投稿日 2000年5月3日(水)00時20分 投稿者 松浦晋也
以下、GPS精度向上に関する松浦晋也の考察です。文責は松浦にあります。事実誤認があればご指摘下さい。
私が見た限りどのメディアも指摘していませんでしたが、GPS精度向上はアメリカの次の通商政策という側面があります。そのこと自体は以前から言われたいことなので、「ずいぶん早く実現したな」というだけなのですが、問題なのは今、民生GPS市場で収益を上げているのはパイオニア、松下を初めとした日本メーカーだということです。
GPSそのものは米国防総省が1970年代から巨額の開発費用を投資して運用に持ち込んだ巨大システムです。その一部を民間に開放したら、日本メーカーが利益を上げるようになってしまったわけです。では米の次の一手は?当然日本に、システム維持のために応分の負担を要求してくるはずです。今回の精度向上は、その前段ではないかと私は予想しています。
おそらく「応分の負担」は金額ベースでの拠出となり、「技術的貢献」は一切要求されないだろうと考えます。日本にGPSを作らせるよりも、GPSを利用させて運営費用を負担させたほうがアメリカから見ると得ですから。
世界的に見ると、ロシアと欧州はこの事態を予想しており、全世界的な測位システムのアメリカによる独占を崩すべくインフラを保有したり、インフラ整備構想を練っています。
ロシア(旧ソ連)はほぼGPSと同様のGlonassという測位システムを保有しています。また欧州は、静止衛星も含めたやや異なるシステムですがこれまたGalileoというシステム構想を持っています。それぞれ基礎技術を保有し、宇宙インフラをすでに保有していたり、あるいは構築しようとしているわけです。そうすることで、国際的な発言権を確保しようとしているわけです。
正直、現在のGlonassがどの程度「使えるもの」なのか不明です。また、欧州のGalileo構想が、どこまで本気なのか。欧州各国がGPSがすでに利用可能になっている現在、宇宙インフラ整備に必要な負担に耐えられるか不明なのですが、少なくとも「自前の測位システム」というカードを持って国際交渉に望む意志を示しているわけです。
しかし日本には現在測位衛星の受信・利用実験こそ行われ、カーナビを中心に市場は活況を呈しているものの、宇宙インフラとしての測位衛星システムの整備については、構想すらありません。このことは、現在の日本政府に宇宙インフラを積極的に整備する、つまりは宇宙部分への投資をする意志がないことを意味します。おそらく「カーナビってなんかすごいねえ」ぐらいの認識しかない人材が大勢を占めているのではないかと思います。
その結果m応分の投資をするだけで日本の宇宙産業には何の技術蓄積も残らないことになるような気がします。
ではどうすればいいのか。国際交渉のカードの切り方はまだ色々あるように思います。例えばGPSの新規代替衛星打ち上げをH-IIAで行うことで貢献するとか。ただしGPS衛星そのものが現在の内閣法制局の指針では「軍事物資」に当たるので、来るべき国際交渉に備えた国内の法・政策レベルでの準備が早急に必要になるでしょう。
悲しいことですが、私の知る限り現在の内閣閣僚には、このような技術と外交の絡む問題に理解のある人材がいません。国会議員にまで枠を広げても正直なところ顔が浮かばないのが現状です。
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