投稿日 2012年6月26日(火)00時40分 投稿者 柴田孔明
2012年6月25日午後2時15分よりJAXA筑波宇宙センターにて、国際宇宙ステーション(ISS)から放出の小型衛星の報道公開が行われました。
(※一部敬称を略させていただきました)
・登壇者
宇宙航空研究開発機構 有人宇宙開発ミッション本部 有人宇宙技術センター 主任開発員 土井 忍 (※小型衛星放出ミッション)
和歌山大学 宇宙研究所所長/特任教授 秋山 演亮 (※RAIKO)
東北大学 大学院工学研究科・工学部 助教 坂本 祐二 (※RAIKO)
福岡工業大学 情報工学科 教授 田中 卓史 (※FITSAT−1)
明星電気株式会社 技術開発部 装置開発部 永峰 健太 (※WE WISH)
・小型衛星に関する説明(抜粋)
・「きぼう」からの小型衛星放出ミッションとは
1.「きぼう」からの小型衛星放出ミッションの特徴
・ISSの中で唯一、「きぼう」だけがもつエアロックとロボットアームの組み合わせにより、「船外活動なしに、衛星を放出することかできる」
→打ち上げ環境条件が厳しくない。ISS向けの船内貨物として打ち上げるので、振動等の打ち上げ条件が緩い。
→打ち上げ機会が多い
(各国のISS向け輸送機が利用できる)
→打ち上げ後、軌道上でのクルーによる事前チェックアウトが可能。
(より確実なミッション達成)
(※今回の小型衛星は、ISSから放出された時から「衛星」になります。H-IIBロケット3号機打ち上げの段階ではまだ衛星になっておらずペイロードの一部です)
2.技術実証ミッションとは
・定常的な利用機会の提供に向けて、放出システムの軌道上検証、利用者とのインターフェース条件、衛星放出までのプロセス・運用手順の確立を図る。
→技術実証ミッションを通じて「きぼう」からの小型衛星放出機会を広く周知し、合わせて「きぼう」の多様な利用拡大を図る。
→技術実証ミッションでは、JAXA公募衛星を3機、NASAが提供する衛星を2機放出する。
・超小型衛星「RAIKO」 (※今回、他の衛星が1Uサイズの中、これのみ2Uサイズ)
1.合計3台のカメラで「国際宇宙ステーション」「地球」「星」を撮像。
※カラー広角CMOS、カラー魚眼CCD、モノクロCCD。
※衛星放出から30分以内に国際宇宙ステーションの画像を46枚撮像。
※タイマコマンド機能で、日本に限らず任意の時刻で撮像が可能。
2.キューブサットとしては異例の高速データ通信(通常38.4kbps、最大500kbps)
※2.2Ghz帯送信機、13Ghz帯送信機、13Ghz帯ビーコン送信機の合計3台。
(※キューブサットの場合、通常はアマチュア無線の利用が多い)
3.一辺50cmの膜を展開して高度300kmから急速軌道降下する実験。
・FITSAT−1「にわか衛星」 (※にわか→「博多にわか」より)
・衛星撮像画像(jpeg VGA)を4〜6秒で送る。(5.8Ghz帯、115.2kbps、FSK、RF2W)
・副ミッションとして高出力LEDによる可視光通信実験(人工星を作る)
→夜空にモールスコードで字を書く。時間と観測可能な場所はネットでアナウンスする。
(※北半球向けには緑のLED、南半球には赤色LEDを使用する。これは衛星が永久磁石により方位磁針のように常に磁北を向くため。当初は底面の緑だけだったが、南半球では宇宙を向いてしまう。そのため反対側にも追加した)
・「WE WISH」ミッション概要
1.開発コンセプト
・環境計測を通して人と社会の豊かな環境作りに貢献する。
・人工衛星による観測を一般化し、地球環境の監視・調査を望む多くの人々に、その観測手段を提供する。
2.ミッションの内容
・国際宇宙ステーション(ISS)日本実験モジュール(きぼう)から放出後、軌道上から小型熱赤外線カメラにより、地表面の温度分布を観測する。
・小型衛星データの利用促進(※小型熱赤外カメラを搭載する)
・植生、地表温度の観測(農業資源、温暖化、環境破壊の監視等)
・海洋温度分布の観測
・市販のアマチュア無線機で観測できる。
※送信周波数430Mhz帯、受信周波数145Mhz帯。
※社員有志による明星アマチュア無線クラブHPからデータ取得方法を公開。
・地域技術教育への貢献
・近隣中学・高校での講演、開発見学会の開催、データ受信協力
(※衛星の太陽電池パドルやアンテナ・ブームの展開は、メジャー(巻尺)のような材質と機構で、なかなか凄い勢いで展開します。展開前はPラインと呼ばれる釣り糸のようなもので押さえていて、これを電熱線で熱してカットするそうです)
・質疑応答
朝日新聞:タイムテーブルと星出宇宙飛行士の作業についてお聞きしたい。
土井:ISSでのスケジュールは2週間前から調整するので確定していない。衛星は放出30分後から本格的な運用が始まる。放出は放出機構#1側の2機(RAIKO,WE WISH)から行われる。インターバル時間(調整中)を経て、続いて放出機構#2側の3機(FITSAT-1,NanoRacksCubeSat-1 F-1,TechEd Sat)の順となる。
毎日新聞:意義と今後について。
土井:小型衛星のニーズは内外で多いが、打ち上げロケットが制限されている。今回の方法が貢献できれば良い。
日本テレビ:ロボットアームで放出するのは星出宇宙飛行士なのか。
土井:まだ調整中である。地上からも軌道からもコマンドが送れる。最初のもの星出宇宙飛行士が起動する予定。
読売新聞:それぞれの衛星の制作費をお聞きしたい。
RAIKOは通信基盤を新規開発したため費用がかかった。3年で3千万。
FITSAT-1は地上局も含めると1千万で、衛星は700万くらい。
WE WISHは2千万程度。
不明:NASA提供の衛星の目的などをお聞きしたい。
土井:これらの衛星についてはNASAか対応する。
(※当初、これら衛星の公開は予定されておらず、当日になって追加公開された。NanoRacksCubeSat-1 F-1は、CubeSat Magnetometer実証実験、C328低解像度カメラの実証実験、温度センサの実証実験が行われる。TechEd SatはSPA Hardware/Softwareの実証実験が行われる。解説員などの参加は、今回は無し)
フリー・林:軌道の高度が低いが、このミッションの意義はどういった点か。小型衛星は営利目的では参加できないが、明星電気はどういった目的で参加したのか。
秋山:教育と技術革新のための手段である。この高度は薄いながらまだ大気があるが、いろいろな実験を行いたい。
永峰:非営利で社会貢献のため活動している。また、衛星を1から開発する事はチャンスであった。若手の鍛錬の機会にもなる。
小型衛星のビジネス面では、これより大きいサイズにもチャレンジしたい。
東京新聞:今回担当する星出宇宙飛行士に何か一言。
坂本:最後の手順書は学生が書いたが、星出宇宙飛行士がやってくれるというので日本語で書いた。英語だと微妙な所で間違いが出るかもしれないので、ありがたい。
田中:ピンを抜くのを忘れないでねと(笑)。
永峰:やさしくピンを抜いてねと(笑)。どうかご無事に。
(※各衛星は起動するためのピンが挿入されており、放出前に宇宙飛行士が抜き去る事になっている。忘れると起動しないので非常に重要である。柴田の想像ですが、抜き去ったピンを確認するまでは衛星の制作者は落ち着かないでしょう)
フリー・大塚:宇宙ステーション補給機(HTV)で打ち上げるが、ロケットに直接搭載する場合と比較してどうか。有人であることの影響は何かあるか。
坂本:数字の面で打ち上げ要求は低い。振動試験も半分以下である。だが手間は変わらない。振動が大きい(過振動)場合でもトラブルが出にくいメリットがある。
シャープエッジには気を遣った。書面だけでなく実際に確認した。3週間前に5ミリの削り忘れが判明してしまい、分解せずそのまま削って表面処理をした。
NVS斉藤:今日が衛星の引き渡しだが、学生の士気などをお聞きしたい。
坂本:さきほどの衛星公開時に、私が触れられなかったのは、衛星の作業を学生が担当していて、私がやると壊す危険があるため。彼等が殆どの作業を全て行っていて、この一週間はドタバタしていた。日曜の昼に完成し、早く上がって結果を知りたいという気持ちがある。しかしバグがあると困るので心配。
田中:昨日最終チェックをして、ようやく早く帰れた。ほっとしている。
永峰:地域の中高生が来て開発を見ているが、A4用紙にぎっしりと報告が来て、かなり熱い内容であった。
以上です。
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