宇宙作家クラブ
トップページ 活動報告ニュース掲示板 会員ニュース メンバーリスト 推薦図書

No.621 :DRTSのテレメ乱れる・打ち上げは予定通り ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)15時01分 投稿者 松浦

 写真はプレスセンターで説明を行う渡辺篤太郎・宇宙輸送システム本部服本部長と春山スポークスマン

 DRTSの電源をオンにしたところ、テレメトリーが乱れるという現象が発生しました。
しかし、その後衛星は正常であることが確認されたので、打ち上げは予定通り行われます。

 DRTSは、打ち上げに向けて午後1時21分に衛星整備棟(STA2)から遠隔操作で電源を投入したところ、受信テレメトリーデータが乱れるという現象が発生しました。午後2時過ぎに、筑波宇宙センターからのテレメトリーで電源を再度オンにしたところ、テレメトリーは正常でした。このことから、問題はSTA2の設備側にあると判断され、打ち上げは予定通り行うことになりました。

 打ち上げ時にDRTSは筑波から管制を行います。STA2は地上試験その他、打ち上げ前のテレメトリーコマンドの発行とデータの受信を行いますが、打ち上げ前に筑波に切り替えることになっています。従ってSTA2の設備のトラブルは打ち上げに影響ないと判断されたようです。


No.620 :プレスツアーの写真その2・ミッションマーク ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)08時06分 投稿者 笹本祐一

 プレスツアーのバスに張ってあったUSERSのミッションマーク。

 落ちていくダルマの顔が誰かを思い起こさせる。


No.619 :プレスツアーの写真 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)08時03分 投稿者 笹本祐一

 VABの前から撮影したH-IIA。デジカメだとぶれてしまい、うまくとれたのは地面に置いてセルフタイマーを使ったこのカットだけだった。


No.615 :打ち上げ当日、プレスツアー
投稿日 2002年9月10日(火)07時12分 投稿者 笹本祐一

 竹崎報道センター午前3時集合、午前4時出発というスケジュールで、報道陣向けプレスツアーが行なわれた。
 これは、VABから射点へのロケットの移動、射点に据え付けられたロケットをVABの前から撮影、それからロケットの飛行を管制するRCCロケットコントロールセンターの取材を行なうものである。
 午前4時31分にVABから射点の移動が開始され、第二号移動発射台に載せられたH-IIAロケット3号機は動き出した。
 前回同様、VABの奥側からの移動になったため、一度VABの前に出て来たロケットは信地旋回で方向転換、斜めに発射台正面の前に出て再び方向転換して動いていく。その最高速度は時速約一キロ、二基のドーリーに載せられた移動発射台の上のH-IIA3号機は約20分強で射点への移動を完了した。


No.614 :H-IIA機体移動その5 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)07時10分 投稿者 松浦

 射点に収まったH-IIA3号機。照明が海面に映えています。


No.613 :機体移動その4 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)07時07分 投稿者 松浦

 射点に近づくと、ロケットと発射台を乗せたドリーは速度を落とします。ゆっくりと所定の場所に位置決めをしてから停止します。


No.612 :H-IIA機体移動その3 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)07時05分 投稿者 松浦

 気が付くともう射点に近づいています。射点回りのタワーは避雷針です。


No.611 :H-IIA機体移動その2 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)07時03分 投稿者 松浦

 移動速度は目に見えるほどです。2号機の時に、映画監督の樋口慎嗣さんとビデオを見て検討しましたが、大体6倍速でみると、特撮映画でみる機体の移動と同じぐらいになります。


No.610 :H-IIA機体移動その1 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)07時01分 投稿者 松浦

 ただ今午前6時18分です。H-IIA3号機は、午前4時半から30分をかけて、機体組立棟(VAB)から射点に移動しました。

 連続写真でその模様を掲載します。まずVABから出てきたところ。

 日が昇るにつれて雲が出てきました。現在種子島の天候は曇り、風はやや強くなり5m/s前後です。


No.609 :プレスツアーが出発します ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)04時20分 投稿者 松浦晋也

(写真はプレスセンターのSACの机。9日午後撮影)

 現在午前2時50分、プレスセンターです。プレスツアーは午前3時40分出発予定です。

 911テロや、三菱重工の工場で相次いだ自衛隊機の破損、来年2月にひかえた情報収集衛星の打ち上げなどにより、種子島宇宙センターのセキュリティ体制は今までになく厳しくなっています。

 プレスツアーはテレビ局が4人、その他は2人に制限されました。SACからは笹本祐一、撫荒武吉の両名が参加します。

 また、そのプレスツアーも従来のように、機体組立棟(VAB)の内部に入ったり屋上に上がったりということはできなくなるようです。現在種子島には次に打ち上げる地球観測衛星「ADEOS-II」が来ており、実機の取材が出来ないかと広報に申し込んでみましたが、立ち入り制限のために不可だろうということでした。

 一般の立ち入り制限もきびしくなっています。宿を取っている中種子町の町内放送で、従来立ち入り可能だった地域が今回から入れなくなったと注意していました。おそらくいくつかの「打ち上げ見物の穴場」が使えなくなったのではないでしょうか。

 昨日のプレスブリーフィングで、「前日はなんの作業をしているのですか」としつこく聞いている記者がいましたが、今回のような午後遅くの打ち上げの場合、「前日は基本的に休養日」です。
 昨日午後10時から打ち上げ準備作業が始まりました。そこから本日午後5時20分の打ち上げまで、打ち上げ隊隊員は連続勤務です。だから前日は休んでおくのです。
 ロケット打ち上げの心構えは、「眠れる時に寝ておく。食べられる時に食べておく」です。でないとトラブル発生時に十全な体調で臨むことができませんから。

 ただ今午前3時30分です。構内放送が、VABの扉開放を告げました。

 種子島の夜空は晴れ。オリオン座がよく見えます。風はそよ風、風速2〜3m/sぐらいです。

 打ち上げ準備作業は順調に進んでいます。

松浦


No.608 :Yマイナスゼロ、プレスブリーフィング
投稿日 2002年9月10日(火)04時02分 投稿者 笹本祐一

 9月9日午後3時から、竹崎報道センター四回の記者会見室で発車前日のプレスブリーフィング、記者説明会が行なわれた。

 ところで、あなたは学校の先生に「ここは後で家で読んでおくように」と言われてきっちりそのとおりに教科書やプリントを読みこんだだろうか。
 あるいは自動車免許書き換えのとき。
「今回は皆さん優秀ですので、本日お配りした資料は自宅で読んで下さい」
 そう言われたあなたは、安全運転のしおりだのなんだの、きっちり読みましたか?
 プレスキットがあっても、現場に派遣された記者はそんなもの読まずに記事をでっち上げる(らしい)というのは、現場取材をしている笹本の感触である。もちろんそんないーかげんな態度で竹崎報道センターで肩で風切ってるのはほんの一部の記者だけだろうが、「それはプレスキットに書いてあるだろーが」というおばかな質問を爆裂させるのもこういう記者なので、目立つことおびただしい。

 今回の記者会見においては、最初にロケット打ち上げ及び衛星の説明に関するビデオ上映、続けてプレスキットの内容をプロジェクターに映しながら各責任者が読み上げつつ説明という至れり尽せりな体制が取られた。
 データ中継試験衛星の「成功」のレベルについても、打上げ失敗、衛星の喪失で完全な失敗であるレベルゼロから七年間予定されている定常の運用後に評価されるべきレベル四までの成功の度合が懇切ていねいに解説された。
 こんな記者フレンドリーな説明体制ならば、現場取材に忙しくてプレスキットを読む暇もない記者も今回打ち上げられるロケットや衛星の概要を理解できて、よりもののわかった報道が配信されることであろう。

 おかげで記者ブリーフィングには通常の倍近い時間がかかり、出て来る質問はやっぱりロケットの打上げと衛星の軌道投入と衛星の運用をひとまとめに記事にしたいらしいものが多かったんだけれども。

No.607 :種子島からの報告開始――前日記者会見の様子 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月9日(月)18時07分 投稿者 松浦

写真は、説明を行う春山NASDAスポークスマン

 SACメンバー、また種子島にやってきました。今から打ち上げ現地中継を開始します。

 主な事実関係は、NASDAホームページで情報が公開されていますので、主にプレスセンターでしか分からない現状と雰囲気を中心にお伝えいたします。

 H-IIAやペイロードの諸元や打ち上げスケジュールについてはプレスキットをダウンロードして読んでみてください。
 
 私の解説は「――『説明の文章』――」で示します。

打ち上げ1日前 Y-0プレスブリーフィング、9月9日午後3時から

春山幸男 NASDAスポークスマンから

 現在種子島に詰めている関係者
 NASDA/USEF(USERSの開発主体:フリーフライヤー機構)の隊員が193人
 メーカー隊員 312人
 合計505人

――500人超というのはかなり多いです。ロケットが定常運用に達するとコスト削減のために打ち上げ隊人数は減っていくのですが、500人を超えているということは、まだまだロケットが定常運用に達しておらず、安心して打ち上げられる状態に成っていないことを示しています。なんといってもまだ3機ですから、「これで商業打ち上げも万全」というわけにはいきません――

天気予報
 本日、北西の風6〜7m/s 晴れ 最高気温31℃ 最低気温24℃
 明日の打ち上げ日 北北西の風3〜4m/s、のち北東の風3〜5m/s 曇り時々晴れ 最高気温30℃ 最低気温24℃

――天候に問題はありません。打ち上げ延期になるとしたら機体や射場設備のトラブルが出た場合ということになるでしょう――

 打ち上げは午後5時20分、ウインドウは午後5時50分までの30分。USERSの分離は打ち上げ後14分で小笠原追跡局で確認、DRTS分離は打ち上げ後30分でクリスマス島追跡局で管理。

 昨日のY-1作業はすべて順調に終了。衛星のバッテリー充電、機体に火薬系を動作させるための配線を施すアーミング、機構系/発射台で機体と地上設備をつなぐアンビリカルケーブルを打ち上げ時に分離するためのアンビリカル離脱系の最終準備、電波系統点検、推進系最終クローズアウト(すべての準備を終えて点検扉を閉じる)

 本日はメインの作業が終わっているので、作業は少ない。
 
質疑応答

NHK:本日の作業はどのような作業を行っているのか。
 園田企画主任:2段ガスジェットに充填したヒドラジンの監視。加圧したタンクの圧力確認、フェアリング内部の空調の確認。高圧系の法律に基づいた点検を行う。人数は少なくロケット系は20名程度。飛行安全系の30名はリハーサルをしている。明日の当日は射場安全を確保するための人員も含めて約800人が打ち上げに従事する。
 
――基本的に明日のために主要な打ち上げ隊はお休みをとっているのです。今晩から出勤して明日の打ち上げまでの連続勤務になります――

NHK:ロケットの整備作業はどの段階に来ているのか。準備が順調かどうかはいえるか。
園田:Y-1、Y-0の準備は予定通りだ。

NHK:それは順調といっていいのか
園田:そうである

NHK:この前の低温試験の時のように細かいところでトラブルが起きているのですよね。
園田:この前の試験で出たトラブルは、本番ならば延期になる性質のものだった。事前にトラブルを洗い出せたということである。

鹿児島放送:ドアクローズだが、フェアリングへのアクセスパネルも閉じたのか
園田:DRTSは太陽電池パドルの可動部を窒素ガスでパージ(スリップリング部が酸化しないように窒素ガスを吹き付けいる)している。これは移動直前まで続けるので、このドアはまだ使っている。

毎日新聞:明日もし打ち上がったとすれば、予定通り上がるのはいつ以来か。
春山:1996年8月17日のH-II4号機以来だ。

NHK:トラブル件数は減っているということだが、どの程度減ったのか。具体的に教えて欲しい。
園田:2号機と単純に比較すると半減している。設備系のトラブルは2/3になった。

NHK:具体的に何件?
園田:2号機の約60件が今回は19件。設備系はおよそ80件が57件。期間はSRBを搬入した6月以降。

読売新聞:ウインドウが30分に限定される理由は。
金森DRTSプロジェクトマネージャー:DRTSはアポジエンジンを3回噴射する。その時の姿勢制御をジャイロで行う。そのジャイロのキャリブレーションを行うためには、地球センサーと太陽センサーが同時に使える状態にある必要があり、その時間帯を確保する必要からローンチウインドウが決まる。

金森康郎DRTSプロジェクトマネージャーから打ち上げ準備状況の説明。
 衛星の納入は8月19日
 ロケット系作業支援を8月20日から9月2日
 衛星分離部の装着、フェアリングの取り付け。衛星整備棟から機体組立ビルへの移動。ロケットとフェアリングの結合。ノンフライトアイテム(保護ピンなど)の取り外しと、まだ付けていなかったフライトアイテムの取り付けを実施。
 
 9月3日に衛星の電源を入れて状態をチェック。衛星の状態が正常であることを確認。筑波からのコマンド運用のリハーサル。

 これからの主要作業
 今晩10時に窒素ガスパージラインをはずして目視点検を行い、11時にアクセスドアを閉じる。バッテリー補充電を続ける。
 
 打ち上げ6時間前に衛星パワーオン。
 
 打ち上げ1時間前に、衛星を打ち上げコンフィギュレーションに設定。
 打ち上げ10分前に、外部電源を切り離し内蔵バッテリーに切り替え。
 打ち上げ5分前に、すべての準備完了。

打ち上げ直後の初期シーケンス

 打ち上げ後30分で衛星分離
 姿勢制御用コンピュータが起動して以下の動作を自動的に行う。
 レートダンピング:姿勢を安定させる
 太陽電池パドルを展開
 太陽捕捉モードに移行:太陽電池を太陽に向けて衛星のX軸回りに12分に1回のゆっくりした回転で回す。
 
 最初の可視(サンチャゴ局)
 太陽電池パドルの展開を確認
 太陽捕捉モードに入ったことを確認
 衛星のヘルスチェック
 
 打ち上げ後100分でマドリッド局の可視で衛星のコマンド運用を開始。

 打ち上げ後5日で3回のアポジエンジンを噴射して静止軌道に投入する。2日目に60分の第1アポジエンジン噴射、3日目に55分間の第2アポジエンジン噴射、4日目に3分間の第3アポジエンジン噴射、その後1ヶ月で完全に静止化。来年3月から定常運用を開始。

ミッション達成度の設定
レベル0=失敗:打ち上げ失敗または衛星機能の完全な喪失
レベル1=失敗だが一部のデータを取得:ミッション機器は機能喪失したが衛星は静止軌道に入り中型三軸衛星の実証には成功、あるいは静止化に失敗したが一部の実験が実施できた場合
レベル2=目標達成不十分:衛星間通信の一部が実施できなかった場合
ほぼ成功:性能はフルに出なかったものの、支障無く衛星間通信が実施できた場合
レベル4=成功:要求スペックをすべて満足した実験ができた場合
 
 質疑応答
NHK:静止軌道に乗るのは5日後か1ヶ月後か
金森:正確には1ヶ月後に東経90.75度に静止させる。5日後の静止ドリフト軌道投入では東経131度付近に投入される。

USERSの解説
 金井宏 無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)理事

 再突入モジュールの逆噴射は、アフリカ上空で行うので、その時だけアフリカに欧州宇宙機関が持っているマリンディ局からコマンドを送信する。南鳥島東方200kmに着水。
 また、再突入モジュールには宇宙科学研究所との共同で開発したカメラを搭載し、再突入時の機体外部の状態を撮影する。帰還時の逆噴射は固体ロケットモーターで行う。
 
――
 USERSのリエントリーモジュールは、軌道上で8ヶ月半の間運用されます。その間にUSERSは地球の影に周回毎に出入りする温度的にきつい軌道に入ります。固体ロケットモーターの実績としては、8ヶ月をかけて金星に到達したNASAの「マゼラン」探査機が固体ロケットモーターで金星周回軌道に入ったというものがありますから、必ずしも危険と決めつけることはできません。が、地球低軌道を巡るUSERSの固体ロケットモーターが温度的に厳しい環境におかれますことは間違いないです。
 先日NASAの彗星探査機「コンター」が地球周回軌道離脱のために固体ロケットモーターをふかしたとたんに通信が途絶するという事故が起きていますから。この事故は環境が厳しい軌道に固体ロケットモーターを40日以上放置してから噴射させたことに問題があるのではないかという推測が浮上しています。
 確認したところ、USERSは事前に固体モーターを熱真空試験にかけて宇宙空間での保存状況を確認すると共に、温度管理のためのヒーターを装着しているとのことです。固体モーターはIHIエアロスペース製です。――

質疑応答

産経新聞:再突入回収は今回初めてなのか。
金井:運用、回収まで含めると我が国初である。

朝日新聞:電気炉3つは同じ材料なのか。
超伝導工学研究所村上氏:同じ材質、同じ条件である。

宇宙作家クラブ(笹本):着水から回収までの時間をどの程度と想定しているか。
金井:朝に着水させて10時間以内の回収したいと考えている。GPSのほかにアルゴスという救難に使うシステムをバックアップとして搭載している。

毎日新聞:どこまでがロケットの仕事で、どこからUSERSの仕事か
金井:分離時点でUSERSが主体になる。分離はロケットの責任で行われる。
園田:捕捉する。USERSの分離は小笠原で確認するが、この時のアンテナの仰角が2度と小さいので確認できない可能性もある。この時はロケットのメモリーボックスにデータをためておいて、クリスマス局でダウンロードして確認する。

朝日新聞:軌道上に残るサービスモジュールは分離後どうなるのか。
金井:1年半ほど民生部品の実験をおこなう。その後は、運用を続ける予定はない。

NHK:3号機の意義と明日の打ち上げについて一言。
春山:試験だった1/2号機に続く、本格運用の最初である。
NHK:ビジネス的な展望も含めてどうか。
春山:今年と来年に集中する重要衛星(松浦注:ADEOS-IIと情報収集衛星)の打ち上げを確実に行う。またアリアンのような信頼性の高いロケットに互していくために信頼性を積み上げていく。
NHK:失敗は許されないフライトだ。
春山:そう考えている。
NHK:明日に向けての意気込みは?
春山:明日は天気その他の条件もそろっているので成功に向けて頑張りたい。

以上です。


No.606 :「我が国のロケット開発の進め方ワークショップ」パネルディスカッション
投稿日 2002年7月29日(月)13時11分 投稿者 松浦晋也

 最後に行われたパネルディスカッションの要旨です。

パネルディスカッション参加者
 川崎雅弘(宇宙開発委員会委員長代理・司会) 江名輝彦() 五代富文(宇宙開発委員) 高柳雄一 立川敬二(NTTドコモ) 知野恵子(読売新聞) 中須賀真一(東京大学) 中野不二男(ノンフィクション作家) 畚野信義(株式会社国際電気通信基礎技術研究所・社長)

畚野:宇宙開発の見直しのブームだ。失敗とメドが立たない産業化が原因。過小な金。リソースを見直さなければならない。少ない金であれもこれもがいかん。国民への説明責任をきちんと果たすべき。日本は宇宙をやるかやらないか。金を増やすのか増やさないのか増やせないかの明確化。増やせないならどうするかを考えるべき。
 科学技術立国と広義の安全保障のためにやるしかない。でも金は増えない。現実は直視すべき。リソース重点配分化しかない。なにを重点化するか。まずは輸送系だ。H-IIAの産業化。ただし3年だけ。次はロケット以外。メリハリをつけて緊張感を保て。
##すさまじいメリハリの利いた歯切れのいい発言。

五代:衛星について宇宙開発委員会の考え方。「誰でもがより簡単に宇宙を利用できるようにしよう」研究・開発・利用・開拓の一体化。民生化。中核に先導的基幹プログラムを置く。まず通信放送、測位。なるべく早く要素技術を実証するための中小型衛星シリーズを立ち上げる。高頻度観測の中小型地球観測衛星。先端的な小型衛星シリーズ。中小型衛星を活用することを考えている。

知野:わかりにくくなっているんじゃないか。H-IIは「国産」で説明できた。出来たが安いのでH-IIAということでわかりやすかった。しかしH-IIA大型化は一般からよく見えなくなっている。

高柳:宇宙の見直しといっても一般の人にはわかりにくい。「こういうことがやれる」ということを一般にプレゼンするべき。

立川:日本の国力として技術開発ができるかどうかという判断があると思う。世界でもH-IIAは数少ないロケットである。私は衛星専門家だが衛星はかならずしも大きくならないが複数打ち上げを行うと安くなる。日本の国力からしてすべてを行うのは無理なので、特化すべき。

江名:選択と集中について。かつてN-IからH-Iまでロケットの仕事をしていた。Nは2段のみを国内開発した。N-IIは実用衛星を一刻も早く打ち上げるために国内開発したLE-3を捨てた。N-IIは商業化という点では一番理に合っていた。

中須賀:ロケットはコンスタントに年何基か打ち上げることが大変に重要。ここ数年の事故で衛星技術は欧米に遅れをとってしまった。信頼性を獲得するには同じものを多数回上げる必要がある。あるものをできるかぎり使い込んで信頼性を上げるべきではないか。

中野:ロケットの大きさは衛星と切り離せない。衛星が大きくなるというのはどういうことなのか。衛星は小型化に向かうのではないか。小型の衛星をこまめに打ち上げるべきではないか。そうしないと衛星の賞味期限が切れてしまう。民営化はいつできるのか。もうできてしかるべきではないか。ISSまで考える必要はあるのか。そんなものに引きずられていたらまた総花的なところにいってしまうのではないか。

畚野:日本は打ち上げる機会が少ないからなんでもかんでも衛星に詰め込んできた。NASDAの評価委員をしていたときに海外の委員から「あまりに機能を詰め込んでなにかあるといっぺんにダメになる衛星は欠陥商品だ」と言われた。土木のように「いつまで金をつっこんでいるのか」と言われないようにしなくてはならない。

川崎:民営化についてどう考えるか。

中野:「民営化というのはなになんだ」と思うぐらい要望が出ていたが、そもそもどの段階をもって「民営化」というのか教えて欲しい。

五代:「民営化」には色々な段階があるだろうが、今日のプレゼンで出てきた要望をすべて容れることはできない。

立川:民営化とは自己リスクで事業化できるかということだろう。H-IIAはできると三菱重工業は考えておられるわけですよね(会場から笑い、なぜ?)。もうそういう段階ではないのですか。メーカーの方の意見が聞きたい。

江名:産業化と商業化の2段階だろう。産業化は国家予算で産業になるということ。商業化というのは国際競争力のある価格で市場に出ていってわたりあえるようになるということ。民営化というとそのどちらかがぼやけてしまう。

高柳:民営化とか効率化とかいうと反対は出ない。その場合信頼性はどうなるだろうか。一般にとってはそこが気になる。

畚野:民間は熱心でむしろ官が民間をつかんで離さないんじゃないか。アリアンでもある程度のところでぱっと手を離している。ダメならやり直せばいいわけで、駄目な時のシナリオも考えた上でわたすべきでは。確かに民間に「勝手にやれ」ととても言えない事情はあるのだけれども、今までは(民と官の)腹のさぐり合いが多すぎたんじゃないか。

川崎:ただそう考えると長期の話が(GXがあがる)2006年以降ぶつっと切れてしまう。長期のことを考えるとはっきり見えるのはISSへの補給フライトだけだ。長期スパンについての発言はないか。

五代:次世代の再利用がものになるのはいつかというのははっきりとはわからない。しかし多段式再利用なら今の技術ならできそうだというのが現在のコンセンサスだ。輸送系の中核はエンジンであり、まずロケットエンジンについて検討する必要がある。信頼性向上にも次世代輸送系にも役に立つエンジンが必要になるだろう。

知野:長期のスパンは色々な候補はあるけれども、どこに集中するかがどうしても決断できない。だが、どこかで決断しなければならないのではないだろうか。

立川:国は研究開発をしていくべきだ。エンジンは永遠の課題だろう。衛星利用者側からするとコストダウンを要求したい。それに応えられるような研究課題を見つけて欲しい。それはできないことではない。

中野:今回、徹底して「大きい衛星は作らない」と世界の中で住み分けていいのではないか。大きいところはアリアンやアトラスに任せてしまうかわりに小さいところはどんどん市場を取るというようにしないとダメなのではないか。そこまで徹底しないとまたあっちもこっちもになってしまう。

江名:商業打ち上げのマーケットは2001年実績でいえば年間12機、額にすれば1200億円程度でしかない。そこにアリアン、アトラス、デルタなどがひしめいている。そこにH-IIAを商業ベースで割り込ませるのはかなり難しいのではないか。5年前に1機85億は魅力があったが、欧米の次世代ロケットが出てきた今ではそうでもない。マーケットは変わっているのだから、5年前のシナリオで民営化というのは無理がある。

畚野:日本の宇宙開発は、「なんとかロケット」「なんとか衛星」ぱんぱかぱーんで繋いでいた。だから着実なRアンドDのやり方が身に付いていない。国の基本部分はそのRDにつぎ込んでいくべきではないか。

立川:ロケットと衛星は切り離すべきではないか。ロケットのコストが安くなれば利用者側は勝手に利用法を考える。そうすれば官もさまざまなサービス衛星を打ち上げるようになるだろう。

川崎:それをどこまで官は手伝うべきなのだろうか。

高柳:どの程度までのクラスの衛星を上げる能力を国は持つべきなのだろうか。

 ここで沈黙。誰も応えない。笑い。おそらくは照れ笑い(痛いところをつかれた?)。
 
川崎:行政サービスとして何処まで備えるかという問題だろう。ロケットはそれほど自由に世界で流通している技術ではない。N-IIでは打ち上げに様々な制限がついた。

江名:本当に商業化を目指すなら国として腰を据えて産業育成に取り組まないと無理だろう。国際的に価格競争力を持つまで、民営化はまつべきかもしれない。

中須賀:高柳さんの問いに誰も答えられないというのが大きな問題だ。今必要なのは議論のための場を作ることだ。

立川:まだまだ打ち上げ需要はある。それを掘り起こすには、幅の広い打ち上げレンジをそろえることだが、大きい方は海外に任せてのいいのではないか。民間からすると、国に軌道上での技術実証をしてほしい技術はいっぱいある。だから数をいっぱい打ち上げてほしい。まとめて打ち上げるまで待てと言われても、技術が陳腐化してしまう。小さい技術を実証する衛星をたくさん上げて欲しい。そうなると日本の衛星は1tから500kgがメインになると思うのでH-IIAでも大きすぎるほどではないだろうか。

五代:同じことは科学衛星にも言える。地球観測衛星も、これまでは大艦巨砲主義の典型で、同一地域は何十日に1回しか観測できなかったが、小さい衛星を一杯上げて観測頻度を上げないとサービスと役立たないだろう。

高柳:M-Vは今後どう扱われるのでしょうか。世界最高レベルの固体ロケットだが。

IHI永野:メーカーサイドでやるかやらないかを決めるというより、ユーザーサイドから欲しいという要求が出て考えるべきではと思う。M-Vはほぼ完成しておりGXはまだできていない。M-Vは高いと言う問題があるが、ではもっと開発費を使って低コスト化をするかは、ユーザーともっと考えなくてはいけないだろう。

中須賀:科学衛星には特有の要求があり、打ち上げの核にM-Vを使うのはいいことだろう。今後の低コスト化についてIHIエアロの浅井さんからなにか一言お願いしたい。

IHIエアロスペース浅井(アドバイザー):低コスト化のアイデアは我々も持っている。H-IIAのSRB-Aで低コスト化を行った経験からすると可能だという感触を持っている。ただしロケットは作ればいいというものではない。だから低コスト化を可能にする環境を(国に)整備して欲しいと考える次第だ。

川崎:GXの海外要素は円滑に購入できる見通しはあるのだろうか。

IHI永野(アドバイザー):必要な情報については得られる見通しはある。今後開発の過程で必要なことがわかった情報については、しばらく待たされる可能性はあるが、基本的に出さないということはないだろう。

畚野:GXは民間が自己リスクで行う部分と、国が基本技術として開発すべきものとが組合わさっている。今後の技術開発の良い例になるだろう。日本の自立性の確保ということからいえば、まずシナリオを作るべきである。
 ここで気を付けなくてはいけないのは自律性と自在性は一緒ではない。あれもこれもの理由に自在性と言う言葉が使われだしている。打ち上げ手段のラインナップという議論があるが、我々そんな身分じゃないだろう。この状態ですから(と世界各国の予算比較を見せる)。しかしアメリカの例を見ると非常に悩ましい。でもいつまでも航空宇宙業界が国におんぶにだっこでは済まされない。あまりGXに金を突っ込むとそれが前例になって国の腰が引ける可能性がある。
 開発が直接支援をするのでhなく打ち上げ機会を購入するべきだ。日本の会計制度では難しいのかも知れないが、支援はこの形で行うべきだろう。

中野:外から見ていると、毎度毎度日本の宇宙開発はあれが遅れてこれが遅れてで、もうとっくに賞味期限の切れたものを打ち上げているわけです。技術立国として恥ずかしくないのか。もっとこまめにこまかく打ち上げることはできないものかと痛感する。

中須賀:畚野さんのいうように打ち上げ機会の買い上げで援助すべきだろう。GXについてはミッションがないというのが気になるところで、衛星と込みで例えば東南アジアの国に売ることも考えるべきではないか。
 我々は大学で1kgの衛星を作っている。宇宙での実証や実験は小さい衛星でもできる。そのような実証を行うプレーヤーを増やしたい。一般の人や大学など潜在的なプレーヤーはいる。それに答えるために打ち上げ手段を提供することだ。ミッションそのものがお金にならなくととも、打ち上げ手段があるというだけでプレーヤーのモチベーションは大きく盛り上がる。そのような機会を是非とも提供して欲しい。まずはピギーバックという打ち上げスタイルを確立してほしい。
 
知野:GXの目的はビジネスだというなら、なぜ新しい技術を入れ込んだのだろうか。それともっと大きなフレームで考えるべきでは。今後別のメーカーが、海外からコンポーネントを買い、組み合わせて打ち上げるということも考えられる。

立川:ロケットの民間セクターは2社(MHIとIHI)ではなく1社にまとめるべきではないだろうか。ある程度のラインナップを定常的に打ち上げる体制を作るべき。その上で打ち上げコストの削減をお願いしたい。アメリカでも2社しかないのだし(ボーイングとロッキード・マーチン)。また国が研究開発をアウトソーシングすることも考えられる。それと射場の問題。国を挙げてより条件の良い新しい射場を用意するべきではないだろうか。いつでも打ち上げられる体制を作るべきと思う。

高柳:三機関統合をリスクととるかチャンスととるか色々考えられるだろう。低予算と少ない人員でよくやってきたのだからそれなりに文化ができあがっているのだろう。これを断ち切らずに信頼性向上と低コスト化をすすめればチャンスになるだろう。

五代:NASDAにも打ち上げのベテランがいる。そういう人は民間にいったほうがいいかもしれない。射場についてはキリバスと20年契約をしているが、まだ使っていない。日本の射場はあまりに制約が多いことは事実で認識しておく必要がある。なおGXはダンパーを備えるので、打ち上げ時に衛星にかかる振動や音響が非常に小さい。それを生かした衛星技術を開発すれば日本から新しい技術が出る可能性はあると思う。

江名:GXはIHIが自分の経営責任で判断していくだろう。問題はロケットシステムだ。日本はロケットが1種類しかなかったので色々な会社が相乗りしている。これではきちんとした経営責任がとれない。どこかが経営責任をもって引き受けるべきだ。プライム制をとってきちんと責任をとれるような仕組みにするべきだろう。

川崎:まとめを行う。H-IIAの信頼性向上については反対意見はなかった。民営化については、いつするかでかなり議論があった。なんのために宇宙をやるのかという長期ビジョンを作る仕組みを早くつくらなくてはいけない。ロケットのためのロケットにならない、無意味な大艦巨砲主義に陥らないようにするべきだという意見が強く出た。しかしISSという実際の打ち上げるべきペイロードがあるので、それをどうするかということは考慮すべきだろう。
 国からの援助という点では、打ち上げ機会買い上げというやりかたをすべきという意見がでた。

##全体に言えることだが、川崎氏のまとめは結論ありき(H-IIAは三菱中心で民営化、将来は5mクラスターで大型化)でいただけなかった。これだけディスカッションで「大型化が必要か」という意見がでたのだから、それを汲んだ上で再考すべき。霞が関がこれまで多用してきた「委員会は話を聞いたという言い訳を作るだけの場。実際の政策は課長や課長補佐が起こした文章を局長、次官級が認めるというかたちで官僚主体で行う」という手口はもはや通用しないと考えるべきではないだろうか。

以上です。

 ほとんど時期はずれになってしまいました。申し訳ありませんでした。

No.605 :「我が国のロケット開発の進め方ワークショップ」午前の要旨
投稿日 2002年7月29日(月)13時05分 投稿者 松浦晋也

「ロケット開発の現状と展望」
 2ヶ月以上なにしていたといわれそうですが、「我が国のロケット開発の進め方ワークショップ」午後の部のメモです。

三戸宰 宇宙開発事業団理事
・H-IIA2機で技術実証は完了した。実証内容の説明。
・ファミリー化、新たに加わった固体ロケットブースター4本の204の説明
・位置付け:日本の基幹ロケットである。技術の成熟と意地が重要である。適切な時期に民営化することが望ましい。民営化のメリット:ロケット量産による品質安定とNASDAリソースの転用が可能になる。法制度の整備が必要。
・LE-7Aの液体酸素ターボポンプ(軸振動が大きい、性能的余裕が小さい)の改良について。
・LE-7Aのロングノズル化。今年4月から試験を開始。
・増強型:国際宇宙ステーションへの輸送ミッションへのコスト削減が必要。その一例として第1段が5mでエンジン2基クラスター。
・今後の方針:低コスト化、技術の意地、民間の自主性を重視。
・LNG推進系。推進剤単価が水素の1/20〜1/30。まず上段ロケットエンジンから適用する。
・次世代型ロケットについても1年後をメドに構想を作っていく。


「H-IIA民営化と標準型宇治yびありかたについて――製造企業としての考え方」三菱重工業 山崎勲技師長

・世界のロケットは低コスト化と能力向上にしのぎを削っており、H-IIAでは品揃えが不足している。
・民営化:言うは易しく行うは難し。
1)製品競争力の強化
 技術基盤意地のための民間努力と国の支援が必要
 2機衛星同時打ち上げによるコスト削減
 バックアップ体制が必要である。
 衛星もロケットも大きく成りつつある。ロラールは初期重量7.5tの静止衛星も構想している。ロケットについてもH-IIA204の能力では足りない。H-IIAについては第1段を5m化するのが早道だと考えている。
2)柔軟で効率的な事業運営
 開発や射場、飛行安全、射場インフラ、法整備などは官でお願いしたい。
 製造プライム製の導入
 柔軟な受注活動体制の構築。ロケットシステムの位置づけの明確化
3)実測な技術判断によるサービス向上
 市場は失敗から半年以内の打ち上げ再開を求めている
4)信頼性強化プログラムの継続が必要

 H-IIAの今後の対応
 開発・打ち上げによる実戦的要員の確保が必要。基幹ロケットして必要な技術力の向上が必要。これらを国にお願いしたい。
 打ち上げ要員を育成し続ける必要がある。
 技術的な信頼性向上が必要――信頼性を維持するためには開発の仕事が必要である。たゆまず開発を行うことで信頼性を向上させたい。
 最低限の技術開発を継続したい
 第1段のクラスター化(能力向上とフェールセーフ。150億〜200億、cf H-IIAは1100億) 第1段の5m化、第二段の高性能化、第1段のロバスト製向上。
 米欧ともに基幹ロケット開発には国が力が入れている。
##国に頼りすぎる嫌いはある思うが、技術継続に関する要望はきわめて真っ当。今まで考えてこなかったことが不思議なほど。1社プライム制は三菱としてhぜひとも取りたい開発体制だろうが、それは横並びの終焉を意味する。周囲(役所や他メーカー)が許すかどうか。


宇宙科学研究所 小野田惇次郎教授
・科学衛星の傾向:欧州は数年1機の大型衛星、日本は中小型の衛星を毎年1機弱。アメリカは数年に1機の大型機と一年数機の中小型衛星。
・これからはどうか。今後10年はM-Vクラスの中古型が主流で、H-IIAやアリアン5クラスがいくつか。
・科学衛星打ち上げの特徴:軌道が各衛星特有。打ち上げウインドウがシビア。極限性能を追求するので打ち上げ直前ぎりぎりまで機器にアクセスする必要がある。例えばASTRO-Eではセンサーを60Kまで冷やすまでに、打ち上げ直前まで冷媒をフェアリング内に循環させていた。
 これらの条件を満たすのは当面の間M-Vしかない。


「GXロケットの全体構想」
石川島播磨重工業 永野進 航空宇宙事業本部長
・低コストで信頼性の高いロケットを作り市場に参入。H-IIA以上の大型ロケットとの役割補完。
・H-IIAと能力と技術の両面で干渉しないロケット。低軌道2〜4t。ケロシンとLNG。
・国内外の実績のあるシステムを活用。ロシアのエンジン、アトラスの胴体。民間資金を導入して官民で開発。IT活用による運用支援システムの活用。アメリカで実績のある開発手法の導入。
・国は先端技術の開発を担う。事業リスクは民間が負担する。
・ペイロードアダプターはH-IIAと共通。H-IIAの4mフェアリングが使える。
・国の役割を明確にして産業支援をお願いしたい。打ち上げはNASDA委託。射場整備、実証機の確保は国にお願いしたい。
##H-IIAと干渉しないというだけではなく、ロッキード・マーチンとの同盟を作るという意味があるといえる。ボーイングとは三菱が盟友となっている。

以上午後の部です。

No.604 :「我が国のロケット開発の進め方ワークショップ」午前の要旨
投稿日 2002年5月21日(火)12時30分 投稿者 松浦晋也

 5月20日、東京湾岸の日本科学未来館で宇宙開発委員会主催の「我が国のロケット開発の進め方ワークショップ」が開催されました。H-IIA以降の宇宙輸送系開発の進め方を議論するという趣旨の会合です。
 
 まずプログラムのの概要です。当日のメモを中心に起こしました。私のコメントは##という記号をつけて示しました。

開会挨拶「我が国のロケット開発の進め方」
青山丘 文部科学省副大臣
 宇宙開発には若い人に対する希望を与えるためのフロンティアの獲得と言う意味がある。
 宇宙からの情報収集により国民生活を守る、生活の質を上げることができる。
 新しい産業を興す。
 その意味で宇宙開発は重要。
 三機関統合で一貫した宇宙開発の基盤を整えなければならない。
 しかしより効率的な開発のために事業の重点化が避けて通れない。
 ##「重点化」という発言で語句を強めた。つまり「重点を絞れ」という意見が文部科学省の意志であるということ。これ以上予算は出せないということだろう。
 
「宇宙開発委員会に置ける審議状況」
井口雅一 宇宙開発委員会委員長
 宇宙開発委員会はロードマップの作成が任務だが、H-IIA2号機の成功で、将来についてのロードマップを考える余裕ができた。しかし現在の状況は必ずしも明るくない。本日は宇宙開発委員会がこうしたいんだということをパンフレットにまとめて配布した。
 以下パンフレットの説明。内容は宇宙開発の現状と宇宙開発委員会としてこうしたいといる提案。「どうか」という提案口調で書いてあるのが最大の特徴です。
・日本宇宙開発の予算は米の1/10、欧州の1/3、人員は米の1/20、欧州の1/4。
・H-IIA標準型を可能な限り早期に民営化してはどうか
・H-IIA標準型の技術開発は信頼性向上に傾注してはどうか。
・今後についは1年を賭けて検討してはどうか(第1段にLE-7A2機、直径5m案「H-IIA+」)。
・民間主導のGXロケット(旧J-2)については適切な評価をした上で官として対応することにしてはどうか。
・M-Vについては代替手段がないので当面使い続け、代替手段が確立した時点であらためて判断してはどうか。M-V研究開発は終了し、そのご企業の努力でコスト削減を期待してはどうか。
 様々な要求が現場から出ているがそれらを積み上げると文部科学省の予算のキャパシティを超えてしまう。遠山大臣から直々に言われたが、今日はどこに重点に置くべきかを皆さんに考えて欲しい。
##予算は増えない。どこに集中するかという議論になっていることがわかる。
##「どうか」口調になっているものの、これが宇宙開発委員会の規定方針になっていることを伺わせる。

「欧州の宇宙輸送政策」
J.J.Dordain ESA輸送系局長
 欧州の宇宙開発は欧州の機関と企業に、独立した宇宙へのアクセスを保証しなくてはならない。
 アリアンの開発は商業的ではなく戦略的に始まった。商業の成功は運用開始と通信衛星業界が伸びる時期とが一致したからだ。
 市場の動きを先取りすることを常にしている。増強版の開発は常に先行して行っている。これまでのところは成功している。
 宇宙への独立したアクセス手段を持つことで、欧州の産業活動は独自の発展を遂げることができた。投資の4倍の産業を興すことができた。
 しかし商業打ち上げに依存しすぎる事が新たな脆弱性として問題になっている。官のミッションから見るとあまりに静止軌道に特化しすぎている。欧州の官のミッションはあまりに少ない。
 アリアン5のコスト削減策は、アリアン4の場合よりも急速だった。能力向上型ECBの開発も進んでいる。低軌道に1.5tのロケットVEGAの開発も進んでいる。
 脆弱性は財務面にある。2001年の打ち上げ機は世界で59機、これは1961年の水準である。ロケットの供給過剰が価格の低下を招いている。
 このためESAは欧州の打ち上げセクターの再編成を行うことを予定しており今年6月にESA長官はプロポーザルを提出することになっている。それには3つの重点が含まれる。
 ・商業打ち上げへの依存度の低下。商業打ち上げに左右されない打ち上げ手段の確保。そのための官民の資金の割合の見直し。
 ・国際協力の促進。これは欧州の独立性を損なう可能性があるが、同時に欧州に新しい市場と技術をもたらす可能性がある。再利用型打ち上げ機の開発は巨額の資金が必要であり、国際協力で行うことになるだろう。
 ・新たな打ち上げ手段への準備。2010年から行う。まだ明確なアイデアはだれももっていないない。2010年に向けて再利用の技術を獲得していく必要がある

 結論
 欧州の宇宙輸送系は独立した宇宙へのアクセス手段確保が第一の目標である
 商業打ち上げは重要だが第一のモチベーションではない、
 国際協力は実り多いものなので今後とも進めていく。
 
##商業打ち上げが第一のモチベーションではないと言い切るあたりびっくり。商業打ち上げに参入しようとしてあくせくしている日本とは戦略の時間レンジが違うと思う。しかし同時に商業打ち上げが決してバラ色でないことも理解できる。アリアンスペース社は2000年2001年とそれぞれ100億円規模の赤字を出している。

「国際的な商業市場」
 Lance Gatring ボーイングジャパン副社長
 まずボーイングの事業の概要
  有人宇宙について「ボーイングの伝統」といった成長分野として軍事宇宙分野と衛星放送のような利用分野を上げた。
 今後の見通し。ロケット打ち上げと有人宇宙活動は今後10年ほとんど増えない。そのかわり「グローバル・コネクティビティ」(通信衛星事業など)が現在の6倍になる。このため打ち上げ機の分野では国際協力が重要になる。
##ロケットに関しては市場の伸びが見込めないとして、国際協力で次世代打ち上げ機を開発するというスタンスを取るようだ。

「輸送系への期待」
 JSAT(日本サテライトシステムズ) 森本哲夫会長
 衛星からみると打ち上がった衛星が所定のミッションを果たして初めて成功といえる。
 JSAT事業概要。9機の衛星を保有する。業界第一は、欧州のSESアストラ、2番目が民営化されたインテルサット、3番目が米パンナムサット、JSATは世界5番手。
 過去10年、衛星は大きくなりつつあるが、最近JSATが上げたJSAT2aは初期重量2.5tだった。必ずしも大きくなっているわけでもない。今後10年は、初期重量4tで発生電力4〜8kW程度にとどまるのではないか。ロケットにとって重要なのは価格と信頼性。信頼性は即保険に跳ね返る。
 衛星技術は米欧を◎とすると、日本は軒並み△、中には×に近い△もある。○を与えられるのははSSPA(個体増幅器)とその他機器ぐらい。
 今オペレートされている衛星の技術は10年から15年前のもの。バックボーン回線のバックアップ用途を果たし、また光ファイバ網の届かない地域をカバーするブロードバンド衛星が必要である。衛星についても技術開発が是非必要である。このためには軌道上実証を含む技術開発が必要である。
 ロケットとブロードバンド衛星へのバランスよいリソース配分がビジネスチャンスを生む。
 官民の協力、開発過程で民間リソースを使うことを考えるべきである。民間の衛星に技術開発要素を持つトランスポンダーを乗せるなど。
 ところが日本では1990年の日米合意がある。しかしこれはあまりに厳密に解釈されていないか。このため官民の協力が困難な状況にある。「かけはし」以降、軌道上での実証はゼロになっている。
まとめ:ロケットは大きくなる必要はない。信頼性を上げて欲しい。早めの民営化を望む。リスクの高い開発には官の積極的関与が必要。選択と集中で開発のスピートアップを。
##公式の場ではじめて1990年日米合意への批判を聞いた。しかもスーパー301交渉当時、「日本のロケットも衛星も高すぎるから海外から購入したい」と主張していた衛星事業者の側からこの意見が出てきたということは非常に重要だ。国家の投資にかせがはめられたことによる弊害が衛星義業者にまで及んだということか。また、国内的に「日米合意の規制をはずす」ことにたいするコンセンサスができたということを意味する。ここからが官の正念場(アメリカとの交渉の上、合意を終結させる)なのだが、それをする能力が今の霞が関にあるか?
 今後官民が機動的に協力するためには、このスーパー301に伴う日米合意をはずすことが必要になると考える。

 ここまでが午前中です。長くなるのでまずはここまで。
 
松浦