H3ロケット8号機/みちびき5号機の打上げ前ブリーフィング
2025年12月15日14時から種子島宇宙センターの竹崎展望台で開催されたH3ロケット8号機/みちびき5号機の打上げ前ブリーフィングです。
(※一部敬称を省略させていただきます。また一部で聞き取れないところがあり省略させていただきました。また説明の詳細や図についてはJAXAの配付資料を参照してください)
・登壇者
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室 室長・参事官 三上 建治
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室 企画官 岸本 統久
三菱電機株式会社 準天頂衛星プロジェクト統括 柳生 伸二
JAXA 第一宇宙技術部門高精度測位システム プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 松本 暁洋
日本電気株式会社 スペースプロダクト統括部 測位ミッションペイロード プロジェクトマネージャ 西尾 昌信
JAXA 宇宙輸送技術部門 H3プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 有田 誠
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 H3プロジェクトマネージャ 志村 康治
・打上げ日時について(有田) ※発表文より
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、H3ロケット8号機による準天頂衛星システム「みちびき5号機」の打上げについて、下記のとおり決定いたしました。
打上げ日 : 2025年12月17日(水)
打上げ時刻 : 11時10分00秒(JST)
打上げ時間帯 : 11時10分00秒~11時24分30秒(JST)
打上げ予備期間 : 2025年12月18日(木)~2026年1月31日(土)
打上げ場所 : 種子島宇宙センター 大型ロケット発射場
再設定後の目標であります12月17日に打上げができる見通しが立ったということで発表させていただきました。
・準備状況について(有田) ※配付資料より抜粋
・ロケット及びペイロードの名称等
ロケット :H3ロケット8号機(H3-22S)
ペイロード :準天頂衛星システム「みちびき5号機」
投入軌道 :準天頂軌道
※基本的に5号機までと同じ。
機体移動の予定時刻 : 2025年12月16日21時00分頃。
(※2025年12月17日打上げ予定の場合)
・H3ロケット7号機打上げ時におけるSRB-3後部アダプタ内温度上昇事象への対応
・事象
・24形態である7号機は4本のSRB-3を装着しており、うち2本は5号機まででフライト実績のある従来仕様品、残り2本にはコストダウンを目指して設計変更したサーマルカーテンを初めて使用した。
(※サーマルカーテンはSRB-3の後部アダプタ(ノズルの周囲)で機体内部を熱から守る布状の部材)
・打上げ後詳細評価を行ったところ、設計変更したサーマルカーテンを用いた2本のSRB-3の後部アダプタ内の温度が想定よりも上昇する事象が確認された。
(※SRB-3の機能には影響のない範囲の温度上昇で飛行には問題なかった)
・原因
・設計変更したサーマルカーテンの気密機能がフライト中に低下し、エンジンの噴流等の干渉により生じる機体外部の熱いガスの一部が、サーマルカーテンを透過して後部アダプタ内部に侵入したためと推定。
・対策
・8号機及び9号機においては、5号機までに実績のある従来仕様品を適用する。
・原因調査の結果を踏まえ、10号機以降のサーマルカーテンの仕様を検討する。
・慣性センサユニット(IMU)の一時的な出力データ異常。(※今回の延期の原因)
・事象
・12月2日に実施した最終機能点検において、慣性センサユニット(IMU)から出力される6つの加速度データのうちの1つに、一時的に通常とは異なる出力を確認した。
・本事象を受け直ちにトラブルシュートに着手し、機体からIMUを取り外し製造工場に返送すると共に、製造工程での環境試験時の生データ(通常は評価対象外)を確認したところ、事象の兆候を示すデータを確認した。
・原因
・IMUを機体から取り外し分解調査を実施したところ、異常値を出力した加速度計の内部回路の一か所に接触不良を確認。温度変化等により当該回路の接触状態が変化することで、一時的な出力異常が発生したと特定した。
・調査の結果、製造工程の作業ばらつきにより、極めて稀に発生する事象であると評価している。
・対策
・8号機については、環境試験時の生データの確認を含め健全性を確認したIMUに交換を実施。12/13に交換及び機能点検を完了。
・後続号機については、検査プロセスの見直し等を検討する。
※IMU:慣性センサユニット(Inertial Measurement Unitの略)。ロケットの誘導制御に必要な各種信号(加速度、姿勢等)を出力する機器。第2段機体に搭載。内部に冗長系を持っている。
・天候について
・16日夜の機体移動から打上げ予定時刻にかけては若干雲が多めの予想ながら打上げに問題はない
・準天頂衛星システムみちびきについて(三上) ※配付資料より抜粋
まずは打上げに向けて鋭意努力を進めていただいたロケット事業者の皆様、また衛星という1つのものを作るのに長き時間を費やしていただきました衛星システム開発関係者の皆様、大変ありがとうございます。今回の「みちびき5号機」の打上げにあたりまして、みちびきの意義概要について説明させていただきたいと思います。
・みちびきは、アジア・オセアニア地域に特化した衛星測位システム(ReginalなGNSS)
・準天頂軌道(3機)と静止軌道(1機)の4機体制で運用中(今年夏から5機体制に)
・位置情報と時刻情報を含む測位サービスを提供。加えて、災害危機管理メッセージも配信。
・他国の衛星測位システムの精度は5~10m、みちびきは世界に先駆けて「cm級」の高精度測位を実現。
・みちびきの5-7号機を2025年度までに打上げ、7機体制を構築する予定。7機体制では、他国のシステムに頼らずにみちびきのみでサービスが可能に。今後、バックアップ強化とエリア拡大のため11機体制を推進。
・準天頂衛星の名前の由来について
・衛星測位を行うためには最低4機がその場から見える必要がある。今現在、「みちびき」は4機見ることが出来ない。それで7機にしようと思っているが、見える方向も大事。準天頂軌道に置くと1機は頭の上に見えるという状況になるので、準天頂衛星と呼ばれる。
・準天頂衛星システムは衛星だけでなく地上局も併せて大きなシステムを組んでいる。
日々、24時間365日、測位サービスを絶え間なく提供している関係者の皆様には厚く御礼申し上げるところでございます。
・サービスの概要
・日本版GPSとも称されるが、GPSと同じ周波数の電波を提供している。通常測位とも呼ばれる。
・GPSには無い「みちびき」特有のサービスとして、測位補強サービスがあり、GPSの他に電波を出す事で、より高精度な測位が行えるサービスを実施している。またメッセージを送ることも出来て、緊急地震速報や津波警報などを「みちびき」からも送るサービスがある。
・みちびきの高精度測位補強サービス(cm級)は、GPSならば誤差が5~10mも発生しているのに対し、みちびきの高精度測位補強サービスならば公称値で約6cm、実測値では3cmまでに現在なっている。
・準天頂衛星システムの新しいサービスとして「偽信号・なりすまし対策」のための信号認証サービスが2024年度から運用開始。
・みちびき5号機の概要(柳生) ※配付資料より抜粋
・みちびき5号機の諸元
・設計寿命 : 15年以上
・軌道 : 準天頂軌道
・質量(ドライ) : 約1.7t
・質量(打上時) : 約4.7t
・搭載ミッション質量/消費電力 : 495kg/2.4kW
・軌道上展開後の大きさ : 全長約19m
・パドル生成電力(EOL)、構成 : 6.7kW、2枚構成・2翼
・衛星バス : DS2000
・今年度打上げ(予定も含む)5、6、7号機の中ではいちばん軽い衛星。
・DS2000の衛星は軌道運用中が16機、運用完了が4機、未出荷が5機。これまで軌道上で累積180年以上の動作実績を有している。
・高精度測位システムASNAVについて(松本) ※配付資料より抜粋
※ASNAV:AdvancedSatellite NAVigationsystem
・高精度測位システム(ASNAV)概要
・高精度測位システムは、従来の準天頂衛星のシステムに、衛星間測距機能および衛星/地上間測距機能(高精度測距システムと呼ぶ)を加え、より正確に準天頂衛星の位置と時刻を特定することにより、ユーザがより正確に測位できる仕組みを実現するもの。
・将来、すべての準天頂衛星に衛星間測距機能および衛星/地上間測距機能が搭載されれば、スマートフォンのような一般的な受信機でのユーザ測位精度か飛躍的に向上する。
現状:5~10m → 将来:1m
・測位ミッションペイロードの概要について(西尾)
・測位ミッションペイロードは、高精度測位システム(ASNAV)の一部であり、NECが開発を担当。
・測位ペイロード
→従来通り測位信号を生成
(NECは準天頂衛星初号機から5~7号機まで開発を担当)
・高精度測距システムペイロード
→ (衛星間測距と衛星-地上間測距機能)を有する準天頂衛星5~7号機新規ペイロードで、7機体制において測位精度向上(現状5~10m→将来1m)をもたらすキーポイントの一つ。
・質疑応答
南日本放送・今回の意気込み。
有田・今回の8号機につきましては、5号機までだいぶ実績を積んでまいりました22形態ということで安定度を示すはずだったが、思わぬ不具合がありまして衛星関係の皆様にお待たせしてしまって大変申し訳なかったのですけれども、ある意味これでまたH3を磨くチャンスが出来たという風にも捉えておりまして、こういった形でより信頼性を高めた形でしっかりと実績を積み上げて、この国の大事なインフラ衛星であるみちびき5号機を宇宙に届けたいと思っております。
南日本放送・ASNAVでスマートフォンやカーナビの精度が格段に良くなるタイミングは、次の7号機が上がった以降ということか。
松本・7号機が打ち上がってからJAXAでは3年間かけて実証を行って精度が出ることを確認いたしましますが、この間にサービスとして放送される信号の精度は従来通りとなります。一方でその間に今運用しているシステムにもこの信号を届けられるような取り組みを行ってまいりますので、その実証が終わった3年後以降にこの精度の高い信号を皆さんにお届けすることが出来る計画になっています。
鹿児島テレビ・意気込み。
三上・みちびきは既に頭の上に5機飛んでいるところでございます。今回6機目となるみちびき5号機でございますが、準天頂衛星軌道、8の字軌道に投入される機体でございます。日本においては天頂付近に存在する衛星が増えるという事でございますので、高層ビルが並ぶ都市や、あるいは高い木々が生い茂る地域であっても測位信号をより安定的に受信出来るという意味で画期的な衛星と存じております。また説明でも申し上げましたが、みちびきだけで7機体制、みちびきだけで持続測位ができるという状況に至るまでの大事な一歩でございますので、ぜひ今回の打上げと衛星の軌道投入を成功させたいと思っております。
産経新聞・延期の原因となった第2段の姿勢制御装置の不具合だが、これは接触不良が稀に起きるということだが、これは今回搭載していた部品の不具合なのか、あるいは設計上そういう事が起こりうるものだったのか。
有田・今回の原因の調査の結果、これは設計の問題ではなくて、製造時に極めてごく稀に生じうる事象であるということが確認できました。という事で設計については問題無いという事で、この検査をあらためて行いました物に交換して打ち上げるという事にしたという所でございます。
産経新聞・飛行には問題がないレベルとのことだが、今回不具合と認められたので、なぜ事前にチェックできなかったのか。
有田・その意味ではフライトさせる前の最終機能点検まで行ってしまった所は反省点ではあるのですが、最終段階ではあっても異常を見つけることが出来た、異常を見つければ直ちに止まってしっかり見るというのが私共の基本姿勢ですので、これに則って点検をして原因の調査をしてきたという所であります。今回交換した物につきましては、健全性を十分確認出来ましたので、この状態で打ち上げられると判断している、という所でございます。
産経新聞・今後も検品をしっかりやることで安全な飛行を確保するということか。
有田・はいそうです。今回確認したデータは従来の製造工程では通常は評価をしないというデータに兆候が出ているという事が判りましたので、この辺りを当面はしっかり見ていくという形で健全であるという事を確認して参りたいと考えています。
NHK・みちびきは7機体制に向けた6機目という事で意気込みを話していただいたが、今回のみちびき5号機に込めた思いを伺いたい。将来は11機体制を早期に目指したいという話もあったが、世界と比較した時にアメリカやインドの衛星にはバックアップがあるという所で、今後の開発に向けて今の日本の状況と意気込みを伺いたい。
三上・5号機につきましては本日JAXA様からご説明がありましたようにASNAVという技術開発が積まれています。実は5、6、7と殆ど同じ時期で開発が進んでいる三つ子でございます。今回真ん中の子供でございますけども、この3機がセットになって新しい技術を進展することで、ASNAVというシステムは諸外国にはまだ無いシステムでございますので、実はGPSと同じ信号を使いながら日本では一桁精度の良いサービスが利用できる。これは諸外国に対して我々が優位性を持つ点でございますので、是非将来に渡って実現させていきたいと思っています。説明の中では述べることが出来ませんでしたが、2号機、3号機、4号機が2017年に打ち上げられております。衛星の寿命は15年でございますので、2032年頃には寿命が尽きて次の衛星を上げなくてはならないとなっております。またそういった後継機においても、ASNAVをはじめ様々な技術開発を我々は努めて世界最先端の衛星測位システムを日本が実現するのだという姿勢でやって参りたいと思います。まずは1機1機上げていく必要がありますので、今回6号機に続き5号機という事で、来年2月1日には7号機の打上げがありますので順次成功させていきたいと思っています。
日本経済新聞・H3ロケット7号機でサーマルカーテンが熱くなる異常があったとのことだが、固体ロケットブースターに影響の無い範囲の温度上昇だったという事で、むしろ8号機や9号機に低コスト版を使わないのは、飛行に影響が無いのなら使ってもいいのではと思うが、今回見送った理由を伺いたい。
有田・機体外部に発生する熱いガスの環境というのが、必ずしも毎号機で安定した現象ではないと考えています。と言いますのも、機体の飛び方ですとか、あるいはエンジンの熱い噴射ガス、こういったものの干渉で生じるというメカニズムがそもそも複雑な現象ですので、どこまで再現性があるのかという所については確たる事が言えないという所がございます。ですので私共としてはやはり少しでもリスクを負わないというのがまた基本姿勢ですので、今回の8号機に対しては従来の実績のあるものを使うという事にさせていただこうと考えております。
日本経済新聞・みちびき5号機の運用開始と言えるタイミングは打上げ後どれくらいになるか。
岸本・運用開始という意味で言いますとサービスインという事と思いますが、打ち上げてから約半年後という事で、今のところ6月頃を予定しています。衛星の初期チェックアウト自体は3ヶ月くらいで終わるが、その後にいろいろ各種パラメータのチューニングといったものがありますので、そこから更に3ヶ月準備をしたり安定性の確認をした後に6月にサービスインをするという事を考えています。
JSTサイエンスポータル・お金の話で恐縮だが、開発費が過去の説明の機会に、みちびきの5号機6号機7号機を平行して開発を進めて、一括調達という言葉で良いと思うが、合計で約1千億円と伺いました。事情の変化無しで5、6、7号機一括で1千億円という表現でよろしいか。また今回の打上げ費用を公表しているならお尋ね致します。
三上・これまでも記者会見等で発表させていただきましたが、5号機6号機7号機の3機分を合わせまして、開発期間が約6年間で約1千億円でございまして変化はございません。打上げにかかる経費につきましては個別の契約内容となるため回答は控えさせていただいております。
南日本新聞・5号機は約半年後に運用のサービスインを目指すとのことだが、衛星が分離した後に、準天頂軌道に投入されるのは大体何日後くらいになるか。
岸本・内閣府資料2ページ目の「3.スケジュール」に記載されておりますが、準天頂軌道に到達は0.5ヶ月と書いてありますが、大体2週間後くらいに到達するとご理解いただければと思います。
以上です。
