投稿日 2012年1月12日(木)15時46分 投稿者 柴田孔明
2012年1月12日午前5時51分(JST)に打ち上げられた観測ロケットS-520-26号機の記者会見です。
※一部敬称を略させていただきました。
・登壇者
石井信明 宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 教授 観測ロケット実験室長
阿部琢美 宇宙科学研究所 宇宙プラズマ研究系 准教授 観測ロケット実験主任
吉田裕二 宇宙科学研究所 観測ロケット実験室 副室長 保安主任
・資料読み上げ・阿部
『宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、熱圏中性大気とプラズマの結合過程解明を目的とした観測ロケットS-520-26号機を平成24年1月12日05時51分00秒(日本標準時)に、内之浦宇宙空間観測所から上下角72.5度で打ち上げました。
ロケットの飛翔は正常で、計画どおり発射後56秒に開頭が行われ、58秒に観測を開始しました。ロケットは、発射後57.5秒にNEIプローブ伸展、58秒にEFDリボンアンテナ伸展開始、58.5秒にFLPプローブ伸展、61秒にIRM伸展、66秒にEFDインフレータブルチューブアンテナ伸展開始、278秒に最高高度298kmに達した後、リチウム放出器に点火、リチウム蒸気を放出し、内之浦南東海上に落下しました。
搭載観測装置の一つ(イオン質量エネルギー分析器)は所定の観測ができませんでしたが、インピーダンスプローブ、ラングミューアプローブ、ビーコン送信機、電場計測器、磁場計測器、太陽センサは、上昇時下降時を通じて正常な観測を行いました。ロケットから放出されたリチウムガスによる赤色雲は、内之浦、宿毛、室戸の各地上観測点で約30分間観測されました。
ロケットに搭載されたビーコン送信機からの電波は6箇所の地上観測点にて正常に受信されました。今回取得されたデータを用いて、詳細な解析が今後実施されます。
なお、今回の観測ロケットでは、平成23年12月19日に打ち上げたS-310-40号機と同様のロケットの点火や管制及び機体計測などを行う新開発の統合型搭載機体管制装置(統合型アビオニクス)を搭載し、その飛翔試験も兼ねて実験を実施しました。この機能も正常で、今後打ち上げる観測ロケットに使用されるこのシステムの健全性を確認することができました。
光学班は発射後44秒までロケットを追跡しました。
本日の天候は晴、地上風は北西の風2.7m/秒、気温 1.2℃でした。
これをもちまして、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所の平成23年度第二次観測ロケット実験は終了しました。関係各方面のご協力に感謝いたします。』
(※以上は発表資料より。http://www.jaxa.jp/press/2012/01/20120112_s-520-26_j.html )
・写真説明(JAXAの発表か、先に掲示板に掲載したものを参照)
画像について、内之浦と室戸で撮影したもの。地平線(水平線の)上の赤っぽいものは朝焼けで、その上にある赤い線の輪のようなものがリチウムの発光である。本来はロケットの軌道に沿って線状に現れるが、その後風にリチウム雲が流される。風が一様なら糸状のまま横に動いていくだけだが、上と下で風が別の方向に吹いているため、糸の形が崩れてゆく。今朝の風が狭い高度差で大きく異なっていたようである。その結果、左右に広がったと思われる。また、ロケットの軌道が下がっていく中で、遠くに行くほど同じ時間での角度変化が小さくなってゆく。輪の上の方は手前で、輪の下のものは後ろの低い高度で光っている。広がりの狭い輪に見えるが、仰角が浅いためそのように見えたと思われる。室戸の6時11分の写真では輪が小さいが、内之浦の写真の16分ではかなり広がっているのが判る。これから高度によって別の向きの風が吹いていたのではないか。
なお、リチウム雲の画像はJAXA、高知工科大学、北海道大学の提供となっています。
・質疑応答
※一部省略しています。
・実験は成功か。
阿部・成功である。
・イオン質量エネルギー分析器で所定の観測ができなかったというのは、データが全く取得できていないのか。
阿部・観測データは取得できているが期待したものではないという意味。これからこのデータの意味を解析したい。
・観測機器は正常だったのか。
阿部・そうである。
・肉眼で宇宙花火が見えなかった理由は何か。
阿部・想定してい時刻より遅れてリチウムが出た。低い高度でリチウムが出たため仰角が小さく、火山灰などで減光し見えなかった可能性がある。赤い光なので特に減光が大きかったかもしれない。当初の想定より暗く、人の目には厳しかった。特殊なバンドパスフィルタを装着したカメラでは見えていた。
(※報道関係者だけでなく、打ち上げ関係者も最初はリチウムが出なかったのではないかと思った程、予想よりも発光が暗かった)
・発光が暗かった原因は大気の状態によるものか。装置は予定通りの動作を行った事になるのか。
阿部・今のところ装置は正常であると思われる。特殊フィルタを装着したカメラのモニタで発光を発見したが、これも予想より下に見えた。
・リチウムのガスを放出した時刻は予定通りか。
石井・計画値より遅れているが、原因は現在調査中。点火時刻(放出予定5秒前)はタイマー設定のため予定通りであった。 発光が始まった画像はまだ出ていない。3地点の画像から割り出したい。
・3回のリチウム放出予定だったが、この画像はそれが撮れているのか。
阿部・我々も知りたいところだが、画像解析を待っているところ。提供した画像では輪っかがひとつに見えるが2回分が繋がっているかもしれない。
・3年前の実験では滴のようだったが、今回輪っかのようになったのは何故か。
阿部・前回は高度が高いため密度が低く、拡散が早くて滴のように見えた。今回は低い高度なので拡散はあまりしないが背景の風で流された。
・今回取得した実験データは良質であったのか。
阿部・リチウムの発光画像は、高度によって非常に極端な速度差のある画像で面白い。電場データも正常に取得できているため、中性大気との比較ができる。
・画像のリチウム放出は何回目のものか判らないか。
阿部・まだわからない。画像は放出から時間が経過しており不明である。
・発光はいつから始まり、どれくらい続いたか。
阿部・午前6時前くらいに発光が始まって、1回の放出による発光が30分くらい続いた。
・ロケットの飛翔時間と着水位置は。
石井・打ち上げ後543秒で着水。600キロ先の南東海上である。
・公開された内之浦からの画角はどの程度か。
阿部・30度から40度ぐらい。南東方向である。
・リチウムの放出が遅れた時間はどれくらいか。
阿部・点火から5秒後の予定が10秒以上になった。正確にはまだ出ていないが十数秒の範囲である。
・飛行した軌道は予定通りか。
石井・頂点が10キロ程度高いが誤差の範囲であり、ほぼ予定通りである。
・リチウムの雲が輪になった原因は何か。風向きが時間によって変化したのか。
阿部・時間ではなく、高度によって風の向きが違うためである。
・昨年9月にアメリカが行った昼間の実験では発光雲が確認できなかったが、その実験結果を受けて改良などはしたのか。
阿部・本来は夕方(日本)→明け方(日本)→昼(アメリカ)の順番を予定していたが、今回の日本の実験が遅れた。昼のリチウム雲の実験は難しい。飛行機からの観測例はあるが、地上からは失敗している。ただしアメリカの実験で観測できなかったのは、実験方法ではなくアメリカのロケット特有の原因ではないかと思われている。装置はほぼ同じ。
・今後、日本は昼間の実験観測にトライするのか。
阿部・いずれはそうしたい。
・トレイル(リチウムの光跡)が広がらなかった原因は何か。
阿部・拡散速度の違いである。高空は大気分子の密度が低いため衝突が発生しにくく、拡散しやすい。低空では密度が高くて衝突が多く拡散しにくい。
・リチウム雲が前回と形状が違っていた理由は何か。
阿部・今回は風が強かった。
石井・夏と冬では風が全然違う。
・5年前との高度の違いはどれくらいか。
阿部・今回のリチウムが光っているのは高度100kmで、5年前の写真は高度200kmほどある。拡散の速度も相当違う。
・観測が出来なかった部分があるが、成功でいいのか。
阿部・成功で良い。
・一般の見学地では見えなくて残念という声が多くあった。
阿部・西日本の各地でカメラを向けていた方々には申し訳なかったが、科学的には貴重なデータが得られた。
・発光雲の大きさはどの程度か。
阿部・計算すれば出る。今は計算していない。
・今後のロケットによる観測計画はどうなっているか。
阿部・今年の夏にS-520-27号機を計画している。これもリチウム放出器を搭載する。ただし、真夜中の実験で月光を利用するため、もともと肉眼では観測が難しい。
(※太陽光などを反射するのではなく、反応して発光する物質を使った実験計画があります。これは肉眼で見える可能性があります。ロケットはS-310を使用予定で、準備状況にもよりますがS-520-27と同日もあり得るようです。またS-310を使い物体を放出する実験がもう一つあります)
・宇宙花火を高知方面から見ると方角はどちらになるか。
阿部・四国の東部からは南の方向で、紀伊半島からは南南西となる。
以上です。
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