宇宙作家クラブ
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No.463 :ルートン会長の表情
投稿日 2001年7月17日(火)06時05分 投稿者 松浦晋也

 南米仏領ギアナからパリに戻ってきました。

 まず訂正です。前報では軌道パラメー タが2種類記述されており,混乱を来したかも知れません。記者会見では暫定値が使われ,その後正式の値が公表されたので,後からそれを記事に書き加えたためでした。

 正確な数値は
・投入軌道はノミナルで傾斜角2度,近地点高度858km,遠地点高度3万5853kmに対して,2.9度,592km,1万7528km。
です。

 笹本さんが,日本のプレスに対する絶望の念を書いているので補足します。

 今回の失敗記者会見は,東京都もテレコンファレンスでつなげて行われました。質疑応答で東京からの質問はNHKからの1件,以下私の書いた記事から引用すると。
――――――
東京のNHKから
(前略)
Q:衛星分離時の正確な高度が知りたいのだが。
A(ルートン会長):それは解析してみなければ分からない。少なくとも1万7490kmより低いことは間違いない。
――――――
 この質問が出た時に,ルートン会長は,はっきりと「嘲り」の表情を見せました。

 実に的をはずした質問だったからです。「少なくとも1万7490kmより低いことは間違いない。」という発言は「つまらないことを聞くんじゃない」というニュアンスで発せられました。

 地球を周回する軌道は6つのパラメーターで決まります。そのうち軌道の性格を示すのは3つ。遠地点高度,近地点高度,軌道傾斜角です。
 つまりそれ以外の数値は軌道を知る上で無意味,どうでもいいことなのです。

 NHKの記者は極めてジャーナリズム的な5W1Hに基づいて「衛星分離時の正確な高度は」という質問をしたわけですが,それは軌道力学から見れば,全く無意味な質問だったわけです。ルートン会長からすれば,「どうしてそんなことを聞くのだ」という気分だったでしょう。

 地上の常識は宇宙においては必ずしも通用しないのです。5W1Hですら,地上の常識でしかない。

 東京の会場にはNHKの他にも各社記者が来ていたでしょうが,質問をしたのはNHKだけでした。その意味ではNHKの記者は熱心であり記事を書く意欲を持っているわけです。ところがその記者にして,発した質問は全く無意味で,質問された側があきれてしまう程度のものだったのです。

 私は質問をしたNHKの記者を知りませんが,もし宇宙分野を担当して1年以内なら,まだ許されるだろうと思います。もしも1年以上担当しているのなら,軌道力学を理解していない質問は,職務怠慢を意味します。憲法を読まずに憲法裁判の記事を書いているようなものです。

 これまで,宇宙開発の報道は,「成功・失敗」「税金が海の藻屑に」というようなニュアンスでしかなされてきませんでした。これは「国民が望む情報はそれだけだから」というわけではなく,報道に携わる者が「その尺度からしか理解できなかったから」だと,私は考えています。

 ありていに言えば記者における理工系度の不足です。理工系センスの不足した記者が,「税金が空のチリに」式の想像力が不足した記事を垂れ流してきたのです。

 宇宙という物理学が支配する世界に挑む事業を報道するためには,最低でも初歩の軌道力学と燃焼工学,構造力学ぐらいは理解しておいて欲しいと思います。本当に痛切に思います。

 たまさかNHKを槍玉にあげてしまいましたが,この8月,種子島に集まるマスコミ各社の記者は,どの程度が「遠地点・近地点・軌道傾斜角」の意味を勉強してくるでしょうか。

 私は全ての記者が理解した上で,種子島に出張してくることを望みます。少なからぬ会社の出張経費で,「国民の代表」として出張する以上は,それ位を理解した上で,記事を書いて欲しいと切実に願います。

松浦

No.462 :ISSにエアロック取り付け
投稿日 2001年7月16日(月)02時51分 投稿者 江藤 巌

 スペースシャトル・アトランティスは7月13日のアメリカ中部夏時間午後10時8分(日本時間12時8分)に国際宇宙ステーション(ISS)とドッキングした。
 続いて飛行4日目にあたる14日には、ISSへのジョイント・エアロック”の取り付けが行われた。アトランティスのカーゴ・ベイに搭載されて打ち上げられたジョイント・エアロックには”クウェスト(the Quest)と言う固有名が付いている。
 エアロック取り付けに先立って、アトランティスの乗員のマイクル・ガーンハードとジェイムズ・ライリーの二人の宇宙飛行士(ミッション・スペシャリスト)が宇宙服を着用して、アトランティスのエアロックから外へ出た。EVA(機外活動)開始は、宇宙服の点検が遅れたため計画よりも1時間遅く始まった。
 ガーンハードとライリーの両MSがまずエアロック”クウェスト”の保護カバーを外し、エアロックの外側に高圧ガス・タンク(HPGT)の取り付け具を取り付けた。
 次ぎにISSの内部からスーザン・ヘルムズとジェイムズ・ヴォスの二人の長期滞在宇宙飛行士がISSのロボットアームを操作して、エアロックをアトランティスのカーゴベイから持ち上げ、ユニティ・ノードの側面に取り付けた。エアロック取り付けの時刻は7月15日の午前3時4分(日本時間同日17時4分)であった。
 計画より遅れて始まったEVAだが、作業が予定よりスムーズに進んだので、二人のMSがアトランティスに戻ったのは計画通りの時間だった。
 これまでISS関連のEVAはすべてドッキングしたシャトルから行われて来たが、エアロック取り付けでこれからはISS単独でもEVAが行えるようになる。
STS-104ステイタス・リポート
Space.com
Space.com
FLORIDA TODAYミッション速報
CNN

No.461 :v142記者会見
投稿日 2001年7月14日(土)04時55分 投稿者 笹本祐一

 ギアナ宇宙センターのジュピターセンターで現地時間で七月一三日の午前一〇時過ぎから行われた記者会見の模様をお伝えします。
 今回の記者会見はワシントン、東京、パリ、シンガポールと同時に行われた。

 アリアン5型ロケット一〇回目の打ち上げ、V142の飛行は、一段目のコアステージ、固体ブースターの燃焼、分離は正常に行われた。しかし、二段目の着火三秒後から異状が発生したとのこと。
 記者会見は、クライアントが満足出来ないような結果を出してしまったことに対する遺憾の表明と、リカバーのために最大限の努力をするという談話からはじまった。
 打上げ失敗から一晩しか立っていないので、まだデータ解析が充分に行われたわけではない。
 事故調査委員会が設立され、月曜日にはメンバーに関する正式なプレス発表が行われる予定である。そして八月初旬には調査報告を完成し、その時期に再び記者会見が行われる。
 次の打ち上げ予定に関しては、八月二四日から二五日にアリアン4型によるインテルサットの打ち上げが予定されている。これは今回異常が起きた5型とは型式から違うので、打ち上げ予定は変更しない。
 これから先のアリアン5型を使う打上げに関しては、まだ未定であり、クライアントと接触して影響を最小限に抑えたい。場合によっては、スケジュール優先のためにアリアン4型への乗り換えも考えるだろう。

 V142の飛行に関して、打上げ前のチェックでは、異状は発見されていない。
 上段ロケットの点火は予定どおりだったが、点火直後、燃焼開始三秒後から異常が発生した。推力が予定よりも二〇パーセントほども低く、最終的に二段目の到達速度は秒速五〇〇メートルほど少なかった。
 結果として二基の衛星は速度不足のまま、予定より八〇秒ほど早く分離された。近地点で五九五キロ、遠地点で一七四九〇キロの、静止軌道に乗るには低い楕円軌道に入っている。
 アルテミス、B-SAT2bとも衛星本体は異常無し。
 アルテミスには二液混合型推進、イオン推進などがあり、リカバーは可能だと考えている。分離二時間後に太陽電池パネルを開き、セーフモードでの運用を開始しており、コントロールを失う心配はない。
 一方、オービタル・サイエンスによるBSAT-2bも、異状はない。予定どおりの静止起動に乗せるのは非常に難しいが、現在各方面、クライアントと話し合いながら対策を練っている。
 記者から現状確認の質問の後、最後の結びの言葉。
「我々は、知っていることは全て話した。知らないことは話さなかった。知らないことを話すと捏造になってしまうので。
 アリアンスペースの調査委員会で二から三週間の調査期間の後、もっとしっかりした記者会見で全てを発表できると思う。我々はヨーロッパが引き続き宇宙開発を続けて行くために最大限の努力をする」
 すると、会場から拍手が起きた。
 笹本が、ああ日本は勝てないと確信したのはこの時である。確かに記者は出席者の二〇パーセントほど、あとは関係者だが、日本では失敗した記者会見でプレス側から拍手が起きることなどない。成功したとしても、報道関係者はそんなことはしない。
 今回のような、衛星軌道には入ったものの静止軌道の投入には失敗という、低軌道と静止軌道の区別も付けられない日本の報道関係者なら、失敗したということのみに興奮して細かい数値と費用の確認を繰り返すだけである。
 もちろん、欧州の記者からも失敗による影響と代替手段、保険関係の質問はあった。だが、アリアンスペース側はそれに数字で答えるような真似はしなかった。まだミッション全体がどの程度の失敗と評価され、保険交渉に入る段階ではないのだから当然だろう。そして、記者もそれを理解している。

 ここに、一〇年程度ではどうしようもない日本と欧州における報道機関の宇宙開発に対する理解の差があると思うのは考え過ぎだろうか。

No.460 :13日午前10時からの記者会見 ●添付画像ファイル
投稿日 2001年7月14日(土)04時50分 投稿者 松浦晋也

 現地時間午前10時から記者会見が開かれた。テレコンファレンスで,東京を含むアリアンスペース各事務所と音声が繋がっている。日本語通訳付きだ。

 ここで分かったことは以下の通り。
・投入軌道はノミナルで傾斜角2度,近地点高度858km,遠地点高度3万5853kmに対して,2.9度,592km,1万7528kmに留まった。
・第2段点火3秒後に異常発生。推力がノミナル値の80%に留まり,燃焼時間は予定よりも80秒短かった。

 最初にルートン・アリアンスペース会長が概要が述べる。起動要素は昨日の速報の通り。第二段(EPS)着火直後から異常があったと初めて公表した。独立機関を含む調査委員会を月曜日までに組織し,8月初めまでに報告書を提出すると同時に記者会見を開く。
 打ち上げスケジュールは,次回のアリアン4によるインテルサット902打ち上げは予定通り8月24〜25日に行う。今回のトラブルはアリアン5上段なのでアリアン4には影響なし。

 次いでエドワード・ペレス打ち上げディレクターから,テレメトリー解析の速報が公表される。
・打ち上げ前のチェックでは異常はなかった。
・ブースター及び第1段は正常に動作した。
・EPSは予定通りに点火した。
・点火3秒後に異常発生。加速度が不十分であった。推力が予定通りに出なかった。推力はノミナル値よりも20%減少。このため上段は必要な加速を提供できず,最終的に500m/secの速度が不足した。EPSの推進系に異常があったことは間違いないが,それがなぜ発生したかは現時点では不明。

アルテミスについて,ミッションディレクターのクラウディオ・マストラッシ氏が報告
・分離から2時間後に,地上からのコマンドで太陽電池アレイを半分展開して太陽を指向させ,バッテリーの使用を中止する「セーフモード」に入れた。
・アルテミスの分離直後のテレメトリーは良好。衛星そのものの状況は正常。
・投入された軌道は予定より傾斜角が大きかった。
・アルテミスは二液式の統合アポジエンジンとイオンスラスターを持っており,かなり柔軟なリカバリーが可能である。
・今夜からリカバリー策の検討に入る。来週末までにリカバリー策を決定する。

トンプソンOSC会長
・衛星は完全に正常。問題は軌道が低すぎることだけ。
・現在リカバリー策を検討中。予定通りの静止軌道投入は困難と思われるが,可能な限りのリカバリー策を検討する。

主な質疑応答
Q:BSAT2bは完全に衛星は失われたと考えているのか。
A(トンプソン会長):いくつかリカバリー策はあるが,完全なリカバリーは困難と考えている。保険はかけてあるが,適用は今後の折衝による。

Q:アルテミスはどうか。
A(マストラッシディレクター):商業利用を考えていたペイロードについては最初の1年間について保険をかけている。リカバリー後の寿命その他については来週末の検討結果を待って欲しい。

Q:今後のアリアンの打ち上げスケジュールはどうなるのか。
A(ルートン会長):アリアン5で契約したカスタマーにアリアン4による打ち上げを提供することも含めて可能な限りのサービスを提供する。具体的にはそれぞれのクライアントとの交渉次第となる。

Q:燃料漏れがあったのではないか。
A(ペレス打ち上げディレクター):現時点では特定できない。しかし燃料漏れがあったと仮定すると起きた現象をうまく説明できる。

Q:上段ロケットのトラブルとして理論的にはどんなことが考えられるか。
A(ペレス打ち上げディレクター)::燃焼室に十分な推進剤が十分に供給されなかったことは間違いない。上段は簡単な形式なので解析は難しくないだろう。

Q:アリアンスペースの財政はどうなるのだろうか。
A(ルートン会長):現時点ではまだはっきりしたことは言えない。

Q:アルテミスが軌道に到達できないことで,測位システム「ガリレオ」への影響はどうなるのか(アルテミスにはガリレオの最初の宇宙要素としてLバンドトランスポンダーを搭載している)。
A(マストラッシディレクター):Lバンドの地上カバー範囲は広いので影響は少ないだろう。

Q:次に打ち上げられる地球観測衛星ENVISATへの影響は(アルテミスは今年秋打ち上げ予定のENVISATのデータを中継することになっていた)。
A(マストラッシディレクター):現時点ではまだはっきりしたことは言えない。しかし例えば,イオンスラスターで軌道高度を上げることになるとかなり時間がかかるので,ENVISATの打ち上げ時期に影響を与えることはあり得る。

Q:ガリレオへの影響はどのようなものか。
A:アルテミスに搭載されたミッション危機は,ガリレオの先行システムである「エグノス」のためのもので,エグノスの稼働は2003年開始を予定している。今回のトラブルは直接ガリレオとは関係していない。

Q:アリアン4は2003年に引退予定だが,引退延期はあり得るか。
A(ルートン会長):緊急避難のためのスペアタイヤは一回限りの使用するものだ。現在の生産予定に入っている以上にアリアン4を発注することは意味がないのではないかと考える。

Q:今後のアリアン5の改良計画への影響は。
A(ルートン会長):改良計画はアリアン4の第3段をEPSの代わりに使用するというもので,影響はない。しかしEPSを使うコンフィギュレーションについても今後信頼性を向上する必要がある。とはいえそのためのコストをここで議論するのは無意味なことだろう。

東京のNHKから
Q:正確な分離前後の状況を知りたい
A(ペレス打ち上げディレクター):分離は打ち上げ後34分後,予定より80秒早かった。これは上段の燃焼は80秒早く燃焼を終了したため。ペリジ高度は590km,アポジ高度は1万7490km。
Q:衛星分離時の正確な高度が知りたいのだが。
A(ルートン会長):それは解析してみなければ分からない。少なくとも1万7490kmより低いことは間違いない。

Q:分離時にタンクは空になっていたのか。推力が足りなければその分長時間の燃焼を行ってリカバーすることができたのではないか。
A(ペレス打ち上げディレクター):エンジン停止は,アビオニクスが停止指令を出したのではなく,「止まってしまった」ものだった。これまでのテレメトリーでは,まだ燃料と酸化剤のどちらが空になったのかはわからない。

Q:アルテミスを作り直すことは可能か。
A(マストラッシディレクター):ペイロードのいくつかは可能かも知れないが,アルテミス全体を作り直すことは困難だ。

最後にルートン会長から
 現時点で理解できる話はすべて話した。今後は調査委員会が数週間の時間の間で結果を出して,今後引き続いて欧州の宇宙開発のために最大限の努力をする(拍手)。

以上です。

写真は記者会見席上のルートン会長(左)とマストラッシディレクター(右):松浦晋也撮影。


No.459 :シャトル・アトランティス今後の予定
投稿日 2001年7月14日(土)00時17分 投稿者 江藤 巌

 スペースシャトル・アトランティスは国際宇宙ステーション(ISS)に向かって軌道を修正しつつ接近中で、飛行3日目にあたるアメリカ中部夏時間の7月13日午後9時50分、日本時間14日午前11時50分前後にISSとドッキングする予定。
ドッキング後の予定は、飛行4日目に第1回の船外活動(EVA)、ジョイント・エアロックをペイロード・ベイから持ち上げて、ISSのユニティ・ノードに取り付ける。この際アトランティスのロボットアーム(カナダーム)とISSのロボットアーム(カナダーム2)とが共同作業を行う。アトランティスの宇宙飛行士のISSへの入室。
飛行5日目にはエアロック内部の点検。
飛行6日目にはエアロック内のハッチの移動、内部の機器の点検。
7日目には第2回のEVA。高圧ガスタンク(HPGT)の取り付け準備。
8日目にはエアロックを用いたEVAの準備。軌道上での共同記者会見。
9日目には3回目で初めてのエアロックからのEVA。HPGT取り付け。
10日目にはアトランティス乗員のISSからの退室。アトランティスとISSのドッキング解除(アメリカ中部標準時7月20日午後11時15分、日本時間21日午後1時15分予定)
11日目は船内の片付けと帰還の準備。
ケネディ宇宙センターへの着陸はアメリカ東部夏時間7月23日午前0時57分、日本時間同日午後1時57分。飛行時間は10日と19時間53分を予定。
NASDA STS-104/ISSフライト7A
ミッション内容
ステータスレポート(和訳)

No.458 :アリアン5シリーズの打上げ実績
投稿日 2001年7月13日(金)22時52分 投稿者 江藤 巌



日/月/年 フライト名 ペイロード

07/06/01 FLIGHT142 Artemis/BSAT-2b(計画軌道投入に失敗)
08/03/01 FLIGHT140 Eurobird/BSAT-2a
19/12/00 FLIGHT138 Astra 2D, GE-8/Aurora III & LDREX
15/11/00 FLIGHT135 PAS 1R (+ Amsat P3D, STRV 1D)
14/09/00 FLIGHT130 Astra 2B; GE-7
21/03/00 FLIGHT128 AsiaStar/Insat 3B
10/12/99 FLIGHT119 XMM
28/10/98 FLIGHT112 ARD & MAQSAT 3
30/10/97 FLIGHT101 TEAMSAT
04/06/96 FLIGHT88 4 CLUSTER(離昇37秒後に爆発)

No.457 :アリアン5
投稿日 2001年7月13日(金)13時27分 投稿者 江藤 巌

 アリアンスペース社が運用しているアリアン5打上げ機は、固体推進剤ロケットのブースター2本と液体水素燃料の第1段、貯蔵可能推進剤の第2段からなる(先の455で第3段と書いたのはこの第2段のこと)。
全体の構成は宇宙開発事業団(NASDA)のH-2Aと同じだが、格段のプロポーションは大幅に異なる。またH−2Aの第2段は第1段と同じ液水燃料だが、アリアン5の第2段の場合は者メチルヒドラジン(MMH)を燃料、四酸化二窒素(N2O4)を酸化剤とするハイパーゴリック推進剤である。
全体の高さは52m、第1段と第2段の直径は5.4mで、離昇質量は710t。
ブースター1本の離昇推力は5250kN。
第1段のヴュルカン・エンジンの推力は海面上で900kN、真空中で11545kN。
異常が起きたと推定される第2段のエンジンは真空中で推力29kN。タンクをヘリウムで加圧してエンジンに推進剤を送り込むプレッシャフィード方式である。通常の燃焼時間は1100秒。

No.456 :美しい打ち上げだったのだが… ●添付画像ファイル
投稿日 2001年7月13日(金)12時56分 投稿者 松浦晋也

 夕暮れの打ち上げ。天気が良かったので,噴射煙が上空で太陽の光を受けて輝くのを期待していた。以前アリアン5の1号機打ち上げを取材した時には射点から13km離れたジュピターセンターで見ていた。それに対して今回は4kmの距離のトゥーカン展望台。期待するなというほうが無理だ。

 トゥーカン展望台には,かなりの人数のVIPとプレスが集合した。カウンターバーがあるなど,日本の観望台とはかなり雰囲気が違う。笹本さんと缶のペリエなどを飲みつつ,デジカメの露出設定や撮影手順復習などを行う。

 あらかじめ用意されたプロジェクタには,管制センターや射点周囲のカメラからの映像が入っている。ワイヤレスイアホンに英語の同時通訳が入るというので聞いてみるが,この時点ではチャンカチャンカと音楽が流れるだけ。

 打ち上げ5分前ぐらいから,それまでおしゃべりでうるさかった周囲が静まり,彼方に見える白いロケットに注目する。湿度の高いねっとりとした空気の中,穏やかな熱帯の夕暮れが暗闇を運んでくる。
 大分暗くなったがまだ空の青みが残っている午後6時58分,第1段のヴァルカンエンジンに火が入り,その7秒後,固体ロケットブースターに点火したアリアン5は上昇を開始した。しばらくしてから音が聞こえてくる。音は思ったほど大きくない。固体燃料特有のオレンジの炎と共に,どんどんロケットは上昇していく。ちぎれ雲を光らせつつ抜けて,さらに上へ。

 こういう晴れた打ち上げで,空気の質感というか宇宙への距離感というか,そういうものがとてもよくわかる。ロケットが空気に溶けていくのがはっきりと分かるのだ。

 また,ロケットならではの非日常的な物体移動も堪能することが出来る。ロケットが上昇するにつれて速度は増加するが同時にロケットとの距離も大きくなる。このため見かけの視野における移動の速度はほぼ一定,つまりどんなに遠くなっても一定の速度で視野を横切るというわけだ。こんな乗り物はロケットしかない。

 上昇途中からロケットの噴射煙に太陽光が当たるようになる。そこだけ固体ロケットブースターの噴射煙が光り,ゆっくりと高層大気に流されていくのは,他に例えるもののない,人工の美だ。

 雲を抜けたロケットから固体ロケットブースターが分離する。ほぼ同時にフェアリングを投棄,4つの輝点が,ロケット本体の液体水素の炎から離れていく。

 やがて第1段の炎は大気に溶けて消える。空はますます暗くなり,星も輝きだす。その中に,なおも太陽光を受けて赤く,あるいは白く輝く噴射煙が形を変え,曲がりくねって流されていく。すこし視線を南に向けると,そこには最大接近の火星が赤く光ってるのが見えた。

 実に美しい打ち上げだった。

 しかし,プロジェクタに投影された管制センターの様子が妙に沈んでいる。「うまくいってるならもっとうれしい顔をすれば」などと,こっちは無責任に話し合う。やがて衛星が第2段から分離される。
「ヴォアラ,テルミネ(さあ,終わったぞ)」と声があがって拍手が起きた。

 そのまま管制センターの記者会見がプロジェクタに映し出される。成功したと信じ切っているので,そういえば,と軽い気持ちでワイヤレスイアホンのスイッチを入れると,アリアンスペースのルートン会長が。「近地点のノミナル値は800km,それに対して今回は600km」と話しているのが聞こえる。やや,どうした。近地点高度の200kmはエネルギー的に大きいぞ,と思っていたら,続いて「遠地点高度ノミナル値3万6000kmに対して,1万7000km」と聞こえてくる。

 これはえらいことだ。失敗だ,と気が付く。原因は何か,とりあえず第1段までは正常だったように見えた。すると2段か。もっと話すかと思われたルートン会長は「全ては明日の午前10時からのコンファレンスにて」といって記者会見をうち切る。

 トゥーカンからの帰りのバスの中でESAの職員と隣あわせになり,話を聞く。彼は2段の早期燃焼終了らしいという。アルテミスは寿命と引き替えに静止軌道に到達できるだろうが,BSAT2bはほとんど無理だろうとも。「リスキーなハードビジネスだよ」と彼は言う。

 もう一つ可能性があるな,と考える。ガス押し式の第2段のガス圧力が下がり,規定の燃焼圧力が得られなかった場合だ。いずれにしても,明日の記者会見である程度判明するだろう。

 バスはそのまま予定のパーティ会場に到着する。どんな失敗でもパーティをキャンセルしないのがこっちのやりかただ。5年前にアリアン5の1号機が目の前で吹っ飛んだ時は,延々と準備してきた科学衛星「クラスター」が一瞬にしてチャラになったクラスター担当者チームが,直後に「クラスター・パーティ」というのを開いていた。パーティは非常時に勝るのだ。

 赤ワインと青カビチーズの誘惑に負けつつ(好きなんです),パーティ会場の隅でパソコンを叩く。

 もうすぐH-IIA1号機が打ち上げだ。我々は「リスキーなハードビジネス」に挑む覚悟はできているだろうか。

 パーティの準備はOK?

写真は,打ち上げ後の空にたなびく固体ロケットブースターの噴射煙。東の空に,このように見える。見かけの上のほうが煙の高度は低い。そこに夕日が当たって赤く光っている。見かけでは下に見える煙は高度が高く,まだ赤くなっていない太陽光を反射して白く見えている。
 笹本さん曰く「A新聞によれば,あれが『打ち上げ後の異常な姿勢変化を示す噴射雲』だな」
 昨年2月のM-V4号機打ち上げ失敗の時にA新聞が風にたなびく噴射煙を「打ち上げ後の異常な飛行の後を示す煙」とやらかしたことを皮肉っているのである。
撮影:松浦晋也


No.455 :アリアン5 衛星の計画軌道投入に失敗
投稿日 2001年7月13日(金)11時45分 投稿者 江藤 巌


 アリアンスペース社は7月12日フランス領ギアナのクールーからアリアン5で、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の技術試験衛星アルテミスと、日本のディジタル放送衛星BSAT-2Bを打ち上げたが、2機の衛星を計画した静止遷移軌道に投入することに失敗した。
アリアン5の飛行は第2段までは順調で、失敗の原因は第3段の異常ではないかと推測されている。
 アルテミスとBSAT-2Bは本来は近地点高度800km、遠地点高度36000kmの長楕円軌道に投入されるはずだった。実際には2機の衛星は近地点が600km、遠地点が17500kmの計画より遥かに低い楕円軌道に乗っている。
Space.com
SpaceDaily
アリアンスペース社ニュース・リリース

No.454 :速報:アリアン5,日本の放送衛星など打ち上げに失敗 ●添付画像ファイル
投稿日 2001年7月13日(金)11時18分 投稿者 松浦晋也

 アリアンスペース社は,現地時間7月12日午後6時58分,アリアン5ロケット10号機(V510)で,欧州宇宙機関(ESA)の通信試験衛星「アルテミス」と日本の放送衛星「BSAT2b」を打ち上げましたが,第二段の燃焼が予定より早く終わってしまったため,予定の軌道に衛星を投入できず,打ち上げは失敗しました(写真は上昇するアリアン5:松浦晋也撮影)。

 予定では2衛星を近地点高度800km,遠地点高度3万6000kmの静止トランスファー軌道に投入するはずでしたが,実際には近地点高度600km,遠地点高度1万7000kmの低い軌道に投入されました。
 アルテミスには数回に渡って着火が可能な二液型の統合アポジエンジンが搭載されており,今後のリカバリー操作により静止軌道に到達可能と思われます。その場合は当初予定されていた10年以上の寿命が2〜3年程度に短くなると予想されます。静止衛星の寿命は,主に軌道位置を一定に保つための推進剤の搭載量で
決まります。この場合位置保持用推進剤を使って正常な軌道に復帰するので,寿命が短くなるわけです。

 一方のBSAT2bは,一回限りの燃焼しかできない固体アポジモーターを装着しており,静止軌道への到達は難しいと思われます。商業衛星の常として保険に入っているので,おそらく代替衛星の発注が近日中に行われるはずです。

 アリアンス5の第2段「EPS」は混合するだけで着火するヒドラジンと四酸化二窒素を推進剤に使用する,極めて保守的かつ信頼性の高い方式を採用していました。早期に燃焼が終わってしまった原因は不明ですが,現地では第2段の搭載電子機器(アビオニクス)が何らかの原因でミスを犯し,早期にエンジン停止コマンドを発行してしまったのではないかという意見がでています。

 第2段はドイツが担当しており,一方搭載アビオニクスは,フランスのマトラ・アストリム社の担当です。搭載ソフトウエアは,フランスのセクスタンス・アビオニークとスウェーデンのサーブが担当しています。

 アリアン5運用は原因がわかるまで中断することになるでしょう。いずれにせよ,信頼性が高いとされ,これまでの打ち上げでは全て完全に動作していた第2段の失敗は,少なからぬ影響を欧州の宇宙活動に与えることになると思います。

 次の記者会見は7月13日午前10時(日本時間13日午後10時)から予定されています。

南米ギアナより 松浦



No.453 :ギアナ宇宙センター
投稿日 2001年7月13日(金)11時16分 投稿者 笹本祐一

 ギアナ宇宙センター

 パリはシャルルドゴール空港から、エールフランスのチャーター便で大西洋を越えて八時間。人口が少な過ぎるもんで独立運動が起きず、未だに仏領のままの南米ギアナにヨーロッパの宇宙港がある。
 北緯五度、地表における自転速度がもっとも早くなる赤道に近い基地は、地理的、物理的には打ち上げにもっとも有利な宇宙基地である。これを上回るには、シーラウンチのように赤道上に宇宙基地そのものを持っていくしかない。
 しかしながら、欧州宇宙機構最大の打ち上げ基地であるギアナ宇宙センターに関する情報は、今までのところほとんど日本にもたらされていない。そもそもヨーロッパにおける宇宙開発そのものが日本では情報の欠落やら過小により謎に包まれているのだが(少なくとも欧州宇宙機構にはこれを謎にしておこうという気はないと思うのだが)とにかくアリアンロケットの打ち上げ以外になにをやっているのかわからないので、取材の機会が来たのを幸いと出かけてみた。
 パリからの時差はプラス五時間、東京からの時差はプラス一二時間、せっかく日本時間が表示できる時計をもって出掛けても多少虚しい思いをすることになるちょうど地球の裏側に、ギアナはある。
 表玄関はカイエンヌ空港。週に一便はマイアミからの定期便が飛んで来るらしいが、あとは本国からの定期便が細々と着陸する、ちいちゃなターミナルビルのとなりには崩れそうな格納庫の前にくたびれたセスナや名も知れぬ輸送機が駐機している、滑走路一本きりの田舎空港である。種子島みたい。
 ギアナ宇宙センターはカイエンヌ空港からおよそ六〇キロ、アリアンスペース差し回しのベンツの観光バスでほぼ一時間。美智は二車線だわ見える風景は灌木に雑木林に草っぱらに設計が三パターンくらいしかないような赤茶けた屋根にクリーム色の家やら、雲が重層的に見えるので空は広いが、あんまり開けたところじゃないわね。
 ギアナ宇宙センターは、その昔は海沿いに直進していた国道の周りに作られた。最近になって国道を大きく迂回させたそうで、おかげで五〇キロほども遠回りさせられるようになって現地では不評らしい。
 昔は国道だったはずの往復二車線の狭いコンクリートの道路を走っていくと、そのうち近代的な建物が平原にみえてくるようになる。ギアナ宇宙センターである。
 入り口には直径一〇メートルくらいの金属パイプで型取りした巨大な地球儀が飾られている。日本列島が沖縄本島みたいになっているから極東方面はいーかげんなもんだが、奥の駐車場にはアリアン5の実物大模型も建立されている。その隣にあるのがジュピターセンターと呼ばれるビルでプレスセンターと飛行管制センター、それから宇宙展示館が入っている。
 ESAこと欧州宇宙機構は、ヨーロッパ各国の寄り合い所帯である。だから、打上げ前記者発表にしてからがフランス人のランチディレクターにイタリア人の衛星担当、アメリカ人の衛星制作会社が混じることになり、ワイヤレスのヘッドホンに流れるのは喋るのが英語ならフランス語の、フランス語なら英語の同時通訳。大変だねこりゃ。
 さらに奥に入っていくと、ロケット組立棟やら発射施設やらが並ぶ平原に出る。海沿いの草地に必要な設備を建設していったようで、並んでいる施設そのものは種子島宇宙センターのものと用途と雰囲気はあまり変わらない。
 最初の打ち上げが一九七九年というアリアン型の発射管制室などは、その昔のH1ロケットか現用のMVロケットのような旧式なコンソールが並んでおり、時代を感じさせる。
 今回打ち上げられるアリアン5型はすでに九回の打ち上げ実績があり、ヨーロッパ向けと日本向けふたつの放送衛星を上げる今回が一〇回目の打ち上げになる。

No.452 :アトランティスSTS-104打上げ!
投稿日 2001年7月12日(木)22時52分 投稿者 江藤 巌

 NASA(米航空宇宙局)はアメリカ東部夏時間の7月12日午前5時4分(日本時間同日午後6時4分)に、フロリダ州のケネディ宇宙センターからスペースシャトル・アトランティス(STS-104/ISSフライト7A)を打ち上げた。
アトランティスは飛行3日目に国際宇宙ステーション(ISS)とドッキングして、エアロックを取り付ける。今回はISSの長期滞在乗員は交替しない。
スペースシャトル「アトランティス号」(STS-104/国際宇宙ステーション組立ミッション(7A))の打上げについて
フライト7A
FLORIDA TODAY打ち上げ速報
FLORIDA TODAYミッション概要
CNN
Space.com
SpaceDaily
SpaceRef ISS-7Aガイド

No.451 :H-2A1号機打上げは8月25日に決定
投稿日 2001年7月5日(木)02時32分 投稿者 江藤 巌

 宇宙開発事業団(NASDA)のH-2Aロケットの第1号機の打上げ予定日が、8月の25日に決まった。
H-2Aロケット試験機1号機は、種子島宇宙センターの大型ロケット発射場から25日の午後1時から6時までの間に打ち上げられる予定である。
打上げの予備期間は8月26日から9月30日までとなっている。
H-IIAロケット試験機1号機の打上げについて
平成13年度夏期ロケット打上げ及び追跡管制計画書H-IIAロケット試験機1号機(H-IIA・F1)
打上げ見学について
H-IIAロケットワークショップの開催結果について

No.450 :オルドリン元宇宙飛行士が宇宙観光振興を訴える
投稿日 2001年6月28日(木)01時39分 投稿者 江藤 巌

アメリカ下院科学委員会が開催した宇宙旅行に関する公聴会において、アポロ11で月に降りたエドウィン”バズ”オルドリン元宇宙飛行士が、スペースシャトルの空いている席を有料で売り出せばNASA(米航空宇宙局)は20億ドルの収入を得ることが出来ると証言した。
シャトル・オービターには〜8人が搭乗することが出来るが、実際には5〜6人の宇宙飛行士しか乗せずに打ち上げられる場合が多い。この空いている席に有料で宇宙観光客を乗せれば、NASAの予算の補いになると言うのがオルドリン元宇宙飛行士の主張である。
 この公聴会には、今年5月に史上最初の宇宙観光客としてロシアのソユースTMに乗って宇宙に出たアメリカの富豪デニス・ティトーも出席して証言した。ティトーによれば、ロシアの宇宙技術者の年収は1200ドル相当くらいで、彼がロシア側に支払った宇宙飛行の代金だけで技術者1万人の1年分の給料に相当するとのことである。
SpaceRef
CNN
SpaceDaily
FLORIDA TODAY

No.449 :米大統領科学顧問やっと決定
投稿日 2001年6月26日(火)23時45分 投稿者 江藤 巌


 ジョージ・W・ブッシュ米大統領の科学顧問(ホワイトハウス科学技術政策室長)に、ジョン・H・マーバーグ三世が任命された。
 科学技術政策室長は大統領に科学技術政策に関して進言し、宇宙政策や軍事科学技術に対しても発言力を有する地位だが、ブッシュ大統領はこの役職を任命するのが歴代の政権中でもっとも遅かった。
 J・H・マーバーグはプリンストン大学を卒業して、スタンフォード大学から応用物理学の博士号を受け、1994年までニューヨーク州立大学で教授、学長を務めた。現在も同大学に籍を置きつつ、教育関連の公職を務めている。
SpaceRef

 NASA(米航空宇宙局)の長官は、ブッシュ大統領就任から5カ月を過ぎた今も任命されておらず、先々代のジョージ・H・W・ブッシュ大統領の任命したダン・ゴールディン長官がまだ居座っている。