投稿日 2010年3月12日(金)23時27分 投稿者 柴田孔明
続いて小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」
敬称略
宇宙科学研究本部宇宙航行システム研究系/助教 森 治
宇宙科学研究本部宇宙航行システム研究系/助教 津田 雄一
世界で初めて、ソーラーセイルによる航行技術の実証を行う。
また、膜面の一部に薄膜の太陽電池を貼り付けて電力の発電実証を行う。
将来の深宇宙探査の動力源と姿勢制御技術となる。
本体:直径1.6m×高さ0.8mの円筒型
膜面:一辺14m 四角形
打ち上げ時重量:310kg
膜面重量:15kg(先端マス4個2kg含む)
姿勢制御方式:スピン
セイル展開時の撮影のため、カメラ付きの無線子機を2基搭載。
「イカロス」の質疑応答から抜粋
SAC江藤:膜面の姿勢制御とは
森:二つある。まず衛星本体にもガスジェットがついている。もう一つが、ソーラー電力セイルに液晶デバイスがついている。曇りガラスみたいなものがついていて、各膜面の反射を電気でON/OFFできる。太陽光の反射が膜面で異なるとバランスが崩れて姿勢が変わることを利用する。
SAC山田:半年で成果が出るが、その後は?
森:運行実績がとれる。大きい姿勢制御を試したり、薄膜太陽電池の劣化が判る。他にサイエンスミッションでは塵やガンマ線の観測を行う。
:薄膜太陽電池は通常の衛星のパネル型に対して性能は低いのか。
津田:薄膜太陽電池の効率は5%以下。通常のパネル型は20%以上ある。ただし軽いので重量あたりの発電量は遜色ない。
:薄膜の今後の見通しとしてはどうか
津田:太陽電池はガラス板の上に形成しているが、ガラスを取り除いた形で出来ないか研究しているところ。これはイカロスよりまた先の技術。
:太陽電池にアモルファスシリコンを選んだ理由は何か
津田:消極的だが二年で実用化できる薄膜という理由。ただしアモルファスシリコンは宇宙との相性はよく放射線劣化も少ない。
(※プロジェクトのスタートから打ち上げまで約2年)
:遠心力でセイルを保持しつつ、振動が収まる原理は。
津田:膜による構造上の減衰が主。イカロス本体のダンパでも吸収して熱に変えている。
また衛星本体のジャイロや太陽センサなどで検知し、ジェットを吹くこともある。これは他の衛星と同じだが、イカロスは大きな膜面があるので、柔軟性に対応したロジックを組んでいる。
:これまでにセイルを使った衛星はあるか
津田:宇宙ヨットはロシアで70年代頃にあった。アメリカの惑星協会が何度かやっているが、打ち上げが全て失敗している。(※セイルの展開まで行かない点で不運である)
ただしこれらは地球周回。ソーラーセイルは深宇宙で真価を発揮するが、世界ではまだ例が無い。
:深宇宙とは何か
津田:地球の重力の影響が無くなるという意味だが、厳密にはそれは無い。深宇宙は月より外、あるいは静止軌道より外でも可。人工惑星になった時が深宇宙探査機と言える。
:イカロスのセイル展開後のたわみ量は
津田:スピンによる遠心力との釣り合いで決まる。半径10mに対して10センチ程度。遠くから見たなら、ほぼ平面である。
:今回のセイルの折り方・たたみ方の実績はあるか。
津田:イカロスはスピンによる遠心力で展開・保持するが、これは例がない。ロシアなどはブーム(柱)がついている。
今回用意した模型は形を保つためブームがついているが、実機には無い。
:液晶デバイスの制御はどんなものか
津田:スピンしていても見かけ同じ位置がONかOFFになるようにしている。
セイルの液晶は45度8分割での制御で、一枚一枚の個々のリニア制御はできない。
:セイル展開時の振動が減衰するまでの時間は?
津田:構造減衰の事前予測は難しい。地球上では重力などの影響があって実験できない。推定で数時間を見ている。液晶制御では力が小さいので衛星本体による減衰がメインとなる。
:イカロスは太陽に突っ込むか?(神話より)
津田:突っ込みません(笑)。衛星本体の姿勢制御燃料が尽きれば充電できなくなり終わるが、液晶デバイスによる姿勢制御で継続が可能かもしれない。
(※薄膜太陽電池の他に、衛星本体にも通常の太陽電池がある)
:金星についたときイカロスの位置は
津田:軌道速度が遅いので、あかつきより数日遅れると思われる。軌道はほぼ同じ。
:金星までの航続距離は?
:計算したことが無いがすぐ出せる。(3億キロぐらい?)
:イカロスの英名略語は後付か。
津田:同じ日に決まった。酒の席などでよく決まる。
:セイルの力は
津田:膜を全展開して1AU(天文単位:1AU=地球と太陽の距離)で一円玉の10分の1程度の力が常に働き続ける。0.7AUなら二倍程度。
:ヨットのように帆を下ろすことはできるか
津田:イカロスではできない
:ブーム(柱)が無いメリットは何か
津田:将来大きいものを作っても、膜を増やすだけで構造材の重量があまり増えなくて済む。ただしスピンしているため、常に手ぶれが発生している状態になる。精密観測には一工夫がいる。
:セイルが破れる可能性は
津田:深宇宙であっても物質はある。当たれば必ず穴が開く。穴だらけになる事は織り込み済み。大きいものが当たった場合は裂ける可能性があるが、ゾーンで分割しているので全体には影響しない。またダストを観測するセンサも搭載している。
:はやぶさからのインスピレーションはあったか。
津田:私も含め、はやぶさをやっているメンバーが関わっている。イカロスは、はやぶさの運用からインスピレーションを得た部分がかなりある。
:開発期間が短かった理由は何か(2007年から)
津田:ソーラーセイルの提案はずっと前からやっている。何度も提案していたがPLANET−Cが決まったのと、ロケットがH2Aになって余力ができてタイミングが良かった。
:ソーラー電力セイルのアイディアは
津田:言葉自体は川口プロマネが昔から言っていた。ソーラーセイルのみだと太陽の向きによって運用に制約があり、小惑星や周回などピンポイントに止めたい場合などは無理がある。実績のあるイオンエンジンとのハイブリッドにすることで両方を使うことで補う。ソーラー電力セイルならイオンエンジンのための発電もできる。
以上です。
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