投稿日 2010年8月23日(月)22時06分 投稿者 柴田孔明
2010年8月23日15時 S−520−25号機機体公開前説明
会見と質疑応答をまとめたものです。
石井 信明 宇宙科学研究所 宇宙航空システム研究系教授 観測ロケット実験室長
阿部 琢美 宇宙科学研究所 宇宙プラズマ研究系 準教授
配付資料から(宇宙研HP掲載のものと同じです)
・実験の目的
観測ロケットS−520−255号機を用いた本実験では、最大高度300キロメートル程度に到達する数分間に渡るロケットの弾道飛行を利用して、電離層中におけるエレクトロダイナミックテザー(EDT)の基礎実験と微少重力環境下におけるテザーを用いたロボットの姿勢制御実験を行う。
電離層中でのベアーテープテザーを用いた世界初のEDT実験であり、プラズマ収集に関する詳細な知見を取得する。また、テザーロボット実験は、新しい姿勢制御技術の実証実験である。
(※テザー:テープ状のもの)
・実験の概要は以下である。
(1)導電性ベアーテープテザーの高速伸展。
(2)ホローカソード(HC)の高速点火実験。(電子銃)
(3)導電性ブームの伸展実験。
(4)HC及びブームとベアーテープテザーを用いた大電流プラズマ収集実験。
(5)テザーロボットによる姿勢制御実験。
・今回の搭載機器は、JAXA、首都大、香川大、静岡大が中心となって開発を行い、また、研究グループには、米国、スペイン、オーストラリア等の研究者が参加している。
・ロケットは電離層の状態が実験に適していて、展開の様子の撮影に適した早朝に打ち上げられる。
(※2010年8月25日朝5時を予定。5時30分までは打ち上げ可。延期の場合、作業内容によっては翌日以降になるかもしれないとのこと。予備日は9月30日まで。
また当初はH2AロケットF18打ち上げの後であったが、あちらが8月2日から9月11日に延びている。こちらも延期になった場合、同日の打ち上げはできない。打ち上げ間隔は中二日が基本だが、調整もあり得る。
今回、もし延期になった場合は深夜に発表になるため、翌日に再度打ち上げ準備ができるかというと難しい)
現在の状況について
・会見を行っている現在、打ち上げに向けた電波テスト中だが現在予定より延びており、他の参加者(田中孝治実験主任、吉田裕二保安主任)が会見に間に合わなかった。現場で説明したいとのこと。
(※この後テストが中断し、その時間を使って報道公開が行われた)
・実験班の一員である静岡大学大学院生が休日中に海難に遭い、今朝発見された。我々の仲間が災害に遭われたのは非常に残念である。ご冥福をお祈りしたい。担当分は皆で支援する。彼も成功を望んでいると思うので、一丸となって成功に向かい頑張りたい。
今回の実験について
・今回のロケットの構成は「親」(ロケット本体を含む)−「子」(ノーズコーン部分)−「孫」(先端)からなる。
打ち上げ後120秒・高度約100キロで子を放出し、親との間でテザー(300メートル)を展開。90秒間で展開が終了する。ここに電気を流す。ホローカソードから電子を放出するとロケット本体はプラスに帯電、子がマイナスに帯電する。
予定では290秒後に高度350キロの頂点を描く軌道。
290秒で孫(ロボット)を放出する。アームによるテザーロボット姿勢制御の実験。将来に向けたデモンストレーション的なもの。
310秒以降はブーム(ガスで展開する風船のようなもの)を使ったプラズマの実験。
(※ブームがプラスに帯電するとテザーはマイナスになる)
520秒まで伸展ブームの実験。510秒後は高度100キロなので大気が濃くなっている。
580秒で着水する。
・テザーは将来の衛星同士の制御に応用する。ローレンツ力の利用。電流と磁界の相互作用を利用するもの。
テザーに力が発生するなら、人工衛星の軌道・姿勢を変える方法となる可能性がある。衛星同士をテザーで結ぶ等のアイディアもある。
衛星の運用末期に軌道を下げる助けになるかもしれない。
(※今回はその関係で、ロケットの打ち上げ方位がKSドームの中では設定出来ず、打ち上げはドームの外で行う)
ただし今回は時間が短いので電流を流す実験だけ。テザーによって発生した力は計測しない。
どのくらいの電流が流れるか実際に計測することになる。
テザーの材質は高分子材料(ポリイミド)にアルミを蒸着したもの。銀色である。
・テザーの伸展の仕組みについて、これまではリール・ドラム式だったが、今回は折りたたみ式である。トイレットペーパーでたとえると、回転式で通常の方向に引っ張るとすぐ出るが、縦に引っ張り出すと出にくい。今回はティッシュのように折りたたんだものを引き出す感じである。
・国内では、これまではフェアリングに格納する等のテスト的なもので長いものはできなかった。海外でも10年に二、三回程度の回数で行われたが、うまくいっていない。絡んだり、伸びなくなったり、切れたりしている。
・電子密度が高い場合は実験に適さないため、延期することがある。
・ここ数日、上空の天候が悪いのが懸念材料である。
・今年はゲリラ的な雷雲もしている。突発的に発生し、落雷してすぐ消えるもの。
・以前とは違うレーダーにまた落雷があり、故障したこともある。
(※この25号機の打ち上げは機器の不具合で延びた後、レーダーに落雷に落雷があって再延期していた)
・内之浦の観測ロケット打ち上げは二年前以来。尚、JAXAとしては前回はノルウェーで打ち上げている。
・打ち上げ後の発表の見通しは、2時間程度で速報値を出せるかもしれないとのこと。
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