宇宙作家クラブ
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No.84 :H-2A打ち上げ解約&アトラス3Aデビュー成功
投稿日 2000年5月25日(木)23時29分 投稿者 江藤 巌

 アメリカの衛星メーカーのヒューズ・スペース&コミュニケイションズ社(HSC)は、株式会社ロケットシステム(RSC)に対して、H-2Aロケットの打ち上げ契約を破棄する旨通告して来た。RSCはヒューズと1996年11月に、H-2Aロケットを2000年後半より年間2回ずつ、合計10回打ち上げる確定契約を締結していた。H-2Aの打ち上げコストは約85億円で、契約総額は約850億円に相当すると見られる。ヒューズはRSCとの間にオプション契約も結んでおり、こちらの扱いは不明である。
 RSCは同じく1996年11月に、アメリカの衛星メーカーのスペース・システムズ・ロラール社(SS/L)との間にも、2000年より10回の打ち上げを予約していた。ロラールもまた、RSCに対して予約金の返却を求めたと伝えられる。
 RSC(本社東京都港区浜松町)は、宇宙開発事業団(NASDA)が開発したH-2ロケットのシリーズの商業運用のために1990年に設立された会社で、三菱重工業、石川島播磨重工業、川崎重工業、日産自動車、日本電気などの宇宙関連企業や、三菱商事などの商社、銀行など計73社が出資している。資本金は4億8400万円である。 RSCが現在まで獲得した打ち上げ契約はヒューズとロラールだけで、両社が契約を破棄すると、H-2Aは初打ち上げを前に確定受注を失うことになる。
 打ち上げ契約の破棄は、H-2の相次ぐ打ち上げ失敗で、その発展型であるH-2Aに対する信頼が揺らいだことと、H-2Aの商業デビューが2002年以降に遅れるのが確実になったことが原因である。
 私見ではあるが、もともとヒューズとロラールの打ち上げ予約は、他の商業打ち上げ機にトラブルが起きた場合の衛星打ち上げの手段を確保しておくという「保険」の意味が強かった。両社の契約取り消しは、他の打ち上げ機の開発状況や今後の衛星の需要も見越して、H-2Aをキープしておく必要もなくなったと判断したものだろう。

 ロッキード・マーティン社のアトラス3A打ち上げ機は、5月25日午後7時10分にフロリダ州ケイプ・カナヴェラルから打ち上げられて、ヨーロッパの静止通信衛星を軌道に乗せるのに成功した。アトラス3Aは、アメリカの打ち上げ機としては初めて、ロシア製のロケット・エンジンであるRD-180を第1段に採用している。

No.82 :フルノフ宇宙飛行士病死
投稿日 2000年5月23日(火)18時01分 投稿者 江藤 巌

 ロシア(旧ソ連)のイェフゲニー・ヴァシリェヴィッチ・フルノフ宇宙飛行士が、5月20日に心不全で死去した。66歳。
 フルノフは、1960年に選ばれたソ連の第1期宇宙飛行士20人の一人で、同期にはYu・A・ガガーリンらがいる。フルノフは、1965年のヴォスホート2A・A・レオーノフのバックアップを務めたものの、フルノフ自身が飛行したのは1969年1月のソユース5が初めてだった。ソユース5は、前日に打ち上げられたソユース4とドッキングし、フルノフともう一人の宇宙飛行士が、船外活動(EVA)でソユース4に乗り移った(史上初めての軌道上での乗員移乗)。彼はヴォスホート2のミッション当時からEVAの訓練を受け、宇宙飛行士の中でのEVAの専門家と見做されていた。
 フルノフの宇宙飛行はけっきょくこれ一度きりで、1980年にはソユース38(キューバとの共同飛行)のバックアップ船長を務めたものの、実際に飛行することは無く、この年に宇宙飛行士を引退している。
 健康には折り紙つきのはずの宇宙飛行士だが、最初の頃に選ばれた飛行士達は60〜70歳台にもなり、病死するものもそろそろ出始めた。

 5月22日、スペースシャトル・アトランティスから、乗員がドッキングしたISSに乗り移り、内部の点検整備と修理を開始した。

No.81 :STS-101続報
投稿日 2000年5月23日(火)01時49分 投稿者 江藤 巌

 アトランティスは5月21日(現地時間)に、軌道上の国際宇宙ステーション(ISS)のモジュール、ザリャー(ロシア製)とユニティ(アメリカ製)にドッキングした。STS-101の目的はザリャー/ユニティの点検整備と修理なので、今回付け加えるモジュールはない。ISSには昨年の5月以来シャトルが訪れておらず、一部の部品はすでに劣化したり故障したりしている。
 21日の夜には、ジェイムズ・ヴォスとジェフリー・ウィリアムズの二人のミッション・スペシャリストが、6時間半にわたって船外活動(Extra-Vehicular Activity)を行った。二人はISSに誤って取り付けられている建設用クレーンを直し、ロシア製のブーム・クレーンを取り付け、故障したアンテナを取り替えた。
 アメリカ時間22日には、乗員がザリャー/ユニティに移乗して、内部を点検することになっている。
 今年の7月には、ロシア製のサービス・モジュール”ズヴェズダー”(Zvezda)がカザフスタンから打ち上げられて、ISSにドッキングする予定である。

No.80 :アトランティス打ち上げ
投稿日 2000年5月19日(金)23時49分 投稿者 江藤 巌

 スペースシャトル・アトランティスは、5月19日の午前5時11分(東部夏時間)に、ケネディ宇宙センターの39A発射台から飛び立った。STS-101の目的は、軌道上にある国際宇宙ステーション(ISS)のモジュール(ザリャーとユニティ)とドッキングして、その整備点検と修理を行うことで、まずは故障したバッテリーの交換が第一の作業となる。またモジュールは現在高度約340kmの軌道上にあるが、大気の抵抗で高度が1週間に約2.5kmずつ低下しており、これを元の軌道まで押し上げることもアトランティスの使命である。現在は太陽活動が一番盛んな時期にあたり、太陽からの荷電粒子が大気の上層を叩いて膨張させているために、衛星に対する大気の抵抗はふだんよりもいっそう大きくなっている。
 アトランティスとISSとのドッキングは、5月20日の午後11時31分(CDT)、またアンドッキングは26日午後4時32分に予定されている。STS-101の飛行時間は9日と20時間7分で、帰還は5月29日の午前1時18分の予定である。

No.77 :シャトル本日打ち上げ&アトラス3A打ち上げ延期
投稿日 2000年5月19日(金)15時42分 投稿者 江藤 巌

 NASAは5月19日の東部夏時間(EDT)0612、グリニッジ平均時(GMT)1012に、ケネディ宇宙センターからスペースシャトル・アトランティスを打ち上げる。STS-101の概要NASAのカウントダウンSPACE ONLINEの打ち上げ速報。19日に打ち上げられた場合、着陸は5月29日になる。
 これに先立ち、インターナショナル・ローンチ・サービセズ社(ILS)は、ケイプ・カナヴェラルからアトラス3Aの打ち上げを試みたが、天候や技術的問題で打ち上げは3日にわたって延期され、けっきょくシャトルの打ち上げの後に回されることになった。
 アトラス3Aは、1950年代末から衛星打ち上げに使われているアトラスの最新型で、これまでのロケットダイン社製MA-5ロケット・エンジンに代えて、第1段にロシア製のRD-180ロケット・エンジンを搭載している。
 RD-180は、ロシア版スペースシャトルのブラーンを打ち上げたエネルギアのブースター段や、ゼニート打ち上げ機の第1段に用いられたRD-170を基に開発されたロケット・エンジンで、RD-170が四つの燃焼室とノズルを持つのに対して、RD-180は二つの燃焼室とノズルを有している。二つの燃焼室は推進剤ターボポンプを共有しており、ロシアではRD-170やRD-180を、複数のノズルを持つ単一のロケット・エンジンと呼んでいる。RD-180は、ケロシン(灯油)を燃料、液体酸素を酸化剤として、3,826,340N(390,178kgf)の推力(海面上)を発生する。比推力(Isp)は337.8秒(真空中)で、ケロシン燃料のロケットとしては世界最高水準の性能を誇っている。RD-170の推力はその2倍で、サターン5F1ロケット・エンジンを凌ぎ、これまで飛んだ中で最大推力のロケット・エンジンである。

No.76 :宇宙グッズをゲットしよう!
投稿日 2000年5月11日(木)18時24分 投稿者 三島和彦

 ここでは、はじめまして。三島和彦です。僕は、宇宙に関するオモシロネタを投稿していくことにします。

 宇宙を身近に感じたい方、株式会社ビー・シー・シー・のNASDA Goods & Space Goodsをゲットするなんてのはどうでしょう? 通信販売もあるので、全国どこからでも取り寄せられますよ。
 僕が面白いと思うのはSpaceFoods です。
 4月22日に宇宙研が開催した第19回 宇宙科学講演と映画の会でも販売されていましたが、買いそびれてしまいました(会が終わってから行ったら、もう販売は終了していたんですよね)。
 いったい、どんな味なんでしょう。今度は絶対にゲットしなくちゃ(僕は、会場で購入したい派です)。

 宇宙研や宇宙開発事業団が行うイベントの多くは入場料無料。会場では、グッズだけでなく、宇宙に関する本やビデオが販売されていることがあります。本やビデオは割り引き価格で購入できて、おトクですよ。

 宇宙関連イベント情報も、この掲示板に投稿されるはずなので、要チェック。
 宇宙に関する正しい知識と、楽しいグッズをお友達に自慢しましょう(どんなお友達?)。

No.71 :おすすめ文献
投稿日 2000年5月11日(木)14時04分 投稿者 野尻抱介

日本の宇宙開発への提言
 日本惑星協会のメールマガジン「TSP/Jニュース」に毎号、宇宙研の的川泰宣教授による「YMコラム」という記事が掲載されています。
 上のリンクはそのひとつ。普段の数倍の長さになる力の入ったもので、宇宙開発の意義を考える上で必読の文献です。

宇宙世代フォーラム・シスター会議報告
 宇宙教育というサイトにあるPDFファイルです。教育という観点から日本の宇宙開発を把握するのに好適の文献です。

No.70 :タイタンに関して訂正
投稿日 2000年5月10日(水)23時27分 投稿者 江藤 巌

宇宙作家クラブ 江藤 巌 様

 昨日の「No.69 :タイタン4で早期警戒衛星打ち上げ」の記事に関して、アストロアーツ ウェブニュースの制作を担当されている田子周作氏から、下記のようなご指摘がありました。


> 「タイタンの打ち上げは最近3回続けて失敗しており」
>とありますが、正確には
> 「ケープからのタイタンの打ち上げは最近3回続けて失敗しており」
>です。その間にカリフォルニアのバンデンバーグ空軍基地からは2基のタイタン
>2型ロケットと1基のタイタン4B型ロケットの打ち上げが成功している(最も最近
>のものは1999年12月12日のタイタン4B)そうです。

 ご指摘の通りです。田子周作さん、ご訂正ありがとうございました。

 この掲示板は宇宙作家クラブ会員の書き込み専用の仕様になっていますが、会員以外の方のご意見、ご訂正はいつでも歓迎いたします。

 さて、アメリカ時間の5月10日の夜には、ケイプ・カナヴェラルからデルタ2でナヴスターGPS衛星の打ち上げが予定されている。ホワイトハウスのGPSの精度向上政策公表後初の衛星打ち上げになるが、GPSの精度低下(SA)は地上の管制側からの操作なので、衛星自体はそれ以前に打ち上げられたものと変わりないはずだ。

No.69 :タイタン4で早期警戒衛星打ち上げ
投稿日 2000年5月10日(水)02時48分 投稿者 江藤 巌

 ケイプ・カナヴェラルから5月8日にタイタン4が打ち上げられて、アメリカ国防省のDSP(Defense Support Program)衛星を軌道に乗せるのに成功した。タイタンの打ち上げは最近3回続けて失敗しており(1999年4月30日同年同月9日1998年8月12日)、こんども不成功に終わったらタイタンそのものの命運が尽きかねないところだった。SPACE ONLINEの打ち上げ速報
 国防支援計画(DSP)とは意味不明確な名称だが(意図的に曖昧にしている)、テポドン発射などでも話題になった早期警戒衛星である。DSPは赤道上空の静止軌道から地球上を常時監視していて、ミサイル発射の際の赤外線を捉えて、アメリカ本土のNORADに通報する。

No.68 :迷惑な愛の告白
投稿日 2000年5月6日(土)14時40分 投稿者 ROCKY 江藤

 世界各地で猛威を奮っているコンピューター・ウィルス”ILOVEYOU”別名”LOVE bug”が、NASAのコンピューターにも侵入して、一時機能停止を招いたそうだ。SPACE COMのニュース。同じウィルスは、ペンタゴンや航空宇宙産業にまで被害を及ぼしている。

No.67 :天気予報からひまわりの画像が消える日
投稿日 2000年5月5日(金)14時42分 投稿者 松浦晋也

 ちょっとショッキングな煽るようなタイトルを付けました。大変重要なことだと思うので。

 今回打ち上げられたGOES-Lは軌道上予備機です。現行のGOES-EastとGOES-Westが故障を起こした時に観測を継続するための投資です。では日本の「ひまわり」ではどうなっているのでしょうか?
 今や天気予報で毎日観ない人はいないであろう気象衛星「ひまわり」による雲の画像。生活に欠くことができない重要な衛星です。雲の流れから風向・風速を割り出して数値シミュレーションを行うことで、天気予報の精度向上に貢献しています。

 実は、予備機なしで日本の「ひまわり」は運営されています。現在軌道上には、設計寿命をすぎた「ひまわり5号」1機だけしかありません。

 昨年11月に次世代気象衛星「MTSAT」打ち上げが失敗、今年3月に気象庁は同じ米Loralに代替衛星「MTSAT-2」を発注しました。しかし依然として軌道上予備機はおろか、地上予備すらも確保しようとはしていません。

 衛星は一度故障した軌道上での修理はできません。
 民間企業の進出が進んだ通信衛星分野では、非常事態時にはカスタマーを別の企業の衛星に移す(事実、過去に宇宙通信のSuperBirdが軌道上で機能喪失した時、日本衛星通信[現日本サテライトシステムズ]のJCSATにカスタマーを移して、サービス停止を防いだことがあります)ということが行われています。また、衛星通信会社はそれぞれ軌道上予備を確保して、衛星の故障に備えています。

 が、これだけ国民生活に密着した気象衛星なのに「ひまわり」にも、ひまわり後継のMTSATにも予備がありませんでした。故障したらアウトなのです。

 理由は簡単です。気象衛星を管轄する気象庁が運輸省の下の、霞ヶ関では一段格下の官庁で、気象衛星は既存の「気象庁ワク」の予算でまかなうには多すぎる予算を消費するためです。
 初期には気象庁内部でも「気象衛星など上げるぐらいなら、その金で地上観測系を充実させるべき」という意見も強く、気象衛星は気象庁の中でも継子扱いされていた時期もありました。気象衛星の有効性が認識された後も、運用が継続できているためか、運輸省は気象庁に対して予備衛星の予算を認めようとはしませんでした。今もそうです。

 が、実際のひまわりシリーズの運用継続は、綱渡りの連続でした。当然です。米からの技術導入で出発して、少しずつ国産化率を上げて技術開発を行いつつ、なおかつ実用運用まで行っていたのですから。

 特に「ひまわり3号」までは、様々なトラブルが発生して、あわや運用停止の危機もありました。その努力の結果、現行の「ひまわり5号」はノートラブルで運用が続いており、MTSAT打ち上げ失敗後も気象データを送り続けています。これは担当メーカーである日本電気と宇宙開発事業団(NASDA)の功績です。

 それを当たり前のこととして、予備機なしのMTSATは計画、発注され、打ち上げに失敗しました。打ち上げ失敗時に気象観測途絶を憂う意見がメディアに出ましたが、基本的には気象衛星に応分の予算を付けなかった運輸省の責任です。

 実は私自身はMTSATが無事に上がってもそう簡単にノートラブルで観測を引き継げるとは思っていませんでした。MTSAT-2についても予備機なしはあぶないという意見を持っています。

――――――――――――
 私がそう考える理由を説明する前に、以下、アメリカが経験したトラブルを記述しましょう。

 アメリカはハリケーンとタイフーンの進路予測を行うために大西洋上と太平洋上にそれぞれGOESを打ち上げて気象観測を行っています。過去のGOESの打ち上げ実績を以下に書き出してみましょう。なお、GOESは、開発時には
アルファベットで呼ばれ、打ち上げに成功すると数字に改称されます。そして今現在稼働している衛星については、大西洋上の衛星をGOES-East、大西洋上の衛星についてGOES-Westと呼びます。


 GOESは以下の順番に打ち上げられてきました。
GOES 1――1975年10月打ち上げ
GOES 2――1977年6月打ち上げ
GOES 3――1978年6月打ち上げ
 ここまでがアメリカ第一世代の気象衛星です。フォード(現Space Systems/Loral)製でスピン安定型を採用、スピンを利用して地球全体を25分程度でスキャンするという気象衛星の原型を確立した衛星です。

GOES 4――1980年9月打ち上げ
GOES 5――1981年5月打ち上げ
GOES 6――1983年4月打ち上げ
GOES G――1986年5月打ち上げ失敗
GOES 7――1987年2月打ち上げ
 ここまでが第二世代気象衛星です。日本の「ひまわり」シリーズは基本的のこの衛星の技術をヒューズから導入して徐々に国産化率を高めていったものです。ひまわり5号が安定稼働を続けているのは、アメリカがここまで技術蓄積を重ねた衛星を基本に、さらに工夫を重ねた、まさに技術的に枯れきった衛星であるからだ、ということに注意して下さい。また、GOES 7がGOES G打ち上げ失敗から9ヶ月という短期間で打ち上げられているのは、地上予備機が用意してあったからです。このGOES 7は打ち上げから14年を経た現在も軌道上予備機として衛星管制が続いています。

 ここでアメリカの気象庁に相当する海洋大気庁(NOAA)は、気象衛星をより性能の高い次世代型に切り替える決定を下します。衛星はスピン安定型からより大電力を使える三軸安定型に切り替わり、製造メーカーも入札の結果、再度ヒューズからフォード・エアロスペース(現Space Systems/Loral)へと切り替わりました。

 ところがこの次世代衛星の開発が予想以上に難航したのです。パーキン・エルマー(買収により現ヒューズ・ダンバリー光学部門)が担当した、地球をスキャンするベリリウム合金製のミラーが、どうしても静止軌道の熱環境でひずんでしまうという問題が発生し、次のGOES Iの打ち上げは当初1990年の予定から実に4年近く遅れました。
 その間に大西洋上空で観測を続けていたGOES 6が1989年1月にセンサーの故障で使えなくなってしまいました。NOAAは急遽、欧州気象衛星機構(EUMETSAT)の軌道上予備機「METEOSAT-3」を借りて大西洋上空の観測を継続しました。しかし、GOESとMETEOSATでは気象データの信号形式の細かな違いや衛星のスピンの方向が逆、などの非互換製があり、NOAAは大分METEOSATを使いこなすまで苦労したようです。結局NOAAはGOES Iの打ち上げが成功して定常運用が可能になった1995年11月まで、METEOSAT-3を借りていました。

 欧州は一貫してアエロスパシアル製のスピン型気象衛星を使い続けています。METEOSAT-3は1988年6月に「アリアン4」ロケット1号機のテストペイロードとして地上予備として作った衛星を打ち上げたものでした。欧州の信頼性とバックアップ重視の戦略が見て取れると思います。

 結局次世代気象衛星の1号機であるGOES Iは1994年4月に打ち上げに成功、GOES-8と改称されて大西洋上で運用を開始しました。心配されたミラーのひずみも軌道上では発生せず、順調に気象観測を続けたのですが、1998年に入ってから姿勢制御系のホイールに小トラブルが発生するようになったために同年8月にバックアップのGOES 10と交代しました。順調に稼働したのは4年で、実質メインの気象衛星として運用されたのは3年間であるということに注意して下さい。

 この第三世代に当たるGOESの打ち上げは以下のように行われました。
GOES 8――1994年4月打ち上げ
GOES 9――1995年4月打ち上げ
GOES 10――1997年4月打ち上げ
GOES L(GOES 11となる予定)――2000年5月打ち上げ成功
 今後の予定は以下の通りです。
GOES M――2002年4月打ち上げ予定
GOES N――2002年10月打ち上げ予定
GOES O――2004年4月打ち上げ予定
 この他GOES PとGOES Qが、それぞれ予備としてオプション発注がかかっています。

 GOESの設計寿命は5年です。アメリカはGOES Iの時の衛星喪失を教訓に、寿命5年の衛星を2年間隔で打ち上げ、観測継続の信頼性強化を図っているわけです。
 実はここでもまた、アメリカは気象衛星の世代交代による高性能化を図っています、GOES NからGOES Qまでは、さらに次の世代の気象衛星で、ヒューズが受注しました。これらはより高精度・多方面の地球観測を行うと同時に宇宙環境の本格的なモニタリングも行う能力を持ちます。
 ただし、現行GOESのGOES Mとオーバーラップさせた形での打ち上げ予定になっていることに注意して下さい。

 この失敗から学んだことをNASAはLessons Learned From the GOES Experienceとして公表しています。

――――――――――――

 日本は1989年の対米交渉「スーパー301」によって、実用衛星は国際調達とすることをアメリカに対して約束させられました。コスト高になる国産「ひまわり」は対米約束で調達できなくなり、ひまわり後継を欧米から買うことになったのですが、ちょうどそのとき、米ではGOES Iの開発が遅れに遅れていました。

 ここで運輸省内部の事情が浮かび上がっています。ひまわりが運用されている東経140度という静止軌道位置は、日本周辺の運輸管制通信に使うのにも最適な位置なのです。そこで運輸省はひまわり5号には船舶の遭難信号を受信して地上に送り返すSearch and Rescue(SAR)トランスポンダーを搭載しました。

 それが成功したので運輸省は次期気象衛星にはより高出力の航空管制用トランスポンダーを搭載することを希望しました。しかしトランスポンダーは熱を発生します。ミラーの熱歪みで開発が遅れている衛星に、熱を発生するトランスポンダーを積むとどうなるか…詳細は私も知りませんが、結果から言えば議論の最中にGOES Iが打ち上げに成功してGOES 8として定常運用を開始したために、運輸省航空局の意向が通り、GOES I系統の衛星に航空管制トランスポンダーを搭載したMTSATがSS/Lに発注されました。しかしGOES 8が姿勢制御系トラブルから寿命前にバックアップと交代したのは前述した通りです。

 完成しきっていない衛星バスに熱で開発が遅れたセンサー、さらに熱を発生するトランスポンダーを積むとどうなるか――私はMTSATは軌道上での安定運用はかなり難しいだろうと予想していました。事実、製造に当たっては熱と姿勢安定の面で相当苦労したという話を聞いています。

 トランスポンダーを搭載する予算があるなら予備機も発注すれば良いのに、と思いますが、実は衛星本体は気象庁の予算、航空管制トランスポンダーは運輸省航空局の予算から発注がかかっていました。縦割り行政だったわけです。

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 MTSATは打ち上げに失敗し、MTSAT-2の発注がかかりました。衛星価格は2のほうが20億円高い160億円となっていますが、これはレイセオン製の新型センサーを搭載するからだと聞いています。

 新型センサー、追加で取り付けるトランスポンダー。私は「あぶない」と感じています。少なくとも同型の地上予備をオプション発注して気象観測継続のための保険としておくべきです。打ち上げに成功しても、軌道上での故障確率は、現行のひまわり5号より高いことは間違いありません。
 運輸省――気象庁の縦割り行政がそれを拒むなら、それは行政の怠慢です。少なくとも外から見る限り、運輸省は、衛星という機械がどのような性格を持っているか、理解していないように思えます。

 幸いMTSAT打ち上げ失敗では、ひまわり5号はが観測を続行できる状態でした。しかし、MTSAT-2が失敗した場合、もはやひまわり5号は運用できない状態である可能性が高いのです。

 天気予報から、おなじみの雲の映像が消えたなら、それは気象庁に十分な予算をつけなかった運輸省の責任となります。「気象庁に予算がなかった」などということは、言い訳にならないことをここに明記しておきます。

 欧州などから衛星を借りるとなったら、それは自国の政策失敗を他国にカバーしてもらうことを意味します。あまり良い言葉とは思わないのですが、それは「国際協力」ではなく「国辱」であると考えます。日本の気象衛星は日本のみならず太平洋諸国やアメリカでも受信してデータを使用している、きわめて国際貢献度の高い衛星なのですから。

――――――――――――
 以下、私の意見の妥当性を検証できるように、静止気象衛星についての基礎データを提供します。
 静止気象衛星を軌道上で運用した経験を持つ国(組織)は、アメリカ、日本、欧州気象衛星機構(EUMETSAT)、インド、ロシア、中国です。

 静止気象衛星についてはNASAゴダード宇宙飛行センターのGEO-NEWS AROUND THE WORLDにまとまった記載があります。

 世界気象機関(WMO)において1970年代初頭に静止気象衛星の実現が議論された時は、日本、欧州、アメリカ、旧ソ連がそれぞれ90度ずつ地球を囲むように4機の衛星を打ち上げるという構想でした。

 このうち旧ソ連の衛星GOMSは、技術開発(センサー開発が難航した)と内部の機構的問題(どうも「気象衛星をどこの管轄とするか」で官僚組織の縄張り争いがあったようです)によって大幅に遅れ、最終的「Elektro」と名前を変えて1994年10月に打ち上げられたました。が、軌道上でトラブルを多発し、98年8月に運用停止になったようです。
「ようです」というのはそれ以降の取得データがホームページに掲載されていないこと、衛星そのものが「寿命3年以上」で設計されていることから判断しました。

 また、中国の「風雲2号」は1994年4月に打ち上げ失敗の後、1997年6月に再度打ち上げ、同年末から運用を開始したものの気象データを送信するトランスポンダーにトラブルが発生して1999年3月末に運用を停止しました。上記ゴダードのページには「ヒューズ製のGOES4〜7系を技術導入した日本のGMS(ひまわり)の、またコピー」などと書かれています。

 インドは、通信衛星「INSAT」シリーズに気象センサーを相乗りで載せるという手法で静止気象衛星を実現しました。現在は99年4月にアリアンスペース社によって打ち上げられた第二世代のINSAT2Eが気象データの取得を続けています。

 これで分かるように、静止気象衛星は、衛星のなかでも技術的に難しい種類に属するのです。
――――――――――
 以上、文責は松浦晋也にあります。事実誤認を見つけた方はご連絡下さい。訂正いたします。

No.66 :NASAが静止気象衛星打ち上げ
投稿日 2000年5月4日(木)18時32分 投稿者 江藤 巌

 NASAは5月3日ケイプ・カナヴェラルからアトラス2AでGOES(Geostationary Operational Environmental Satellite)-L静止気象衛星を打ち上げた。GOES-Lは静止軌道に乗った後はGOES-11と呼ばれて、NOAAに運用が移管される。GOES-Lは、東部太平洋を見守るGOES-10(1997年打ち上げ)と、西部大西洋を見守るGOES-8(1994年打ち上げ)の共通の軌道上スペア衛星として打ち上げられたもので、最終的な静止位置はまだ決まっていない。
 GOES-Lは、ロラール・スペース&コミュニケイションズ社が製作した。ロッキード・マーティン・スペース・システムズ社が製作したアトラスは、この打ち上げで49回連続して成功したことになる。ロッキード・マーティンとロシアのフルニチェフエネルギア公団の合弁企業であるILS(International Launch Services )が、アトラスとプロトンを国際的にマーケティングしている。

No.65 :日本の測位衛星技術への取り組み
投稿日 2000年5月3日(水)01時38分 投稿者 松浦晋也

日本の測位衛星技術への取り組みの報告書が3年前に宇宙開発委員会に提出されていました。

我が国における衛星即位技術への取り組み方針について――平成9年3月(宇宙開発委員会計画調整部会衛星測位分科会)

 日本の取るべき方針として1)GPS完全依存、から5)国際協力による独自システム開発――まで5つのシナリオを提示していますが、結論は当面GPSに依存し、一方で国際協力による測位衛星システム開発に向けて、最小限の基礎技術(衛星搭載原子時計、衛星群時刻管理技術、高精度衛星軌道決定技術)を地上で開発しておき、一部は技術試験衛星VIII型で試験を行う――となっています。

 これだけでは国際交渉の場でアメリカやロシアを国際協力による測位システム確立に巻き込むにはカード不足ではないか、と私は考えます。

 測位衛星システムは否応なしに軍事利用が絡む国益と直結した、しかも汎地球的に動作しなければ無意味なシステムです。しかも民生利用は現実にどんどん進んでいます。
 はたして宇宙開発委員会の描く「皆で一緒」の国際協力に持ち込めるかどうか。日本政府の技術に対するセンスと外交能力が問われることになると考えます。

 国際協力がいいとも限らないわけですから、私としてはかつてアメリカでGeostarというベンチャー企業が実現しようとした(結局失敗、倒産した)静止衛星2基をつかった比較的安価なシステムでもよいから、自前で自律した測位システムを保有し、しかる後に国際協力への働きかけをすべきではないかと思います。

No.64 :日本政府は早急に国際交渉の準備が必要になるでしょう
投稿日 2000年5月3日(水)00時20分 投稿者 松浦晋也

 以下、GPS精度向上に関する松浦晋也の考察です。文責は松浦にあります。事実誤認があればご指摘下さい。

 私が見た限りどのメディアも指摘していませんでしたが、GPS精度向上はアメリカの次の通商政策という側面があります。そのこと自体は以前から言われたいことなので、「ずいぶん早く実現したな」というだけなのですが、問題なのは今、民生GPS市場で収益を上げているのはパイオニア、松下を初めとした日本メーカーだということです。

 GPSそのものは米国防総省が1970年代から巨額の開発費用を投資して運用に持ち込んだ巨大システムです。その一部を民間に開放したら、日本メーカーが利益を上げるようになってしまったわけです。では米の次の一手は?当然日本に、システム維持のために応分の負担を要求してくるはずです。今回の精度向上は、その前段ではないかと私は予想しています。

 おそらく「応分の負担」は金額ベースでの拠出となり、「技術的貢献」は一切要求されないだろうと考えます。日本にGPSを作らせるよりも、GPSを利用させて運営費用を負担させたほうがアメリカから見ると得ですから。

 世界的に見ると、ロシアと欧州はこの事態を予想しており、全世界的な測位システムのアメリカによる独占を崩すべくインフラを保有したり、インフラ整備構想を練っています。
 ロシア(旧ソ連)はほぼGPSと同様のGlonassという測位システムを保有しています。また欧州は、静止衛星も含めたやや異なるシステムですがこれまたGalileoというシステム構想を持っています。それぞれ基礎技術を保有し、宇宙インフラをすでに保有していたり、あるいは構築しようとしているわけです。そうすることで、国際的な発言権を確保しようとしているわけです。
 正直、現在のGlonassがどの程度「使えるもの」なのか不明です。また、欧州のGalileo構想が、どこまで本気なのか。欧州各国がGPSがすでに利用可能になっている現在、宇宙インフラ整備に必要な負担に耐えられるか不明なのですが、少なくとも「自前の測位システム」というカードを持って国際交渉に望む意志を示しているわけです。

 しかし日本には現在測位衛星の受信・利用実験こそ行われ、カーナビを中心に市場は活況を呈しているものの、宇宙インフラとしての測位衛星システムの整備については、構想すらありません。このことは、現在の日本政府に宇宙インフラを積極的に整備する、つまりは宇宙部分への投資をする意志がないことを意味します。おそらく「カーナビってなんかすごいねえ」ぐらいの認識しかない人材が大勢を占めているのではないかと思います。

 その結果m応分の投資をするだけで日本の宇宙産業には何の技術蓄積も残らないことになるような気がします。

 ではどうすればいいのか。国際交渉のカードの切り方はまだ色々あるように思います。例えばGPSの新規代替衛星打ち上げをH-IIAで行うことで貢献するとか。ただしGPS衛星そのものが現在の内閣法制局の指針では「軍事物資」に当たるので、来るべき国際交渉に備えた国内の法・政策レベルでの準備が早急に必要になるでしょう。

 悲しいことですが、私の知る限り現在の内閣閣僚には、このような技術と外交の絡む問題に理解のある人材がいません。国会議員にまで枠を広げても正直なところ顔が浮かばないのが現状です。