投稿日 2016年2月10日(水)22時37分 投稿者 柴田孔明
2016年2月10日14時より、種子島宇宙センター竹崎展望台にてH-IIAロケット30号機のY−1プレスブリーフィングが行われました。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 ASTRO−Hプロジェクトマネージャ
高橋 忠幸
宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 鹿児島宇宙センター射場技術開発ユニット長
長田 弘幸
三菱重工株式会社 防衛・宇宙ドメイン 宇宙事業部 MILSET長
平嶋 秀俊
・準備状況(配付資料より)
・H-IIAロケット30号機は飛島工場を12月4日に出荷後、射場作業を開始。
・以下の準備作業を良好に実施。
機能点検(〜1月21日)
機体の各機器が正常に作動することを確認。
・カウントダウンリハーサル(1月26日)
関係要員に対し打ち上げ当日の対応手順を周知徹底するために、打ち上げ時の作業を模擬。
・ASTRO−Hとロケット機体の結合(1月30日)
・ロケット機体の最終的な機能点検(2月1日)
・発射整備作業を実施中(2月8日〜)
・機体移動:2016年2月12日午前5時〜
・打ち上げ日:2016年2月12日
・打ち上げ時刻:17時45分(JST)
・打ち上げ時間帯:17時45分〜18時30分(JST)
・打ち上げ予備期間:2016年2月13日〜2016年2月29日
・気象状況
今日と明日は晴れ。明後日は曇りで、風が強いのが懸念材料である。
・ASTRO−Hについて(配布資料より)
ASTRO−Hはブラックホール、超新星残骸、銀河団など、X線やガンマ線で観測される高温、高エネルギーの天体の研究を通じて、宇宙の構造とその進化の解明を行う天文衛星です。
X線やガンマ線は、地球の大気に吸収されてしまうために、地上に到達することができません。そのため宇宙で観測することが必要です。
ASTRO−Hは、「すざく」の後継として開発され、JAXA、NASAをはじめ、国内外の大学、研究機関の250人を超える研究者が開発に参加する、X線天文学の旗艦ミッションです。大規模な国際協力で開発された4種類の新型観測システムが搭載され、「すざく」にくらべて10倍から100倍も暗い天体の分光観測が可能になります。
・ASTRO−H主要諸元
全長:約14m(観測時)
質量:約2,700 kg
軌道:高度約575 km(円軌道)
目標寿命:3年
・今後の予定
初期運用(姿勢確立、バス系確立、観測装置立ち上げ):1.5ヶ月
試験観測(キャリブレーション天体観測):1.5ヶ月
(性能確認(PV)天体観測):6ヶ月
定常運用(公募観測)
・衛星搭載環境の緩和に関するデータ取得計画
・衛星の分離にラッチ機構を使用することで、分離時の衛星への衝撃を従来の1/4にする。
(※従来は爆薬[火工品]を利用して締付ボルトを切断する。歪エネルギーが瞬時に解放されるため衝撃が大きい)
・ASTRO−H搭載位置をかさ上げし、内部に実証用の低衝撃型衛星分離部を配置。
ASTRO−H及び小型副衛星分離後にデータ取得を行う計画。
・打ち上げ天候制約(氷結層を含む雲)の見直しについて。
・氷結層高度が低くなる季節におけるロケット飛行中の誘雷リスクについて、従来より精度良く測定できる手段を確立できたため、打ち上げ時の氷結層に係る制約について見直しを行った。
・従来は雲の厚さで判断していた。(1.8km以上で中止)
・新制約では、雲の厚さが1.8kmを超えた場合、レーダを利用して雲の内部の状態(レーダ反射強度)を測定し、規定値を超えていないかを確認する。
(※新しい制約を適用すれば、これまでの氷結層による打ち上げ中止の半分くらいは可能になる)
・質疑応答
毎日新聞・今回のラッチ機構はデータ所得のみで、ASTRO−Hは従来型の分離機構か。
長田・そうです。
毎日・ラッチとはどういう動きをするのか。
長田・留め金に電気を流すことでラッチ機構が解放され、留め金が開放される。
NHK・今回は天気が心配されるが、延期せず打ち上げを行う根拠をお聞きしたい。
平嶋・制約条件とデータを比較し、打ち上げ可能と判断。当初より注意報発令(雷等)の予想時間が遅くなっている。風も(現在は)許容値内である。
産経新聞・今の気持ちをお聞きしたい。
高橋・ASTRO−Hはたくさんのメンバーがいます。種子島だけでなく内之浦、相模原でも準備作業をしています。チームメンバーのそれぞれが求められることをきちんと行って今日を迎えています。意気込みというより、打ち上げオペレーションと、その後の運用にとにかく集中しようという気持ちでいっぱいです。ASTRO−Hがもたらす新しいデータを心から待ち望んでいる世界中の科学者の顔を思い浮かべながら、打ち上げとそれから始まる運用に集中したいと考えています。
不明・H-IIAは30号機で節目だが意気込みなどをお聞きしたい。
長田・正直、H-IIAロケットがこれだけ長いとは、個人的には思っていなかった。三菱重工としてもH-IIA/Bの打ち上げサービス20機目の節目となる。成功させようというのはもちろん、常々平常心というのを心にしている。ミッションとしては202型で特段難しい所はないが、油断せずひとつひとつ確実に作業を行って打ち上げに臨んでいきたいと考えております。
時事通信・伸展式光学ベンチの伸展はいつになるか。
高橋・伸展ベンチは姿勢の安定を見ながら。だいたい10日か、それ以降の間。
時事通信・伸展ベンチを使わない搭載機器の確認をやってから、伸展ベンチ関連の確認を行うのか。
高橋・衛星の各部から出てくるガスが抜け、真空度が保たれ、姿勢が安定した後に順次行う。1.5ヶ月の中に伸展ベンチも含め状況を見ながら順次やっていくことになる。
時事通信・クリティカルフェーズ終了の時には終わっているということか。
高橋・伸展ベンチはクリティカルフェーズの中と定義されている。検出機器の立ち上げは1.5ヶ月の中で行います。
NVS・打ち上げが延期の場合、打ち上げ時刻はどうなるか。
平嶋・2月19日までは変更がない。それ以降は2分くらい遅くなる。
(※当初の「2分早くなる」は誤りと訂正があった)
日経新聞・氷結層を含む雲の制約見直しで、レーダーを使うのは一種の緩和のようだが、雲の厚さが1.8km未満の場合でもレーダーの反射が規定値を超えたら打ち上げが見送りになるのか。
長田・雲の厚さが1.8km未満なら問題ないので打ち上げ。1.8km以上の厚さの場合、より正確に判断するためにレーダーを使って最終的に決める。指標が二つになった。
赤旗新聞・搭載環境の緩和で、ダミー衛星とデータの回収について詳しくお聞きしたい。
長田・ダミー衛星は回収しません。分離部にセンサがあり、テレメータを地上で受けて評価する。
ニッポン放送・衛星搭載環境の緩和で、衝撃が減るとのことだか、見た目もそうなのか。
長田・肉眼では難しいが、火工品よりはややゆっくり。見た目ではなかなか判らないと思う。
南日本新聞・今回はX線天文衛星として6機目だが、日本がX線天文衛星に力を入れる理由と位置づけ。
高橋・日本はX線天文衛星「はくちょう」で、X線天文が生まれた早い時期から立ち上げてきた。その時々の衛星は、大きい衛星を作ることができたアメリカやヨーロッパの衛星とは一線を画して、ユニークでかつ大事なものを搭載してきた。そのため日本からの研究成果は世界の中でも高く位置づけられています。「ぎんが」衛星というものもありましたが、ちょうどシャトルの事故の時に世界唯一の(X線天文)衛星として大活躍しました。そのあとの「あすか」「すざく」も、他の衛星が将来使ってくるだろうと思われるセンサを先に積んで新たなサイエンスを開いてきた。日本人らしいと思うが、大事なことを小さくてもいいから先にやっていくことがなされてきた。ASTRO−Hは規模を大きくして、さらに海外の力も入れてより大きくした。
読売新聞・氷結層の反射強度の測定を行うレーダーは今日の天候判断でも使われたのか。また、明日明後日も測定を行っているのか。
長田・気象は日々刻々と変化している。一応見ているが、今の時点で打ち上げを止めるものではない。打ち上げ当日に微妙な状況(1.8km以上)の場合には使うことになる。
読売新聞・このレーダーはどこにあるのか。
長田・気象庁の種子島レーダーを使っている。中種子町の空港の近くにある。
NVS・センサを冷却にするタイミングはいつか。
高橋・冷やしたまま打ち上げるので、現在も冷やしたまま。
以上です。
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