投稿日 2009年2月13日(金)00時22分 投稿者 野尻抱介
2009年2月12日、愛知県の三菱重工飛島(とびしま)工場にてH-2Bのコア機体が報道公開された。宇宙作家クラブからは鹿野司、今村勇輔、小川一水、野尻抱介が出席した。
飛島工場は名古屋港の一角にある。すぐ外に貨物船を接舷できるから、ロケットや航空機の海上輸送に適した立地である。報道陣は名古屋駅から送迎バスで現地入りした。
H-2BはJAXAと三菱重工の共同開発で、H-2Aロケットをベースにした新しい国産最大のロケットである。コア機体とは1段目と2段目をあわせた部分のこと。これに固体燃料ブースター(SRB-A)と衛星フェアリングを取り付けると打ち上げ時の姿になる。
H-2Bの第2段はH-2Aとほとんど同じで、若干強度を上げている程度。大きく変わったのは第1段である。
最大の特徴は1段目エンジンがLE-7Aを二基束ねた、国産初のクラスター・ロケットになったこと。すでに三回の燃焼テストを成功させている。(写真参照) この報道公開ではすでに保護カバーが取り付けられ、LE-7Aエンジンの威容は拝めなかった。
機体全長はH-2Aとほぼ同じ56mだが、1段目の直径が4mから5.2mに膨らみ、搭載燃料は1.7倍になった。旅客機を拡張するときは胴体直径をそのまま、全長をストレッチするのが普通だが、H-2Bでは逆の選択をしたことになる。理由は機体強度の保持において有利なこととと、ロケット組立棟や射点設備の変更を最小にすることだという。
H-2Bは「H-2Aの増強型」として扱われることが多いが、直径が変わり体積が2倍近くになったのだから、新型ロケットとみなしてもいいだろう。H-2Aと比較すると「H-3」と呼んでもおかしくない貫禄がある。
構造系の新技術としてはタンクドームの国産化と、摩擦攪拌接合方式(FSW)が導入された。タンクドームは円筒形の燃料タンクの上下にあるドーム状のパーツで、アルミ合金を一体のまま成型している。摩擦攪拌接合とは溶接に置き換わるもので、タンクスキンを素材の展性・延性によって結合する。FSWの利点は接合作業が機械化できることにあるという。
H-2Bの開発費はJAXAの負担が187億円、三菱の設備投資が75億円、合計262億円。三菱の設備投資は今後の数機ぶんに分散して回収する見込み。
H-2Aの開発費は1500〜1600億円である。海外の同規模のロケットに較べてもH-2Bの開発費は一桁安い。SAC取材班内でも「バカみたいに安い」が一致した感想であった。H-2Aで確立した技術がなければこの費用では実現しなかった、とプロマネは述べている。
開発費と別勘定の、H-2B 1号機単体の価格は147億円。1号機は試験機であるため様々なオプションがつき、通常より高価になっている。2号機以降の価格は現時点では確定できないとのこと。
H-2B開発の目的は大きく二つある。
(1) 国際宇宙ステーション補給機(HTV)を運ぶこと。これには高度300km×200kmの略円軌道に16.5トンを投入する能力が必要である。
(2) H-2Aロケットと併用して多様な打ち上げ能力を保有し、国際競争力をつけること。H-2Bは静止トランスファー軌道に約8トンを投入する能力がある。これにより、2〜4トンの静止衛星を2機同時に打ち上げることができる。
国際宇宙ステーションについては計画が大幅に遅延・縮小し、お荷物扱いする向きも多い。また、衛星については小型化の傾向もあることから、H-2Bが今後どれだけ活用されるかは予断を許さない。
いっぽう、HTVの輸送ミッションは国産技術で初めて、既存の宇宙施設にランデヴー&ドッキングする機会である。その輸送量や液体燃料ロケットのクラスター化とあいまって、日本の宇宙技術における大きな一歩を印すことになるだろう。H-2Bは宇宙輸送において、世界の檜舞台に立てる能力がある。我々はもはや他国の大型ロケットを指をくわえて見ている必要はないのである。
H-2B 1号機はこの報道公開の後まもなく種子島に運ばれる。種子島では第1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)、地上総合試験(GTV)が行われる。作業が計画どおりに進めば、本年夏、HTV技術実証機を搭載しての打ち上げとなる。
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