投稿日 2005年7月3日(日)20時22分 投稿者 松浦晋也
宇宙作家クラブ取材班は7月2日から現地に入りました。これよりM-Vロケット6号機打ち上げの現場の様子をアップしていきます。今回はJAXAになってから初めてのM-Vロケット打ち上げです。
本日7月3日のロケット公開は天候悪化のためになくなりました。1度M-Vロケット6号機は整備棟から出したのですが、雨が降る可能性が高いために再度収納しました。
電波テストは、打ち上げリハーサルを意味するISAS用語です。
午後0時から記者室で質疑応答。次いで管制室などのプレスツアーが行われました。出席者は的川泰宣教授と、中島内之浦宇宙センター所長。
質疑応答の主な内容は以下の通りです。
――ロケットを出した時刻と格納した時刻は
中島:午前10時頃出して11時頃には収納した。ランチャーを一回南にまで回してロケット搭載の姿勢を調べる機器の較正した。M-Vのランチャは真東から南まで回すことができる。
整備棟内にロケットを納めた状態でもテスト自体は進めることができる。機器のオンオフとかロケットのアンテナとのデータ通信確認など。
的川:電波テストでは打ち上げの各作業がどれだけ時間がかかるかを調べるものです。
――M-Vロケット6号機の改良点は。
中島:第2段に搭載していた電子機器を第3段に移した。打ち上げ能力の点では不利になるが、安全性は向上する。
――当日の天気は
中島:6日は打ち上げ可能な天気だろうということだ。7、8日は天気が悪くなるとのこと。
――当日はどのような情報が出てくるのか。
的川:今回の打ち上げは、3段式での打ち上げとなる(注:これまで成功した打ち上げはすべて4段を付加した打ち上げだった)。打ち上げ後1307秒で、クリスマス島追跡管制局が衛星と第3段の分離を確認したら、私はすぐに報道室に降りてきます。その後サンチャゴで衛星を追跡しますが、これはバックアップです。
その後衛星は地球の裏側の遠地点で400秒近くスラスターを噴射して近地点高度を持ち上げる。だから次の内之浦上空通過は、最初とは軌道が変わっている。次の内之浦上空通過は打ち上げ後約100分後で、この時に衛星の状態をはじめてチェックできる。だから、午後3時半の記者会見で名称は軌道、衛星の状態などを公開できると思う。
――遠地点噴射はサンチャゴで監視するのか。
的川:いや、完全に自動噴射だ。見えないところで噴射するのは不安ですね。最初にやったのはEXOS-Bで、私がソフトウエアを担当しましたが、不安でした。今は衛星がきちんとやってくれることが分かっているので、今回も自動噴射です。
――5年前に打ち上げに失敗したASTRO-Eと今回のASTRO-E2では設計は同じか。
的川:Eの開発中で、「こうすればもっと性能が上がるのに」と気が付いたところは入れ込んでいる。だから若干性能が向上している。
――寿命がASTRO-Eの2年から3年に延びているがその理由は。
的川:E2では機械式冷凍機を積んで、センサーの一つであるマイクロカロリーメーターを冷やす固体ネオンの寿命を延ばした。これは設計時に大分議論したところだ。
しかしマイクロカロリーメーターが使えなくなっても他のセンサーは使えるので、軌道が持つ限り(注:衛星が空気抵抗で落下するまで)は観測を継続できることを期待している。
現在衛星の名前は所内で投票しています。さえた名前が出てくれば採用しますので、皆さんも投票して下さい。名前を選ぶ衛星グループに聞いたところ、本命はまだないそうです。
広報班から説明。
今回は打ち上げ映像を、全国に配信します。鹿児島中央駅や、東京丸の内のオアゾ、各センターなどで放送するので告知をお願いします。
中島:なお、今回は国際宇宙ステーションとの干渉という問題がありまして、軌道が近づく時は打ち上げません。ISSは大きいので衝突確率も通常の衛星よりもずっと大きくなる。
――保管が続いているM-Vの2号機だが現状どうなっているのか
中島:実は今回の6号機の1段と3段は、2号機のものを使用している。もちろんノズルスロート部は4号機の打ち上げ失敗を受けてグラファイト製からC/Cコンポジット製に交換している。固体燃料の変質については、毎回試験ピースを保存している。また今回に打ち上げに先立って5年保管したモーターの燃焼試験を行った。
的川:先だって定年退職したM-V担当の高野先生の話では、アメリカでは12年保管した「スカウト」ロケットを打ち上げたことがある。変質という点では問題はないだろうとのこと。
中島;もう一つ、自重で推進薬で変形し、亀裂や剥離が発生するのが恐ろしい。打ち上げ時に亀裂で異常燃焼が発生して失敗の原因となる。そこで保管時には半年ごとに上下を入れ替えて推進薬の変形を防いでいる。もちろん保管倉庫は一定温度、一定湿度に保ってある。亀裂や剥離は超音波探傷とX線検査によって検査を行っている。
――5号機と6号機で設計を変更した部分はあるか。
第2段と第3段にわけて搭載していた通信機器2系統をまとめて第3段に搭載した。第3段まで2系統で通信を行えるようにするため。通信機器の重量の分だけ打ち上げ能力には不利になるが、安全性を重視するという方針で設計を変更した。
的川:一昨日、内之浦町は合併で肝属郡肝付町になった。内之浦という名前は地名としてはなくなる。残るのは内之浦小学校に内之浦中学校に漁業組合に、この内之浦宇宙センターだけだ。
――今回JAXAになってから初めての内之浦からの打ち上げだが変わったところはあるか。
中島:旧NASDAの人が50人ほど来ている。主に担当しているのは広報や情報連絡のような部分。今まで大学としてやってきた我々には広報面などで至らないところがあったが、そこをいろいろやってもらっている。実際の打ち上げ部隊のメンバーは、以前とあまり変わっていない。
写真は的川教授(左)と中島所長(右)
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