H-IIAロケット49号機の打ち上げ中止記者会見
2024年9月16日午前10時から行われたH-IIAロケット49号機の打ち上げ中止記者会見です。
この日に打ち上げ予定だったH-IIAロケット49号機は、高層風が条件を満たさないとして同日午前4時16分に打上げ中止が決定しました。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 鹿児島宇宙センター所長 打上安全監理責任者 川上 道生
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 技師長 H-IIA打上執行責任者 徳永 建
・状況について(徳永)
H-IIAロケット49号機による情報収集衛星レーダ8号機の打上げでごさいますが本日(2024年9月16日)の14時24分20秒を打上げ時刻として作業を進めておりましたけれども、打上げ時の高層風が条件を満たさないという事を確認いたしまして、本日の打上げを中止することと判断いたしました。新たな打上げ日につきましては、決定し次第お知らせいたします。
・質疑応答
読売新聞・明日打ち上がる可能性はあるか。
徳永・今、機体は射点にある状況ですが、このあと機体をVABという整備棟の方に返送いたします。明日の打上げの予定はございません。
NHK・今回2度目の延期の判断だか、次の打上げ日は未定で良いか。2度目の延期で今はどんな思いか。
徳永・現状においては打上げ日は未定となります。このあと天候判断をしてまいりまして、打上げが設定できるか確認してまいります。今回2度目ということで、1回目は雷とか雨があって打上げ日を伸ばさせていただいた。今回は高層風という事で、ご承知の通り台風13号が通過いたしました。今回も台風の通過後の状況ということで非常に難しい。気象条件に左右されてしまった事は残念な思いでありますけども、安全確実に行うための判断という事で、ここはまた次の打上げ機会を狙うという事を集中していきたい。
KYT・H-IIAとH3では発射台が異なるのは承知しているが、来月にも控えている中で近隣の住民や漁業関係者、警察の方々との協議も含めて、そちらに打上げ日が影響することはあるか。
徳永・このあとH3の4号機の打上げ日が公表されているのは承知しているが、それに向けての影響というのは今後49号機の打上げのタイミングを見計らって影響を確実に評価したいと思っています。影響を評価するというところをやっている。
NVS・今後の予定について、H-IIAを優先するのか、H-IIAが遅れてくるとH3の方を優先して打ち上げる可能性があるのか。
徳永・今回の打上げについては気象条件で、特に機体と搭載している衛星に問題があった訳ではございません。従っていつでも打ち上げられる状態にありますので、気象条件を見計らって打ち上げられるタイミングに早急に打ち上げていきたい。4号機もこういった気象条件では打ち上げられないと思いますし、そういった意味でも49号機をしっかり確実にやっていきたいと思います。
共同通信・中止の条件となった高層風について噛み砕いて教えて下さい。
徳永・高層風の条件というのは、ロケットの打上げ後に、万一機体のトラブルがあった時に指令破壊が想定されます。そういった場合でも陸上の警戒区域の外に出ないような形をとらないといけません。こういった風の条件を確認しながら、警戒区域外に破片が落下しないことを確認するという事を行って打上げを行っている。それが高層風による制約条件という事になります。
川上・付け足すことはございませんけども、(配付資料の)制約条件に書かれている通り、飛行中に破壊等が起きた場合に破片が警戒区域外に出ない事を確認して安全に打ち上げる。それが守れない可能性があるという事で中止という事です。
フリーランス鳥嶋・種子島からの打上げで最初に決めた設定日時で打ち上がったのが2020年の43号機が最後と伺っていて、ここ数年は主に天候不良で延期があるが、これは種子島の立地とか気候で天候不良の日が多くなっているのか、それとも諸外国でも同じくらいの程度で天候不良による延期というのがあるのか。
徳永・諸外国の天候事由による延期率がどの程度かというのは今持ち合わせておりません。種子島は多少南国という事も考慮に入れないといけないが、天候悪いときに打上げが重なってしまうのは確率的はいくらかあると思っているので、44号機以降こういった形で伸ばすのがずっと続いているのは、非常に残念なタイミングであったなと思います。
フリーランス鳥嶋・何十年も前から種子島で打ち上げているが、昔と比べて気候変動などで悪天候になる事が多くなったといったデータや個人的印象はあるか。
川上・1年前の延期が似たような状況で、上空の風が東向きだった。台風の進路も秋口になってくると本当はカーブするはずが中国大陸に向いているとか、偏西風が北に寄ったままとか、異常気象と言ってよいのか判りませんが、ないこともないのかなと個人的印象は持っています。
産経新聞・中止の理由をもう少し噛み砕くと、発射地点上空で何かあった場合に警戒区域外に機体や破片が飛び散ってしまう可能性がある程に強い風が吹いたという理解で良いか。
徳永・今回のケースではおっしゃる通りです。区域外に飛び散る程の、特に東風方向の風が強かったというのか主要因です。
産経新聞・打上げ日の設定が台風があり、秋雨前線の予想もあり、非常にタイトで難しい設定だったと思うが、新たな打上げ日を設定するにあたり、配付資料の週間気象情報によると現時点では22日までは雷や大雨が予想されており難しいと見て取れるが、今後新たな期日設定が難しい状況が続きそうという見方をしているのか。
徳永・今回の打上げ日設定においては台風の通過、それに伴って高気圧の張り出しがあり、その一方で台風14号が新たに出来て、そこの風が台風の成長に伴って強くなる状況で、今回は16日しかないような状況の中で進めてきたが、結果として打上げには適さない条件だったという状況でした。今後の気象としては非常に難しい状況が続きます。週間気象情報にあるように、地上の天候状況に発雷とかがありますし、一方でそういう時は今回の制約になった東風が弱くなるというような状況もあるので、非常に難しい事になってまいります。この先の打上げについてはまだ詳細をこの後見ていくので、今日この後また確認して、打上げの設定が可能かどうかを判断していこうという計画にしています。
産経新聞・現時点の感触でかまわないので、次の打上げ日が数日のずれではなく今月下旬など大幅にずれる可能性が出て来たという捉え方で良いか。
徳永・そこも含めてこのあと慎重に見たいと思っています。まだこちらの中での議論ができていないのでこのあと確認していきたい。
朝日新聞・高層風の条件は風速の数字でいくつ以上なら満たさないと見ているのか。
川上・風速いくらという簡単な制約ではございませんで、高度20kmくらいまでの風の予測に基づいて解析を行うものでございますので、一概に風速で説明できるものではございません。
朝日新聞・東向きの風が強かったということで、その風向きなども考慮して判断するのか。
川上・風向きと風速のプロファイルをインプット条件として解析をするという事でございます。
朝日新聞・次の打上げだが、先程の質疑で明日は予定していないとのことだが、週間天気予報の18日は昼に雷が無いようだが、このままの予報だと18日は出来そうなのか、それとも今の時点で厳しいのか。
徳永・18日は雷が無いが風がきつい状況と確認できているので、18日は打上げを設定しないと考えている。ですので、それ以降のところで見計らう必要があり、そのデータを確認していく予定としています。
朝日新聞・今時点で言えるのは、どれだけ最短でも19日以降だが、今の予報では19日以降も厳しいのか。
徳永・はい、そのように捉えていただいて結構です。
朝日新聞・H3の4号機打上げについて今後精査するとのことだが、9日の打上げ前ブリーフィングで予定通りだとしても数日くらいしかバッファが無いと説明されていたと思うが、H-IIAが打ち上がってからH3が打ち上げられるまでに、どのくらいの期間があれば物理的に可能なのか。
徳永・H3という物とH-IIAという物で決まる話をお尋ねかと思うが、射点が違うところもございますし、最短でどれくらいの間隔でいけるかという所については個別に数字はあるが、今は私の頭の中には入っておりません。今回はその状況を踏まえても、ブリーフィングの時に申し上げた日にち程度、そこまでの作業状況もございますので、そういった日にち程度の猶予を持っていたという事の説明だったと考えています。
南日本新聞・H3への影響の確認だが、射点も違うので今の段階では影響があるかまだ判らないという事か。
徳永・影響のところを精査をしないといけない。現時点で影響の度合いが如何程か、影響があるのか、工夫ができるかという事も含めて、49号機の打上げが終わった後に判るようにしたいと思っています。
川上・同じ事ですが、現時点で49号機の打上げ日自体も決定できていない状況で、いろいろ考えることは出来ますが、具体化しようと思いますと、実際上がって見て詳細を検討すると、そういう事で進めていこうとしておりますので、今時点ではこのような回答になります。
NVS・機体返送の時間が決まっていれば教えて下さい。
徳永・9時40分より機体移動を開始いたしました。恐らく今整備棟の方に到着した後に据え置いている状況にあると考えています。
MBC・1回目の延期により今日の打上げであれば3連休に重なっていて、楽しみに見に来られる予定の人もいらっしゃると思うが、そういった方に伝えたい事はあるか。
徳永・おっしゃる通りで前回11日の設定は平日だったので、今回は休日になったと皆さん思われたと思います。特に今、射点の空を見ていただくと、非常に晴れている状況もありまして、非常に悔しい思いをさせてしまったのではないかと思います。そういう意味では非常に残念だったということで、次の打上げはなんとか確実に行うようにすることでやっていきたいと考えています。
フリーランス鳥嶋・諸外国のロケットは延期しても翌日打てるものもあるが、日本のロケットは燃料を入れた後だと最低でも中2日かかると伺っているが、この点が打上げビジネスや受注の競争において不利となっているのか、それとも衛星の顧客から天候なら仕方ないと諦めてもらえるのか。またH-IIAが次で引退という事で次のH3に関しては受注活動も含めてと、同時に年間6機以上打ち上げるという事で、中2日とか次の打上げが他の国より狙いにくいという事で、そういったところを改善していく動きはあるか。
徳永・現時点で不利になっているとか、そういう状況は聞いておりません。いかなる条件であっても極力打上げられるタイミングで打ち上げられるようにしていくのは、ローンチサービスプロバイダとして目指す姿ではないかと思っていますので、それに向けた努力はこれからもしていきたいと考えているところです。そうしますと、どうしても物理的にできないところもありますし、そこは技術的に手を打っていくとか、また関係各所との調整とかがあればそういったところの打開策を模索していくとか、そういう事を考えていくのが重要ではないかと思っています。
川上・私自身はH3の責任者ではありませんが、いろんな自在性を高めるというのは何をおいても必要なことだと思いますので、H3ロケットもこれで完成という事ではなくて、磨いていく中で今おっしゃっていただいたような事も考えていくものだと思っています。
NHK・昨晩に機体移動をしたが、どこまで作業を進めて、4時過ぎの中止の判断に至ったか。
徳永・4時の判断はひとつのゲートを設けておりまして、ロケットの機体に燃料を充填して良いかという判断ポイントを設けています。そこからは非常に危険な状態になっていく事もありますので、退避環境を確認するという所も含めてそこで判断して次に行くというステップになっている。推進薬を充填する段階までの準備を進めても良いかを判断するポイントでした。
NHK・今回は燃料を充填する所の判断がNoだったので、燃料は充填せずにVABに戻したという事か。
徳永・はい、そうです。
以上です。
会見前の射点方向。この時点ではH-IIAロケット49号機が射点にありました。
このあと9時40分頃からVABに返送されています。
会見後の射点方向。竹崎展望台の屋上より撮影。
この日の種子島宇宙センターの週間気象情報。