みちびき5号機/H3ロケット8号機 再打上げ前ブリーフィング
2025年12月20日、H3ロケット8号機打上げ前ブリーフィングが行われ、17日の打上げ中止について詳細な説明が行われました。
射点には煙道部注水系統とフレームデフレクタ冷却水系統いう二つの冷却水注水設備があり、どちらも水タンクを窒素ガスで加圧して注水しますが、今回はフレームディフレクタ冷却水系統の窒素ガスと水タンクの間に設けられた手動弁の開度が足りず、その結果フレームデフレクタ冷却水の流量が既定より少なくなってしまったことが自動カウントダウンシーケンスの緊急停止につながりました。
従来はこの手動弁の開度をスケールで計測して確認していましたが、作業性向上のために今号機からスケールで計測するのと同じ場所に治具(開度確認治具)をあてて確認する方式に変更したところ、手順の伝達ミスから作業者が誤った場所に治具をあててしまい、その結果バルブ開度が不足したのが今回の異常の原因でした。22日の打上げでは手動弁の開度確認を従来と同じ方式に戻すこととし、これにより既定の流量が得られることが18日の機体返送後の試験で確認されました。
以下は説明会の書き起こしです。(敬称略)
登壇者
- JAXA 宇宙輸送技術部門 H3プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ
- 有田 誠 (ありた まこと)
- 三菱重工業株式会社 防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 H3プロジェクトマネージャー
- 志村 康治 (しむら こうじ)
概要説明(有田)
H3ロケット8号機打上げ準備状況ということで、こちらの資料は、先日12月15日に実施したプレスブリーフィングの資料を更新するという形で作っており、変更点を中心にご説明させていただく形としたいと思います。
1ページ目と2ページ目、こちらのミッション概要は変更ございません。3ページ目からの準備状況ですが、12月16日に機体移動を行い、12月17日打上げに臨みましたが中止ということで、12月18日に機体を返送して本日に至るまで保管点検を行っているという状況です。
次の5ページ目からは準備状況の中で特記事項を説明しています。7ページ目、12月17日の冷却水注水設備異常による打上げ中止ということで、ここから打ち上げ中止の原因調査の状況をご説明してまいりたいと思います。
7ページ目、2025年12月17日の11時11分00秒に打上げを予定し作業を進めておりましたが、打ち上げ時刻の16.8秒前に冷却水注水設備の異常を検知し、自動カウントダウンシーケンスが緊急停止、打上げを中止しました。その後H3ロケット、衛星「みちびき」5号機、地上設備の点検を実施し損傷等は生じていないということを確認しました。その下のシーケンス表ですが、これは17日にご説明したものそのままで、フライトモードオンの後、X-16.8秒で緊急停止したことを示す図です。
8ページ目、こちらも17日の説明の内容と重複していますが、まずこの冷却水注水設備とは。真ん中の図にあるように窒素ガスで水タンクを加圧して、これを高温の噴流に注水する設備です。水で冷却することでフレームデフレクタや煙道を守るという役割りを持っています。このフレームデフレクタですが、右下の図にあるようにロケットの噴流の方向を変えるための耐火コンクリートの壁というもので、それから煙道についての説明も追記しましたが、ロケット打上げ時の燃焼ガスが通るトンネル状の設備というものです。また、この発生した水蒸気によりロケットエンジンが発する大きな音響を吸収し、衛星やロケットを守るといった働きもあります。
その下のアスタリスクのところですが、注水設備には、フレームデフレクタ冷却水系統と、これと同様の仕組みを持つ煙道部注水系統があります。赤字が今回新しいところですけれど、昨日のプレスリリースでもお示ししましたが、今回は煙道部注水系統の作動は良行で、フレームデフレクタ冷却水系統の注水量が規定より少なかったというのが中止の原因であるということが特定できました。
9ページ目、この原因ですが、フレームデフレクタ冷却水設備において加圧する窒素ガスの量を調整する手動弁の開度が規定よりも小さく設定されていたために水タンクの加圧が不足し、規定の流量が流れなかった、という風に特定しました。この規定流量は正規の状態で200㎥/min、これに対して当日の実績の流量としては、これの約3/4の150㎥/minという状況でした。
次に、フレームデフレクタ冷却水設備の作動方法と書いてあるところで、まず右の図の方ですが、窒素ガスタンクと水タンクが2つのバルブを介して配管で繋がっています。左側の①と書いてあるのが手動弁で、右側に丸Aと書いてあるバルブが空圧弁です。手動弁はこのバルブのそばで人が実際に操作して開閉するものです。一方、空圧弁というのは空気の圧力でこのバルブを駆動して、遠隔で操作可能なバルブです。それが水タンクの下流にも1つついているという構成になっています。

作動方法ですが、まず最初に窒素ガスと水タンクをつないでいる窒素の配管の手動弁に開度調整を実施することで窒素ガスの加圧スピードを事前に設定するというものです。これはロケットが射点に移動した後の総員退避前に実施する作業です。一方、これ以降の作業はカウントダウンシーケンスの中での作動となります。
カウントダウンシーケンスに従って、まず水タンク下流の空圧弁②に開指令が送られて、このバルブが開き注水が開始されます。これに続いて空圧弁③、窒素ガスのバルブに開指令が行って水タンクを窒素で加圧することで水を供給する圧力が増えていき、これにより必要な流量が達成される仕組みになっています。
この手動弁の開度が想定よりも小さく設定されていた要因ですが、作業性向上のために手順の一部を変更していたことにあったということが分かっています。こちらは後ほど詳細にお示ししたいと思います。
これの対策ですが、実績のある、7号機まで実施していた手順で開度設定を行うことにより、規定の流量がきちんと流れるということを実際に試験を行い、水を流して確認しました。ということで、8号機の打上げにおいては従来7号機までで実績のある手順で開度設定の作業を行うこととしたいという考えています。
この要因につきまして詳しくご説明します。先ほど申し上げましたように、この手動弁を開けるといった当該作業について今号機から作業性を向上させるために、先ほど出てまいりました手動弁①の開度確認治具というものを今号機から新たに導入しました。左の図ですけれども、1番左の図がこのバルブの初期状態、閉の状態を示しています。真ん中の図の緑色の部分がこの手動弁の本体です。ここの中でバルブの軸、シャフトが上昇して開くとオレンジ色で描かれた流路が形成されて、窒素ガスが水タンクに流れていく仕組みになっています。

このシャフトは上の方にある丸いハンドルを回転させることで上下し、これを右に回してシャフトが上昇し開度を設定するという仕組みになっています。従来はこの手動弁①の開度を確認するために、この真中の図のAと書いてある箇所の緑の線で示す長さをスケールで測る、という手順でした。
この作業について、作業後にきちんとこの高さが設定できているのか、といったことを目で確認するというのが難しいということと、そもそもこの計測箇所が狭く、この長さを計測するのが難しかったということがあり、このAの規定の長さと同じ長さの治具(開度確認治具)を新しく作りました。
シャフトの途中には、開度を示す開閉指示板というものがついていて、従来はこれをスケールで測っていたが、これを開閉指示板の外側に治具を挟み込んで確認するという形にしました。
この開閉指示板は凸を潰して平たくしたような形状をしていて、現場の方では、開閉指示板の厚い部分、内側で確認が行われました。この結果、開閉指示板の厚みの違いにより、本来の位置よりも開閉指示板が下がってしまい、結果としてバルブの開度が小さくなったというところまで特定しました。
こういった手順の変更時には、変更点管理が重要だということは私ども常日頃考えているところではあります。それから、こういった初めての治具や、これを用いた作業時には十分なケア、例えば事前の検証や初回の作業への立ち合い、こういったものが必要であるところ、残念ながら当日は不足していたという状況でした。
これに対する対策として、まずH3は運用段階に入ったとはいえ、まだ初期の段階です。私ども常に申し上げている通り、H3を磨くという活動を続ける中で、日々作業性を向上させるための変更が日々生じているという状況です。一方、これと合わせて品質を保つ仕組み、変更が生じても品質を保っていく仕組み、たとえば検証試験の実施、手順書への適切な反映、こういったものは更なる徹底や改善が必要だと考えているところです。ここまでが中止の要因についての説明でした。
先ほどプレスリリースの方で説明した新しい打上げ日、打上げ時刻に応じまして、打上げ時間が17日に比べて20分ほど早くなっています。作業を間違いなく進めるために、全体としては前回よりも30分繰り上げた形で作業を進めます。具体的には機体移動は20時30分に開始し、推進薬の充填をGO/NOGO判断する第2回GO/NOGO判断は2時20分頃。そして3km圏内の総員退避は2時30分頃、ここまではここに書いてある時刻で進めてまいりたいと考えています。
一方、X-60分頃の第3回GO/NOGO判断、それからX-10分頃の最終GO/NOGO判断については最新の打ち上げ時刻に合わせて行っていくこととなります。
12ページのカウントダウンシーケンス、13ページ目の飛行計画、14ページの打上げの制約条件は前回から変わりがないので説明を省略します。
15ページ、こちらは最新の気象予報です。現在種ヶ島は雨が降っている状況で、明日の午前中ぐらいまでは雨が降るという予報になっていますが、午後から急速に回復して機体移動の時刻には晴れが広がっているだろう、という予測になっています。そこから風が強くなってくるという予報になっており、こちらに書いてあるように打ち上げ時刻頃は平均で10〜13mぐらいの風が予想されていますが、これは打上げ時の風速としては問題ないという風に考えており、12月22日に打上げは可能という判断をしているというところです。
質疑応答
JSTサイエンスポータル: 今回新たに導入された開度確認治具に今回の原因があったが、これは開度確認治具の作り方のミスだったのか、それとも作業者の当て方がまずかったのか、それとも当て方の手順書やマニュアルのミスだったのか
有田: この治具は単純なもので、規定の長さのアルミの単純な丸棒です。何が悪かったのかというと、治具の設計意図と、作業者側の意図のすり合わせが十分でなかった。それから手順書にも指示が明確にされていなかった、というようなことが複合的に生じて起きたと考えています。特定のどこが問題だったというよりは、全体としての変更管理も含めたシステムの問題であったと捉えています。
JSTサイエンスポータル: 開閉指示板の外側なのか内側なのか確認というか意思統一が行われていなかったということか
有田: はい。その認識が正しいかなと思います。どこか特定のものが悪かったというよりは、全体としてきちんと作業できるような状況を作り込めなかった、ということかと思います。
JSTサイエンスポータル: この内側外側という違いが、この200と150の差分に現れてしまったということか
有田: はい、その通りです。
JSTサイエンスポータル: スケールの目視が作業上難しかったので治具を当てがうというのは打上げにおいていろんなバルブで使われてるものなのか
志村: いろんな工夫は日頃やっていますが、このような棒のようなもので長さを測るというのをトライしたのは今回が初めてです。
JSTサイエンスポータル: 視認が難しいということだが、何センチメートルぐらいとか、作業者の姿勢など、どういった難しさなのか
志村: 長さは15cmぐらい。場所は、ある程度込み入ってるところではあるが、入れば横から覗けます。ただ、ご承知の通り、夜に機体を移動してといった暗いところでの作業なので、メジャーを読み取ってミリ単位で合わせるような作業なので、一定の難しさがあると考えています。
JSTサイエンスポータル: つまり目盛を暗いところで読み取るよりも、当てがえばパチッと確認できるようなもの方が簡便で合理的だと
志村: はい。あとロケットの作業は品質を高めるために複数のメンバーで確認をすることを基本にしています。それがメジャーだと見られる人が限られるので、それよりは、当てがって、ぴったり合ってるね、とした方が複数のメンバーで確認できて作業性としてはいいんじゃないか、ということでこういうものを作った背景があります。
産経新聞: 今回治具を作るにあたりマニュアル化されているはずだが、どの部分で計測するという明示はあったのか
有田: そこを我々も確認したところ、手順書への明示がなかった、というのが実態です
産経新聞: 原因は特定できないとのことだが、マニュアルの不備では
有田: そこもあるが、設計の意図、それから現場の意図、それからこういった手順の変更を管理する、それを手順にきちんと落とし込む、こういった一連のシステムが全体としてうまく機能できなかった、という認識です
産経新聞: マニュアル化をきちんとして今後治具を使うことは検討しないのか
有田: 10ページ目の対策のところにもありますが、手順への適切な反映を含む、と書いてあるように、手順にきちんと反映するということを徹底したいと思います。
産経新聞: 今後この治具を使う方向だと
有田: アイデアとしてはいいものだと思いますので、きちんとそのあたりを手順書の方にも明記してえ、誰がやっても間違いがないという、当初考えていた姿にすべく改善していきたいと考えています。
産経新聞: きちんとしたマニュアル作りができなかったのは2号機から5号機まで5号機連続で打上げを成功させた実績故の気の緩みがあったのでは
有田: 私ども、まずは8号機の打上げ成功に全力を上げていますが、今回の事象についてはやはり真摯に重く受け止めるべき事象だと考え、こういったことがなぜ起きたのか、ということについての深掘りを続けていく必要があると思っていますので、今ご指摘いただいたような点は、2度とこういうことが起きないように背後要因も突き詰めて考え、対策に生かしていきたいと考えています
産経新聞: 改めての意気込みを
有田: 今回の事象に鑑みて、他に同じようなところはないかといった水平展開はしっかり行い、他にはないということを確認しています。ですので、より以前よりは信頼性が高まった状態で打上げに臨めると考え、次の打上げに向けて全力を尽くしたいと考えています。
NHK鹿児島: 新しい手順を行った際の十分なケアが不足していたと書いてあるが、打上げ頻度が増える中で現場の人員に負荷がかかっているんじゃないか
有田: 人員の負荷については適切に管理がされていると考えていますが、先ほども申し上げましたように、この辺りをよく深掘りして、背後に何か問題が潜んでいないかきちんと深掘りしてまいりたい
NHK鹿児島: 楽しみにされてる方、みちびきを早く実用化させたいという内閣府の皆さんの思いもあると思う。改めての意気込みを
有田: 今回のことで衛星関係の皆様には本当にご迷惑をおかけしていると思っています。それから全国で楽しみにしてる皆さんにも心配をおかけしてしまっているな、ということは痛感しているところです。何としても今度こそしっかり打ち上げ、皆さんの期待に答えたいと考えています。
NHK鹿児島: 民間移管という形で三菱重工業もH3に関わる中で、今回の事象の受け止めと今後について
志村: H3の今後に向けて大事な教訓・課題を、今回の事象で突きつけられたと言いますか、ひとつ顕わになったと考えています。資料にも書きましたが、H3ロケットをこれから成長させていく、機数を増大させていく、頻度を上げていくためには、同じ手順を繰り返しやっていくだけでは実現できない。ひとつひとつ、こういった現場の工夫を確実に取り込んで、なおかつ品質も保ちながら、いいものを作っていくということが非常に大事なところだと思っています。
そういう意味で今回のことは、せっかく現場がいいアイデアを出しているけれども、それを組織として完成度の高いものに仕上げられなかったということで、改めて、これから私たちが組織全体、チーム全体で取り組む課題がより鮮明になったと思います。ここを重点的に取り組んで取り組んでまいりたいと思っています。
フリーフランス宇推: 手動流調弁の設定ミスということで、多分数cmだと思うが、設備の少しのミスが検知できて良かったなと思う。開度以外にもいろんな要因で水が流れないという状態になり得ると思うが、水流し試験などを一度行えば確実に流れることが確認できた。7号機以降流していなかったとのことだがそのような手順を打ち上げ前に行う予定はあるか
有田: 今回については打上げ前に確認試験を行い、設定さえきちんとすれば規定の量が流れるということを2回にわたって確認しました。このようなことが毎号機必要かということについては、今までの安定した作動を考えると必ずしも必要ではないのではと現時点で私自身は思っていますが、今回の事象を鑑みての深掘り作業の中で、その辺りについても検討したいと思います。
読売新聞: 治具は置く場所の違いでどれぐらい差が出たのか
志村: 数mmぐらいのオーダーです。1cmよりは小さい長さです
読売新聞: 変更点を手順書に書き加えられないくらい変更点が多い状況なのか
志村: 設備だけの変更点は直接把握できていないのですが、機体のいろんな設計や工場での作業等、毎号機いろんな変更を加えてます。それは数十件よりは多いぐらいで、百件行くか行かないか、そういうオーダーでございます。ただ数が多いからといって手順を作り込まなくていいか、というとそれは全然違う問題で、数が多かろうが手順は皆で協議の上で仕上げていくべきものだと思っていますので、今回、そういったところが残念ながら生き届かず、間に合わなかったという状況でした。
読売新聞: 今回の号機で新たに変更した点は他にも色々あると思うが、それらの再確認の状況は
志村: 水平展開という中で、同じように変更して見逃しているものがないか、といったことについては再確認を行いまして、漏れがないということを確認しています。
読売新聞: 手動弁と空圧弁の役割の違いは
有田: 手動弁は現場で実際に操作するものです。これは高圧ガスである窒素ガスが高圧ガス保安法の下で運用しないといけないことによるもので、その法律によれば、こういった高圧ガスの系統を常に開けっぱなしにしておくことは許されない決まりで、この①のバルブは手動弁で開度を設定するのみならず、通常は必ず閉にして、この高圧ガスを封じきるという役割があります。これについては確実に実施するということも含めて、人が現場に行くことでしか作業ができないものになっています。
一方、②③のAと書いてある空圧弁につきましては、総員退避後に、カウントダウン、まさにロケットがこれから飛び上がるぞという段階で作動させるもので、人が近づけない状態で作動させる必要があり、遠隔操作が必要なので空気の力を使って開く仕組みになっています。
東京とびもの学会: 外側に置く幅が狭くて心理的に内側に置いてしまった、といったことであれば、治具の方を短くして内側に置く形もあるのか
志村: あると思います。使い勝手がいい、なおかつ間違いもないようなものになって初めて治具としていいものになっていくので、短いものを用意するという案も候補としてはありうると思います。
東京とびもの学会: 外側の板は狭くはなく、厚くない方もそれほど狭くはなかったのか
志村: 置けなくはないです。
東京とびもの学会: 水を流した試験を行ったのは昨日か一昨日か
有田: 実際に行ったのは18日の午後です。機体返送後に実施しております。
ニッポン放送: 開閉指示板の厚さが開度不足につながったという解釈でよいか
有田: はい、その通りです。
ニッポン放送: この開閉時の厚さが数mmオーダーだったということか
有田: 厚みの違いが数mmオーダー、ということです。
ニッポン放送: ミリ単位の違いで停止につながるということにロケット打上げの精密さ、厳しさを禁じえないが
有田: バルブの開度を数mmオーダーできちんとコントロールしなくてはならないが、この開度を決めるには開発試験の時に何度も水を流しながら決めていった経緯があり、言っていただいたように、非常に精密な形で決めていったということです。
ニッポン放送: 打ち上げが年内に間に合いそうな感じということについて
有田: できるだけ早く再開したいという思いは述べましたが、原因究明、原因調査がきちんと完了できるという前提で、という風にお話しました。今回、背後的には非常に反省すべきところがありますが、事象としては原因がはっきりしたものであったということで、私どもとしては最速の打上げで、年内の打上げに目処をつけることができたということで、とにかく後は打上げ成功に向けて全力を尽くすのみであると、そういった心境です。
NVS: 前回の打ち上げが11時10分から11分に変更された理由
有田: 制約条件の表を見ていただくと有人宇宙物体との干渉評価というのがございます。これは宇宙にいる人命を左右するという観点から、国際宇宙ステーションや中国の天宮といった現に人がいる有人宇宙物体に対してロケットやロケットからの分離物が衝突する可能性がないか、打上げ時刻が変わるごとに解析を実施しています。直前になってしまいましたが、その解析の結果、この時間帯は衝突する可能性があるということで、1分遅らせる必要が出てきた、という事情でした。
フリーランス鳥嶋: バルブの開度は号機ごと変わったりするのか
有田: これは毎号機変わりません。機体形態によっても変わりません。いつも一定の開度です。
フリーランス鳥嶋: それであればストッパーのような仕組みや、0の基準がはっきりした治具、開き具合が数字ではっきり見えるような治具などあると思うが、この形を選んだ理由
有田: おっしゃっていただいたのはいずれも優れた案になり得うるものかなと思います。一方で、それなりに時間とお金もかかる案という気もします。こういった事態に至って言うのもあれなのですが、今回やろうとした案は非常に短期間で安価にできる案だったという風には考えています。
で、先ほど申し上げましたように、毎回打ち上げが終わるごとに必ず閉めなければならないバルブということもあり、開度を固定しておくということもできないところもあり、このような手順を考えたというところかと認識しています
時事通信: こういったその手順の改善を行った時にその影響を確認する基準は
志村: 固まった決まりがあるわけではないのですが、新しいものを作った時には関係者で一回集まってきちんと話し合いをして、それが作業にあったものであるか、間違いがないか、どういう検証をしたら本番にミスなく臨めるか、そういった場を持って仕上げていくという段取りというか仕組みはあります。今回の場合は、その仕組みにかけ損ってるというか、そういったところが少し反省点になっているものでございます。
時事通信: エマストにつながるようなクリティカルの部分から遠い部分まで色々あると思うが、第三者で評価する仕組みたいものがあれば拾えたのではないか
志村: 仕組みはあります。今回のものが関係者で何の話し合いもなくやった、ということではないと思っていますが、その辺の掘り下げは打上げ後にじっくりやって、本当に改善すべきところは何だったのか突き止めていこう、という段階なので、今の時点でどうだったかは言えないのですが、仕組み自体はあります。
時事通信: 今後その仕組みの強化みたいな形で、こういう漏れを少なくしていこうという方向で検討するという
志村: はい。
フリーランス秋山: 日々の改善点が打上げ手順に反映される期間。どういう手順を踏んで、どのぐらいかかるものなのか
有田: この治具の方式を使うのにどのぐらい時間がかかるのか、というご質問と理解しましたが、こういう間違いを起こさない治具にするということが必要だと考えますので、それができて、なおかつ、それに応じた確認、どういった試験をやるかといったところも含めて考えていく必要があり、それなりの時間はかかるかなと思います。背後要因の深掘りも踏まえて考えていきたい。反映の一般論につきましてはなかなかお答えするのが難しいかな、という風な印象を持ちましたが……
志村: そうですね、治具や作業の難さによって、かなり幅があるという風にご理解いただければと思います。大掛かりな事前検証をやるとなれば、そのセットアップや試験、評価だけでも時間がかかり、一月、二月みたいなものもあります。こじんまりできるものであれば数週間というものもあることはあると思いますので、レベルによって幅があるという風にご理解いただくのがよろしいかと思います。
日経ビジネス: 実際の水量で機能性を確認することは窒素ガスの再充填に時間がかかるなど難しかったのか
有田: 今号機については治具を使わない従来の方法で開度設定をしようと考えています。万が一にも同じことはできませんから、ここは前号機までで実績のあるやり方でやることを考えています。治具にについては、このままの形で使い続けるのはやはり何らかのリスクを内包していると考えますので、こちらについてはきちんと改善をした上で使っていくことになると思います。その上で確認試験を実施するかについては考えていきたいと思います。
日経ビジネス: 作業性向上のために現場から出たアイデアが反映されて新しい治具の導入に至ったが、今回の事象により新たなアイデアが出にくくなる懸念もある。H3を成長させいくためにも現場が萎縮せず新たなアイデアを出しやすくする環境をどのように作るか
有田: おっしゃっていただいたことが一番大事なことだと、私自身も思っています。H3をより良くしていくという気持ちを、我々だけでなくて現場の隅々の皆さんが持っているということは、本当に大事なことだと思っています。三菱重工だけでなく色々なパートナーメーカーの皆さん一人一人がそういう思いを持っていただいている、ということを一番大事にしなくてはいけないことの1つだと思っています。これを萎縮させずにどうしたらいいか、今回のようなことがあった時にどうしたらいいか。私が一つ思うのは、これは我々チームとして皆でカバーをするということが一番大事だと考えています。誰か一人が悪いということではなく、課題を皆で解決していく雰囲気作り、これが一番大事だと思っていますが
志村: その通りだと思います。まずは提案してくれたらきちんと受け止める雰囲気。またそれを試験もせずに適用してリスクを負わなければならないのではなく、採用するまでに試験をする、そういう枠組みそのものが提案を出しやすくなることにつながると思うので、それも含めて考えていきたい。
とびもの学会: 原因を知った時の心境
有田: 事象としてはある意味わかりやすいところで早期の打上げ再開の可能性があるかも、と思った反面、影響の大きさ、背後に何があるのかといったことを考えると、これはなかなか難しい課題だと思ったのが正直なところ
志村: この断面だけを見るとヒューマンエラーと呼べるようなことですが、こういったことを完全に撲滅することでロケットという大きな仕事が成り立っている、ということを改めて感じた。今回取り上げたバルブは一つだけだが、手動のバルブはかなりたくさんあり、人手に頼ってロケット打ち上げているという反面も現実としてあります。そういったことを関係者がひとつひとつ間違いなく積み重ねることでこれまでの実績があるということも改めてわかったので、今回を踏まえてヒューマンエラーがより出ないような工夫や改善をきちんと適用出来るように取り組んでいきたい。
とびもの学会: 打上げ準備が長期におよんでいるが
有田: たしかに長くなっているのは事実です。他系のトラブルで自分のところは大丈夫なのにな、という人たちも疲れが溜まってきている部分はあると思います。今回こういった状況で年内を目指すのは事実上最後になる可能性も出てきている中で、スタッフ一同心をひとつにして打上げ成功に向けて全力を尽くす、という気持ちでいるものと考えています。
産経新聞: 治具を導入後に実際に水を流しての検証試験は行ったのか
有田: 治具を用いて実際の水を流した試験は行っていません。
