投稿日 2013年5月31日(金)07時11分 投稿者 柴田孔明
2013年5月に、低ソニックブーム設計概念実証プロジェクト第2フェーズ試験(D−SEND#2)の記者説明会(5月13日)と機体公開(5月30日)が行われた。
(※敬称を一部省略させていただきます)
・記者説明会(5/13)の登壇者
JAXA航空本部 D−SENDプロジェクトチーム
プロジェクトマネージャ 吉田 憲司
JAXA航空本部 D−SENDプロジェクトチーム
サブマネージャ 本田 雅久
・機体公開時(5/30)の登壇者
JAXA航空本部 D−SENDプロジェクトチーム
プロジェクトマネージャ 吉田 憲司
富士重工業株式会社
航空機設計部 担当部長 加茂 圭介
・低ソニックブーム設計概念実証(D−SEND)プロジェクトの概要説明
(※JAXA資料より抜粋)
第1フェーズ(D−SEND#1)・低ブーム及びN型波形用軸対称物体落下試験(平成23年に実施済)
・低ソニックブーム設計概念を適用した供試体によるソニックブーム低減の技術実証
・空中ソニックブーム計測技術の確立
第2フェーズ(D−SEND#2)・低ブーム設計機体の落下試験(2013年夏に予定)
・JAXA固有の低ソニックブーム設計技術を用いて機体の先端と後端にソニックブーム低減化を図った航空機形状の「超音速試験機(S3CM: S-cube ConceptModel)」を使用。今年7〜8月、スウェーデンエスレンジ実験場において、気球で高度30kmに浮上させ、切り離し。落下速度により超音速に達した機体を、マッハ約1.3、経路角50度で滑空させ、直下に発生するソニックブーム波形を計測する。
・D−SEND#2:重量約1トン、全長7.7m、自律飛行、着陸装置無し、制作数2機
・質疑応答
八重洲出版:経路角50度とは何に対しての角度か。
本田:水平に対して50度である。スピードによって衝撃波の角度が変わるが、マッハ1.3の場合は50度にすると地面に届く際に衝撃波が水平になる。
NHK:技術目標で巡航揚抗比がコンコルドに対して14%向上するというが、それはどのくらいか。
吉田:揚力と空気抵抗の比がコンコルドは約7、現在の旅客機は約14で、この数値が大きいほど経済性が良くなるが超音速機では難しい。我々の案では8以上にすることで14%改善。
NHK:(技術目標の)ソニックブーム0.5psf以下は実用化のレベルか
吉田:研究計画ではコンコルドの半減が目標。30センチのところに500グラムのものが乗った状態が1psf。コンコルドの2psfだと音がうるさい。しかし現在では半減した1psfでも満足されない。もっと厳しく0.5psfぐらいに規制する方向にICAOで議論されている。2016年頃を目処に決めようという話が出ているため、それを先取りしている。小型・軽量化とソニックブームの低減技術の合わせ技で達成できると見込んでいる。
NHK:このプロジェクトは2005年くらいから研究開発をやっているが予算はどのくらいか。
吉田:2009年頃からトータル40億相当の予算で行っている。
読売新聞:ソニックブームの波形の急激さを無くす技術はどういったものか。
吉田:ソニックブーム低減は元はNASAが開発した理論。しかしそれは先端のみで水平尾翼などの影響は含まれていない。そのため我々は胴体や主翼、水平尾翼の構造を設計して、波形のピークを分散させている。
また空港騒音を下げるにはエンジンの推力を下げる必要がある。しかしこういった機体は揚力が低くなるので軽量化が必要となる。
読売新聞:機体に使われている複合材は何か。
吉田:これはベーシックな複合材である。マッハ数が上がると表面温度が上がってアルミ等では熱で駄目になる。チタンは高価で加工が難しい。マッハ1.6ぐらいならベーシックな耐熱複合材で大丈夫ではないかと予想されている。
レスポンス:後端ブーム低減設計特有の機体がうねった様子は見て判るか。
吉田:はっきりと判る。
本田:機体後端が広がっているのも特徴です。
NVS:試験機を2機製作したが、実験後に回収するのか。
本田:実験は1機1回の計2回で、2機とも回収はせず、地表にクラッシュさせる。機体内に搭載された機器が多いのと、準備期間の関係である。
NVS:超音速飛行の位置からソニックブームの影響が無い範囲はどのくらいか。
吉田:距離の4分の3乗で減衰する。指標はまだ決まっていない。
NVS:コンコルドは騒音などの関係で洋上でしか超音速飛行ができなかったが、これが実用機として開発が実現すれば陸上でも可能になる技術なのか。
吉田:指標を満たせば飛行が可能になる。目的地までの時間短縮を目指すと、どうしても陸上での音速飛行が必要になる。
(※6時間以内ならエコノミー症候群が起こりにくい。機体が小さいと搭載燃料などの制限で飛行距離が短くなる。今回想定している最大50人乗りの超音速機ではシンガポール付近までとなる。現在のところ実用機の開発は予定されていない)
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