投稿日 2008年8月25日(月)20時34分 投稿者 笹本祐一
2008年8月23日、大阪府岸和田市で第47回SF大会が開催されました。
岸和田市浪切ホールで開催された今回のSF大会では、「宇宙でなにが出来る?日本の宇宙開発」と題してJAXAのタウンミーティングが行なわれました。
タウンミーティングは、JAXAが一般への広報と宣伝を兼ねて行っている意見交換会です。今回は二部構成、第一部は小澤秀司によるJAXAの活動についてのプロモーション、第二部はJAXA宇宙科学研究本部教授、阪本成一による宇宙探査方面のプロモーションのあと、それぞれ会場との質疑応答が行なわれました。
小澤理事、阪本教授によるプロモーションはいつもとあまり変わりませんので省略します。
なにせSF大会で行なわれるタウンミーティングですから、会場からの質問はマニアックに特化したものが多くありました。
以下に笹本の現場でのメモをもとに要約します。
はやぶさ関連
「はやぶさはほんとうに帰ってこれるんでしょうか」
阪本教授「(自分に出来ることは)祈るしかありません。通常なら諦めているところを、運用スタッフはベストを尽してやっています。帰還までのあと二年、辛抱強く運用していく覚悟です」
「はやぶさ2の計画はどうなっていますか?」
小澤理事「いろんな計画があり、なるべく早く射ちたいと思っていますが、これから5年間の間には打ち上げ計画はありません。その次の5年には打ち上げたいと思っている」
阪本教授「全てのミッションを適切な次期に行うのは難しいので検討を進めているところです。然るべき時に備えて着々と準備を進めているので、ご期待下さい」
この件については、笹本が質問して確認してみたところ以下のような答えを得ました。
小澤理事「今の中期、2006年から11年までの5年間のあいだには打ち上げ計画はありません。JAXAとしては、2012年から17年の次の中期においてはやぶさ2をぜひ打ち上げたいと思っています」
「なんでH2Aロケットではやぶさを打ち上げないんですか?官需だし、打ち上げ機会の増大にも繋がると思うんですが」
小澤理事「H2Aではやぶさ打ち上げというオプションも、もちろん検討しています。H2Aでさまざまな衛星を打ち上げたいと考えています。科学衛星も、ものによっては上げます。用途に合わせて効率良くロケットを上げていきたいと考えています」
宇宙開発基本法について
小澤理事「宇宙基本法は、8月27日に施行されます。小澤の解釈としては、日本の宇宙開発は今まで研究開発中心だったので、これからは国の利益のための宇宙開発を行うための法律です。国の利益のひとつとしての安全保障、日本経済、宇宙産業の振興発展に繋げられないかということです。
将来計画に国際協力が多いのは、各国とも予算が厳しいからなので、もっと効率的な宇宙開発が出来ないか。
宇宙機関からだけではなく、国家の外交政策とマッチした宇宙開発も出来ないか。
国からトップダウンの形の宇宙開発だけでなく、ボトムアップとしての研究者からの成果も大事にしたい。
JAXAの存在も一年後に見直しという計画もあります。
長期ビジョンをもとにJAXAの考えを述べていきます。そういった意味でも、内閣府の宇宙開発戦略本部開設などの動きを注視しています。
GXロケットについて
小澤「GXロケットは、JAXAも入って計画そのものの見直しの最中です。今年の概算要求にはまだ間に合っていません。
宇宙開発基本法施行後は、戦略本部、事務局でも議論が行なわれるはずです。JAXAはGXロケットとしては当事者なのでまな板の上の鯉の心境ですが、当事者の立場としての議論をしている最中です」
広報関連について。
舘広報部長「一番の広報は、すべてがうまくいくことです。それがなによりの広報になります。
成功した報道はCMとしての効果になります。この前の調査では、打ち上げのニュースはCM換算で二億円相当の効果があるそうです。
広報としては、テレビが一番のメディアになります。その次が新聞です。もっとも国民に訴えるのはメディアへの露出です。その中で広報を拡げていくべきだと考えています。
今日は女性が多くて安心しました。女性の認知度が低いのが問題だと考えていますので、全体的な認知度を上げていきたい」
厳しい予算について。
「惑星探査のようなチャレンジングな計画に対して、寄付、あるいは宝くじ運用のような予算集めは考えていないんですか?」
舘広報部長が小澤理事、阪本教授のどちらに答えを求めるべきか目配せし、二人ともそちらが、みたいな譲り合いのあと。
小澤理事「答えを譲り合っておりますが 国民の支持さえあればそういうことも出来るが、宇宙宝くじなんてのはこれからの検討課題だと思います。現状では、考えてもいません。今、JAXAが考えているのは、実用衛星方面に置いて実際に衛星ビジネス、通信事業者との共同計画にして国家との共同事業に出来ないか、ということです。民間との共同計画が立ち上げられれば、JAXAが予算を全額負担ではなく何割か、という形になるので、余った分をチャレンジャブルな計画に廻せます」
阪本教授「確かに宇宙探査には魂を揺さぶるところがあります。国立天文台にいた頃も予算が厳しくて、個人的な寄付を申し出てくれる人もいたがしかし学者として断っていました。
人気があるところは、国民の理解があれば寄付金が集るということになってしまうと、人気のない基礎科学が潰れてしまうのではないかという心配があります。人気があるところだけ抜け駆けして寄付を貰ってしまうと、人気のない基礎科学はますます人気が無くなり、結果として全体が潰れてしまうのではないか、と思っています」
セキュリティについて。
「どんどん金網が増えていって、見学に行っても見えにくくなってるんです。こないだ内之浦に行ってロケット見せてくれっていったら、とんでもないって断られちゃった。もっとみんなに触って、見てもらうことが広報だと思う。ロケットというのは楽しいものであるってもっと宣伝すべきだと思うんです」
この質問をしたのは、宇宙研のロケット班長として2003年に退官するまで430本のロケットを打ち上げた林紀幸氏。
小澤理事「ロケットに触れないという意見があるのは承知してます。だから、古いロケットは展示して直接手で触れるような機会も作ってます。
最近はセキュリティも重視しなければならず、世界でもそういう趨勢になっています。前ならフェンスがなかったに今それがあるのは、想定される危機に備えなければならないという意見もあるからです。
ロケットに触れたいという気持ちは、展示品の方で触って欲しい。
実際の打ち上げにおいてのセキュリティ強化は、どこにどんな悪い人がいるか解りませんから、テロのために我慢して欲しいと考えています」
HTV関連
「HTVがHTVがシャトル後継機になるんじゃないかってニュースをみたんですが?」
小澤理事「2010年にシャトルが引退すると、ステーションへの輸送は貨物がプログレス、人員がソユーズで、ロシアのロケットだけになってしまいます。もしロシア側でなにかロケットが打ち上げられないような問題が出るとステーションが干上がってしまうので、代替としての輸送手段はアメリカが開発中です。それが間に合わない開発中の過渡期の段階に、補給機として使えないかという話がNASAからりました。NASAがHTVを採用というところまではいっていません」
「国際宇宙ステーションへの補給であるHTVは、どこの予算で打ち上げられるんですか?」
小澤理事「今の宇宙ステーションには、日本モジュールが接続されており、この先日本人宇宙飛行士が滞在する予定です。なのに、日本は宇宙ステーションで発電していない。維持に必要なリソースも提供していない。他の国は、ステーション運用のための資源を提供している。
各国が運用のための分担のため、8分の1の共益費を供出しなければならない。そのためにJAXAは、宇宙ステーションの運用サービスとして補給機を打ち上げるということなので、打ち上げ費用は日本持ちです。
JAXAの予算の中で、ISSの運用コストは年間四〇〇億円になります。今までは開発費として計上されていたものを運用費に廻すので、全体としての予算割合は変更ありません」
「せっかくSF大会で行なわれるタウンミーティングなので聞いてみたいのですが、軌道エレベーターについての質問です。軌道エレベーターが実用化後も開発すべき技術、陳腐化する技術の切り分けなどは行っているのでしょうか。実用化後の世界についてどんなヴィジョンを描いているのか聞かせてください」
小澤理事(苦笑混じりに)「JAXAの中では、わたしの知る限り軌道エレベーターについての検討は行われていません。実用化後のビジョンも考えろという叱咤激励はありがたく持って帰らせていただきます。
長期ビジョンのアップデートの時には、もう少しロングスパンで夢を持ったビジョンを提出したいと考えています」
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