投稿日 2011年12月20日(火)05時22分 投稿者 柴田孔明
2011年12月20日午前1時30分から内之浦宇宙空間観測所において、観測ロケットS-310-40号機実験結果の報告が行われました。打ち上げ日時は2011年12月19日23時48分でした。
(※一部敬称を略させていただきます)
・登壇者 左から
吉田 裕二 宇宙科学研究所 観測ロケット実験室副室長 保安主任
石井 信明 宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 観測ロケット実験室長
阿部 琢美 宇宙科学研究所 宇宙プラズマ研究系 准教授
配付資料より
・S-310-40号機の実験結果について(速報)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、夜間中緯度電離圏領域における電波伝搬解析を目的とした観測ロケットS-310-40号機を、平成23年12月19日23時48分00秒(日本標準時)に、内之浦宇宙空間観測所から上下角76度で打ち上げました。
ロケットの飛翔および搭載された機器の動作は全て正常で、計画通り発射後60秒に開頭が行われ、観測を開始しました。ロケットは、発射61.5秒後にNEIプローブ伸展、62秒後にFBPセンサ伸展、62.5秒後にFLPプローブ伸展、210秒後に最高高度180kmに達し、全ての観測を終え、内之浦南東海上に落下しました。
中波・長波電波受信機、磁力計、インピーダンスプローブ、高速ラングミューアプローブ、固定バイアスプローブ、地平線センサー等の搭載観測装置は、上昇時下降時を通じて観測を行いました。
発射から約80秒後に高度103km付近において電子密度の高い領域を観測し、ロケットが予想していた高密度プラズマ領域を通過したことを確認しました。
光学班は発射後30秒までロケットを追跡しました。
本日の天候は晴、地上風は北の風3.5m/秒、気温6.7度Cでした。
登壇者から
阿部・こうして実験結果をお伝えできる事を嬉しく思う。S-310-40号機は23時48分に打ち上げられた。打ち上げウインドウは23時から23時50分だったが、電離圏下部の高密度プラズマ層が23時0分には出ていなかったので待っていた。20分から30分が経過し、残り時間が少なくなったが、幸いなことに23時40分の少し前頃から現象が現れ、マイナス5分でホールドしていたカウントダウンを再開し、23時48分に打ち上げた。搭載した6つの測定器は、ロケットの上昇と下降時において全て観測を実行した。ロケットの高度も予測通りで210秒後に最高高度180キロに到達した。
観測だが、狙っていた高密度プラズマ領域は103キロ付近で電子密度が比較的高いところを確認した。今回の速報値は高密度プラズマ領域の高度のみだが、今後空間的な構造を詳しく解析し現象の発生メカニズムを解明していきたい。
質疑応答
南日本新聞・実験は成功したということか。
阿部・我々が規定していた比較的高い電子密度の領域を無事にロケットが通過したのでほっとしている。(高密度プラズマ領域が)高度103キロ付近というのは意外であった。D領域に発生した高密度プラズマ層が周波数伝搬の異常を引き起こすと推測していたが、高度103キロのE領域だった。昼間はD領域のプラズマが電波の伝搬を妨害しているが、夜間はメカニズムが異なるのだろう。予想した高度よりも高い高度に、高い密度の層があり驚いた。
E領域は本来電波を反射するものだが、散乱あるいは吸収する方向に働いたのが予想外で、面白い研究ができる。
朝日新聞・これまでE層で高密度プラズマが見つかった例はあるのか。D層とE層の高度は。
阿部・高度100キロ付近のスポラディックE層が有名だが、それは発生メカニズムもある程度判っている。今回のものは恐らくスポラディックE層とは異なるもので、空間スケールがかなり違っている。一番大きな違いは、スポラディックE層は空間スケールが大きくてイオノグラムで見えるのだが、今回のものは地上観測で見えなかった。今回はスポラディックE層よりも空間スケールが小さいものをとらえたと思う。
高度はD層で60キロ〜90キロ位、E層は90〜140キロ位で、今回のものはE層に入る。これまでE層のものではスポラディックE層を観測しているが、今回のものは空間スケールが小さい、別のタイプの高密度層である。
読売新聞・これまでのものは仮説であったが、今後の解析は。
阿部・これまでのものが間違った固定観念だったかもしれない。昼間の延長線上で考えていた。減衰の原因の可能性はいろいろあるが今回はD層ではなくE層であった。
ロケット搭載のインピーダンスプローブなどはロケット位置での電子密度を非常に正確に測れる。高密度プラズマ層の厚さも詳しく判る。また、電波を使った解析でより広い空間の密度構造も判る。4方向の電波を受信しているので、方向による密度分布の違いを知る事ができる。またロケット位置以外の電子密度も知る事ができるため、水平方向の広がりも今後の解析で判る。
西日本新聞・ロケットは水平で何キロ付近に飛んだか。飛翔7分のうち有意なデータはどれくらいか。
石井・南東方向220キロ付近。予定より少し遠い。高度183kmの予定が180kmだったため。
阿部・伝え聞いているだけなのでまだ判らない。データを解析すれば判る。テレメータは全て受けている。上りは高度80〜90キロから、下りは高度100キロ程度までデータがとれているはず。
・ロケットの速度はどれくらいか。
・石井・最高で秒速2キロくらい。時速にすると7,000キロくらい。
・23時00分では高密度プラズマの現象が出ていなかったのか。
・22時頃から現象は出ていたが、持続時間が短かった。打ち上げまでのカウントダウンである5分間までしっかり減衰が継続しているものを待っていた。
・NVS・今回からアビオニクスが更新されたが、これは今回の実験に必要だったのか。また、動作は正常だったのか。
石井・おかげさまで新型アビオニクスは正常に動作した。速いほど細密なデータがとれる。今まではこれが無かったので、遅いもので我慢していた。
・以上です。
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