投稿日 2005年7月7日(木)15時08分 投稿者 松浦晋也
午後2時からの天候判断の記者会見です。出席者は的川教授と、ASTRO-EIIの責任者である井上一教授。
的川:大変残念なことですが、昨日の天候判断が外れて、本日は打ち上げ日和となってしまいました。明日以降また天気が悪化するという判断で、打ち上げを10日以降に延期することにしました。10日に打ち上げるかどうかの判断は9日の午後2時に行います。
――マイクロカロリーメーターの再冷却は観測機器に負荷をかけないのか。
井上:大丈夫です。
――打ち上げは10日ですか。
的川:そう思って良いです。正式には前日午後2時ぐらいにアナウンスします。
――延期でかかる費用は。
的川:以前は1日1300万円と言っていました。今はもう少し高くなっていると思います。
ああ、今雨が降ってきましたね。まあ、打ち上げは終わっている時刻ですが(笑)。本当にちょっとしたタイミングなんですよねえ…
――衛星フェアリングが雨を嫌うということだが、材質を変える予定はないのか。
的川:今のところないです。コルクを使っているのが雨に弱い原因ですが、コルクの良さというのもあるのですよ。
――ASTRO-EIIの設計とASTRO-Eの変更点は。
井上:基本は同じですが、大きな変更点はマイクロカロリーメーターの冷却に機械式冷凍機を装備しました。冷凍機が100%動作すれば、Eの寿命2年がEIIでは3年に伸びます。この5年間で観測機器の改良が進み、マイクロカロリーメーターは性能が倍になりました。X線望遠鏡も像の精度を向上させています。これらによって衛星は若干重くなって1670kgから1707kgになっています。
マイクロカロリーメーターの寿命が終わった後も残りの観測機器は観測を続けます。衛星全体の寿命は衛星が落下するまでで決まり、過去の例では5年から10年は使えることを期待しています。
この衛星は姿勢制御をモーメンタム・ホイールで行っていますので、スラスター推進剤がなくなっても観測は続けられます。姿勢制御はモーメンタムホイールと磁気トルカで行います。
――ASTRO-EIIは太陽電池パドルが固定ですが、観測に差し支えることはないのか。
井上:太陽電池への太陽の入射角は30度以内ということで設計しています。太陽の季節による移動と視野の広い望遠鏡とで空のかなりの部分を観測できます。もちろん太陽方向になにか特別の天文現象が発生した場合は観測できません。リスクと開発コストを考えてこのような保守的な設計にしています。
――そのような天文現象が出た場合、太陽電池に光が当たらない姿勢に一時的にして観測することはありますか。
井上:原理としてはあり得ます。しかしその場合も半年も待てば観測可能になります。宇宙で起きる現象は半年ぐらいは待ってくれるだろうと期待しているわけです。
――高度550kmという軌道に意味はあるのか。
井上:あまり高い軌道だとバンアレン帯に入ってしまい、観測機器にノイズが載ってしまいます。あまり低いと空気抵抗で衛星が墜落してしまう。そこでX線観測衛星はだいたい550kmあたりに打ち上げられてきました。しかし欧米の最新衛星である「ニュートン」「チャンドラ」は、もっと高い長楕円軌道に入っています。バンアレン帯の外に出すという考え方です。この軌道だと同一の観測対象を長時間連続で観測できます。しかしバンアレン帯のノイズを避けても太陽からのX線ノイズは避けられません。このため「ニュートン」「チャンドラ」共に観測不可能時間がかなりあり、その意味ではあまり良い軌道ではなかったのではないかと私は思っています。
――同一観測対象を観測するる時間はどれほどなのか。
1回2〜3日です。1年間で140ほどの対象を観測します。
――冷凍機の振動はどうやってクリアするのでしょうか。
マイクロカロリーメーター以下センサーはそれほど振動にセンシティブではありません。冷凍機も静かなものに仕上がりましたので、観測中も冷凍機を動作させることができると考えています。はちなみに現在は、ノミナルで観測しない時だけ冷凍機を動作させることで寿命2.5年と考えています。これを出発点にしようと思っています。
――アポジ噴射についてもう少し細かく知りたい。
井上:全部で4回の噴射を予定しています。打ち上げ直後に1回、次の日の同じ時間帯ないしは少し早い時間帯に2回目を、さらに次の日に2回の噴射を行います。4日目に太陽電池パドルを展開し、5日目にはX線望遠鏡の光学ベンチの伸展を行いたいと思っています。
――ではいつの時点で観測開始になるのでしょうか。
井上:ファーストライトとしては打ち上げ後20日ぐらいにやりたいです。科学的観測という意味では打ち上げ後1ヶ月後くらいから順次、と考えています。
――衛星の名前はどのタイミングで発表されるのでしょうか。
的川:最初の記者会見で発表します。いい名前が付いていますよ(笑)。宇宙研の衛星が上がると超新星爆発が起きるというジンクスがあるんですよ。今回も超新星が出現するといいですね。
――今回打ち上げに失敗してしまったら、M-Vはどうなるのでしょうか。
的川:それはその時になってみないとわかりませんね。事故の原因によると思います。M-Vの存在意義が問われているといえばいつも問われているわけです。
――衛星の運用は何人で行うのでしょうか。
井上:まず内之浦に2人が常駐します。衛星は1日に地球を15周しますがうち5周が内之浦から通信できる範囲を通過します。1日8時間ほどですね。そこでデータを降ろしたり、「こんなことをしなさい」というコマンドを送信したりします。それとは別に相模原に2人が常住して、運用計画を立てます。我々「上位ビット」「下位ビット」などと言っています。
写真は井上教授
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