規制になっているのはなぜか。ブースタを着用していないためか。
岡田・一言で言うと打ち上がらないからです。射点にあるままで、ロケットが万一のことになったときにどれくらいのところに被害が及ぶ可能性があるかを算出すると、射点にずっといるところを起点にすると2.1kmという結果が出たということです。

以上です。

No.2476 :イプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況その2
投稿日 2022年10月30日(日)12時23分 投稿者 柴田孔明

 2022年10月28日に開催された文部科学省調査・安全小委員会・イプシロン6号機打上げに関する第3回会合と、その後に行われた報道向けフォローアップブリーフィングです。
 文部科学省開催の会合は前半の公開部分のみで、後半の非公開部分は含まれていません。
 ※今回の報告はフライトデータ(事実)に基づく原因究明に加え、製造・検査に基づく原因究明を含んでいます。前回と重複する部分など一部を省略いたします。またリモート開催のため、回線状況等により一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました。

・イプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況(資料より抜粋)

 ・要因として否定できないもの。(前回)
   ・PSDBスイッチ〜パイロ弁までの系統異常。
   ・パイロ弁の開動作不良。
   ・推進薬供給配管の閉塞。

 ・2段燃焼終了後の姿勢異常再現シミュレーション
  ・RCSのY軸側が機能しなかったことを裏付けるため、RCSの+Y軸側が正常なケースと機能しない(推力ゼロ)のケースの2つのケースに対して、姿勢挙動のシミュレーション解析を行った。
  ・結果、正常なケースは最新特性飛行経路(FT)ノミナルと傾向がよく一致している。また、RCSの+Y軸側が機能しない(推力ゼロ)のケースは、フライト結果と傾向がよく一致している。
  ・スピンアップ後の目標姿勢とのずれ量についても、RCSの+Y軸側が機能しない(推力ゼロ)のケースはフライト結果と傾向がよく一致している。

 ・イプシロンロケットの2段RCSについて
  ・試験機(初号機)と2〜6号機(強化型)で仕様が異なる。
   ・推進タンク
    試験機:ブラダ式タンク×2 (※袋状のゴム膜)
    強化型:ダイアフラム式タンク×2 (※半球状の膜)
   ・パイロ弁(※スラスタの数は同じ:8基(4基×2式))
    試験機:4基(1系統に2基の弁が並列にあり、イニシエータは各弁に1式)
    強化型:2基(1系統に1基の弁があり、イニシエータは各弁に2式)

  ・試験機のパイロ弁が違っている経緯:もともと試験機の時も強化型と同じものを考えていたが、同時着火では不具合が発生する可能性があり、時間差をつけてイニシエータを着火しないといけないことが開発途中で判明。電子機器を設計変更するインパクトが大きいということで、パイロ弁を急遽片側のイニシエータにして2式搭載し、合計4式搭載する設計変更を実施して試験機を打ち上げた。強化型については電子機器の新たな開発を実施しているので、その中で当初の計画であるパイロ弁が片側1式という形に戻している。

 ・「PSDBスイッチ下流〜RCSパイロ弁までの系統異常」について、詳細FTAを展開して評価した結果、いずれも要因ではないと判断した。
  ・当該系統に関する製造工程及び検査工程は、5号機と同じであることを再確認した。当該系統に関する全ての試験データ、製造記録、写真記録及びフライトデータを確認した結果を以下に示す。
  ・試験データ
   ・当該系統は、MCO試験(工場)・全段点検(射場)・発射整備(射場)における点火信号実負荷試験及び導通・絶縁試験の積み上げにより健全であることを確認した。
    ・全ての検査結果が規格内であること。
    ・工場から射場までの全ての試験結果のトレンド評価を実施し正常であること。
    ・同一形態(強化型)である2号機から5号機までのデータと比較して正常であること。
  ・製造記録、写真記録
   ・全てのハーネスに対して以下を確認した。また、5号機と同等であることも確認した。
    ・全てクランプの位置が図面通りであること及び固縛状態が適切であること。
    ・エッジとの干渉や保護が適切であること。
    ・全てのコネクタの嵌合状態が「ロック」であること。

 ・「パイロ弁の開動作不良」について
  ・イニシエータ作動不良
   ・製造不良:調査中
   ・保管不良:射場における保管状態、保管場所温湿度は過去号機同等。保管要求と工場保管環境について妥当性を確認中。
   ・射場における点検不良:製造・検査データ(イニシエータ導通絶縁点検)は正常。点検要求について妥当性を確認中。
   ・フライト中の損傷:フライトデータにおけるフライト時の環境(振動・加速度)は過去号機と同等レベルであり、過大な環境印加がないため要因ではない。

  ・PCA作動不良
   ・製造不良:調査中
   ・保管不良:射場における保管状態、保管場所温湿度は過去号機同等。保管要求と工場保管環境について妥当性を確認中。
   ・イニシエータ・PCA組付不良:製造・検査データ(組付時の外観・隙間量検査等)より組付けは正常であり、要因ではない。
   ・フライト中の損傷:フライトデータにおけるフライト時の環境(振動・加速度)は過去号機と同等レベルであり、過大な環境印加がないため要因ではない。

  ・バルブ本体(ラム、仕切り板)作動不良
   ・製造不良:調査中
   ・保管不良:射場における保管状態、保管場所温湿度は過去号機同等。保管要求と工場保管環境について妥当性を確認中。
   ・PCA・バルブ本体組付不良:Oリング外観に未確認部分があるため判別できない。それを除く製造・検査データ(組付時の外観・隙間量検査等)は良好。
   ・フライト中の損傷:フライトデータにおけるフライト時の環境(振動・加速度)は過去号機と同等レベルであり、過大な環境印加がないため要因ではない。

 ※4号機から6号機までのパイロ弁は同一ロットのもの。保管寿命内であるが、それが妥当であるかを再確認中。

 ・「推進薬供給配管の閉塞」について
  ・ダイヤフラムの変形による閉塞の有無を確認中。
  ・パイロ弁内の推進薬配管の閉塞:パイロ弁の製造記録を確認中。
  ・異物、凍結については製造・検査・フライトの各データにより要因ではない。
  ・錆については、配管はSUSで閉塞に至る錆の成長の可能性はない。

・今後の進め方
 ・結果サマリ
  ・2段RCSが機能しなかった要因として可能性が否定できない3つの推定要因のうち、「PSDBスイッチ下流〜パイロ弁までの系統異常」について、フライトデータ、製造・検査データの確認の結果、要因でないと識別した。
  ・残る2つについて詳細要因を分析し、絞り込みを行っている状況。

 ・今後の予定
  ・俯瞰的な視点を確保しつつ、現時点で残っている2つについて引き続き更なる詳細要因分析と絞り込みを行い、原因の特定を進める。
  ・並行して他機種への影響評価等を引き続き進める。

・参考
 ・H3ロケット・H-IIAロケットへの影響評価
  ・原因究明状況として、イプシロンに使われている2段RCS(ガスジェット装置)が適切に機能しなかった要因の絞り込みが進捗していることから、今後打上げを控えているH3ロケットおよびH-IIAロケットへの影響について、並行して進めているところ。
  ・H3ロケットおよびH-IIAロケットにおいては、2段RCSの開発・製造の請負企業および設計・形状が異なるものの、H3ロケットでは要因の1つである「パイロ弁作動不良」の対象であるパイロ弁の製造メーカが同一であることから、影響の有無の確認を継続する。尚、HーIIAについては機器の共通性はない。
  (※H3のパイロ弁はイプシロンロケット2段RCSと同じメーカであるが製品は異なる)
  ・今後、詳細要因の絞り込み状況を踏まえつつ、イプシロン6号機との機器や部品の共通性、組付作業、点検、保管の共通性や品質保証の観点も含め、H3ロケットおよびH-IIAロケットそれぞれで影響度評価を継続実施する。

・以下からフォローアップブリーフィング。
・主な回答者:宇宙輸送技術部門 事業推進部 部長 佐藤 寿晃
・質疑応答
時事通信・前回はフライトデータに基づいてFTAをやったが、今回は製造・検査のデータも併せてやった結果、3つの可能性のうちパイロ弁の開動作不良か閉塞に絞られたということか。
・その通りでございます。フライトデータのうちバルブ作動しなかったことで機体の動作がシミュレーションできるかを追加しましたが、それ以外の原因の絞り込みはおっしゃった通りです。

時事通信・原因の可能性が否定できないものがいくつか残っているが、その中での軽重はどう考えているか。
・なかなか軽重は簡単には言いづらい。調査を進行している中で、データが揃っていないなども含めて、消しきれないものを「原因の可能性を否定できない」(資料では三角マーク)としている。

時事通信・保管不良や点検不良についてはデータとしては過去号機と同等といったことで良いと思うが、そもそも要求が良いのかといった部分が示されているが、製造不良に関しては、残っているものははっきりしているが、それが作業的には終わっていないので調査中という表現になっているのか。
・製造はコンポーネントメーカーを含めて行われます。今我々が洗い尽くしたのは工場、システムメーカーさんを含めたところ。さらにコンポーネントメーカーのところに調査を進めていますので、そういったところを調査中という形にしております。射場における保管状態を確認したという記述をしたのは、我々としてすぐ確認できる射場等での取り扱いについては大体データが洗い終わったのでそれを記載しているという違いになります。

時事通信・閉塞の原因として考えられるダイヤフラムの変形とはどういうことなのか。
・ダイヤフラムで推進薬と気体を分けています。ダイヤフラムはゴムで、これが変形する。このゴムが何らかの変形で、下の配管に出て行くところを塞ぐこともありえるのではないかという仮説を立てて、それがあり得るかの確認を進めている。

時事通信・「原因の可能性を否定できない」(資料では三角マーク)の部分を一定程度洗い出すのにどれくらい時間がかかるか。
・いろいろな可能性をあたっているということで、本日時点ではいつまでにとは申し上げられないところです。早期にと思っています。

共同通信・パイロ弁のメーカー名が公表できない理由は何故か。
・メーカー名を公表することで我々の調査活動に支障が出てくる可能性がございます。我々はそれを原因と特定している訳でもないという中で、それが支障になるのはまずいということで今は控えさせていただいております。最終的にもメーカー名を出すのは影響が大きい。原因でないのが一番良いが、その辺はもう少し検討させていただきたい。

共同通信・支障とはどういう意味か。
・名前が出まして問い合わせ等が行ったりすると、なかなか協力が得られにくくなるだろうということもございます。そういった点も細心の注意で進めている。

NHK・水平展開のところで並行して他機種への影響評価に着手とあるが、これはいつから開始されているのか。
・前回の報告で3つの要因に絞られ、広いところからRCSの3つまで来て、そういう観点でその他機種も、特定はできていないが、それぞれあった場合にどうかというのを始められるというところで始めたところでございます。

NHK・パイロ弁はイプシロンの4、5、6号機で同じロットのものが使われている。H3も同じ型のパイロ弁を使っているが、それも同じロットなのか。
・同じ型ではなく、同じメーカーさんのパイロ弁です。型式を含めて共通性がないか調査をしている。

NHK・前回では同じ型だったと記憶しているが。
・そう言ってしまったとすれば大変申し訳ないですが、そこは訂正させていただきます。前回は調査がまだバタバタの状態で、いろんな情報が出ていたところで、もしかしたらそう言ってしまったかもしれません。

NHK・正しくは同じメーカーのパイロ弁ということで、同じ型かどうかなどは調査中ということか。
・そういうことです。

NHK・イプシロンSもパイロ弁などは6号機と同じ設計製造のメーカーと理解していたが、これも同じメーカーの同じ型を使うのか。
・基本的にはその方向。まだ基本設計フェーズを進めているところでしたので、その予定でした。今回の件を受けてイプシロンSはまだ少し時間があるので、今回の原因究明結果を受けて抜本的に設計変更をするのか、別のに変えるのか、そういうところは引き続き検討を進めたいなと思っております。

NHK・基本設計段階ということで部品を調達して組み立てはしていないのか。
・はいそうです。

NHK・水平展開を進める中で、開発中のH3や、今年度打ち上げ予定のH2Aへの影響はあるか。
・打ち上げが迫っていることを念頭に置きつつ、そういった観点で影響範囲がだいたい絞られてきたところで、H3やH2Aでどうかというのも走らせている。原因が絞り込まれて、全く影響が無いというところまで持っていかないと、打ち上げが大丈夫というところに行けないと思っていますので、かなり密接に連携して並行して走らせている状況です。

NHK・前回は週末も返上して関連メーカーも含めて総力でやっているとのことだったが、引き続き影響が無いかを総力をあげてやっていくということか。
・まだその状態が続いています。我々としては全力をあげて、時間も気にしながら進めています。

フリーランス大塚・パイロ弁が4号機以降は同一ロットとのことだが、4号機の打ち上げが2019年1月なので4年くらい保管していたことになる。保管寿命は何年か。
・本日この時点では控えさせていただく。その点も調査をしておりまして、基本的にはもともと製品として示された保証期間内ということで、今回のものもその範囲内であることを確認しておりますので、最終的にはお示しできるようにしたいと思っています。

フリーランス大塚・感覚的だが、倍などかなり余裕があるのか、それほどではないのか。
・本日時点では控えさせていただきます。

フリーランス大塚・パイロ弁は初号機のときに冗長になっていた。パイロ弁は片側が作動しなくてもミッションが失敗するクリティカルなところ。それを考えると初号機のように冗長になっていた方が良いのではないかと思ってしまう。火工品は作動しないなどの不具合が絶対起きないという確信があってやったと思うが、どういう風な根拠があってシングルになっているのか。
・詳細はもう少し洗わないといけないかもしれないが、基本的には火工品なので一つでしっかり点火すれば着火する仕立てにはなっていると思います。試験機は電気系の対応が間に合わない可能性があるということで、それを避けるために2つ使ったというところです。現在の標準の設計は、もともとこのパイロ弁はこうやって使うものとして非常に信頼性の高い物として捉えられています。我々としてはこの使い方そのものは信頼性の高い物ですし、2個使うことで当然コストも上がる問題もありますので、設計そのものは妥当であると考えています。

フリーランス大塚・冗長にしているのは特例みたいなもので、世界的にはパイロ弁はシングルで使うのが普通であるということか。
・はい。基本的にはシングルでしっかり作動するものだと思っています。

フリーランス大塚・イニシエータだけ二重にして、より確実にということか。
・はい、そういう設計になっています。

読売新聞・パイロ弁のブースターについてもう少し詳しく。どういう形でブースターが点火するとか、どういった材料だとか、その辺りを教えて欲しい。
・材料はお示しできない。このタイプはイニシエータで電気信号を、比喩的に言いますが少量のガスに変える。その少量のガスで下のブースターに着火させてガス量を増やして、ラムというピストンを下に押すという構成になっています。火薬に関しては火工品メーカーでいろいろなタイプがございますので、なかなかお示しできないところですが、作動原理としてはそういうものです。

読売新聞・イニシエータからガスが出るということか。
・イニシエーターから管が斜めに出ていて、ここに発生したガスが流れて、その力でブースターに着火させる方式です。

読売新聞・ブースターは火薬で破裂するものか。
・はいそうです。

読売新聞・保管している間に湿気等で破裂しなくなる可能性はあるか。
・イニシエータやブースターにも火薬が入っているが、花火のように火薬面が露出したようなものではなくて、しっかりと金属で覆われて施工されているものです。作動すると金属の薄い膜を破ってガスが出て行く方式ですので、一般的には湿度が火薬に達しない作りにはなっています。そういったことも含めて、火工品メーカーさんが指定した寿命の範囲内で使えば基本的には問題が無いというものになっています。

読売新聞・ブースターはイニシエータと一体化した形で保管されていたのか。
・保管の状況は、PCA(プライマ・チャンパ・アッセンブリ)の構造体にブースターの火薬が入った状態です。イニシエータが入る部分には穴が空いていて、イニシエータそのものは別に管理する。射場でイニシエータをPCAに組み付ける。その一体になったPCAとイニシエータをバルブの本体に組み付けることになっています。

読売新聞・(製造・組立プロセス)図の「部品・コンポーネント供給業者」は1社か。
・サブシステムメーカが発注している先は一緒になっていますが、その先でイニシエータが違う会社になるが、その会社の違いなど細かいところは確認中です。基本は同じ会社のグループの中だと考えています。

読売新聞・国内メーカーか。
・国内外のパイロ弁メーカーがいろいろありまして、ここも調査に支障が出るとまずいので差し控えさせていただきます。

読売新聞・(資料のH3ロケットの説明で)「同じメーカーで製品は異なる」とあるが、製品が異なっても影響はあるのか。
・大前提としてパイロ弁が原因とは追い込んでいない。ひとつの可能性としてパイロ弁はまだ残っている。その上で、同じメーカーさんの中ですので、作動原理が同じような形のパイロ弁であった場合は、作動原理に起因するようなものではあればよく確認しなければならないと思っていますので、型番が違ったとしてもその辺はよく見た方が良いと考えています。

読売新聞・作動原理の違いはすぐ判るように感じるが、まだ判っていないのか。
・部品の中に入っていくような話になりますので、その辺は詳細に進めているところです。

フリーランス秋山・前回の開催時に、過去の様々な事例を幅広く調査されるという話があったと思うが、RCSなどのコンポーネントの周りで何か今回と関係するような事例はみつかったか。
・広く調べていると過去に起きている不具合はいろいろ確認しています。我々がFTAで追い込んできているものと全く同じものは今のところ無いと思っていますが、原因そのものを追い込めていないので、過去に起きたそういうものが関係しないかは慎重に探っている状況です。

フリーランス秋山・関連するものがあるかも現時点でははっきり言えないということか。
・はい。

共同通信・製造不良とは具体的にどういう状態なのか。
・本日の報告書でいろんなポテンシャルを確認するということでこの言葉を使っています。そういった意味では先ほどから議論になっている火薬がどうだったのか、4から6まで同一のロットだったが、そのロットの中で何か違わないかといったもの全体をいま洗っているところです。

共同通信・本来あるべき姿に、製造の段階でなっていなかったということか。
・当然製造はしっかりされて良品として納品されていますけれど、一例として製造の過程でなにか特異な事象があったがそれをアクセプトしたことがないかとか、ちょっとした違いがないかとか、そういったことを含めて確認をしているところでございます。

共同通信・ダイヤフラムとは配管のまわりにあるゴムというイメージか。
・丸いタンクがあり、これは金属で出来た球体になります。その中にゴム製のダイヤフラムがある。これは別々に作って結合する。タンクの球体とは別部品になっています。

共同通信・真ん中で区切っているゴム製のダイヤフラムが何らかの理由で変形し、下の配管の入口部分を塞ぐ可能性があるということか。
・そういう仮定を立てて、変形度合いを含めて起こりうるのかを検討しているところです。

宇宙作家クラブ・スラスタの片方が作動しなかったが、決められた手順を自動で行い、作動しなくなった側のスラスターにも命令を出し続けるのか。
・その通りで、電気的に信号が不具合のあった+Y軸側のスラスタにも姿勢の変動に応じた噴射信号を確認しています。そういった意味では制御としては自動で行われた制御の部分は正常だったと考えています。

宇宙作家クラブ・今回の6号機の場合は姿勢を修正するためにスラスタを片方だけ吹き続けて発散したのか。
・まさしくその通りで、+Y軸と−Y軸の対向したものが同じ方向に吹くと、例えば頭を上げるという制御の方式になっていまして、簡単に言うと右と左の2個で十分な制御力を出す形になります。これの一方が推力を発生しなかったことになりますので、姿勢が十分に静定できなくなったことになります。今回、実際のフライト状態を片側が駄目だった場合でシミュレーションしたところ、大体その傾向を把握できたので、間違いなくここの推力が出ていないと判断したところでございます。

宇宙作家クラブ・まだ原因究明前だが、その後の対応としてパイロ弁などが作動しなかった場合の対処を追加することはあるか。それとも確実に作動させる方向なのか。
・まだそこはパイロ弁かどうか考えておりますので、もしそこに何かボトルネックがあると話が出れば何かしらの変更をするというのはあるかなと思っています。今具体的にどちらの方向に持っていくまでには至ってございませんのでクリアには言えない。

読売新聞・試験機と強化型の2〜6号機では推進タンクのダイヤフラムのところの設計変更をしたが、その理由が同時着火では不具合が出るかもしれないと説明があったがどういうことなのか。あとこの設計変更でのトラブルはあるか。
・このパイロ弁はイニシエータが2つございまして、これが冗長に作動する。どちらが跳ねてもブースターにちゃんと火が点いて圧が立ってラムを押し下げるというのが基本的な設計になっています。イニシエータを発火させるのは電気信号だが、海外の事例がNASAの方から出ておりまして、イニシエータへの電気信号をほぼ同時にかけてイニシエータを発火させた場合に、イニシエータから出たガスがブースターに行くが、ガスの干渉があって、ブースターへの着火がうまくいかない事例があった。そういうレポートがNASAの方から出されたということがございまして、そこについてはイニシエータに点火信号を送るところに時差をつけることが必用ということで、それを試験機開発の最終段階に近いところでその情報を得たというところで、試験機については電気系の設計が間に合わないということで(イニシエータ)を1個に、パイロ弁を2個にして乗り切りました。2号機からは電気系を改修して、点火信号に1秒の時差をつけて(パイロ弁を)1個にした経緯になっています。設計はNASAの方から出た事例をもとに変更して、その後2号機から5号機まで確実に作動してきているという意味では、設計変更そのものには問題は無かったと考えています。

以上です。