投稿日 2023年2月8日(水)20時58分 投稿者 柴田孔明
2023年2月3日に開催された宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会(第45回) のうち、イプシロンロケット6号機打上げの部分と、その後に行われたフォローアップブリーフィングです。
(※前回と重複する部分などを省略いたします。またリモート開催のため、回線状況等により一部聞き取れない部分があり、そこは省略させていただきました)
・原因究明状況(配付資料より抜粋)
・配管圧力のパイロ弁点火信号送出後の1分解能(0.011MPa)上昇は実事象と判断された。
・この圧力が推薬弁1動作中に下流配管圧力(フライトデータ)が保持された理由は、パイロ弁下流に数ccのヒドラジンが存在していたためと考えられる。気体のみの場合や水分が存在している場合では圧力は保持されない。
・ 「パイロ弁の開動作不良」の故障シナリオ「PCA作動後にラムが仕切り板を完全に打ち抜けず、仕切り板に微小な隙間が発生してブースター燃焼ガスまたは推進薬がわずかにパイロ弁下流に入り込んだ」に関しては、以下に示す追加検証に基づく理由およびパイロ弁の製造・検査データが良好であることを確認したことにより、発生可能性はないと判断した。
・ダイアフラムが液ポートに近接した状態でパイロ弁開動作したときのダイアフラム閉塞可能性を確認するための試験(閉塞確認試験)を実施した結果、閉塞するケースが確認された。
・今後の進め方
・追加検証および製造・検査データの確認結果により「パイロ弁の開動作不良」は要因でないことを確認した。
・「ダイアフラムによる閉塞」に関し、追加検証結果により、+Y軸側パイロ弁下流配管圧力(フライトデータ)の挙動に対して以下が再現されることを確認した。
1.ダイアフラムが液ポートに近接した場合、パイロ弁開動作時にダイアフラムがタンク液ポートに引き込まれ、下流配管圧力が1分解能上昇して閉塞する。
2.下流配管にヒドラジンが数cc流入した状態でスラスタ部の推薬弁を開動作すると下流配管圧力が真空圧まで降下せず一定圧力を保持する。
・上記により、要因および故障シナリオとして「ダイアフラムによる閉塞」に絞り込んだ。
・詳細要因である「ダイアフラムが正常」ケースと「ダイアフラムが異常」ケースに対して、原因の特定と故障シナリオの検討のために追加検証等を実施し、以下を確認する。
・「ダイアフラムが正常」ケースで、推進薬充填後のダイアフラムの変性や飛行中の加速度等によりダイアフラムが液ポートに近接する可能性があるか
・「ダイアフラムが異常」ケースで、脱落、シール部からの漏洩、破断が発生する可能性があるか
・要因として絞り込まれたダイアフラムについては、詳細要因の特定結果に基づき、後継ロケット等への対策を反映し、さらに背後要因(間接的原因)の分析を行い、同様の事象が発生しないよう対策を講じる。
・以下はフォローアップブリーフィングの質疑応答です。
・質疑応答
産経新聞・今日の会合で報告されたことは、失敗の原因がひとつに絞り込まれたということか。
佐藤・12月に報告して以降、各種の試験検証を進めてまいりました。その結果として2つ残っていたうちパイロ弁は消すことができた。ダイヤフラムに絞り込まれたが、まだそれが何故起きたかというところはもう少し詳細な特定を進めていくところが残っていますが、2つのものがひとつに絞られたという形で報告をさせていただきました。
産経新聞・どの部分が原因かは絞りこんだが、何故それが起きたかはというところまだこれからか。
佐藤・ダイヤフラムが出口ポートに近づく状態であれば起きるであろうという、その辺も試験で再現ができたという事です。ダイヤフラムが液ポートに近づくことが何で起きたかは、並行して試験等を続けていいますので、次回に向けて究明を続けたいと考えております。
産経新聞・原因究明は何故起きたかが解明されて完了しなるのか。
佐藤・その状態に持っていきたいと思っています。
NHK・H3のパイロ弁をH2Aで実績のあるものに交換したが、パイロ弁に異常が無かったので変える必用は無かったのではないか。H3打ち上げへの影響はあるか。
佐藤・H3のパイロ弁をH2Aの実績品に交換して打ち上げの最終準備を待っている状況です。あの判断をした時点においてはまだパイロ弁が潰しきれていなかったことで、我々の判断としてはH3の打ち上げスケジュールを逃さないため交換という処置をとったというところでございます。今回の結論はH3の打ち上げに一切影響しないと考えています。
NHK・部品を元に戻す考えも無いのか。
佐藤・はい。試験機1号機をどうするかの議論で交換をさせていただきました。2号機以降は今後検討しますという状態でして、今回パイロ弁が潰れたということで2号機以降をどうしていくかはまだこれからになりますが検討をしていきたいと思います。
共同通信・ダイヤフラムが正常だった場合と異常だった場合の2つに分けているが、正常だったが変性を起こしたというのは、これは設置や製品に異常は無いがその他の原因で歪んだ、ダイヤフラムに異常というのは、設置時点で何か壊れていたということになるのか。
佐藤・液ポートにダイヤフラムが近づいていれば起きるだろうというのが我々が考えているシナリオになります。それがダイヤフラムの部分が正常だった場合か異常だった場合かを追い込んでいる状況でございます。正常な場合、過去のタンク試験等の中でダイヤフラムに多少伸びている状況が起きていて、リブがボートの上にあれば詰まらないが、それがずれる原因になっているかもしれない、そういったことがありえるのではないかと考えているのがひとつ。異常の方は漏洩に繋がるような事があって、9L入れていたが2Lくらいにまで液側が減っているとより近づきやすくなるということが考えられますので、そういったところがどうなのかを今後の試験で追い込んでいく。両方をテーブルに並べて追い込みをかけているという状況です。
フリーランス大塚・下流配管圧力の挙動について、ヒドラジンがあったときに完全に真空にならないメカニズムは、液体があると揮発しているから圧力が維持されるというイメージで良いか。
佐藤・ヒドラジンのスラスタというのは推薬弁の下に触媒がございまして、ヒドラジンと触媒の反応が起きることでガスが発生して推力を得るのが元々のものです。今回非常に微量ですけどもヒドラジンが下流配管に入り込んだことで触媒と反応を起こしてガスが少し出るイメージを持っていただければと思いますが、それによって少し圧が保持されたのではないかと考えています。
フリーランス大塚・ダイヤフラムの検証で、ケース1と2のタンクは実機サイズではないのか。
佐藤・サイズは同じですが、ケース1は切り出したダイヤフラムで、これを設置するために縦置きにしたものです。ケース2は実機と同じ配置の横置きにして、実際のダイヤフラムを入れて試験をしたという違いになっています。
フリーランス大塚・ケース2は実際の状態に近いのは判るが、ケース1をあえてやったのはどういう狙いだったのか。
佐藤・リブは連続的に通っている1本と、放射状になっているものがダイヤフラムの液側に突起があるようなイメージで設置されています。この天頂を通っているリブがきっちり真ん中にあって作動が行われていると基本的には閉塞しない形の造りになっています。これを理想的にリブが真ん中にあるものでやってみたのがケース1aでして、少し形が変わったものを想定してずれるとどうなるかと再現実験したのがケース1bと1cで、テストピースでやったところ少しリブが中心からずれると閉塞するケースがあったのが判ったものです。
フリーランス大塚・ケース1はリブの影響を見るためにやったということか。
佐藤・そうです。まずそこを理想的に配置した状態でどうかというのを確認するのがケース1になります。
フリーランス大塚・ケース2bとケース2cがリブ有りで水が3Lと同じ条件なのに、片方は閉塞してもう片方が閉塞しなかったが、他に条件の違いはあったのか。
佐藤・2aと2bが同じダイヤフラム、2cと2dが別のダイヤフラムで、2種類のダイヤフラムで試験をしています。あと4Lと3L、3Lと2Lで水の充填量を少し変えて、これくらいの組み合わせをやってみたという形です。
フリーランス大塚・2bと2cは種類が違うのか。
佐藤・ダイヤフラムの違うものを試してみたということです。
時事通信・ダイヤフラムの開発供試体による追加検証だが、「3.ヒドラジン未浸漬の差圧等を印可したダイアフラムは全て部分的に塑性変形している」とあるが、実機の条件ではそれくらいの圧がかかるようなことがあり得るのか、それとも試験のためにわざと実機ではあまり無いような圧をかけたものか、どちらなのか。
佐藤・実機の製造の中で組み立てた後に気密の試験をします。そういう意味で加圧をする行為というのは製造工程そのものになります。今回QTタンクは圧力が高いところもあるが、それを切って確認したところ、そういう変形が起きているところが確認された。
時事通信・実機のダイヤフラムが塑性変形している可能性は高いということか。
佐藤・そこが今回判りましたということになります。
時事通信・塑性変形している可能性はあると考えて良いか。
佐藤・はい
時事通信・ヒドラジンに触れていると素材的に変形しやすくなる方向のものか。
佐藤・その辺りはヒドラジン浸漬試験で継続しています。ヒドラジンというのは微量ですけどもダイヤフラムを通り抜けることがあります。そういう意味で多少柔らかくなるようなイメージになって、変形はしやすくなるかなということで、試験でいろいろ確認していたいと思っています。
時事通信・リブというのは盛り上がりみたいになっているもので、平面ではなく凸凹になっているので液ポートに近づいたとしてもその部分で閉塞させないためにあると考えて良いか。
佐藤・まさしくその設計でつけていたものです。
宇宙作家クラブ松浦・今回でだいぶ見えてきたという印象を受けたが、事故調査の場合その向こう側がある。そういう意思決定をした人間の側に問題が無かったか。この場合ですと、スラスタの設計の中に何らかの事故を誘発する要因があったはずで、それを設計段階でどうして見抜けなかったか。アメリカの事故調査の場合、組織の問題が指摘される。そこまでやるつもりはあるか。
佐藤・非常に難しい点だが、我々としても原因を最後に追い込んだときに、それが設計で見過ごされていたのは何故かといった点については深掘りをしていくところは考えたいと思います。それによって後継ロケットで2度とこういうことが起きないようにしていくことが大事で、そういった対応は考えていきたいと思っています。
宇宙作家クラブ松浦・大体の場合、複数のミスか複数のトラブルが重なったときに事故が起きる。今回私なりに見ていくと、まずタンクの流用があり、そのタンクが大きかったので入れるヒドラジンが少なかった。もう一つ気になるのは、タンクの中にゴム膜が入っている構造は、地上ではアキュームレータと言う物を使うが、その使用基準では基本的に縦で使えとある。今回配管の都合で横にしたが、これは加速度の大きい固体ロケットであり、ここに至るまでに危ない方に近づいていく要因が素人の目で見て少なくとも3つあった。これは設計の段階で予見できたのかできなかったのか、あるいは予見できなくても防ぐような人間側の体制を組むべきだったというのがあると思うが、現状でどう考えているか。
佐藤・深くその議論ができているかというと、まだその前の段階かと思っています。加速度の高い固体ロケットで使うということで、最後の潰し込みの中で加速度がかかったことによるダイヤフラムのリブがずれることなどを確認していく予定です。今いろいろおっしゃられたような事がそれぞれの要因となっていると思いますので、それを出した上で、どうやってそれが拾えていたかという点についてはいろいろ考察していく必要があるのかなと思っています。
読売新聞・ダイヤフラムが要因ということで、他のロケットに波及する可能性はあるか。
佐藤・H−IIAとH3の基幹ロケットについて、前回までご報告させていただいた通り、同種の問題は発生し得ない形になっていると確認しております。
読売新聞・イプシロンSは現状どういう設計になっていて、今後の変更の可能性はどうなっているか
佐藤・イプシロンSは打ち上げまで多少時間があるので、この原因究明の結果を受けて必用であれば見直しをしていこうと元々考えておりまして、今回いろいろ絞られてきたことをベースに、次回以降にお話しすることになると思いますけども、どういう設計変更をしていくかというところを考えていこうと思っています。
読売新聞・ダイヤフラムの役割を判りやすく説明願います。
佐藤・非常に簡単に言えば、ガス側とヒドラジンを隔離する膜になります。容量が減っていけば動いていかなければなりませんので、それに追従するようにゴム製になっている。単純に言えば隔膜だということです。
共同通信・FTAの「ダイヤフラムが異常」に脱落とか漏洩とか破断があるが、それぞれどういう違いがあるのか。
佐藤・脱落は、挟み込む形でゴム製のダイヤフラムを取り付けますが、ここに何かの引っ張り力がかかって抜けてしまうのが脱落というイメージになります。ダイアフラムシール部からの漏洩ですけども、シールをする設計になっているが何かしら寸法がずれているとか温度の影響といったことでシールの隙間が出来て、その隙間を通って推薬が気体側に流れてしまうといったイメージのものを漏洩と言っています。破断は何か力がかかってダイヤフラムに穴が空いたといったことになりますと、液側から気体側へヒドラジンが移ってしまいます。そのような異常ケースをいろいろな考えを持って試験をして追い込んでいきたいと思っています。
共同通信・漏洩という言葉はダイヤフラムがドロドロになって流れたということではなくて、ダイヤフラムに隙間ができることで中の燃料が漏洩したという理解で良いか。
佐藤・はい。あくまでもタンクの中で液側から気体側へのリークのパスが出来てしまうということを言っていまして、シールが溶けてしまう事ではない。
NHK・ダイヤフラムが他のロケット使われているのか。H3とかイプシロンSで使うのか使わないのかという点と、諸条件をクリアしたから大丈夫というなら、パイロ弁は判らないが弾いたという理屈でいくならダイヤフラムも判っていないけど弾くとか、原因が判っていないのにダイヤフラムが異常となるなら今後使ってはいけないのではないかと思うが。
佐藤・前々回にH3とH−IIAでの評価を示させていただきました。非公開部分で細かい部分もお話させていただいたが、イプシロンで非常に大変なことが出れば別ですが、設計の中でかなりコントロールされた形で対応が出来ているという事で、そちらの方は問題無いとしております。シールの設計とかそこら辺が違う物を使っておりますので、その設計の違いを含めて基本的に問題無いとしております。イプシロンSは基本的に同じ物を使用していこうと進めてきたところですので、こちらについては今回の原因究明を受けてどうしていくかを今後検討していくことになると思います。
NHK・H3では使わないのか。
佐藤・H−IIAとH3は基本同じ評価です。今回のものとは違う設計のタンクを使っているところです。
以上です。
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