宇宙作家クラブ
トップページ 活動報告ニュース掲示板 会員ニュース メンバーリスト 推薦図書

No.637 :午後3時20分からの記者会見
投稿日 2002年12月13日(金)16時41分 投稿者 松浦晋也

 ひとつ訂正とお詫びです。前の書き込みでADEOS-IIが打ち上げ時にメイン電源を切ると書きましたが私の勘違いでした。今夜の機体移動時に電源を切るというだけでした。これはADEOSと同じです。お詫びして訂正いたします。


記者会見はやや遅れて、午後3時20分から行われました。

 出席者は
 春山幸男スポークスマン
 黒崎忠明ADEOS-IIプロジェクトマネージャー
 環境省、環境研究所のILAS-2(ADEOS-II搭載センサー)の小林博和プロジェクトリーダー
NASA SeaWinds(搭載センサー)マネージャーのMr.Pniel
CNES(フランス国立宇宙研究センター:センサーのPOLDER-2を提供) 東京代表のMr. Paluch


春山スポークスマンからの現状説明

作業実績12日
H-IIA:電波系統点検 推進系最終クローズアウト
機体アーミング(火薬で動作する火工品に動作用の配線をつなぐ)
機構系/アンビリカル離脱系最終準備(アンビリカルは、ロケットと発射台をつなぐ配線やダクト類。発車直後に脱落する)
射座/貯蔵所系設備準備

ADEOS-II:電源オン確認、バッテリー補充電

 ロケット系は準備をほぼ完了、衛星系も準備をほぼ終えた

13日午後3時現在、作業は行っていない。夜からY0作業を開始する。

作業予定13日(Y0作業)
H-IIA:機体移動
射点設備系最終準備
推進系最終準備

ADEOS-II:パージライン切り離し・後処置
搭載計算機プログラム設定

 明日の天候は晴れ、北北西のち北北東の風3から5m、最低気温10℃、最高気温16℃。天候的には今晩の機体移動も明日の打ち上げも問題なし。

 打ち上げシーケンス:打ち上げ後16分28秒のADEOS-II分離まではリアルタイムで追跡する。その後のピギーバック衛星分離は第2周回で回ってきた時に確認。

質疑応答
質問:ピギーバック衛星の分離確認はいつ頃になるか。
春山:1周100分の軌道なので正午頃に確認できるだろう。NASDAのマイクロラブサットは、第2周回で沖縄局で確認を行う。
質問:打ち上げ成功はどこが成功か。
春山:ADEOS-II分離確認をもって成功と発表する。
質問:WEOSとFedSATはどの時点で確認するか。
春山:それは衛星側が行うことで、まだ決まっていない。
広報から補足:分離は確認可能。衛星の健全性は各衛星側が行う。
質問:アリアン5の失敗についてうかがいたい。NASDAではどんなことを見当したか。商業打ち上げ市場は変化するか。誰に聞くかよく分からないのですが。
技術説明員沖田:アリアンスペースからの説明だと打ち上げ後3分で第1段エンジンに問題が起きたという。現在検討中とのこと。
質問:H-IIAはまだクリティカルフェーズだと理解しているが、商業実績のあるロケットの失敗に思うところがないほうがおかしいのではないか。コメントを準備してるんでしょ。
種子島に詰めているロケット系の説明員の沖田氏:アリアン5の1段エンジンは従来と異なるヴァルカン2エンジンで、実績はなかった。現在究明中のことなので、詳細はわからない段階でコメントはしかねる。

黒崎マネージャーからADEOS-IIの説明。NASDAのホームページに掲載されていることと同じなので説明を省きます。主にADEOSとの違いを説明していきます。軌道的に1番大きな違いは、ADEOSが高解像度センサーを付いているので44日回帰の太陽同期軌道であるのに対してADEOS-IIはより広い地域を一気に観測する、あまり解像度の高くないセンサーを積んでいるので4日太陽同期軌道に打ち上げられるということです。上空通過時刻は午前10時30分です。

 打ち上げ後34日にAMSR(センサーの一つ)の点検を開始、41日目からGLIの点検を開始、ここで最初のが取得画像を得られて初画像が公開される。
 打ち上げ後4ヶ月から9ヶ月でセンサーの校正を行いその後定常運用に入る。

ミッション達成度
0:打ち上げ失敗
1:衛星バス機能が確認される
2:初期チェックアウト終了時に一部のセンサーが機能し、全地球の観測データの取得ができる
3:初期チェックアウト終了時にNASDAのセンサーが機能し、全地球の観測データの取得ができる
4:設計上の衛星寿命である3年間の運用と技術評価を通じてADEOSの広域観測技術の継承、発展ができる。
 地球環境問題にかかわる全地球規模の水・エネルギー循環のメカニズム解明に有益な地球科学データを3年間提供できる
5:達成度4のデータ提供が3年以上できる。

 小林リーダーから環境省のセンサーILAS-2の説明
 地球の縁を通る太陽光を観測することでオゾンの高度別分布を測るセンサーです。計る光の波長が増えて高精度化しました。

 NASAのPinel氏からNASAのセンサーSeaWindsの説明
 レーダーパルスを海上に照射してその海面での散乱を測定して、海面上の風向風速分布を測定するセンサーです。実はADEOS-II本体に近いほど高価で高精度なセンサーです。
 CNESのPaluch氏からCNESの提供したPLODER-2と日仏協力のARGOS-Nextの説明。ごく簡単なものでした。
 
質疑応答:
質問:打ち上げを明日に控えた心境は
春山:ADEOS-IIは地球環境問題に貢献するための衛星であり、また日本、アメリカ、フランスが協力した衛星でもある。是非とも成功させたい。

東京から
質問:共同通信吉村です。シーケンスイベントの表が簡単になってしまって困る。詳細を出してくれ。これは質問ではなく要求です。
春山:プレスキットに入っています。
質問:これが最終数値ではないでしょう。誠実に対応して欲しい・
春山:これがほぼ最終数値です。
広報:できる限りの対応はするが、現在、打ち上げ関係者が休息をとっているのでご了解願いたい。

筑波から質問なし。

以上です。

松浦

No.636 :種子島宇宙センターに到着 ●添付画像ファイル
投稿日 2002年12月13日(金)14時58分 投稿者 松浦晋也

 東京から26時間、自動車とフェリーで種子島宇宙センター、竹崎のプレスセンターに到着しました。今からH-IIA4号機打ち上げ、現地からの中継を開始します。

 これまでのところ打ち上げ準備は順調に進んでいます。

 種子島宇宙センター上空は晴れ。ただし雲は多く、晴れ間と雲と半々ぐらいです。風は弱いですが、波は高く、フェリーは定刻よりも少々遅れました。

 今朝、センターでは三社参りという行事がありました。打ち上げ隊有志が島の3つの神社に打ち上げ成功を祈願するというものです。3神社は恵比寿神社、宝満神社、河内神社です。政教分離などとヤボはいいますまい。現場ではぎりぎりまで努力した後の神頼みは普通です。というより、神頼み自体が「努力のうち」なのです。

 午後2時過ぎからプレスセンターでは、黒崎ADEOS-IIプロジェクト・マネージャーによるミニ・ブリーフィングが行われています。基本的にはWebなどで公開されている情報の詳細説明です。私にはADEOS-IIが打ち上げ時にメイン電源を切っており、ロケットからの分離後に電源を立ち上げるという話が耳新しいものでした。1996年打ち上げのADEOSは打ち上げ時電源オンだったものですから。

 次の大きなイベントは午後3時からの記者会見。続いて午後8時20分からのプレスツアーと続きます。

 写真は:ADEOS-IIを説明する黒崎プロジェクト・マネージャー
 
松浦


No.635 :「こだま」アポジ噴射トラブルは間違ったオリフィスを取り付けたため
投稿日 2002年10月18日(金)00時36分 投稿者 松浦

 宇宙開発事業団(NASDA)は10月16日、データ中継実験衛星「こだま」が静止軌道に到達したことを宇宙開発委員会に報告すると共に、静止軌道到達までに発生したトラブル3件を公表しました。

NASDAリリース「『こだま(DRTS)』の静止化について」

 静止トランスファー軌道から静止軌道への投入時に発生した、統合推進系500Nアポジエンジンの酸化剤枯渇は、燃料側配管に取り付けた流量を制御するためのオリフィス(絞り)を誤って指定よりも口径の小さなものを組み付けたためでした。
 
 オリフィスは、簡単に説明すると穴の空いた板です。大きな穴が空いていると流量が増え、小さいと減ります。これを配管の途中に組み付けて規定の流量になるように調整します。
 燃料の側に規定よりも穴が小さいオリフィスを組み付けた結果、酸化剤の量に対応するだけの燃料が供給されず、結果として酸化剤の一部が燃焼反応に関与せずに噴射されて先に枯渇してしまいました。



##以前の書き込みで私は「統合推進系は完全な成功」としましたが、訂正しなくてはなりません。私の判断ミスでした。
 小さなミスですが、取り付けたオリフィスの径がもしもずっと小さければ静止軌道到達が不可能になるか、あるいは衛星寿命が大幅に短縮する可能性もある、かなりあぶないミスであると思います。

 この件に関しては、元関係者の方から「燃焼圧力が予定より低い以上トラブルの可能性がある。完全な成功とはいえないのではないか」というメールを頂いていました。メールにはオリフィス関係のトラブルである可能性も指摘してありました。この方にも私はあやまらなければいけません。

 「こだま」のトラブル、そしてMUSES-C打ち上げ延期の原因となったOリングの取り付けミス――ともに非常に小さな、現場では「ポカミス」といわれるミスです。しかしこのような小さな、しかし致命的になりかねないミスが続くのは決して看過できません。製造現場の「ものを作る能力」の衰退を示しているかも知れないからです。

 衛星に限らず、さらには製造に限らず保守点検も含めた「現場」には、「現場の知恵」がかならず存在します。これは設計レベルでは表に出てこないものですが、実際に事をなずにあたっては非常に大切なものです。多くは現場でベテランから新人へというオン・ザ・ジョブ・トレーニングで伝えられ、文書化されていることは希です。それらの多くは文書化すると「なんだ、当たり前じゃないか」と思えるようなものですが、実は製造の現場では一番重要な知恵だったりします。

 今回のミスは、この「現場知」とでも言うべきものが、うまく継承されていない可能性があるのではないかという危惧を感じさせます。バブル期、マネーゲームに踊った日本は製造の現場を正当に評価することなく尊重してきませんでした。バブルがはじけると今度はコストカットを至上命題として製造の現場に大ナタを振るいました。その結果がじわじわと出てきているような気がするのです。

 もしそうならこのような小トラブルが今後も頻発し、最後に大トラブルを起こすことになるでしょう。そうしないためには――迂遠であっても――行き過ぎたコストカットを反省し、現場と現場作業者を尊重するところから再度始めなくてはなりません。

 次の打ち上げはどうでしょうか。そしてその次の打ち上げは?

松浦

No.634 :MUSES-C延期の理由
投稿日 2002年9月26日(木)01時40分 投稿者 松浦

 MUSES-C延期の詳報です。

 延期の理由は以下の通りです。
 ・今年4月下旬に推進系を加圧するための高圧ガスタンクから推進剤に向かう配管の調圧弁からの漏洩が見つかる。弁のOリングのひとつが破損していた。原因は設計と異なるサイズの小さなOリングを組み付けていたため。
 ・この時調圧弁を分解したところ、予定した材質と異なる材質のOリングが使われていることが判明した。
 ・万全を期するために、配管全体のOリング材質を確認することになったが、一部分解が困難な部位もあり、その部分の材質を確認する方法を件とすることになった。
 ・6月中旬になって、配管に流したガスをガスクロマトグラフィ分析にかけて、ゴムから揮発した成分を調べ、Oリング材質を確認できるということが実証された。
 ・その後の検査で、残りの配管系に使われたOリング材質は予定通りであることを確認した。この結果打ち上げまでの時間が不足したため、打ち上げを来年5月に延期することにした。

 向かう小惑星に変化はない。「1998SF36」のまま。

 M-Vロケットの準備は順調である。

 打ち上げ予定は
 2003年度:MUSES-C
 2004年度:LUNAR-A、ASTRO-F

 であったものを
 2003年度:MUSES-C、ASTRO-F
 2004年度以降:LUNAR-A

 に変更する。LUNAR-Aを後ろにずらしたのは、2004年初頭に複数の火星探査機が火星に到着するために、通信に使うNASAのディープスペースネットワーク(DSN)の利用が混み合って、LUNAR-A向けの通信時間を確保できない可能性があるため。

 以上です。

No.632 :MVロケットによるMUSES-C打ち上げ延期(速報)
投稿日 2002年9月25日(水)14時42分 投稿者 笹本祐一

 2002年9月25日開催の宇宙開発委員会の席上にて、2002年12月1日にMVロケット5号機での打ち上げが予定されていたMUSES-Cが、2003年5月打ち上げに延期されることが発表になりました。

No.631 :「こだま」、静止ドリフト軌道へ、統合推進系は完全な成功
投稿日 2002年9月20日(金)00時15分 投稿者 松浦

 9月18日、NASDAから宇宙開発委員会へ、データ中継実験衛星「こだま」の初期運用結果の報告が上がりました。

 これを見ると、NHKや読売新聞などで「トラブル」と報じられた第3回アポジエンジン噴射途中の酸化剤枯渇は、トラブルではなく、むしろ予想以上にアポジエンジンを含む統合推進系の出来がよかったせいという可能性が高いです。日本としては初の統合推進系の運用成功です。

 9月13日の第3回アポジ噴射は222秒の予定が酸化剤枯渇で103秒で停止しました。この結果「こだま」は近地点が予定よりも1900km低くなってしまいました。
 テレメトリーデータから判明した、原因となりそうなデータは以下の2点です。

 1)500Nのアポジキック用エンジンの燃焼圧力が計画値よりも3%低かった
 2)500Nエンジンの外乱を補正するための20Nスラスターが、外乱が予想以上に小さかったために、予定の1/4しか増速に寄与しなかった。

 結局「こだま」は9月14日に39分間、20Nスラスターを噴射して予定の静止ドリフト軌道に入りました。テレメトリーから推定した残存推進剤の量によると、予想される衛星寿命(静止衛星の寿命は主に軌道位置を制御するための推進剤の量で決まります。地球が真球でないために、軌道位置が少しずつずれて、その補正のために推進剤が必要なためです)は、7.6年と計画予定値の7年より長いものでした。

 おそらく寿命後期に多少の軌道のふらつきを許容すれば10年近い運用が可能なのではないかと思います。

 このことから、第3回アポジ噴射が早く終わった主因は2)ではないかと思います。

 つまり、「こだま」はあまりに出来がよかったために、マスコミに「トラブル」と報道されてしまったわけです。

 おそらく関係者はひどくくやしい思いをしたのでなないでしょうか。

 ともあれ、「こだま」は打ち上げ直後のクリティカルな操作をすべてクリアしました。打ち上げは完全に成功です。ここからは衛星が寿命を全うするまでの、長い実運用が始まります。

追記:「こだま」の静止軌道到達を伝えるニュースには、「1995年のひまわり5号以来の軌道打ち上げ成功」と伝えているメディアがありました(私が確認したのはJNNニュースバード)。言うまでもなくこれは「静止軌道打ち上げ」が正解です。2月に打ち上げられた「つばさ(MDS-1)」を忘れたのだろうか?

松浦

No.630 :《ふじ》コアモジュール・段ボールモデルの制作
投稿日 2002年9月18日(水)17時51分 投稿者 野尻抱介

 宇宙開発事業団・技術研究本部・先端ミッション研究センターはこのほど、有人宇宙船《ふじ》コアモジュールの実物大段ボールモデルの制作方法をウェブサイトで公開した。
 この段ボールモデルは小学生でも作れる簡単で安価なもの。内部に座席や機器をどのように配置するかを広く一般に検討してもらい、国民が真に求めている宇宙船のコンセプトをまとめるのが狙い。

No.629 :取材の最後に・小泉総理のコメント
投稿日 2002年9月11日(水)13時55分 投稿者 松浦

 ただいまSAC取材班は、種子島の北側に位置する西之表でフェリーの空きを待っています。打ち上げの時、宇宙センター周辺は快晴で、素晴らしい打ち上げを見ることができましたが、同時刻、西之表は雨だったそうです。こちらの人達は「これではロケットはみれないな」と思っていたとのこと。
 本当に運に恵まれた打ち上げだったのだなと実感しました。


 中継は終了するつもりでしたが、ひとつ非常にがっかりしたことがあったので、今回の取材の追記として書き込みます。
 
 以下は、打ち上げ成功に当たって小泉純一郎内閣総理大臣が出したコメントです。

「内閣総理大臣のコメント

 H-IIAロケット3号機の打上げ成功を心からお祝いします。
 
 昨年から本年にかけて連続して3回の打上げが成功したことは、我が国が世界にトップクラスのロケット技術を確立したという意味でも、また、最近よく言われる我が国の技術水準に対する懸念を払拭するという意味でも、大変喜ばしい。

 今回の打上げ成功を契機として、我が国における宇宙の開発利用がますます発展することを期待しています。

 平成14年9月10日
 内閣総理大臣 小泉純一郎」

 こういったVIPの公式コメントは周辺が文面を作成して本人が承認するという手順で作られることが多いのですが、それにしても最後の「我が国における宇宙の開発利用がますます発展することを期待しています」というのはどういうことでしょうか。

 内閣総理大臣は国政の遂行が職務です。そして国費で行われる宇宙開発は国政の一部です。内閣総理大臣は宇宙開発の遂行に責任を負っているのです。その責任者が「期待します」とは…。これは決して総理大臣がすべき発言ではありません。

 なぜ「我が国における宇宙の開発利用がますます発展させます」と書けなかったのか。このことは、小泉総理とその側近が、宇宙開発に対して当事者意識を持っていないことを端的に示しています。「我が国における宇宙の開発利用」と書いていますが、決して「内閣総理大臣である自分が責任を持って遂行すべき、宇宙の開発利用」とは思っていないということなのです。

 昨今の宇宙開発体制の再構築議論の中で、「宇宙開発における国家的な政策方針の不在」ということが、宇宙開発関係者の間で話題になっています。なぜ、宇宙開発を行うのか――先端技術の開発、新たなるビジネス分野の開拓、自前の技術を保有することによる広義のナショナルセキュリティの確保など、様々な理由はありますが、それらを受けた上で「宇宙開発を行う」と決断し、決断に責任を持つのは、選挙によって国民の信託を得た政治家、なかんずく最高権力者である内閣総理大臣の責務です。

 もちろん、宇宙開発は国政の一部に過ぎません。現在の日本は、構造改革を初めとした多岐に渡る問題を抱えており、その中での宇宙開発の存在感は生活絡みの火急の度合いからいっても、予算金額からいっても、さらには予算に絡む利権の大きさからいっても、政治家の興味を引きにくいといっていいでしょう。

 でも、だからといって当事者意識を持たずに傍観されては困るのです。

 別の視点から見ると、日本の宇宙開発は、産業規模も予算も小さかった事から政治的利権の苗床にはならず、それ故技術開発に専心することができたとも言えます。それは確かにメリットでした。自民党の長期政権下で陣笠代議士が付かなかったことで、郵便や道路のようなみじめなことにならなくて済んだからです。より近い例では防衛や原子力において、技術的判断に対して利権絡みの政治判断が優先し、合理的な政策決定を妨げてきたことを想起してもいいでしょう。

 しかしながら、現状は宇宙開発という分野が日本の未来に与える影響の大きさに対して、政治の側からの関心の度合いが過小であるといっていいと思います。今回の打ち上げに対する小泉総理のコメントは、このことを象徴しているといっていいでしょう。

No.628 :19時からの打上げ成功記者会見
投稿日 2002年9月10日(火)20時03分 投稿者 松浦晋也

 美しい打ち上げでした。「ロケットの爆発を見たことがある」というとうらやましがられることがありますが、あれはそんなにいいものじゃないです。華々しいだけなら花火の方がよほどいいです。多くの人たちの労苦の結晶が一瞬にして吹き飛ぶのですから、むしろ非常に重苦しい。

 そんなものを見ないですんでなによりでした。一つ一つのシーケンスが成功するたびにプレスセンターでは「よし」「よっしゃ」という声があちこちで上がりました。そして2衛星の分離の時には、それぞれ拍手すら起きたのです。

 こうでなくてはね。

それでは以下に午後7時からの記者会見の要旨をお送りします。

 出席者は 三戸宰NASDAロケット担当理事 山之内秀一郎理事長 青山丘文部副大臣 井口雅一宇宙開発委員会委員長 青柳珪一新エネルギー・産業技術総合開発機構理事 金井宏無人宇宙実験システム研究開発機構理事

山之内:大変期待されていたし心配もかけたけれども、2衛星を無事分離し、ロケットとしてはほぼ完璧な成功を収めることができた。両衛星とも太陽電池パドルが開き、所定の電圧を発生していることを確認した。
 3回成功するということの重みを実感している。H-IIAにとっては本格的な衛星搭載は初めてだったわけだ。
 今後とも重要な打ち上げを行うことになる。

青山:深く感動した。過去の2回と異なり本格的な運用を開始したということだ。世界最高水準の技術確立に一歩を踏み出したと認識している。今後とも成功を積み重ねれば、日本のロケット技術を世界が認めるだろうし、今後の民間転用のためにもNASDAは今後とも努力を積み重ねて欲しい。今後とも国民及び地元のみなさまのご理解を得たいと思う。

井口:これほどまでの完璧な成功を予想していなかった。神経をすり減らして準備を進めてきた関係者にお祝いを申し上げたい。多くの国会議員やサポーターも来島したし、報道関係者もその役割を超えて成功を祈ってくれたことに感謝する。打ち上げに立ち会うのは今回が3回目だが一番緊張した。この本番に成功したということは世界の打ち上げ市場にデビューしたといっていいと思う。

三戸理事から打ち上げ経過説明
 打ち上げ時間は17時20分、発射方位角は90度(東)
 発車後14分21秒後にUSERSを分離
 発車後29分36秒後にDRTSを分離
 DRTSはチリ大学サンチャゴ局で、太陽電池パドル展開を確認
 
青柳USEF理事からUSERSの報告
 サンチャゴ局で太陽電池パドルの展開を確認した。姿勢制御の確立をはじめとした次の段階に進むことになる。

筑波から古浜理事によるDRTSの現状報告
 電力は2.7kwが発生している。
 愛称「こだま」と命名した。

質疑応答

NHK:理事長に。H-IIAのビジネス参入に弾みがつくと考えているか。
山之内:日本が最先端のロケット技術を持つと言うことがこのロケットの第一の意義である。今後早期に民間に移管することになっており、ビジネスは民間の役割である。我々の役割はロケットをよい物に仕上げることである。

時事通信:理事長に。来年の秋にかけて4機、落とせない衛星が続くが自信はあるか。
山之内:いや自信といわれても。。。一機ずつ成功のために全力をあげていきたいと思う。

毎日中学生新聞:「こだま」と名付けた理由は。
古浜:開発関係者で公募した。衛星の機能を反映したやさしい名前をつけるという条件で30件以上の応募があり、その中から選んだ。
毎日中学生新聞:送ったデータがまた戻ってくるから「こだま」でなのですか。
古浜:そうです。
ほかの名前はどんなものだったのですか
古浜:覚えていないので、、後でお伝えします。

朝日新聞:今回の成功の決め手は。
山之内:毎回ベストを尽くせ、兆候を見逃すなということを繰り返しいってきた。現実には100%はあり得ない。今後ともこれでやっていく。

毎日:デュアルローンチはビジネスにアピールしたと考えるがどうか。
井口:まずビジネスですぐに成功するとは思っていない。まず日本の基幹ロケットとして高い信頼性を実現していけば、ビジネスは後から付いてくると考えている。

読売:これほどうまくいくと思っていなかったという理由は
井口:色々な準備が打ち上げを重ねるたびにスムーズにいくとは思っていたが、時間通りに上がることのすばらしさをこのような言葉で申し上げた。

 ここでVIPは退場。技術説明にうつりました。まずロケット本体とDRTSについて
 
 参加者は 園田企画主任、飯田千里打ち上げ実施責任者代理、春山スポークスマン、河内山治朗ロケット主任 金森康郎衛星主任
 
日経新聞:第1段燃焼時間がノミナルより7秒長いがこれはどういうことか。
河内山:ノミナルな誤差範囲内だろう。

時事通信:今後のスケジュールを守るためにはどうするのか。
河内山:低温試験(F0)で設備にかなりの不具合がでたのが今回の課題で、次回以降ここに注意することになるだろう。

共同通信:DRTSに発射前のトラブルの影響は出ていないのか。
金森:出ていない。姿勢、各部の温度、発生電力などすべて正常で影響は出ていない。

日経新聞:DRTSの今晩中に入るデータの確認したい。
金森:事前の準備通りだ。次のメインイベントは明日の第1回アポジエンジン噴射である。

東京から共同通信:第2段の飛行経路はどんなものだろうか。いろいろと教えてください。
河内山:細かい値を今手元に持っていないので後で答えたい。
共同通信:SRB-Aの燃焼が11秒ぐらい短いのだが、確か前回もこういう傾向がでていなかったか。
河内山:前回のデータで確かにブースターの力積が足りないことが確認されている。今後データを検討することになるだろう。

続いてUSERS宇宙機について

 出席者は青柳USEF理事、村上雅人超伝導工学研究所部長、金井理事、地区多喜真専務理事 西本淳哉経済産業省宇宙産業室室長
 
金井:軌道傾斜角30.4度、高度450.3kmの予定していた通りの軌道に投入された。18時34分にサンチャゴ局でテレメトリーを確認、パドルの展開を確認、その後地球を一周してきたところで沖縄局でテレメトリー受信して、太陽補足モードに入っていることを確認した。
 明日以降3軸制御確立、軌道変換などのメインイベントが待っている。

 朝日新聞:今回NASDAの打ち上げを、ロケットと管制移行の2点で評価してほしい。
金井:ロケットは100点満点以上ではないかと思う。また、これまでのNASDAとの打ち合わせは気配りのきいた対応をしてくれたと思っている。技術のみならずユーザーへの対応としてもすばらしかったと思う。
 管制については、回線的にむずかしいかと思っていたサンチャゴでも受信できた。今後とも作業は続くが、これまでのところはうまくいっていると思う。

時事通信:これまでの日本の宇宙開発は、旧科技庁と文部省が中心だったが、経済産業省としては宇宙の産業利用に今後どう取り組んでいくのか。
西本:これまでも地球観測衛星JERS-1や実験衛星SFUといった色々なプロジェクトをやってきた。通信放送の分野では十分な商業利用が行われているが、リモートセンシングや宇宙環境利用が少しずつ広がっていくのだろうと考えている。一歩でも宇宙環境を実用に近づけるべく頑張っていく。サンプルの回収をぜひ成功させたい。

共同通信:SERVISは打ち上げにロシアのロケットを使うが、SERVIS2で日本のロケットを使うつもりか。
金井:1年以内に決めたい。打ち上げ軌道や金額を勘案して決めることになる。私も日本人なのでできれば日本のロケットを使いたいと考えているが。

朝日新聞:今回の超伝導材料を選んだ理由を聞きたい。
村上:搭載したのはガドリウム・酸素・銅系の材料だ。この材料は液体窒素温度で大きな磁力を発生する。大きな結晶ほど強い磁場が発生するという性質があるが、大きいものほど地上で作ると質が落ちる。宇宙空間なら質の高い大型決勝が得られる可能性があるのでこの材料を選定した。

時事通信:愛称は?
金井:USERSという名前そのものが、顧客を意識した愛称である。当初から別の名前を付けることは考えていなかった。

以上です。

 今回は種子島ゴールデンラズベリー賞は出しません。相変わらずおバカな質問をしている記者はいましたが、いまいち「リレー」ほどのインパクトはかけましたし、ストリーミングがあるので実名であちらこちらで親しまれているようなので、あえてさらに石を投げることもないだろうと判断しました。彼の更正を心から祈るものですが、今回の質問を見ていると無理かなあという気もします。
 頼むよ、日本を代表する大メディアで働いて給料もらっているのだから。

 これにてSAC種子島中継は終了します。

 そして最後にすべての関係者に

「おめでとう!」

No.627 :DRTS分離成功、H-IIAF3の打ち上げは成功
投稿日 2002年9月10日(火)18時00分 投稿者 笹本祐一

 発射後28分42秒後の第二回第二段エンジン燃焼終了後、H-IIAロケット3号機第二段はDRTSを予定の軌道に分離、静止トランスファー軌道への投入に成功しました。
 今回のH-IIA3号機の打ち上げは成功しました。

No.626 :ブースターの分離も見えました ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)17時41分 投稿者 松浦

快晴の打ち上げでした。
SRB−Aの分離もはっきり見えました。

写真は航跡を双眼鏡で追う笹本祐一と撫荒武吉。


No.625 :リフトオフ ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)17時39分 投稿者 松浦

午後5時20分、H−IIAロケットが定刻に打ち上がりました。

今さっきUSERSの分離が成功したというアナウンスがありました。


No.624 :ターミナルカウントダウン開始
投稿日 2002年9月10日(火)16時29分 投稿者 松浦

 ただいま午後4時20分、Xマイナス60分のターミナルカウントダウンが始まりました。

 DRTSのトラブルについてNASDAから詳細説明がありました。
 
 午前11時20分に、衛星整備棟(STA2)からDRTSの電源を投入したところ、コマンドは通るもののテレメトリデータ(衛星各部の電流、電圧、温度など)が乱れる(受信できたりできなかったり、できない場合にはコンソールに受信不可能を示す「X」の羅列が出る)という現象が発生。
 この時は衛星を充電中だったので、充電を終えてから午後1時過ぎに再度STA2から電源を投入。すると今度はコマンドも通らずテレメトリーデータは乱れたままという状態になった。再度電源をオフ。
 STA2地上系の問題と判断して、バックアップとして用意していた(前回の書き込みで切り替え予定と書いたのは誤りです。失礼しました)筑波宇宙センターからのコマンドを増田追跡所経由でDRTSに送信して電源を投入、するとコマンド、テレメトリー共に正常であることが確認できた。
 このためDRTSの管制をすべて増田経由筑波に切り替えて打ち上げ準備作業を継続することにした。打ち上げを優先し、STA2のトラブルシューティングは打ち上げ後に実施することに。

 そろそろカメラの用意を始めます。トラブルが出ない限り、次の書き込みは、打ち上げ後となります。
 
 

No.623 :写真がうまくアップできなかったようなので ●添付画像ファイル
投稿日 2002年9月10日(火)15時27分 投稿者 松浦

 広田方面から見たH-IIA


No.622 :直前のトラブルシューティング
投稿日 2002年9月10日(火)15時22分 投稿者 松浦

 確かに我々も打ち上げに慣れてきていたようです。今回はプレスセンターに缶詰にならずに、あれこれ動き回っていたのですから。

 トラブルが出た時、SAC取材班はプレスセンターを出て、別の方向からH-IIAを見ることの出来る場所を探して広田方面(プレスセンターの反対側・射点の北側)にいました。そこで笹本氏の本を読んではるばる山形から種子島までバイクでやってきたファンに会ったり、あるいは松浦がかつて「ふたたび月へ」シンポジウムのパネルディスカッションでご一緒した宇宙少年団のI君と初めて顔合わせをしたりと、色々面白かったのですが、センターに戻ってみると、前に止まった自動車から出てきたのが渡辺篤太郎氏。

「ロケットの親分がプレスセンターに来たということはトラブルかっ」とセンターに入ると、やはりそうでした。

 しかし順調すぎる打ち上げは衛星が軌道上でトラブルを起こすというジンクスもあります。事前にトラブルが見つかることはむしろ好ましいことなのです。

 打ち上げはGOです。あと2時間。
 
写真は広田方面から見たH-IIA