宇宙作家クラブ
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No.152 :カウントダウン進行中
投稿日 2000年10月5日(木)22時33分 投稿者 江藤 巌

 現在カウントダウンはTマイナス時間と10分ほどだが、この先カウントダウンはTマイナス6時間でいったん停止する。
 約2時間のホールドをはさんで、カウントダウンは現地時間昼の12時43分(日本時間6日午前1時43分)ころに再開する。約3時間掛けて液体水素と液体酸素をタンクに充填した後、再びTマイナス3時間で2時間のホールドに入る。
 なお宇宙開発事業団(NASDA)のミッション・ライブ中継が、6日午前0時に開始される予定である。
 Tマイナス3時間からのカウントダウンは17時43分(6時43分)ころに再開され、宇宙飛行士が18時18分頃(7時18分)にディスカヴァリーに乗り込む。ディスカヴァリーのハッチは19時33分(8時33分)ころに閉じられる。ディスカヴァリーに接続していたホワイトルームから作業員が退去した後、カウントダウンはTマイナス20分でホールドに入る。
 10分のホールドの後、カウントダウンは20時33分(9時33分)に再開され、Tマイナス9分で最後の45分のホールドを取る。
 最終カウントダウンは21時29分(10時29分)に再開され、トラブルが発生しない限り、21時38分(10時38分)の打ち上げに向けてカウントダウンが行われる。
 なお今回の打ち上げのウィンドウは国際宇宙ステーション(ISS)の軌道との関係からかなり狭く、打ち上げが9時38分の前後合わせて10分以内に行われなかった場合には、翌日に持ち越しとなる。

No.151 :ケネディ宇宙センター案内
投稿日 2000年10月5日(木)17時05分 投稿者 江藤 巌

 笹本裕一の現地レポートに若干の補足を。

 ケネディ宇宙センター(KSC)の地理については、KSCのマップを見ると良い(このKSCの地図は左が北になっているのに注意。上が大西洋)。
VAB周辺
39A発射台周辺
 なおVABに隣接してLCCと記されている建物が、打ち上げ管制センター(Launch Control Center)である。しばしば誤解されているが、LCCが管制するのはシャトルが発射台を離れるまでで、発射台をクリアしたシャトルの管制はジョンスン宇宙センターの飛行管制センター(Mission Control Center)に移管される。
 ケイプ・カナヴェラル空軍基地とあるのは、正確にはケイプ・カナヴェラル空軍ステーション(Cape Canaveral Air Force Station)。AFSはAFB(Air Force Base)よりも一段格が低い。KSCと隣接するCCAFSはパトリック空軍基地(Patrick AFB)の管轄下にあり、同AFB自体はは空軍宇宙コマンドの下にある。実はシャトル用(かつてのサターン用)の発射台以外のロケット/ミサイル発射台は、すべてがCCAFSの敷地内にある。KSCの全体地図の大西洋上に描かれた東西の線(地図では縦線)がKSCとCCAFSの境界である。空軍とNASAとは密接な協力関係にあり、KSCとCCAFS周辺の気象観測や天気予報なども空軍が担当している。
 

No.150 :STS92、プレスツアー ●添付画像ファイル
投稿日 2000年10月5日(木)14時32分 投稿者 笹本祐一

 そういうわけで(最近このパターンばっかりだな)成田までン時間、成田からデトロイトまで一〇時間半、デトロイトからオーランド空港まで二時間半、値段だけが取り柄のツーリストクラスで笹本はケネディ宇宙センターにたどりつきました。
 時差で日本から一三時間遅れのフロリダの今日の天気は荒天、ほとんど曇にときおりスコールのような雨が降りしきる、南国らしくない天候です。
 そんな陰鬱な空の下、今日の打ち上げ前日の取材イベントはプレスツアー。報道陣向けにケネディ宇宙センターのシャトル関連施設を廻ってくれる二時間半のツアーは、経費節減を至上命題とするNASAらしく払い下げのスクールバスに乗って行われます。
 このスクールバス、六年前STS65のときはボンネットバスだったのが今回キャブオーバーに更新されており、きっと近所の学校がスクールバスの入れ替えでもやったんでしょうなあ。
 フロリダの現地時間で午後一時からスタートしたツアーは、まずVABに向かいます。
 ヴィークル・アッセンブル・ビルディング、宇宙船組み立て場と呼ばれるこれは、シャトルと外装タンクとブースターをひとつの構造物として垂直に組み合せる場所で、そもそも全長一〇〇メートルを越すアポロ計画のサターンV型ロケットのために建設されました。
 その規模、高さ一六〇メートル、奥行き一六〇メートル、幅二四〇メートル、四〇階建の超高層ビルを中に六基納められる規模の平屋の建築物。
 写真にあるのがそのVABなのだが、だだっ広い湿地帯のど真ん中に突然建っているため、廻りになんの対比物もなく、本体にも大きさのわかる窓などがないので大きさのわかりにくい建物である。アメリカ国旗のサイズが、ジャンボジェットより大きいのだが。
 このVABの中に初めて入ることができたのだが、その中の印象は巨大な工場であった。いっちゃ悪いが、種子島のH-IIAロケットVABの方が内部はスマートである。ただし、その内部体積は二〇分の一くらいなものなのだが。
 プレスツアーは土砂降りの雨の中シャトル着陸用の五〇〇〇メートル滑走路、打ち上げ準備中の39A発射台、国際宇宙ステーションセンターなどを廻った。
 現在のところ、打ち上げ予定に変更はない。

 ところで、ケープカナベラル空軍基地(ケネディ宇宙センターの隣にある打ち上げ基地で、こちらからはタイタン、デルタロケットなどが打ち上げられる)では一〇月の一〇日にタイタンロケットの打ち上げが予定されているそうである。
 ……どうしよう。


No.147 :ディスカヴァリー打ち上げまであと1日
投稿日 2000年10月5日(木)11時17分 投稿者 江藤 巌

 スペースシャトルSTS-92の打ち上げまであと約1日となったが、カウントダウンはTマイナス11時間(打ち上げまで11時間)でホールド(休止)中である。これはスケジュール通りで、これまでのところ大きなトラブルは発生していない。カウントダウンは5日の午前5時43分に再開する。
 心配される天候だが、前線の接近で低い雲が垂れ込め、打ち上げ当日は緊急着陸の条件を満たさない可能性は低くない。5日夜に打ち上げが行えない場合には、打ち上げは約23時間半延期されて6日夜(日本時間日昼)の再度のトライが行われるが、現在の天気予報では7日の天候も思わしくない。
FLORIDA TODAYの打ち上げ速報

 打ち上げ当日のカウントダウン進行は以下のとおり。

Launch Day (Thursday, Oct. 5)

*Move Rotating Service Structure (RSS) to the park position (1:30 a.m.)
*Perform ascent switch list
*Fuel cell flow-through purge complete (5:43 a.m.)

Resume countdown at T-11 hours (5:43 a.m.)

*Activate the orbiter's fuel cells (6:53 a.m.)
*Clear the blast danger area of all non-essential personnel
*Switch Discovery's purge air to gaseous nitrogen (7:58 a.m.)

Enter planned 2-hour built-in hold at the T-6 hour mark (10:43 a.m.)
*Launch team verifies no violations of launch commit criteria prior to cryogenic loading of the external tank
*Clear pad of all personnel
*Chilldown of propellant transfer lines (12:13 p.m.)
*Begin loading the external tank with about 500,000 gallons of cryogenic propellants (about 12:43 p.m.)

Resume countdown (12:43 p.m.)

*Complete filling the external tank with its flight load of liquid
hydrogen and liquid oxygen propellants (about 3:43 p.m.)
*Final Inspection Team proceed to launch pad

Enter planned 2-hour built-in hold at T-3 hours (3:43 p.m.)

*Perform inertial measurement unit preflight calibration
*Align Merritt Island Launch Area (MILA) tracking antennas
*Perform open loop test with Eastern Range

Resume countdown at T-3 hours (5:43 p.m.)

*Crew departs Operations and Checkout Building for the pad (at 5:48 p.m.)
*Complete close-out preparations in the white room
*Check cockpit switch configurations
*Flight crew begins entry into the orbiter (about 6:18 p.m.)
*Astronauts perform air-to-ground voice checks with Launch and Mission Control


*Close Discovery's crew hatch (7:33 p.m.)
*Begin Eastern Range final network open loop command checks
*Perform hatch seal and cabin leak checks
*Complete white room close-out
*Close-out crew moves to fallback area
*Primary ascent guidance data is transferred to the backup flight system

Enter planned 10-minute hold at T-20 minutes (8:23 p.m.)

*NASA Test Director conducts final launch team briefings
*Complete inertial measurement unit preflight alignments

Resume countdown at T-20 minutes (8:33 p.m.)

*Transition the orbiter's onboard computers to launch configuration
*Start fuel cell thermal conditioning
*Close orbiter cabin vent valves
*Transition backup flight system to launch configuration

Enter estimated 45-minute hold at T-9 minutes (8:44 p.m.)

*Launch Director, Mission Management Team and NASA Test Director conduct final polls for go/no go to launch

Resume countdown at T-9 minutes (about 9:29 p.m.)

*Start automatic ground launch sequencer (T-9:00 minutes)
*Retract orbiter crew access arm (T-7:30)
*Start mission recorders (T-6:15)
*Start Auxiliary Power Units (T-5:00)
*Arm SRB and ET range safety safe and arm devices (T-5:00)
*Start liquid oxygen drainback (T-4:55)
*Start orbiter aerosurface profile test (T-3:55)
*Start main engine gimbal profile test (T-3:30)
*Pressurize liquid oxygen tank (T-2:55)
*Begin retraction of the gaseous oxygen vent arm (T-2:55)
*Fuel cells to internal reactants (T-2:35)
*Pressurize liquid hydrogen tank (T-1:57)
*Deactivate SRB joint heaters (T-1:00)
*Orbiter transfers from ground to internal power (T-0:50 seconds)
*Ground Launch Sequencer go for auto sequence start (T-0:31 seconds)
*SRB gimbal profile (T-0:21 seconds)
*Ignition of three Space Shuttle main engines (T-6.6 seconds)
*SRB ignition and liftoff (T-0)


SUMMARY OF STS-92 LAUNCH DAY CREW ACTIVITIES

Thursday, Oct. 5

9:30 a.m.Crew wake up
10:30 a.m.Breakfast
*4:38 p.m.Snack and photo
5:08 p.m.Weather briefing (CDR, PLT, MS2)
5:08 p.m.Don flight suits (MS1, MS3, MS4, MS5)
*5:18 p.m.Don flight suits (CDR, PLT, MS2)
*5:48 p.m.Depart for launch pad
*6:18 p.m.Arrive at white room and begin ingress
*7:33 p.m.Close crew hatch
*9:38 p.m.Launch

No.146 :カウントダウン順調に進行
投稿日 2000年10月5日(木)02時40分 投稿者 江藤 巌

 STS-92のカウントダウンは順調に進行しており、5日夜(日本時間6日昼)の打ち上げの最大の障害は天候になりそうだ。メキシコ湾にいるハリケーンの余波でケネディ宇宙センター(KSC)の天候がこんご悪化する可能性があり、NASAでは5日に予定通り打ち上げが行われる可能性を40%と悲観的に見積もっている。もし5日夜の10分間に打ち上げが出来なければ、打ち上げはほぼ24時間に延期される。

 今回のSTS-92は、スペースシャトルにとって記念すべき100回目の打ち上げとなる。
これまでのシャトル・オービターの打ち上げの内訳は以下のようになっている。

OV-102コロンビア(Columbia)    1981年4月初飛行 26回
OV-099チャレンジャー(Challenger) 1983年4月初飛行 10回(1986年1月喪失)
OV-103ディスカヴァリー(Discovery) 1984年8月初飛行 28回(STS-92含む)
OV-104アトランティス(Atlantis)  1985年9月初飛行 22回
OV-105エンデヴァー(Endeavour)  1992年5月初飛行 14回

No.145 :STS-92秒読み開始
投稿日 2000年10月4日(水)00時14分 投稿者 江藤 巌

 宇宙作家クラブの笹本裕一とあさりよしとおの二人が、2日の昼にアメリカに向け飛び立った。彼等はケネディ宇宙センター(KSC)でスペースシャトル・ディスカヴァリーの打ち上げを取材して来る予定である。現地からのレポートを期待したい。

 今回の打ち上げの不安材料はメキシコ湾にいるハリケーン”キース”で、これがKSCの天候に影響を与える可能性の他にも、ジョンスン宇宙センター(JSC)のあるテキサス州をハリケーンが襲って洪水や停電になり、シャトルの管制に影響を与える恐れがある。
 5日午後9時38分(日本時間6日午前10時38分)に予定されている打ち上げが延期された場合、次の打ち上げは早くとも6日の午後9時15分(6日午前10時15分)になる。
宇宙開発事業団のSTS-92ライブ中継(中継開始は6日0時より)。

 スペースシャトルの100回目の打ち上げとなるSTS-92のカウントダウン(秒読み)は、現地時間の2日夜に開始されている。
 カウントダウンの進行は、NASAのカウントダウン・ページおよびカウントダウン・クロックのページで見ることが出来る。ただし打ち上げの直前になると、これらのサイトはひどく込み合うことが多い。STS-92打ち上げステイタス
 カウントダウンの進行を見る場合に注意しなければならないのは、カウントダウンの時間進行が実時間と同調していないことである。例えば今回の打ち上げは10月5日夜(日本時間6日昼)なのに、この文章を書いている時点ではカウントダウン・クロックはTマイナス1日と8時間(打ち上げ1日8時間前)あたりを示している。
 これはカウントダウンのスケジュールの中に、何カ所もホールド(休止)が挟まれているためである。このホールドは作業員が休憩したり、作業が遅れている部門が他に追いついたりするための時間的余裕として最初から用意されている(buildin hold)。その他にも作業進行の都合から、任意に差し挟まれるホールドもある。これらのホールドの間はカウントダウン・クロックは止まったままになる。
 ここで打ち上げ前日までのカウントダウンの進行表を掲載しておこう。時刻はKSCのあるフロリダ州のアメリカ東部夏時間で、日本とは時差が14時間ある。

COUNTDOWN MILESTONES

*all times are Eastern Launch - 3 Days (Monday, Oct. 2)
*Prepare for the start of the STS-92 launch countdown
*Perform the call-to-stations (11:30 p.m.)

Launch - 2 Days (Tuesday, Oct. 3)

*Countdown begins at the T-43 hour mark (12 a.m.)
*Begin final vehicle and facility close-outs for launch
*Check out back-up flight systems
*Review flight software stored in mass memory units and display systems
*Load backup flight system software into Discovery's general purpose computers
*Remove mid-deck and flight-deck platforms (8 a.m.)
*Activate and test navigational systems (1 p.m.)
*Complete preparation to load power reactant storage and distribution system (3 p.m.)
*Flight deck preliminary inspections complete (4 p.m.)

Enter first built-in hold at T-27 hours for duration of 4 hours (4 p.m.)

*Clear launch pad of all non-essential personnel
*Perform test of the vehicle's pyrotechnic initiator controllers (5:10 p.m.)

Resume countdown (8 p.m.)

*Begin operations to load cryogenic reactants into Discovery's fuel cell storage tanks (8 p.m. - 4 a.m.)

Launch -1 Day (Wednesday, Oct. 4 )

Enter 4-hour built-in hold at T-19 hours (4 a.m.)

*Begin filling pad sound suppression system water tank (4 a.m.)
*Demate orbiter mid-body umbilical unit (4:30 a.m.)
*Resume orbiter and ground support equipment close-outs
*Pad sound suppression system water tank filling complete (7:30 a.m.)

Resume countdown (8 a.m.)

*Final preparations of the Shuttle's three main engines for main propellant tanking and flight (8 a.m.)
*Close out the tail service masts on the mobile launcher platform

Enter planned hold at T-11 hours for 13 hours, 43 minutes (4 p.m.)

*Begin star tracker functional checks (5 p.m.)
*Activate orbiter's inertial measurement units
*Activate the orbiter's communications systems
*Install film in numerous cameras on the launch pad (8 p.m.)
*Flight crew equipment late stow (10:20 p.m.)

No.144 :H-IIA1号機ペイロード変更・開発は胸突き八丁に
投稿日 2000年10月3日(火)18時29分 投稿者 松浦晋也

 H-IIA1号機のペイロードが未定になり,ダミーを搭載しての打ち上げの可能性が出てきた件ですが,かなり状況は深刻なようです。 私としてはこれまでの開発体制で積み重ねてきた小さな無理が今回の問題で一気に噴出してきたのではないかと考えています。

 事実関係は以下の通りです。


    1)8月7日に種子島宇宙センターで実施した第1段エンジンLE-7Aの350秒燃焼試験で,液体水素ターボポンプのベアリング取り付け用ボルトの付け根が破損した(NASDA発表)。

    2)当初NASDAでは運用により問題を回避できると考えていた(NASDAによる分析)が,宇宙開発委員会技術評価部会では,「そもそも振動が発生する事事態がおかしい.。問題はより深刻ではないか」などの声が上がった。

    3)9月27日の宇宙開発委員会技術評価部会で,LE-7Aエンジン液体水素ターボポンプの再設計が必要で,1号機は既存設計のポンプで予定通り2001年2〜3月に試験打ち上げを行い,2001年初頭に改良ポンプを使って打ち上げを行うべきとの勧告がでた(9/27付け宇宙開発委員会見解)。

 H-IIAの開発は私が開発開始当初に考えていた以上に様々な問題が表面化しています。
 以下,論点を整理しつつ検討していきます。

そもそもH-IIAは「改良」か「新規開発」か

 H-IIAはH-IIの低コスト化バージョンとして開発が始まりました。H-IIの目標が「静止軌道へ2tを打ち上げる国際的水準のロケットを国産で開発する」ことであるのにたいして,H-IIAの目標は「H-IIと同等の性能のロケットを約半額の1機85億円以下のコストで実現する」ということでした。
 そう考えてH-IIとH-IIAの基本設計を比較すると,特にLE-7A(附記するなら固体ロケットブースターも)において,実際問題として全面新開発に近い設計になっているのに気が付きます。



 つまり改良低コスト化が目標であっても,新規開発と同等の注意深さがマネジメントと設計の両面で必要になるはずなのです(実のところ私自身はこのことに最近まで気が付いていませんでした)。

開発側はこのことを意識していたのか

 まず財政当局と科学技術庁は気が付いていなかったと言い切って間違いないと思います。実はH-IIAは当初開発期間7年だったものが,途中で6年に短くなり,さらに昨年のH-II8号機打ち上げ失敗で再度1年延びたという経緯があります。
 開発期間が短くなった理由は,よりコストの安いH-IIAを1年早く運用することで予算圧縮を狙ったものでした。このことは私は当時関係者からはっきり聞いています。

 H-IIAを額面通りの「改良型」ではなく,「開発アイテム」として認識しているなら,このような処置はありえなかったはずです。

 ではNASDAは気が付いていたのか。

 より具体的な事例として,ここで,LE-7とLE-7Aが開発途中で起こしたトラブルを比較してみましょう。

 LE-7はおおむね以下のようなトラブルを起こしました。


    ・液体水素ターボポンプの回線数が上がらない。共振によるタービン,インペラーの破損
    ・エンジン起動手順を探る過程で過熱による配管溶損事故を起こす
    ・共振による細管の破損から出火
    ・溶接部に熱ひずみが蓄積して破断,大規模な爆発を起こす


 一方LE-7Aのトラブルは以下の通り。


    ・主噴射器に液体酸素を吹き込む主噴射器LOXポストの破損(NASDA発表)
    ・主燃焼室壁面の溶損による周囲の水素冷却配管の破損(NASDA発表)
    ・プリバーナー噴射器内の噴射エレメントのスリット部に欠損発生(NASDA発表/原因の調査報告)
    ・ノズルスカート再生冷却管に穴(NASDA発表)
    ・起動時のショックによるエンジン人馬リング用アクチュエータの折損(GTVトラブル原因究明状況)
    ・液体水素ターボポンプのベアリング取り付け用ボルトの付け根が破損した(NASDA発表)。


 これをみて分かるのは,LE-7では設計の根幹に関わるターボポンプの破壊,配管の破断・溶損などが起きているのに対して,LE-7Aでは設計の根幹ではなく,熱条件や衝撃力・振動などの,設計上は細部にあたる部分で,比較的単純な理由からトラブルが起きているということです。
 液体ロケットエンジンは,回転部分を伴う熱機関ですから,熱条件と振動条件には設計上十分な注意を払う必要があります。しかしLE-7Aではそれらが原因のトラブルが細部で起きており,しかも開発が進んでもなかなか根絶できないという状況が見て取れます。

 ロケットの設計はメーカーとNASDAが合同の設計審査を経て確定します。H-IIの設計審査では新しい技術を盛り込みたいメーカーに対してNASDAが待ったをかけて安全寄り,かつ保守的な設計を要求するという形で設計審査が行われました。これはH-IIの目的が前述のように「とにかくロケットを完成させる」ことだったからです。

 ここからは推察です。
 それではH-IIAの設計審査はどのように行われたのか。
 私は安全を主張するメーカーに対して低コスト・簡略化を求めるNASDAという図式で推移したのではないかと想像します。H-IIAの目的が「低コスト化」にあり,NASDAには低コスト化を実現する義務があったためです。
 このため,今から考えると,安全に振っておくべき部分も簡略化で設計が確定してしまった可能性があると考えるのです。

 NASDAにせよメーカーにせよ,H-IIの経験がありましたから,十分な検討を行って設計を確定したはずですが,ひょっとすると「改良型」という題目が無意識に働いて,新規開発並みの注意が必要になるところで,そこまでの注意が働かなかったのではないかと思います。「H-IIのノウハウがあるからこれぐらいなら大丈夫」――結果として設計の様々な段階での「これぐらい」が積み重なってしまったのではないでしょうか。

 もう一つ,私が聞いた中ではメーカー側のモチベーションを指摘する声もあったことを附記しておきます。H-IIの時はN-Iからロケットに携わってきた技術者達が,「純国産でやる」ということで全力を尽くしたのですが,H-IIAではその経験のない技術者が「低コスト化」でそれほど意気が上がらなかったのではないか,というのです。それが事実はは分かりませんが,毅然と安全設計を主張すべきところで「まあ低コスト化だから」という無意識が働いた可能性は否定できないと考えます。

 今回のことからはっきり言えるのは,ロケットの開発は一回成功したからといって次もその経験を元に成功するというほど甘いものではないことでしょう。常に「今作っているものは初物」という意識でなければ成功はおぼつかないということではないかと思います。

 また,私自身への自戒も含めて書くならば,ロケットの開発は傍で騒ぐ者が想像するほど甘くはないということも念頭に置くべきでしょう。今回もマスコミでは妙な報道があれこれと出ました(一例として――NHK:ダミー打ち上げは異例,日本テレビ:ダミー打ち上げは90億円の無駄使い)。

 以下は不吉な予想です。

 マスコミ程度ならまだしも,現場の技術を知らない科学技術庁文官がトラブルを理由に積極的介入をしないことを祈らずにはいられません。
 特に科技庁は,長年の天下り先だったNASDA理事長のポストをH-II8号機失敗と,その後の自民党筋からの反対で失っています。来年1月の省庁統合を控えて,科技庁としては少しでも「科技庁指定席」を確保して文部省との有利な統合を目指したいはずです。

 この年末にかけて,ただでさえ技術的問題が続いているNASDAの幹部(理事以上と思って間違いないでしょう)に,科技庁筋(非難を避けるために科技庁から直接ではなく一度天下った人材を「別のセクションで技術を勉強したから」と使い回してNASDAに送り込む可能性がある)から天下りがあるとしたら,それはいかなる理由がつこうとも「宇宙開発のため」ではなく,科技庁の利益のためと思って間違いないでしょう。
 しかし,それで開発体制が混乱するならば,本末転倒というものでしょう。
 科技庁が宇宙開発の未来を優先し,私の予想が当たらないことを望むものです。
(S.MATSU)

No.142 :プロトンKでGE-1A通信衛星打ち上げ他
投稿日 2000年10月2日(月)15時26分 投稿者 江藤 巌

 若田光一宇宙飛行士を含むSTS-92の人の乗員は、5日夜(日本時間6日午前)の打ち上げに備えて空からケネディ宇宙センター入りをした。
 FLORIDA TODAY Space Onlineのシャトル100回目の打ち上げ関連特集

 ILS(International Launch Services)社は、10月1日22時(GMT)にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から、プロトンK(ブロックDM)GEアメリコム社の静止通信衛星GE-1Aを打ち上げた。FLORIDA TODAY Space Onlineの記事

 「タイタニック」でアカデミー監督賞を獲得したジェイムズ・キャメロン監督が、ミール宇宙ステーションに搭乗に向けてロシアで訓練を受けることが発表された。すでに医学検査はパスしているという。SPACEDAILYの記事
 ただし現在ミールの運用経費は来年の3月分までしか確保されておらず、それ以降の運用は資金の集まり具合次第となる。

No.141 :X-33打ち上げは2003年に延期
投稿日 2000年9月30日(土)11時27分 投稿者 江藤 巌

 スペースシャトルの後継となる単段軌道直行式(Single Stage To Orbit)打ち上げ機のデモンストレイターとなるはずのX-33計画は、2003年まで打ち上げを延期して開発を継続することで、このほどNASAと開発メーカーのロッキード・マーティン社が合意した。
 X-33計画は、複合材料製の液体水素タンク超低温で剥離するというトラブルに見舞われ、昨年夏の試作機完成予定がすでに1年以上も遅れている。開発費も予算をオーバーし、計画中止も噂されていたが、問題のタンクを軽合金で造り直すことが決まった。現在の開発予算超過分はロッキード・マーティン社がかぶるが、2001年以降はNASAも余分な支出を余儀なくされる。
NASAの発表
NASAマーシャル宇宙飛行センターのX機のサイト
X-33ニュースのサイト
Spaceref.comnの記事
ロッキード・マーティン社のX-33のサイト
X-33計画の歴史HP

No.140 :STS-92 10月5日打ち上げへ
投稿日 2000年9月29日(金)13時15分 投稿者 江藤 巌

 スペースシャトルの100回目の打ち上げとなるSTS-92は、現在のところ10月5日(日本時間6日)の打ち上げに向けて、順調に準備が進んでいる。カウントダウン開始の最終的決定を行うFRR(Flight Readiness Review)は9月28日に開かれる。現在日本の若田光一ら7人の宇宙飛行士はジョンスン宇宙センター(JSC)で最終訓練中で、10月2日にT-38ジェット練習機でケネディ宇宙センター(KSC)入りする予定。

STS-92/OV-103ディスカヴァリーのミッション概要を示す。

Target launch date/time -- October 5, 2000, 9:38 p.m. EDT
October 6, 2000,10:38 a.m. JST
Orbiter -- Discovery (OV-103)
Mission Number -- Shuttle flight #100; Discovery flight #28
Estimated launch window -- less than 5 minutes
Pad -- 39A
Mission duration -- 11 days
Landing -- KSC, October 16, 5:00 p.m. EDT
October 17, 6:00a.m. JST
Inclination/altitude -- 51.6 degrees/177 nautical miles
Primary payloads -- ISS fifth flight (3A)/Z-1 truss and PMA-3
Number of Crew Members -- 7
Crew Members
Cdr -- Brian Duffy
Plt -- Pamela Melroy
MS -- Leroy Chiao
MS -- Peter "Jeff" Wisoff
MS -- Michael Lopez-Alegria
MS -- William McArthur
MS -- Koichi Wakata(Japan/NASDA)

 今回の飛行は、スペースシャトル計画にとっては100回目の打ち上げということで、日本ばかりでなく世界的にも注目を浴びることだろう。またこの飛行が成功すれば、いよいよ国際宇宙ステーション(ISS)が定住可能になり、11月初めにはには3人の常住クルーが送り込まれると言うことでも節目となる飛行である。

 ご覧のように、今回の飛行のパイロットは女性(ルーキー)である。もっともこれまでにも女性のパイロット宇宙飛行士も二人飛行しており、女性の機長(CDR)も飛行しているのだから、ことさら取り上げるほどのことでもないかもしれない。MSのロペス=アルジェリアはスペイン生まれのアメリカ国籍である。
 若田光一宇宙飛行士にとっては、1996年のSTS-72に次いで二度目の宇宙飛行となる。STS-92の機長ダフィとMSのチャオは、STS-72でも若田とともに飛んでいる。今回も若田飛行士はリモート・マニピュレイター・システム(ロボット・アーム)の操作に専念し、機外活動(EVA)は行わない。若田以外の4人のMSが、二人一組で2回ずつEVAを行う予定である。

NASAのSTS-92ミッションガイド
KSCのシャトル・ステイタス
KSCのカウントダウン・サイト
KSCの気象
STS-92のミッション・パッチ
宇宙開発事業団(NASDA)のSTS-92サイト
STS-92プレスキット(pdf)
若田宇宙飛行士へ質問しよう
若田宇宙飛行士に応援メッセージを送ろう!
若田宇宙飛行士の宇宙食

No.139 :H-2Aの開発について
投稿日 2000年9月28日(木)22時19分 投稿者 江藤 巌

 宇宙開発事業団(NASDA)のHPに、今後のH-2Aロケットの開発についての、ごくごく簡単な報告が載せられ、この問題についての宇宙開発委員会の見解も公表されている。ただしどちらもお役所的な文章で、具体的なことはほとんど分からない。

No.138 :ボーイングがヒューズ衛星製造部門を買収
投稿日 2000年9月28日(木)11時49分 投稿者 江藤 巌

 米連邦取引委員会(FTC)は、ボーイング社によるヒューズ・スペース&コミュニケイションズ社(HSC)の買収を承認した。
 HSCは、自動車の世界最大手ジェネラル・モーターズ社(GM)の子会社であるヒューズ・エレクトロニクス社を構成する1社で、通信衛星の開発製造の分野では最大手である。傘下に衛星や打ち上げ機部門を抱えるボーイングと同社との合併は同業者との公正な競争を阻害する可能性があり、FTCではボーイングの打ち上げ部門がヒューズの衛星部門の入手した他の打ち上げ業者の情報を知ることのないよう、社内に を設けるなどの条件を付けている。ボーイングによるHSCの買収金額は37億5000万ドルになる。買収の正式発表は10月27日の予定。
 ヒューズ・エレクトロニクス(旧称ヒューズ・エアクラフト)は、かのハワード・ヒューズが興した会社で、1985年にハワード・ヒューズ医学財団の傘下から、GMの100%子会社になっていた。ヒューズ・エレクトロニクスは、HSCとディレクTVヒューズ・ネットワーク・システムズの3社から構成され、またパンナムサット社の81%を保有している。衛星放送を手がけるディレクTVは最近急成長を遂げており、さまざまな会社が傘下に収めようと狙っている。主にディレクTVのお蔭で、ヒューズ・エレクトロニクスの発行株式総額は親会社のGMのそれを凌ぐくらいに高騰しており、ここ1,2年はヒューズ・エレクトロニクスを買収するにはまずGMを買収すれば良いと言った転倒した話まで真剣に囁かれていた。
 ヒューズ・エレクトロニクスに関しては、オーストラリアのメディア王ルパート・マードックのニューズ社がGMから550億ドルで買収するとの噂も流れていた。他にもジェネラル・エレクトリック社、マイクロソフト、アメリカ・オンライン(AOL)なども、ヒューズ・エレクトロニクス買収に関心を示しているとも言われる。

No.137 :衛星通信企業相次ぐ挫折
投稿日 2000年9月27日(水)13時50分 投稿者 江藤 巌

 低高度通信衛星によるデータ中継を謳ったオーブコム社が、去る9月15日に日本の民事再生法に相当する米破産法に基づき、裁判所に第11条の適用を申請した。同社は資産を合計4億36万ドル、負債を2億5900万ドルと申告している。オーブコムのプレスリリース
 オーブコム社は、オービタル・サイエンシズ社(OSC)の子会社として設立され、現在はカナダのテレグローブ社が68%を、残りをOSCが保有している。
 オーブコムでは、低高度に多数の小型通信衛星を配して、移動あるいは固定のデータ通信を行う浸サービスを立ち上げていた。同社はすでに軌道に35機の衛星を打ち上げているが、今回の破産法11条申請で新規の打ち上げは停止されている。事業の行き詰まりの原因は、予想したほどに利用者が集まらなかったことで、同社では若干の資金と時間の余裕があれば新事業は軌道に乗ると楽観的な意見を表明している。
 オーブコムに限らず、1990年代に創業された低軌道衛星通信会社はいずれも大苦戦している。イリジウム社は昨年夏に倒産し、資産の引き受け手も見つからない現状で、現在軌道上にある同社の衛星は近く人為的に落下させられることになろう。またICOグローバル・コミュニケイションズ社も、すでに破産法第1一条を申請しているが、クレイグ・マッコウ氏の資金援助で新ICO社(New ICO)へと生まれ変わっている
 残るロラール・スペース・コミュニケイションズ系列のグローバルスター社だが、ロラールの資金的梃入れでなんとか息をついている。しかし同社も利用者が一万三千人しか集まっておらず、大苦戦していることには変わりない。
 これらの低高度移動体衛星通信業者の挫折の大きな原因は、システムの立ち上げに資金と時間が必要だったこと、その間の携帯電話の急激な普及のお蔭で利用者が当初の見積もりをはるかに下回ったことであろう。

No.136 :H-2Aのペイロード変更
投稿日 2000年9月26日(火)17時36分 投稿者 江藤 巌

 宇宙開発事業団(NASDA)では、平成12年度末(2001年2月)に打ち上げを予定しているH-2Aの1号機にヨーロッパ宇宙機関(ESA)ARTEMISデータ中継技術試験衛星を搭載するのを止めて、別の衛星あるいは試験ペイロードを載せることに決定したようだ。これについてNASDAの正式の発表はまだない。NASDAのこれからの打ち上げ予定もまだ改訂されていない。ARTEMIS衛星は、ESAとの国際協力の一環として、H-2Aの1号機に搭載されることになっていた。
 旅客機の初飛行に乗客を乗せることがあり得ないように、新型ロケットの打ち上げの際に試験用ペイロードしか載せないのはごく一般的なことである。近ごろは衛星打ち上げ機の信頼性を過信して、初飛行から有償のペイロードを載せることもあったが、アリアン5デルタ3など新型ロケットの初飛行が失敗に終わるケースが続発し、最近また初期の打ち上げに慎重を期すようになって来ている。
 H-2Aの場合、今年の8月に行った第1段のLE-7A認定型エンジンの燃焼試験において、液体水素ポンプボルト12本が破損するトラブルが発見されている。当初NASDAではこの問題は打ち上げに影響を与えないと見ていたが、宇宙開発委員会技術評価部会の意見もあり、液水ターボポンプを補強することにした。ただし改良型のLE-7Aエンジンが搭載されるのはH-2Aの2号機以降になる見通しのため、来年2月打ち上げの1号機ではロケット自体の機能を確かめるペイロードを搭載することとしたものである。
 H-2Aの開発状況

 なおH-2Aの正式名称は、ローマ数字を使ったH-IIAであるが、ローマ数字が機種依存文字であることと、アルファベットと混同される恐れがあることから、この掲示板ではアラビア数字を用いてH-2Aと表記している。タイタンIV、デルタIII、サターンV等の名称についても同じである。

No.135 :故チトフ宇宙飛行士埋葬
投稿日 2000年9月26日(火)10時36分 投稿者 江藤 巌

 9月20日に死亡したロシア(旧ソ連)の宇宙飛行士、ゲルマン・S・チトフは、25日にモスクワのノヴォジェヴィチ墓地に埋葬された。チトフは、ユーリー・A・ガガーリン(1968年に飛行機事故死)に次いで、1961年8月に人類史上2番目に宇宙を飛行している。
 チトフはモスクワの自宅のサウナで死亡しているのが発見され、当初は一酸化炭素中毒死と報道されたが、検死の結果死因は心臓発作と発表された

 ロシアは9月25日にカザフスタンのバイコヌール基地から、ゼニート2打ち上げ機でコスモス軍事衛星を打ち上げた。打ち上げを行ったロシアの戦略ロケット軍によれば、この打ち上げは故チトフ宇宙飛行士に捧げられた。チトフはゼニート打ち上げ機の試験委員会の委員長として、1985年のゼニート1号機打ち上げに立ち会っている。

 若田光一宇宙飛行士の搭乗するスペースシャトルSTS-92/フライト3Aの打ち上げは、現在のところ10月5日午後9時38分(東部夏時間)となっている。当面のスケジュールは以下のとおり。
Space Shuttle main engine flight readiness test begins Sept. 25
Orbiter aft compartment close-outs begin Sept. 26
Ordnance installation complete Sept. 28
Flight Readiness Review Sept. 28
Crew arrives at KSC Oct. 1
Payload bay doors closed for flight Oct. 2