投稿日 2023年4月24日(月)22時33分 投稿者 柴田孔明
2023年4月18日に宇宙開発利用に係る調査・安全有識者会合がオンラインで開催されました。議題はイプシロンロケット6号機打上げ失敗原因調査状況で、そのあと記者向けのフォローアップブリーフィングもオンラインで開催されました。以下の質疑応答はフォローアップブリーフィングのものです。
(※一部敬称を省略させていただきます。また回線等の関係で一部聞き取れない部分があり、省略させていただきました)
・原因究明結果(配布資料より抜粋)
・結論
・ダイアフラムがリング間隙間に噛み込み、その後の溶接工程等でその噛み込んだ部分が破断・損傷すると推進薬が液側からガス側に漏洩する。その場合、ダイアフラムが液ポートに覆いかぶさり、パイロ弁開動作時にダイアフラムにより閉塞する。したがって、6号機打上げ失敗の原因は「ダイアフラムシール部からの漏洩」と特定した。
・「ダイアフラムシール部からの漏洩」に対してなぜなぜ分析を実施した結果、背後要因は「フライト実績品に対する確認不足」と識別した。
・M−VとH−IIA技術を活用した範囲は、ロケットシステムにおいて実績のある技術をベースとして、イプシロンの仕様に合わせた適用開発を行っており、開発段階では新規開発品と同様、約20年来の基幹ロケットの信頼性向上の取組を踏まえた設計・製造工程・品質保証方法の確認を実施している。
・2段RCSのダイアフラム式タンクは元々宇宙機で使用するために開発されたものであり、適用開発時には使用条件の違いを考慮した機械環境試験や耐圧試験等のタンク構造としての確認は実施していたものの、ダイアフラムシール部等のタンク内部についてはフライト実績を重視し、使用条件の違いを含め設計の考え方・作動原理等を十分理解した上での確認が不足していた。
・背後要因に係る以下の対策をイプシロンSロケット及び水平展開先(今後精査)に反映し、信頼性を向上させる。
・フライト実績品に対する十分な確認
・フライト実績品を使用すること自体は問題ではないが、当該品の使用条件が想定と異なる場合はもちろん、20年来の信頼性向上に係る開発の目が入っていない場合は、開発当時の設計の考え方や使用条件の根拠、製造工程・品質保証方法に立ち返って確認を実施する。
・過去の設計等に立ち返る場合には、2003年のH−IIA6号機打上げ失敗以降、基幹ロケットとして取り組んできた信頼性向上の観点(以下)を十分に考慮して、抜けのないように確認を実施する。
1.不具合事象への対応、2.メカニズム・動作余裕の確認、3.製造・検査・整備作業の改善、4.連鎖事象への対応、5.安全に係る対応
・まとめ
・イプシロン6号機の原因究明結果
・6号機失敗の原因を「ダイアフラムシール部からの漏洩」と特定した。
・ダイアフラムがリング間隙間に噛み込みその後の溶接工程等で破断・損傷。
・推進薬が液側からガス側に漏洩してダイアフラムが液ポートに覆いかぶさる。
・パイロ弁開動作時にダイアフラムが液ポートに入り込んで閉塞。
・直接要因の水平展開
・上記の要因となったダイアフラムタンクの水平展開を行っており、ダイアフラム方式を採用している一部の衛星について対象を特定・評価を実施済み。
・今後の予定
・直接原因の是正として、現タンクの設計変更案とH−IIAタンク活用案を検討してトレードオフを実施して処置を決定する。
・背後要因(間接的原因)の分析結果等をイプシロンSロケットの開発に反映して信頼性を向上させる。
・その他
イプシロンロケットS実証機の打ち上げ見通しが当初は2023〜2024年度となっていたが、ペイロード側の都合により2024年度打ち上げの方向となった。
・質疑応答
時事通信・取り付け時の噛み込みとのことだが、これは取付ミス・製造時のミスと言って良いか。製造時の検査で漏洩を検出できない可能性があるとのことだが、これは製造時の検査の条件では現れなかったということか。RCSはフライト実績品とのことだが、どのような実績があったのか。どういうものに使われていたのか。
井元・噛み込みの部分については、製造工程上非常にバラつく設計になっていた。製造ミスとはちょっと言い過ぎで、そういうところがある。そこは本来きちんと検出しないといけないところだが、そこが検出できる規格になっていなかった。それは開発段階で設定したものによるものだと考えております。検査のところは、結果として全て規格に合格しており、検査としてはスクリーニングできなかった。開発時に設定した検査の規格が噛み込みを検出できるようになっていなかったのが結果になっております。
佐藤・本RCSのタンクは1990年代に開発された衛星のものを使っておりました。中のダイヤフラムについてはその後に設計変更が行われています。
時事通信・製造での取り付けミスでないということは、こういった噛み込みというのは十分あり得ると想定されていて、検査で検出できると思っていたが検出できなかったということか。
・故障モードとしては一般論としてはあるということだが、検査で検出できなかったというのが事実であります。
時事通信・取り付けミスが言い過ぎというところが感覚的にわかりにくい。本来は噛み込んではいけないものなのに噛み込んでしまったのが取付ミスと言えないとなると、どういう評価になるのか。
・そこを検出できないと駄目である。製造のばらつきはよくあることで、そういったところを正しく検出するシステム、そこが重要であると考えています。
時事通信・つまり検出するシステムを含めて噛み込まないものが作られると想定していたが、最終的にそれができなかったことになるのか。
・そうです。
読売新聞・今回の件を整理すると、ダイヤフラムのシール部が溶接時に破損してリーク発生し、それによって膜の上に液体のヒドラジンが乗って変形して配管を塞いだということか。
・まず推進薬が液側からガス側に漏洩します。もともとダイヤフラムは最初の形状が液側にあるというのが通常の形態になっていまして、漏洩していくにしたがって空の状態に近づいていって、液ポートの所に近づいていって塞いだと今のところ推定しています。
読売新聞・検査項目や規格が不十分で見抜くことができずすり抜けたという理解で良いか。
・その通りです。
読売新聞・シール幅の寸法が1〜5号機と違って少し大きく、今までのチャンピオンデータだったとのことだが、大きくても規格の範囲内で合格してしまったと思うが、正常なものよりどのくらい大きいのか。
・周方向の平均値で規格があります。その規格に対してギリギリで合格していたのが実態です。実際は周方向の偏りがあったのが今回の6号機で、偏りが検出できない規格、平均値という形で規格を設定していましたので検出できなかった。どの程度かは0.1ミリ程度のオーダーです。
読売新聞・振り返ってみると製造時の不備の兆候のひとつではあったが、規格の設定が不十分だったために見抜くことが出来なかったということか。
・はい、おっしゃる通りです。
NHK・ダイヤフラムのシール部分の損傷は、破れるというよりは千切れるものなのか、表現としてどういう言葉が適切か。
・挟み込まれて、そのあとの溶接によって圧縮が加わります。その結果として千切れる、もしくは欠損するという表現ですが、適切な表現がなかなか思いつかないです。
NHK・資料の図では断面だが、実際にはぐるっとリング状になっていて一部分が欠損したという形を想像すればいいか。
・360度あるうちの30〜45度くらいの幅で噛み込んでいたと寸法のデータから推定しています。
NHK・一部分が欠損して、その部分を通じて燃料のヒドラジンがガスの圧力で押されてガス側の方に逃げたということか。
・基本的にその通りだが、ガスの圧力ではなくヒドラジンを充填したときにダイヤフラムが垂直方向になる。つまり推進薬が下に行くほど圧力が高くなるということで、その水頭圧で差圧が出る。液とガスで差圧が出て、液の方が少し圧力が高い状態で漏れるという形になります。
NHK・圧力差が無くなるくらい液体が染み出すことになると思うが、空の状態に近づくほど抜け出たことになるのか。
・漏洩量と漏洩時間にも依存するが、漏洩確認試験というものを実施しました。強制的に漏洩を模擬した。9Lの水を充填して、ダイヤフラムを切って漏洩を模擬しました。徐々に、本当に少量漏洩するが、漏洩に伴いまして水が液側からガス側に移動しまして、2日後にダイヤフラムが液側の半球に貼り付くという結果が得られています。
NHK・貼り付いたというのは、燃焼させようと動作したら配管に吸い込まれて塞いだのか、それとも今回の結果では吸い込まれたとは言えないのか。
・吸い込まれて塞いだと考えています。ダイヤフラムが液ポートを覆った状態でパイロ弁を急速に開くと、ダイヤフラムの前後に大きな差圧がかかります。ダイヤフラムの下流側は液ポートを覆ってしまうと大気圧に近いくらいの圧力で、上流側のダイヤフラムの上側は2MPa弱(20気圧弱)くらいの圧力になりまして、その圧力差によりましてダイヤフラムが液ポートの中に詰まった。非常に小さい径だが、その中にダイヤフラムが入り込んだ。それは閉塞試験を実施したあとにダイヤフラムに突起のような跡があった。つまりぐっと伸びて液ポートの中に入り込んだような兆候を示す跡があったことから、液ポートの中に入り込んだと推定しています。
NHK・背後要因として実績のある部品に対して確認不足があった。これで原因究明の区切りになると思うが、信頼性の向上に向けてあらためてコメントをいただきたい。
・まず強化型ロケットの最終号機であるイプシロンロケット6号機を失敗させてしまったということに対しては非常に重たい責任を感じております。まず我々がやるべきことは次のイプシロンSロケットの開発をしっかり実施して、イプシロンSロケットの実証機を成功させる、この一点に尽きると思っています。打ち上げ成功に向けてやれることは全てやる。直接の原因の対策を反映することはもちろんのこと、こういった背後要因ですとか、これまで実施してきた基幹ロケットの信頼性向上みたいなものをより一層充実させて、信頼性の高いロケットにする、そういうことが私の責務だと思っておりますので、それに向かって邁進していきたいと思っています。
NHK・今後の打ち上げ計画で2024年度の打ち上げで調整しているとの報告があったが、現時点でイプシロンSロケットの打ち上げ予定は早くても来年度になったという事か。
・今JAXA方で2024年度に打ち上げる方向で調整されているという話がありました。
NHK・調整しているということは、まだ決定していないのか。現時点では2023年度の可能性がまだあるのか。
佐藤・1号機のペイロードさんと調整を続けてきて、その中でペイロードさん側のご都合で2023年度の打ち上げは無い。2024年度に打ち上げる方向で、お客さんとそれに伴う関係機関と調整をさせていただいている。
NHK・ペイロードのお客様とはベトナムと、間を調整している商社なのか。
・ベトナムの衛星をNECさんから受注したという形になっていまして、NECさんを含めた調整を今しているという状況です。
南日本新聞・今回の原因となったシール部の本来の役割や、赤道リング固定リングの本来の役割を踏まえて噛み込みがどのように起こったのかを噛み砕いて教えてほしい。またダイヤフラムの欠損というのは千切れるとは少し違うとのことだが、平たく言うと傷がつくというようなイメージで良かったか。
・まず赤道リング、固定リング、ダイヤフラムですが、ダイヤフラムの基本的な役割は推進薬を保持することになります。ダイヤフラムで推進薬と加圧ガスを分離して、上からガスで加圧するが、その圧力をもとにパイロ弁を開いた後に推進薬を推薬弁に供給する役割になります。赤道リングそのものに関しては外部のタンク構造と一体になっておりますので、圧力を保持するとか構造体としての役割があります。固定リングにつきましては、ダイヤフラムのシール部を押さえて液とガスを分離し、漏洩が無いように保持する役割になります。
南日本新聞・シール部の役割をもう一度お願いします。
・シール部が機能しないと推進薬がガス側に移動して、搭載した推進薬量、イプシロンでは9リットルになるが、ぐっと減って2段のRCSの機能が果たせない状況になる。
・千切れについては、違うというか近いというか、なんという言葉が適切かちょっとよくわからないが、6mmの厚さがあるが、そのうちの一部が無くなってしまう、噛み込んだあとに残ってしまうイメージの言葉になるので、欠損と言ったが千切れるでも間違いでは無いと思います。
南日本新聞・剥がれるというのはどうか。
・剥がれるは千切れるよりもちょっと遠くなった気がします。
南日本新聞・赤道リングと固定リングはタンク構造と一体とのことだが、タンクの内側についているということか。
・赤道リングはタンクの外側の一部になります。それ以外にガス側半球と液側半球の3つで構成されているもののひとつが赤道リングになります。固定リングは内側に溶接されるもので、ダイヤフラムを押さえシールする機能を持ったものです。
南日本新聞・赤道リングの内側に固定リングがあり、固定リングが膜を押さえるということか。
・はいそうです。
共同通信・イプシロンSでの是正措置で、タンクの設計を変更するかH−IIAのものを使うとのことで、いずれにしても時間がかかるとのことだが、これに対してどれくらいのタイムスパンを考えているのか。
・設計に対する影響、ある程度のレベルで設計しないといけない、両方設計する必要があると考えていまして、夏前くらいを目処に判断していきたいと考えています。
共同通信・それは夏前頃にどちらにするか決めて、それから実作業にとりかかるということか。
・H−IIAのタンクそのものに関しては同じ物を作るだけでして、あとは機体側の設計変更になります。それから現タンクの設計変更案については、今回の原因をしっかり反映しないといけませんので、そういった設計を数ヶ月かけて実施して、必用な試験等も実施することになると考えています。
共同通信・現タンクを変更する方が作業的には大変だということか。
・そこはH−IIAタンクも機体の構造側の変更も必用ですので、どちらが大変かは今は一概に言えないです。
共同通信・いずれにしてもトータルで数ヶ月は見込んでいるということか。
・そうです。
共同通信・イプシロンS実証機の打ち上げが2024年度になった件で、ペイロード側の都合とのことだが、それが無ければ2023年度に打ち上げを目指すことは変わらなかったのか。
・基本計画の工程表では2023年度、もしくは2024年度ということで規定していたというところです。
フリーランス大塚・背景要因として、実績はあるが使用条件の違いについて言及があったが、配付資料を見ると、同じ設計のタンクでも充填量などの条件が違うなどいろいろあるが、こういった違いによってこれまで衛星では不具合が無かったということか。
・基本的にはこういう違いではくて、そもそも噛み込みがあったかどうかと考えています。今回検出できなかった噛み込みがあったか無かったかという形と考えています。
フリーランス大塚同・今回検出できなかったので、これまでもあった可能性があるが不具合が起きていなかったと思ったがそうではないのか。
・それはもう飛んでしまっているのでわからないというのが実態です。
フリーランス大塚・6号機ではいつリークが起きたかだが、充填してから134日あるので、打ち上げ前に推進剤が0.3L以下になってくっついて閉塞する状態になっていたと考えて良いか。
・そこはリーク量にもよるので、わからないのが実態です。完全に無くなって貼り付いた状態だったかもしれませんし、閉塞試験では3L・2Lが残った状態で1G環境でも閉塞した事実があり、そういう状態になっていた可能性も否定できません。いつからリークを開始したかという話とリーク量の関係になるが、そこは今となっては判らないという状況になります。
フリーランス大塚・打ち上げ前にそうなっていたのか、打ち上げ時の加速とか振動でリークが加速した可能性もあるのか、どちらかは判らないのか。
・打ち上げ後150秒で閉塞しているので時間的に短い。その中でリークがあれば継続していた可能性はあるが、そこで一気に加速したという話ではないのではと思っています。
フリーランス大塚・打ち上げ前にリークが起きていたということになるのか。
・はい、そこは恐らく間違いないと思います。
フリーランス大塚・打ち上げ前からリークが起きていて減っていたとしても圧力自体には違いが無いので、圧力センサなど外からは異常が判らなかったということか。
・はい、おっしゃる通りです。
フリーランス大塚・(配付資料掲載の)リークの検査ですが、液側からの加圧というのはダイヤフラムが回り込んで固定リングとの間で結果的にシールされたと判るが、ガス側を加圧したときは延びる方向になるので、ここでリークが検出できなかったのか。ここで検出できない理由はどのようなメカニズムなのか。
・何通りかあると考えています。ひとつは液ポート側にリブがある。ダイヤフラムに関しては圧力を印加すると永久変形が発生することは確認していまして、リブが液ポートの真上に来ないケースだと、圧力が高い(0.1MPa)のでそこでシールすることが考えられます。もうひとつ、今回の漏洩試験はガス側加圧ではなく液側加圧ではあったが、圧力が高いと漏洩が止まるところがあって、それは0.01MPaでも止まっている。それより10倍高い圧力の場合にはシール部のところでシールした可能性もあって、そこは判りませんが、2つくらいの要因が考えられます。
フリーランス大塚・いずれの場合でも液側加圧のときは上にぴったり、ガス側加圧のときは下にぴったりで、実際の状況に近い0.9Lが入った状態のときのテストが無いように見える。もしその状態でテストしていたらリークを検出できた可能性はあるか。
・それはガス側から圧力をかけないで開けていたら、もしかしたら検出された可能性はありますが、ヒドラジンはそういう状況にしてはいけない液体ですので、そこは実施しておりません。
フリーランス大塚・やりたくてもできない条件なのか。
・完全にできないかというと、やり様は無くは無いと思います。通常はやらない。
フリーランス大塚・水でやるのはどうか。
・水でやるやり方はあったと思います。
読売新聞・今後の対応としては設計の変更と、イプシロンSに向けて規格見直しや検査手法の見直しを今後進めるという理解で良いか。
・噛み込みがない設計・工程にするのが一番大きいかなと思います。万が一噛み込んだ場合でも検出できる検査工程、それから漏洩も含めて検査工程、そういったところを考えています。
読売新聞・噛み込みが起きない工程にするとのことだが、噛み込みが起きない構造のタンクに設計を変更するということではないのか。両方やるのか。
・抜本的な設計変更は考えていない。少しの工夫をすることによってリスクを非常に小さくできる可能性があると思っていまして、そういった事を考えています。
読売新聞・H−IIAタンクはそもそも噛み込みが起きない構造と説明があったが、そういうことではないのか。
・H−IIAのものとシールの考え方が全く違う。H−IIAのものに変更するとなると逆に変更リスクの方が高い。現状の設計でいろんなデータを取得しておりますので、変更リスクが大きいと考えています。
読売新聞・H−IIAのタンクを活用するとしても工程は取り入れないで、工程を工夫するということか。
・H−IIAのタンクはそのまま使うのが案になります。H−IIAのタンクを設計変更することは考えていません。どちらかと言うと機体側の変更になります。(※H−IIAタンク活用案)
読売新聞・実績品ということで踏み込んだ確認が出来ていなかったということだが、実績があるというのは、2段RCS自体の実績だと思うが、ミューファイブやH−IIAの実績か、最初の方で衛星で使っていたという話があったがそれはタンク単体の話なのか、RCSとしての実績なのか、それぞれどれくらい使われてきたのか。
・2段RCSのダイヤフラム式タンクは2号機から使っているが、それはもともと宇宙機での実績があるものです。ダイヤフラム式タンクに限ると、イプシロンの2号機から適用している実績になります。
読売新聞・ダイヤフラム式タンクは20年来の実績と言って良いか。
・ダイヤフラム式タンクにする前に、ブラダ式というイプシロン試験機(1号機)で使用していたタンクがあります。それがずっと使われてきたものでして、ダイヤフラム式タンクにつきましても20年とまではいかないまでもその程度前に開発したものでして、フライトで使用したものです。その設計を使いまして、イプシロンの2号機から適用しているものになります。時間軸としてはその程度経過しているものと理解していただくと良いかなと思います。
読売新聞・ダイヤフラム式タンクはロケットのRCSではなく、90年代くらいから衛星の姿勢制御装置の中で使われてきたということか。
・年代がぱっと答えられないが、ブラダ式が1990年代でして、それを少し設計変更してダイヤフラム式にしたのが2000年代より後だったと記憶しています。
読売新聞・踏み込んだ確認というものを行えていれば防ぐことが出来ていたことについて、あらためてコメントをいただきたい。
・かなり踏み込んだ形での確認というものが必要だったという風に反省しております。その反省を踏まえてイプシロンSの信頼性向上に繋げる必要があると思っていますので、そこは気を引き締めて、ここだけではなく全ての所をもう一度チェックして、まだ開発が進行しているところがありますので、設計・試験に反映すべきものはして信頼性を上げていきたいと考えています。
共同通信・ダイヤフラムの破断とか損傷は、穴が開いたというイメージか。
・それは違います。数ミリの厚さが必用なところが、何分の1か欠けてしまうイメージになります。
共同通信・欠けるけども穴が開いた訳では無いということか。
・(資料の図より)噛み込んだ部分が一周360度のうち30度もしくは45度程度噛み込んだと推定しておりまして、その噛み込んだ部分が無くなった、溶接部と固定リングの間に挟み込まれた状態で千切れた。シール側から見ると健全なものが少し無くなっている・欠けているというイメージで、欠けてしまうとシール部の面圧が確保できずに、その確保できなかった部分からどこかに回り込んで漏洩したというメカニズムになります。
共同通信・隙間が出来たという事とも違うのか。
・単純に言うと、本来であればダイヤフラムが潰されてシールする構造だが、潰されなくて少し隙間が開いたという事でも良いかと思います。
共同通信・イプシロンSの設計変更で現タンクとあったが、これは今正に問題となっている燃料タンクと同じものか。
・はい。
共同通信・今後の打ち上げ計画で2024年度とあったが、設計変更に時間がかかるのではなくて積み荷側の事情で2024年度になったという理解で良いか。
・はい。ペイロード側の事情で2024年度ということです。設計変更の時間軸がありましたが、それに間に合わせられるように対応できそうだと考えていますので、あくまでペイロード側の事情ということになります。
南日本新聞・今回のようなダイヤフラムの噛み込みによる失敗は、これまでのロケット打ち上げで報告されたケースはあるか。海外も含めて状況が判れば。
・少なくとも日本では無いです。海外は全て情報がある訳ではなく、失敗原因が全て明らかになっている訳ではないので難しいところですが、私の知っている範囲だけですが、見たことは無いです。
南日本新聞・初めてということで大丈夫か。
・私の知っている範囲では無いということしかわからないです。全ての失敗原因が判っている訳ではありませんので、初めてというのは正確性を欠くかなと思います。
南日本新聞・今回噛み込んだダイヤフラム式タンクはH3では全く使われていないのか。
・これと同じ構造は使われておりません。
フリーランス秋山・水平展開のXRISM(X線分光撮像衛星)などの試験のときに疑似推薬というものが出てくる。この疑似推薬に水を使ったとのことだが、水とヒドラジンはどの程度似ているのか。
・化学成分は全く違うものになりますが、比重的にはかなり似たような、ほぼ同じ物になります。
フリーランス秋山・こうした試験に使う時に、他に適した液体があるが、水の方がコストが安くて取り扱いやすいということもあるかもしれないが、水がかなり似ているので試験で使いやすいという理解で良いか。
・安全性あるいは取り扱い性の観点で、水がいちばん取り扱いやすいものになります。比重が似ているというところで水を使っているものになります。
以上です。
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