観測ロケットS-520-34号機の概要説明と機体の報道公開
2024年11月11日午後に、観測ロケットS-520-34号機の概要説明と機体の報道公開が内之浦宇宙空間観測所で行われました。
(※一部敬称を省略させていただきます。また聞き取れなかった部分などで省略等をさせていただきました)
・登壇者
JAXA 宇宙科学研究所 学際科学研究系 教授 観測ロケット実験グループ グループ長 鹿児島宇宙センター内之浦宇宙空間観測所 所長 羽生 宏人
名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授 笠原 次郎
JAXA 研究開発部門 第一研究ユニット 研究開発員 中尾 達郎
・概要説明(配付資料より)
・観測ロケットS-520-34号機の打上げについて(羽生)
観測ロケットS-520-31号機でのデトネーションエンジンシステム(DES)の宇宙実証の成功を踏まえ、液体燃料(エタノール)と酸化剤(液化亜酸化窒素)を用いた旋回型デトネーションエンジンシステム(DES2)を開発し、実際に宇宙空間で作動させ、その推進性能を評価することを目的とする。
DES2の作動中に取得された大容量データ(デジタル画像)は、搭載するインフレータブル型データ回収システム(RATS2)にて回収する。
・観測ロケットS-520-34号機諸元
全長:9.6m
直径:0.52m
重量:2.4トン
到達高度:210km
観測機器重量:218kg
・実験の背景(笠原)
現在のデトネーションエンジンは、極めて高い周波数(1~100kHz以上)でデトネーション波を発生させることが可能になりつつあり、宇宙用エンジンとして、実用化を視野に入れた研究開発が日欧米、アジアで活発である。また、地上試験において、その高い推進性能が各国で確認されており、高性能なロケットエンジンとして実用化が期待されている。
さらに、デトネーションエンジンシステムが、打ち上げ振動・衝撃環境に耐え、全体のD/B(運動バランス)調整され、高真空・微少重力環境下(スペース)にてエンジンを起動・停止し、かつ、安定作動することが、2021年7月に打ち上げられた観測ロケットS-520-31号機による飛行実験で実証された。
S-520-34号機の実験では、S-520-31号機での燃料/酸化剤にメタン(CH4)ガス/GOXを用いた旋回型デトネーションエンジンシステム(DES)の宇宙実証の成功を踏まえ、液体の燃料(エタノール)と酸化剤(液化亜酸化窒素)を用いた旋回型デトネーションエンジンシステム(DES2)を開発し、実際に宇宙空間で作動させ、その推進性能を評価する。
・実験の概要(笠原)
DES2 には旋回型デトネーションエンジン(Rotating Detonation Engine,RDE)を1基搭載する。
燃料のエタノール(C2H5OH)と酸化剤の液化亜酸化窒素(N2O)は、これらのタンク上流側より窒素ガス(N2)で加圧され、RDE に供給される。
RDEの推力発生方向は機軸進行方向であり、推力は約500N である。
DES2の作動中に取得された大容量データ(デジタル画像)は、31号機と同様、インフレータブル型データ回収システム(RATS2)に記録、回収される。また、DES2作動中に取得された高速サンプリングデータ(振動)、低速サンプリングデータ(圧力・温度)、アナログ画像はリアルタイムに地上へテレメータによって伝送される。
・インフレータブル型データ回収システム(RATS2)について (中尾)
インフレータブル型膜面シェル技術を適用した次世代大気突入システム「RATS2」を用いて、旋回型デトネーションエンジンシステム(DES2)の大容量実験データの回収を行う。
・観測ロケット実験において、高価な実験機や大容量データの回収要望が存在。
・2021年のS-520-31号機にて実証されたデータ回収機RATSの2号機。
・インフレータブル型膜面シェルは収納時は直径16cm程度の円筒内部に収まる、上空でガス注入・展開し直径1.2mまで広がる。
・軽量で大面積の大気圏突入機は、空気力を効率よく利用することができ、大気圏突入、緩降下、軟着水、海上浮揚の一連のシークエンスをシンプルなシステムで実現可能。
・RATS実験の意義
・RATS実験は今後も継続的に実施。観測ロケットの定常的なデータ回収運用の実現を目指す。
→観測ロケット実験の価値最大化に貢献。
・定期的に再突入実験を行い、インフレータブル型膜面シェルの製造技術を向上させる。貴重な実飛行データを取得することでリアルフライトにおける知見を蓄積。
・質疑応答
南日本新聞・前回の31号機との大きな違いは燃料をガスから液体に変えたという理解で良いか。また今回は液体の技術を確認するためか。10秒間燃焼させるが、どのくらいのスピードが想定されているのか。また秒速2000mの衝撃波を推進力に変える実験なのか。
笠原・ガスから液に変えることで、大きな違いは密度が非常に高くなる。ロケットに液体で搭載するということは、沢山の燃料と酸化剤がのせられ、非常に重要なステップと考えています。困難なことも沢山ありまして、実際に燃えるプロセスでは、液体のまま燃やす事はできなくて、いちど小さな粒にして、ガス化して、混合して、最終的にはガス状にして燃やさないといけない。貯めているときは高密度で、燃やすときには最終的にはバラバラにして気体の状態にして燃やすということで、非常に高い技術レベルが求められ、前回から3年の開発期間が必要となっています。また10秒間ということで、実際の推力は500Nくらいですが、全体のシステムの重量は今回は実験ということで非常に安全に出来ております。そのためその間に加速したスピードは恐らく数十m/sくらいの加速度で、実際の推力値を計ることであって、スピードを増すという意味では、安全という観点もあり、そんなに大きな最終速度にはならないと考えています。最後の2000m/sは非常に高速な波でございまして、波が伝わった物質というか流体の方は、波の伝わる方向とちょうど直角に出るような形でございます。これは本当に高速ですが、流体の方はおおよそ1000m/sで吹き出すような、2000に比べると速度は遅いのですが、波の伝播方向と垂直方向に吹き出して、その反動を逆方向に得る、そのようなイメージをお持ちいただけるとありがたいと考えています。
南日本新聞・1000m/sの衝撃波を推力に変える実験という認識で良いか。
笠原・そう理解していただいて問題ないと思います。そのような波を使って、燃えたガスを推力に変える流動を引き起こす。結果として波が推力を生んでいるという理解で問題ないと思います。
南日本新聞・いつ頃に実用化したいか。
笠原・一つの目標は、3年後くらいを目処に次のフライトを考えています。それから5年後くらいには完全な軌道上実証を成し遂げたいという計画を持っています。
南日本新聞・H3ではいつ頃に実用化したいか。(RCSやリテンションスラスタへの適用)
笠原・今の流れの中で、それくらいのタイムスパンで実行に移せれば嬉しいなと思っていますが、なにぶん我々は一研究者でございますので、様々な方々の協力を得ながら前に進めさせていただきたいと思います。
羽生・実用で標準装備品になるかならないかはまだまだ先の事だと思いますが、笠原先生が希望されているような実証の場が得られれば、実用化への道も繋がってくるのではないかと思います。その手前の今の基礎研究と基礎実験、これを大事にしていきますというのが今の笠原先生の話だったと思います。
鹿児島テレビ・もともとS-520-34号機の打上げは早朝に予定されていたが、今回はお昼となっている。その辺の理由は何があるのか。(※地震等で8月から11月に延期されている)
羽生・当初は夏場の暑い時期の早朝を考えていました。今回DES2に充填されている推進剤は、エタノールと笑気ガスの二つ。この笑気ガスの方が35度Cくらいの温度で、液体を保持するのが難しくなる温度域がある。例えば真夏のお昼に打ち上げようとすると、その温度を超えてしまう可能性がちょっとあって、それを避けるために日が昇らないくらいの涼しい、振り返るとかなり暑かったですが、そのくらいの温度域であれば運用可能だろうということで最初は実験計画を考えました。次期が変わって今月の一般的な気温の推移からすると、笑気ガスに対しては条件は割と緩い側です。一方、今度はエタノールが冷えすぎるのも実験に差し支える。同じ早朝とすると、今度はエタノール側に条件が合わない場合が生じると考えまして、この時期は昼間の方でやった方が良さそうだという事で、時期と時間の関係が変更したのはそういう理由になっています。
読売新聞・ガスから液体になったが、推進力を生むための性能の差はそれほど無いという理解で良いか。液体にすることでより多く持っていけるとの話だが、ガスと比べて宇宙空間でどれくらい活動時間が延びるのか。
笠原・性能は燃料と酸化剤の組み合わせで決まるので、基本的に同じ性能が出るものだと考えています。どれだけ積んでいけるかは、液はガスより高密度なので、数百倍から千倍くらいになるという認識を持っています。
羽生・ロケットの本質なところからすれば、できるだけ多くの燃料を積みたい。ガスのような密度の低い状態でタンクを抱えているよりは、液体で積んで、それをガス化しながら使うのが正解という事になります。
南九州新聞、気体から液体ということで軽量化と少量化に繋がるのか、それともコストダウンとなるのか。今は実証実験でロケットを飛ばしているが、将来的に衛星に乗せる計画は近いうちにあるのか。
羽生・コストではなく、出来るだけ沢山の推進剤をロケットエンジンに組み込んでおきたい。沢山の燃料を積み込むとすれば、やはり液体にしておくのが良い。ただし、液体の状態から燃焼の状態に持っていくためには、途中に気体の状態を作らないといけない。燃焼させるために必要な状態変化を途中に挟まないといけない。これが技術的なハードルになっている。31号機で実証したエンジンは、液体から気体に変化させる必要が無くて、そのままガスを噴射すれば良かった。これはデトネーションという現象が宇宙空間でも発現するかどうか、これが実証できるかどうか、ここがテーマだった。今回はデトネーションという現象は宇宙空間でも実現可能であるという前提のもとに、液体を燃料として途中で気化させる条件を組み込んだ新しいエンジンとして実証すると、こういうステップを踏んできた。例えば今はエタノールを使っているが、別の燃料が良いということもあり得ますし、亜酸化窒素のかわりに別の酸化剤を入れる事も選択肢として出て来ますので、それは研究のパラメータとして考えてく部分です。そういった組み合わせを変えていって、より良い推進システムは何かと追及していくのが研究者の立場でありますので、コストのところは実はあまり考えていないと思います。このエンジンシステムは、どれくらいの価格で作れるかという話ではないというところです。衛星等にという事ですが、検討が全く無いという話ではないかもしれないが、私が理解している範囲ではそういった計画はありません。
南九州新聞・民間ロケット打ち上げの予定は無いのか。
羽生・様々な要望があろうかと思うが、今我々が取り組んでいるのは、今回の観測ロケット、あるいはイプシロンロケットがこの内之浦宇宙空間観測所で打ち上げるロケットとして用意しているものであるというところで、今のところそれ以上はございません。
※機体公開中の質問より。
ロケットの打ち上げ条件は「ロケットの保安や飛行に影響を与えない天候時であること」となっていますが、インフレータブル型データ回収システムのためにヘリコプターと船舶を落下海域に向かわせる必要があるため、海上の気象も制約条件となります。
以上です。
ランチャにセットする前の、運搬台車に載った状態での公開となりました。
台車は電動式で、右に見えるランチャまで運びます。
実験機器が搭載されている部分。
インフレータブル型膜面シェルの展開見本。
先端から。
後端から。ノズルの中にあるのは温度センサの配線です。
また、翼の間にある金具はランチャに取り付けるもので、バランスをとるため下にも設置されています。
報道公開の後、ランチャにセットしてのテストが行われた模様。
当日の一般見学時間ギリギリで、ここまで見る事ができました。