投稿日 2017年8月18日(金)16時57分 投稿者 柴田孔明
2017年8月18日13時00分より、種子島宇宙センター竹崎展望台記者会見室にて、H-IIAロケット35号機/みちびき3号機(準天頂衛星システム 静止軌道衛星)の打ち上げ前ブリーフィングが行われました。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 第一宇宙技術部門 鹿児島宇宙センター射場技術開発ユニット長 長田 弘幸
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 MILSET長 平嶋 秀俊
・打ち上げ日時
機体移動:2017年8月19日0時30分(JST)
打ち上げ日:2017年8月19日(土)
打ち上げ時間:14時29分00秒(JST)
打ち上げ時間帯:14時29分00秒〜22時16分00秒(JST)
打ち上げ予備期間:2017年8月20日(日)〜2017年9月30日(土)
※予備期間中の打ち上げ時刻は打ち上げ日毎に設定します。
・準備状況
8月12日のカウントダウン作業において実施した。1段ヘリウム系統の点検において、ヘリウムタンク圧力の降下量が、過去の実績傾向に対し、大きい事が判明。その後の調査で原因が特定できず、飛行中に圧力降下が増加しないことが言い切れないことから、8月12日の打ち上げを中止した。
・打ち上げ中止後、以下の作業を実施。
・原因究明のため追加データを取得し、機体をVABへ移送後、機体が外観点検を実施。
(8月12日〜8月13日)
・上記追加データより1段ヘリウム系統に漏れが推定されることから、漏れ箇所の特定を行い、部品交換/交換後の点検を実施。
(8月14日〜8月15日)
・発射整備作業を実施中。
・1段ヘリウム系統に関わる調査・確認結果概要
・調査
・当該系統の加圧による漏れ箇所の特定。
・漏れ箇所の部品取り外しによる原因の特定。
・原因
・ヘリウムタンク(気蓄器)の封止プラグ部に付着したシールの異常(異物付着)が原因と判明。
・対策処置
・シールを新品に交換した上で、再点検を実施。
結果、圧力降下量は従来平均レベルとなり、正常復旧を確認した。
(※ヘリウムタンク:常温ヘリウム気蓄器のこと)
・質疑応答
NHK・この部分はヘリウムを入れる場所なのか。
平嶋・図で充填部は省略。封止プラグとは逆のところから充填します。
NHK・異物はシールの不良か、それとも作業で付着したのか。
平嶋・シール自体は不良では無く、作業中に入ってしまった。
NHK・異物とはどんなものか。
平嶋・コンマ5ミリ位の非金属。
NHK・封止プラグは何に使うのか。
平嶋・製造上どうしても反対側に穴を開ける。片側は充填・供給に使う。もう片側は利用しないので封止する。
NHK・どんな作業中だったか。
平嶋・封止プラグにシールをつけて装着するときに付着した。気蓄器を艤装する中で組み立てるときに、気蓄器を入れてから封止プラグをさし込んでトルクをかけるが、その工程で入ってしまった。
NHK・隙間ができていたということか。
平嶋・そうです。
NHK・シールの材質は何か。
平嶋・金属で、テフロンコーティングをしているものです。
鹿児島テレビ・今後の再発防止策、延期後の打ち上げに臨む気持ちをお聞きしたい。
平嶋・装着するときの異物混入対策の徹底をもう少し強化し徹底しなければならない。一週間くらい延びましたが、変わらずひとつひとつ丁寧にこなしていきたい。
産経新聞・ヘリウムタンクの封止プラグと逆から充填とあるが、この部分から充填して、その後に蓋をするのではないのか。
平嶋・封止プラグは止めるだけ。ヘリウムを供給するラインから逆流させて充填する。
産経新聞・封止プラグは何のためか。タンクは丸い形で良いのではないか。
平嶋・半割れに作り、両方をくっつける形状になっています。加工上、同じ物をくっつけるので片側は蓋をして、もう片側を充填と供給に使う。工程上の都合。
産経新聞・異物は具体的に非金属の何か。
平嶋・タンクの断熱材の接着らに使う、エラストフォーム※というものです。
(※注:エラストボンドと同じ)
産経新聞・打ち上げ3時間前に異常が判ったが、その段階でないと気づけなかったのか。
平嶋・この段階でないと気づけなかった。それまでは正常であった。
産経新聞・そもそも異物が入らない対策はどうだったのか。
平嶋・前々から徹底していたが、このような事になってしまったので対策をもう少し強化しなければならないと考えている。
産経新聞・これまでの対策はどのようなものか。
平嶋・写真記録を残して、多数の目で見ながら装着している。見えにくいところもあったということで、もう少し改善しなければならない。
産経新聞・もう問題無く正常に打ち上げられるということか。
平嶋・はい。他の件もデータが良好と確認できている。
産経新聞・今回は35号機で今まで正常であり、基礎的な技術ではなかったか。
平嶋・基礎的だが、こういうことが起こったということで新たな知見を得たと考えています。
日経新聞・3時間前でないと気づかなかった理由は何か。
平嶋・打ち上げ直前でないと確認できない。ラストチャンスという事で見たところ異常が見つかった。それまでは状態が良かった。
日経新聞・ヘリウムタンクが密封されるのがこのタイミングなので、これ以降でないと気づけないということか。
平嶋・はい、その通りです。
ニッポン放送・シールそのものはどんな形なのか。
平嶋・ドーナツ型の平板。気蓄器側に少し傾いてテーパーがある。気蓄器側の形状に合わせて若干シールのプラグ側が厚くなっている。中がえぐってある。
ニッポン放送・組み立てる時、プラグを差し込んでからシールを付けるのか。
平嶋・封止プラグにシールを入れて、ねじ込んでトルクをかけるものです。
ニッポン放送・異物は配管ではなく外から来たものか。
平嶋・はい、その通りでございます。
朝日新聞・シールの材質と大きさ。また付着物の大きさ。
平嶋・A286という母材にテフロンコーティングをしたもの。大きさは約19ミリ。付着していた異物はだいたいコンマ5ミリのものでした。
朝日新聞・A286とは何か。
平嶋・鉄成分が主の耐熱合金です。
南日本新聞・異物は断熱材の貼り合わせるための接着剤で良いか。また断定できるのか。
平嶋・断熱材を付ける接着剤。断熱材は液体酸素タンクや液体水素タンクの外側を覆うもの。成分を分析した結果、そうなっていました。
南日本新聞・接着するのも組み立て作業の一部か。
平嶋・そうです。
南日本新聞・付着したことで金属製のシールがどうなって漏洩したのか。
平嶋・金属が負けてしまい漏れパスが出来てしまった。異物があってしっかりシールできず形が変わった。隙間ができた。圧痕が残っていた。
南日本新聞・シールとプラグの間に異物が入ったのか。
平嶋・厳密にはシールと気蓄器との間に入っていた。
南日本新聞・これは目視で確認するのか。
平嶋・これでいいよねという写真記録を残して、付けますよとやった時にぽろっと入ってしまったと考えている。見えないところで隙間が出来てしまって、その隙間に運悪く異物が入ってしまい、そのまま装着してしまった。
南日本新聞・これを発見できなかったのは見落としではないのか。
平嶋・しっかり見ていたつもりだが、確認できない隙間で入ってしまった。
南日本新聞・0.5ミリなので確認できない大きさだったのか。
平嶋・確認できないほどの大きさではございません。
南日本新聞・つまり見落としという評価ではないか。
平嶋・気蓄器は非常に見にくいところで、こんなことになってしまった。
南日本新聞・気蓄器側に付いていて、そこに気付かずシールをしてしまったのか。
平嶋・そこはわからない。
南日本新聞・改善だが、具体的にどういうものか。
平嶋・どうしても環境が悪さをするところ。装着する人が異物を持ち込まない、まわりの環境がいいように、物が落ちてこないように改善を図らなければならない。
南日本新聞・チェックの仕方を変える予定はないか。
平嶋・これから検討しなければならない。
南日本新聞・これは人為的ミスなのか、あるいは不可抗力なのか。
平嶋・人為的で無いとは言い切れないが、狭歪部で作業をしているので限界があった。
フリーランス大塚・このヘリウムの漏れ今まで起きたことが無いということは、今号機特有の何かがあったのか。
平嶋・気蓄器の装着はもっと前の工程だったが、気蓄器の入手時期が遅れ、タンクの近くで作業することが必要になったのが特異なところ。
平嶋・ヘリウムタンクはエンジン部に単体で付けるものが間に合わなかったので、液体酸素タンクとエンジン部がついた中で付けなければならなかった。そのため確認しにくい狭歪部で取り付けることになった。
フリーランス大塚・今までは断熱材の無いところでやっていたのか。
平嶋・100%ではないが、今回そういうことになった。
フリーランス大塚・入手が遅れた理由。
平嶋・ヘリウムタンク(気蓄器)は作るのが難しい。なかなか合格品が来なかった。
フリーランス大塚・前回の説明で当日漏れが大きくなって、それまでは平均値だったと理解していたが、今の説明だとシールしたあと漏れを確認する機会が無かったということか。
平嶋・飛島工場に出す前にいちど点検している。種子島に着いてからも機能確認で確認しています。最後に打ち上げ前にも確認します。三段階でやっています。
フリーランス大塚・前には出ず、当日になって出た理由は何か。
平嶋・そこはよくわからない。異物が非金属なので、動きが変わったのかもしれない。金属なら簡単にすぐわかったのではないか。
NHK・異物は接着剤だが、材質は何か。
平嶋・タンクを覆う断熱材を接着する接着剤。エラストフォームというものです。
NHK・延期後のこれまでの作業は迅速にできたのか。
平嶋・燃料を抜いて機体の返送することも含め、トラブルシュートを2日間でやれたので最短だったと思っています。
南日本放送・今回のトラブルは初めてで、ロケットの問題で中止したのは2011年のH-IIAの19号機以来だが、このことの現場の受け止めはどうだったのか。打ち上げに向けてどのようにモチベーションを上げて行かれたのか。
平嶋・機体事由で止まったのは久しぶりだった。打ち上がった後でガスが抜けて失敗に至る可能性を回避できた。次の打ち上げに向けて万全を期してひとつひとつ確実丁寧に作業して打ち上げ成功を継続させたい。
ニッポン放送・エラストフォームとは、見た目はどのようなものか。粒子なのか。
平嶋・ボンドのようなもの。ねばねばしている。付着したのは粒だが黒い色をしていた。付着したのはコンマ5ミリの塊がひとつで、サイズは0.4×0.18ミリ。
ニッポン放送・これ一つで気密がとれないと理解していいのか。
平嶋・はい結構です。
以上です。
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