投稿日 2012年8月8日(水)00時57分 投稿者 柴田孔明
2012年8月7日16時30分に観測ロケットS-310-41号機が内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。打ち上げ時間帯は低い雲に覆われていて、打ち上げ後数秒でロケットは見えなくなり、轟音だけが響き渡りました。一般と報道が同じ場所で見学しましたが、夏休み期間という事もあり、子供連れが多くて賑やかな打ち上げ見学となりました。
・登壇者
石井信明 宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系教授 観測ロケット実験室長
鈴木宏二郎 東京大学 基盤科学研究系 教授
吉田裕二 宇宙科学研究所 観測ロケット実験室 副室長 保安主任
(※敬称を一部略させていただきます)
・発表文読み上げ・石井
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、小型インフレータブルカプセルの飛行実験を目的とした観測ロケットS-310-41号機を平成24年8月7日16時30分00秒(日本標準時)に、内之浦宇宙空間観測所から上下角81度で打ち上げました。 ロケットの飛翔および搭載機器の動作は正常で、計画どおり発射後60秒に開頭が行われ、191秒に最高高度150kmに達した後、内之浦南東海上に落下しました。
搭載実験機の小型インフレータブルカプセルは、計画どおり発射後90秒にエアロシェルカバーを開放し、95秒にガスの注入を開始し、100秒にロケットから分離・射出されました。射出後は、約20分間にわたり、温度、圧力、加速度、姿勢等のデータおよび画像データを正常に地上局へ送信しながら降下を続けました。今回取得されたデータを用いて、詳細な解析が今後実施されます。
光学班は発射後3秒までロケットを追跡しました。本日の天候は曇り、地上風は東の風1.1m/秒、気温26℃でした。
これをもちまして、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所の平成24年度第一次観測ロケット実験は終了しました。関係各方面のご協力に感謝いたします。
(※発表文はここまで)
石井・本日は沖縄の西にある台風の影響が残って天候が良くなく、朝からいいコンディションではなかったが、夕方には回復し雨は降らないという見込みで打ち上げ準備を進めた。13時30分にロケットを格納庫からランチャードームに移動し、順調に準備を進めて打ち上げができた。読み上げた通り、インフレータブルカプセルのガスによる展張(膨張)、分離、挙動等などのデータは正常に取得された。
配付資料の写真は、ロケットから分離されて3秒後のものと、カプセル自身から展張したものを撮影したものです。
・質疑応答
(※今回の質疑応答では、殆どの報道機関が所属と氏名を名乗りませんでした)
不明・実験機を分離した高度などは。
石井・100秒後、高度111キロ、毎秒1キロメートル。
不明・傘の展開は95秒からだが、完了したのはいつか。分離時には膨張は終わっていたのか。
鈴木・まだ取得した動画を解析中です。分離時の写真では膨張は完了している。
石井・地上実験では3秒から5秒くらいで完了している。
不明・表面温度はどうだったか。
鈴木・温度計の解析が必要だが、想定した最高温度(300度C)より低かった。熱によるダメージは検出されていない。
不明・海上に落下した時刻はいつか。
石井・落下位置が射点から200キロくらい離れ、水平線の向こう側になるため正確ではないが22分後に着水したと考えられる。カプセルの着水位置は180キロの南東の海上。200キロはロケットの落下位置。最高高度はどちらも約150キロである。
不明・配付された資料の画像はどういった状態か。
鈴木・上の写真は分離時3秒のもので、ロケットからカプセルの先端が見えている。下の写真はカプセルの裏側に搭載されたカメラから見たもの。
不明・カプセルの分離後、最高点は。姿勢はどうだったか。
石井・高度150キロ。ロケットとカプセルの間隔は離れつつ飛行した。
鈴木・姿勢はまだデータを解析中。軌道に関しては正常であったようだ。
不明・動画を受信できたか。
鈴木・搭載した4台分を正常に取得できている。
石井・回転しながら降りてきている。
不明・今後、地球帰還機への応用はするのか。
鈴木・そのための基礎技術となる。この先はまず今回のデータを検証し、確認した後に具体化していく。
NVS・音の伝搬の実験はどうなったか。この実験の目的は何か。
石井・高度約100キロまで音波を計測できた。これから解析したい。目的は薄い大気を伝搬する音を計測し、大気の状態を知る。ロケット自身の音も観測している。なお、この実験に参加したのは高知工科大学です。
不明・カプセルの実験に参加した大学は。
鈴木・東京大学、青山学院大学、東京工業大学、日本大学、東海大学、九州工業大学です。
不明・最高温度300度Cは今回のカプセルだが、この機構が無い機体はもっと熱くなるのか。
石井・重量と面積によるが、はるかに熱くなる。
鹿児島放送・はやぶさのカプセルやシャトルと違う手段だが、これの意義と今後の開発は。
鈴木・これは傘のようなもので面積の割に軽い。空気の薄い高々度、あるいは大気の薄い惑星で効率よく空気ブレーキが利く。そういったところで使える。今後の開発は今回の結果を見て考えていくことになる。具体的な目的のためではなく、技術検証を行っているところ。探査機などが考えられる。
同・アメリカの探査機が着陸したばかりだが、日本の宇宙開発の意気込みは。
石井・是非とも我々も火星や金星探査に応用していきたい。
不明・こうのとり3号に搭載されたi−Ballが再突入時にデータを収集するが、連携はするのか。
石井・直接は無いが、これまでの再突入機・カプセルのグループで共通している。熱の解析と熱に耐える材料については共通項がある。
不明・現時点で倍ぐらいのものを作っているそうだが、どれくらいの大きさまでいくか。
鈴木・今回のサイズができたなら次の大きさといった感じ。作る事自体が技術的チャレンジとなる。最大はまだ言えないが、試作の2.5mよりもう少し大きくできる状態と思う。
不明・インフレータブルの意味は。
鈴木・空気やガスを注入して構造物を膨張させるという意味。
石井・膨張とちょっと違ってパラシュート、傘などの展張という意味。
不明・ニーズがあるところに応用があるが、これを実用化するのか。
鈴木・技術的な階段を上がることができたが、まだ完璧といえる状態ではない。大きさを変えるなどの研究開発をしていきたい。
不明・カプセルの大きさについて。
鈴木・直径や長さのデータは真ん中の金属部分です。
不明・温度を上げないようにしているのは形状と素材による効果か。
鈴木・大きさに比べて軽い事が重要。材料はいろいろあるが、打ち上げ時に折りたためて、展開できるものが選択肢として残った。
NVS・今回の柔構造を研究している人は少ないと思うが、どんな面白さがあるか。
鈴木・手本が無いので自分たちで試行錯誤できる。デザインする魅力がある。風圧で空気の流れが変わる構造で、難しい故に面白い。
NVS・小型化と大型化の展望。
鈴木・どちらという事は無いが、いろいろあると思う。改良によって材料やデザインが変わる可能性もあり、楽しみである。
以上です。
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