宇宙作家クラブ
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No.739 :H-IIA6号機取材開始 ●添付画像ファイル
投稿日 2003年9月26日(金)14時35分 投稿者 笹本祐一

 宇宙作家クラブ取材班は、24日に報道発表された打ち上げ情報を聞いて泡を食って種子島入りしました。これより、H-IIAロケット6号機、情報収集衛星の打上げに関するレポートを行ないます。
 種子島は、冷夏だった東京から行くと眩しいくらいの夏です。
 噂どおり西之表のフェリー乗場にも警官が立っていましたが、宇宙センターの入り口にも検問が出来ていました。通常なら、打上げ前日は観光客もフリーパスでセンター内に入れます。
 種子島に来て警察関係者に検問を受けたのはこれが初めてです。
 ただまあ、これがケネディ宇宙センターなら軍人がゲートに立っていてIDチェックされるのが普通なんだよなあ。

 15日から打上げ前日記者ブリーフィングがあります。
 6号機の機体移動は、夜24時くらいから、とのこと。

 なお、ロフトプラスワンのトークライブは、イラストレーターの小林伸光さんに笹本祐一のピンチヒッターをお願いしました。
 もし状況が許せば、笹本はロフトプラスワンに電話での現地中継で参加します。


No.738 :【宣伝】ロフトプラスワンでトークライブを行います。
投稿日 2003年9月19日(金)09時30分 投稿者 松浦晋也


 9月27日(土曜日)午後7時30分から、SACメンバー4人によるトークライブを、新宿・歌舞伎町のロフトプラスワンで行います。興味のある方はご来場頂ければ幸いに思います。

宇宙作家クラブpresents

〜見てから死ね!ロはロケットのロ〜「ロケットまつり」

 種子島と鹿児島県・内之浦――日本にはなんと2カ所もロケット打ち上げ基地がある。これはとても幸運なことだ。世界に自国内でロケット打ち上げを見ることが出来ない国のほうが多い。こんな面白いモノを見ない人生にどんな意味があるのか。さあ、ロケット打ち上げを見に行こう。打ち上げにとりつかれた作家、漫画家、映画監督、ノンフィクション作家が、秘蔵ビデオと共にその魅力を縦横に語る。

【出演】浅利義遠(漫画家)、笹本祐一(SF作家)、樋口真嗣(監督)、松浦晋也(ノンフィクション・ライター)

【時間】18:30開場/19:30開演
【チャージ】¥1000(飲食代別)

リンク
 >ロフトプラスワン(http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/plusone.html)
 地図:(http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/map.html)

No.737 :コロンビア事故調査最終報告書公表
投稿日 2003年8月28日(木)16時54分 投稿者 江藤 巌

スペースシャトル・コロンビアの空中分解事故調査の最終報告書が、
8月26日にアメリカ政府任命のコロンビア事故調査委員会(Columbia Accident Investigation Board)から発表された。
報告書(pdf)は、CAIB公式サイトあるいはNASAサイトからダウンロード出来る。
また日本語の要約は、宇宙開発事業団(NASDA)のサイトにある。
なおコロンビア事故調査報告書は6分冊で構成されており、今回本文に相当する第1分冊(Vol.1)。
残りの分冊は数週間以内に公表される予定である。

この報告書の詳しい紹介と分析は、のちほどアップする予定。

No.736 :宇宙開発に関する長期的な計画の意見募集の結果について」
投稿日 2003年8月21日(木)12時03分 投稿者 松浦晋也

 宇宙開発委員会から、8/6付けで、8/4締め切りの「宇宙開発に関する長期的な計画の意見募集の結果について」の結果が公表されています。
 
 宇宙開発に関する長期的な計画の意見募集の結果について

 意見募集の結果(pdf:113KB)——研究開発局宇宙政策課が行った意見のまとめと、それに対する返答です。

 宇宙開発に関する長期的な計画の意見募集について——7/24付けの募集要項です。

 宇宙開発に関する長期的な計画(案)(PDF:89KB)——コメントを求めた計画案です。

 まず、締め切り2日後にこのような形で集まった意見を素早く公開したということは高く評価できます。以前でしたら、「意見はお聞きしました」イコール「聞いたという形を作っただけ」イコール「なしのつぶて」でしたから。きちんと文科省が危機意識を持って行動していることの表れでしょう。

 しかし、意見募集の結果(pdf:113KB)は、旧来の霞が関のやり方を踏襲したものに留まっています。意見の全文は公開されず、それぞれの意見は、文科省が「自分の意見に合う」とした部分だけが、しかも執筆車の意図とは違う文脈で掲載されています。

 つまり、「集まった意見のつまみ食い」を行っています。

 そう断言できる理由は、私がこのコメント募集に応募し、私の意見が本来の文脈と異なる形で掲載されているからです。このことから他の方からの意見も、似たような扱いを受けていると推定できます。

 ちなみに私の意見で掲載されたのは4-1です。全文を引用すると以下の通りです。
 

 「重点化」というが、「誰が『どこが重点か』を判断する」のだろうか。過去、日本の官僚システムは、技術開発の重点も方法論もことごとく見誤ってきた。戦艦大和、YS-11、短距離離着陸機「飛鳥」、原子力船「むつ」、サンシャイン計画、シグマ計画、高速増殖炉「もんじゅ」、遺伝子シーケンサー——「H-II〜H-IIA」すら世界的な宇宙リセッションの中、無理な民営化でどこに向かうか不透明である。明治年間、二宮忠八は陸軍に飛行機械製作で資金援助を願い出たが、機械が空を飛ぶとは信じられない陸軍は願いを拒否した。これは故事ではない。今も起きていることである。「重点化」を、やらない言い訳に使ってはならない。
 官僚及び宇宙関係者は、官僚及び官僚化した実施機関には、「未来につながる技術の芽を見抜く能力がない」ことを徹底的に自覚する必要がある。自覚した上で対策を考える必要がある。
 重点化の名目で、新しい発想が踏みつぶされる事態は避けなくてはならない。質的転換を行うべき時期に、いたずらに過去からの路線継承にしがみついてはいけない。古いからというだけの理由で続けるべき技術を断ち切ってもいけない。
 唯一目利きができるのは、目利きの才能を持った個人のみである。古壺を多数決で目利きするのが愚かなことと同じように、技術を衆議で目利きするのは誤りである。
 競馬の子馬を目利きするように、有象無象の技術から正しい芽を見抜ける目利きの人材に相応のポジションと権力(予算分配の権限)を与えるべきである。
 必要なのは「重点化」の中で、未来につながる技術的発想を多様さを保ちつつ保護・育成することだ。そのためには我々凡才(その中には筆者も、そしておそらくは大多数の官僚も含まれる)は、「『そんなこと(事実上、予算的にetc)できっこない』と絶対に言わず、まず肯定的な態度で新しい技術や発想に接する態度」が重要である。



 これのどこをどう読んだら「伸ばすもの、切るものを見極めた上で重点化を行うべき」と要約できるのか私には理解できません。官僚には先を見る能力がないから、そういう人材を登用すべきという意見なのですが。

 当然、それに対する回答も。ピントはずれです。

 
「研究開発を重点化するにあたり、利用促進や研究開発の意義等の観点から戦略的に重要な分野を先導的基幹プログラムとして設定するとともに、各プログラムに即した評価により各プロジェクトの優先順位付けを行った上で、組織・プロジェクトの合理化・スリム化を図り、確実に推進することとしています。また、必要性や有効性を厳重に見極め、事業のスクラップ・アンド・ビルドを含めて、必要な整理・合理化・削減を行うこととしています。」


意見:「官僚には先を見る能力がないから、そういう人材を登用すべき」
それに対する回答:「必要性や有効性を厳重に見極め、事業のスクラップ・アンド・ビルドを含めて、必要な整理・合理化・削減を行う」

 答えになっていません。

 おそらく他の意見についても似たような「つまみ食い」的取捨選択が行われていると思われます。
 「気象衛星のバックアップを持つべき」といったきちんと耳の痛い意見も隠すことなく掲載しているのに、惜しいことだと思います。


 まとめの段階における微妙な文脈操作によって、民意を吸い上げたという形を作るのは霞が関の十八番です。

 かつては通用した手段ですが、インターネット時代、例えばコメントへの応募者が自分の意見をインターネットで公表したら、さらにはお互いに連絡を取り合って相互リンクを張ったらどういうことになるか——容易に想像は付くはずですが、今回のまとめではそこまでの事態を想定はしていなかったようです。

 私自身は、集まった意見を、オリジナルな状態で全部を読んでみたいと思います。それと、研究開発局宇宙政策課が行ったまとめを比較すると、文科省が今後宇宙開発にどういうスタンスで臨むつもりかが分かります。

 オリジナルの意見の公開を希望するものです。

 もちろん、上記のような恣意的な引用をされたのが私の意見のみで、その他の方の意見は公正に掲載されている可能性もあります。それも集まったコメントの全体が公表されれば判明するでしょう。オリジナルの意見の公開は、文科省の公平性を世間一般に対して証明すると言う意味でも有用です。

##ただ今時間的余裕がないのですが、私自身の提出した意見は、いずれ自分のホームページで公開したいと思っています。

No.735 :米ロラールが米国破産法11条(会社再建)を申請
投稿日 2003年7月16日(水)15時03分 投稿者 松浦晋也

 米衛星メーカーのロラールが7月15日、米国破産法11条を申請して破産しました。同時に保有する北米地域にサービスを行っている衛星6機をインテルサットに11億ドルで売却します。

ロラール社ホームページ
ロラール社リリース

 破産の原因はロラールの衛星通信事業部門のロラール・スペース・コミュニケーションの負債。低軌道通信衛星システム「グローバルスター」への投資が収支を圧迫し、約21億ドルの長期債務を抱えていました。11条での再建は、通信事業を切り離して衛星製造と衛星運用部門を中心に事業を再編することで行うとのことです。

 ニュースリリースでは、ビジネスは通常通り行うとしていますが、日本への影響としては、来年第一四半期に打ち上げる予定の気象衛星「MTSAT-1R」が予定通り出荷されるかという問題が考えられます。現在日本の衛星気象観測は、米海洋大気庁(NOAA)から借りた「GOES-9」で行っています。

No.733 :宇宙映像の上映館になっているブラン ●添付画像ファイル
投稿日 2003年7月1日(火)23時01分 投稿者 笹本祐一

 この施設だけで入場するだけなら40ルーブル、上映も見るなら80ルーブルの入場料が必要。
 そしてこれがそのブランの内部。座席にはおざなりな安全ベルトがついており、バーチャライドかと思ったらさにあらず。
 正面の一畳半ほどの大きさにプロジェクターで放映されるのはブラン打上げの記録映像なのだが、画像が宇宙空間に出ると二軸で支えられている座席のロックが外れ、ふらふら揺れるようになるのである!
 画面に映しだされるのは富士山、珊瑚礁などの軌道からの風景、それが突然非常サイレンが鳴り響き、ロシア語はまったくわからないのだが壁のディスプレイの映像がひび割れたガラスになって入るところを見るとなんかぶつかった模様。
 もちろん、あわてず騒がず宇宙服のコスモノウツがブランのエンジンまわりの修理をして(ミールの記録画像と、展示されているブランの後部で撮影したものが混ざっているらしい)無事帰って来て、一三分ほどの上映は終了する。

 上映前に剥き出しになっている機体構造を仔細に観察したのだが、内部機器はほぼ完璧に剥ぎ取られている。残っているのは外板の構造材だけで、電子装備も生命維持装置もなにもない。つまり、ブランを持って来たにしてもそれは恐らく構造試験モデルかなにかで、しかも装備されている高価な機器は側を展示するには必要ないのでモルニヤ公社に剥ぎ取られたのだろう。


No.732 :モスクワ、ゴーリキー公園のブラン ●添付画像ファイル
投稿日 2003年7月1日(火)23時00分 投稿者 笹本祐一

 ソ連製スペースシャトルブランが、たった一度の飛行の後のソ連崩壊のおかげで廻りまわってモスクワの公園でレストランになった、というニュースを聞いたのはもう一〇年近く前のことだと思う。
 その後、屋外展示されているのは実際に飛んだ機体ではなく構造試験用の機体で、モルニヤ公社はまだ飛べるエネルギヤとブランを何機か隠し持っているらしい、なんて話も聞いたが、レストランになったブランのその後の情報なんてのはさっぱり入ってこなかった。
 さて、初めてモスクワ入りした笹本は、松浦ともどもゴーリキー公園にあるというそのブランに向かった。
 雨がそぼ降る雲の下で見たのは、日本の20年くらい前のデパートの屋上を100倍くらいに巨大化して30倍くらいに薄めた
ゴーリキー公園遊園地と、その一画でひっそりと宇宙映像の上映館となっているブランであった。


No.731 :読売新聞「火星到達はのぞみ薄?」報道における中冨信夫氏発言について
投稿日 2003年6月19日(木)19時56分 投稿者 松浦晋也

 読売新聞の6月16日付け記事「火星到達はのぞみ薄?…日本の探査機に3つの関門」における中冨信夫氏(宇宙工学アナリスト)のコメントの正当性が、関係者の間で議論を呼んでいます(野尻ボードを参考の事)。

 当該コメントは以下の通りです。

「重量を抑えるため十分な燃料を積めなかったのが、のぞみのトラブルの遠因。H2ロケットでの打ち上げも可能で、軽い衛星しか打ち上げられないM5ロケットにこだわるべきではなかった」


 現在「のぞみ」について調べていまして、ある程度事情を知っていますので、事実関係をふまえて上記コメントを評価したいと思います。

 結論から言えば、このコメントは同じ中冨氏がスペースシャトル「コロンビア」空中分解事故の時にした「墜落原因はハッカーがシャトルのシステムに入り込んだ可能性も」というコメントに比べれば、はるかにまともです。しかし、「のぞみ」開発時の事情を勘案すると、見当はずれで関係者にはあまりに酷なコメントです。ただし、この読売新聞の記事は、記者が中冨の発言を恣意的に切り抜いて使用した可能性もあります。従って、このコメントが見当はずれであることの責任の半分は、記事を執筆した読売新聞の記者とその記事を通したデスクにあるといえるでしょう。


 「のぞみ」の検討は1986年から始まっています。当初は金星がターゲットでしたが、1988年に打ち上げられたソ連の火星探査機「フォボス2号」が、火星大気から大量の酸素が宇宙空間に流出しているという興味深い現象を発見したことから、1990年にはターゲットを火星に変更しました。
 この時点では、打ち上げにはまだ開発に入っていない次世代のMロケット、つまり現在の「M-V」ロケットを想定していました。打ち上げは1996年の予定。1996年の火星接近は条件が良く、少ないエネルギーで火星に到達できたのです。

 まず、この時点ではH-IIロケットは開発の最難関を通過しつつあるところで、まだエンジンの爆発事故を繰り返していました。まだ完成するかどうか分からなかったのです。
 そして、より大きな問題ですが、この時期はまだ宇宙開発事業団と宇宙科学研究所のロケットを巡る緊張関係が存在していて、それがM-V開発開始を巡って微妙なところにさしかかっていました。

 日本のロケット開発は東京大学で始まりましたが、1960年代に入って科学技術庁でも実用衛星打ち上げを目指したロケット開発がスタートしました。この時、はたして日本に宇宙開発機関が2つ必要かということは大議論になりました。それは科技庁対文部省というお役所間の対立でした。結局、国会報告に「東大のロケットは直径1.4mまでとする」と明記することで2機関が並行してロケットを開発することが認められます。M-Vロケットは直径2.5mあり、開発を始めるにあたってこの20年以上昔の国会報告を覆すという面倒な政治的な手順が必要でした。

 宇宙研のロケット研究側がそのような微妙な作業を行っていた時期に、宇宙研の衛星側サイエンス側のメンバーは間違っても「H-IIを使う」とはいえるはずもありませんでした。関係者は「最初からH-IIを使うことは考えていなかった」そうです。

 もっと実際的な理由としてロケットの価格がありました。M-Vは70億円ですが、計画段階のH-IIは160億円でした。これは宇宙研の予算から出せる額ではありません。

 「国際協力にしてアメリカのデルタで打ち上げる」ということもアイデアとしてはあり得ます。実際この時期、宇宙研は国際協力の地球磁気圏観測衛星「GEOTAIL」をデルタロケットで打ち上げています。この計画に参加した方に「のぞみ」のデルタ打ち上げの可能性を聞いたことがあります。「いや、国際協力というのはそれはそれですさまじく面倒で消耗するものだよ」という返事でした。
 国際協力が成立するには、実はある条件があります。協力を行う双方が実力と実績で拮抗していること、強力なライバル関係が存在していることが、国際協力ミッションの成立条件なのです。でないと、協力の成果を、実力が上の側がすべて持っていってしまうことになるからです。実力が拮抗していて初めてギブアンドテイクが成立し、協力ミッションが実行できるのです。GEOTAILは、日本の磁気圏科学が世界一線級の成果を挙げていたからこそ実行できた国際協力ミッションでした。

 もしもこれまで日本が経験のない火星探査でアメリカの協力を申し込んでも、アメリカは相手にしなかったでしょう。さらにはもしも協力ミッションにしても、その成果はアメリカがすべて持っていく形になった可能性が高いのです。

 さらに、「のぞみ」の延着には純粋に軌道力学的な理由も絡んでいます。

 今、私はパリにいまして、手元に資料がないのでうろ覚えの数字なのですが、「のぞみ」の開発は992年に始まりました。同時期にM-Vロケットの開発もスタートします。当初M-Vは地球低軌道に2tの打ち上げ能力を予定していました。この能力を使って、火星へ行くためのエネルギーが小さくてすむ1996年に打ち上げれば、「のぞみ」はダイレクトに火星に到達できるはずでした。

 ところが、M-Vは開発途中のトラブルのために、打ち上げ能力が低軌道に1.8tになってしまいます。開発期間も2年延びたために、1996年には打ち上げられなくなってしまいました。ところが次の火星に向かうチャンスである1998年は、エネルギー的につらい年で、火星に向かうのに必要なエネルギーがだいぶ大きくなってしまうのです。このままでは探査機が完成したとしても、火星に到達できません。

 ここで軌道設計が踏ん張ります。月と地球をスイングバイして足りないエネルギーを補い、火星に到達できる軌道を設計したのです。

 こうして「のぞみ」は1998年7月4日に火星に向けて打ち上げられました。月と地球のスイングバイを経て1999年末には火星に到達できるはずでした。

 ここから後は読売新聞の記事にある通りです。1998年末の地球スイングバイは、スイングバイと同時に探査機付属のロケットエンジンを噴射する「パワースイングバイ」でした。この時、推進剤を供給するための配管を不要なときは安全のために閉じておくためのバルブがひっかかってしまい、不完全な噴射になって十分な加速が得られませんでした。
 ここで、軌道設計が再度驚くべき踏ん張りを見せます。2回の地球スイングバイを使ってまたも足りないエネルギーを補い、2004年正月に火星に到達する軌道を設計したのです。

 しかしそんなに長期間「のぞみ」に惑星間空間を航行させていいものか。検討では大丈夫のはずでした。

 ところが、今度は2002年4月、太陽表面で観測史上最大級の爆発が起きたのです。太陽から高エネルギー粒子が向かった先に、ちょうど「のぞみ」がいました。その結果、電源系の一部が動かなくなりました。「のぞみ」を火星周回軌道に投入するためのヒドラジン燃料をあたためるためのヒーターに電気が通じなくなり、また、搭載通信機器のモードを、データを送信できるテレメトリーモードとビーコンを発信するだけのビーコンモードで切り替えることができなくなりました。通信機器はビーコンモードのままロックしてしまったのです。
 火星周辺では太陽光が弱くなるので、ヒドラジンは暖めていないと凍ってしまいます
。また、ビーコンモードのままでは観測データを地球に送れません。

 現在、「のぞみ」は、搭載した自立制御機能をつかってビーコンのオンオフで状態を知らせてきています。「今どういう状態か。状態Aだったらビーコンをオン、状態Bだったらオフ」というような操作を繰り返して探査機の状態を探り、運用しているのです。ほとんど徳俵親指一本、それも親指の先だけでひっかかっているというスリリングな状態です。それでも粘りに粘って「のぞみ」の運用は続いています。

 この状態を「H-IIを使わなかったからだ」といえば、確かにその通りです。しかし、上記のような経緯を考えると、中冨氏のコメントは過去の経緯を無視しており、結果として見当はずれになっている、と私は考えます。

 6月19日の地球スイングバイに引き続く、電源系の回復動作は、かなり危険なものだということです。

 私としては、徳俵親指一本の「のぞみ」の強運を信じたいところです。

 事実関係などに、間違いがありましたら。メールで連絡をいただければと思います。

松浦晋也


##6/19:中冨信夫氏の名前を「中富」と誤記していました。お詫びして訂正いたします。

No.728 :情報収集衛星、日本でも撮影成功:IGS-1Aの画像 ●添付画像ファイル
投稿日 2003年6月2日(月)23時30分 投稿者 松浦晋也

 6月1日、倉敷科学センターが、3月28日に打ち上げられた情報収集衛星「IGS-1A」「IGS-1B」の撮影に成功しました。
 
 倉敷科学センター:こちらでは、動画像も見ることができます。

 この画像は、インターネットに流れている軌道要素による予報に基づいて撮影されたものです。現在、民間に軌道要素を流している米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターのサーバーは情報収集衛星の軌道要素を非公開にしていますが、インターネットではどこからともなく軌道要素が流通しています。どうも民間の観測データから軌道要素を計算しているグループが存在しているようです。

 IGS-1Aの予報
 IGS-1Bの予報

 観測されたIGSは、1Aのほうが1Bよりも明るく、3等星程度の明るさで見えたそうです。このことから、IAは太陽光を反射しやすい大きなフェーズドアレイ・アンテナを装備したレーダー衛星、1Bが光学衛星だと推測できます。

 同時に、打ち上げ時のロケットのフェアリングへの搭載順も、レーダー衛星が上、光学衛星が下という順序で搭載されていたことが分かります。次回9月の打ち上げでこの関係が変わるとも思えない(変えるとなると最低でも射場での作業手順が変わるし、場合によってはロケットとのインタフェースが変わってしまう)ので、次回も打ち上げ後「A」がついた衛星がレーダー衛星、Bがついた衛星が光学衛星ということになるでしょう。


 この写真の撮影データは以下の通りです。
 IGS-1A.jpg 2003.6.1 22:18(JST) ごろ 5秒間隔の合成画像です。
 イメージ・インテンシファイヤー+28mmレンズ使用  撮影地/岡山県美星町
 倉敷科学センター提供




No.727 :訂正
投稿日 2003年5月17日(土)18時47分 投稿者 松浦晋也

 訂正です。
 「No.725 :的川談話」において
「X線天文衛星ASTRO-F2(中略)この後、水星探査機PLANET-CはM-Vで打ち上げるかどうか未定である。」

 と書きましたが、正確には以下の通りです。
「X線天文衛星ASTRO-E2(中略)この後、金星探査機PLANET-CはM-Vで打ち上げるかどうか未定である。」


 お詫びして訂正いたします。

 ちなみに水星探査は、欧州との共同ミッション「ベピ・コロンボ」で実施することが決まっています。




No.726 :午後6時20分からの記者会見 ●添付画像ファイル
投稿日 2003年5月9日(金)20時52分 投稿者 松浦晋也

 午後6時20分過ぎからの記者会見の様子です。

出席者は、的川教授、保安主任の稲谷芳文教授、実験主任の小野田淳次郎教授、鶴田浩一郎新所長、探査機主任の川口淳一郎教授、科学主任の藤原顕教授。

 まず、鶴田浩一郎新所長
 本日はにこやかな顔で挨拶できてとても喜ばしい。

 実験主任の小野田教授が発表文を読む。
名前は「はやぶさ(隼)」。


質問:感想を
鶴田:前回の失敗から3年あまり、信頼性向上に努力してきたが本日それを実証することができた。「はやぶさ」は今後宇宙研が進んでいかなければならない、探査技術の開発と科学探査の両立のモデルとしてスタートラインに立った。

質問:日本のロケットが全面復活したことに対して感想を
小野田:ほっとしたの一言だ。

質問:探査機の成功をどう思うか
川口:これは大きなチャレンジであり、4つの大きな技術が新たに試される。まずはイオンエンジンが動けば及第点がいただけるのではないかと思う。

質問:サンプルから何が分かるのか
藤原:隕石との比較で地球の起源や太陽系の成り立ちを知ることができる。

質問:M−Vには予算をつかないという話もあるがこの成功がどう影響すると考えるか
小野田:M−Vがよいロケットだということが皆に分かってもらえるのではと思っている。今決まっているだけではなく、もっと使ってもらえる可能性があるのではないかと思う。ここまで育ってきた固体ロケット技術をこれからも引き継がれ、成長していくと喜ばしいと個人的には思っている。

質問:非常に欲張りなミッションだが、その発想の原点はどこにあったのか
川口:欲張ろうと思っていたわけではなく、惑星探査の究極の目標であるサンプル回収をやるとしたら、これらの技術はすべていずれは開発しなければならないものだった。それが幸いにも1つのコンパクトな探査機にまとまったということだ。

質問:今後の探査機運用はどんなものか
川口:もっぱらクルージングではイオンエンジンの運転が眼目になる。目標小惑星の周囲に滞在する数ヶ月の間は科学観測を主に行う。

質問:どこまでできたら成功か
川口:まずはイオンエンジンで航行できるということで及第点。それに小惑星とのランデブーやサンプル採取やリターンというものが加点要素として入ると考えて欲しい。

質問:88万人の名前を載せたことについては
的川:ターゲットマーカーに載せた名前は大事に届けたいと思う。

質問:サンプルの解析体制はどうなのか。
藤原:世界でも月以外はサンプルリターンをしたことがないので、オール日本体制で行うことになる。まず初期分析を1年間行う。ついで世界中からテーマを公募して本格的な分析を行う。初期分析では形とか大きさなどを目録記載する。ついで非破壊分析や元素組成を実施する。例えばアルミニウム26という崩壊熱を出す元素の損座比率を調べたり、酸素の同位体の比率を調べる。太陽系の起源を探るということは、漠然とした言い方だが、我々のルーツを探るということなのかもしれない。

質問:サンプル採取の実際を教えて欲しい
川口:探査機は自分と小惑星の相対的な姿勢を自動的に計測して最終的に毎秒10cmの速度で表面にタッチダウンする。その時に弾丸を撃ち込んで跳ね上がるサンプルを回収する。これを3地点で実施する。
 技術開発要素は惑星間でイオンエンジンを使った長期航行、自律制御、サンプル採取、最後に惑星間軌道から地表への直接帰還だ。

質問:飛行データはどうだったか
小野田:まだデータを見ていないが、打ち上げがうまくいったことから、ロケットはうまくいったものと思っている。

質問:3機関統合問題の中で、宇宙研の担ってきた基礎研究を今度の成功をふまえてどのように進めるべきと訴えていくのかの姿勢を聞きたい。
鶴田:私は基本的に今までと変わらないと思う。今回の成功で訴えることが変わるということはない。しかしこのような成功を続けて行かねばならないと思う。

質問:今回失敗していたら主張がしにくくなっていたのではないか。
鶴田:失敗していたらその原因究明に力をとられて統合に力を注げなかったろうことは確かだ。

質問:イオンエンジンの速度は(かなり意味不明の質問。質問した側も自分が何を聞きたいのかよく分かっていない様子)
川口:増速量はだいたい毎秒1kmぐらいだ。

質問:総踏破距離はどのぐらいか
川口:よく聞かれる質問だが、地球に対してということで一声で言えば約10億kmだ。

 以上です。質疑が終了すると拍手が起きました。

 笑顔ばかりが残るいい打ち上げでした。願わくば「はやぶさ」と名付けられた探査機が、ミッションのすべてを完遂して星のかけらを地球にもたらさんことを。

 これにて宇宙作家クラブの今回の中継を終わります。



No.725 :的川談話
投稿日 2003年5月9日(金)15時10分 投稿者 松浦晋也

 記者室に的川教授登場。

「記者会見ではなく雑談をしに来ました」とリラックスした様子。

 サンプラーホーン伸展、太陽電池パドル展開、姿勢制御の基準となる太陽を姿勢制御用センサーが捕まえる、太陽捕捉まで確認。

 午後3時にはキャンベラで捕捉の予定。ゴールドストーンとのデータと合わせて軌道を決定。

 ロケットは100%成功です。とてもよかった。ノズルスロート改良や第2段の改良など、新しくしたところは心配だったがすべてうまくいった。3年ぶりの打ち上げで、コントロールセンターの緊張した雰囲気を味わったがやはりいいですね。結果がこういうことだととてもいいです。ほっとしたというのが一番大きいです。これで統合に向けて集中することができます。

 地上からロケットを追尾していた光学班のカメラでは第3段点火まで見えた。大気の条件はとてもよかった。

 次の打ち上げは赤外線天文衛星のASTRO-F、さらに月探査機LUNAR-A、X線天文衛星ASTRO-F2、太陽観測衛星SOLAR-Bと続く。この後、水星探査機PLANET-CはM-Vで打ち上げるかどうか未定である。
 M-Vにはもっと改良したい点もありコストダウンも必要である。そのための開発費用を捻出しなくてはならない。今回の成功でそのような機運が出てくればよいと考えている。
 固体ロケット開発道筋を、統合化の新機関でどうつけるかはまだリジッドに決まっているわけではない。一機ずつ成功を積み重ねていくことが重要なのだろう。

 探査機の名前は、午後6時の記者会見で発表します。もちろん私は知っているけれども、フライングするわけにはいかないですし。ここで大きな声で独り言いったりしてね。いま話してもどうせ朝刊でしょ(笑い。記者から「テレビなら」という声があり)。

 

No.724 :太陽姿勢確立確認
投稿日 2003年5月9日(金)14時41分 投稿者 笹本祐一

 カリフォルニアNASAゴールドストーン局は探査機MUSES−Cが太陽電池パネルを展開、太陽捕捉姿勢を確立していることを確認しました。今回の打ち上げは完全に成功しました。

No.723 :二段目分離とサンプラーホーン伸長確認 ●添付画像ファイル
投稿日 2003年5月9日(金)14時27分 投稿者 笹本祐一

 打ち上げ方向にはきれいに雲が切れたため、二段目の燃焼終了寸前まで追いかけることができました。
 写真は一段目の分離、二段目の燃焼開始後10秒ほどの写真。撮影は牧野。

 ゴールドストーンでは、打ち上げ二〇分後のサンプラーホーンの展開までが確認されています。


No.722 :打ち上げ成功 ●添付画像ファイル
投稿日 2003年5月9日(金)14時07分 投稿者 松浦晋

 M-Vロケット5号機は5月9日午後1時29分25秒、内之浦から打ち上げられました。第4段までの動作は正常で、小惑星探査機MUSES-Cを惑星間軌道に投入した模様です。最終的な打ち上げの正否は打ち上げ後30分の、探査機からの通信で、探査機の姿勢確立と太陽電池パドルの展開確認によって決まります。