投稿日 2012年12月27日(木)01時15分 投稿者 柴田孔明
2012年12月26日午後より、「はやぶさ2」一次噛み合わせ試験前の探査機公開が行われ、それに併せて探査機の概要説明と質疑応答が行われました。
(※敬称を一部略させていただきます)
登壇者
國中 均 はやぶさ2プロジェクトマネジャ/JSPECプログラムディレクタ
渡邊 誠一郎 はやぶさ2プロジェクトサイエンティスト
・概要説明:國中
「はやぶさ2」についてようやく形が整ってきたので、公開させていただくことになった。
(※注:「はやぶさ2」は、まだ正式名称ではないとのこと。ただし他の呼び方も無い様子)
・「はやぶさ2」が目指すこと
1.探査の意義
「未踏峰への挑戦」−太陽系内の自在な移動。
未踏峰の小惑星への探査を行うことで、地球から太陽系天体を往復してくる技術を確立する。小惑星の自転方向・形に応じ、自在なアプローチを実現し、科学成果を最大にする。またラグランジュ点利用などの新しい試みに繋がる検討を行う。
2.科学的意義
「我々はどこから来たか」−太陽系の起源と進化、生命圏の原材料
地球、海、生命の原材料物質である、鉱物、水、有機物は、太陽系初期には、互いに密接な関係を持って進化した。この相互作用を記録した始原天体(C型小惑星)を間近で観察するとともに、表面サンプルを地上に持ち帰って分析することで、太陽系の起源・進化や海・生命の原材料物質を調べる。
3.技術的意義
「技術で世界をリードする」−日本独自の深宇宙探査技術の確立
「はやぶさ」は世界初の小惑星サンプルリターンとして、数々の新しい技術に挑戦したミッションであった。その経験を継承し、より確実に深宇宙探査を行える技術を確立する。さらに、新たな技術にも挑戦し、今後の新たな可能性を開く。
(※衝突装置による人工クレーター形成:宇宙衝突実験)
・「はやぶさ」と「はやぶさ2」の比較
1.通信系:Kaバンド通信系を追加し、より多くのミッションデータの送信に寄与できる。
(※現状でKa帯の地上局アンテナは日本国内になく、海外に依頼することになる)
2.イオンエンジン:電気の力でそのイオンを加速して後方に押し出すことで速度を得るが、その高出力化を行った。
3.小型ランダ(MASCOT:Mobile Asteroid Surface Scout):ドイツからの申し出により搭載予定。小さな天体へのローバ・ランダの着陸技術を実証し、獲得する。
(※MASCOTはミネルバと同様の移動方法になる予定。他にミネルバ級の分離ロボットを3機搭載予定)
4.姿勢制御装置(リアクションホイール):「はやぶさ」で3台中2台が故障したため、「はやぶさ2」では4台搭載し、冗長性を高める。
(※Z軸が増えることになる。国産ではなく米国製)
5.衝突装置:宇宙空間にさらされていない新鮮な内部物質を取得、研究に寄与する。
6.近赤外分光計・中間赤外カメラ:C型小惑星の含水量や熱特性を調べるため、赤外線観測を充実。
7.金星探査機「あかつき」の不具合を反映:推薬(燃料)の配管系統を見直した。
(※あかつきでは逆止弁の閉塞があった)
8.ミッション機器:水や有機物の探査に合わせた機器を選定した。
*その他 (はやぶさ)→(はやぶさ2)
サイズ:1m×1.6m×1.1m → 1m×1.6m×1.25m
推進薬込み重量:510kg → 約600kg
打ち上げ年/ロケット:2003年5月9日/MV5 → 2014年度/H-IIA(2014年12月が目標)
小惑星探査期間:約3ヶ月 → 約18ヶ月(予定)
試料採取:2回(表面のみ) → 3回(目標値、表面と表層下の採取を試みる)
地球帰還:2010年6月13日 → 2020年末(予定。着陸予定地はオーストラリアで同じ)
探査目標天体:イトカワ(S型小惑星) → 1999JU3(C型小惑星)
小惑星構造:ラブルパイル → 不明(はやぶさ2探査により解明)
平均密度:1.90±0.13g/立方センチメートル → 不明(はやぶさ2探査により解明)
※以下は聞き取り分から。
・サンプルを入れるコンテナ室は「はやぶさ」では2つだったが、「はやぶさ2」は3つになる。密閉方法などが改良される模様。
・H-IIAロケットの場合、「はやぶさ2」単体では軽いためサブペイロードが必要になるはずだが現段階では未定とのこと。「あかつき」では「イカロス」を搭載した。
・ターゲットマーカーを3個から5個に増加予定。
・「イカロス」に搭載した分離カメラを「はやぶさ2」にも搭載したいとのこと。
・サンプラーホーンは、より採取しやすい形状に改良される。
・小惑星の選定(C型小惑星)
1.科学的意義の観点
初期太陽系の進化を記憶した始原天体であり、水・有機物の存在が期待できる小惑星を探査することがミッションの科学要求である。地上からのスペクトル観測でC型小惑星と確認された天体は、その有力候補となる。
2.技術的可能性の観点
小惑星の軌道、自転周期、自転軸の方向により、探査機が往復でき、かつ、タッチダウンができる天体が候補となる。
(※地球の近傍でこの条件に合うC型小惑星は少ない。大きすぎると重力が強くて着陸が難しい。自転が高速だと着陸が難しい。なお、NASAやESAの小惑星探査機も往復する場合は同様の観点となる。小惑星が多いメインベルト帯はまだ難しい)
・探査対象天体1999JU3に向かうためには2014年に打ち上げなければならない。次の機会は10年後になってしまう。
・各機関との協力概要
1.米国
JAXAは「はやぶさ」初号機と同様、深宇宙追跡支援等の支援をNASAから受け、JAXAは試料の一部をNASAへ提供する。(協議中)
2.欧州
JAXAは、ドイツ航空宇宙センター及び仏国立宇宙研究センターが共同開発した小型ランダ(MASCOT:Mobile Asteroid Surface Scout)を「はやぶさ2」に搭載する。代わりに欧州の追跡局、開発中の地上試験(落下棟、微少重力実験)の機会を得る。
3.豪州
はやぶさ2帰還時の着陸場所の提供協力を受ける。(協議中)
・質疑応答
毎日新聞:何をどうぶつけて小惑星にクレーターを作り、何を得るのか。
渡邊:小惑星に銅で作った弾をぶつけて、内部の新鮮なサンプルを取得したい。また、小惑星は衝突を繰り返して壊れ、今のこの大きさになったと思われる。人工的なものをぶつけ、どんな衝突・放出が起こるかを研究する。これは地上ではなかなか再現できない。
國中:円柱状のものから火薬の力によって、重さ数キロの銅板を秒速数キロで飛ばす。銅板はヘルメットのような形に変形して飛ぶ。これは探査機から分離された後、タイマーで起動する。
毎日新聞:着陸を複数回行うのか。
國中:まず初代「はやぶさ」同様の表面着陸を数回行い、次に今回新たに試みる衝突体をぶつけた後の着陸を行う。
渡邊:衝突装置を切り離した後、探査機が小惑星の裏側に隠れる必要がある。タイマーは40分くらい。衝突後、大量の破片が舞い上がったものが収まったあとに着陸してサンプルを採取する。
國中:「はやぶさ」は3ヶ月の滞在だったが、「はやぶさ2」は一年半(約18ヶ月)滞在するため、十分な送信時間がある。
NHK:このプロジェクトを引き受けた経緯など。
渡邊:直前の今年10月から引き受けた。プロジェクトはもっと前から始まっていたが、もっと広い研究者の参加が確実な成功のためには必要であった。初号機からの方の参加が当たり前と思われていたので、新しい参加者を求めていた。私の専門は惑星の太陽系・惑星形成論。小惑星の探査から惑星の成り立ちを知ることができるため、私でも役に立つことができる。
朝日新聞:打ち上げまでの予算は314億円だったが、変更はあったのか。
國中:これは地球帰還までの予算だが、変わっていない。
読売新聞:イオンエンジンの推力増強はどういったものか。2014年の打ち上げチャンスはいつか。
國中:イオンエンジンは私の研究分野であり、工夫をして推力を増強している。ただ抜本的に変更すると初代からの資産を使えなくなる。今回は8ミリニュートンから10ミリニュートンに増強した。
打ち上げ時期は2014年12月を予定。これを逃した場合2015年6月と同年12月もあるが到着時期(2018年)は同じ。このため打ち上げが遅れるとイオンエンジンの運転ノルマが上がっていく。2014年12月だと80%の稼働率だが、これを逃すと96%といった殆ど休めない稼働率になる。
産経新聞:今日の段階では構造体と太陽電池パネルだけがフライト品だが、この先打ち上げまでどのような工程があるか。
國中:現在は相模原で機械環境試験中である。今はだいたいの形ができあがった状態。今のところ順調である。年明けに筑波で音響試験を行う。1月中頃に相模原に戻る。
現状は重さを合わせるダミー機材を搭載している。機器を積み込んだ電気噛み合わせは5月頃で、ほぼ完成した形になる。
その後いったん分解し、コンポーネントの整合試験、単体の環境試験を行う。
来年10月に再度組み立てて、各種試験を行う。2014年の夏に完成予定となっている。
今後は完成品となりクリーンルームに入るため、公開は難しくなる。今日のタイミングは近寄って見てもらうには好機である。
以上です。
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