宇宙作家クラブ
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No.702 :M−V上半分 ●添付画像ファイル
投稿日 2003年5月7日(水)17時38分 投稿者 松浦晋也

 M−Vロケット5号機の上半分。今回は惑星間軌道への打ち上げなので、第4段を追加した4段式で打ち上げる。(写真提供:秋山演亮氏)


No.701 :今朝のM-V ●添付画像ファイル
投稿日 2003年5月7日(水)17時35分 投稿者 松浦晋也

 姿を現したM−Vロケット5号機。第2段のモーターケースが金属削りだしからカーボン複合材のフィラメントワインディングに変更され、塗装が銀と赤から白色に変更されている。「私はなにか絵を描こうと言ったのですがダメでした」(的川教授談:記者会見にて)。(写真提供:秋山演亮氏)


No.699 :内之浦からロケット打ち上げ中継を始めます ●添付画像ファイル
投稿日 2003年5月7日(水)16時47分 投稿者 松浦晋也

 SAC取材班第一陣は内之浦に入りました。本日は午前9時からリハーサルに相当する電波テストで、整備塔からM-Vロケットが姿を現すはずだったのですが、雨雲が低くたれこめ、いつ雨が降るかわからないために中止になりました。電波テストはロケットを整備塔に置いたまま行われました。次にロケットが姿を現すのはあさって本番です。

 ということで写真を撮ることができなかったのですが、本日午前7時半に一回ロケットを出した時にスタッフが撮影した映像を提供していただいてお送りします。

 まずは今朝の内之浦の夜明け(写真提供:秋山演亮氏)


No.698 :情報収集衛星の観測情報・今年最初のアリアン5打ち上げ
投稿日 2003年4月8日(火)15時12分 投稿者 松浦晋也

 三島和久さんのホームページ「人工衛星を見よう」で、情報収集衛星の観測予報が公開されました。2機の衛星「IGS 1A」と「同1B」の予報が公開されています。




 衛星の観測は、アマチュアの趣味に思われがちですが、実はかなり色々なことがわかります。
 例えば見えた衛星が点滅しているようなら、衛星は姿勢制御を失って回転しているということになります。
 また、今のところ2機の衛星はどちらが光学衛星でどちらがレーダー衛星かは公開されていません。もしも衛星がレーダーの展開に成功していたら、レーダーは太陽光を強く反射するはずなので、より明るいほうがレーダー衛星だと推定できます。
 複数回の観測で明るさが大きく異なるようならば、私がBiztechに書いた推測——光学衛星は衛星全体を傾けて側方を観測する——が裏付けられることになります。


 観測に成功した方は、三島さんの掲示板すりあいBBSに報告をお願いします。


              ——————————

 アリアンスペース社は、南米フランス領ギアナのギアナ宇宙センターから、アリアン5ロケットで、インドの通信気象複合衛星「iNASAT 3A」と、米パンナムサット社の通信衛星「GALAXY XII」を現地時間4月8日午後7時49分から午後8時30分の間に行うと発表しました。

 昨年12月の打ち上げ失敗以来初めてのアリアン5打ち上げであり、またアリアン4運用終了後初めてのアリアン5打ち上げでもあります。今後アリアンスペース社は全面的にアリアン5を使うことになっており、その成否は欧州の商業打ち上げの将来に大きく影響することになるでしょう。

No.696 :情報収集衛星の軌道判明
投稿日 2003年3月30日(日)17時52分 投稿者 松浦晋也

 アメリカの北米防空司令部(NORAD)から、情報収集衛星の軌道要素が公表されました。NORADは、軌道上を監視するレーダーを保有しており、10cm程度よりも大きな軌道上の人工物体をすべて監視しています。もちろん軍事目的ですが、そのデータは——アメリカの利益に反しない限りですが——公開されており、スペースデブリの監視や低軌道の有人宇宙機のデブリ回避にも使われています。
 
 

  • CelesTrack:米空軍宇宙コマンドが公開している衛星軌道要素のページ
     CelesTrackのNORADデータページ
     上記ページ内の最近30日の打ち上られた人工物体のページ、現在情報収集衛星のデータが掲載されている

     軌道データは2行軌道要素(Two Line Element:TLE)という標準化された形式で公開されます。

     情報収集衛星のTLEデータは以下の通りです。打ち上げの国際番号は200309、2003年の9番目の打ち上げを意味します。AからFまでの6個の物体が軌道に投入されました。衛星2機、第2段、そして衛星2機同時打ち上げ用フェアリングのパーツ3つです。衛星は離心率からみて、200309Aと200309Fだと思われます。

    2003009A
    1 27698U 03009A 03088.51625000 .00004167 00000-0 16560-3 0 60
    2 27698 97.3068 160.9810 0004807 350.2821 199.8390 15.25837605 227
    2003009B
    1 27699U 03009B 03088.21910865 .00067251 00000-0 25821-2 0 55
    2 27699 97.3016 160.6911 0005320 4.1601 355.9681 15.26184829 189
    2003009C
    1 27700U 03009C 03088.22461088 .00008765 00000-0 40335-3 0 50
    2 27700 97.3015 160.6268 0067992 319.2319 40.3835 15.18468429 183
    2003009D
    1 27701U 03009D 03088.54657030 .00040179 00000-0 15314-2 0 75
    2 27701 97.3043 161.0067 0008178 349.4357 10.6709 15.26556007 229
    2003009E
    1 27702U 03009E 03088.54675301 .00073870 00000-0 28131-2 0 61
    2 27702 97.3132 161.0163 0006296 359.9529 0.1715 15.26420818 223
    2003009F
    1 27703U 03009F 03088.51733796 -.00002872 00000-0 -11374-3 0 60
    2 27703 97.3048 160.9778 0002692 264.9578 284.9437 15.24629705 211

     このデータの読み方は以下のリンク先に解説されています。
     
  • 2行軌道要素
     
     これを使うと衛星の軌道を計算することができます。さっそくHeavens-Aboveというサイトで計算されていました。ここは、ドイツ航空研究所の所員が運営している衛星観測専用ページです。
     
    2003-009Aの軌道
    2003-009Fの軌道

     Aが485x 491km,で軌道傾斜角97.3°、Fが490x494 kmで同97.3°。回帰日数4日の準回帰太陽同期軌道です。

     Three Islandの三島和久さんによると、これらの衛星の地上からの観測可能性は以下の通りとです。
     
    ・夏至前後,衛星が日本の北側を通過する時が,衛星を観測できるチャンス。

    ・北よりの空に見える傾向があるため,北海道のような緯度の高い地域ほど観測には有利に。ただしそのほとんどが低空のため一般の方にとって見つけるのは困難かも。

    ・札幌の場合,超低空でもよければ 4月より可視期間
    ・      ややましな条件なら 5月より可視期間

    ・東京の場合 超低空でもよければ 5月より可視期間
    ・      ややましな条件なら 6月より可視期間

     かなり観測は難しいですが、日没前後や日の出前の北天低くに見ることができるようです。最近の天文観測機材は驚くほど進歩しており、アマチュアの機材で軌道上の物体を撮影することが可能になっています。梅雨のない北海道の天文ファンの皆さん、夏至前後の観測で名前を上げるチャンスです。


               ———— ———— ————

     日本政府は、情報収集衛星の軌道について「高度400〜600kmの準回帰太陽同期軌道」としか公表していませんでしたが、世界的に見ると上記の程度まで分かります。ここまで分かると、センサーの性能などもより精密に推定することができます。そのための知識はさほどいりません。理工系大学初年級の知識で十分です。
     このことはサテライト・ウォッチングの実情を知っている人ならば常識でした。おそらく実際に打ち上げを担当した宇宙開発事業団(NASDA)やメーカーの関係者にとっても分かっていたことでしょう。

     それでも軌道要素は隠蔽され、隠蔽するという決定にNASDAやメーカーが従ったということからして、その決定をしたのはより上部組織であると推定できます。文部科学省、内閣府、防衛庁などの高級官僚、ないしは政治家でしょう。

     ここでかなり確度の高い推定が成り立ちます。つまり高級官僚や政治家の中で意志決定を行う立場にあった者は、衛星というものが世界でどのように扱われているか無知で、しかも誰もそのことを指摘する者がいなかった、あるいは指摘されても理解できなかった、という推定です。

     情報収集衛星を巡る事態の中で、もっとも恐ろしいのはこの推定です。衛星を利用する立場の者が衛星のなんたるかを知らなければ、2500億円をかけた衛星は無用の高速道路と同等のハコモノとなります。複雑な予算の流れで官僚組織を潤し、衛星製造者の三菱電機を潤しただけの無駄な公共投資となります。

     これは、「日本は独立国として、『普通の国家』として独自の情報手段を持つべき」というような政策論議よりも以前の、ごく当たり前の帰結です。偵察衛星は道具に過ぎません。道具は使い方を覚えなければ無意味な物体です。そして、偵察衛星は決して使いやすいフレンドリーな道具ではありません。

     ネットを探してみても、例えば●殿下様沸騰の日々、『てめーらなめんなよ!』●の2003年3月28日、29日の項のような意見が出てくるのを見ると、悲しくなります。政策論議以前に偵察衛星は、物理的に理解すべきものです。それが分からないとコストパフォーマンスの判定も、ひいては導入すべきかの政策判断も狂います。ごくわずかの理学と工学のセンスが必要なのです。

     軌道上に上がってしまった以上、情報収集衛星をよりよく使うために、官僚も政治家も理工系大学初級クラスの理学と工学のセンスを身につけて欲しいと、私は思ってます。残念ながら、それが無理な願いである可能性が高いことも知っています。
     日本には「子供の頃から理科は苦手で」と赤面もせずに公言できる人が、あまりに多すぎます。そして、そもそも開発の一端を担っている他ならぬ文部科学省は、今まさに教科書検定で理科教育を破壊しつつあるのです。

  • No.695 :衛星運用はこれからが本番
    投稿日 2003年3月28日(金)11時59分 投稿者 松浦晋也

     情報収集衛星の打ち上げは成功しました。ロケット側と衛星製造側は肩の荷が下りたはずです。

     しかし衛星の管制運用はこれからが本番です。管制の負担はNASDAにかかっており、情け容赦なく「ジャイアンのように」その他の衛星運用にしわ寄せを持っていっているようです。

     今回、衛星軌道要素は非公開となっていますが、世界中のサテライトウォッチャーが情報収集衛星に注目しています。彼らの世界で軍事衛星は「観測に値するレアアイテム」です。

     当方もなんらかの衛星軌道データが推定でも入手でき次第、衛星観測予報で有名な三島和久さんのホームページ「Three Island Homepage」で観測予報を出してもらうことにしています。

     当方が見落とす可能性もありますので、情報収集衛星の軌道要素をネットで見つけた方はご一報下さい。

     毎日新聞に、打ち上げ価格が出ていました。ロケット側コストは98億円とのことです。同コンフィギュレーションの3号機が102億円ですから、3号機の機体各所に搭載していたテレメトリ・カメラを降ろしたのではないでしょうか。
     ちなみに1号機は約90億円、2号機は106億円、3号機は102億円、4号機は94億円でした。SSB4本付きということで考えると、2号機、3号機、5号機と打ち上げコスト低減は確実に進んでいます。
     宇宙開発がなかなか進展しない原因の一つに、打ち上げコストが高いということがあります。ここまでの打ち上げは打ち上げ成功を最優先してコストをかけていましたし、現在円高ではないために価格低減圧力も小さいのですが、着実にコストダウンを進めて、85億円以下という開発時の目標コストを実価格でも実現して欲しいと思います。
     正直、85億円でも「宇宙を身近にする」には高いのです。


     また、昨年9月からの7ヶ月に3回の打ち上げというのも、日本にとっては始めての打ち上げ頻度でした。この後、夏には気象衛星の後継、運輸多目的衛星「MTSAT-1R」、そして情報収集衛星の2回目打ち上げが控えています。年12回を記録するアリアンスペースと比べると、まだまだですが、打ち上げ作業に対する関係者の練度は向上するでしょう。
     その訓練を生かすには商業打ち上げによる打ち上げ機会増加を目指さなくてはなりません。

     
    松浦晋也

    No.694 :打ち上げは成功
    投稿日 2003年3月28日(金)11時01分 投稿者 松浦晋也

    衛星分離成功、打ち上げは成功しました。

    No.693 :第1段燃焼終了
    投稿日 2003年3月28日(金)10時47分 投稿者 松浦晋也

     SRB-Aと4本のSSB、そして第一段分離は成功。現在第2段の燃焼継続中。

    No.692 :情報収集衛星打ち上げ
    投稿日 2003年3月28日(金)10時35分 投稿者 松浦晋也

     午前10時27分ちょうどに、情報収集衛星を搭載したH-IIAロケット5号機は、種子島宇宙センターから打ち上げられました。

     私はJNNニュースバードで映像を見ていましたが、打ち上げ後約90秒で、映像は切られてCMになりました。快晴だったので、固体ロケットブースター(SRB-A)分離ぐらいまでは見えたはずです。

    No.691 :強風だが、打ち上げは続行の模様
    投稿日 2003年3月28日(金)09時33分 投稿者 松浦晋也

     現地に入った知り合いの報告によると、風は強いものの、種子島の人達は「この程度なら打ち上げはある」と判断して、それぞれ行動しているとのことです。天候は晴れです。

     テレビでもJNNが生中継を行うとアナウンスしています。NHKはどうでしょうか。かえっていつもの打ち上げよりも生中継が多いみたいです。JNNでは、すでに推進剤となる液体酸素と液体水素の充填作業は完了したと報じていました。

     一つ分析を、打ち上げ時刻が10時27分ということなので、太陽同期軌道としては、直下の地方時を午前10時30分±15分に設定しているであろうことが推定できます。この時刻は、昨年打ち上げられた地球観測衛星「みどり2(ADEOS-2)」を初めとして、1996年打ち上げの地球観測衛星「みどり」(ADEOS)、さらには合成開口レーダーを搭載した1992年打ち上げの「ふよう1号」(JERS-1:ただしこの衛星は午前10時30分〜午前11時だった)などとあわせたものでしょう。
     
     通過時刻が同じだと、太陽光線の地表への当たり方が同じになり、データの比較がやりやすくなります。
     
     おそらく、運用にあたっては情報収集衛星の取得データをこれらの衛星が取得したデータと比較して解析ノウハウを蓄積するのでしょう。特に、「みどり」に搭載していた分解能8mの光学センサー「AVNIR」のデータが集中的に比較対象になるものと思います。

    No.690 :牧野氏ホームページで写真速報継続中
    投稿日 2003年3月28日(金)08時54分 投稿者 松浦晋也

     過去のSAC取材で、助手兼運転手として自動車を出してくれていた牧野知弘氏が、今回種子島に渡って、主に写真による打ち上げ速報をネットに出してくれています。28日朝現在、どうやら射点からぎりぎり3kmのところに陣取っているようで、そこから写真を送ってきています。

     現地にはかなりの数の観光客が入っている模様です。

     牧野氏速報ページ

     現地は非常に風が強いようです。ロケットは相当強い風でも打ち上げ可能ですが、構造にストレスがかかることは間違いないありません。

    No.689 :今回、SAC取材班は出ません/情報収集衛星CGなど公開
    投稿日 2003年3月27日(木)15時41分 投稿者 松浦晋也

     明日3月28日午前10時27分、種子島宇宙センターからH-IIAロケット5号機で、情報収集衛星の最初の2機が打ち上げられます。

     これまで、SACはH-IIA1号機から現地取材を行ってきましたが、今回は取材班を出すことができませんでした。皆勤の笹本祐一、松浦晋也、共に締め切りに追われて種子島に向かう時間を捻出することができなかったのです。

     従って今回はSACによる中継はありません。今回こそ、中継の意味があったはずなので、大変残念です。昨年末の4号機取材時には、事前に5号機の中継を行うポイントまでいくつか候補を選定していたのですが。

     その代わり、というわけではありませんが、私が開店休業状態にしていたSpaceServerにて、情報収集衛星のCG、3Dモデル、ペーパーモデルを公開しました。これらは公開された資料に基づき、極楽島の宮地なおとさんと協力して作成したものです。宮地さん、どうもありがとうございました。

     CGは「SpaceServer p-island」のキャプションを入れてくれさえすれば、自由に使用できます。報道機関などの利用も同じ条件で認めます。3Dモデル、ペーパーモデルなどはGNUに準じ、加工した場合はそのデータもフリーで公開することを条件に、自由な利用を認めます。

     情報収集衛星に関しては、日経BizTechに3回連続で記事を書きました。それを参照していただければと思います。


    No.688 :ワシントンDCにて
    投稿日 2003年2月15日(土)23時08分 投稿者 松浦晋也

     最後のアリアン4打ち上げは高層風の回復が見込めないので数日に渡って延期することになりました。残念ながら今回あまり粘れないので我々は打ち上げに立ち会えないまま撤退です。この文章はワシントンDCで書いています。

    ##一つ訂正です。
     前回の書き込みで「軌道傾斜角の問題はある(ギアナは北緯5度、ISSの軌道傾斜角は51.7度)からISSへの飛行は難しいでしょうが、ステーションも独自に持てば問題はないでしょう。」と書きましたが、ISSへの打ち上げは問題ありません。ギアナからの高軌道傾斜角の打ち上げの場合、地球周速の打ち上げ能力への寄与は小さくなりますが、減るということはありません。お詫びして訂正いたします。



     我々が取材する予定だったアリアン4は現地時間の2月15日早朝に打ち上げられ、インテルサット907を静止トランスファー軌道に投入しました。これにてアリアン4ロケットは運用を終了しました。


     打ち上げを見ることはできませんでしたが、それでもいくつかのの成果がありました。

    ・アリアンスペースの今後の打ち上げについて。
     2003年は5機、2004年も5機のアリアン5打ち上げを実施します。このほか、2005年からは低軌道に1.5tを打ち上げる新ロケット「ヴェガ」の運用を始めます。「ソユーズ」のギアナでの運用も検討中。ヴェガ、ソユーズ、アリアン5で、幅広い重量のペイロードに対して打ち上げ手段を提供する予定です。
     次のアリアン5打ち上げは3月、V160で、通信衛星「ギャラクシー12」とインドの通信気象複合衛星「インサット3A」を打ち上げる予定。

     現場ではアリアン4運用終了に懸念を抱いているようです。案内のアリアンスペース社エンジニアに「アリアン4運用終了は心配ではないか」と聞くと「心配だ。アリアン4は116機も打ち上げて実績を積み重ねたロケットだが、アリアン5はまだ14機しが打ち上げておらず、アリアン4ほど安全面での実績はない」と明言しました。

     日本としては「14機しか」という言葉に注目しなくてはならないでしょう。日本は「4機」しかH-IIAを打ち上げていません。



    ・インドの宇宙技術の進歩
     セキュリティ上の問題があるのことで、写真を撮れませんでしたが、S5衛星整備棟では2機の衛星「ギャラクシー12」と「インサット3A」が整備中でした。

     特にインドの通信気象複合衛星「インサット3A」は衛星バスこそ購入したもののようですが、開発主体はアメリカのメーカーではなくインド宇宙機関です。衛星の周囲では数人のインド人技術者が衛星の点検を行っていました。

     ここ数年のインドの宇宙技術の進歩は素晴らしく、中国に続いて有人宇宙計画を実施するのではないかという噂も出ています。
     1月に宇宙科学研究所で開催された「我々は宇宙開発で何をやすのか(その3)-宇宙開発戦略を語る-というシンポジウムでも、「日本は米ソ欧に続いて四番手を走っていたつもりだったが、このままでは日本は中国どころかインドにも追い越される」という発言がでました。

     私は最近宇宙開発政策決定の中枢と意見交換をするチャンスに恵まれました。たいして長くもない時間だったのでその印象だけで語るのは不公平かも知れません。
     しかし、あえて印象をまとめるなら、日本の政策を担当する者には日本が四番手ということの認識すらないように思われました。
     今、中枢に限らず霞が関全般に、それが中国とインドに抜かれることが、具体的に日本の国際的地位にどのように影響するか、さらには国際的な地位の低下が国家のパワー、さらには経済活動にどのように影響するかという問題に対する想像力がそもそも欠落しているように感じています。

     とはいえ、ナショナリズムをむやみに高揚させることは無意味です。必要なのは、冷静な現状把握と将来戦略です。これらが共に現在の宇宙開発政策に欠けているということが大きな問題なのです。



    ・ギアナの商業打ち上げ設備の充実
     ギアナに行くたびに感心するのは、設備が「顧客に最大限のサービスを提供する」ために整備されていることです。今回は特にS5衛星整備棟が実際に稼働しているところを見ることができました。
     衛星は宇宙センターから50kmの空港に直接An-124輸送機で運び込み、そのまま陸路でS5へ搬入できます。S5には電源、クリーンルーム、各種圧縮気体からヒドラジン燃料の充填までを行うすべての設備が備わっています。整備後の衛星はそのままストレートにロケットの機体整備棟へ搬入することができます。

     ここで問題なのは、「日本は本当に商業打ち上げ市場でアリアンに勝つ気があるのか」ということです。関係者の間では「勝つなんてとんでもない。市場の1割でも取れるなら」という声も聞こえるのですが、それは「最初から気持ちで負けている」という奴です。勝つ気で事を進めて、初めて1割のシェアが確保できるはずです。
     誰が「入賞でいい」などといってF1に参戦するでしょうか。本田宗一郎はマン島TT参戦に当たって「世界一」を掲げ、紆余曲折の末に達成しました。

     以前指摘した新種子島空港の問題にも見るように、日本の商業打ち上げに向けた姿勢からは「勝つ」という意志が感じられません。「勝つために全力を尽くす」という姿勢を見ることができません。全力を出さずに勝てるほど、商業打ち上げ市場は甘い場所ではありません。
     欧州にとって商業打ち上げは国家的意志としてアメリカに対向して「勝つ」、勝つまではいかないまでも「対抗する」ものとして政策的な支援を受けています。
     日本の場合、そもそも政治の側から見た実用ロケット開発の政策的位置づけが「欧米とのおつきあい」として始まったことが今も尾を引いています。はっきりした政策上の方針がないまま、ずるずるとロケットの民営化まで進んでしまいました。

     世界全体で年間5000億円規模という小さな商業打ち上げ市場で、欧米のロケットが民営主体でやっていけているのは、その維持が国家的方針となっているからです。今の日本はそのような国家的方針を持っていません。国家的方針なしにH-IIAを民営化して、今後どのようにしてロケット打ち上げを行い、さらには技術開発を進めていくのか。

     民営化はコストダウンのための魔法の薬ではありません。色々と契約で縛ってはいますが、H-IIAを三菱重工業が引き受けるということは、もしも同社が経営的に行き詰まった場合、H-IIAを海外企業に売却する可能性をも認めるということです。過去にはロールスロイスの航空機用エンジンのように、売却の可能性が出てから政府が支援を行って経営を再建するという例もありました。そこまで今の日本はやる気があるのか。当然のことながら、決定的な事態が到来する前に適切な政策を打ち出して、商業打ち上げ市場で「勝つ」ほうが、トータルのコストで見ると安く済むことはいうまでもありません。

     具体的に書きましょう。種子島からの商業打ち上げで「勝つ」ためには、最低でも空港からストレートに衛星を運び込める道路と衛星整備施設が必要です。商業打ち上げ市場は小さく、民間資金だけでそれを整備することはできないでしょう。

     実現には政策的判断が必要ですが、肝心の政策は空白状態です。

     現在の日本の宇宙政策は、国際宇宙ステーションと情報収集衛星に振り回されて長期的なビジョンが不在になっています。
     
     ですからまず必要なのは長期ビジョンです。
     しかし長期ビジョンは政策として具体化して初めて意味を持ちます。過去、総理府直轄だった旧宇宙開発委員会では、宇宙開発政策大綱(5年の長期計画)にあたって、何回か長期ビジョン(15年程度を見越した構想)が作られましたが、「長期ビジョンに拘束力はない」という形で無力化、形骸化して、けっきょくその場限りの場当たり的な政策が続いてきました(1987年の長期ビジョンなど、その後の事態との乖離があまりに激しくて、読んでいて涙が出てきます)。

     「これから日本は超高齢化社会に入るのだから、宇宙開発に全力を注がなくても」という意見を聞くこともあります。これは逆に思われます。「超高齢化社会に入るのだから、宇宙開発に全力を注いで『勝たなくては』ならない。これまでのように経済全体の成長が無為無策を覆い隠してくれることはなくなるのだから」というのが正しい認識ではないでしょうか。

    松浦晋也

    No.687 :有人飛行に向けた欧州の布石? ●添付画像ファイル
    投稿日 2003年2月12日(水)18時03分 投稿者 松浦晋也


     ただ今笹本祐一と松浦晋也は、南米フランス領ギアナに来ています。最後のアリアン4打ち上げ取材のためです。116機目の最後のアリアン4、打ち上げナンバー「V159」はインテルサットの通信衛星「インテルサット907」を静止トランスファー軌道へ運ぶ予定です。

     打ち上げは現地時間2月12日午前4時(日本時間11日午後4時)の予定でしたが、北向きの高層風が強すぎるために1日延期となりました。

     コロンビア事故と関連してこちらで仕入れた話題を。

     現在欧州はギアナにロシア製「ソユーズ」ロケットの射点を建設する計画を進めています。5月に最終決定を行い、2005年以降に打ち上げを実施する予定です。「ソユーズ」打ち上げには、振り子のような仕組みで射点上のロケットを支える独特の射点設備が必要です。

     以前からアリアンスペースは、「アリアン5」に対する補完の中型打ち上げ機としてソユーズを使うことを決めており、欧州とロシア合弁のスターセム社がすでにバイコヌールでソユーズロケットの運用を行っており、運用チームの育成が進んでいます。

     当地でフランスのジャーナリストに指摘されて初めて気が付いたのですが、これは欧州がロシアからソユーズを買って有人打ち上げに乗り出すための布石になり得ます。
     軌道傾斜角の問題はある(ギアナは北緯5度、ISSの軌道傾斜角は51.7度)からISSへの飛行は難しいでしょうが、ステーションも独自に持てば問題はないでしょう。それに、ギアナで運用経験を積んでロシアとの協力関係を進めるならば、ISSへの飛行はバイコヌールから打ち上げれば良いのです。

     たとえギアナからの打ち上げを実施しなくとも、潜在的な可能性を確保することはアメリカに対する交渉カードとして機能するでしょう。

     写真は機体組立棟の中のアリアン5。この機体は1月に欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」を打ち上げる予定だったが、12月のアリアン5打ち上げ失敗を受けてロゼッタ打ち上げは延期となった。この機体は、「V160」で、通信衛星「ギャラクシー12」とインドの通信・気象複合衛星「インサット3A」を打ち上げることになった。

    松浦晋也


    No.686 :NASA、米空軍が撮影した空中分解直前のコロンビア画像を公表 ●添付画像ファイル
    投稿日 2003年2月8日(土)19時19分 投稿者 松浦晋也

     米航空宇宙局(NASA)は2月7日の記者会見で、空軍が撮影した空中分解直前のコロンビアの画像を公開しました。

     ニューメキシコ州カートランド空軍基地にある空軍調査研究所の「スターファイア光学観測施設」が世界標準時13時57分、つまり通信途絶3分前に撮影した映像です。映像では左翼前縁が破損し、後方になにかが噴出しているかのような影が映っています。現在画像解析が行われているところです。


     スターファイア光学観測施設は、もともと空軍の作戦遂行のために必要な光学観測技術の開発と実証を行う施設で、口径3.5m望遠鏡を初めとした大口径観測装備を持っています。ホームページによるとアダプティブ光学系(大気のゆらぎを予測して補正する光学システム)の研究開発を行っているということなので、SDI計画の時にかなりの設備投資があったように思われます。今回の画像を取得したということは、望遠鏡は経緯台方式の高速追尾可能な架台に乗っているのでしょう。

    (Photo by NASA)
     
    松浦晋也