投稿日 2022年11月20日(日)21時49分 投稿者 柴田孔明
2022年11月18日午後より超小型探査機OMOTENASHIの運用状況についての記者説明会がリモートで開催されました。
超小型探査機OMOTENASHIはNASAのアルテミス計画初号機(Artemis I)にて2022年11月16日1:47(EST)に打ち上げられましたが、この説明会の時点では通信が安定しない状態となっています。
(※一部敬称を省略させていただきます。また回線の関係で一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました)
・登壇者
JAXA 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 教授 橋本 樹明
JAXA 宇宙科学研究所 宇宙科学広報・普及主幹/宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授 藤本 正樹
・OMOTENASHI探査機の運用状況について(橋本)
・この度はいろいろお騒がせして申し訳ございません。また沢山の励ましのお言葉をいただきまして、チーム一同大変励みになっております。
・第1可視時の探査機電源オン時の自動シーケンス(計画)
SLSロケット搭載状態では探査機の電源はオフで、ロケットから分離されるとスイッチが入り、以下の動作が自動で行われる。
・コマンド受信機オン。
・搭載計算機オン。
・Xバンド送信機オン。
・姿勢制御装置オン。
1.探査機の回転が小さい場合
→太陽捕捉制御(リアクションホイールで太陽電池面を太陽方向に向ける制御)開始。
(※リアクションホイールは非常に小型のため、制御能力に限界があり、探査機が大きく回転している場合は起動しない)
2.探査機の回転が大きい場合
→レートダンプ制御(ガスジェット推進装置を起動して回転を停める制御)開始。
回転数が規定値以内に入ったら制御を終了し、太陽捕捉制御を起動する。
・放射線モニタオン。計測開始。
※探査機が軌道上でオフになった場合にも、探査機電源が再度規定値電圧以上になれば、以上のシーケンスが自動的に実行される。
・第1可視(DSNマドリード局)の実際の状況
・可視予定時間になってもテレメトリが正常にロックしなかった。DSN局からは電波強度が弱く、探査機が速く回転しているため、受信しづらいとの連絡あり。
・送信機をローパワーからハイパワーモードにするコマンドを送信したところ、テレメトリがロックした。テレメトリを確認すると、太陽電池(+Y面)が太陽とほぼ反対側を向く姿勢になっており、探査機がY軸回りに約80度/秒で回転していた。制御モードは太陽捕捉モードになっていた。
・この状態ではリアクションホイールが動作せず、従って太陽捕捉制御が途中で停まっていた。姿勢制御を行うためには、ガスジェット装置で探査機の回転数を規定値まで落とす必要があったためそれをいちど開始した。
・しかしバッテリー電圧がかなり低下しており、通常の手順で回転数を落とす操作ではバッテリが間に合わないことが予想されたため、回転軸方向を変えて少しでも太陽電池に太陽をあてることを考えた。その後、バッテリー電圧低下により送信機がオフとなったので、この操作を行うコマンドが有効であったのかどうかは現時点で判明していない。
・第1可視時の探査機電源オン時の自動シーケンス(計画と実績の対比)
・SLSロケット搭載状態では探査機の電源はオフで、ロケットから分離されるとスイッチが入り、以下の動作が自動で行われる。
・コマンド受信機オン: →コマンドは受け付けられており確認できた。
・搭載計算機オン: →テレメトリデータから確認できた。
・Xバンド送信機オン: →電波が受信できたことから確認できた。
・姿勢制御装置オン: →テレメトリデータから確認できた。
1.探査機の回転が小さい場合
太陽捕捉制御(リアクションホイールで太陽電池面を太陽方向に向ける制御)開始。
2.探査機の回転が大きい場合(こちらが実行されていたと思われる)
レートダンプ制御(ガスジェット推進装置を起動して回転を停める制御)開始。
回転数が規定値以内に入ったら制御を終了し、太陽捕捉制御を起動する。
→テレメトリデータから、一度レートダンプ制御が起動したことは確認できたが、回転数が大きな状態で太陽捕捉制御モードになっていた。
・放射線モニタオン。計測開始: →テレメトリデータから確認できた。
・第2可視以降の対応
・探査機は太陽光が太陽電池に当たり電源がオンとなると、自動的に搭載計算機、受信機、姿勢制御装置、Xバンド送信機などがオンとなり起動する。探査機の回転数が大きいときには、レートダンプモードが起動し、ガスジェットを噴射して回転数を落とすようなプログラムになっている。
・特にXバンド送信機、ガスジェット装置の消費電力が大きいため、バッテリー充電が進み探査機の電源がオンになると、すぐにまたオフとなってしまう。これを繰り返すことが予想された。
そのため、現在、送信機オフとガスジェット装置を使用しない制御モードへ移行するコマンドを打ち続けて、バッテリー充電を効率的に行うようにしている。
・送信機オフの場合、探査機の充電状態等がわからないため、定期的に短時間送信機をオンにして、電波が送信されるかどうかを確認している。
・電波の受信が確認された場合、太陽指向を目指すが、姿勢を変更する方法としてはガスジェット装置の他、リアクションホイールをマニュアル駆動する方法も検討している。
・今後の予定
・計画との対比
・17日 22:30〜 DV1(月衝突軌道投入): → 予定していた時刻に実施できなかった。
・19日 DV1終了時刻に依存 TCM(軌道微修正)
・20日 精密軌道決定
・21日 23:55±1時間程度 DV2(着陸減速)
・今後の対応
・太陽捕捉が完了し、復帰できた場合、DV1を実施し月着陸を目指す。
・DV1が出来ない場合でも、DV2のみで月着陸を実施する方策を検討中。
・以上のシナリオ毎に軌道検討を行うことで月面へのアクセスを諦めていない。
・質疑応答
NHK・現在の月着陸の成功確率は何パーセントで、それがいつ頃になるのか。ロケットからの分離時刻はいつか。
橋本・着陸の成功確率はいろんな考え方があって非常に難しい。ノミナルの計画の場合はいろんな誤差要因を計算しながらモンテカルロシミュレーションを通して60%程度という値を出していた。現在のようなオフノミナルの状況になりますと確率が何パーセントとは申し上げられない状況です。時刻については月に行く速度は決まっているので、プラマイ1時間か、プラマイ2時間になるかもしれない程度で、それほど大きく変わることはないと考えています。ロケットからの分離時刻は、NASAから公式なものは提供されていないので正確なことは申し上げられないが、予定時刻は19時31分(JST)です。
NHK・成功確率を数値化できないとのことだが、表現としてどれくらいなのか。
橋本・客観的に考えれば厳しいのは確かです。極めて厳しいかどうかは主観が入る。我々としては絶対出来ると信じて運用しています。
時事通信・現在、送信機の電源を切ってちょっとずつでも充電ということをされていると思うが、度々送信機の電源を入れてテレメトリを取得していて、充電の値は上がってきているのか。これから先はガスジェットは使わずにリアクションホイールでなんとか回転を止めることを考えているのか。太陽を補足するためのタイムリミットはどのくらいと見ているか。
橋本・第一可視のマドリード局以後は電波が受信できていないのでわからない。想定でこうやった方が充電の効率が上がるだろうということで今の運用をしているところです。いつまでにというのは、今言えることは月面着陸予定時刻よりも数時間前までに回復していないと、月着陸のコマンドの用意とかシーケンスに数時間かかりますので、そういう状況です。姿勢制御は最終的にはスピンを落とさないといけないのでガスジェットを使わないといけないが、充電量が小さい状態でガスジェットをいきなり起動するとそこでまた落ちてしまう。まずはガスジェットを使うかもしれないが、リアクションホイールを使って姿勢を乱して太陽方向に回るようにできれば、その状態で充電してからガスジェットを使って完全に回転を止めるということをしたいと考えています。
時事通信・送信機を時々ONにしてデータを取得しようとしているのかと思ったが、今のところ電源が入るほど充電が進んでいないので、どれくらい充電されているのかわからないということか。
橋本・そうです。節電のために送信機をOFFにする運用を続けているが、それを続けていると、ちゃんと充電できて電波が出ているにもかかわらずOFFにしているので電波が受からないということかもしれないので、念のために定期的に送信機をONにするコマンドも送ってみていることもしているが、残念ながら現時点では電波の受信は得られていません。
時事通信・これまで得られたテレメトリで分離されたときの最初の回転数が想定したものより大きすぎたとか、回転数が規定値以内に入ったら太陽捕捉モードになるとのことだが、いったんは制御内に入っていたとか、データで追える部分はあったのか。
橋本・データレコーダーで記録されたデータは再生する時間がなくて可視時間が終わってしまったので、可視はあったが電波が受信される前に起こったことについては残念ながらデータがありません。電波が初めて降りてきたときのデータからは、ガスジェットの積算噴射秒数が残っていたのでそれから逆算すると、想定されていた中でちょっと大き目の分離外乱量に相当するくらいガスジェットを吹いているように思います。ですが何故こんな大きなスピンになっているかはわからないところです。
共同通信・回転量が多いとのことだが、当初想定していた上限がどれくらいで、どれくらい上回っているのか。基本的には分離される時の影響で速くなったのか。
橋本・分離時の外乱はNASAとのやりとりで最大で10度/秒の外乱は最大であると想定されていました。しかし現在は80度/秒くらいで回っている。一方でガスジェットの噴射秒数を見ますと10度/秒の回転があったときに落とす噴射量が記録されています。ですので状況がわからないところです。今後原因究明はやっていかなければならないが、今は当面の運用に集中していますので、原因究明はそこまでであまり調べていないところです。
共同通信・80度/秒は最大なのか、それともたまたまそのデータが出ただけでそれ以上の回転になっている可能性もあるのか。
橋本・見えていたときだけのデータしか無いので、なんとも言えない。見えている間にも若干は変動しているようなことはありましたが、概ねこれが続くのではないか。一瞬というデータではないので、概ねこれくらいで回転しているというのは変わらないのではないかと思います。
NewsPicks・最悪の場合、充電がうまくいかなかったり、通信が回復しない状態になった場合、どうなってしまうのか。
橋本・全部想定になりますが、一般に宇宙空間の物体は回転していると角運動量保存の法則が成り立つので、回転軸方向が変わらず回転をし続けるというのがあり得ます。最後に送ったコマンドで姿勢が動いていれば話は別だが、動いていない場合はそのままになります。そうすると現在太陽の反対側を向いて回転しているので、このままでいきますと数ヶ月後には逆に太陽を向いて回転することになりますので常に発電がキープできる状態になると考えていて、その状態でバッテリ充電ができれば復帰オペレーションはできると考えております。一方でそれを考えると暫く運用出来ないということになってしまいますので、我々としては最後に送ったコマンドが効いていて、姿勢運動が乱れて太陽方向を向いて着陸に間に合うことを最後まで期待して運用を続けるところであります。
NewsPicks・現在は21日頃までの着陸を目指しているが、もしそれが叶わなかったとしても数ヶ月後に充電ができるタイミングがある。そこから運用を立て直して、もういちど月への着陸に挑戦することが可能ということか。
橋本・その状態になりますと、残念ながら月には戻れなくて惑星間の軌道に行ってしまいますので、そういう状態で復帰したときは月着陸実験はできないことになります。ただ今回は超小型で月に着陸するためにはいろんな技術が必用で、沢山の技術を開発して、いろんな試験をして打ち上げているところですので、それらをできれば軌道上でいろんな試験なり観測なりをしたいと個人的には希望がありますが、先のことについては関係各所との調整も必用ですので、現時点ではとにかく月着陸を目指すというところです。
毎日新聞・回転を変えようとしているコマンドは具体的にどういったものか。探査機がロケットから分離された方向は、月に向かっているのではなく、何らかの軌道修正をしないと月には向かわないところで回転しているのか。
橋本・月に向かう軌道という表現をしていますが、もともとSLSロケットがオライオン宇宙船を分離した後、宇宙のゴミにならないようにロケットの上段は月を通過して惑星間の邪魔にならない軌道に投入されています。そこからOMOTENASHIも分離されていますので、何もしなければ月を通過してそのまま惑星間に行って、太陽を周回する軌道に入ってしまうということになります。月に着陸する場合には、DV1という軌道修正が本来ならば必用です。DV1で月にぶつかる軌道に入れてからDV2をすることを考えていました。本来それができるのが一番良いが、どうしてもDV1が間に合わない場合は、最後の手段としてDV2を適切な方向に向けて行うと、月に到達することはできます。ただし本来ならば速度をぴったりゼロにして着陸しようとしていたが、軌道上でDV2を斜めに噴射して強引に合わせる場合には残りの速度がかなり大きくなってしまうという難点があるが不可能では無いと考えています。
今送っているコマンドは、まずは探査機の充電状態がどうなっているか、あるいは充電を進めることが目的ですので、今は姿勢を変えるコマンドは送っていません。姿勢を変えようとしたのはマドリード局でまだバッテリ電圧がある状態のときに送ったということです。今やっているのは、もし起動したときにすぐに電力を使う機器をONにしないで温存して、充電をなるべく効率的に進めるというコマンドと、今復帰しているのかどうかを試すために送信機を短時間ONして調べてみるもの、これだけです。
毎日新聞・マドリード局であげた姿勢に関与するコマンドは何か。
橋本・ガスジェットをスピン軸と直交方向に噴射して、スピン軸方向を変えようとしました。
毎日新聞・それの効果が出ているかは今のところ判らないのか。
橋本・はい。
読売新聞・小型の難しさ、今回復旧がなかなか難しい。太陽電池が+Yに1面だけにしかついていないのは軽量化のため1面だけになったのか。リアクションホイールだけでやろうとしたが小型ということで制御能力が低いので、いろんな手段を切り替えるという複雑なオペレーションになるとか、今回こういったトラブルになってしまうところの背景として、やはり小型というところの難しさがあるのか。
橋本・全くその通りです。超小型で実現するということで、通常の衛星とは随分違う技術を投入しています。我々としてはそれであっても想定した範囲であれば絶対に出来ると信じているところです。太陽電池については、計画の最初の頃は、全面は固体モーターを点火するところや分離するところ(±Z面)には貼ることができないが、他の面にはぐるりと貼ろうかと考えていました。しかしこの探査機分離装置のサイズが決まっていて、どうしても太陽電池一枚も入れる隙間が無かったというところです。OMOTENASHIは真ん中に大きな固体ロケットが入りますので、とてもその余裕は無かった。リアクションホイールの能力についても、まさに小型であるので、大きなリアクションホイールは搭載できないのでここはどうしようもない。リアクションホイールのサイズとしては、通常の姿勢制御をするのに十分なサイズのものを用意していて、初期の外乱に対してはガスジェットで対応することを考えていました。
読売新聞・以前の説明会で、DV1は燃料削減のためなるべく減速量を少なくすると説明があったが、今後DV1をかなり大きくやったり、DV1ができなくてDV2だけにするというときに、これまでの姿勢制御をしている中でDV1のための燃料は十分なのか。
橋本・姿勢制御のために使ったガスジェットはDV1と比べると非常に小さく、そこには影響ないと考えています。DV1は月に近づけば近づくほど制御量が大きくなってしまうので、あまり遅れるとDV1はできないということになります。今のところ、明日と明後日くらいまでなら可能かもしれないが、詳細は検討中です。それ以上遅れるとDV1の制御量が非常に大きくなってしまうので、燃料が足りなくなってしまうことになります。その場合はDV2の一発でやるしかないと考えています。
読売新聞・当初の計画だとDV1の終了が遅くても明日午前1時となっていたと思うが、これに関しては変わらないのか。
橋本・従来はなるべく精密に制御しようとしていましたので、精度を犠牲にすれば引っ張ることはできる。まずはDV1をその時間までに終わらせて、そのあと精密に軌道を決めて、そのあと補正のデルタV(TCM)というのをやる予定も入れていましたので、精度を多少犠牲にすればTCMが終わる辺りまで引っ張ることができると考えています。
読売新聞・20日の4時45分頃まではDV1のチャンスがありそうと理解して良いか。
橋本・そこまで正確に軌道計画が出来ている訳ではないので、何時何分という程には精密には申し上げられないが、その程度の時間までにはできると考えています。
フリーランス大塚・DV1が間に合わないときはDV2のみとのことだが、当初の予定ではDV1で衝突軌道に乗せてから激突するちょっと前くらいに点火するとのことだが、今回の場合はもっと遠いタイミングで月通過の軌道から減速の方に働かせて、月への落下の方に曲げて、あとは自由落下のような状態になるということか。
橋本・その通りです。重力を打ち消す方向は固体ロケット一発しかないのでできないことになりますので、なるべく軌道高度が低いところでぴたっと止まるような軌道に入れるようにDV2を行って、最後は自由落下させるということになります。
フリーランス大塚・もともとの計画だと回転させてなるべく垂直のような形でスピンさせて、下のクラッシャブル材で衝撃を和らげるという感じだが、その場合だと斜めとか横になるのか。側面から落ちることになるのか。
橋本・そういうことになってしまいます。当初は水平に進入して速度を止めて自由落下させることを考えていたので、それに近いことになります。
フリーランス大塚・エアバッグは展開する予定で、ガスで膨らませないという話だったが、今から展開とか膨らませることは出来るのか。
橋本・それはもうできません。膨らませないことにしたので配管等を省略してしまったので、そこができない。確かに衝撃吸収という面では非常に不利な状況になってしまいます。
フリーランス大塚・膨らんではいないが展開しているので多少の効果はあるのか。
橋本・Surface Probeの部分自体は非常に高い衝撃に耐えるように作っているので、期待して良いかわからないが、月の砂の衝撃吸収もありますので駄目ということはないと認識していますが、もともと想定していないことですので、できると保証しているものではありません。
フリーランス大塚・レゴリスなどでふんわりしている所なら耐えられるかもという見通しか。
橋本・そうです。
フリーランス大塚・(月を)通過したときでも数ヶ月後にまた発電して通信が可能になる見込みとのことだが、もともと月面としか通信距離を考えていなかったと思うが、どのくらい離れても通信が可能なのか。
橋本・それはまだ検討中です。数百万キロは大丈夫だとは昨晩確認している。
NHK・DV2だけの場合、以前の説明では時速180kmまで落として着陸とのことだったが、DV2で軌道制御も行ったあとの自由落下だとどれくらいの速度になるのか。
橋本・そこはまだ計算していないところです。当初考えていたものより大きな速度にはなってしまいます。
NHK・通信できていないが、表現として「行方不明になっている」というのが正しいのか、そうではないのか。どこを飛行しているかある程度判っていて、単に電波が受からないだけか。
橋本・軌道外乱をあまり与えていないので、同時に分離したEQUULEUS探査機の軌道が正確にわかっていますので、そちらの軌道から十分にアンテナのビーム内に入る軌道は判っているという風に考えています。
NHK・週末の土日にいろいろオペレーションがあると思うが、どうなったかの説明をやっていただけるとありがたいと思います。
JAXA広報・状況を踏まえて適切なタイミングで連絡したいと思います。
共同通信・DV2のみで自由落下となった場合に、セミハードランディングを目指していたが自由落下はその範囲に収まるのか。その場合は衝撃が大きくなるので、本体が耐えられる衝撃に収まるのか。
橋本・まだそこまで精密には計算していません。ただ着地速度が速くなるので、人により主観はあると思うがハードランディングになろうかと思います。ただハードランディングでも耐えられるだけの衝撃吸収能力はSurface Probeがある程度持っていると考えていて、あとは着地衝撃がどれくらいになるかは、月面の状態がどうかで大きく違います。我々が今まで60%の成功と言っていたのは、75m/s以内で衝突する確率を計算して着陸成功確率と言っていたので、それより速い速度でぶつかったからといって失敗するという訳ではなくて、かなり速くても月面が岩とかでなければSurface Probeは耐えられると考えています。定量的にはまだ検討が追いついていないところです。
宇宙作家クラブ松浦・(ロケットからの)分離から立ち上げのときが着陸以外では最もクリティカルだと思うが、設計の段階でどこまで最悪の状態を想定していたか。80度/秒の回転で、しかも裏返しというのは、信じられないくらい悪い条件だと思うが、設計時にここまで想定していたのか。
橋本・想定していません。インターフェイスも10度/秒以内とのことでしたので、10度/秒で設計していました。
宇宙作家クラブ松浦・可能性としては分離側の問題が考えられるが、もうひとつ言いづらいが配線がひっくり返っていて、回転を止めようとして噴射したらば回転が増してしまった可能性も考えられなくもないのではないか。現状ではどういう風に考えて分析しているのか。
橋本・まだ原因究明は本格的にやっておりませんので何とも言えない。ご指摘いただいたようなことも、可能性は全部否定してはいけないので、あらゆる可能性は考えなければいけない。ただマドリード局で1回はレートダンプモードが起動しました。間に合わないと思って途中でやめたが、そのときの履歴からは設計通りのレートで徐々に落ちていましたので、そこの部分には間違いは無いと思っていますが、設計上プログラムは間違っていなくても、例えば放射線によるビットエラーで変な動作をしたかもしれないとか言い出すと、いろいろと可能性はありますので、現時点ではあらゆる可能性を考えております。
宇宙作家クラブ松浦・回復しなかった場合、月スイングバイをして飛んでいってしまうが、スイングバイが誤差要因になる。どこかの段階で軌道決定をやらなければならないが、その限界は今の段階でいつ頃になるのか。
橋本・それは非常に重要なパラメータなので、それを軌道グループに計算してもらっている。非常に難しく、どこまで誤差要因を仮定するかで難しいということで、昨日の段階ではスイングバイの高度が結構高いのであまりないと言われていたが、今再計算をさせてほしいと言われていて、現時点ではいつまでというのはなかなか言えないですが、スイングバイしたらすぐに見失ってしまう程ではないと考えています。
NHK・Y軸方向に80度回転というのを何かで可視化してほしい。
橋本・(OMOTENASHIのペーパーモデルで説明)太陽電池が太陽の方を向いていないといけないが、現状はひっくり返って(太陽電池を裏側にしたまま)ぐるぐる回っているところです。一周しても太陽は全然見えないというところです。マドリード局でのパスでやろうとしていたのは、この回転を少しでもこっち(太陽電池の向きが太陽側)になるようにしようとした。現状では残念ながら(裏返ったまま)Y軸まわりに回っているというところです。
NHK・マドリード局で送ったコマンドでガスジェットが機能したかどうかは確認できていないということか。
橋本・はい。
NHK・太陽の方向をチラ見するような回転になっているかどうかは判らなくて、次の受信でそうなっているかどうか確認できたらいいなということで送信をONにしたりOFFにしたりしているということか。
橋本・そうです。
NHK・その運用を続けていて、DV2の期限が21日の着陸の数時間前ということだが、どこで着陸を断念する判断をする予定なのか。
橋本・詳細はまだ検討しているところ。運用の準備の時間がどうしても必要になる。計画では最後のゴールドストーン(運用局)で点火だが、マドリード局のパスでDV2シーケンスをアップロードしなければいけないので、シーケンスではなく点火だけになると随分と簡略化はされるが、あまり変わらないので、20時のマドリード局のパスか、最悪22時5分のゴールドストーンパスでも間に合うかもしれない。どういうコマンドになるかにもよるので、そこは検討中です。
NHK・20日22時40分終了のマドリードか22日0時36分終了のゴールドストーンということか。
橋本・(21日)22時から22時5分のマドリード局か、(21日)22時5分から0時36分までのゴールドストーン局ですね。今回はマドリードとゴールドストーンが重なるような割り当てになっています。
(※日時は日本時間)
NHK・ここで最終判断をするのか。
橋本・そうです。
時事通信・過去のガスジェットの履歴を見ると毎秒10度に相当する修正量を吹いていたということだが、これは最大値であって分離された時の状況がもっと大きかったことは否定できないということか。
橋本・これはあくまで制御した量なので、ほぼ10度/秒の分だけガスを噴射して落とそうとしただろうということは判っています。何故落ちていなかったのかは、その前の回転数が高かったのか、それとも落とすロジックがうまくいかなかったのか、あるいは落とした後で何かが起こったのかはまだ正確に不具合検討をしている訳ではありませんので、わからないというところです。
時事通信・いちど太陽捕捉モードになっているということは、実際の機体の回転数を見てそういうモードにするということになっているのか。仮にそのモードになった場合にはガスジェットは自動的に止まるような仕組みになっているのか。誤検知でそうなっていてガスジェットが止まらないでスピンアップするようなことがあるのか。止める仕組みはどうなっているのか。
橋本・判りやすいように探査機の回転数としてお話していますが、技術的に正確に言いますと角運動量を検出するジャイロが姿勢制御装置にあって、回転数を検出してそれで角運動量を計算しています。角運動量がある一定以内に入ったらガスジェットの制御は停止するアルゴリズムになっていますので、テレメトリをそのまま信じればガスジェットは10度/秒くらいを落とすような量だけ吹いていますし、それからいちどガスジェットの制御は停止して太陽捕捉モードに入っていましたので、それが誤検知かもしれないが、搭載計算機としては、回転数は収まったのでリアクションホイールを使った制御モードに移行したという風に見えます。ただマドリード局で見た時にはスピンが非常に速くて、リアクションホイールによる制御は動かない状態でした。どうしてそういう矛盾になったのかを今考えようとしています。
共同通信・基本的ですが秒間10度とか80度とあるが、1秒間で1回転して元の位置に戻るのは360度なのか。
橋本・その通りです。秒間10度というと36秒で1回転しているということです。
NHK・太陽電池パネルが片面にしかついていないのは隙間が無いとのことだが、どこに隙間が無くて貼り付けられなかったのか。
橋本・(OMOTENASHIのペーパーモデルで説明)ロケットから分離する分離装置はNASAが指定した装置になっていて、幅や高さが全部決められていて、このペーパーモデルではただの直方体だが、溝のサイズが厳密に1ミリ単位で決まっています。太陽電池を貼るとすると横の面(横の溝の部分の両側)に貼りたかったが、いろんな装置を詰めていくと太陽電池を貼る場所が無い。太陽電池を貼るといっても接着してしまうと分解がやりにくくなるので、ネジをつけないといけないとなると太陽電池を外さないといけないなど複雑なことがあって、他の面には貼ることができなかったというところです。
NewsPicks・今後月への着陸をチャレンジするか断念するかが21日か22日にかけてとのことだが、判断の時点で広報という形で知らせてもらえるのか。
JAXA広報・これから運用を行うので、その状況に応じてお知らせしたいと思います。
産経新聞・EQUULEUSが正確な軌道を飛んでいるということで、OMOTENASHIも正確に飛んでいると何故言えるのか。
橋本・ロケットから分離された軌道があって、その軌道が判れば、分離された探査機は皆ほぼ同じ軌道を飛んでおります。そこから探査機は軌道を変えるオペレーションをすると軌道が変わっていく。EQUULEUSは今は軌道を変えていますので違うのですが、軌道を制御する前の軌道を伝搬していきますと今のOMOTENASHIの軌道になる。最初同じロケットから分離されていますので、そういう軌道になります。
産経新聞・マドリード局で受信したデータでは想定内の軌道だったということか。
橋本・それは今調査している。受信データが切れ切れなので、そのデータを使って軌道を計算することができていないが、同じロケットから分離されたので同じだと想定しています。
毎日新聞・OMOTENASHIがスピン状態にあって、太陽電池パネルが背面になっているというデータが降りてきたときに、どのような感想をお持ちになったか。
橋本・私は姿勢制御が専門ですので、その状態がいかに厳しい状態かはひと目見た瞬間に判りました。回転数が大きいので、すごく姿勢は変えづらい、なおかつ太陽とほぼ反対を向いているということで、非常に難しいということは判りました。ただバッテリの残り時間も考えて、出来うるベストなことは何かということでマドリード局で出来るだけのことはしたのですが、その結果が出ているかどうかがまだわからない状況で、出ていると想定していろんな運用でベストを尽くそうとしています。
毎日新聞・姿勢が乱れたという情報を見て、(小惑星探査機)「はやぶさ」の通信途絶を思い出したが、過去の経験などから参考になることや頭をよぎったことはあるか。
橋本・私は「はやぶさ」も担当していたので経験しているが、「はやぶさ」の時は回転方向が全くわからない、姿勢が完全に乱れた状態で消えて受信ができなくなった。回転方向が全くわからないという事だったので、回転方向を全部考えて1年以内には受信できるだろうという計算をした。今回は回転軸が判っている一方で、「はやぶさ」は1年も気長に受信しようと考えていたが、我々は出来れば月面着陸までに回復させたいので、そこが随分と違う状況かなと思っています。
ライター林・現在故障機器は無いと思われるというツイートがあったが、ハウスキーピングが満足に出来ない状況で何故そう言えるのか。また充電できない状況や高速で回転している今の状況で機器への影響は考えられるのか。
橋本・原因がわからない以上、なんとも言えないですが、マドリード可視で見た限りにおいては姿勢制御装置も想定しているモードになっていますし、ガスジェットについても回転速度と噴射量の辻褄は合っていないが、噴射モードとしては正常に動作しているようですし、レートダンプ制御も可視中に1回起動してそれも想定通りに全部動いていましたので、搭載機器でここが壊れているというような所は発見されていないというのが正しい表現かと思います。発電が長時間できない状態が続いていると思われますので、その影響というのは若干あろうかと思いますが、それについてはどういう状態になっているか全く判っていないので、現状では評価できないというところです。
ライター林・若干の影響とはたとえばどんなことが考えられるか。
橋本・もともとこの探査機は太陽電池が太陽を向くように想定して作っていて、初期の段階とか軌道制御をかけるときには任意の姿勢にしなければいけないので、1時間程度くらいはどの方面から当たってもいいようにしていますが、何日も裏側から当たり続けた場合に温度がどうなるかはよく判っていません。それによっては影響がある機器があるかもしれないと考えていますが、具体的にどの機器がどうなるかは現時点ではデータが無いこともあって言えないところです。
毎日新聞・SLS分離時のトラブルの影響も考えられると思うが、EQUULEUSのデータから何か影響が出ていることはあるか。
橋本・EQUULEUSチームに分離時の外乱がどれくらいあったかというのは聞いております。EQUULEUSは正常に動いていますので、分離時にどれくらいのレートがあったかのデータも残っていて、それは言われていた通りの10度/秒くらいの分離外乱があったと聞いています。かなり最大に近かったが、特に問題は無い。想定の範囲内でしたので問題は無いと聞いています。
・ひとこと
橋本・非常に想定外の状況になってしまいまして、プロジェクトチームとしても大変残念な状況になっていますが、皆様方から沢山のご支援の声をいただきまして、大変ありがとうございます。これからもチームとしては、まずは月着陸を目指せるように万全の準備をして、出来ることを全てやるということで、やってまいりたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
以上です。
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