宇宙作家クラブ
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No.2064 :「みちびき2号機」分離時の拍手 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年6月3日(土)20時58分 投稿者 柴田孔明

「みちびき2号機」分離時の関係者による拍手。


No.2063 :打ち上げ写真 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年6月3日(土)20時55分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット34号機の打ち上げ。
無人カメラによる撮影。


No.2062 :H-IIAロケット34号機打ち上げ経過記者会見 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年6月3日(土)20時52分 投稿者 柴田孔明

 H-IIAロケット34号機は2017年6月1日9時17分46秒に種子島宇宙センターから打ち上げられました。ロケットは順調に飛行し、搭載した準天頂衛星「みちびき2号機」を正常に分離しています。
 同日11時頃より、打ち上げ経過記者会見が行われました。
 (※一部敬称を省略させていただきます)

・登壇者
内閣府特命担当大臣 鶴保 庸介
文部科学省大臣官房審議官(研究開発局担当) 大山 真未
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 理事長 奥村 直樹
三菱重工業株式会社 執行役員 防衛・宇宙ドメイン長 阿部 直彦

・側面列席者
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 局長 田 修三
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 参事官 守山 宏道

・打ち上げ結果について・阿部
 三菱重工業株式会社及び宇宙航空研究開発機構は、種子島宇宙センターから平成29年6月1日9時17分46秒に、「みちびき2号機」を搭載したH-IIAロケット34号機を予定通り打ち上げました。
 ロケットは計画通り飛行し、打ち上げ後28分21秒に「みちびき2号機」を正常に分離した事を確認しました。
 ロケット打ち上げ時の天候は曇り、北北西の風2.8 m/s、気温24.2度Cでした。
 「みちびき2号機」が軌道上での初期機能確認を無事終了し、所期の目的を成功裏に完遂されることを心より願っております。
 本日の打ち上げ成功でH-IIAは通算34機中33機の成功、成功率は97.1%になりました。H-IIBと合わせると通算40機中39機の成功、成功率97.5%です。またH-IIA/B、34機連続の打ち上げ成功です。
 天候が心配されましたが、おかげをもちまして無事打ち上げることが出来、大変安堵しています。
 引き続き皆様に安定的な打ち上げを提供できるよう、さらに心を引き締め、細心の注意と最大限の努力を傾注して参ります。
 今回の打ち上げに際し、多くの方々にご協力ご支援を頂きました。あらためて関係者の皆様に心よりお礼を申し上げるとともに、引き続きご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。

・奥村理事
 ただいま三菱重工殿からH-IIA34号機による「みちびき2号機」の打ち上げ成功に係るご報告がございました。今回の打ち上げにあたりまして私どもの役割でございます、打ち上げ安全管理業務も無事達成致しましたことをご報告致します。
 毎度のことですが、今回の打ち上げにあたりましても地元の皆様をはじめとして、関係機関のご支援ご協力のもとに成し得たものでございます。本打ち上げに際し、ご支援ご協力をいただきました皆様にあらためて御礼申し上げたいと思います。
 今後とも確実な打ち上げ業務に協力できますように誠心誠意取り組んでまいりたいと思います。
 なお、将来に向けた次世代の測位衛星高精度システムの研究開発業務を内閣府殿より委託するなど、政府全体の宇宙開発利用を技術で支える実施機関と位置づけられておりますJAXAも、衛星測位分野の発展に引き続き協力してまいりたいと考えてございます。今後ともご理解ご支援を賜ればと思います。

・鶴保特命担当大臣
 我が国のH-IIAロケット34号機による内閣府所管の人工衛星「みちびき2号機」の打ち上げが成功したことに対し、関係者の皆様のこれまでの努力に心より感謝を致したいと思います。
 「みちびき2号機」の打ち上げ成功によりまして、準天頂衛星システムの4機体制確立に向けた確実な一歩を踏み出すことができました。
 引き続き「みちびき2号機」を所定の軌道に投入の上、軌道上での試験等を着実に実施致しまして、万全な体制で運用を始めたいと考えております。
 2018年度からの正式サービス開始に向けて、「みちびき3号機及び4号機」を今年度中に着実に打ち上げると共に、準天頂衛星システムによる各種測位サービスを多くの方が円滑に利用できるよう、引き続き関係者と連携してまいる所存であります。
 さらに、宇宙政策全体を担当する立場から、準天頂衛星システムを含む宇宙開発利用の拡大に向けて、引き続き努めてまいりたいと思いますので、関係者の皆様のますますのご協力をよろしくお願いいたします。

・大山審議官
 H-IIAロケット34号機の打ち上げが成功し、大変喜ばしく思っております。打ち上げに際しましてご尽力ご支援いただいた関係者の方々に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
 今回の打ち上げ成功によりまして、基幹ロケットH-IIA/B・イプシロンとしては36機連続の成功となり、我が国が有するロケット技術の着実な発展と信頼性の向上を示すものと考えております。準天頂衛星は来年度から4機体制で運用し、自動車の自動走行などに活用可能な位置情報サービスが実現されると聞いております。今後も「みちびき2号機」の運用が予定通りに行われますことを期待しております。文部科学省におきましては、基幹ロケットのさらなる安全性信頼性の向上とともに、次期基幹ロケットであるH3ロケットの開発にも着実に取り組んでまいります。

・質疑応答
鹿児島テレビ・日本版GPSと呼ばれるみちびきの打ち上げが続くが、このみちびきが国民にもたらすメリット、どのような未来を描かれているか。
鶴保・4機体制を実現すれば、正確なセンチメートル単位の世界最確度の安定した測位体制が実現するわけですから、これらを使って、さきほど紹介のありました自動運転でありますとか、農業機械の測位を使った運用でありますとか、工業、i-Construction等々のものもありますし、それぞれの分野でそうしたものを使って大きく広がっていくことがまずは考えられる点であると思います。
 ただ私共としては今これをやりますと限定的に申し上げるのではなくて、S-NETというものを使って多くの方に集まっていただいてアイディアを募集し、新たなるイノベーションに繋げてゆく努力も並行してさせていただいているところであります。先ほど申し上げましたが、これからが皆さんと一緒に作り上げてゆく、そのスタート台に立ったという認識です。ぜひご協力を賜りたいということであります。大いに可能性を秘めたものであることをお伝え致します。

ニッポン放送・GPS衛星はそもそもアメリカの軍事目的で作られた。昨今の世界情勢の中で、この「みちびき」が安全保障分野での活用はあるのか。
鶴保・宇宙基本計画では安全保障上の有効利用について検討を行うこととされております。その限りにおいては可能性は無いとは言えない。ただ、現状では防衛省及び自衛隊において具体的なことは何も決まってはおりません。総じて申し上げるとこうした科学技術と防衛転用の問題というのは、その時代において、その場面場面において考えていくものではないかと思っています。従いまして、こうした測位衛星のシステムが当たり前になってきた時代にまた議論は変わったものになってゆくので、ぜひ皆さんと一緒にこれを考えていくということです。

日経新聞・今年は行程表上では打ち上げが多いが、その1本目、幸先が良いスタートだが手応えは。
阿部・最初の1号機だが、しかし1機1機が我々にとって大事。特に1号機でどうということはない。本年度について言いますと多数機が比較的平滑化されたインターバルで打ち上げられると伺っておりますので、私どもにとってありがたいと思っております。慌てず焦らず、ひとつひとつ成功を継続して皆様の期待に応えたいと思っております。
奥村・今年度は最多になると思います。こういった計画に対して、実は地上でこの種子島あるいは内之浦での地上における、いかに効率的にやるかという大変地味な仕事を業者の皆さんと一緒に進めてきております。そういう意味で、こういった地味な仕事に徹している諸君にとっては大変大きな力になるのではないかと思います。今年度も力を合わせて行程表のスケジュールを守れるように努力していきたいと、私のみならず職員も思っておりますので頑張ってまいりたいと思います。

産経新聞・みちびき初号機は春までJAXAが運用主体で内閣府にバトンタッチした。2010年に打ち上がってから、いろいろな技術実証的なところも含めて検証されてきた立場だと思いますが、その手応えをどう感じられているか、またどんな所感でバトンタッチされたのか。
奥村・ご指摘の通り、2010年に打ち上げられてからつい最近まで私どもの方で運用を委託しておりまして、無事移管できてほっとしております。この1号機があって2号機以降の活躍の場ができる訳でありますので、そういう意味で日本版GPSみちびきの体制を完成する意味で、この1号機の役割は不可欠でありますので、それを十分機能保全したままお渡しできたことをたいへん誇りに思っております。その間で得た知見を蓄えまして、次世代の4号機以降の研究開発についても内閣府殿から受諾できているのは、私どもの蓄積した知見もご配慮いただいたものではないかと私どもは理解しております。

毎日新聞・「みちびき」は7機体制を目指すが、GPSとの併用でそれなりの精度が出る中で、あえて多額の予算をかけて純国産を進めるメリットは何か。
鶴保・一にも二にも信頼性の確保ということです。安定的にサービスを提供できることを目指すことが我々の立場であります。防災用途のメッセージなど国民のニーズに応えた形を、よりきめ細かく進めていきたいと考えています。米国のGPSに依存しない我が国の測位衛星システムをなんてしても作り上げていきたいと考えております。

毎日新聞・それはアメリカが突如GPSをやめる懸念があると考えているのか。
鶴保・機械の話でもあり、突然何かが起こることは全く可能性として排除できるものではありません。我々としてそれに対応できる体制は大切。基礎的なインフラになってゆく前提として、できるだけ自前のものをもっていくことを考えている。

日経新聞・28回連続打ち上げで感じたことは。
奥村・打ち上げを確実に行うことは必要な条件でございますけど、そのためには毎回毎回多少異なってゆく機体の状況とか環境とかある訳で、いかに確実に連続して打ち上げていくか、私は大変なことだと思っております。そういう意味で一歩一歩、一機一機ではありますけど、この実績は必ずや次のH3に繋がり、また打ち上げサービス事業の将来における国際競争力の確保という面でも貢献するものと思っております。次号期以降大変多数の衛星を打ち上げる予定でありますけれども、一機一機一歩一歩確実に任務を果たしてまいりたいと考えております。

南日本新聞・7機体制を目指す理由として、万が一GPSが使えないときに国産の衛星でまかなえるとのことだが、一方で宇宙基本計画の中ではGPSと連携して日米同盟を強化すると謳われている。そこの整合性について考えをお聞きしたい。
鶴保・もちろん日米同盟に対しての意識の中で7機体制ということではなく、私達としてはあくまで技術的、サービスのインフラとしての安定的供給体制を整えるという意識になります。ただあえて申し上げるならば、日本には様々なサービスのこれから可能性があります。防災のため、あるいはスポーツへの転用、技術力の向上などこうしたことも考え得るそんな時代にあって、そうしたことの技術、そうしたことのサービスがビジネスを生むチャンスが大いにあると考えます。こうしたことの先駆的な取り組みをさせていただくためにも、機動的なお安定的な供給体制が、社会インフラの、基礎的インフラのひとつとして必要になるのではないかと考えます。計画として今年度中にあと2機を打ち上げさせていただき、来年度からはサービスインということで、その中で様々な論点あるいは議論が上がってくると思いますので、そのことに謙虚に耳を傾けながら7機体制を目指すことに尽きるのだと思います。


・H-IIAロケットF34打ち上げ経過記者会見(第二部)

・登壇者
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 参事官 守山 宏道
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 第一宇宙技術部門鹿児島宇宙センター長 打上安全管理責任者 藤田 猛
三菱重工業株式会社 執行役員フェロー 防衛・宇宙セグメント 技師長 打上執行責任者 二村 幸基

・側面列席者
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 企画官 松本 暁洋
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 参事官補佐 川津 泰彦

・質疑応答
日経新聞・機体移動直前に確認で予定より遅くなったが、どういった事があったのか。
藤田・大型ロケット組立棟(VAB)から出して射点に移動する訳ですが、組立棟の内部で環境モニタの値の確認に時間を要したため、30分程度移動の開始時間をずらした。
(※機体移動は5月31日の18時30分に開始予定だったが、直前に19時00分に変更されていた)

読売新聞・今日の打ち上げ速報で「みちびき2号」の分離が28分21秒だった。飛行計画では分離高度は275キロだったが、これも予定通りか。(※飛行計画では分離は28分20秒)
二村・分離秒時については計画値と1秒程度のずれで、ほぼ計画値でございました。分離高度につきましては、ロケット側で把握している実績値は272キロ。衛星の分離も含めまして軌道要素はいろいろございますが、最終的な評価は衛星側の方からいただくことになっています。

日刊工業新聞・衛星の今後のスケジュールをお聞きしたい。
松本・今日打ち上げられた衛星は二週間かけて軌道遷移してまいりまして、その後1.5ヶ月程度かけて初期の機能チェックを行います。
(※打ち上げ前ブリーフィングで衛星の今後の予定について説明あり)

日刊工業新聞・準天頂軌道で技術的に難しいところは何か。
二村・H-IIAロケットのシーケンスでは、ほぼ通常の静止遷移軌道に入れるシーケンスとほぼ同等でございます。打ち上げ角度もほぼ同じような角度で打ってまいります。最終的には軌道傾斜面を今回の準天頂遷移軌道に近づける最後の動きをいたしますが、打ち上げとしては殆ど実績のある範囲でまかなえると思っています。

産経新聞・みちびきについていろいろな幅広い用途が期待されていて、いろいろ実証が行われてきたと認識しているが、それらはスケールが大きいものだった。より生活に身近な、携帯端末など国民が身近に感じられるアイディアや構想はあるか、またその実現のための課題はあるか。
守山・ご指摘の通り農業や自動運転の世界であったり、物流効率化みたいなところであったり、各省庁・産業界の皆様と数年にわたりやってきている。まず衛星が順次打ち上がって身近に感じる部分というのは、最新のスマートフォンの方で準天頂の信号対応が始まって、カーナビについても始まっていますので、これが完全に揃って24時間信号が確実に高いところから降ってくることになれば、これらのスマートフォンやカーナビの位置情報サービスの精度が上がって効果が出てくるものだと思います。また、さきほど大臣からお話がありましたが、いろんな分野で活用していただくという観点から、これまで宇宙にあまり馴染みのなかったような企業の皆様や民間の取り組みなどとも連携はしていきたいと考えています。さきほどありましたS-NETと呼ばれるようなプラットフォームを立ち上げて、新しいアイディアを発掘して事業化するところまでやっていきたい。関連する話ですけども、今月からS-Booster 2017というものを始めてまして、これはビジネスアイディア募集のコンペティションで、賛同いただけた企業4社の皆様から賞金を出していただいて、こちらの方でいいアイディアがあれば賞金を活用して、実用化に向けた取り組みができないかというものを始めています。そういった事業者様の取り組みに大変期待している。繰り返しになりますが、位置精度が上がっていくことで、今までできなかった消費者様に物をお届けするなどそういったところで、数年前から事業者様と意見交換をしてきたが、もうちょっとサービスが始まることで抜本的に取り組みの推進を強化していきたいと考えている。
 課題面は、やはり受信機とか受信システムのところと、具体的サービスのところで、その産業で使っている機械が正確な位置情報を使ってサービスに対応できる、アプリケーションの部分で高まってきますので、我々の課題は受信機とか受信システムで小型化かつコストを安くといったところでありますし、今ホットなもので言えばIoTという取り組みをフルに活用していくこと、アプリケーションを一緒に開発して、そういったものはユーザー目線が大事なので、そういった企業様としっかり連携してゆくことが課題であり今取り組み始めているところであります。

産経新聞・今のスマートフォンやカーナビの対応は、ビルの谷間などでのGPS補完のことか。
守山・その通りです。

南日本新聞・受信機の安価・小型化はセンチメートル級の補強の話か。
守山・センチメートル級とメートル級について引き続きやってゆく余地がある。

南日本新聞・測位サービスの海外展開の展望で、数センチ規模は世界的にレベルが高い。アジア・オセアニアへの展開も考えていると理解しているが、経済効果が2020年時で2兆円を見込むなど具体的な数字があるということは具体的な展望があるのか。
守山・準天頂衛星を核とする海外展開でございますけども、地上直下軌道が8の字を描くということで、アジア太平洋、東南アジア、オセアニア、豪州までしっかりカバーができているということで、日本で企業の皆様とアプリケーションを開発し、国際的に見ても競争力の強化が望まれている農業分野であったり建設の分野であったり物流の部分であったり等々、こういったところをアジア太平洋の中でもニーズが高まっていますので、これを準天頂システムを核として実現化をしてゆくことを目指しています。その観点で、2020年で2兆円強という数字は、もともと経済産業省さんが国ごとに、セクターごとに、どういった新サービスが出て市場規模がどれくらい出るのかというものを内外で計算したものを私どもの方で一昨年だったかに見直しを行ったという事であります。基本的な考え方は準天頂衛星システムの高精度のサービスに関連して、そういった産業関係や個人消費向けを含めてアジア太平洋地域に展開をしてゆくことを考えています。いろいろ先駆け的な動きがありますが、国ごとにこういった事について取り組みたいという関心が寄せられていて、次のステップに進めそうだという事もあります。具体的にはシンガポールにおいて三菱重工さんが次世代のゲートを使わない課金システムを受託し、それは準天頂衛星システムをかませることが前提になっているなど、そういった動きが出て来ています。私どもはアジア太平洋地域の発展という観点からも、しっかり手を携えて、皆様の協力をいただきながら進めていきたいと考えています。

南日本新聞・ロケットの打ち上げで6月は初めてと聞いており、氷結層など天候が不安定、この時期の難しさと、それを乗り越え成功した手応えと自信など。
二村・6月の打ち上げは私個人が把握している範囲では初めてであったと思っています。正確には後ほど広報からお答えさせていただきます。特に今回に限っても、打ち上げの直前期までは比較的安定した晴天が広がっていたのですが、6月1日を挟んでの天候が非常に不安定になった。気象データとしては非常に適切なものをJAXAさんの方から提供いただいて、それを見て我々が判断させていただいてますけれど、データが更新される度に、その差分が非常に大きい。つまり、予報も非常に不安定であった。この6月1日を最終的に打ち上げができるかどうか非常に悩ましかったのが正直なところでございます。しかしながら気象のデータも含めて傾向、予報のずれの傾向も含めて我々は見ておりまして、最終的に予定通りのこの日を選択して正解であったと私は思っております。こういった難しい時期に、しかも比較的チャンスが少ない気象の中でも確実に打ち上げることができたというのは、JAXAさんの安全管理と設備といったものの通常のメンテナンス、それから我々の機体の整備、それから打ち上げに向けた準備といったものが、打ち上げるチャンスが少なくても確実に打ち上げる準備を整えることができるようになったことを感じておりました。これからも仮に非常に限られたチャンスの中で打ち上げるにしても、確実な準備を、これまでに行ってきたことをさらに改善しながらでも手を入れながら、お客様のご要望される日に打ち上げられるように引き続き努力していきたいと思っています。
(※5月中旬から後半なら実績あり)

・「みちびき」システム無しのGPS誤差はどれくらいか。
守山・私どもが収集した情報によれば、GPSオンリーでは約10メートルの誤差だと承知しています。

・6センチ程度の精度が安定的に出せるとの話だったが、スケールからすると何桁の精度が上がることが、単純に日本上空に衛星が展開するだけで実現できるのか。
守山・センチメートルの精度は国土地理院さんが設置している電子基準点網とセットで実現するようになっています。1メートル級のサービスがもう一本独立してありますけども、これも方法としては同じ考え方で、基準点を設置して実現することになっています。今の質問は上空1機の準天頂衛星と10メートル誤差のGPS衛星の組み合わせでどうしてセンチメートルの誤差になるのかという意味だと思いますが、補強する信号を準天頂衛星から高いところから正確確実に降らせることを仕組んでいます。それを受けた受信機側がちゃんと対応していると、センチメートル級であったり1メートル級の精度が実現する。そのとき引用されている準天頂衛星とGPS衛星は同じ信号にしている。それぞれの基本信号を活用してどういった誤差があるか電子基準点を使って解析をして、その情報を補強信号として確実に入れることで誤差の補強を実現する、そういった仕掛けになっています。

読売新聞・初号機から7年ぶりの2号機の打ち上げで、この7年という時間はどう見ているか。そもそも予定だったのか、何らかの変更があったのか。
守山・衛星を作るのに5年かかっている。奥村理事からもありましたが、いろいろ実証でどう成果が出るか、それをどう評価し、どう実用化に持って行くかの検討もなされていた。加えまして鶴保大臣の言葉を引用させていただくと、利活用の幅がいろんな産業に広がっていくことが想定された中で、どういった体制で衛星システムを開発して運用していくのか、アプリケーションとしての利活用の展開もやっていくのか、そういった検討が同時並行でなされた時間も必要で、そういった事を着実に積み重ねていった結果として2017年6月1日に2号機が上がったと理解しています。

以上です。


No.2061 :H-IIAロケット34号機の打ち上げ ●添付画像ファイル
投稿日 2017年6月1日(木)12時15分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット34号機は2017年6月1日9時17分46秒(JST)に打ち上げられました。


No.2060 :第2回判断はGo
投稿日 2017年5月31日(水)23時27分 投稿者 柴田孔明

三菱重工から連絡があり、H-IIAロケット34号機の第2回GO/NOGO判断会議の結果はGOとなりました。ターミナルカウントダウン作業開始可です。

No.2059 :H-IIAロケット34号機の機体移動 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年5月31日(水)21時29分 投稿者 柴田孔明

2017年5月31日19時00分よりH-IIAロケット34号機の機体移動が行われました。
当初18時30分からの開始予定でしたが、設備に確認を要する事項があったとのことで30分ほど遅れました。


No.2058 :H-IIAロケット34号機 打ち上げ前記者ブリーフィング ●添付画像ファイル
投稿日 2017年5月31日(水)00時37分 投稿者 柴田孔明

 2017年5月30日15時30分より、種子島宇宙センター竹崎展望台記者会見室にてH-IIAロケット34号機打ち上げ前記者ブリーフィングが行われました。
 当初の開始予定時刻は14時でしたが、天候判断に時間を要するとのことで15時30分に変更されました。
 (※一部敬称を省略させていただきます)


登壇者
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 企画官 衛星開発責任者 松本 暁洋
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 第一宇宙技術部門 鹿児島宇宙センター射場技術開発ユニット長 長田 弘幸
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 MILSET長 平嶋 秀俊

・発表資料より
 三菱重工業株式会社および国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、「みちびき2号機」(準天頂衛星)を搭載したH-IIAロケット34号機の打ち上げについて、下記の通り決定いたしましたので、お知らせいたします。

打ち上げ日:2017年6月1日(木)
打ち上げ時刻:9時17分46秒(日本標準時)
打ち上げ予備期間:2017年6月2日(金)〜2017年6月30日(金)

・ロケットの準備状況
 ・飛島工場を4月26日に出荷後、射場作業を開始。
 ・カウントダウンリハーサル(5月14日)
 ・機能点検(5月10日〜5月21日)
 ・みちびき2号機とロケット機体の結合作業(5月16日〜5月25日)
 ・ロケット機体の最終的な機能点検(5月25日)
 ※射場整備作業は、H3ロケットLE-9実機型エンジン燃焼試験と並行して実施。作業干渉を回避する計画設定により、射場整備作業中に燃焼試験を4回実施。

・今後の予定
 ・5月31日15時15分頃、機体移動の可否判断
 ・同日18時30分頃、機体移動
 ・同日23時頃、ターミナルカウントダウン作業開始判断。
 ・同日23時30分頃、ターミナルカウントダウン。
 ・6月1日8時15分頃、X-60分作業開始判断。可ならX-60分からターミナルカウントダウン。
 ・同日9時5分頃、X10分作業開始判断。可ならX-10からターミナルカウントダウン。
 ・同日9時17分46秒(日本標準時)リフトオフ
 ・打ち上げ後28分20秒、衛星分離予定。

・天候について
 5月31日の昼以降から気圧の谷の通過で雨が予想されているが、機体移動の時間にはクリアできる。6月1日は打ち上げには支障の無い天候である。同日の氷結層も抵触する高さになっていない。

・準天頂衛星の予定
 ・本年度は3機を打ち上げ予定。
 ・2018年度から4機体制でのサービス開始予定。
 ・2023年度をめどに7機体制を構築予定。
 ・本年度の3機は準天頂軌道2機と静止軌道1機。(運用中の初号機は準天頂軌道)
 ・初号機の後継機は2020年度に打ち上げ予定。

・みちびき2号機打ち上げ後の予定
 打ち上げ後約0.5ヶ月:準天頂軌道到達
 同約2ヶ月:衛星搭載機器機能確認完了
 同約2.5ヶ月:QZSS End to End確認
 同約3.5ヶ月:測位チューニング
 同約3.5ヶ月後:測位試験サービス開始


・質疑応答

・日本版GPSのシステムが出来ることのメリットは何か。
松本・都市部でスマホの測位機能では位置がずれることがあるが、準天頂があれば測位精度が向上する。専用機器を使えば補強信号でセンチメートル級の測位ができる。

朝日新聞・ブリーフィングが天候判断で遅れたが、どういった検討を行ったのか。
平嶋・梅雨に入る時期で、天候が非常に不安定。毎日変わる。朝の段階と昼の段階で二度確認して精度を上げて精査した結果、時間がかかった。今のところ打ち上げ時刻の天候は良好である。引き続き精度を高めてやっていきたい。

・氷結層の規定値は1.8 km以下だが、当日はどれくらいになるのか。
平嶋・氷結層は無い予定です。

鹿児島テレビ・みちびきの4機体勢の半分になるが、どういうお気持ちで見守られるか。
松本・2機目が打ち上がってもまだ半分。今年度に打ち上げ予定の残る2機も並行して作業を進めている。気を引き締めて最後まで頑張って参りたい。

NHK・天候判断で朝と昼の確認で精度を上げたとのことだが、具体的に天候のどういった項目を検討したのか。
平嶋・夜18時半から機体を出して9時打ち上げで、万が一打ち上がらなかった場合の時間も天候の安定を確保できるかの観点で確認しようということで、昨日と今日の予測が変わってきていたのでもう一度確認した。

産経新聞・今号機で工程や設計の変更点はあるか。また不具合やヒヤリハット、やり直しはあるか。
平嶋・部品枯渇の関係で初めて載せるものもあるが、新たな問題は無い。電気部品の枯渇対策を行った。機能確認も良好。

朝日新聞・3.5ヶ月後にサービス開始だが、同じ仕様の4号機も同様か。
松本・2号機と4号機は同じ仕様のため、4号機は軌道上での健全性の確認が多少早くできる可能性がある。

読売新聞・軌道の8の字は地上から見えるイメージなのか。また1機が静止軌道なのは何故か。
松本・3号機は静止軌道で、この位置に静止するものです。準天頂軌道と静止軌道に分けた意味は、準天頂軌道を使って日本上空の高い仰角から信号を送るのがこのサービスの特徴。理想的には3機の衛星を使って効率よく、約8時間ずつ日本上空に持ってくる。残り1機は安否通信機能のため静止させてより安定した通信を行う。

南日本放送・34号機は今年度初の打ち上げ、コンスタントに打ち上げる意義と意気込み。
平嶋・意義としてはコンスタントに打ち上げて高い信頼性を保てることがあるので確実にやっていきたい。心構えとしては、どんな衛星・打ち上げでもひとつひとつ確実丁寧に平常心を保って打ち上げに臨むことを常日頃心がけて参りたい。

共同通信・7機体制になると、どのあたりがより良くなるか。
松本・測位には4機の衛星信号の受信が必要だが4機体制ではユーザーから同時に見えない。それが出来るには最低7機が必要。何らかの理由でGPSが停止した場合、測位を継続ができるのが準天頂衛星7機体制の大きな意味。

以上です。


No.2057 :みちびき2号機ロゴ ●添付画像ファイル
投稿日 2017年4月20日(木)02時00分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット34号機の段間部、みちびき2号機のロゴ


No.2056 :H-IIAロケット34号機 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年4月20日(木)01時59分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット34号機


No.2055 :H-IIAロケット34号機2段目 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年4月20日(木)01時57分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット34号機2段目


No.2054 :H-IIAロケット34号機 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年4月20日(木)01時57分 投稿者 柴田孔明

H-IIAロケット34号機のエンジン側


No.2053 :H-IIAロケット34号機コア機体公開 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年4月20日(木)01時50分 投稿者 柴田孔明

 2017年4月19日、H-IIAロケット34号機のコア機体公開が三菱重工業株式会社 名古屋航空宇宙システム製作所 飛島工場で行われました。
 H-IIAロケット34号機は準天頂衛星「みちびき2号機」を搭載し、2017年6月1日9時20分(JST)頃に種子島宇宙センターから打ち上げ予定です。
(※一部敬称を省略させていただきます)

・登壇者(概要説明)
三菱重工株式会社 執行役員フェロー 防衛・宇宙セグメント 技師長 H-IIA/H-IIBロケット打上執行責任者 二村 幸基
三菱重工株式会社 防衛・宇宙セグメント H-IIA/H-IIBロケットプロジェクトマネージャ 徳永 建
・登壇者(内閣府主催イベントについて)
日本電気株式会社 準天頂衛星利用推進室エグゼクティブエキスパート 神藤 英俊

・H-IIAロケット34号機の計画概要
 目的:みちびき2号機(準天頂衛星)を所定の軌道に投入する。
  ※みちびき初号機は2010年9月11日にH-IIAロケット18号機で打ち上げた。
  ※2017年度中に3号機と4号機も打ち上げられる予定。
 打ち上げ予定日時:2017年6月1日 9時20分頃(JST)
 打ち上げ予備期間:2017年6月2日〜2017年6月30日
  ※打ち上げ予備期間の打ち上げ予定時刻は、打ち上げ日毎に設定する。
 基本コンフィギュレーション:H2A202型 直径4mシングル衛星フェアリング(4S型)
 特記事項:コストダウンの継続適用として、1段目ヘリウム レギュレータをオペレーション耐性のある2段用ヘリウム レギュレータと共通化。
 今後の予定:2017年4月27日に飛島工場より出荷し、同4月30日に射場に搬入予定。
  ※固体ロケットブースタ(SRB-A)は射場において燃料充填済。
  ※衛星フェアリングは、射場へ搬入し準備作業中。
 H-IIA F34の飛行について:所定の軌道である準天頂遷移軌道に衛星を投入する。衛星分離は打ち上げ後28分24秒後の予定。

・内閣府主催のイベントについて
http://michibiki.space/
 「みちびき」の打ち上げを全国の皆様に応援していただくイベント。
 全国47都道府県枠と「みちびき」にゆかりのある自治体10枠、海外1枠の合計58団体から子供達を中心に1700人以上の参加によるリレー形式のカウントダウンを、打ち上げ時の公式中継で放送する。300秒前から5秒毎に各団体が行い、最後の10秒間は音声のみで一斉カウントダウンを行う。
 3号機も同様のイベントを行う予定で、全国の小中学生から50校程度を募集。応募は学校単位で学校関係者(教職員)の方から受け付け。(応募多数の場合は抽選)
 募集期間は2017年5月初旬から同年6月中旬の予定で、収録は2017年6月中旬から同年7月初旬の予定。
 この3号機のイベントは現時点での想定のため、今後変更になる可能性があります。


・質疑応答
日本宇宙フォーラム・機体の輸送や打ち上げで、「みちびき」初号機にお世話になる部分はあるか。
二村・大変残念ながら今号機の運搬と打ち上げではやっていません。

日経新聞・34号機が前回33号機から変わったところは何があるか。
二村・先号機と比較すると、ヘリウムレギュレータを共通化。ヘリウムというガスを使ってタンクの燃料を押す、あるいはバルブを作動させるような作動ガスのようなものを使っておりますけども、ヘリウムは気蓄器という丸い球に詰め込んでいて、そこを元ガスにしてフライト中にそこからガスを供給して、それらの目的に使っています。飛行中、どんどんガスが減って元圧が変わってゆく訳ですが、供給を受ける側からすると一定の圧力のレベルをずっと保持したものが欲しい。そのための「レギュレータ」というものを使っております。日本語で調圧器と呼びますが、それをこれまで2段で採用してきたものを、今回1段に初めて適用するところが違います。
 補足をしますと、この「オペレーション耐性のある2段用のレギュレータ」とありますが、歴史がございまして、もともと2段目も含めてレギュレータというのは、元圧から安定して落とすために二段階で調圧をしておりました。少し圧を落として、さらにそこからもう一段使って、ガスをある圧力に一定に保つことに使っておりました。しかし26号機の「はやぶさ2」を打ち上げるときに、2段目の飛んでいる時間がそれまでの想定時間より長くなった。打ち上げから「はやぶさ2」分離まで7000秒近く飛んでおりますが、そのうち2段は6600秒か6700秒くらい飛ぶことになりました。レギュレータのもともとの開発要求では3000秒を想定して開発しておりましたので、要するにそれだけの長秒時を保たせるようにするためにレギュレータを改良しなければならないという側面がありました。長く飛んで太陽光に晒されない時間があると、どんどん温度が低くなるなどいろんな事がありますので、それに耐えられるようにシールの材質を変えるなどが必然的にありましたけども、それにプラスして、二段階で圧力を落としていたものを、一段階で落とせるような機構に設計を変えております。単純に言いますと二段階あったものが一段階に少なく出来る訳ですから、物としては簡単化され、なおかつコストが下がる、ということを併せて改良開発の中で実施しました。そのとき(26号機)に初めて使って、以降2段目のレギュレータはそれを使ってきました。
 1段はこれまでの二段階で圧力を落とすタイプを使ってまいりましたが、今回34号機で初めて2段で開発を終えてフライト実績を積んだレギュレータを1段にも採用した。オペレーションしやすくなって、コスト的にも少し下げることができた。その点が今回違っている。今回、工場で見学していただきますが、見た目では全くわかりません。

日経新聞・コストメリットはどれくらいか。
二村・ずばりの金額は申し上げにくいが、軽自動車一台程度。

日経新聞・日本版GPSで変わる点は何か。
神藤・GPSと完全互換信号ということと、補完信号があるが、それ以外に補強信号というものがありまして、より精度を出すための仕組みがあって衛星から降ってきます。通常、GPSだと10メートル前後、良くて数メートルですが、これが1メートルから数センチと、二種類の測位のサービスをしております。他の国の衛星はまだやっていないのですが、測位だけでなくメッセージを降らせる機能があります。これは地震などでショートメールを出す機能があると思いますが、あれの衛星版です。全部の気象情報という訳にはいかないので、地震や津波など安心安全に関わる物だけを衛星から降らせます。これは衛星に対応した受信機が必要。まだ24時間のサービスは始まっていないので、対応するプロトタイプのチップはありますけど、製品化はこれから。GPSと同じ信号帯のチップ・モジュールは最近の携帯電話で対応を始めています。そういったものでより精度を上げられる仕組みを持っていると、そういうものは国の社会インフラなので無償で使える。メッセージを上げる機能もあり、災害時に避難所から今どれくらいの人が来ているといったものを自治体宛に送って災害支援に使う機能を持っている。このサービスは他の衛星には無い。

ベネッセコーポレーション・34号でルーチンワークになっているが、組み立てなどで事故が起きないようにしていることがあればお聞きしたい。
二村・ロケットは毎回新しいものを作っては使い捨てている。毎回製品を一から作り出さなければならない。基本的には同じことを愚直に繰り返すことになります。ただ、我々としてはコストを下げることが至上命題にありますので、作業の効率化や道具立てで工程を簡略できるようなものは随時採用していく。概ね、同じ事を淡々と繰り返すことは人が変わっても大体品質の維持は簡単だが、何らかの効果を得るために変更した部分は新しいプロセスが出来ますので、往々にしてそういったところでミスや想定していなかった事態が起こりえます。これを初めて採用した号機で言うと、事故とまでは至らなくても、物を傷つけたといったことが発生しうるので、当然作業の前に我々としては、ある意味机上シミュレーション的にはなりますけど、その作業の手順を定めたら、その作業をイメージしながら本当に行けるかどうかチェックをして、そこの中でひとつでも疑問が生じた部分については全て考え直しをして、再度組み立てて実際の作業に入ってゆく。そういった泥臭くて地道なことではありますけども、そういった活動をやることで人が変わったり、あるいは世代が変わっていったとしても、仕上がってくるロケットの品質が落ちないようにしてきております。

・カウントダウン企画の印象はどう思われたか。(※イメージ用の動画より)
二村・率直に言って、支えてもらっている、期待をしてくれていると強く感じます。我々は打ち上げ時は一般の人と全く触れ合わない、部屋に閉じこもった形で打ち上げのオペレーションを行っています。パブリックビューイングというものなどはやっていただいておりますが、そこでどんな気持ちで皆さんがロケットの打ち上げを迎え見ておられるのか、生の空気で感じることが無い。ああいった形で映像と声を実際に見せていただくと、正直言ってますますやる気がわくといったところです。

中日新聞・コスト削減が至上命題だが、今年度は最多6機の打ち上げ計画があり、スピーディーに打ち上げをやっていくには、どういったところに課題や目標があるか。
二村・今年度打ち上げるロケットは実際の設計は終わっていて、部品の加工に入っていたり、物によっては組立を既にしていたり、今日ご覧いただいたように既に機体が仕上がっているものがあります。我々は実際にロケットを打ち上げる度毎に様々なデータをとっている。飛ばすために必要なデータはもちろんありますが、それ以外に技術的に必要と思われるデータを継続的に取り続けておりまして、そのデータの評価によっては、設計を変えた方がいいという事が発生しうる。我々としてはより良くなると確信を持ったものについては、できるだけ早い時期に採用する。ある種不安定なところ、不安と感じる面をできるだけ早い時期に払拭してゆくことをずっと繰り返している。今年度は比較的打ち上げが多いですが、それでも同じ様な事をひたすら繰り返すことに違いはありません。もうひとつ、データがたまってきているので、ある範囲にしっかり収まっているデータが、ちょっとでも傾向がずれるような、合格値レベルの範囲の中でもそれまでとちょっと違う傾向のデータが発生したり得られた場合には、必ず原因があるのでそこを徹底追求する。不適合・トラブルの芽になるものが残存していないかひたすら追求し続け、必要に応じて対策を打ち、次の号機に反映する。それをずっと繰り返している。多い少ないにかかわらずやり続ける。

・測位衛星がロケットの改良・進化に期待できる点は。
二村・測位衛星の特定のシステムというよりは、位置情報が得られるということは、ロケットの飛んでゆく軌跡が電波で追尾するのとは違った手法で可能になるので、そういったものの活用が視野に入ってくると思っています。

以上です。


No.2052 :第2部登壇者 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年4月17日(月)22時17分 投稿者 柴田孔明

火星衛星サンプルリターンミッション(MMX)の検討に関するフランス国立宇宙研究センター(CNES)との実施取決めの締結と署名式
第2部登壇者


No.2051 :火星衛星サンプルリターンミッション(MMX)の検討に関するフランス国立宇宙研究センター(CNES)との実施取決めの締結と署名式 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年4月17日(月)22時15分 投稿者 柴田孔明

 2017年4月10日15時半よりJAXA東京事務所にて、火星衛星サンプルリターンミッション(MMX)の検討に関するフランス国立宇宙研究センター(CNES)との実施取決めの締結と署名式が行われました。
 火星の衛星(フォボスかダイモス)に探査機を送って観測を行い、さらに着陸してサンプルを採取し地球に持ち帰る計画です。
 打ち上げの想定時期が2024年9月で、その場合は探査機の地球帰還が2029年9月となっています。なお現在この計画は検討段階であり、今後変更の可能性があります。
(※一部敬称を省略させていただきます。内容についても一部省略があります)

第一部・署名式
・署名者
 CNES総裁 ジャン=イヴ・ル・ガル
 JAXA理事長 奥村 直樹
・臨席者
 在日フランス大使館公使 ポール=ベルトラン・バレッツ
 文部科学省研究開発局長 田中 正朗

・奥村理事
 本日はJAXAと、フランス国立宇宙研究センター(The Centre National d’Etudes Spatiales:CNES:クネス)との間で、火星衛星サンプルリターンミッション(Martian Moons eXploration:MMX)の検討に関する実施にあたりますImplementing Arrangementを結ぶことができることになりましましたので、ご報告させていただきます。
 フランスのバレッツ公使と文部科学省から田中局長を迎えまして、こういう式をできることをたいへん嬉しく思います。
 CNESとJAXAは1980年代から様々な分野で研究協力を進めて参りました訳でございます。2015年にこの長い歴史の研究協定をあらためてル・ガル総裁と私の間で見直しを行い、それ以降具体的な中身の検討を続けてきた訳でございます。今日、これからご紹介するMMXに関する研究協力についてが、具体的なひとつとご理解ください。我々としても挑戦的なミッションでありますし、また得られるであろう科学的成果を、より国際的な価値のあるものにしていくという意味で、CNESとの間に協力関係を得ることは、私としても大変誇りにも思っていますし、嬉しくも思っているところでございます。
 今回、CNESとの間で具体的にどういう内容を取り決めるのかについて一言触れますと、ひとつは探査機に搭載するセンサのミッション「近赤外分光計」というものでございます。これにつきましては、水を含むような物質があればそれに反応する、それを観測できる、そういったものがひとつ。それから火星衛星に到達するための軌道の検討、これも近くに火星本体がありますので、その近くの衛星に行くというのは軌道そのものを工夫する必要があります。こういったところで協力をする。3つめは小型着陸機の搭載可能性の検討。こういった大きく分けますと3つの分野で協力の検討を進めてまいります。
 ご案内のようにJAXAはこれまでも「はやぶさ」や、現在飛んでおります「はやぶさ2」といったように小天体の探査を実施して参りましたけども、一言で申しますとこういった探査ミッションは地球で生命がどのようにして誕生したのかという基本的な謎を解くために実施しているものでございます。今回行いますMMXも、この流れの一環であるというご理解をいただけたらと思います。
 いかんせん火星の衛星に行くということで、大変遠くもあり、またサンプルリターンで持ってこられる材料の量も限られるという事もありますので、このCNESの方でご検討いただいているセンサは大変有力な武器になると私どもは考えています。
 この実施検討にあたり、具体的な実施にさらに進むように今後CNESとの間で協力をより強めて参りたいと考えてございます。

・ル・ガル総裁
 私は今回日本に来ることができて大変嬉しく思います。また奥村理事長が言及なさいました実施取り決めの署名式に臨めることを極めて嬉しく思っています。いまお話がありましたようにCNESとJAXAの間には長い協力の歴史がございまして、私としても非常に嬉しいことですけども、CNESとJAXAの前身であるNASDAとの最初の協定にも私は立ち会うことができております。最初に申しあげたものは1996年のものでございますが、しかし私共は他にも欧州宇宙機関の中でもいろいろと協力関係を進めております。いろいろ取り上げている計画の中にベピ・コロンボというものがございまして、これは水星の探査に関する計画でございます。
 本日はこのMMXの実施取り決めの署名式でございますが、このMMXというミッションはこれから10年間の中での最も重要なミッションになるであろうと私は思っております。皆様ご存じだと思いますが、火星というのは現在宇宙における最先端のパイオニアとなりまして、宇宙大国と称する国々がこの火星の探査に強い意欲を見せております。今回は火星のまわりに自然に出来た衛星のひとつフォボスからのサンプルリターンのミッションでございまして、6000キロメートルくらいの低軌道を航行する探査機でございますが、うまくいけば2025年にはサンプルリターンが成功し、何グラムかの衛星のサンプルが地球に届くことになっております。いま奥村理事の方からお話がございましたように、私どもは今回のミッションに対しまして完全に補完的な役割を果たしていると思っております。日本側は探査機の方を実施してくださいますし、我々はミッションの遂行に必要な機器などを提供することになっております。という事で私はJAXAの皆様方に心からの御礼を申し上げたいと思います。大変に良い協力関係をもっておりますし、非常に良い信頼関係を築くことができました。
 そして素晴らしい関係を築くことが出来ている常田教授にも一言ご挨拶を申し上げたいと存じます。そしてもちろんCNES側の技術チームにも一言お礼を述べておきたいと思います。このミッションのために非常に努力をされておりますし、この火星に関しては第一人者であるビブリング博士についてもここで一言言及しておきたいと思います。
 現在2017年、うまくいけばこのサンプルが2025年に地球に持ち帰られる予定になっておりますが、今回のミッションが宇宙科学におきまして他に類のない素晴らしい知見がもたらされると強く嬉しく思っているところでございます。

・田中研究開発局長
 本日ここにJAXAとCNESとの間でMMXミッション検討に関する共同活動についての実施取り決めが署名されることを大変喜ばしく感じております。2015年の10月にはJAXAとCNESとの間の機関間の協定が改定されまして、その交換式が安倍総理とフランスのヴァルス首相同席の元で実施されました。本実施取り決めはこの機関間協定に基づくものでございまして、機関間協定で定められた枠組みの中で行われた検討の、初めての具体的な成果であります。JAXAとCNESとの間では、これまでも小惑星探査機「はやぶさ2」などで協力を実施していると理解をしております。MMXに関しても「はやぶさ2」と同様に国際的な協力による科学的成果の最大化を図るミッションのひとつとして具体化されることを期待しています。
 日本とフランスの間の宇宙分野の協力におきましては、先月第二回の日仏包括的宇宙対話が開催されるなど協力の深化が実現してきております。この実施取り決めの締結を通じて両国の宇宙分野における協力がさらに密接なものとなることを期待しております。

・バレッツ公使
 本日署名されるのは非常に素晴らしく大きな目的を掲げた取り決めでございます。これは日仏両国間におきまして科学とか技術がいかに中心的な役割を果たしているかを極めてよく表しているものであります。これは2016年にマニュエル・ヴァルス氏と安倍晋三両首相の臨席の元に始まりました、日仏イノベーションイヤーなどが極めてよくそれを表していると思います。宇宙分野に関しましてはCNESとJAXAが非常に重要な枠組協定を改定いたしました。つい最近も安倍晋三首相がパリを訪れられた時に、フランス共和国のオランド大統領と共にこういった重要なテーマについても会談なさいました。またその数日後にも重要な日仏の対話会合がございまして、また東京でもドキュメントが託され、我々の宇宙分野における協力関係の適用範囲がさらに拡大されることになりました。こういった協力関係というのは非常に重要なものとなってきておりまして、例えば気象変動問題などという外交的に重要なテーマも扱われるようになっております。実際にCNESは主要な他の機関と共にCOP21の実施のための情報交換と調整のためのグローバルなプラットフォームというものを創設いたしまして、そこにおきましてはJAXAの皆様方にも大変に重要な役割を果たしていただくことになっております。私どもがまた新しい冒険物語に乗り出すことができることを大変嬉しく、またこの行為を称えたいと思います。JAXAとCNESは今後かなり遠いところにある衛星フォボスに対してのミッションを行うことになりました。しかしながらル・ガル総裁が言ったように火星からはかなり近いところに位置している訳であります。だからこそ新しい冒険に2つの機関が進んでいけることをあらためて嬉しく思っております。

・質疑応答
NHK・サンプルリターンはまだ検討だが、この協定が実施に向けてどのような一歩なのか、また意義は。
奥村・昨年は調査研究だったが、29年度から開発研究にステージがアップしている。この仕事そのものが政府の方でも認識していただけたと考えています。そういう意味で、まさに実質的なミッションの第一歩を踏み出した。具体的にミッションの内容を詰めていくフェーズに入ってきている。CNESとの間での相互協力の取り決めをして更に詳細を詰めてミッションの成功に持って行きたい。という意味で非常に大きな第一歩。具体的なステップアップの第一歩。
 宇宙科学、宇宙物理、生命と宇宙の起源に関しては、宇宙機に載せる際にはできるだけ数多くの知見が得られるように、さらに従来の知見と重ね合わせてより有益な知見が得られるようにミッションの構成を検討してきている訳で、今回CNESから提供いただけると期待しているセンサ等につきましては、重要な知見が得られると期待しております。従ってそういった活動を今後とも展開することによって、宇宙の根源的な、あるいは地球・生命の根源的な課題解決にJAXAは貢献できていけたらいいなと考えております。

産経新聞・共同で検討する3点について、共同開発や共同研究なのか、それともCNESからJAXAが提供を受けるのか。
奥村・私の理解で申し上げますと、2つ(フライトダイナミクスと小型着陸機)は今回のミッションに具体的にどちらの知見がどんな風に貢献するのか検討するベース。近赤外線分光計はCNESの技術が相当進んでいるとJAXAも評価しているので、我々のミッションとどう整合がとれるのかを中心に使わせていただく事を期待して検討する方向。

産経新聞・今回はフランスのCNESとの締結だが、このMMXは日仏だけか、他国との協力もあるのか。
奥村・我々は幅広く考えている。他の機関と検討することも十分にあり得る。
ル・ガル・日本には非常に優れた分野がございまして、フランスも極めて優れた分野があり、それは補完的なものです。これから成功に導いてくれるための証である点に触れたいと思います。今回の署名に至るまでの過程がボトムアップであったという事でございます。日仏の偉大な科学者、常田教授やビブリング博士からいろいろなミッションの提案があったので、今できることをさらに乗り越えていけるミッションではないかと思っています。私もこの提案を受けたときは、本当に素晴らしいと実感しました。とてもいい協力関係が生まれていくと思います。ここで称えたいのは、日本とフランスの科学者同士が非常に近く歩み寄っていることと、日仏の重要な機関が密接な関係を持つようになったことです。

NHK・日本のどのような技術が魅力か。今回の提携でフランスはどのような知見を得たいか。
ル・ガル・日本の強みは、例えば「はやぶさ1」で立証済みのような地球以外の天体から物を持ち帰る実績がある。「はやぶさ2」には私共も着陸機「MASCOT」でJAXAとDLRと共に参加している。日本がこういった小惑星に着陸しサンプルを採取し、そしてそれを地球まで持って帰るという知見においては既に実績があるのは、非常に強力な強みであると思っています。フランスも既にかなりの知見を獲得しております。例えば彗星探査で「ロゼッタ」探査機と着陸機「フィラエ」などの経験があり、火星探査にも既に参加しております。日本との協力関係も多々行っています。探査においてはフランスは機器を随分と提供しており、今回のフォボスに関してデータが共有されれば一緒に分析していくことになります。これでかなり大きな進展が遂げられ、win-winの関係だと思っています。


・第二部・概要説明

・登壇者
 ・日本側
 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授 川勝 康弘
 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授 藤本 正樹
 ・フランス側
 MMX スタディマネージャ CNES パスカール・シャザルノエル博士
 MMX 近赤外分光計 プリンシパルインベスティゲーター(PI) IAS ジャン=ピエール・ビブリング博士
 ※IAS:フランス宇宙天体物理学研究所

(※配付資料より抜粋)
・火星衛星サンプルリターンミッション
 宇宙科学・探査の工程表上、「戦略的中型計画1号機」につながる開発研究と位置づけられ、2024年度の打ち上げをターゲットに研究が進められている。

・惑星科学としてのミッションの目的と意義
 火星衛星の起源論を決着させるとともに、火星そして地球型惑星における、生命居住可能な環境形成過程に、新たな描像を与える。
 副目的として、火星衛星および火星表層の変遷をもたらすメカニズムを明らかにし、火星衛星を含めた”火星圏”の進化史に新たな知見を加える。

・太陽系探査技術としてのミッションの目的と意義
 1.火星圏への往還技術および惑星衛星圏への到達技術を獲得する。(宇宙航行)
 2.火星衛星表面への到達技術・滞在技術および天体表面上での高度なサンプリング技術を獲得する。(ロボティクス)
 3.新探査地上局(臼田)と組み合わせた高速通信技術を獲得する。(深宇宙通信)

・火星衛星サンプルリターンミッションの概要
 惑星間の飛行時間(片道)は往路・復路とも1年弱。全ミッション期間は、火星近傍での観測・運用期間を考慮し、約5年と想定している。
 打ち上げは2024年9月、火星圏到達が2025年8月、火星圏離脱が2028年8月、地球帰還が2029年9月と想定。着陸は「はやぶさ」のようなワンタッチではなく、数時間滞在してサンプルを取得する。また着陸は複数回を予定。ただしこれらは検討であり、変更の可能性がある。
 探査機は「往路モジュール」「帰還モジュール」「探査モジュール」「リエントリカプセル」で構成され、主推進系は往路・復路とも化学推進系を採用する。大きな軌道速度を効率よく得るために多段式の構成とする。
 サンプル採取はマニピュレータを用いて、筒のような物(コアラー機構)を地面に打ち込む。
 サンプルリターンカプセルは「はやぶさ1、2」で実績のあるものをからサイズを大きくする。
 ・打ち上げ質量:3400キログラム
  帰還モジュール:1350キログラム
  探査モジュール:150キログラム
  往路モジュール:1900キログラム
 ・搭載観測機器機
  望遠単色可視カメラ
  可視広角多色カメラ
  近赤外分光計(CNES提供予定)
  中性子線・ガンマ線分光計(NASA提供予定)
  レーザ高度計
  イオン質量分析器
  ダストカウンタ
  ※これらも検討の一例であり、今後変更の可能性がある。

・CNESとの協力
 ・近赤外分光計(MacrOmega)
 サンプル採取地点の選定や周辺観測のための搭載観測機器の一つ。波長4マイクロメートル帯までの近赤外線分光観測を行い、衛星表面の含水鉱物・関連物質・有機物を主たる観測対象とする。CNESの元で検討をおこなうIASは、欧州の火星探査機ExoMarsに搭載される近赤外分光計ExOmegaを開発した。

 ・フライトダイナミクス
 火星衛星周辺での探査機の飛行力学。惑星を周回する微小な衛星周辺の軌道力学は複雑で、最先端の研究課題の一つである。CNESは、欧州の彗星探査機Rosettaに搭載された着陸機Philaeの着陸軌道解析を担当した。

 ・小型着陸機の搭載可能性検討
 サンプル採取地点周辺を観測することを主たる目的として、着陸点周辺の移動探査を行う小型着陸機の搭載可能性を検討する。CNESは、はやぶさ2に搭載されている小型着陸機MASCOTの開発に参加している。

・出席者より一言
・シャザルノエル博士
 私どもはCNESから今回のミッションに参加できることをとても誇りに思っております。これは科学的にも技術的にも一つのチャレンジでございます。私どもは3つの点で関与していきますが、一つはCNESから提供するものでジャン=ピエール・ビブリングの研究所の方で開発している機器、あと2つの協力のテーマはCNESのトゥールーズセンターの方から直接参加協力しています。MMXのミッションに関して我々のフライトダイナミクス・飛行力学の知見を提供したいと思っております。そして3つめの協力関係の柱となりますのは、私どもはロゼッタ・フィラエでの知見があるということ、はやぶさ2のMASCOTの方でも関与してきたということで、今回のミッションに搭載することができるかもしれない着陸機について協力できるのではないかというのが第3の協力分野であります。もう既に数ヶ月前から日仏で一緒に検討を重ねておりまして、二回目のface to faceのミーティングという特化した会合を開いたところでございます。

・ビブリング博士
 今日は来てくださいまして本当にありがとうございました。私にとって、そしてフランスの多くの科学者にとって、この日は歴史的な日であります。と、申しますのも、これから10年間の間、最も大きな目標を掲げた野心的なミッションに対して、初めて日本とフランスの科学者とエンジニアが共同して取り組むことになるからです。私はこのMMXのミッションはいくつものレベルで非常に重要だと思っています。まずサイエンスの部分で、火星探査の今までのミッションで判ってきたこと、ロゼッタとフィラエのミッションで判明してきたこと、太陽系以外でのいろんな天体(※惑星)での特徴が判ってきたこの段階において、惑星とは何かという理解が革命的に今、変わってきています。まず惑星が何故こんなにそれぞれ多様なものなのか、どういった規模において地球というものは他に例のないものなのであるか、地球の中で育まれた生命というものが太陽系の中で他には絶対に例が無いものなのであるか、太陽系またそれ以外の地球以外のところにおいて生命といったものを捜すということ自体に意味があるのか、こういった昔からある問いかけというものが、今まさに新しく生まれ変わってきております。そして火星、特に2つの衛星フォボスとダイモスには、まだ様々な惑星、とりわけ地球がどのように変化してきたか、という痕跡をいまだにこの2つの衛星はとどめていると思われるからです。
 先ほどから言われているように今回のミッションは、科学のみならず技術的な意味でも非常に重要なものです。特に計画という意味で重要かもしれません。というのも新しい国際協力の領域が生まれたからです。そしてこのサイエンスの分野で日仏が築き上げている関係の絆は個人的に見ても非常に模範的なものであり、今後何十年の間はサイエンスの領域にとどまらず、他の領域にも適用すべき関係だと思います。我々から見てもMMXは本当に重要で模範的なミッションです。ですからこそ藤本先生と常田先生から私達に参加してくれないかと呼びかけをいただきまして、今回ここに我々が参加し関係を更に強化するために来ていることを大変嬉しく思っている次第であります。

・質疑応答
NHK・サンプルリターンをする衛星はフォボスでいいのか。2024年という時期にどんな意味があるのか。
川勝・探査対象天体としてフォボスとダイモスはどちらもサイエンスの価値がある。科学的な意味、技術的な実現の話、その他いくつかの評価項目があり、今はどちらに行くという最終の決定はしていない。今検討中です。2024年は、近いという単純な図式ではないですが、地球から火星に行くためのエネルギーはタイミングによって大きく変わります。およそ2年に1度、打ち上げの好機が来ます。2024年の打ち上げ好機では9月あたりがそれにあたると言うことになります。

産経新聞・複数の着陸地点が検討されているが、どのような観点から着陸地点の候補を決めるか。今回の目的に照らしてどういう風に決めるのか。
川勝・向こうに着いたらいろいろなカメラや近赤外の分光計そのようなものを使って表面の精密な観測を行います。それぞれの所がどのような特徴を持っているかを明らかにして、どういうところがサイエンスの価値が高いかという仕分けをしていきます。もっと大事なのは着陸の安全性です。着陸というのはなかなかリスクが高い運用です。大きな岩とか崖とか傾斜が高いところというのは降りたときに事故が起きる可能性が高いので、我々の探査機の設計とタイアップした形で安全に着陸する条件を設定しています。これについても精密な画像を撮って地形を観測し着陸の安全を確保できることを評価します。この二つが主軸になって、探査・着陸する地点を選定するという流れになると考えています。

産経新聞・近赤外分光計を準備されるが、ExoMarsで実績があるとのことだが、今回搭載される分光計の特徴や特筆されるもので、今現在で話せる範囲でお聞きしたい。
ビブリング・何も秘密は無いので全てお話できます。今回MMXに搭載する予定の近赤外線分光器は、他のミッションにはいちども使ったことがないものです。非常に感度の高い分光計です。衛星のフォボスに対して殆ど休止状態という事を利用します。通常は非常なスピードで回っていますが、フォボスは非常に低速度で回転しています。スペクトラムの感度を10倍から100倍まで上げることが出来るのです。フォボス全体を数メートルの精度でカバーできると思っています。そのスペクトラムによって、水は無いでしょうけど氷の形のものはあるかもしれない。あるいは水分を含んだ鉱石があるかもしれない。あるいは炭素化合物など、そういったものを特定できるかもしれない。これまでフォボスにはそういった物質は一度も発見されていないが、今回この分光計で見つけることができるかもしれない。
 また、さきほどの質問に私から付け加えるとすれば、サンプルを採取する際、着陸するときの安全性も問題だが、それに加えて高解像度のイメージを撮ることで、どこに行けばいいかを決められるかもしれない。
 分光計を製造する面でのより技術的な側面にご興味があれば、この記者会見のあと個別にいくらでも技術的な質問にお答えすることができます。他の皆さんが退屈してしまうといけないと思いますので。(会場、笑い)

ハフィントンポスト・会見中にフォボスへの着陸と何回か出ているが、先ほどの話ではまだフォボスかダイモスかを決めかねているとのことで、基本的にフォボスで、ダイモスも考えているということなのか。
川勝・技術的には火星に近いフォボスに行って帰ってくる方が難しい。サイエンスでの価値では比較できるところがあるが、どちらにも対応できるように技術的な検討をしている。今はどちらになるかは五分五分。
藤本・(太陽系内の水の移動という点では)フォボスもダイモスも同じくらい価値がある。しかしフォボスにはひとつボーナスがあって、フォボスの方が火星が近いので、表面からサンプルを取ってくると火星に物がぶつかったときの破片が表面に積もっていてそれらも同時に手に入れられる可能性がある。気楽な惑星科学の人間はフォボスを推すが、持って帰ってこられないと意味がないので、川勝先生が慎重な発言になるのは当然だと思います。(会場、笑い)

赤旗新聞・火星衛星探査は難しいとありこれまで失敗しているとのことだが、どんな風に難しいのか。どんな失敗があるのか。
川勝・一般的な意味でも難しさというと、「はやぶさ1、2」と共通するがサンプルを取って帰ってくるということで、いくつもシーケンスが並んでいて、それが全てうまくいって初めてゴールに到達できる。1個1個のオペレーション、あるいはそれを実現するシステムを確実に作って運用する必要がある。今回、火星のまわりを回る衛星ということで、いったん火星を周回する軌道に入る、重力の深い井戸に入るという表現をしますが、ここのところが大きなイベントになります。たとえて言うとこの前「あかつき」を金星周回軌道に入れることができましたけども、1回目のトライアルはうまくいきませんでした。そういったイベントが入るとき、また出るときにもあるというのが大きなハードルになっています。これまでいくつかの探査機が飛んでうまくいかなかったという話がありますが、どれも同じ要因ではありません。向こうに行くだけでも火星の周回軌道に入れた上で衛星とランデブーするという大きなハードルがあるので、その中でうまくいかないところが出てきた。火星への着陸だけを見ても、遠くまで行って行う惑星探査というものは困難を伴うものがあって、米ソ・ロシアを合わせても半分前後。火星衛星へのトライアル自体がそれほど多くないので、今までうまくいったものが出てきていない。
ビブリング・火星の軌道に行くのが大変なのであって、そこから衛星軌道に入るのは難しい訳ではありません。フォボス探査のミッションは過去にまだ2つしかありません。ロシアのPhobos-Gruntは打ち上げ後すぐの失敗なので除外します。最初の火星衛星ミッションはソ連のものでした。1988年にスタートしたものですが、この時は2つのミッションを同時に行っていました。フォボス1は、惑星間航行中に失われました。火星までの中間点に到達する前でした。これはコンピュータ上のミスによるものです。送ったワードのひとつが誤っていたために、探査機が安定性とエネルギーを失ってしまった。2つ目の方は、火星周回の軌道には乗った。1989年1月に軌道に投入されました。そして2ヶ月の間、火星の軌道上に乗っていました。衛星フォボスの側と言ってもいいです。この2ヶ月は全く正常に運用され、フォボスのデータを正常に送ってきていた。非常に大きなミッションを掲げた野心的なミッションでした。この探査機はフォボスの数メートルのところまで近寄り、15分の間フォボスの周りを動いたあと離れるミッションでした。非常に低い高度で移動して、いくつかのものを投下する任務がありました。ペネトレータや飛び跳ねるロボット的な機械です。1989年3月29日に投下され実験が行われる予定でした。ところが3月27日に探査機が衛星に近づく航行に入る準備を始めたところ、実験をやめてバッテリの充電に入ってしまった。そのとき信じられない事が起きました。3月29日、非常に強い太陽フレアがありました。これは地球にも大変大きな影響を与えました。カナダの発電所が全て稼働停止してしまい、全ての静止衛星がセーフモードに入らざるを得ない状態になりました。しかしこのフォボスの探査機はこういった高エネルギー粒子に対する保護機能が無かったので、搭載コンピュータが完全に劣化してしまいました。そして任務終了となってしまいました。フォボスでの低空飛行が始まる直前にこういった事態になってしまいました。このため(事前のデータ送信は行われたので)全てのミッションが失敗したとは言い切れません。
 今申し上げたフォボス探査機のために最初の赤外線撮像機器が製造されました。今の宇宙探査機全てに載っている分光器の祖先と言われるものです。そのためMacrOmegaのおじいさんと言えるようなものです。

赤旗新聞・フォボスダイモスの重力はどのようなものか、ランデブーの状況はどうなるのか。
川勝。重力は地球の千分の一くらい。フォボス・ダイモスの重力は火星近辺で受ける重力より弱いので、正確に言うとフォボス・ダイモスと併走して回ることになる。このとき同期するように、ある程度噴射します。火星の周回軌道に投入する軌道制御よりもずっと小さいものです。何度かトライアルができる。クリティカルという意味では火星軌道投入の方がずっと大きい。

フリー秋山・ミッションが始まるまでの準備段階で、細かいミッションの内容を決めるために2024年まで地上からの観測など予定しているものはあるか。来年、火星が接近するが何か重要なものはあるか。
藤本・観測の予定は無いが、国際協力がいくつかある。このミッションは現地に行って地図を描いて降りるべき場所を見つけて、そこに着陸するという事をやります。ただ地図は現地に行くまで待つ必要はない。もちろん最後の最後にもの凄く良い地図を作るという意味で、それはMMXでなければとれないデータではありますが、現時点でもデータはとれています。今あるデータを使ってMMX、さらにはその先の例えば有人のフォボス探査が国際的に考えられている訳ですが、MMXを機会にして既存のデータを整理して、フォボスについての情報を整理する国際的な枠組みが立ち上がっているので、そういった準備はもちろん始まります。それと同時に、例えば第一部の会見でフランスの機器を提供してもらうという話がありましたけども、実際には素晴らしい観測機器です。今までとは全然違う原理を使った、もの凄く小さくできる観測機器ですので、例えば将来日本が火星に着陸する時に、もちろん観測機器は小さい方がいい。そういった将来においても使える技術。共同開発ではないですが、謙虚な言い方をすれば教えてもらうという形になるのでしょうけども、機器開発わ進める上でも、やればできることをやるのではなく、いろいろと共同研究をしながら将来に向けての積み上げをしていく、という意味での準備もしてゆく。さらにフォボスの起源は判っていない。この研究は日本で結構盛んにされていて、資料にも捕獲説と巨大衝突が書いてあります。しかし巨大衝突といっても、よくわからない。どんな衝突で、どういうぶつかり方をしたか。もしMMXが無かったら、それは机上の空論、理論のための研究になってしまってなかなか盛り上がらない。MMXがサンプルを持って帰ることを考えると、どういった衝突で惑星の周囲に衛星ができるのかという問題が深化できる。そういった理論研究を推進していくといった意味でも準備も出来るかと思います。
ビブリング・非常に適切な時期にミッションが打ち出されていると思います。この問題に対しての非常に新しいミッションでありますから、いろんなシステムですとか機器も新しい世代のものを開発したいと思いました。ロゼッタとフィラエの経験で判ったことは、ひとつの機器を設計するとき、この設計と機器の製造に着手した時には、まだ出てこなかった問題にも対応できるように作らなくてはなりません。というのもこの探査機が現地に着いたとき、いろんな事が発見されて、それまで想定された問題が全く変わってしまうことがある訳です。ですから今回MMXのために考案する機器は既存のものでは駄目なのです。5年後、6年後、8年後に出てくるであろう問題に対して対応できるような機器を設計しなくてはならないのです。ミッションが成功するか否かというのは、そういったところにかかってきます。つまり科学的な大きな目的を掲げて、それにテクノロジーのチャレンジを乗り越えて応えられるかにかかってくる訳です。我々の近赤外線分光器だけでなく、日本の光学カメラも似た姿勢で取り組んでいらっしゃることと思います。私どもはCNESと一緒に表面に着陸する機械は、移動する技術的能力を持つものであり、非常に性能はいいが極めて小型化した機器にすることと、大きな問題を今後解決することに対応できるものにしなくてはなりません。地球以外に生命はいるかというのは、非常に大きな、様々な可能性のある問題です。そのため2024年というのは、我々が準備をできるギリギリの日程と思っております。
 技術開発と平行して日仏のテクノロジーの協力関係も進めたいと申しましたが、ぜひ今後日本のこういった皆様の中にますます多くのフランス人が混じってくることに慣れていただきたい。我々フランスも日本人を迎えながら仕事を進めていきたいと思います。そして博士論文とかポスドクレベルでの様々な科学的な研究に対しても今後協力関係を進めていきたいと思っております。私どもが取り組んでいる極めて息の長い計画でありまして、両国間の知見の移転というものが非常に多くあると思っています。2024年までそういった色々なことをやっていきたいと思います。

・宇宙科学研究所 所長 常田 佐久
 3点ほどコメントさせていただきます。宇宙研・JAXAの探査を行うスタンスが、いまこのミッションで劇的に変わってきていることを強調したいと思います。「はやぶさ1」で初めて宇宙研・JAXAは探査の世界に飛び出した訳であります。いま2号機が今現在パーフェクトでうまくいっている。2号機はビブリングさんの装置が乗ってはいますけど、やはり基本的にメードイン・ジャパンで開発していた。このMMXを始めるときに最初に我々が宣言したのは、搭載装置は世界中を探していちばん良いものをのせるという考え方を明確にとるというところがあります。これは「はやぶさ」「はやぶさ2」とは違う考え方で、逆にそういうことを言って協力してあげようという人が来る時代、それだけの実績が宇宙研・JAXAに出来たという事であります。非常に大きなコストをかけますので、日本が中心になることが担保される中で、やはり世界でいちばん良い測定器をのせるということで、今回CNESの素晴らしい装置をのせることになった。JAXAの探査のやり方の新しい展開という面を今回捉えていただければと思います。2つめは、ソ連などがフォボスに何回もチャレンジしてもなかなか到達できない、いろんな理由があった訳ですが、我々は絶対に成功させなければならないと、今日の話の期待の大きさから判る訳でありますけど、やはりそこで「ひとみ(ASTRO-H)の不具合という事を考えざるを得ないところであります。宇宙研でプロジェクトのやりかたの反省と改革、JAXA全体での業務改革というところに取り組んでいる訳でありますけど、その中でいろいろな人から心配な声を聞きまして、いわゆる宇宙研の良さとかチャレンジとか、そういうものが棄損されるのではないかという話を聞いていた訳でありますけど、このミッションを藤本先生と2年前くらいから検討して今日にいたっているわけですけど、今日の話を聞いていただいても判る通り、さきほどル・ガル総裁がボトムアップの素晴らしい例だと言ってくれましたけども、我々の基本は国際的なボトムアップの中でいいミッションを提案していくという姿勢は、新しいミッションの実行の仕方でもいささかも揺るがないと強調したいと思います。川勝先生がちょうど書いてくれていますけど(※配付資料)、大きな惑星科学の流れの中で、マイルストーンとなるものですけど、全体の流れが矢印であるということで、ソーラー電力セイルとかDESTINY+とか科学的に関連できるチャレンジングなミッションが今検討されているということで、こういう宇宙研のボトムアップで行う探査、科学衛星の基礎はいささかも揺るいでいないということをご理解いただきたい。その上でMMXは川勝先生を中心に開発する訳ですけど、やはり今までの我々の課題を意識して、オールJAXAでこの衛星を開発する。筑波のやり方、ISASのやり方で開発する部分は、ある意味ミッションの性質に応じてあるかもしれませんが、基本的には同じやり方で成功を担保してゆく。3番目は、今回はCNESとの共同開発で、皆さんなぜ急にフランスなのと思った方もいるかと思いますが、今日話があったようにフランスは大変優れた技術を持っていますし、惑星探査においても素晴らしい実績がある。我々の協力相手としては、むしろ協力していただけることを光栄に思う訳です。藤本先生を中心に過去2年くらいフランスの方々とCNESといろんな議論をしてきた訳ですけど、私の印象では非常に信頼できるパートナーで、あまり日本人と違わないなと、要するに約束したことは守るし、チームになったらフレンドリーにいろんな難問が生じるけど解決していこうと、日本人が持っている価値観と似たものがある。そういった面でもパートナーとして大変良いのかと思います。そのあたりはビブリング博士の説明の仕方でも感じていただけたかと思います。


No.2050 :飛行中のH-IIAロケット33号機 ●添付画像ファイル
投稿日 2017年3月20日(月)21時11分 投稿者 柴田孔明

飛行中のH-IIAロケット33号機。竹崎展望台屋上より撮影。