H3ロケット試験機2号機打上げ後記者会見

 H3ロケット試験機2号機は2024年2月17日9時22分55秒(JST)に種子島宇宙センターから打ち上げられました。搭載した2基の小型副衛星を軌道に投入し、性能確認用ペイロード(VEP-4)の分離にも成功しています。
 この打ち上げから約3時間後に、竹崎展望台にて記者会見が開催されています。
(※一部敬称を省略させていただきます。また聞き取れなかったところなどを省略しています。事情により掲載が遅れました)

・第1部登壇者
文部科学省 文部科学副大臣 今枝 宗一郎
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局長 風木 淳
三菱重工業株式会社執行役員 防衛・宇宙セグメント長 江口 雅之
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 理事長 山川 宏

・打ち上げ結果について・山川
 H3ロケット試験機2号機の打上げ結果についてご報告いたします。本日9時22分55秒にH3ロケット試験機2号機を打ち上げました。ロケットは計画どおりに飛行し、第2段機体を所定の軌道に投入しました。また打上げから約16分43秒後に小型副衛星CE-SAT-IEを分離したことを確認しました。また第2段機体の地球周回後のデータによりTIRSATへの分離信号送出、第2段機体の制御再突入の実施、ロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)の分離を確認致しました。JAXAはH3ロケット試験機1号機打上げ失敗を受け、その原因究明に真摯に向き合い、対応策、再発防止、信頼性向上に全力を挙げて取り組んでまいりました。この取り組みに対しましては社内外の有識者、文部科学省、内閣府など政府関係機関、三菱重工株式会社をはじめロケットの開発運用に携わる企業の皆様に多大なるご協力とご支援を頂きました。また、なにより地元種子島の皆様はじめ、国民の皆様から頂戴いたしました多くの叱咤激励の声はH3プロジェクトの関係者にとって大変大きな励みとなり、高い士気を保つことが出来たと考えております。本日こうして打ち上げ結果をご報告できた事に私としても安堵しております。H3プロジェクトチーム及び関係各位を代表致しまして皆様より賜りましたご尽力に敬意を表すると共に深く御礼申し上げます。引き続き日本のロケット技術の信頼回復に向け気を引き締めて着実な対応を図ってまいります。以上でございます。ありがとうございます。

・登壇者挨拶・今枝
 まずは皆さん、本当にありがとうございました。そしておめでとうございます。
 大臣の談話にもございました通り、本日H3ロケット試験機2号機の打上げに成功し、リターン・トゥ・フライトを成功させたことを心からお喜びを申し上げたいという風に思っております。H3ロケットはJAXAと三菱重工をはじめとする我が国の宇宙産業界が一丸となって今後のロケット生産、宇宙産業振興を考え、ライン生産方式を意識しながら、また極力モジュール化をしていただいてコスト低減ですとか信頼性向上を目指して開発を進めてまいりました。最大の開発項目となっていた第1段エンジンの技術的課題や試験機1号機の失敗を教訓にJAXAさん自身も改革を進めていただきながら、組織の風通しをより一層良くして若手もトップも一丸となって議論し準備を進めてきていただいたと考えております。それが本日の試験機2号機の打上げの成功に繋がったという風に感じているところであります。関係者の皆様のご尽力、この場をお借りしてあらためて心から御礼を申し上げたいという風に思います。私共文部科学省といたしましても、H3ロケットが我が国の宇宙基本計画の推進に貢献しつつ、国内外の多様な打上げ需要を担って素晴らしいロケットになるように、引き続き我が国の技術陣そして応援をいただいている国民の全ての皆様と共に尽力をして参りたいと思っています。最後に今米国をはじめといたしまして世界では民間企業も大活躍をする、そして経済成長にも貢献をしていく、そんな宇宙時代に突入をしております。また宇宙、衛星を源泉とした様々なサービスは国民の皆様の暮らしの改善にも深く関わって参ります。そのような宇宙時代において衛星を宇宙に運ぶロケットが頻繁に打ち上げられるようになっていく必要がございます。その意味でも今日は成功して本当に喜ばしい、ありがたい、そして多くの皆様の歓喜の思いを胸にしながら、本当に大きな次への一歩であるということを強く実感をしているところでございます。あらためまして皆様、ありがとうございました。

・登壇者挨拶・風木
 内閣府は宇宙基本計画に基づきまして宇宙開発戦略利用に関する政策を総合的かつ計画的に推進するために設置された宇宙開発戦略本部、それから宇宙政策委員会を支える事務局を担当しております。高市早苗大臣が宇宙政策担当大臣という事でございます。大臣自身が1年前から見守られて、今回もライブでご覧になってその上でメッセージを出すという事でございます。
 (※大臣談話読み上げ)
 『本日、H3ロケット試験機2号機の打上げが成功しました。H3ロケットは、我が国の宇宙活動の自立性確保と国際競争力強化のために極めて重要な、新たな基幹ロケットです。本日の打上げ成功は、我が国の宇宙政策の最重要課題であるロケット打上げ能力の抜本的強化に向けた新たな一歩であり、大きな飛躍です。今後は、海外の打上げ需要も取り込んだH3ロケットの活用が、我が国の経済成長に繋がることも期待しております。幾多の困難にひるむことなく、成功への道を拓かれた御関係の皆様の長年の御努力に、心より敬意を表し、感謝を申し上げます。
我が国のロケット開発に先鞭をつけられた、糸川英夫博士の「逆境こそ人間を飛躍させる」という信条が、今に受け継がれていることを頼もしく思います。内閣府特命担当大臣(宇宙政策担当)として、今後とも、我が国の宇宙開発利用を精力的に進めてまいります。
 令和6年2月17日 内閣府特命担当大臣(宇宙政策担当)高市早苗』
 併せて宇宙政策委員会の委員長であります後藤高志委員長よりH3の成功についてのお祝いのメッセージをいただいております。私からは以上です。

・登壇者挨拶・江口
 本日は無事にH3ロケット試験機2号機を打ち上げることが出来ました。本当に関係されている文科省様、それから内閣府様、JAXA様、パートナー会社の皆様、それから関連機関の皆様、本当にありがとうございました。感謝の言葉しかございません。昨年の3月7日に試験機1号機が失敗してから、特に2段の着火まわりを中心に、何故それが起きたのか、どうしたらいいのか、いろんな所を技術的に真摯に関係の皆様方といろいろディスカッションして、いろいろな試験をしたり、解析をしたり、対策で作ったものを試験してみたりといういろんな道程がありました。 その一部は昨年秋に打上げたH-IIAロケット47号機にも反映されていまして、その結果も踏まえて今回の成功に繋がったのだと思っております。弊社の工場には3号機以降のロケットの機体がまだ結構残っていまして、それを少しでも早く打上げて、日本の、それから世界の衛星の事業者の皆様のためにどんどん使っていただいて宇宙開発を盛り立てていきたいと思っております。引き続きのご支援ご助力をよろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました。

・質疑応答(第1部)
日経アジア・H3について、H-IIA/Bに比べて量産がしやすいのか。打上げキャパがどれくらい増えるのか。今までも(年)5機くらい打上げたときがあると思うが、平均2~3機くらいだったものから倍になるのか、3倍になるのか。売上げの目標があるか。これから商業運用という方向に入っていけばコスト削減に取り組まなければいけないと思うが安全性や信頼性を損なわずにどうやって実現していくのか。
江口・H3ロケットはH-IIAに比べていろんなところを改善していまして、まず生産のしやすさで、これはうちの工場で、あるいはパートナー会社さんの工場でいろんな物を組み立てていく訳ですが、その辺も今までのH-IIAの経験を踏まえて自動化ですとかコンピュータを使った診断装置とか、いろんな物を取り入れていますので、その分生産しやすくなっています。その分、生産にかかる費用も下がっているというところになっていると思います。打上げの能力は第2部の方で詳しくということで、私も正確には把握していませんが、従来よりは大きくなる形になっています。売上げにつきましては今うちの宇宙事業部の売上げは500億円前後で来ておりますけども、やはり打上げ機数を増やして、1機あたりの値段は下がっている方向になっていますけども、2割3割と増やしていきたいという風に思っております。それから安全性ですね、安全保障に関係するところは非常に重要な所だと思っていますので、そこはロケットも安全保障、安全性の一環に係るところにあると考えまして、防衛事業と同じくしっかり取り組んでいきたいと思っています。

KYT・あらためて今のお気持ちと、管制棟で皆さん熱い抱擁を交わされていたが、そういった様子を見られてどのように感じられているか。
山川・私は宇宙業界に入って長らく経っていますが、こんなに嬉しい日はありませんし、またこんなにほっとした日もありませんでした。特にH3プロジェクトがスタートしてから10年以上経つ訳ですが、10年にわたって継続的に努力されてきた皆様に本当に感謝しておりまして、管制室で固い握手なり抱擁ということはありましたけども、それは当然のことだと、そういった思いが溢れてきたのではないかと考えております。

NHK・国際的に宇宙開発やビジネスは激化する一方で、昨年の失敗を受けて当初の計画からいろいろ遅れている部分もあるが、今回の打上げを契機に日本の存在感を国際的にどう示していきたいか。
山川・このH3ロケットというのは、日本が宇宙活動の自立性を確保していくこと、それから同時に国際競争力を確保していく、この二つが大きな目的でありまして、それに向けて大きく前進したという風に考えております。もちろんこれから多くの政府衛星、JAXA衛星、あるいは民間の衛星、あるいは海外の衛星をどんどん打ち上げていくと、そのために日本全体として協力して取り組んで行くということが必要なんですけども、それに向けて非常に大きな一歩だという風に考えております。

日本経済新聞・国際競争力の強化という話がありましたが、H3はH-IIAと比べて半分の50億円という目標を掲げているが、今の時点でそこまでいっていないと思うが、どれくらいを目処に目標に達したいと考えているか。
江口・現時点では作り始めたばかりですので、実際にコストダウンは完全には目標に達していませんけども、できれば10号機から15号機くらい、その辺りには競争力が出るような形に持っていきたいと思います。幸いというか円安というところもありますので、そういう追い風も受けて国際的な競争力のある製品にしていきたいという風に考えています。

日経クロステック・SpaceXの出現で10年前と全然変わってしまった。H3は開発当初に20年使うという想定があったと記憶しているが、世界の進歩が高速化している今、H3の次をどのように展開していきたいと考えているか。
風木・宇宙基本計画は昨年6月に改訂しておりまして、12月に工程表を改訂しております。そこで打上げのスケジュールなども示しておりまして、まさに我が国の自立性の確保と国際競争力の強化が非常に重要だということでございます。国際競争が激化している中で、我が国としては宇宙基本計画それから工程表、それから昨年経済対策で宇宙戦略基金を設置することが決まりました。JAXA法の改正もございました。これは10年間で1兆円を支援していくという方針でございまして、予算としても補正予算で3000億円の予算が計上されております。そうした中で、内閣府それから政府全体として宇宙政策委員会の方でも宇宙技術戦略というものを策定しております。これは3月末までにまとまる予定です。この宇宙技術戦略を通じて宇宙輸送の分野、それから次世代の輸送についても要素技術を含め様々な技術開発を進める事を内容に含めております。これは今後3月末に最終版になっていきます。これをベースに予算が執行されていくという事でございまして、例えば宇宙戦略的に10年使っていく中で次世代の輸送については、こうした事例としては2030年台前半には、基幹ロケットと民間ロケットを合わせて30機程度を確保するという事も謳っております。すなわち国がしっかり支援をして、それから民間の投資も呼び込んだ上で、そうした国際競争力をしっかり確保していこうという方針を国としては出しております。これは政府が一丸となって取り組んで行くというのが今内閣府そして宇宙戦略本部、これは総理をヘッドにして、それから官房長官それから高市大臣が副本部長という事で進めて、各省の全大臣が参加しているこの本部で決定された工程表、そして国会でご審議いただいた補正予算、そして今後審議いただく予算等含めてしっかり執行していくということで進めて参るというのが政府の方針でございます。
今枝・風木事務局長からあったように宇宙基本計画、そして今年度末を目処に作らせていただく技術戦略といったものに則りながらとにかく自立性の確保と国際競争力の強化を努めていくという大きな政府の方向性、我々文部科学省としてもしっかりとそれを一体となって進めていきたいと思っています。そういった中で世界の宇宙を巡る特に輸送系の部分でSpaceXをはじめとした再利用可能なロケットなど非常に大きな動き、更なる価格の低減というものが進んでいるというのも我々も理解をしているところであります。そういった流れの中で今回のH3ロケットの成功という事は、昨年ああいった事があっての今年の成功というのは非常に大きな一歩だと思っております。国産の大型の、しかも生産ラインをきちっと確保してやっていくことや、極力モジュール型にしていくところですとか、そういった所で大きな進展があったH3でございますので、これからも更なる次の時代への戦略という意味でも大きな一歩を踏み出したと思っておりまして、今日の意義はそういった意味で非常に大きいと感じているところであります。
山川・今日の今日ですので、まずはしっかりH3ロケットを着実に多く打上げていくというということで、信頼性それから安定性、そういったものが国際競争力あるいはコスト低減に繋がっていくと思っていますので、まずそこを地道にやっていきたいと考えております。その上で三菱重工様に民間移管していくというプロセスを着実に進めていくことが一つと考えております。それとこれとは別に将来の再使用案、将来輸送系として例えば再使用の機能ですとか様々な研究開発テーマに取り組んでおりまして、これはJAXAだけではなくて官民連携という形で進めているところであります。あと国際協力もやっておりまして、例えばカリストというプロジェクトがフランスの宇宙機関そしてドイツの宇宙機関の3機関で連携して進めていますが、こういった国際パートナーとも一緒にやっていく事によって最終的に国際競争力あるいは国際市場でのプレゼンスを獲得していく、そういった事を目指していきたいと考えております。

日経クロステック・H3種子島宇宙センターのインフラへの投資をどう考えているか。射点整備に関しては必要最小限をやってなんとか間に合わせた印象が強い。
山川・インフラに関してはまずは安全性を最優先に取り組んでいまして、必要な打上げを安全性をもって打上げるために必要な射場を構築していると理解していますし、将来H3ロケット等数が増えていくことによって種子島で同時に扱う衛星の数も増えていきますので、そういった複数の衛星を同時に扱う準備作業が出来るような施設についても進めております。ですのでそういった事を総合的に取り組んで行くという事を今考えているところであります。

アラフネ計画・宇宙ビジネスを踏まえ、今後H3ロケットをどのくらいの頻度で打ち上げていきたいか。どれくらいの売上げに拡大したいか。
江口・今の打上げ能力は年間5機から6機がせいぜいだが、できれば8機、インフラの整備も必要だが10機と増やせていけたらいいなと思っています。売上げについては機体自体の価格も下がっていますので、2倍打ち上げても2倍になる訳ではないが、現状の売上げをロケット関係で2割から3割増やしていきたいという風に考えています。

アラフネ計画・SpaceXとの競争力を考えると割と頻繁に打ち上げていかないといけないが、例えば月に1~2回を目指して整備したいといったことはあるか。
江口・希望としてはあるが、種子島の射場が使える期間の制限もございますので、それを見据えて可能な限り多くのロケットを打ち上げられるようにいろいろ考えていきたいと思っています。

日経ビジネス・今回の成功によってH3が国際競争のスタートラインに立ったと思う。競争を勝ち抜いていく上で量産化が重要と思うが、この量産化について、先ほど3号機以降も控えているという話があったが、現状でどれくらいのH3の生産能力があって、量産化にどのような課題があるのか。
江口・現状H3ロケットの生産能力は年間5から6機は可能ですが、それをさらに増やしていこうとすると工場の敷地の若干の拡張とか、生産に必要ないろんな試験機材とか、組立用の治具なども要になりますので、そういうのを増やしていけば原理的には機数を増やしていくことは可能と考えております。

日経ビジネス・今は愛知の飛島村が大きな拠点と思うが、新たな生産拠点の整備といった可能性もあるのか。
江口・今のところ飛島は敷地に余裕があるので、現状の宇宙工場の周辺に拡張していくことは可能であります。

日経ビジネス・H3のような大型ロケットの打上げは種子島のみの打上げで、年間で6回ほどの打上げになると思うが、多くの受注を獲得していく上で回数を増やすことが重要な課題と思うが、新たな射場の整備とか運用の効率化とかインフラ面での強化をどのように進めていくのか。
山川・多くのロケットを打ち上げるということは多くの衛星を打ち上げるという事ですので、先ほど衛星の作業ができる施設を増やすという話をしておりましたが、要するにユーザーである運用会社や運用者にとって使い勝手の良いロケットにしていく、あるいは全体としての打上げサービスにしていく必要があると考えておりまして、そういった観点でいろいろな取り組みをしているということでございます。現時点ではJAXAの射場として種子島、そして内之浦がある訳ですけども、この両射場をとにかくユーザーにとって使い勝手の良い物にしていく、そういった事をいま考えているという事であります。ロケットはまだH-IIAの打上げが残っていますが、将来的にH3ロケット、それからイプシロンSロケットを両者それぞれ種子島と内之浦から打ち上げる事によって、ユーザーの衛星側の様々な規模あるいは要求に応じて対応していくという事であります。またこれから民間のロケットも出てくると思いますので、併せて先ほど政府の目標として年間30という数字が出ましたけども、そういったものを見据えて全体としてユーザーから見て使い勝手の良いロケットを揃えるという、日本全体としてはそういう位置付けになるのではと考えております。

日経アジア・価格の確認で、これまで使い捨てのロケットであればSpaceXの6300万ドルに対して競争力のある価格と理解していたが、今回のガイドを見たら使用済みが4900万ドルと書いてあったので為替レートによっては競争力があると思うが、以前としてH3がSpaceXのFalcon9よりも価格面で競争力のあるロケットを目指すという理解で良いか。
江口・基本的にはその考えであります。もちろんSpaceXも価格面でいろんなやり方をしてきますので、なかなか簡単には受注できない場合もあると思いますが、当然SpaceXだけでは打ち上げきれない衛星が出てきますので、そういうのも踏まえて、いろいろ頑張っていけば国際的には十分競争出来る価格帯に近づいているという風に思っています。

・第2部登壇者
JAXA H3プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 岡田 匡史
三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 H3プロジェクトマネージャ 新津 真行

・登壇者挨拶・岡田
 皆さん本当にお待たせ致しました。ようやくH3がおぎゃあと産声を上げることができました。ここまで皆さんに支えられて来れたと思っておりますので、今日短い時間ですが、いろいろとお話をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。

・質疑応答
産経新聞・成功に至って今の気持ちを率直にお聞かせ下さい。
岡田・今日だけの話にさせていただきたいのですが、物凄く重い肩の荷が下りた気がします。

産経新聞・すっきりしたということですね。
岡田・そうですね。ただH3ロケット、これからが勝負なので、しっかりと育てていきたいと思っています。

産経新聞・今回打上げが成功したが、採点すると100点満点で何点でしょうか。
岡田・これも今日だけの話にさせていただきたいのですが、満点です。

産経新聞・H3はまだ試験機で今後がある。今後どう育てていきたいか。
岡田・H3ロケットはまだ打上げを2回経験しただけです。この打上げに至るまでに製造して運用して、そして打上げるという、この全体の流れがまだちゃんと作れている訳ではない。ですから非常に手のかかる状態にまだなっています。作る時に、あるいは打ち上げる時にトラブルが出ればそこを手直ししてというのをまだ繰り返しているところなので、これをうまくこなしていって、H3を宇宙の軌道というよりも事業の軌道に乗せていくというのが重要だと思っています。

産経新聞・新津さんにも今の気持ちを率直にお願いします。
新津・私も非常にほっとしたというのがいちばん強い思いです。

産経新聞・採点は岡田さんと同じですか。
新津・はい、100点満点だと思います。

産経新聞・今後どう育てていきたいか。
新津・本日は打ち上げが成功しましたけれども、恐らく細かくデータを見ていくとやはり設計で思っていたものと多少違う動きをしているとか、やはりもう少し改善がいるという点がいろいろ出てくると思います。そういう所に手を打って、とにかくロバストといいますか、安定して打上げが出来るような、更なる信頼性の高い機体に仕上げていって、そして打上げの成功が毎回喜ぶのではなくて、それが当たり前になるぐらいに淡々と打上げができるような、そういう機体に仕上げていきたいなと考えています。

産経新聞・小型衛星2つの分離に成功したとのことだが、これはそれぞれ軌道投入にも成功したという理解で良いか。
新津・はい、軌道投入に成功したと理解しています。

KYT・理事長にもお伺いしましたが、1個目の衛星が分離された時の熱い抱擁がとても印象的な場面でした。あの瞬間は遠くて見えなかったが、満面の笑みだったのか涙を流してしまったのか、どのような気持ちだったのか。
岡田・やりすぎましたね、すいません(笑) 先に言っておきますが私だけではないですよ。両方だったと思います。笑いながら泣いていました。

KYT・あの瞬間を待ち望んでいたというのが大きいか。
岡田・我々の、新津さんも含めてのプロジェクトですけども、プロジェクト以外にも本当に周りの多くのメンバーに支えられてここまで来て、そのメンバーがあそこにずらっと座っていた訳ですけども、全員同じ気持ちだったと思います。

KYT・今回1個目のCE-SAT-IEのタイミングが「だいち3号」と同じタイミングだと認識していますが、もし今回あのタイミングが「だいち3号」だったらと思ってしまう事はありますか。
岡田・あります。

MBC・長い1年、短い1年、いろんな事を考えていらっしゃると思います。もう一度今のお気持ちと、これまでの1年間を振り返って、苦しい時の自分に何と言ってあげたいですか。
岡田・時間というのは本当は前を見ても後ろを見ても同じ長さのはずなんですけども、前を見ている時は凄く短く感じて、振り返ると長かった1年でした。新津さんも私も同じ気持ちなんですが、苦しかったのは7月くらいで、出口の見えない夏というのがありまして、そこを乗り切ったのは自分だけで乗り切った訳ではないのですが…(ここで質問を聞き直す)、あの闇を抜けて良かったねと言いたいですね

MBC・全国各地から応援が来ていると思います。そういった方々には何とメッセージを伝えたいですか。
岡田・今回の打上げも2日間天気の都合で延期になった時に色々な方とお話しする機会があったのですが、昨年も来たのですよとおっしゃる方がたぶん半数以上いらっしゃって非常にありがたかったなと思います。そういった方々に対して、本当にお待たせ致しましたという風にお伝えしたいです。もう一度そういう方々とお会いしたいです。

朝日新聞・初号機で出来なかった第2段エンジンの着火のタイミングの時に、恐らく管制室の声だと思うのですが「よっしゃ」という声が動画を通して聞こえたが、それはご自身も声を上げられたのか、またその時の管制室の様子とその時の気持ちを教えてほしい。
岡田・「よっしゃ」は私だったかもしれないが、実施責任者の口癖なので、多分いちばん大きかったのかもしれないと思いますが、私も同じくらいの叫び声を上げていたような気がします。本当はあそこの前の席ではロケットの追跡のオペレーションが続いているので、あまりうるさくするのは良くないのですが、その時だけは許してねというつもりで大声を出しました。

朝日新聞・初号機でクリアできなかった部分を越えたということで気持ちとしてはほっとしたのか。
岡田・第2段の着火の時ですか。
朝日新聞・そうです。
岡田・答えを間違えていたのですが、着火の時も出してました。私も新津さんも同じ気持ちなんですが、あそこはしくじらないと思っていました。けど、神様では無いので100%とはなかなかいかないので、残りの本当にちょっとのところがクリアできたなという思いだった安心感といったそういう声だったと思います。
新津・全く同じです。やれるだけのことはやって打ち上げたつもりだったので、そういう意味ではここでしくる事は無いだろうと思いつつ、万が一ここで失敗したらという思いがどうしてもありましたので、やはり2段エンジン着火という信号が返ってきたときは、我々は三菱サイドで並んでいるが、たぶんみんな声を上げていたと思います。

日本経済新聞・2段エンジンについて、初号機では点火しなかったものが正常に作動したということで、今回打上げに臨むにあたって(原因の)シナリオを3つまで絞り込んだ段階で対策をして打ち上げたことを受けて、今回飛行データが得られたと思うがそれを見て判ったことがあれば。詳細な解析はこれからだと思うので、今後こういう事が判るかもしれないという事もあったら教えて欲しい。
新津・詳細なデータ分析はこれからになりますので、そこのデータをよく見た上で、我々がまだ気付いていない点とか直すべき点があれば今後の実機に反映していきたいと思います。打上げの失敗の後にフライトのデータをもう少し充実させて取るべきという所も我々とJAXAさんで議論しまして、データも少し種類を増やして、精度もさらに高い物がとれるような仕立てもしていますので、その辺りのデータをきっちり分析して次に繋げていきたいと思います。

KTS・長い間ロケットに携わってこられて60を過ぎたこのタイミングで、今日がどんな1日になったか。
岡田・年齢のことはすっかり忘れて仕事をしているが私は再雇用でして、15歳の時からこのロケットの仕事がやりたくて始めた事なので、最後に近い締めくくりがこういった形で、締めくくりではなくまだこの先があるかもしれませんが、大きな節目になるようなタイミングで成功できて良かった。今までの35年くらいロケットの仕事をしてきて本当に良かったなと今思っています。

KTS・次の世代にどういう事を託したいか。
岡田・ロケットの失敗というのはやっちゃいけないことなんですね。ただ失敗があると物凄くエンジニアが強くなるというのは、これまで私は合計4回失敗に携わっていますけども、見てました。なのでこの1年で強くなったエンジニアが本当に、あとはよろしく頼むぞという思いで私も新津さんもきっといるのではないかと思っています。

JSTサイエンスポータル・1年前の打上げ直前停止となった後の記者会見で子供達への思いといった質問があり、半分冗談かもしれないが、今その質問は辛いといったニュアンスをおっしゃっていた。さすがに今日は堂々とおっしゃっていただけると思いますが、これは子供向けと限らないと思いますが、ロケット開発は魔物だと常々おっしゃってきましたが、それと対峙することの難しさや魅力を教えていただければと思います。新津さんにもこういった基幹ロケット開発の難しさや醍醐味を個人的な感覚でも教えていただければと思います。
岡田・ロケットという乗り物は1回打上げて、なかなかやり直しが利く物ではないので、そういった意味で凄く難しいところがある。ちょっとやり直そうという事が出来ない訳です。ただそういった物を開発して打ち上げて成功させるという事に、私は物凄く魅力を感じています。辛い時も勿論あるんですけども、それは好きなら乗り越えられると思います。それはロケットだけではなくて、どんな事でも同じだと思うので、お子さんにお伝えしたいのは何でも良いから好きになってそれにチャレンジして、乗り越えるのが楽しいよという事を伝えたいです。
新津・難しい質問ですが、個人的な感覚にはなりますけども、ロケットの打上げというのはオリンピックの100m走に似たような所があるのかなと思っています。勝負は一瞬で終わる、その勝負にかけるために何年もの期間を費やしてやる。我々のロケットの場合は、開発から10年かかりまして、それが今日の打上げでいくと、今日は比較的周回軌道があったので長かったのですが、短かったら十数分で勝負が決まってしまう。ただそこの十数分のために何年という期間を大勢の仲間と取り組んで、そこで成し遂げる喜びというのは何物にも代えがたいものがあると思います。今回の打上げは遠くからお子様連れで来ていただいた方の沢山いると聞いていますけども、今回の打上げを見たお子様達が夢を持ってこういうロケットの開発とかに取り組むようなきっかけになっていただけたらいいなという風に思います。

ニッポン放送・今回の軌道投入を受けて、民生品の採用について問題は無かったのか。採用が開発にどのように寄与していったのか、その意義についてお聞かせくださ。また打上げ前のブリーフィングではJAXAとして成功失敗をお伝えしないのではないかとお話していました。新津さんからは先ほど成功とお聞きしたのですが、岡田さんからは成功と出て来ていませんが、やはりこれは成功とは言わないのか、国際的にJAXAとしてサクセスという言葉を使うのか使わないのか、言葉尻の話で恐縮ですがお聞かせいただけますか。
新津・民生品の採用について、今回H3ロケットはコスト競争力をつけるという意味で民生品を多用しております。特にアビオ機器は、従来のロケットですと宇宙専用部品を多用していて、それがどうしても数が出ないという事でコストが高くなる要因のひとつになっていましたが、今回はかなり大胆に民生部品を取り入れてアビオ機器を作っているというところがあります。今回のフロイトにおいても機器の作動は宇宙空間の環境下においても特に問題無く作動しておりますし、我々としては民生品を使う事によって信頼性を確保しつつ、かつコストを下げるという当初の目的が達成できたのではないかという風に考えております。
岡田・今日は冒頭で理事長からのご報告の中でも、成功という言葉はたぶん使ってなかったと思うのですね。そういう意味で申し上げました。皆さんから必ずこういう質問は来ると思っておりましたので、自分なりに頭の体操はしていたのですが、今成功か失敗かと聞いていただいたと思ってよろしいでしょうか。
ニッポン放送・はい。
岡田・成功しました。ちょっと冗談っぽく言ってしまったのですが、本当に成功と失敗の境目は凄く難しいですし、直後に判らない事もいろいろあるので、あらかじめ線を引いていて、そこに入ったらどうですかというのはなかなか難しいなと思っていましたが、今回の結果からすると即成功とご報告できると思っています。

アラフネ計画・中継で最初の衛星が分離したとき、立ち上がっての抱擁が割と突発的に出た感じだが、その時の気持ちなどはどんな感じだったのか。また3号機以降に向けてどういう風に意識していきたいか。
岡田・自分としてはどこで喜びを表現、自然に出てしまいましたが、どこなのかと思っていましたが、やはり今回のシーケンスを見ますと、軌道投入されて、それからCE-SAT-IEが分離された辺りが、やはりいちばん大きな節目だと思いましたので、突発的でもないのですけども、一番大きな喜びでした。実はその後に放送は無かったのですがイベントは続いていて、周回後に再突入した時、その後にVEP4が分離した時、更にはTIRSATの分離信号が出た時、実はそれぞれカメラの無いところで拍手したりいろんな事をしていました。

アラフネ計画・前々から何かしようかと思っていたが咄嗟に出た部分もあるのか。
岡田・やはりあそこが大きな節目なのでみんな出てしまったという感じです。後で見返してみたが、あそこまでみんなで凄い事になっているとは実は思っていなかった。

アラフネ計画・3号機に向けて。
岡田・3号機に向けては、今日は1日こういうお話をさせていただいていますけども、3号機の準備は明日からでも進めないといけない状況なので、H3をしっかりこれから育てていきたいと申し上げましたけども、3号機はまずその手始めで、大切なミッションを乗せることになったとしても、きちっと宇宙に届けられるようにしたいと思います。

アラフネ計画・H3を事業の軌道に乗せていくために製造面などでブラッシュアップさせないといけないというのは、どこら辺がポイントになってくるのか。
新津・生産もまだ現時点ではH-IIAと並行運用のところもあって、元々のコンセプトはH3というのは同じ機体を淡々と同じペースで作る事によって生産性を上げていくというようなところを目指していましたので、そういう所により近づけていきたいという所とか、やはり設計だけではなくて生産に関しても、実際に物を作ってみると色々とまだ工夫が必要な所とかも沢山ございますので、そういうところをどんどん手を入れていって、短期間で等ピッチで淡々と物作りが出来るような所を目指してブラッシュアップしていきたいと考えています。

アラフネ計画・1号機から2号機に関して検討した部分とかも量産ペースになってきても変えずにチェックしながらという事か。
新津。はいそうです。そういう風に考えています。

松浦・今回の打上げでLE-9の調子はどうだったか。具体的にはこの後30型を打ち上げられるだけの確証は得られたか。
岡田・私も新津さんもまだデータは見ていない。ただどのタイミングで1段の燃焼が終了するか、どういう経路を飛んでいるか、という事だけを見るとほぼど真ん中でした。ですので恐らくLE-9は予定通りの性能を発揮したという風に想像していますが、何かと何かが打ち消し合っている可能性もあるので、そこはこれから丁寧にデータを見たいと思います。

松浦・30型にある程度の確信は持てたか。
新津・エンジンについては今までいろいろな経緯があって開発課題もありましたけども、最近の後続号機のエンジンの領収試験もどんどん続けておりますし、そういう所で見ますと、エンジンの性能であったり製造性能の辺りが安定してきているという印象を私は持っています。今日のフライトも、データはこれから詳細に分析していくことにはなりますけども、少なくとも軌道という観点では狙った軌道のど真ん中を通ったという所もあって、私としては特段30に対してLE-9が故に大きな懸念があるということではないという風に感じております。
岡田・全く同じ気持ちです。

フリーランス秋山・飛行データの解析はこれからという段階だが、VEP-4の分離試験と2基の小型衛星の分離も行われたという事で、それをご覧になってという事で、これから沢山の衛星がH3に搭載されるのを待っている段階ですので、これから乗せられる衛星に対してH3ロケットは、例えば分離衝撃ですとか軌道投入精度ですとかそういうところでもって、H3はどのような乗り物になったのか。
岡田・現時点ですと本当にまだ私と新津さんは殆どデータが見れていない状態です。今、こうしている中でもLCCという管制室の中ではロケットエンジニアが首っ引きになってデータを見ているはずです。その結果というのは間もなく出てくると思うのですけども、投入精度だけは結果として判っていて、ほぼ狙い通り、極端に言うと高度に1キロの誤差も無い状態で入っていますので、そこは飛行の結果としては非常に良い結果が出たなと思っています。
新津・なかなか難しい質問ですが、我々としてもやはりそういう軌道投入精度が高いとか、やはり信頼性がある、ちゃんと希望した日に打ち上げられるという、そういうH-IIAからのヘリテージを引き継いだようなロケットになりましたというところを前面に出して、とにかくお客様に約束した日はちゃんとそこで打ち上げられると、そういうようなロケットに仕上げていって、そこを信頼していただいてサービスを提供していけるようになれたらいいなという風に考えています。

南日本新聞・2号機で元々予定していた固体ロケットブースタを付けない形態はいつ検証するのか。
岡田・我々が30形態と呼んでいる形態ですが、1段にLE-9エンジンが3機付いて固体ロケットブースタの無い形態、これはもう既にロケットの開発は終わっている状態です。後はそれをきちんとしたロケット1本に仕立てて、そして打上げをするのですが、打ち上げる前に種子島でロケットを建てての燃焼試験であるとか総合的な試験をしてから打上げる事になる。ある意味全く違う形態ですから、その計画がまだはっきりと決まっている訳ではないので、これから色々な関係者の人達と相談して計画をきちっと決めたいと思っています。どこを狙って全体を仕上げていくかという意味で。

南日本新聞・少なくとも何号機以降というのはあるか。
岡田・まだそれもはっきりはしないです。次では無い事は確かです。

ライター林・投入精度がほぼど真ん中という事で確認するまでもない事だと思いますが、打上げシーケンスの実測値というデータをいただいているが、これについての評価、ほぼ数秒くらいしか違いがないと思うが、ぴったりだと評価されているのか、それとももっとぴったり合わせたかったと思っているのか。
岡田・ロケットというのはエンジンもそうなのですが1機1機少し個性がありますし、それから想定している飛ばし方と、例えば風などの影響で異なる状況で飛んで行くこともあります。つまりちょっと遠回りをするとか、そんな色々な事があるので必ずぴたっと同じである必要は無いです。それを前提に申し上げるとかなり良い線で、予測の範囲でもかなり良い線でシーケンスが進んだという風に思っています。
新津・特に補足は無くて、時々少しずれる事もありますけども、今日のフライト結果を見た限りではそこそこ良かったなという印象でした。

ライター林・失敗を経験したエンジニアは物凄く強くなるという言葉が印象的だったが、何か具体的なエピソードで強くなったという事があったのか。また昨年は2回失敗するというかなり厳しい状況だったと思うが、そこを乗り越えるためにチームに対して何か声かけとか働きかけをしたのか。
岡田・強くなったと思うのは、もちろん精神的にも強くないと乗り越えていけないのですけども、今回の失敗から抜け出す時に、先が見えない中でも、とにかく前に進まないと未来が無いという事で、そこの強さが凄く必要な所が自分達で実践出来た所が経験にひとつなっていると思います。それからやはり非常に難しい技術的な課題を突き付けられた中で、技術的にもいろいろな事に洞察力を働かせて答えを導いていくという、技術面でも強くなったと思います。難しかったと思うのは、前回の失敗が2段のエンジンの着火の失敗であって、1段のエンジンは、例えば固体ロケットブースターは物凄くうまく飛んでいる。でもそれを開発した彼等が喜べない1年間だった。なので、この打上げで全部それが喜びに繋がったのではないかと思っていて、逆に言うとそれぞれのメンバーが1年間大変だったろうなと思っています。

ライター林・岡田さんは何か働きかけはされたか。
岡田・私は一応全部の部門の担当でもあるので、それぞれの気持ちに出来るだけなって声をかけるようにしていた、というくらいだと思います。

ライター林・新津さんもお願いします。
新津・強くなったというのはどういう事かなと思ったのですが、怖さを知ったという事ではないかと思いました。それは結局あれだけのロケットが、ほんの僅かな設計であったり製造であったり思いもしなかったところで問題を起こして機能しなくて落ちてしまう。そういう経験をした事によって、若いエンジニア1人1人が自分の担当したところの設計がこれで問題が無いのか、本当に見逃していることはないのか、そういう事を自らちゃんと考えられるようになったという所が一番大きかったのではないかと思います。私は特にああせいこうせいとは言わなくても、うちのエンジニアは非常に優秀ですので、自分達で考えて、かつそういう怖さを知った上で、これはやはり気になるからここまでもうちょっとやってみようと、そういう動きをとれるようになったという所が私としても非常に嬉しく思っている所です。

・第3部登壇者(※小型副衛星に関する会見)
キヤノン電子株式会社 代表取締役社長 橋元 健
キヤノン電子株式会社 衛星システム研究所 副所長 河面 郁夫
一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構 宇宙利用拡大推進本部 技術参与 三原 荘一郎
セーレン株式会社 研究開発センター 人工衛星グループ長 中村 博一

・質疑応答
日本経済新聞・今回、打上げ失敗のリスクがある中で、あえてH3で衛星を運んだという事への決め手になったポイントと、運ばれたことへの思い。
橋本・あらためてH3ロケットの打上げ成功を心からお祝い申し上げたいと思います。このプロジェクトに関わってきましたJAXAと三菱重工の皆様には大変なご苦労、心から敬意を表したいと思います。私自身も今日のこの瞬間に立ち会うことができたこと、歴史的瞬間にご一緒できたことを大変嬉しく思っていますが、まさにこれがご質問の一番の答えなのかなと思っています。私共の最新の人工衛星CE-SAT-IE、こちらはキヤノン電子のみならずキヤノングループの英知を結集して作った光学技術を搭載した、内製率9割を誇る観測衛星でございます。私共は既に2基の衛星を軌道に投入していますが、実は3基のうち1基は失敗しています。常に失敗はつきものでございますが、やはり果敢にチャレンジして、実証をどんどん重ねていかないと我々の衛星の発展も無いという事でもあります。正直言って私自身は今回の失敗のリスクは殆ど考えてはいなかったのですが、ただ100%ではないと岡田プロマネからも話がありましたけども、そういった事は当然ありますけども、まずはそういった機会を今回いただけた事が一番の喜びでございますし、結果として成功にも結びつけましたし、本当に改めて感謝していますし、今後も失敗を恐れずにどんどんチャレンジして打上げを進めていきたいと考えています。
三原・今回H3ロケットで打ち上げることになったのですけども、リスクよりも我々はその前に某国のロケットで打ち上げようとして衛星も作って完成し搭載直前でしたが、皆さんご存じの状況で全部中止になりまして、他の手段も考えたのですがなかなかうまくいかず、開発が全部終わった状況で凍結されていました。そこにJAXAさんから話がありまして、我々はリスクよりも軌道上で実証できる、実際に運用出来るというチャンスの方をとって、そのリスクで失敗するかもしれないということは全く無かった。もう喜んで提供して、本当にJAXAさんには感謝しています。
中村・今回打上げに成功して本当におめでとうございます。私も大変嬉しく思っています。今三原様よりお話があったように、一回完成まで行っている衛星だったが、プロジェクトが凍結したという事で実証の機会を失っていたという状況でした。今回H3の2号機への相乗り搭載の公募があった時に三原様と同じように大変嬉しく思いましたし、今回国内のロケットのプロジェクトに参加させていただいて、JAXA様、三菱重工様、それ以外の関わっていただいている方々の努力頑張りに触れることができまして、本当にこの国のロケットで打ち上げた事に感謝しています、嬉しく思っています。
河面・橋本が申し上げた通り挑戦の一言だと思います。我々も幻の2号機というのがございまして、CE-SAT-IBを2020年にニュージーランドから打上げましたが、2段目が着火せずということで衛星を喪失しました。私も実際に射場の作業でニュージーランドに参りまして、現場の作業監督をやりましたけども、我々の作業は手前味噌でございますが本当に完璧な作業をして、衛星がフェアリングに収缶されるさころまで見届けて日本に帰ってまいりました。実際そのような状態でしたので、打上げ失敗ということで私も落胆いたしましたが、当時の経営からは挑戦した結果だから落ち込む事は無いし、ましてや責任を感じる事は少しもないと、悔しい思いがあるなら次があるから次に繋げなさいとシンプルに言ってもらえまして、3ヶ月後にCE-SAT-IIBを打上げて成功したという形になります。ですので失敗を乗り越えた成功という事でしたので、CE-SAT-IIBの時は非常に嬉しく思いました。これが次の原動力だと思いますし、また今回に関しましては短い期間でなんとか打上げまで漕ぎ着ける事が出来たという事で、その間我々のエンジニアも非常に中身の濃い、採択されてから地上試験を全て終了するまで正味5ヶ月だったが、非常に濃い時間を経験させていただきました。その中でJAXA様の同じくエンジニアのチームの皆さんとか、あるいはロケット関係のエンジニアの皆さんに多大なご支援をいただきました。今日という日があるのもご支援のおかげだと思って、あらためて感謝しておりますし、それが恩返しできたのかなと思っています。

NVS・CE-SAT-IEとTIRSATの両方について、今の衛星の状態はどうなっているか。
橋元・今回、無事に軌道投入していただいた事に対してあらためて深く感謝を申し上げたいと思いますし、私自身H3ロケットで最初に軌道投入された人工衛星となりました事を誇りに思っています。本日軌道投入された弊社の人工衛星のその後の状況につきましては河面の方から説明させていただきます。
河面・最新の軌道投入の情報から計算しますと、CE-SAT-IEはこのあと本日の夜20時20分過ぎ頃から同20時30分過ぎ頃にかけまして、弊社の赤城工場にあります地上局からの交信可能範囲内に入ってまいります。我々の通信チーム、そして運用チームは、この衛星の軌道データに基づいてアンテナで衛星を追尾しまして、初交信に万全の態勢で臨んでまいります。衛星と交信ができた暁には、すぐさま衛星から健康状態、それから電力収支等の情報が得られるという手はずになっています。
中村・TIRSATの方ですけども、キヤノンさんに続きまして約9分後にロケットから分離されたという情報をいただいています。投入軌道も分離時間もほぼ予定通りで投入されたと聞いています。我々もその軌道から計算しますと、我々の地上局は東京電機大学(埼玉)を使っておりますけど、そこで18時56分に初の通信ができると思っていますので、そのタイミングで同じように衛星の健康状態を確認したいと思っています。

日経クロステック松浦・新しい衛星メーカーを作られようとしている方がお二人おられるので、それぞれ一つ一つの衛星ではなく、これからどういう風に大きな事業戦略を展開していくかの概説をお願い出来ればと思います。
橋本・まずはキヤノン電子の人工衛星ビジネスでございます。先ほども少し触れましたが、キヤノン電子、キヤノングループは非常に光学技術に強みを持っております。今回の人工衛星も最新のミラーレスカメラのR5を搭載したりしています。そういった光学技術の望遠鏡やミラーも全て内製でございます。センサ技術も強みを持っておりますので、そういった意味では内製化率9割と申し上げていますが、そういった状況でございます。今後は衛星バスそのものの運用を、国内のみならず海外も含めて、バスそのものの販売、あるいは運用、更には光学技術に非常に強みを持っていますので、こういったもののコンポーネントの販売、更にはリモートセンシングとしての画像の販売、そういった物を我々キヤノン電子のビジネスに繋げていきたいという風に考えています。それ以外にもまだまだ多岐に渡ってのニーズがあると考えています。私共も今後の日本の宇宙開発でありますとか、更には各種宇宙事業分野に大いに活用していだけるように更に精進して参る次第でございます。

日経クロステック松浦・コンポーネントの販売、あるいは衛星単体の販売という話が出たが、世界では例えばPlanet Labsのように200基以上の衛星を軌道上に配備して1日1回地球を撮像することが行われている。そういう時前の地球観測コンステレーションも考えているのか。
橋元・なかなか弊社1社だけではコンステを全てまかなうというのは正直言ってハードルが高いと考えております。ただやはり日本の各企業さん、ベンチャーで沢山のスタートアップされている企業さんもありますし、既存のメーカーさんもございます。三菱重工さんもそうですし、IHIグループさんもそうですし、繰り返しになりますがスタートアップされた所もそうですし、そういった方々とも協業しながら、200基でコンステというところのプランにはまだ辿り着かないと思いますが、イメージとしてはそういったところも視野に入れながら進めて行ければと考えております。

日経クロステック松浦・中村さんもお願いします。
中村・セーレンとしての衛星事業ですけども、その前にセーレンの説明を少しさせていただきます。セーレン自体は繊維産業を主にやっております。ですのでこの宇宙産業としては異業種の参加になっています。ただ皆さんご存じのようにこの宇宙産業は変革の時が来ていまして、元々衛星事業、宇宙開発をやっていたような企業さんだけではなく、我々のような異業種が参入することで新たな価値を生むという時代になってきているのかなと思っています。セーレンは130年くらい繊維の技術を核に、繊維事業の企画から開発、製造、品質管理を一貫して自社で行っております。またその商品を製造するための装置や検査装置も我々自前で開発しておりますので、衛星のような機械・電気・ソフトウェアの総合的な技術が入った物に対してもアプローチできる技術が蓄えられておりました。今回我々がTIRSATという衛星を開発するにあたり、実はいろんな方々と連携をしております。まず福井大学さん、東京大学さんとの連携はもう7年くらいになりまして、衛星開発の本当の理論のところから技術を蓄積しております。また宇宙分野にどんどん大学さんからスタートアップが出ておりまして、今回も協力いただいております東京大学からのスタートアップのアークエッジ・スペースさんとも連携を密にしておりますし、その他にも福井工業大学さんとかいろんな方々と連携をしてやっております。これはどういうことかと言いますと、宇宙業界はまだプレーヤーが確固たる状態ではございません。かつ、どの企業や機関がどういう役割を持ってこの宇宙の分野を広げていこうかと試行錯誤の段階だと思います。セーレンもこのようないろんな試行錯誤をしている方と協力をし合って、かつ自分達の役割、一緒にシナジーを産む状況をいかに作っていこうかという事を常に考えながら今やっています。異業種ですので必ずチャレンジの事業なんですけども、その失敗を恐れる事無く皆と協力して今この事業を育てていこうと思っております。

フリーランス秋山・CE-SATシリーズの衛星はこれまで(高度)500キロのSSO(太陽同期軌道)で運用されてきたと思うのですが、今回のH3の軌道は前回のALOS-3の時のものを踏襲したので選べない形だと思うが、ちょっと高度が高いということで、その点で運用上何か制約になる事とか、逆に活かして何か出来る事とか、そういった所の考えとか取り組みがあれば教えて下さい。
橋元・まず今回の私共が今運用している人工衛星についてはご指摘の通り500キロ上空です。今回のCE-SAT-IEは1号機のCE-SAT-I、失敗したCE-SAT-IBの後継機で最新機となります。最初のCE-SAT-Iは上空500キロから解像度が大体80センチから90センチを誇っておりました。今回のCE-SAT-IEは同じ軌道でしたら60センチ規模の解像度になります。ただし今回は670キロという事で、解像度は計算して大体80センチくらい。それでも最初のCE-SAT-Iから解像度はさらに上がってきているという製品でございます。運用にあたってはこの間の半年で技術陣エンジニアが苦労しておりましたが、結果としては本日迎えた通り問題無く進みました。
河面・高度が500キロから約670キロに変更になります。これによって1周回にかかる時間が若干延びるという事にはなりますが、我々開発運用チームとしましてはそれに関しては特に大きな問題視はしておりません。ですので今までの知見を生かした運用がこの先行えるものと考えております。

フリーランス秋山・熱赤外のセンサにとってこの運用高度が制約になるところ、逆に活かす面があれば教えて下さい。
三原・もともと(高度)500キロで(解像度)100m未満くらいだったのものが108mくらいになるので、地上の分解能としてはあまり変わらない。現在いろいろ利用されています熱赤外センサでありますTerra衛星のASTERというものがあるのですが分解能は大体100mくらいです。ですから単に分解能から見れば遜色ない感じになっています。逆に高度が上がったことにより、元々500キロだと下手すると2年くらいで大気圏に再突入して燃えてしまうが、今回の軌道ですと20数年は軌道にいる。何とか終わった時には落ちるような感じですが、どこまで予算がついて、あるいはどこまで運用していくかというのはありますが、軌道が低い事によって寿命が短いというのは無くて、それは今後非常に役立つのではないかと思います。

時事通信・キヤノン電子さんもセーレンさんも海外のものに乗った・乗ろうとしたことがあるので比較できる部分があると思うが、今回若干イレギュラーな経緯でH3に乗る事になったと思うが、いわゆるユーザー目線として今回乗った事についてどう感じられたか。こういう所が良かった、こういう所が改善するといいなとか、そういった所について。
橋元・弊社は過去にインドとニュージーランドから打上げをさせていただきました。正直申し上げまして過去の2回、特に最初のインドはかなり時間を要しております。それはやはりロケットとの関係性、ニュージーランドもそこまではいきませんでしたがやはりかなりの時間を要して、丁度コロナの真っ最中というのもありましたけども、それを差し引いてもかなりの時間を要しました。ただ今回のH3ロケットに我々が公募させていただいて決まった後に、本当に過去2回には考えられないような短手番で搭載していただくことが出来ました。これはもちろんH3ロケットの素晴らしさもあるでしょうし、JAXAの皆様方の絶大なる支援があった賜物だと思っています。
河面・現場サイドからしますと、やはり技術的なコミュニケーション、かなりやり取りが沢山ございます。その一つ一つがやはり同じ国内でできる方が遥かに効率が良く、またレベルが高い物になるかなと率直に実感しております。先ほども申し上げましたがやはりJAXAのエンジニアの皆さんですとか、あるいはロケットのエンジニアの皆さんに沢山ご支援いただきまして、我々も沢山勉強させていただきました。それが一つの大きな成果だと我々は思っております。
三原・今回の一番のメリットは国内のロケットというのは非常に安心でありまして、我々は国際マーケットで見ていいなと思って採用したところだと、やはり政治や国の方針で打上げが延びたり中止になったりと色々ありますので、そこの所は国産ロケットというのは非常にメリットがあると思います。また投入精度が非常に大事でして、他の国ものだとかなり荒い。無線局免許の制約上、あまり高度が低いと電波を出すと地面での電波が強すぎて落とさなければいけなくなる。実際は高度がもっと高かったという場合に低いところで電波を弱くしたが本当はもっと高かったので十分出せるのにと言ったら回線の精度が悪くなる。そこのところが非常にメリットだという風に思います。

中村・今三原様におっしゃっていただいた通りですが少し補足するとしたら、約半年という短期間に新たなロケットとのインターフェイス調整を実施した訳ですけども、海外のロケットだとなかなか調整できない細かいところまで屈託無く意見交換をしながら条件も折り合いをつけながら調整をできるというのは凄くメリットだと思っていますし、やはり国内でロケットを調達出来るというのは、今後も頻々に乗せられるようなロケットになっていくというのは衛星事業者としても凄く重要な事だと思っています。

・会見後の個別取材より
Q・H3ロケットは自動車の部品といった民生部品を採用している。そういった部品はモデルチェンジが早いと思うが、その枯渇対策はどうされていくのか。
岡田・考え方はあって、やはり大量に買ってストックして使う。その間に枯渇が当然入ってくるので、その時に置き換え部品を買う。置き換えのときに設計変更をしないといけない部品だったら、ミニ開発みたいなことをする。そういうものをうまくやっていく、これが出来れば三菱重工さんが自主的にやれるようになると自在性が増す。いちいちJAXAが開発しましょうとやっていると遅いので、三菱重工さんが部品メーカー・商社さんとうまくやりとりしながら、ちょっと直して使い続けるというのを夢見てます。(中略)変える時に同じ物があるとは限らないので、そういうのはこれからうまく運用していくためには必要な知恵だと思います。

以上です。

飛行するH3ロケット試験機2号機

H3ロケット試験機2号機のリフトオフ

(※写真は竹崎展望台の屋上より撮影)