宇宙作家クラブ
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No.1937 :打ち上げ時の写真 ●添付画像ファイル
投稿日 2016年1月16日(土)01時05分 投稿者 柴田孔明

観測ロケットS-310-44号機の打ち上げ
(画像提供:JAXA)


No.1936 :S-310-44号機打ち上げ後記者説明会 ●添付画像ファイル
投稿日 2016年1月16日(土)01時04分 投稿者 柴田孔明

 観測ロケットS-310-44号機が2016年1月15日12時00分00秒(JST)に打ち上げられ、14時から打ち上げ後の記者説明会が行われました。
(※一部敬称を省略させていただきます)

・登壇者
富山県立大学 情報システム工学科 准教授 石坂 圭吾
JAXA宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授 観測ロケット実験グループ グループ長 石井 信明
JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授 阿部 琢美

・観測ロケットS-310-44号機「電離圏プラズマ高温度層発生メカニズムの解明」の打ち上げ結果について

・石井
 12日は観測条件を満足しないという理由で延期だったが、本日は5分前の観測条件も無事クリアして、ロケットの搭載機器その他全て健全という事で打ち上げを実施しました。
 プレスリリースとして以下を発表しています。

 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、平成28年1月15日金曜日、「電離圏プラズマ加熱現象の解明」を目的とした観測ロケットS-310-44号機を内之浦宇宙空間観測所から打ち上げました。
 ロケットは正常に飛翔し、内之浦南東海上に落下しました。

打ち上げ時刻:12時00分00秒(日本標準時)
発射上下角:75.5度
観測開始(ノーズコーン開頭)時刻:打ち上げ60秒後
最高到達高度:161km(打ち上げ198秒後)
着水時刻:打ち上げ388秒後
打ち上げ時の天候:曇り、北の風2.0m/秒、気温8.0度C

 これをもちまして、観測ロケットS‐310‐44号機実験は終了となります。
 今回の観測ロケットS-310-44号機打ち上げ実施にご協力頂きました関係各方面に、深甚の謝意を表します。

・阿部
 3日前は打ち上げ条件が整わず延期になりました。事前に説明した通り、この実験には2つの打ち上げ条件がありまして、一つはSq電流系の中心がロケットの軌道近くにあること、二つ目は電流系の位置の見極めができるよう、地磁気の活動度が静穏であること。12日はこの二つ目の条件である、地磁気の活動度を満たしていなかった。具体的には活動度が高かったために延期された。その点、今日は地磁気活動度が穏やかで、Sq電流系の中心位置の見極めができた。当初の、内之浦に近いという条件を満たしたので打ち上げを行った。

・石坂
 私の方はロケットに搭載された計測機器のテレメータの方を見ていた。アンテナも正常に伸展して良好なデータが得られている。これから解析してSq電流系のプラズマ加熱の現象解明を順次していきたいと考えています。


・質疑応答
南日本新聞・打ち上げ後388後に着水したのはどの辺りか。
石井・南東海上の220km。

南日本新聞・5つの観測機器が正常に作動しデータが取得できたのか。
阿部・はい、5つの観測機器でデータを取得しています。

毎日新聞・資料によって「加熱」と「過熱」の二種類があるか、正しいのはどちらか。
阿部・「加熱」が正しい。

毎日新聞・12日に延期になった条件は高温度層が現れなかったためか。
阿部・それは正しい表現ではない。Sq電流系が見える条件として地球磁場が静穏であると申し上げましたが、これはSq電流系そのものが弱いもので、地上で実際に磁場を測ると地球磁場と重ね合わせて測定されるが、地球磁場が擾乱を受けて変動が大きいと微弱なSq電流系による磁場の変化が観測できなくなってしまう。12日はまさにそういう状況にありまして、地球磁場の変動が大きくてSq電流系の位置が求められなかった。冬の期間なので加熱現象は恐らく起きていただろうけども、位置が推定できず、間違いなくロケットが加熱領域を通る保証が無く、従って打ち上げが延期となった。

鹿児島テレビ・現時点でデータに特異なものはあるか。
石坂・こちらでもいろいろデータを見ているが、ロケットの打ち上げ軌道や本当に(Sq電流系の)中心をとらえたかなどは詳細なデータを見ないとわからない。今後できるだけ早く解析し精査していきたい。
阿部・本来この場で言いたいが、時間的にそこまで解析を進めるのが難しい。

NHK・今回の実験は成功という表現で良いか。いつ頃に実験結果が出るか。
阿部・はい、Sq電流系の中心は軌道に近い範囲にあり、5つの測定器も当初の目的通り観測を行っているので成功と言って良いと考えています。
実際のデータをよく見ないと何日くらいかかるか判らないが、ひとつの目処としては一ヶ月くらいで温度の高度プロファイルのようなものは出せればいいなと考えている。できるだけ早く皆さんにお伝えしたいと思っています。

朝日新聞・観測開始時(打ち上げ60秒後)の高度はどれくらいで、いつまで観測をしたか。
石井・高度73km。下りは高度80kmまで。打ち上げ後330秒で観測終了。

・事前の会見に出ていないので実験の確認をしたい。高度60kmから1000kmまでの電離圏の下の方にプラズマの高温度層が時折出現する。その高温度層がなぜ発生するのかを解明するのが今回の目的か。
阿部・高度70キロから300キロは電離圏下部の定義。その中で高温度層が発生する高度は100kmくらい。電離圏下部の中でも一部。全体の厚さから比べると、5kmとか3kmの温度の高い薄い層が発生することがある。それを今回の実験で狙った。

・Sq電流系は太陽の熱エネルギーによる大気運動で発生するのか。
阿部・その通りです。

・Sq電流系は渦状で、その中心に向かって宇宙空間から電子が加速しながら流れ込んでくるのか。
阿部・中心に向かって電子が流れ込んでくるが、その電子の源は宇宙にある訳ではなく、電離圏の中で電子の運動が起こって、電離圏下部に入り込んでくる時に加熱が発生する。電離圏の中でのプラズマの移動現象。

・11月のプレスリリースに宇宙空間から飛び込んでくる電子の加速や加熱という表現があったが、これは電離圏からという事か。
阿部・恐らくその資料では加速領域における宇宙から飛び込んでくる電子という表現があったのではないかと思うが、加速領域に落ちてくるのはまさに宇宙空間からのものと思っている。電子が飛び込んでくる現象としては同じだが、Sq電流系には電離圏の中の電子が飛び込んでくる。

・Sq電流系は渦状だが半径はどれくらいか。
阿部・Sq電流系は非常に大きいスケールで存在するものと考えられていて、直径数千キロ以上のオーダー。昼側は北半球と南半球に1個ずつ。

・電子が加速したり加熱することでGPSの精度に影響したり短波通信に影響したりするとのことだが、今回の実験結果で改善されるのか。
阿部・強いていえば電離圏を利用した測位に影響はあるが、今回の目的は純粋にサイエンスであり、どのようなメカニズムで起こるのかを見るのが第一である。今回は中緯度を狙ったものだが、高緯度の現象にも応用できるかもしれないし、地球以外の惑星でも似たような現象が起きていれば、そういう現象の解明にも役立つだろう。
GPSも電離圏を通過してくるのでプラズマがあれば多少なりとも影響を受ける。平均的な電離圏中のプラズマの密度に対して変化が大きければ大きいほど影響を受けるが、今回のSq電流系中心の現象というのは、温度に対して非常に大きな変化を引き起こすもので、電子密度に対してはそれほど大きな変化は無い。そういった意味ではGPSを用いた測位の精度に直接的な関係はあまり無い。ただしいろいろな観点から見れば、電子密度の変動が測位へ与える影響は少なからずあるので、強いて言えばそういった事への波及効果も考えられる。

・その他、ぶら下がりにて。
 Q.以前にも37号機で同様の実験が行われたが、今後また行われるか。
 A.今回で全て解明されれば終了だが、恐らく新しい問題や疑問が出てくるだろう。

以上です。


No.1935 :観測ロケット打ち上げ ●添付画像ファイル
投稿日 2016年1月15日(金)12時09分 投稿者 柴田孔明

観測ロケットS-310-44号機は2016年1月15日12時(JST)に打ち上げられました。


No.1934 :観測ロケット打ち上げ日の再設定
投稿日 2016年1月12日(火)14時19分 投稿者 柴田孔明

延期となっていた観測ロケットS-310-44号機打ち上げは、2016年1月15日(金)12時00分(〜12時30分)になりました。
天候や観測対象となる電離圏での現象発生に問題が無ければ12時に打ち上がる予定です。

No.1933 :打ち上げ延期
投稿日 2016年1月12日(火)13時27分 投稿者 柴田孔明

観測ロケットS-310-44号機の打ち上げが2016年1月12日に予定されていましたが、観測条件を満たさなかったため打ち上げは延期になりました。新しい打ち上げ日時はこのあと発表される予定です。

No.1932 :S-310-44号機その2 ●添付画像ファイル
投稿日 2016年1月11日(月)22時55分 投稿者 柴田孔明

公開された観測ロケットS-310-44号機の写真その2。


No.1931 :S-310-44号機 ●添付画像ファイル
投稿日 2016年1月11日(月)22時54分 投稿者 柴田孔明

公開された観測ロケットS-310-44号機。
久しぶりにKSドーム内から小型ランチャで打ち上げられます。


No.1930 :観測ロケットS-310-44号機の機体公開と概要説明 ●添付画像ファイル
投稿日 2016年1月11日(月)22時52分 投稿者 柴田孔明

 2016年1月11日15時より内之浦宇宙空間観測所にて、観測ロケットS−310−44号機の機体公開と記者説明会が行われました。
 打ち上げは2016年1月12日12時(〜12時30分)を予定しています。なお打ち上げ条件には天候のほか、ロケット予測軌道上でSq電流系の発生が必要で、快晴でも打ち上げが延期される事があります。
(※一部敬称を省略させていただきます)

・登壇者
JAXA宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授 観測ロケット実験グループ グループ長 石井 信明
JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授 阿部 琢美

・観測ロケットS−310−44号機について(石井)
目的:上空の電離圏に発生する高温度層過熱現象の解明を目的とした実験。
全長:7.75m
頭胴部(観測装置、テレメータ等):2.6m
打ち上げ時重量:752kg
観測機器重量:37〜38kg
到達予定高度:約160km(風や打ち上げ角度により変動)
飛行時間:約400秒

・目的と実験概要(阿部)※説明及び配付資料より

実験目的:電離圏下部に時折発生するプラズマの高温度層の発生メカニズムを解明すること。

実験概要:プラズマの高温度層はSq電流系と呼ばれる渦電流の中心付近に発生し、電場が温度上昇に重要な役割を果たすという考え方が有力である。
 5種類の観測機器を搭載したロケットを高温度層に向けて打ち上げ、現象解明のための鍵となる観測を実行する。

Sq電流系:太陽からのエネルギー入射によって発生する大気の運動に起因して電離圏下部を流れる電流のこと。
(※SはSolar[太陽]、qはquiet[静穏]の頭文字)

 Sq電流系は地球上どこにでも発生するものではなく、中緯度(25度〜35度)にしか発生しない。南に下がりすぎても、北に上がりすぎてもこの現象は見えない。これは内之浦でロケットを打ち上げるからこそ成立する実験。

搭載機器:
電子エネルギー分布・電子密度擾乱測定器(FLP)
電場計測器(EFD)
プラズマ波動計測器(PWM)
磁力計(MGF)
太陽センサ(SAS)

研究代表者:石坂圭吾准教授(富山県立大学)
参加研究機関:富山県立大学、東北大学、東海大学、九州大学、JAXA

打ち上げの条件:
・ロケットの保安や飛行に影響を与えない天候であること。
・本実験ではSq電流系中心に生じる現象の観測を行うが、その位置は南北・東西方向に移動するため、ロケットの予測軌道にあることを見極めて打ち上げを行う必要がある。
 実際には地上で磁場をモニターしてSq電流系の位置を推定し、打ち上げ判断を行う。
 但し、地磁気活動度が活発な場合にはSq電流以外の電流成分が卓越するために渦電流の分布を推定することが困難である。
 従って、本実験で狙う現象に関する条件としては、
 1)地磁気活動が比較的静穏でSq電流系の位置推定が可能。
 2)Sq電流系の中心がロケットが通過する予測軌道上にある。
 の2つである。


・質疑応答
南九州新聞・Sq電流系の観測はどこで行うのか。
阿部・磁場の観測を地上の数点で行う。九州大学が日本や海外に磁力計を設置している。近い所では大分の久住、鹿児島の奄美大島にある。また他の設備で宮城の女川などにも設置されている。これらデータをインターネット経由で取得し判断する。

KKB・Sq電流系の高度はどれくらいか。
阿部・高度はだいたい100km〜110km。

NHK・どのような将来的な効果があり、生活に役立つか。
阿部・今回の実験はサイエンスに重点を置いたもの。この高温度層ができるメカニズムを解明したい。メカニズムは違うが熱いプラズマが地球大気に向かって降りてくる現象は高緯度地域でも起こっていて、他の惑星でも起こっている可能性がある。内之浦の実験で未知のデータが得られれば、それらの現象の解明に役立てられる。宇宙で一般的に起こっている現象の解明に貢献できると思っています。

毎日新聞・周囲の大気と比べて温度が高いというが、どれくらい高いのか。
阿部・プラズマの温度と中性大気の温度は違うということで、高度100キロ位の中性大気の場合は400K(ケルビン)から500Kで、プラズマの温度は若干高くて700Kから800K。
この800KのプラズマがSq電流系の中心付近では1200K位になることがこれまでの観測結果からわかっている。

毎日新聞・資料にある「GPS測位の精度や短波通信などへの影響」の解明が目的か。
阿部・波及効果として考えられるが、それが目的の実験ではない。結果的に役立つ可能性がある。

毎日新聞・南極や北極では普通に起こっている現象なのか。
阿部・高いエネルギーのプラズマが電離層に飛び込んでくる意味ではよく起こっている。
中緯度(北緯・南緯)のものは季節性がある。冬のみ起こる。12月から1月の南半球、7月から8月の北半球ではこのような現象は起きない。

NVS・明日の実験の可否はいつ頃判るか。
石井・本日はロケットを結合した状態で電波テストを行い、正常に終了している。ロケットは現在「GO」の状態である。明日の天候と現象は10分〜5分前ぐらいまでに判断する。今回はドームの中から打つので5分前まで天蓋を閉めてぎりぎりまで準備ができる。あまり強い雨だと格納庫から出すなどの準備ができないが、本日くらいの雨なら準備はできる。また、風もある。ロケットに姿勢制御が無く尾翼のみのため、風向きが変わりやすいと飛行方位の予測が難しくなる。

NHK・400秒のうち、無重量の時間帯はどれくらいか。
石井・打ち上げ後約60秒は大気圏内で空気抵抗など外乱があり無重量ではない。高度100キロ以上の約300秒が無重量。ただし今回は電場の観測であり無重量は関係しない。高度70キロくらいでノーズコーンを開いてプローブを伸展し観測を行う。上りと下りの各60秒〜70秒が大気圏内。

・高温度層は地球のどこに、どのように発生するのか。
阿部・正直なところ、よくわかっていない。環状電流なので高温度層もそのように分布しているのではないかと考えている。ロケットの観測は1次元であり2次元的な広がり観測はできない。複数のデータを解析している限り、高度幅は2〜3キロだが、水平方向にはある程度の広がりを持っているのではないかと思っている。
石井・九州を覆う領域をもったものではないか。冬至前後の太陽の南中を狙う。

・電離圏の下部はどの辺りか。
阿部・電離圏は高度70キロから1000キロ。電離圏下部は70キロから300キロ、上部は300キロから1000キロ。高温度層が発生するのは100キロ〜110キロ。

・着水地点はどの辺りか。
石井・内之浦の南東海上200kmくらいの沖合。

・明日の会見のスケジュールについて、いつ頃になるか。
石井・今回の実験は画像は取得しないためデータのみ。すぐに出るものではなく、組み合わせて解析するもの。打ち上げ後、データを処理して早めに出せると思っている。

・打ち上げが成功したか判るのはいつか。
石井・着水までのデータを見れば判る。30分から1時間でデータがとれたかは判る。データが期待していたものかどうかの報告ができると思う。目標は2時間後くらい。
石井・これは時間でデータが流れて来るが、これを高度に直さないといけない。

・観測機器は温度を測るものか。
石井・電場、磁場など。
阿部・5種類の観測機器。エネルギー分布から温度が推定できる。

以上です。


No.1929 :燃焼試験の様子 ●添付画像ファイル
投稿日 2016年1月4日(月)19時25分 投稿者 柴田孔明

強化型イプシロンロケット2段モータ(M−35)真空地上燃焼試験の様子
なお、モータ本体は真空スタンド設備に格納されて見えません。


No.1928 :強化型イプシロンロケット2段モータ(M−35)真空地上燃焼試験後説明会 ●添付画像ファイル
投稿日 2016年1月4日(月)19時19分 投稿者 柴田孔明

 2015年12月21日午前11時より強化型イプシロンロケット2段モータ(M−35)真空地上燃焼試験が能代ロケット実験場で行われ、同日12時より試験後説明会が同施設内会議室で行われました。

登壇者
JAXA 第一宇宙技術部門イプシロンロケットプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ
 森田 康弘
JAXA 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 助教 実験主任
 北川 幸樹

・結果概要速報(森田)
 寒い中長時間お待ちいただき、お疲れ様でした。おかげさまをもちまして強化型イプシロン2段モータの燃焼試験を無事行う事が出来ました。簡単な速報をお話しいたします。

 宇宙航空研究開発機構は、本日、強化型イプシロンロケット2段モータ(M−35)真空地上燃焼試験を実施しました。
 試験実施日:2015年12月21日(月)11時00分点火
 試験場所:能代ロケット実験場
 天候:曇り 風:東の風2.5m/sec
 燃焼時間:127秒
 最大燃焼圧力:5.55MPa
 (※数値は速報値です。今後の分析結果によっては修正される場合があります)

 データを現在のところまで確認したところ全て正常で、実験は滞りなく成功裏に行われたと考えております。この燃焼試験は強化型イプシロンロケット開発のひとつの大きな開発要素であり、この実験が成功したことで強化型開発にも弾みがついた。皆さん、ご支援本当にありがとうございます。

 今月は「はやぶさ2」の地球スイングバイの成功、「あかつき」の金星周回軌道への投入成功と、宇宙科学関連でめでたいニュースが続いている。強化型イプシロン2段モータの燃焼試験はツキにあやかって成功できるかどうかは我々実験班の頑張りにかかっていたのですが、見事な成功でした。
 今回、強化型イプシロンの開発スケジュールの関係で、この冬の非常に厳しい条件の中での燃焼試験ということで、特に試験条件の中でも西風が吹かない事というような厳しい条件がございまして、この季節を考えると非常に厳しい条件でしたけども、先ほど申しあげました通り、風は非常に弱く、我々にとっては殆ど神風に近いような風が吹いてくれたと考えています。これは実験班の全員が頑張ったのはもちろんですが、後方の支援部隊の皆さん、報道陣の皆さんのおかげと考えています。あらためてお礼申し上げます。

 このあと北川実験主任に実験の詳しい事を話していただきたいと思いますが、イプシロンのプロマネとしては、非常にいい実験が出来たと思っています。

・結果概要速報(北川)
 先ほど速報でもありましたが、燃焼室圧は5.55MPa、推力は最大42トンで予定通り。燃焼特性は着火と燃焼共に正常。ノズル駆動も燃焼終了まで正常に行われました。モータの外観を確認したところ異常なし。真空にする拡散筒なども正常。計測状態も現時点で問題が無く、実験は成功したと言えます。

・質疑応答

フリー大塚・実験ではノズル駆動もやっていたということか。またノズルの駆動方向はどちらか。
北川・TVCと呼ぶもので、推力偏向をコントロールしている。燃焼中に左右方向にパターンを作って何度か動かした。動画でわかる程度の速度。早い動かし方、遅い動かし方などの色々なパターンで行った。

フリー大塚・今回の実験とは違うが、イプシロンの特徴として自律点検とモバイル管制がある。2号機はこれらがどう進化しているのか。
森田・自律自動点検に関しましては、自動点検の部分は完璧に出来上がって試験機の段階でモバイル管制というシステムに繋がった。
2号機以降はデータ蓄積を進めることで自律的な点検をできる機能を強化すると考えている。これに関しては既にハードウェアは出来上がって、データを試験機以降で蓄積していくことで精度を上げていく。何かの仕組みが急に変わるのではなく、点検できる精度や範囲が上がってゆく。この方法はデータをたくさん見ることによって「正常な時」がどういう状態のデータかを機械が学ぶもの。正常なデータが沢山あればあるほど良い。異常データは必ずしも沢山無くても良いというシステム。成功を積み重ねることで点検の精度と範囲が広がってゆく。2号機は初号機と比べて倍のデータが集まるので倍の精度で色々な事ができる。

フリー大塚・試験機の時はモバイル管制は多めで8人だったが、2号機は何人になるのか。
森田・試験機はいろいろな状況に備えて最大8人だったが、ゆくゆくはこれを6〜4人と減らしていく計画。2号機と3号機は強化型イプシロンの基本形態とオプション形態の初飛行のため、しばらくは試験時のような人数が続く。4号機以降の運用段階で、その辺りの人数に近づくと思っている。

フリー大塚・2年前の説明では、定常段階で38億円、試験機は53億円で下がっていくという話だったが、イプシロン2号機の価格はいくらか。
森田・2号機は強化型の基本形態、3号機はオプション形態の初飛行で試験機相当の段階。特別点検や、特別なデータを集めるための装置を搭載するので、コスト的には試験機相当と大きく変わらない。2号機、3号機と打ち上げを重ね、4号機以降で、例えば部品のまとめ買いができるようになると我々が言っていた数値に近づいていくのではないかと考えている。

読売新聞・先の38億だが、どれくらい減らすのか。
森田・38億を狙っていて、これは3機4機と打ち上げて、特別な点検や特別な装置を載せる必要が無くなったり部品をまとめて買えるようになったりした定常時の目標値です。試験機や強化型の試験機相当の2号機と3号機は開発で特別な物が必要なため、コストとしては50億円相当になる。

NVS・燃焼試験で強化型イプシロン2段目の実証ができたが、強化型イプシロンの準備状況はどうなっているか。
森田・いま強化型の開発段階で、飛ばす物の製作はこれから。今年度中に開発と試験が概ね終わって、4月から2号機を打ち上げるための物作りの準備が始まる段階。今が強化型開発の最終段階に入ったと言えると思います。

NVS・燃焼開始後の噴射の黄色い、白いの変化は特性が前半と後半で違うのか。
北川・燃焼室圧が変化すると燃焼状況が変わって少し色が違ったように見える。

フリー大貫・SRB−3開発でイプシロンと共用化との話が出ていたが、イプシロン側からの要望や、イプシロンに適用するための変更点などはどう考えているのか。
北川・これからのロケットは共通化を進める事でコストを下げる部分と、共通化ができないから性能向上を図る部分があって、今回の燃焼試験は後者。前者に関してはH3との共用化を最大限図ることをJAXAの中でも考えている。イプシロンからH3に要望を出すというよりも、H3のチームとイプシロンのチームが一体となって新しいロケットを検討している。その中で、これだけではないがイプシロンの1段目に使うのにふさわしい推進薬量の検討を進めている。ただH3用に作ったものが、必ずしもそのままではイプシロンでは使えない。イプシロン用にいかにカスタマイズしていくかが今後の課題のひとつとなっていくと思う。

NHK・強化型イプシロン開発の意義と、今回の試験成功の意義をお聞きしたい。
森田・イプシロン試験機は2013年に打ち上がっているが、目的は明確で、例えばモバイル管制のような世界のロケット開発をリードするような新しい技術を世界に先駆けて開発するところにあって、2013年にさっそく打ち上げた。昨今、小型衛星の動向を見ると、より小型にして多めに打っていくものと、もう少し大きくして実用衛星に近いような機能を持たせるものと、両方がある。今回、強化型イプシロンを導入することによって、打ち上げ能力をだいたい3割アップすることができる。衛星を格納するノーズフェアリングも大きくすることも目指している。これによって本格的な小型衛星の需要にも今後どんどん対応できるようになる。これから小型衛星の世界が広がろうとしている中で、イプシロンがそれをリードしていこうというのが強化型の目的。簡単に言うと打ち上げ能力と搭載スペースを増やしている。
燃焼試験の意義は、強化型イプシロンの一番大きなポイントは2段目のロケット開発。2段目のロケットのパワーをアップする。これまでと比較して推進薬量でも約5割も上がっている。新しいロケットに変身させようとしている。そういった意味で、この燃焼試験がうまくいくかどうかは強化型開発の正否を握っていると言えるくらい大切な実験。無事に成功したことで強化型開発が今年度いっぱいに大体終わらせるための最終段階に弾みが付いたと言えると思います。

NVS・新型固体モーターの開発が久しぶりだが、やりやすい点とやりにくかった点をお聞きしたい。
森田・大事なことで、大きな燃焼試験は2007年以来で、真空燃焼試験を行う上段ステージ用の高性能大型ロケット開発は14年ぶり。いちばん大変だったのは、技術を人から人に伝承する貴重なチャンス、いわゆるベテランと若手が融合して実験を進める、我々にとって重大な実験でした。そういう観点から人材育成という考え方で若手に積極的に参加してもらった。これまでの地上燃焼試験はやり方が殆ど決まっていて、次はこうやろうというのがほぼ自動だったが、今回は若い人にいろいろ考えながらやってもらった。つまり、これまでのいい部分を残しつつ、新しいことにも取り組んでもらった。実験を行うだけでなく、人材育成と固体ロケットの発展を併せて考えながら進めたという意味で、この実験の意義は大きかった。
補足すると今回の実験は厳冬期の能代で大変だった。冷却水が拡散筒の中で凍る恐れがあるため、凍らないための新たな仕組みを追加して試験に臨んだ。ハードウェアも大変だったが、毎日寒い中遅くまで作業する人も大変だった。北川実験主任以下、実験班の人が本当に頑張って成功を勝ち取ったと思っています。また、後方支援のみなさんの頑張りも大きかった。14年ぶりの燃焼試験で、そういったいろいろな事を皆に伝えるチャンスになった。

フリー大塚・2号機がERG(ジオスペース探査衛星)で、3号機は?
森田・今のところASNARO−2。革新的衛星技術実証プログラムはまだ先で、2017年度予定で準備を進めています。
なおASNARO−2はJAXAの衛星ではなく、外部の機関が決めた上で要望が来るため、必ずしも臨機応変な情報はありません。

大塚・これから需要をとっていく上で、売り込むにはユーザーマニュアルが必要だが公開はまだか。
森田・今年度中に公開準備中です。スケジュールはいつも厳しいが進んでいます。

以上です。


No.1927 :強化型イプシロンロケット2段モータ(M−35)真空地上燃焼試験公開前の記者説明会 ●添付画像ファイル
投稿日 2016年1月4日(月)19時16分 投稿者 柴田孔明

 2015年12月21日の午前9時より強化型イプシロンロケット2段モータ(M−35)真空地上燃焼試験公開前の記者説明会が行われました。会場は能代市役所仮庁舎(旧渟城第二小学校)で、このあと能代ロケット実験場に移動しています。

登壇者
・JAXA第一宇宙技術部門イプシロンロケットプロジェクトチーム サブマネージャ 井元 隆行

・強化型イプシロンロケットについて(説明と配付資料より)
 国内外の小型科学衛星・小型地球観測衛星の打ち上げ需要に対応するため、性能向上開発(打ち上げ能力の向上、打ち上げ可能衛星サイズ[衛星包絡域]の拡大)などを実施する。
 これにより、打ち上げ需要を取り込みつつ、我が国の固体ロケットシステム技術の維持・向上と産業基盤の維持を図る。
 ※太陽同期軌道:試験機[450kg]→強化型[590kg]
 ※2段モータの大型化(新規開発)。
 ※試験機では2段はフェアリング内だったが、これを外へ。
・主な開発内容
 打ち上げ能力の向上として、「構造軽量化」「艤装軽量化」「電力シーケンス分配器軽量化(半導体化)」「2段モータ大型化(エクスポーズ化)」
 衛星包絡域の拡大として「フェアリング全長最適化」 「2段モータ大型化(エクスポーズ化)」
 ※電力シーケンス分配器(PSDB)を機械式から半導体化し、20kgから12kgまで軽量化。
 ※衛星の低衝撃分離機構は3号機からの予定。

・2段モータ(M−35)地上燃焼試験計画
 1.試験目的
 真空状態を模擬して2段モータ(M−35)の燃焼試験を実施して性能データを取得し、設計の妥当性を確認することを目的とする。

 2.試験実施場所
 宇宙航空研究開発機構 能代ロケット実験場 真空燃焼試験棟

 3.試験実施日時(予定)
 平成27年12月21日 午前11時00分

 4.天候制約
 ・平均の風向が西風成分を含まないこと。
 ・平均風速が10m/秒以下であること。
 ※西風が吹くと市街地に噴射煙が流れる可能性があるため。

・イプシロンロケット試験機第2段(M−34c)と同強化型第2段(M−35)の比較
 直径:試験機2.2m → 強化型2.6m
 推進薬:どちらもポリブタジエン系コンポジットだが強化型では低コスト化。
 推進薬量:試験機 約10.7トン → 強化型 約15.0トン

 ※今回の試験で使われるモータはフライトモデルよりノズルが短い。これは燃焼終了時の圧力差による破損を防止するため。
 ※真空を模擬するためノズルは拡散筒に入れられ、外(見学場所)からは見えない。

・今後の予定
 平成27年度中に強化型イプシロンロケット開発を完了し、平成28年度にはジオスペース探査衛星(ERG)を打ち上げる予定。その後、ASNARO−2や革新的衛星技術実証プログラム等の打ち上げを行う。
 また、将来的にはH3ロケットとのシナジー効果を発揮する観点から、1段モータやアビオニクス機器など、H3ロケットで開発したコンポーネントをイプシロンロケットにも適用することを目指し、現在具体的な開発計画を検討中。


・質疑応答
NVS・固体モーターの推進薬の充填はどこで行って、輸送は陸路なのか海路なのか。
井元・愛知県の日本油脂 武豊工場。輸送は陸路。

秋田魁新報・能代でこの規模の実験は何年ぶりか。
広報・推進薬10トン以上は2008年から7年ぶり。真空状態を模擬したものは2001年から14年ぶりとなります。

読売新聞・構造系の試験はどんなことを行うのか。
井元・2段機器搭載構造と1段機器搭載構造の強度試験、強度剛性試験が残っている。実際に飛ばす構造体と同じものを作り、圧縮加重や曲げ加重などを行い、実際の設計データ通りか、妥当かを確認する。ロケットの外側の部分で、一部は終了している。

フリー大塚・2008年の能代の燃焼試験は何であったか。
広報・M−24(MVロケット)の試験。MVの2段目を保存していたもので、イプシロンロケットのために試験。2001年はMVロケットの3段目。
井元・2001年はMVロケット4号機の失敗のあと、設計変更の妥当性を確認した。

フリー大塚・真空は噴射で拡散筒から空気が出て行く事で再現しているのか。事前に真空にする訳ではないのか。
井元・噴射の燃焼ガスで真空チャンバー内の空気が引かれ真空に近くなるものです。

NVS・点火前は真空チャンバー内は大気圧で、点火後に真空になるのか。
井元・はい。

不明・能代で(実験を)やる意味は何か。
広報・当初、固体ロケット実験は道川海岸で行っていた。秋田県のご配慮からここ能代になった経緯がある。
井元・MVロケットから固体モータ試験はずっと能代で行っている。その技術が脈々と残っている。経験者が残っていて慣れたところでやっていただく。

NVS・固体モーターは一度きりの燃焼だが、SRB−Aなど少ないテストで同じ品質を保つ方法は何か。
井元・製造メーカーに聞いていただくことになるが、やはり品質管理。配合や作った後の確認試験(同時に作ったもので燃焼試験)をやって確認している。非破壊検査技術で、ボイドの確認をするなど製造メーカーの凄いノウハウがある。

河北新報・これまでの開発状況で、行った日付を教えていただきたい。
井元・大体になりますが風洞試験は昨年度、アンテナパターン試験は昨年度末から今年度の頭、その他(第3段機器搭載構造、2段モータケース試験、衛星分離試験、電力シーケンス分配器半導体リレー)は今年度前半から中盤ぐらいです。

河北新報・推進薬の低コストとは何が変わったのか。
井元・成分は変わっていないが、作り方が変わった。ある重要なものをSRB−3と同じような材料のものにした。

NVS・2008年以来の10トン超の燃焼試験だが、メーカー含めて固体チームの意気込みをお聞きしたい。
井元・旧ISASのインテグレーションで試験を実施する。旧ISASのいいところをイプシロンで出していこう。旧ISASが責任を持って実施するということで、万全の態勢で。経験者と新たな方々が融合してやるということで、絶対成功させるぞと皆に話している。

以上です。


No.1926 :金星探査機「あかつき」の金星周回軌道投入結果に関する記者説明会 ●添付画像ファイル
投稿日 2016年1月4日(月)19時13分 投稿者 柴田孔明

 2015年12月9日18時より、JAXA相模原キャンパスで、金星探査機「あかつき」の金星周回軌道投入結果に関する記者説明会が行われました。

・登壇者
中村 正人 「あかつき」プロジェクト プロジェクトマネージャ/太陽科学研究系 教授
今村 剛 太陽系科学研究系 准教授
廣瀬 史子 研究開発部門 第一研究ユニット 主任研究員

・中村
 宇宙科学研究所の金星探査機「あかつき」は探査機軌道の計測と計算の結果、金星の重力圏に捉えられ金星の衛星になりました。月曜日に行われました軌道投入オペレーションは成功した事をご報告させて頂きます。
 姿勢制御エンジン噴射後の「あかつき」は、金星周回周期約13日14時間、金星に最も近いところでは高度約400km、金星の最も遠いところでは高度約44万kmの楕円軌道を、金星の自転と同じ方向に周回しております。現在。探査機の状態は正常である事も確認しています。これにつきましてまず、プロジェクトの廣瀬から説明致します。
 そして既に機能確認済みの3つの観測機器が軌道投入直後に撮影した金星の画像も公開させていただきます。これにつきましては、プロジェクトサイエンティストの今村から発表致します。
 今後は約3か月をかけて初期観測を行うとともに、軌道制御運用を行って徐々に金星を9日間程度で周回する楕円軌道へと移行する予定です。その後、来年4月から定常観測に移行する予定です。
 (※打ち上げ当時のポスターを示して説明)
 今日の朝、管制室でふと気づいたのですが、打ち上げ前、平成22年の打ち上げ前に作られたポスターであります。これがずっと貼ってありまして、ずっと眺めていたのですが、実際この前投入した時には金星の向こう側が昼側で、(探査機が)夜側から来て、向こう側のエンジン4つを噴いて、ちょうど高度100キロに投入と、まさにこの状態で投入を行ったということになります。大変感慨深いものがありまして、5年間が経ってしまいましたが、遂に我々の夢が実現したということだと思います。ありがとうございました。

・廣瀬
 「あかつき」は2015年12月7日8時51分29秒から9時11分57秒まで1,228秒間、トップ側と言われています姿勢制御エンジンを4基噴射して金星周回軌道に投入されました。
 軌道の確認状況としては、周期・約13日14時間、軌道傾斜角は約3度、ただし2年間で太陽の重力摂動により約25度まで変化します。近金点高度は約400km、遠金点高度は約44万kmです。周回軌道投入後の「あかつき」は正常であることを確認しています。
 2016年4月までに遠金点高度を31〜34万kmに下げ、より金星に近づいて観測する計画です。

・今村
 (※撮影された金星画像[IR1]を使って説明)
 こちらは金星軌道投入のオペレーションのおよそ5時間後に、金星を振り返って撮影した1枚であります。これは波長1ミクロン程度の絵を撮るカメラで、我々は1ミクロンカメラ(IR1)と呼んでいます。人間の目で見えない赤外線を写すカメラで、わりあい肉眼で見たときの金星に近いイメージです。この波長のミソは画像解析をすることによって肉眼で見たときよりもずっと深いところの雲を浮き上がらせることができるということです。現在この画像を入手したばかりで解析ができていませんので、今日ご紹介できるのはここまでとなります。この波長域での、これほど精細な画像というのは過去に殆ど撮られたことがありません。こういった画像からどういった新しい発見があるか、楽しみにしています。
 (※撮影された金星画像[UVI]を使って説明)
 こちらは紫外線の波長の画像で、さきほどの画像より30分くらい遅れて撮影したもので、少し距離が遠ざかっているのが判ります。金星の雲は硫酸でできているのですが、この硫酸の雲の形成に係わる二酸化硫黄など化学物質の分布を表している波長の画像になります。紫外線でこれほど精細なグローバルな画像を得られることは、過去には殆ど例が無い。何と比較して世界一とするかは難しいのですが、間違いなく世界トップレベルの精細かつ高品質な紫外線の画像が得られています。ここからどのような現象が見られるか、金星の雲が出来る秘密に迫れるのではないかと考えています。
 (※撮影された金星画像[LIR]を使って説明)
 こちらは中間赤外カメラ(LIR)による画像でありまして、波長10ミクロンメートルという、いわゆる熱赤外線と呼んでいる波長での画像です。これは金星の雲そのものが宇宙空間に向かって発している赤外線をとらえたものです。
 先の紫外線の画像とほぼ当時に撮ったものです。紫外線の画像では左側が夜になっているのが判ると思いますが、この波長(10μ)で見ますと金星そのものが赤外線を発してピカピカ光っていますので、昼も夜も関係なく金星がこの波長域で光り輝いている様子が見えています。
 先程の紫外線の画像と同じ雲の領域を見ているにもかかわらず全く違った姿が見えています。特に赤道を跨いで北半球から南半球まで弓の字のような模様が繋がっていて、このようなものが見えると言う事は我々も想像もしておりませんで、これからこういった新しく見えた謎を解明していくのが、早速宿題として突きつけられたなと考えています。
 (※「あかつき」による観測イメージ図を使って説明)
 今お見せした画像は「あかつき」がこれから観測しようとしている、様々な高さの雲のうちの割合高い所の雲をお見せしました。今後、まだオンにしていない観測装置なども含め、より深いところの雲、あるいは地表面まで含めた観測を行っていく事になります。

 このような観測データを組み合わせることによって、金星の惑星スケールの大気循環、雲の謎に迫っていく、金星の気象衛星としての役割を果たしていけると考えています。

 「あかつき」は長楕円軌道に入り、先のような一枚の写真を撮るだけでなく、連続的にずっと撮っていくことが大きな特徴であります。それによっていわば動画として金星の大気の三次元的な循環をとらえるところに大きな特徴があります。
 近い将来の予定としましては、今は昼側の周回軌道ですが、だんだん(金星の)夜側に回り込んでいきまして、肉眼では見えない夜の金星で何が起こっているかを観測できるようになるはずです。このような観測を行いながら徐々に試験的なものから定常的な観測を始め、来年の春頃には定常的な状態に持って行けると考えています。

・中村
 これからも厳しい運用が続いて参りますけども、どうぞ皆様のご支援をお願いしたいと思います。ありがとうございます。

・質疑応答
フリー喜多・初画像が到着したときの皆さんの様子をお聞かせください。
中村・今朝見たとき、特にLIRは「なんじゃこりゃ」。あんな画像が撮れたのは世界初だったので。これは期待が持てる、いいなと思いました。
廣瀬・打ち上げから5年経ったのですが、初めて見た「どあっぷ」の金星で、綺麗だなというのが第一印象。金星を撮像するときの姿勢を計算が自分の担当だったので、間違っていなくて金星がど真ん中でほっとしました。
今村・運用する部屋で最初に画像を開いて見た瞬間、その場にいたメンバーと雄叫びをあげてハイタッチをしました。どう嬉しかったのかと振り返って考えてみますと、やはり十何年かけて準備してきて、手塩にかけた観測装置が、とうとう、どうしても撮りたかったものが視野いっぱいにでかでかと写ったと、まずそのことが嬉しくて仕方なかった。次の瞬間、着いたなという実感がようやくわいてきた。

日経新聞・今まで連続で噴いたことのない姿勢制御エンジンを20分間も噴くという裏技的なやり方だったが、今回の成功の秘訣はどういう所にあったのか。
廣瀬・前回、探査機に異常が起こって失敗したので、探査機に異常があっても、なにかしら代替手段を用意して、自動シーケンスで噴射が完了すように臨んだ。それでも救えない不具合が発生する事も想定してVOI-R1cと我々が呼んでいる、最初の噴射がうまくいかなかった場合に探査機の姿勢を反転させて反対側のスラスタで噴射するものを準備していた。噴射の20分間は非常に長かったが、ひとつのサインも見逃さないように全員が集中して臨んだ。
中村・私が思うところでは、4つのスラスタが均一に噴いてくれないと成立しなかった。それは非常に丁寧にエンジンを選んで出力を合わせ、丁寧に探査機を作った。それが、このような非常事態に役立った。
今村・少し違った観点での感想を申し上げると、非常に丁寧に作られた探査機で、非常に丁寧なオペレーションであったのも確かですが、それに加えて仲間達の顔を思い浮かべながら思うのは、5年間にわたって、とても丁寧に緊張を切らさないで見守ってきた、そのことがとてもいい状態で探査機を温存して成功に繋がったのかなと思います。

日経新聞・20分の噴射が終わった瞬間と、軌道に入って成功した今の気持ちとのギャップはありますか。
中村・着いた直後は、それがうまくいくかどうかの緊張で金星に着いたという実感は無かった。オペレーションを滞りなく終えたことで皆で拍手をした。今回は心の底からわき上がってくるような、金星に到着した実感がわいてきた。

NHK・今回の軌道投入を陰で支えてくれた人たちへの想い、感謝などをお聞かせください。
中村・まず、このミッションを見届けること無く、亡くなってしまわれた方もおられる事を申し上げたいと思います。これはメーカーの方で、特に軌道設計を廣瀬さんの前にやっていた方が、不慮の事で打ち上げ前に亡くなられた。ずっと「あかつき」の事を考えておられた。その方の想いが、ずっとここまで伝わったのかなと思います。また沢山のメッセージをいただいて、そして失敗した後も温かく見守ってくださった皆さん、これらの皆さんの気持ちが無ければ我々は耐える事が出来なかった。大変感謝しています。
廣瀬・いちばん犠牲にしてきたのは娘だったり夫だったり、家族だったりします。夜遅く帰ってきても、娘は私の顔を見ると大はしゃぎするので、ほんとに我慢しているんだなとわかります。なので、まず家族に感謝したいと思います。もちろんチームのメンバー、これまで5年間、観測データを解析して研究成果を出すのがサイエンスチームの目標でありました。そのサイエンスチームが「あかつき」の運用を5年間支えてきてくださったので、サイエンスチームに感謝したいと思います。
今村・支えてくれた方、感謝をすべき方を上げ出すときりがないほど。家族ですとか職場の仲間ももちろんですが、私は理学の立場からこのミッションに関わっていて、そういった立場からすると、やはりこれほど困難なオペレーションを乗り越えて最後に金星にたどり着く事を可能にしてくれた工学チームの皆さん、またその周りの膨大な数のメーカーの技術者の皆様に、感謝しか無い、頭が上がらないと思っております。さらには常日頃、いろんな形で応援して元気づけていただいている一般のファンの皆様に、本当に感謝しかありません。ありがとうございました。
中村・特に文部科学省のみなさん、それから宇宙開発委員会の委員の方々にも本当に支えていただきました。ちょうど打ち上げの頃は藤木審議官(現アラブ首長国連邦大使)が、失敗したときにうちの稲谷に対して「どうかあかつきを救ってやってください」と申し上げられたそうです。私はそれを聞いて、これは頑張らなくてはいけないと思いました。本当にありがとうございました。

NHK・産休、育児休暇もあったと思うが、その中で家族の支えがあったとのことだが、どういったことに支えられたか。また、宇宙での仕事を夢から実現したことについて。
廣瀬・最近は帰るのが遅くなってしまった。金星周回軌道投入の前日、夫が豆乳鍋を作ってくれました。私はそんなこと思いつきもしなかったのですけど「投入(豆乳)でしょ」って、娘と夫の3人で食べた。そういった事の支えの連続だなと思った。
言い忘れてしまったのですが、感謝する人は本当に沢山いまして、NASAのJPLのチームだったり、NASAのチームが「あかつき」の運用を支えてもらっている。「あかつき」を海外局で運用してもらって軌道を決定してもらって、海外からの協力があってこそ成功しました。

共同通信・投入から今日まで2日間の確認作業があったと思うが、具体的にどういった作業で確認をしたのか。
廣瀬・まず衛星から降りてくるテレメトリ情報を見て、探査機が正常であることを確認しました。また「あかつき」との速度変化を地球から計測することによって、正常に周回軌道に入っていることを確認しています。

共同通信・現在の「あかつき」の位置はどの辺りか。
廣瀬・2015年12月9日18時現在、金星から約31万キロの所にいます。「あかつき」から金星の視直径は約2.5度です。

25分20秒

日経サイエンス・投入前の資料では遠近点高度が48〜50万キロだったが、現在は44万キロになっている。これは想定より減速が良い方向に働いた結果なのか。
廣瀬・はい、エンジンの能力が想定より良かったため、想定より低い高度約44万キロ(遠金点)を飛行しています。

日経サイエンス・中間赤外カメラと紫外線イメージャの写真は、金星の自転軸で言うと上が北に、下が南になるのか。写っている影が傾いているので確認したい。
今村・正確な位置関係はまだ解析していない。金星は自転軸が南北まっすぐで、この写真では自転軸が少し左側に倒れている。昼と夜の境界線が自転軸の方向になっている。
中村・ひと言コメントすると、計算上はそうだが、地表が見えないので雲だけでは南北は決定できない。

日経サイエンス・自転の向きはどちらか。
今村・金星の自転の向きは地球と逆なので、右側から左側に回転する。

日刊工業新聞・今回投入した周回軌道は、5年前に予定していたものより大きいのか。
廣瀬・その通り。当初は遠金点高度8万キロを計画していた。メインエンジンが故障して使えず、姿勢制御エンジンで軌道投入を行ったため遠金点高度は高い。最終的な遠金点高度は約31万キロを計画しています。

日刊工業新聞・遠近点高度が資料で31〜34万キロというのは円の直径が大きいことか。
中村・楕円の長軸です。現在は44万キロで、これを徐々に下げて2016年4月以降に長軸が短くなった軌道に入る事になります。

日刊工業新聞・楕円の直径を小さくするという事でいいのか。
中村・はいそうです。

読売新聞・金星の画像から、紫外線イメージャ(UVI)や中間赤外カメラ(LIR)のうねった模様は、これは雲なのか。
今村・いろいろな可能性はありますが、雲以外は想定していません。ただしもう少し正確に言うと、温度のムラが見えている。こんな風な温度分布があるというのは、非常に不思議なことでとても面白い。紫外線の画像(UVI)では雲の分布だけでなく二酸化硫黄で、金星の雲の材料となるものが大気中にたくさんあって、それが大気の循環によって雲の上に持ち上げられてにじみ出てくる様子をとらえたという見方ができる。雲と紫外線を吸収する二酸化硫黄といった物質の量的な関係、どれくらい雲に混じっているのかが場所によって違う様子が可視化されている。
中村・個人的に違う高度の現象がいくつか一緒にのっているのだと思う。これからサイエンスで議論になっていく。
今村・近赤外線の1ミクロンカメラ(900nm・IR1)は雲からの散乱光を見ています。昼側だとこういった散乱光が見えている。今後このカメラで金星の夜の側に露出を合わせて撮影すると、今度は雲からの散乱光が無い分だけ、高温の地表面から発せられる赤外線が宇宙空間に漏れ出すのが見える。これにより、たとえば地表面の物質や活火山といった現象を捉えることができるような特徴がある波長です。

・1ミクロンカメラで夜間の撮影はいつ頃行うか。
今村・まだ調整中です。今後、夜側に回り込んでゆくので観測チャンスは出てくる。ただ、夜側に行くときには、次の軌道調整があるので、そちらとの兼ね合いで、いつ夜側の観測を行うかは慎重に判断したい。

・3台のカメラの状態はどうか。
今村・極めて良好と申し上げて良い。5年間の長旅で検出器が痛んでいる可能性もあって心配したが、現在の所は目立った劣化は見られないので、一同胸をなで下ろした。

ニッポン放送・今回の軌道計算の役割が大きかったが、実際どれくらいの量の計算をしたのか。またパラメータはいくつあったのか。計算で苦しかったことなどをお聞きしたい。
廣瀬・軌道計算は4人がチームで一丸となって行った。それぞれが何万ケースも計算してきた。パラメータは金星に投入する時刻と場所です。金星の減速制御の場所で向きと傾きが変わる。球体の三次元のどこを最近点の高度にするか、何時に会合するか。パラメータでは場所と時刻しかないが、数え切れない解析ケースが発生する。これを我々4人で解析していた。
苦しくはなかったが、「あかつき」の周回軌道のキーポイントのひとつに日陰時間がある。「あかつき」はバッテリのみでの運用は90分以下しか持たない。どこで接近するかで2年間の日陰時間を毎回計算。うまくいったと解析を続けるときりがない、やめられない。延々とやめることができず、良い答えが見つかるまで寝ても覚めても計算で大変だった。

時事通信・探査機は失敗の連続という一面があったが、失敗の意味とはどう考えるか。
中村・失敗しないとわからない。想像力を働かせる勘どころがわかってくる。失敗を沢山繰り返した米ソは成功するようになった。日本は緒に就いたばかり。

時事通信・もし5年前に戻って、失敗をしなければならないプロジェクトと、何事も無く成功するプロジェクトを選べるとしたらどちらを選ぶか。
中村・それは後者(失敗しない方)です(笑)。

朝日新聞・日本は緒に就いたばかりとのことだが、進め方などをお伺いしたい。観測機器の熱対策のポイントはどこか。
中村・緒に就いたということは、やっとこれで惑星探査の世界の仲間入り。日本が世界にデータ供給できるようになったのがいちばんのことだと思う。天文などではこれまでも行われてきたが、惑星探査で日本がこれを行えるようになったことか大きい。
進め方は人によって考えが違う。初代「はやぶさ」の川口プロジェクトマネージャは世界でいちばん最初が大事とおっしゃいました。私の考えは少し違っていて、世界でやっていても、自分でやってみないと判らないことがあるのではないかと思っている。人がやったことでも一歩一歩歯を食いしばって、もう一回繰り返しても習得していくことが大事なのではないか。
カメラは比較的いい状況に置いていていただいた。カメラも放熱面も、太陽に当たらないところに置いてもらえた。オペレーション上、他の機器に負担をかけたがカメラを守ってもらえた。

ニュートン・2年分の軌道計算だが、当初「あかつき」の寿命は4年分ぐらいの観測計画だったが、そのあたりも計算されているのか。他の軌道の候補はあったか。今後の軌道変更で、当初計画の軌道に近づけるには燃料不足なのか。
中村・最初の計画では軌道が確定しておらず、地球スイングバイなどを使い打ち上げから2年間で金星行くことも考えられていました。打ち上げから最長2年間かけて金星まで行き着く可能性を考えていました。それに対して金星に着いてから2年間の観測と、プラス0.5年の観測の余裕があって、合わせて4.5年を設計寿命としていた。
廣瀬・それを踏まえ、まずは2年間持つ観測軌道を模索しました。これは2年間を確実に保証できる軌道で、その後ももちろん「あかつき」は飛行を続け、燃料が余っている限り撮像をして観測を続けられる。
他のタイミングについては、遠金点高度31万キロはこの日しかない。12月7日より前の日に投入すると金星に落下してしまう軌道しか存在しない。12月7日より後に投入すると遠金点高度が下げられない軌道しか見つかっていない。最小の遠金点高度はこの日のみだった。
燃料は、もしメインエンジンがあれば当初予定の約8万キロを達成できた。姿勢制御エンジンのため31万キロがやっとだったと想定している。

・日陰以外の要因はあるか。姿勢の制御などもあるのか。
廣瀬・軌道の制約は3つある。日陰の時間が90分以下であること、探査機のパドルがついている面への太陽光入射角が13度以下であること、金星大気の観測のため大気と同じ時計回りであることです。13度以下の理由は、「あかつき」は側面の熱を上下の面で逃がす設計になっていて、この放熱面に太陽光が当たると探査機が熱くなる。
軌道傾斜角が今は3度だが、太陽重力の摂動(地球なら月の潮汐力)で、太陽に押されたり引っ張られたりして軌道傾斜角が2年で25度まで上がる。観測中に太陽が25度の角度をもって放熱面に入ってくるので、探査機を傾けて13度以下となるように工夫するところです。

・軌道傾斜角で要求があって丁度良かったのか。
廣瀬・タイミングは遠近点高度をどれだけ下げられるかに依存する。
中村・探査機にはモーメンタムホイールというものが入っていて、回りやすい方向がある。観測の整合性と熱的な整合性の両方を満足させるために、このような困難な軌道設計になった。

テレビ東京・「あかつき」には日本メーカーの技術が沢山使われているが、その例を教えてほしい。また、こうした宇宙技術はどう活用されていくべきか。
中村・観測器のうちカメラはALLジャパン製。これは私の思想で、こういった機器は日本で作れないといけないと考え、全部を日本のメーカーに作っていただいた。リチウム電池と太陽電池パドルも日本のメーカー製。壊れてしまったがセラミックスラスタも日本製。輸入している部品もあるが日本で作り上げた。日本の知恵で作り上げてゆくことはやはり、日本の国力を養っていくということに繋がっていくんだと思っています。

テレビ東京・日本の産業界にどう活用されると良いのか。
中村・すぐに役に立つ技術であるかは物によって違う。たとえば太陽電池でクリティカルな設計をすることによって、どういった所に気を配れば性能を上げていけるか、そういった所で工夫することで技術者の能力が磨かれ、それがメーカーの力になっていく。

NVS・今の軌道寿命では3金星年だが、どんなところを見ていきたいか。
今村・惑星の大気にはいろいろな時間スケールの変動がある。日単位から何ヶ月、何年、何十年、何百年などいろいろな時間スケールがあり物事が変化してゆく。その全てがその惑星の環境・気候が維持されているかの理解に大事。そういった意味では2〜3年は最適ではない。科学者としてはいくらでも長く観測データをとりたい。与えられた2年から3年をどう使っていくかで2つの観点があって、ひとつはなるべく均質で連続的なデータを取り続けることによって、金星の大気にどのような気候変動があるかを理解する。もうひとつは、特定の非常に興味深いものをキャンペーン的に随時観測することを考えている。たとえば、まだ我々がなかなか理解できないような、細かな模様が現れては消えるような現象があって、それが雲の形成や惑星全体の大気の循環にどういう影響を与えているかを知りたい。そういったことを観測するため、ある場所を短い時間に集中的にカメラの向きを変えながら追跡観測する。たとえば雷の観測に集中して、雷カメラだけでなく他のカメラでも撮ってみるなど随時行っていきたい。タイミングに関しては地球、金星、太陽の位置関係をみながら、新しい軌道でプランを練り上げたい。

NVS・今回の軌道投入で金星探査への期待や関心が高まるか。
今村・大いに期待している。これまでの金星探査は平均的な状態がどうなっているかを主眼としたもの。「あかつき」は時間変化を追いかける。惑星には固体の部分から大気、その上のプラズマ化したところまでいろんな領域があるが、大気圏というのは我々の時間スケールに近い、非常に激しいダイナミックな時間変化が大事であって、それがもっと長いスケールの何万年何億年という平衡状態を決めている。そういうところがとても面白い所だと思います。そういったところに注目して浮かび上がらせるような観測データがどんどん出てくるはず。そういったデータを見ていくことによって世界の惑星科学者が、やはりこういったところにフォーカスするとこんなに面白いこと、新しいことがあるんだと気づくと思う。その次に、研究している訳ではない皆さんにも、惑星の大気が大きく変化して動いていって面白いんだと、翻って地球の大気はどう動いているのか、地球と金星の動きの違い、風の違い、雲のでき方の違いはどうなんだろうと、そういったところからあらためて地球の環境、地球の大気に対する興味が高まることを期待している。

フリー林・冒頭で画像を見たときの「なんじゃこりゃ」は何を見ての感想であったか。
中村・LIRの画像だった。UVIはこんなものが撮れると予想していた。LIRはこんなところにこんなものがある(金星の縦の模様)のは初めて見た。理由がよくわからない。考え出すと夜も眠れない。

フリー林・惑星探査は緒に就いたばかりとおっしゃっていたが、姿勢制御エンジン4基の噴射は世界初ではないか。運用や軌道計算はクリティカルだったと思うが、それを実現できた日本の技術力は非常に高いと評価できるか。5年間で不安になったことはあるか。
中村・こういったやり方は世界初で、アメリカの研究者からは大変なことをしてくれたと感心してくださいますが、なるべくならそう言う事はやらないで済めば良かった。地上での燃焼試験ではもっと長い時間の噴射はあったが、「あかつき」の上で吹いた事は無く心配だったが、思った通りの性能を出してくれた。
(技術力は)アメリカと同じくらい高いと思っている。
不安は、思ってもみなかった動作を探査機がしてしまう事に対する不安。単に噴射するだけならいいが、中にもの凄く複雑なロジックがあり、ちょっと姿勢を崩すと止めてしまうことがある。それでも大丈夫だと探査機に教えていたが、それ以外で探査機が駄目と判断してしまう事があるかもしれない。そういった事が無いだろうねと私だけでなくチームのメンバーも日夜考えていた。

・金星の画像(LIR)で黒っぽい部分が温度が低いのか。
中村・南極の温度が高く、赤道付近が温度が低い。南極付近は雲の高度が高いのかもしれない。サイエンス上の議論の一部。

NHK・今後の運用についての懸念や課題をお聞きしたい。
中村・5年間使っていなかった機器がいくつかある。明日試験をしなければならないハイゲインアンテナ(HGA)は、ずっと太陽に向けていた。これがちゃんと動く事を確認しなければならない。ドイツ製の超高安定発信器(USO)も止めていた。これが動いてくれることで電波科学ができる。軌道制御を何回か繰り返していくが、そういった事がうまくいくか。温度が危なくなると観測を止めるが、なるべくその期間は短くしたい。なるべく多くのデータがとれる事を期待したい。
廣瀬・工学チームの懸念としては、表面が5年間で劣化している。カメラで金星を撮るためには、全方向から太陽光が入射することになる。これまでHGAを太陽に向けてきたが、各面に当たるようになって耐えられる温度にあるかどうか。また、軌道傾斜角が25度になったら姿勢を工夫しないといけない。その工夫でどれだけ燃料が節約できるかが課題となる。
今村・ここまで来たら長くデータをとりたい。長く集積することで初めてスーパーローテーションにどうエネルギーが与えられているか、高速の大気循環がどう作られているかが判る。一瞬のデータでは駄目で長い期間が必要。理学の立場としては不安というより、なんとかなってほしい。

日本経済新聞・当初計画と軌道が変わった点での懸念はあるか。
今村・うまくいったとしても当初計画より周期が長い軌道になることは5年前に判っていたので、その軌道でどういった研究をするかと頭を切り換えている。具体的には当初の30時間の軌道から長い軌道になったため、解像度は落ちるが均質なデータが動画のように連続的にとれるようになる。時間的連続性ではやりやすくなった部分もある。金星に近づいた時には短時間だが高解像度の連続観測もできるので、それらを組み合わせていきたい。

共同通信・5年間観測できなかったが、モチベーションの保ち方をお聞きしたい。
今村・ひとつは金星に到着して観測と研究をするのが5年後になったが、その間遊んでいる訳ではなく、他の衛星や海外のミッションに参加して技量を磨いていた。緊張が途切れる訳ではなかった。
5年間、探査機を支えてきた側面がある。5年間も観測データを出さない探査機を見守ることは、並大抵の事ではない。そういった苦労も軌道投入成功とデータが出てきた事で報われる。
中村・チームのリーダーの今村を信頼して皆がついてきた。

共同通信・育児の工夫などをお聞きしたい。
廣瀬・工夫は無いと思います。皆、子育ては大変。娘は私が帰ってくるのが遅くて大変だったかなと思う。金星周回軌道投入に成功してテレビで放送されると「あかつき、がんばったね」と2歳5ヶ月ながら言っていたので、あかつきのことをわかってくれているかなと感謝してます。

ライター青木・当初計画より長楕円の軌道だがスーパーローテーションの研究はどうなるか。
今村・スーパーローテーションの研究で大事なのは、時間に連続した雲の画像を解析し、風速の分布や吹いている方向の解析が精度良くできる解像度で、軌道はより近い方がいい。今回の楕円軌道でできない訳ではなく、トップレベルの解像度がある。擬似的なデータでの解析では、十分に雲を追いかけられる。なにぶんまだ観測していない波長も沢山あり、どこまでの精度で研究ができるかはやってみないと判らない。気長に成果をお待ちいただければと思っています。

以上です。


No.1925 :中村プロジェクトマネージャ ●添付画像ファイル
投稿日 2015年12月8日(火)08時16分 投稿者 柴田孔明

笑顔の中村プロジェクトマネージャ


No.1924 :中村プロジェクトマネージャ ●添付画像ファイル
投稿日 2015年12月8日(火)08時15分 投稿者 柴田孔明

画面で説明を行う中村プロジェクトマネージャ


No.1923 :金星周回軌道投入における姿勢制御エンジン噴射結果について
投稿日 2015年12月8日(火)08時14分 投稿者 柴田孔明

 金星探査機「あかつき」の金星周回軌道投入における姿勢制御エンジン噴射結果について、2015年12月7日12時00分(日本時間)より記者説明と質疑応答が行われました。

・登壇者
 中村 正人 「あかつき」プロジェクト プロジェクトマネージャ/太陽科学研究系 教授

本日、我々宇宙研は金星探査機「あかつき」の金星周回軌道投入のオペレーションを行いました。本日(2015年12月7日)日本時間8時51分29秒から同9時11分57秒まで1,228秒間、エンジンを噴射するオペレーションを計画し、計画通り行われたことを確認しています。噴いている方向と噴射量は予定されたものとほぼ同一のため、当初予定していた軌道に入ることは大変期待が持てると考えている。正確な軌道については、これから飛んで行くところを追いかけて確認し、2日後に皆さんに発表できる予定です。

 心境としては、5年前に達成していなければならなかった事を今回やっと出来て、肩の荷を下ろした気持ちです。
 管制室は和やかでしたが、マニューバモニタを見ている時は緊張していた。途中、地上アンテナの都合で見えなくなった時は緊張したが、すぐに元に戻って最後まで確認ができたことで、そのときに皆安心した。
 (図を示しながら)
 噴射開始が高度1800キロメートル位で、最も近づくのが500キロメートル位。逆噴射しているので放物線からだんだん金星に近づき、噴射が終わったところでだいたい500キロメートル。
 探査機の速度変化は280m/sくらい。

・質疑応答

共同通信・9時20分過ぎに運用管制室で拍手が起こっていたが、その理由は。
中村・オペレーションが完全にうまくいったと石井エンジニア(※)が宣言し、そのあと私が皆さんにひと言申し上げて、その結果に対して拍手があったということです。
(※石井 信明 JAXA金星探査機「あかつき」プロジェクトエンジニア 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授)

NHK・2回目の噴射(もう一方のエンジンによるバックアッププラン)は行ったのか。
中村・やっていません。

NHK・画面で拍手が何回かあった。9時23分と9時29分だが、それぞれの理由は何か。
中村・ひとことを言った1回目は覚えていますが、そのあとはよく覚えていない。

NHK・想定外の事はあったか。
中村・特にない。

毎日新聞・オペレーションがうまくいった時の宣言内容とひと言の内容をお聞きしたい。
中村・石井先生は「これでオペレーションは正常に終了しました」と宣言された。私は日本語で「これで我々は成すべき事を成しました」。英語で「our dreams will come true」と申し上げた。

NHK・エンジンが壊れ5年でようやくたどりついたが、今のお気持ちをお聞きしたい。
中村・単に時間的に長かっただけでなく、欧州の探査機と一緒に観測して世界的に盛り上がっていたはずであったところが、日本が責務を果たしていないということに対して忸怩たる思いであった。やっと日本がデータを加え、2つのデータを持ち寄って欧州と日本の研究者が解析していきたいと考えています。

NVS・このあとサイエンスチームの予定はどうなっているか。チェックアウトが続くのか。
中村・もう既に観測プログラムは12時前に送られました。14時から17時くらいの間に観測を開始します。衛星は毎日モニタしており、その状態から変わっていないことを確認している。温度や機器に流れる電流、機器のON/OFFのステータスは確認し、衛星に問題は全く無いというチェックアウトは済んでいる。これで観測にすぐ移れる。

共同通信・最初の観測データはいつ届くか。
中村・難しいが、ハイゲインアンテナ(HGA)の地球指向は10日以降になる。ミドルゲインアンテナ(MGA)で送るので2〜3日かかる。金星周回の動作をさせるチェックアウトがあり、そちらが優先される。なるべく早く公開したい。

共同通信・2010年当時は2016年の投入見込みで、放射線や熱などによる劣化を心配して早めたと思うが、これからの観測に支障は無いということか。
中村・到着前に観測器を立ち上げて金星の写真を撮ってみたが、そのときの傷などは思っていたよりはるかに少なかったので、カメラの状況は非常に健全であると思われる。ただ冷凍機の稼働に2日かかる2ミクロン帯の赤外線カメラはまだ画像がとれていない。また雷カメラは暗いところでないと、繊細な機械なので壊れてしまうため、金星の影(夜)の部分に探査機が入る1月以降に観測を開始すると考えている。

日経新聞・本日午後から観測するものは何か。
中村・三台のカメラが同時にシャッターが切れる。中間赤外カメラ(LIR)、1μmカメラ(IR1)、紫外線イメージャ(UVI)の3台のカメラを稼働させる。とりあえず雲の写真を撮る。三ヶ月は試し撮りでチューニングする猶予がある。ノミナルの観測は4月から2年間を予定している。

・まだ軌道に入ったか不明だが、今後の課題は何か。また今後の期待は。
中村・これまでは観測器を動かしていなかったので、衛星の状態を監視するオペレーションだけで観測器に上げるプログラムも非常に短いもので済んでいたが、これからは毎日のようにプログラムを上げてどういう観測をするという、観測の日々に入っていく。我々はまだ何が撮れるかはっきりと知らない。そこで最初は混乱があり、だんだんそれを整理して、観測に入るための手順を確立するまでがいちばん大変だと思っている。マンパワーの問題もある。非常に少ない人数で運用している。これをなんとかしていかなければならない。

朝日新聞・もし「あかつき」に言葉をかけるとしたら何と言うか。想像以上の出来なのか。
中村・「意外と頑丈だったね」
非常に丁寧に探査機のメーカーの方が作ってくださった。堅牢な軍艦のような探査機。殆ど壊れなかった。

時事通信・前の記者会見で、噴射後は試験を提出した後の状態だとたとえていたが、自己採点で今の気持ちはどう表せるか。
中村・「これは合格したな」という自信をもって試験の発表に臨みたい。

NVS・観測機器のチューニングを行い、来年の3月以降に軌道を狭める運用を行う予定だと思うが、今回の軌道投入の燃料使用量は想定通りだったのか。
中村・その通りです。

NVS・軌道を下ろすのは観測機器のチューニングが終わってからという事か。
中村・それは別の事象でたまたまチェックアウトが3ヶ月で、軌道を下ろす時期と重なった。金星の影に入って太陽電池に日が当たらず発電できない状況をなるべく短くしたいため。

NHK・5年前は国民の皆様の期待に応えられず申し訳ないと謝罪されていたが、今回は何とおっしゃいたいか。
中村・5年の間、温かく見守っていただいてありがたいと思っている。今回のリカバーで全て償える訳ではないが、今度我々がとるデータが世界の研究者に使われていくことで、ご理解いただけると有難い。本当に長い間ご支援いただき有難かった。

・メッセージキャンペーンに応募された方々に何かひと言をお願いしたい。
中村・やっとつきました。特急券の払い戻しは出来ず申し訳ございません(笑)。
(※メッセージキャンペーン応募の受領確認に「地球→金星」の」記念乗車証が返信されていた。これの有効期限が切れてしまっているが、プロジェクトとして有効と発表されている)

・共同通信・今日のところで心配している事象は無いのか。
中村・特にありません。

・日本の惑星探査について
中村・日本は惑星探査についてのノウハウが無い。一回失敗しないと次に進めないというのがやってみた実感。かつての米ソも沢山の探査機を送り込んで失敗に失敗を重ね、やっと成功の確率が高くなってきた。我々もまだその段階にいる。日本は他にも良い技術を持っていてアドバンテージもあるが、やはり一歩一歩進まなければならない。うまくバランスをとって日本の惑星探査を進めていきたいと考えている。

NHK・大きな注目されている中で成功させたことについての思いをお聞きしたい。
中村・誇らしかった。

NHK・今回、スラスタ噴射を予定通り出来た背景には何があるか。
中村・リスク管理はたぶん想像力だと思う。今回の多くのチームメンバーが非常に想像力を働かせて、確率的には小さいけどあり得る可能性を全部考えた。たとえば太陽の放射線でCPUがパンっと止まってしまった、そういう時にどうするかといった事を全部考えた。想像力を最大限に発揮した結果が今回に繋がった。
 考えに考えたとしても抜けはまだあるはずですが、そこには幸い引っかからなかった。そういう所をどんどん小さくしていくことが、ノウハウを積むという事だと思います。

産経新聞・確認だが使ったスラスタは4基だったのか。
中村・トップ側の4基を噴きました。

フリー大塚・今回の噴射の秒数が、前回会見時の1,233秒と違うが、変更されたのか。
中村・変更して今回の1,228秒になりました。

時事通信・5年間で決断した中でいちばん頭を悩ませたものは何か。決断した基準は何か。
中村・(判断が)二叉に分かれるものは無かった。やはり探査機の温度が上がってしまうことが大きかった。ハイゲインアンテナを太陽に向けると熱的に持つということで、石井プロジェクトエンジニアがこの方法でずっと行くと決断した。それはユニークソリューションだったと思う。そのため高速で通信できるハイゲインアンテナを地球に向けられず、通信が非常に細くなってしまった。これが運用者にとって非常に辛かった。

朝日新聞・噴射の開始時刻と終了時刻を教えてください。
中村・8時51分29秒開始、9時11分57秒に終了。

共同通信・噴射20分した後の大きな作業は何か。
中村・たくさんあって今も続けている。まず非常事態に備えて自動的にひっくり返った姿勢(反対側のスラスタが上になる姿勢)を、ハイゲインアンテナが太陽に向いた元の姿勢に戻す。推進器を使う特殊な設定を解除し普通の状態に戻す作業が入る。また、探査機と地球の距離を調べたり、プログラムのアップロードをしたりと、息つく間もないオペレーションで、「慌てて壊すなよ」と石井先生がオペレータに指示している。

共同通信・噴射時はチームの皆さんが運用室にいたのか。
中村・サイエンスのチームなどの方々は入りきれないので廊下で。運用室は誰がどこに座るか決まっていて、それ以上は入れない。

共同通信・軌道投入に成功したと見られると言っていいのか。
中村・はい。

・今後の観測の順序はどうなっているか。
中村・いちばん見えやすいものから撮る。コントラストの高い物はよく写る。微量気体で一酸化炭素の濃度の違いを調べる事などは露出、秒数、絞りをきちんと設定してシャッターを切らないと写らない。そういったものは進んできてからになる。雲がいちばん写しやすい。

・具体的にどのタイミングで何を撮るか。
中村・まだ決まっていなくてこれから。うまくいったら先に進む、うまくいかなかったらそこのチューニングという作業になる。そこは試行錯誤になるので3か月とってある。

ニュートン・探査機の温度が心配とのことだが、設計通りなら耐えられる状態なのか、それとも限界を超えた状態で運用しているのか。
中村・限界を超したらわからない。もう一回の近日点通過はやりたくない。

フリー喜多・一回失敗した探査機を再挑戦で戻してしまった事について、どんな風に言われていたか。
中村・こういったケースは世界でも珍しい。探査機「ドーン」が行き過ぎた例はあった。
一部は壊れたが他は無事なのがラッキーだった。また、(2010年に)噴いたのか2分間だったので、探査機が生きていられる比較的短い5年後に金星に会合するチャンスがあり運が良かった。これがゼロや6〜8分の噴射だと、どうなっていたか判らない。短い可能性もあるが、もっと長い期間になっていたかもしれない。人間の力を離れても非常に希有なオペレーションだったと思う。千載一遇のチャンスをとらえてものにしたのは、チームメンバーの底力で、特に石井先生をはじめとする工学チームの底力を感じた。

中村・他の方のコメントで、廣瀬さん(※)は「安心しました」とのことで、石井先生は「これからです」とおっしゃっていました。
(※廣瀬史子 研究開発部門 第一研究ユニット 主任研究員)

以上です。