投稿日 2005年11月4日(金)16時19分 投稿者 松浦晋也
発表文が出ました。中止の原因は、自律航法機能の誤差が、許容値よりも大きくなったためでした。探査機そのものは正常です。
今後リハーサルをもう一度行いたいとことですが、検討の結果ではリハーサルと第一回降下を兼ねる可能性もあります。
以下発表文の要旨です。前文は JAXAページで読んで下さい。
午前4時17分に高度3.5kmから降下開始。高度700m付近までは正常だったが、自律航法機能の航法誤差が許容値を逸脱したことを検出したため、12時30分に地上からの指令で、以後の試験を中止して上昇指令を送信した。
今回の試験で、自律航法・誘導機能を低高度まで試験出来たことは一定の成果と考える。
以下、午後4時半からの記者会見の様子です。出席者はプロマネの川口教授一人でした。
川口
リハーサルの結果です(発表文読む)。
直ぐに質疑応答に入りました。
共同通信:自律航法機能と誤差の許容範囲を超えたということを説明して欲しい。
川口:はやぶさはイトカワの明るさの中心を計算して、そこに向かって降下していく。同時に直下のイトカワ地表までの距離も計測し、その両方から判断して降りていく。
イトカワは複雑な形状をしており、周期12時間で回っている。このため近づいていくと光の当たり方から、明るさの中心がきちんと判断できなかったのではないかと考えている。例えば明るい部分と暗い部分がはやぶさから見ると、イトカワが2つみっつの複数に見えてしまった可能性がある。
現状でそれが原因だとは断定できないが、テレメトリーでは取得画像のどこに向けて降下していけばいいかを判定できなくなったことは判明している。こういうことが起きるとレーザー高度計は、明るさの中心をターゲットするようになっているので、どこが明るさの中心になるかが分からなくなると、どこの高度を測ればいいか分からなくなり、高度を測定できなくなる。
時事通信:明るさの中心を見るというのは
川口:ある一定以上の明るさの面積の重心に向かうということ。明るい領域が一つなら問題ないが、複数ならどこに向かうかは難しくなる。明るい領域が2ヵ所ぐらいなら対応できるようになっているが、明暗がまだらになると対応しようがない。現在NASAの地球局経由で機上のデータレコーダーに蓄積したデータをダウンロードする準備を進めている。それを使って対策を検討する。
日経新聞:帰還への影響はあるか。推進剤は持つのか。
川口:明日はまず、ホームポジションにはやぶさを戻す操作を行う。明日の晩に対策会議を開く。対策には二、三日かかるだろう。日程的には12月にイトカワを離れなくてはならないというのがぎりぎりだ。
リハーサルは一回増やすぐらいなら、推進剤は持つだろうと考えている。NASAの地上局予約はなかなか予定を動かせないのだが、第1回については動かせるという条件になっている。
リハーサルは再度
毎日新聞 装置側に問題が出た可能性はないか。
川口:今のところ機器については問題ないと考えている。しかし現状ですべてを把握しているわけではない。とはいえ上昇時に正常な信号を返してきているので問題はないだろう。
東京事務所からの質問 トラブルが発生したのは高度700mの時点か。
川口 その瞬間ははっきりしている。上昇指令を出したのが12時30分で、決断には10分ほどかかるので問題発生は12時20分頃だったと思う。
東京事務所からの質問 オンボードのアボート機能はないのか。
川口 機能はある。が、オンボード機能が判断に手間取っていると地上からコマンドを送る機能がある。今回はコマンドを地球から送信した。
東京事務所からの質問 臼田の後はNASA局で追跡しているのか。
川口 ギャップがあります。NASAが突然ヴォイジャーの運用をしたいと言い出して、1時間ほどがキャンセルとなった。
東京事務所からの質問 最低何日空ける必要があるのか。
川口 シミュレーションと対策の時間が必要。それと体力の問題がある。今回も昨日からぶっつづけでオペレーションを行っている。実際問題として二三日中にリハーサルを行うのは難しいと考えている。
読売新聞 今回トラブルは想定範囲内なのか。どこまで実際に降下したのか。リハーサル兼第一回になった場合、ミネルヴァは落とすことができるのか。
川口 多分に予想の範囲内だ。また実際には、700mからさらに降りていると思う。データを降ろして確認する必要がある。ミネルヴァの投下は不可能ではない。シーケンスは複雑になる。というのは投下に当たってイトカワの自転をキャンセルする方向に投下する必要があるため。
月刊天文 自律機能で降下目標を変えることはできるのだろうか。あるいは、地上からの判断でできるのだろうか。
川口 最後の画像を撮影するのが500mのところで、そこでGO /NO GO判断が行う。そこまでは地上で判断できるが、そこから先は機上の判断となる。今ある搭載ソフトウエアの範囲で、継続降下が可能になるように工夫することになるだろう。
月刊天文 もしあと2回しか降下できなくなったら、リハーサルを飛ばすのか、本番を一回諦めるのか。
川口 要検討事項です。考えさせて下さい。
NHK 表面がごつごつしているということは、光の反射に影響したのか。レーザーレンジファインダーは動作したのか。ライダーが地表との距離を測れなくなった理由はどこにあるのか。
川口 イトカワ固有の形状が原因だろう。レーザーレンジファインダーの動作は解析中。ライダーはおそらく、探査機が姿勢を変えてレーザービームがイトカワから外れたということではないかと推測している。
東京新聞 12月の何日にイトカワを離れる必要があるのか。
川口 イオンエンジンを使って帰還するならば、どの期間にイトカワを出発するかが決まる。
NHK 降下に当たっての制約条件は。
川口 まず、臼田からの可視でGO /NO GO判断を行えるということ。イトカワは約12時間で自転しているので、これで降りる場所が制約される。次がNASA地上局を望む時間帯に使えるかどうか。
NHK 今回のことはリアクションホイール故障と関係あるのか。
川口 あります。姿勢制御に制約が生じているわけですから。どこを向くにしてもホイールが生きていれば望む方向に向けることができるけれども、ジェットではどうしても荒い制御になってしまう。
以上です。
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