観測ロケットS-520-34号機の打上げと結果報告記者会見
撮影:柴田孔明 内之浦宇宙空間観測所 報道席より撮影
観測ロケットS-520-34号機は2024年11月14日11時30分に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。
同日14時頃より、内之浦宇宙空間観測所の計器センター記者会見室にて、打上げ後の結果報告記者会見が行われています。
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
JAXA 宇宙科学研究所 学際科学研究系 教授 観測ロケット実験グループ グループ長 鹿児島宇宙センター内之浦宇宙空間観測所 所長 羽生 宏人
名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授 笠原 次郎
・実施結果について(羽生)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2024年11月14日木曜日に、「液体推進剤回転デトネーションエンジンシステム飛行実証実験」を目的とした観測ロケットS-520-34号機を内之浦宇宙空間観測所から打ち上げました。
ロケットは正常に飛翔し、内之浦南東海上に落下いたしました。今後、搭載した実験装置が取得したデータについて確認し評価を行って参ります。
続いて飛翔結果について簡単にご説明致します。打上げ時刻は日本標準時で11時30分00秒、発射上下角76.0度、最高到達高度は217km、着水時刻は打上げ後の459秒となってございます。なお、打上げ時の天候は晴れ、北の風3.3m/秒、気温22.2度Cでございました。
これをもちまして、観測ロケットS-520-34号機実験は終了となります。この実験につきまして関係各方面より多大なるご協力を頂きましたことを、この場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。
・実験報告・速報 (笠原)
本日、液体推進剤回転デトネーションエンジンシステムの飛行実証実験を行わせていただきました。
まず達成状況を整理させていただきます。
デトネーションエンジンシステム(DES)のサクセスクライテリアを3段階に分けましてそれぞれ達成状況を報告させていただきます。
・ミニマムサクセス
・観測ロケットに搭載可能な液体推進デトネーションエンジンシステムの設計の確立と飛行実験の実施。
→本日、飛翔実験をしたことにより達成が確認されております。
・液体推進デトネーションエンジンの作動確認。
→搭載された圧力計・温度計・振動計の履歴を私共が確認し、確かに液体推進剤によるデトネーションエンジンの作動が確認されましたので、これも達成という事になっております。
・フルサクセス
・液体推進デトネーションエンジンによる推力発生の確認。
→速報値でございまして、多少、プラスマイナス5%~10%のエラーが含まれますが、438N(約44kgf)の推力を確認しておりますが、こちら正に詳細確認中でございますので、あくまで速報値とご理解いただければありがたいと思っています。ただ、推力は発生しました。これは間違いないと思いますので、フルサクセスの第1項目も達成と考えております。
・液体推進デトネーションエンジンにおけるデトネーション燃焼状態の確認。
→振動計のデータを周波数解析、1秒間に何回デトネーション波がエンジン内を周回しているかという数を解析いたしまして、その速報データから我々は、これは達成を確認しております。詳細は今後の時間を要するところがあるのですが、間違いなくデトネーションが発生しているという事をデータから確認しておりますので、この第2項目も達成したと考えております。
・エクストラサクセス
・液体推進デトネーションエンジンの推進性能の計測。推進性能というのは、例えば1kgでどれくらいの推力を生むのか、1秒間に1kgの推進剤を流した場合にどれだけの推力を生むのかといった指標ですが、これを比推力という言葉で表現します。
→これもエラーを含むが、比推力244sの達成を確認しています。これは予測値と大きく外れるものではございませんで、予定推力性能を達成したと考えていただいて問題ありません。この値も詳細解析中で、あくまで速報だとご理解いただければと思います。
・フライトデータと地上燃焼試験のグラフについて(※一部要約しています)
打上げから2分経過したところでエンジンを作動させて、縦軸が圧力となっていまして、大体1気圧2気圧3気圧4気圧、大気圧の約4倍だと思っていただければと思いますが、打上げから120秒後に大体4気圧の圧力、これは予定された圧力ですが、推力のもとになる圧力がきちんと立ち上がりまして、そしてほぼ一定の値をとりまして、約127秒後に燃料を吹き終わりまして推力が消失するという、予定されたフライトデータがきちんと出ております。
(グラフに)P0とかP10と書いているのはエンジンのインジェクター、燃料が吹き出す位置からちょうど0ミリ(P0)、それから10ミリ離れている(P10)、そういうエンジン内のインジェクター面からの距離を表しておりますが、それぞれの位置でこのような圧力が出たという事がフライトデータで確認されています。
横に並べたグラフは、近い条件の地上燃焼試験でも同様の機器を使って最終確認したデータでございまして、非常に近い値が出ていまして、これもかなりの時間をかけて詳細解析を行うのですが、まず速報としてはしっかりと推力圧力が出て、飛行実験として良いデータが出たという事を確認して安堵しております。
・先程実施した実験で限られた情報で大変恐縮ですが、非常に実験がうまくいく事が出来まして、これまで非常に多くの方のご協力と努力と様々な思いをいただきながら本日に至っております。本当に心からの感謝と御礼を申し上げたいですし、今後も我々は努力していきますので引き続きご支援を賜りますと大変ありがたく存じます。
・RATS2(インフレータブル型データ回収システム)について(羽生)
担当の中尾が登壇していないのは実はまだ捜索を続行しているという所で、私が代わりに状況をご説明致します。
ロケットに搭載されたデータ回収装置になりますけども、こちらについては宇宙空間でガスを注入して展開されました。そして333秒で分離の信号を取りまして落下します。これは陸地に戻って来るものではなく海の方に着水しているという事で、船舶等を使いまして位置を特定し捜索をするというオペレーションを今続行しているというところです。
少し想定より早めに着水した嫌いがあるかなといったところでありますけども、今捜索を続行しているというところもありますので、速報ですけども今のところの状況をご報告させていただきます。
・質疑応答
NVS・RATS2について、イリジウムで位置情報を送信していると思うが、それの受信はできているのか。
羽生・受信は出来ていて、ロケットと同じ保安区域に着水したところまでは確認が出来ている状況です。
南日本新聞・液体を使ったデトネーションエンジンに世界で初めて実験に成功したという事だと思うが、あらためて感想と今後の展望について教えて下さい。
笠原・感想ですが、先程申し上げました通り感謝の念に堪えないというのが一つと、打上げ直前に手が震えるような思いがして大変緊張したことを是非お伝えしたいと思います。このような非常に重要な機会を与えていただきまして心から感謝を申し上げたいと共に、やはりうまくいったという実感が、終わった瞬間はほっとしたという気持ちが強かったのですが、今既に2時間経って、ゆっくりととても嬉しいという気持ちと、それから日本も含めて世界各国にデトネーションエンジンの研究者がいらっしゃいますので、その方々にこの情報を早く伝えて、次のステップに向かってどんどん進めていきたいという前向きな気持ちも強く持っております。今後の展望はやはり今回の成果は非常に大きなステップだと思っていまして、液体燃料の取扱いは非常に難しいというのをフライト環境で、微少重力下で液体で燃焼させる事の難しさを身をもって理解する事も出来ましたし、大きな意味があったと思います。特に私以外の若いメンバーは、今後も活躍が期待出来ますし、教育しているつもりは無いのですが自然と逞しくなって、次なる機会を目指してもう議論などを始めていますので、そういう意味でも次の若手の活躍に期待を寄せる次第です。もちろん以前申し上げた通り、実用化の事はもちろんあるのですが、まずは一歩一歩着実に進んでいきたいと思っています。
南日本新聞・今回は7秒間燃焼したという事で良いか。7秒間でデトネーションは何回発生させたのか。
笠原・正に解析中のところで、定量的な事は言えないのですが、確かにデトネーションが発生したという周波数、今は数を言えないのですが、大体10khz程度の周波数のデトネーション波が回転しているという事を確認しております。今後より詳細な解析を元にまとめていきたい、発表していきたいと考えていますので、今暫く時間をいただければと思っています。
南日本新聞・エクストラサクセスで比推力という説明があったが、一般的に判りやすく言うとどういうものが確認できたという事か。
笠原・ある流量を流すと、どれだけの推力が出るかの指標です。要するに推力の効率みたいなもので、同じ重さのものでも大きな推力が出るのか、小さい推力が出るのかという事で、それで言いますと先程の推力はロケットエンジンとしてまずまずの推力が出ているという値になります。これが大きくなりますと、同じ燃料を使ってもより大きな推力や、それを集めたものになったりする訳です。そういう結果で言うと、ロケットエンジンの効率としてまずまずの期待した値が出たと考えています。
読売新聞・数字の確認だが、実験は7秒と言えば良いのか15秒なのか。最高到達高度は217kmとありますが、この最高高度のところで実験が行われたと言って良いか。
笠原・実験の時間についてはおおよそ燃焼時間はそれくらい(7秒)と言えると思います。高度はまだ私自身データを見ていない。最終的な燃焼時のフライト高度というのは、およそ200~300kmのどこかだと思いますが、まだそこまで確認しておりません。
NVS・フライトデータのグラフだが、立ち上がりは地上燃焼試験とよく似た形だが、終わり方がなだらかになっているのは事前に予測されていたのか、これからデータを精査して確認するところなのか。
笠原・予測もしていましたし、いろんな意味で難しいところだと思います。正確な事は言えなくて申し訳ないが、微少重力で実験を行いますので、最終的な液面がどういう状況にあるのかというのは、実は予測をしたり、あと東大の姫野先生にご協力いただいたり、いろんな検討を進めながら本日に至っております。ただ実際のデータを詳しく調べてみないと、燃料と酸化剤の吹き出している流体の状況を、それから全体の燃料の搭載量、そういう少なくとも3つ以上の要素を正確に検討解析等、あと議論しながら詰めていかないと、最終的には終盤のところの圧力データを、これだという形で語るのは現段階では難しいというのが正直なところです。
不明・エンジンを分離したのは約200kmという認識で良いか。
羽生・エンジン部分の分離はもっと手前側で行われています。我々が頭胴部と呼ぶ実験装置が搭載されているものが分離されないと分離面が出てこないので、それは頂点よりも手前になります。
不明・この観測ロケットの打上げは34回連続で成功しているのか。
羽生・はい、そうです。
鹿児島テレビ・近い将来どういう事に使われる見込みか。
羽生・デトネーションエンジンについては笠原先生がいろいろ構想をお持ちなので、いくつかのチャレンジをされるのだと思います。具体的な事を私から申し上げる話ではないが、観測ロケットを使った性能検証や機能検証といった事は引き続き行っていきたいと考えていますので、この観測ロケットS-520の機能を最大限に活かして今回のような実験環境を作って、より良い機能のさらに熟成されたエンジンというものを実証実験に供していけたらいいのではないかと思っています。
鹿児島テレビ・ゆくゆくはH3やイプシロンに使用出来ればとの話だったが、その辺りで言える部分はあるか。
羽生・具体的な計画はまだ無いですが、こういったまだ研究フェーズである物の地上でやることとは全然違う。例えばロケットに実装される技術というのはレベルが全く違います。安全の観点もそうですし、ロケットに搭載して飛ばせる状態になっているというのは非常にレベルの高い事なのです。ですから更にこれを熟成させて、基幹ロケットの装備に使っていくというのは皆さん研究者として目指すところだと思いますので、それに向けて我々も協力していきたいと思います。
NHK・31号機はメタンガスとGOX(酸素ガス)を使って、今回はエタノールと液体のN2O(液化亜酸化窒素)を使っているが、今後別の液体燃料を使って観測ロケットで打ち上げる予定はあるか。また今回得られたデータを別の燃料でも出来るのかというのをどのように検討していくのかという展望があれば教えて欲しい。
笠原・ご指摘いただいているところは、我々の中でもずっと今回の号機をやりながらいろいろ話をしているところでございまして、例えばGOXではなくて液体酸素(LOX)を使った実験を構想していたり、実際予備的な試験は行ったりしています。あるいは今回のエタノール/N2Oについても、これは取扱いに関して大分勉強になりましたが、常温、つまり冷やさなくても使える非常に有効な液体推進剤という事を、我々も教えていただいた訳ですが、それを再認識する機会になっておりますので、より大型のエンジン等への応用や、あるいは再び観測ロケットでの更なる高度な実験研究にも使わせていただく可能性も十二分にあると思っています。正にこれからどんな推進剤の組み合わせで研究を進めていくのかというのは、現場の我々の中でも日々の議論の的になっているところでございまして、大変関心を持って進めています。
NVS・概要説明の時の動画で点火プラグから伝搬する様子があったが、点火は1回なのか、それとも車のスパークプラグのように何回も点火動作をさせて燃焼を継続させるのか。
笠原・今回は実は念のため2回の点火を行っています。1回目でもし点かなかった場合に2回目の点火器も用意しています。幸いにも1回目できちんと点きましたので、こちら(2回目)も作動したのですが、特にそれによって現象が変わることはありませんでした。自動車の点火プラグではなく、火薬の点火器を使っております。
NVS・燃料噴射のタイミングで燃焼が継続していくということか。
笠原・はいその通りです。
NVS・資料に将来的にクラスタリングして1段にも使用出来る見込みという展望が書かれていたが、あれはサイズ的に観測ロケットサイズなのか、それとも基幹ロケットのような大きな物まで行けそうという目処があるのか。
笠原・正に今、基礎研究では日々行っているところですが、例えば2つのデトネーションエンジンがあったとして、片方を点火すると、もう片方もちょっとした小さな通路を作っておくとすぐ点火する、そのような基礎研究を行っております。あるいは一つだけだと冷却機構も簡単なものが作れたり、そういうクラスタ化するための基礎的な知見を研究毎に積み重ねている状態でございまして、その研究結果から言えます事は、様々なサイズのロケットエンジンに十分使えるだけの知見が貯まりつつありますので、ぜひ今後を期待していただきたいと考えています。
NVS・エンジン自体を簡略化できることがメリットとしてあったと思うが、燃料を送り込むためのポンプについては結構高圧のポンプが必要になるという認識で良いか。
笠原・実は概要資料には入れなかったが、我々の研究チームと諸外国の研究グループで共同研究をしていまして、いわゆるターボ機械の専門の研究者との共同研究の中で、そういうターボ機械の中でデトネーションを発生させることで、これまでエンジンとターボ機器が分かれていましたが、それを統合するような研究成果も出ています。本当に基礎研究レベルですが、エンジンでありながらターボ機械でもあるというような論文を近年共同で発表しつつありますので、今の答えは正に一番重要な、研究としては攻めているところです。そういうものをフライトの機会で本当に現実に近づく(?)に乗りますので、こういう形で再び挑戦させていただく機会があれば是非、力の続く限り頑張っていきたいと考えています。
※2024年11月19日JAXA発表より
洋上回収を計画しておりましたRATS2につきましては、着水後に周辺海域の捜索を実施しました。残念ながら、捜索可能な期間において本体から送信される予定でありました位置情報が取得できず、また海面上に実機を目視確認することもできなかったため、捜索を断念いたしました。
以上です。
JAXA配付資料と写真より
(C)JAXA